39 蘇生の魔法
今回も読みに来ていただき、本当にありがとうございます。
●この物語に出てくる魔法や職業に付いているルビや漢字表記は独自解釈の箇所があり、一般的なファンタジーのもの(小説やゲームなど)と異なる場合があります。
●誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。
ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。
外敵から防ぐ壁に設けられた門を出て、しばらく進むと道は次第に河岸から離れだした。
「このまま道なりに進む? それとも川沿いに進む?」
「ここまで魔物が出現しないんじゃ、これからも現れないよね。道なりに行こうか?」
「多分だけど、私も魔物は出て来ないと思うよ」
少し進むと遠くの道の上に、ナニかがあるのが見えた。
「あれって、ナンだろうね」
「動かないから……」
トマが言い終わらないうちに、アークシュリラが突然走ってその物体に近づいて行った。
トマもそれが人だと判って、駆け出した。
その倒れていた人物の周り以外も、道の上のあっちこっちには血だまりと青っぽい体液らしきモノが溜まっている所があった。
血まみれの人物を抱き上げて、アークシュリラは言う。
「イデェネル! 起きて!」
「あっ、アークシ……この剣を、私の、か、わ……」
イデェネルはそう言って、僅かばかりの血を吐いた。
「それは出来ないよ! ボクが届けても……トマ! 回復をお願い!」
アークシュリラはイデェネルを抱えたままトマを見て言った。
「判った。回復!」
トマが回復を唱えている途中でイデェネルは再びナニかを言おうとするが、アークシュリラに抱えられたまま再び血を吐いて一気に全身の力が抜けていった。
トマは、イデェネルが血を吐くより先に回復を唱え始めたが、その魔法が発動するコトはなかった。
「アークシュリラ、ゴメン。私の回復じゃダメみたい。残念だけどイデェネルは息絶えてるよ」
「そんなの判んないじゃん! まだ温かいし、何回かやれば効くかも……」
回復や治癒などのいくつかの魔法は、生きているモノにしか発動しない。
ランクが上がればアンデッドに対しても発動させられるが、その使い方は一般的ではない。
トマは、アークシュリラの肩にそっと手を置いた。
アークシュリラは、イデェネルを抱きかかえて哭泣いている。
アークシュリラにかけるべき言葉がみつからないトマは、ただ見守るコトしか出来ないでいた。
トマはそんな中で、ふとあることを思い出した。
「アークシュリラ。私の魔法は無理だったけど、先ずイデェネルを草原の方へ運ぼう」
「魔法が無理って……なら、お墓を作ってあげるの?」
涙声のアークシュリラが、トマに問うて来た。
「違うよ。私は魔法ショップに行ってあのスクロールを買ってくるよ」
魔法ショップでスクロール――それだけでアークシュリラにはトマがやろうとしているコトが判った。
「うん、そうだね」
「アークシュリラは、襲って来るモノや啄むモノからイデェネルを守って上げて」
「でも、ボクのアイテム袋に入れれば、一緒に戻れるよ」
アイテム袋に生きているモノは入れたコトがないが、死んだモノならゴブリンキングを入れたコトがある。
ゴブリンキングみたいな大きなモノが入るのだから、人間であるイデェネルぐらい余裕で入れることが出来る。
「確かに、その方が劣化もしないから良いかもね」
アークシュリラがイデェネルをアイテム袋にしまって、二人で来た道を引き返した。
門の所で今し方出発したばかりのトマとアークシュリラが戻って来たので、守衛が怪しがって『どうしたのだ、何かあったのか?』とか『まさか魔物が出たのか』などといろいろと聞いてきた。
あくまでも忘れ物をしたコトにして、イデェネルが何者かに襲われたコトは伏せて置いた。
もし、トマが一人で戻って来たのならば『相方はどうした』とかもっと長く質問されていたのかも知れない。
魔法ショップで蘇生のスクロールを買って、再度イデェネルが倒れていた所――守衛から見えない所までやって来た。
