42 穴の探索
地震によって崖に出来た穴の出入り口に着いたトマとアークシュリラの二人は、その穴の奥を探索するコトにした。
そこにある通路の幅は出入り口の部分だけでなく、未だに二人が並んで歩いても腕を広げられる余裕がある。
最後までこの幅が維持されているのか途中で狭くなるとか、部屋と言うか広い空間がこの先にあるかはここからでは全く判らない。
これを作って何に使っている……イヤ、使おうとしたモノかは、情報が全く無いので二人には知る術がなかった。
ただ、今の二人に判っているのは、これが自然に出来たモノでないと言うことだけである。
「トマ、さっき壁を触っていたけど、魔力は感じたの?」
「確かに感じたよ。でもそれが出入り口を塞いだ時の魔力なのか、この通路を作った時の魔力なのかは判んないけどね」
「この滑らかさにするのは手仕事じゃ大変だから、魔法でやったかもね」
「そうだね」
横穴をつるはしや鍬で掘ってから、少しずつノミとかかんなで滑らかにするのは非常に手間の掛かる作業になる。
簡単なのは掘った穴がある程度滑らかになったら、石やレンガをはめ込む方法だ。
しかし、ここはそう言ったモノで覆われていない。
ここが誰かの領地であって奴隷などが存在するのならば、時間が掛かるモノの出来ないコトは無い。
しかし、誰も支配していない草原にある崖に、そんなモノを作るモノは少数だろう。
土がむき出しの壁でこれほど滑らかにするのは、魔力の消費は尋常ではないが、やっぱり魔法を使う方が楽である。
通路はずっと一本道で、どこにも分岐する処はなかった。
二人は少しずつ奥に進んでいるが、幅も一向に変化はない。
「アークシュリラ、この通路ってまるでナニかのアプローチみたいだね」
「なんか、誰かの墓みたいだよね」
「そんな感じだよね。でも、こんな所に作る意味はあるかなぁ? 国王だったら自分の領地の傍に作るし、組織のトップだったら傍に建物があっても良いよね」
「そうだよね。水が噴き出している処が墓標を意味しているにしても、周囲に何にも無かったよね」
たまに巨大な墓を作る王様が居るが、必ず自分の領地が傍に有る。
たとえ、神の啓示によって場所を選定したとか、他国を睨み付けると云った場合で遠く離れて居ても、決して自分の領地以外に作るコトはない。
それは作っているときに邪魔者がやって来るし、完成しても中を荒らされるからである。
「これってずっと一本道で、行き止まりってコトはないよね」
「まだ作成中ってコト?」
「そんな気もするけどね」
二人は見落としがない様に、ゆっくり進んでいる。
たまに立ち止まって、床や天井を丁寧に調べてもいた。
それでも、出入り口からは随分と進んで来ている。
「アークシュリラ、ナンもないしナンも出て来ないね。これって、まだ使ってないのかもね」
「綺麗になっているから、準備万端って感じだけどね」
これが王様とかの身分が高い人の墓で、まだ生存しているから蓋をしていたとか、封印するモノがまだ捕まえられていないなど、使っていない理由なら考えれば幾つでもあげられる。
「あっ、あすこから幅が広がっているか、十字路があるよ」
ランタンの灯りは二人の周囲――当然、前方まで照らしているが、煌々と照らしている訳ではなかった。
それでも魔物や何かあれば、問題なく対処をするコトが出来る程度の明るさはある。
なので、両側の壁が無くなっている所が、十字路なのか部屋なのかを近付いて初めて判る。
「あの感じは、十字路じゃなくて部屋みたいだね」
「トマ、何かあるのかなぁ」
「変な魔法陣とかは、勘弁して欲しいけどね」
トマとアークシュリラの二人は部屋の出入り口に立って、中の様子を確認した。
中央付近の床にはナニかの紋章が描かれていて、その先に上へ続く広い階段が見えた。
「まるで謁見の間みたいだね」
「じゃ、階段の上に――」
アークシュリラがそう言いながら、階段の上を見上げる。
ランタンの灯りに照らされて、そこに二つの目と思うモノが光り輝いていた。
それがトマとアークシュリラの二人には、こちらを見つめている様に感じた。
「何かが居るね」
「敵か味方かは判んないけど、確かに居るね」
「先制攻撃をしてこないなら、多少は知恵があるのかもね」
「そうだね」
「トマ、当分の間はこの部屋から移動は出来なさそうだから、灯りの魔法をお願い」
「そうだね。相手もランタンの灯りに気付いているだろうし……」
トマはそう言ってから、灯りの魔法を唱える。
【灯り!】」
その空間は灯りの魔法によって、日中の外と同じ様な明るさになった。
それによって、今まではランタンの僅かな灯りで見ていたモノが、良く識別出来るようになった。
「トマ。あれって、ただの偶像じゃないかなぁ」
「良く見るとそうだね。それに謁見の間と言うよりか、礼拝する所みたいだね」
謁見の間と思った広い階段はずっと上まで続いてなく、十数段が有るだけだった。
その最上部には、燭台などが石で出来た豪華な台の上に並べられている。
また、先ほどアークシュリラが見た位置には、石を彫って造られた水甕を抱える女性の像が安置されていた。
ランタンの灯りに照らされて二つの目と思っていたモノは、その偶像に填め込められたガラスか宝石で造形された義眼と思われる。
二人は中に入って、ゆっくりと階段を上って、祭壇の近くに来た。
そして、その像を見上げた。
「水に関係するモノかなぁ。多分、神様だろうけどトマは誰だか判る」
「神々はよく知らないから判んないし、像じゃ名乗ってくれないよね」
「じゃ、室内を少し調べようか? 手掛かりがあるかも知れないからね」
二人はそれぞれ室内を調べるコトにした。
●最後まで読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。
ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。
●今回は、トマとアークシュリラが地震で出来た穴を探索するお話です。
水瓶を抱える女性が神さまだと、水に係わるモノなんだろけど……
これ以上書くとネタバレになるので、すみません。




