41 崖から水が噴き出す処
この内容で固定したかったので、連続投稿になってしまいました。
空や周辺は次第に明るくなってきたから、あと少ししたら陽が地平線から顔を覗かすだろう。
トマとアークシュリラの二人は、軽めの食事を取ってから崖沿いの草原に歩を進めた。
しばらく歩くと、崖から水が噴き出しているのが見えだした。
見えだしたと言ったのは、水が噴き出している所を確認出来ただけで、距離的にはまだかなりあるからである。
それは水が噴き出していると知らなければ、崖がなにやら煌めいているとしか認識するコトが出来ない距離だった。
それから二人は何日か野宿を重ねて、水が噴き出している所……水が落ちる音が聞こえる距離までようやく近付いた。
「ここからでもスゴい景色だね」
「そうだね」
二人はずっと歩いて来たが、事件も発生しなかったし、それほど強い魔物も出現しなかった。
「あと少しで到着するね。アークシュリラ」
「やっとだよね」
二人は、水が流れ落ちて出来た湖の畔に到着した。
滝つぼの役割をしているその湖は、崖に面していて、その周りを一周するコトが出来なかった。
なので、水が噴き出している所を真下とか、もっと近くから確認するには湖に入らない限り出来ない。
「ここから見ても、スゴい迫力があるね」
「それにしても、この水の量は異常だよね」
「確かに、魔法か何かなのかなぁ。トマは判る?」
「ここからじゃ、ナンとも言えないけど……でも、崖伝えに水が流れ落ちてるなら判るけど、崖にほとんど水が当たってないからね」
「そうだね。結構な水圧が掛からないと、あすこまで飛ばないよね」
ファリチスにあった滝は、小さな段差に沿って流れ落ちていた。
「もし、誰かが水を噴き出させているのなら、目的はナンだろうね。私ならあんな高い所から噴き出させないで、湖の真ん中辺りに湧水の魔法陣を設置するけどなぁ」
「トマ。それだと、あの量の水なら噴き上げるコトになるよ」
「アークシュリラ、本当にあの量って必要なの? ここいらに居る生き物の飲み水ならそんなには要らないと思うし、複数の湖や泉を作って幾つか魔法陣を設置した方が良いと思うけど」
「確かに、水飲み場なら何ヶ所かあったとしても困んないかぁ」
二人は絶景に見とれてはいるモノの、腑に落ちないでいた。
「トマ、あすこまで近づけば……あっ、判ってもしょうがないね」
「そう、魔法陣が有るか無いかは判るかも知れないけど、有ったらこの水量やあの高さなどの疑問が発生するよ。無ければ自然に出来たと納得するだけだけど……」
「で、この湖にもお魚がいるね」
もの凄い量の水が落ち込んでいるにも係わらず、滝つぼの湖には何匹もの魚が泳いでいる。
その魚たちも、さすがに水が落ち込んでいる中央付近には近付いてはいない。でも、ずっと周辺を泳いでいる訳ではなく、たまに二人の居る所から確認が出来ないくらいの深さに潜っている。
「そうだね。それに、この湖って深そうだね」
「潜ってみようか。多分、凶悪な魔物はいないと思うしね」
「そうだ……」
トマがアークシュリラの提案に了承をしようとした時、大地が激しく揺れた。
崖が崩壊するとは思えなかったが、一部が崩れる可能性がある。そのために二人は、大地に座って揺れのおさまるのを待った。
二人は崖を見ながら座っているから、今の地震によって崖の一部――ちょうど水が落ちている裏側に穴が出来たのを目撃した。
「トマ、随分と大きな地震だったね。それにあすこに穴が出来たよ」
「湖を泳いでいく?」
トマは穴に入るかと言うコトも含めて、アークシュリラに尋ねた。
「他に方法はあるの?」
アークシュリラは、何を聞いているのと言う感じで答えた。
トマはアークシュリラの言い方や表情から、言外の意図を簡単に把握できた。
「じゃ、泳ごうか」
二人は剣や杖を落とさない様に体に固定して、湖の中に入っていく。
「久しぶりに泳いだけど、服じゃ泳ぎ難いね」
「そうだね。私もこの服で泳ぐのは初めてだよ」
もともと水泳は下手ではなかった二人だが、着衣での泳ぎに四苦八苦しながらも何とか剣や杖を落下させるコトもなく穴にたどり着いた。
「トマ、やっと着いたね」
「アークシュリラ。服を乾かすから待ってて」
「あぁ、お願い」
【乾燥!】
トマが呪文を唱えて、二人の服を乾かした。
「ありがとう」
アークシュリラがお礼を言ったので、トマは会釈をした。
この穴は今の地震で出来たと言うより、今の地震によって塞いでいたモノが落ちて現れた感じが二人にはした。
それは、通路上に崩れた大量の石とかが落ちていなかったからであった。
なので、穴が出来て――作ってから、何者かが石や土砂を片付けたのだろうと二人は考えた。
さすがに地震で出来た穴なら、石が一つも落ちてないってコトはあり得ない。
その穴は、二人が湖から上がった所からずっと奥まで続いていた。
「トマ。この穴って、結構深そうだよね」
ランタンに火を点けながらアークシュリラが言った。
「そうだね。自然に出来たとは思えない程、壁や通路は綺麗だよね」
「この滑らかさは、魔物が掘った訳ではなさそうだよね」
「掘った後で、滑らかにする仕上げをしている感じだよね」
そう言ってトマは壁を撫でた。
「これほど綺麗に作って入り口を塞ぐのは、何かを封印したモノなの?」
「その可能性はあるね。流れ落ちる水が目印だとすれば、遠くからでも判るから少しは納得出来るね」
「出入り口を塞いでいたモノが無くなっても水は出続けているよね。魔法でこんなのを作れるなら、止めても良いと思うけどなぁ」
「確かに。じゃ、これと水は関係ないかもよ」
トマが言った通り目印なら、アークシュリラが言った様に水を止めた方が確認は楽である。
それにもしここに封印されたモノがあの水を放出させていたのなら、出口が出来たコトで外に出れば止まっても良いと思える。
考えられるコトは、そのモノがまだ居るってコトであった。
●最後まで読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。
ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。
●今回は、トマとアークシュリラの二人が、ようやく水が噴き出す処に着いたお話です。
本当に何かが封印されていたのか、はたまたナニがあるのでしょうか?