ここまで来たのも、他人に蘇生の魔法を使ったコトがバレるコトを少しは警戒したのだが、街の中では耐魔法防衛が張られていて使えないと、魔法ショップの店員に教えて貰ったコトが高い割合を占めていた。
イデェネルをアークシュリラがアイテム袋からだしてから、トマはイデェネルの傍に座ってスクロールを留めてある封を切った。
「私はトマ。死を司る神ヴェルデムベゼラに臥して願う」
そして、間違わない様にゆっくりと書いてある文言を読み上げていく。
スクロールに書いてある文言をトマが読み続けていくと、そのスクロールから黒い靄が発生しだして来た。
そしてその靄は次第にトマとイデェネルが居る辺りに集まって来て、それが少しずつ濃くなり闇となっていく。
もうトマとイデェネルは完全に闇に包まれてしまった。
今までその光景を見ていたアークシュリラは、一人蚊帳の外となったので周囲を警戒して近付くモノがいないか確認するコトにした。
その後も闇は濃くなっていき、完全に黒い塊――漆黒の卵みたいになって今まで聞こえていたトマの声も聞こえなくなった。
そして、しばらくして闇が徐々に薄くなっていく。
アークシュリラからもトマとイデェネルの二人が、ようやく確認出来るようになってくる。
アークシュリラは、その薄れていく闇が靄となってトマの体に吸い込まれた様に感じた。
闇が消え去ってトマは振り返って、アークシュリラが居ることや周囲を確認した。
「アークシュリラ。終わったみたいだね」
蘇生の魔法を初めて使ったトマが、丸で他人ごとの様にアークシュリラに言う。
「イデェネルは無事なの?」
「私も初めてのコトだから、成功したと思いたいよ」
「そうだったね。お疲れ様」
トマとアークシュリラの二人は、イデェネルに変化がないかを見ている。
息をしだす雰囲気は今のところないが、顔色はほんの僅かに良くなった感じがする。
「アークシュリラ、ダメだったのかなぁ? スクロールの書いてあった通りに読んだけど……」
「直ぐに効果が出る魔法じゃないんでしょ」
「そうだけど……」
術者にあった魔法ならスクロールでも直ぐに発動するが、術者のレベルより何ランクも高いレベルのスクロールだと発動するまで時間が掛かる。
また、術者の魔力量に寄っては、魔力がたりずに効果が出ないコトもある。
それはスクロールに書かれている魔法が必ず発動するのなら、貴族とかお金持ちの初心者でも即死魔法とかが唱えられるコトになる。
もしそうなったら、悪いモノによって世の中は簡単に牛耳られてしまう。
だから、トマ自身は蘇生の魔法を使うには、魔力不足と思い購入をしなかった。
でも、イデェネルが息を引き取ったコトにより、出来なくても悔いの残らないために魔力不足と言い訳をするのをやめて蘇生のスクロールを買う気持ちが起こったのだった。
この魔法自体を使ったのが初めてだし、他人が使っているのに立ち会ったり、見たりしたコトもないので、トマ自身も魔法が成功してイデェネルに効いているのか、はたまた失敗しているのかが判らない。
アークシュリラは、蘇生の魔法自体をよく知らないから、トマがナニも言わない状況では次の行動が取れなかった。
二人には、時が進むのが非常に遅く感じた。
●最後まで読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。
ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。
●今回は、トマが蘇生の魔法を使うお話です。
本当にイデェネルは蘇生するのでしょうか?
トマの魔力が足りなくてダメと云う話も……
蘇生せせるための新しい目的が出来たりして……
次回の公開は未定です。
イデェネルをどうするとか水が噴き出している意味など何パターンも流れを作ったので、推敲中に読み返すと他のストーリが紛れ込んでいてごちゃごちゃになってしまっていました。
書いた自分が読めば『ここは違う箇所が紛れ込んでいるな』って分かるのですが、皆さんは『はっ??』ってなってしまうことでしょう。
出来るだけ早く整理して投稿するようにします。
大まかな目的地(崖の水が噴き出している処と山に向かう)だけは決まってますけど……すみません。




