35 街を散策する その1
今回も読みに来ていただき、本当にありがとうございます。
●この物語に出てくる魔法や職業に付いているルビや漢字表記は独自解釈の箇所があり、一般的なファンタジーのもの(小説やゲームなど)と異なる場合があります。
●誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。
ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。
トマとアークシュリラの二人は、先ず図書館に行ってコーコディェンとかカングレイホがどんな魔物かを調べた。
その結果、どう言う魔物かが判った。
「本当にいろんな魔物がいるんだね」
「アークシュリラ。前にアシュミコルの部下だっけ、アイテム袋と交換したときの……」
「アシュミコル? あっ、あの卵を調べたいんだね」
この図書館は大きな街だけあって、古い時代の魔道書など様々な本が蔵書されていた。
フーフェンの街にあった図書館ではあまり蔵書も豊富で無かったコトと、ゴブリン退治――いや海を堪能するのに忙しくて、例の卵は意識の外にあって全く調べなかった。
「うん。どんな魔物かくらいは知りたい」
「じゃ、赤い卵を産む魔物を探すよ」
コーコディェンとかカングレイホと名前が判っているなら魔物についてまとめられている本は便利だが、赤くてスイカくらいの大きさの卵を産む魔物となると初めから見直さなければならない。
アークシュリラは、魔物を解説した本を再度最初から読みだした。
トマも同様に調べだした。
「このルージュルナールは違うかなぁ」
「どれ?」
「こいつは卵を産まないから……」
魔物の中にも卵でなく、赤ん坊として産むモノもいる。
普通の動物と同じで母乳を飲むモノや母乳を飲まず誕生して直ぐにエサを食べるモノもいる。
ちなみにルージュルナールは、キツネの魔物だけあって、最初は母乳で育つ。
「このルージュミルパーツも違うね」
「どうして?」
「だって卵は一つじゃ無くて、ブドウの様に複数個集まっていると書いてあるよ」
「じゃ、違うね」
赤イコール火と安易に考えて、二人は火属性の魔物から調べている。
「このサラマンダーはどうかなぁ? 卵のサイズもスイカくらいの大きさだよ」
「それかも。でも、フェニックスもスイカくらいの大きさって書いてあるよ」
「じゃ、どちらかなのかなぁ」
その後も二人はページをめくっていった。
「ボクはニ、三匹ぐらいと思っていたけど、赤い卵を産む魔物って結構居るんだね」
「そうだね。レッドドラゴンはサイズ的に、今回のは違うよね」
「確かにレッドドラゴンは大き過ぎるね」
「そうだね。やっぱり、サイズ的に私はサラマンダーかフェニックスだと思うよ」
二人は以前に草原で見つけた赤い卵が孵って産まれて来る生き物を、サラマンダーかフェニックスであると結論づけた。
神の眷属であっても一般的な魔物の情報があてはまると二人は思っていて、まったく疑うことをしなかった。
それは孵化するまで百年も掛かると言われたから、自分たちが遭うコトがないということも影響している。
二人にとっては正解にたどり着くコトより、間違っていても自分たちが納得出来る答えを今回は欲しかったからである。
二人は、魔物関連の本や街の歴史とか、魔道書などを読んで数時間を過ごした。
読みたい本はまだたくさんあったのでこのまま図書館に居てもよかったが、陽が窓から二人を座る所まで射して来て、もう夕方になると気付いた。
それまで時間を気にしていなかった二人だが、ふと街を散策したい気持ちが湧き出してきた。
そこで二人は図書館を後にして、街の散策に出かけた。
「いろんな本があったね。ファリチスにもあんだけの本があれば良いけど、無理だよね」
「ファリチスでは、これだけの蔵書は維持出来ないよ」
「一日十冊ずつ一人が借りても、全部の本を貸し出すのに何年も掛かりそうだね」
「そうなるね。本ってずっと読まないとダメになるから、やっぱり無理だよね」
本に限らずあらゆるモノは、長い間使わないとダメになる。特に本やスクロールの類いは、ただしまって置くと虫によって食い荒らされるコトが多い。
図書館を出た二人だが行く先が決まっている訳でないので、道沿いにある店を見ながら街の中を話しつつ歩いている。
「あっ、ここ魔法ショップだね。とても大きいね」
「トマ、今日どうしても行きたい所はないから入って見れば」
「じゃ少し、寄って良い?」
「良いよ」
二人は魔法ショップの扉を引いて店の中に入った。
店の中は、他の魔法ショップと同じで、所狭しと商品が積まれている。
しかし、ただ闇雲に積んであるだけではなく、商品はジャンルごとにきちんと整理されていた。
「こんなにスクロールがあるなんてスゴいよ」
「そうだね。昔に入った店では十枚ぐらいしか無かったよね」
アークシュリラは、トマが魔法を少々使える様になった頃に、ファリチスにあった魔法ショップに連れて行かれたコトがある。
「どこもそのくらいかと思っていたけど、違うみたいだね」
「これって読めば覚えられるの?」
「レベルに達していればアークシュリラでも覚えられるよ。達してなければ一度きりだけどね」
「レベルって、どこで判るの?」
「スクロールの綴じている紐に付いているタグで判断するんだよ」
アークシュリラは棚の上に置いてあった一つを取って、タグを見てから言った。
「こいつにはAって書いてあるよ」
「Aって、ナンと言う魔法?」
「えっと、蘇生かなぁ」
「蘇生って、本当?」
「ほら」
アークシュリラが手に持っていたスクロールをトマに渡した。
トマはそれを受け取って、書いてある文字を確かめた。
「すみませーん。このスクロールって売り物ですか?」
店員が見えなかったので、トマは奥に向かって尋ねた。
「店に出ているモノは、全部が売り物じゃ」
店の奥からかすれた声だけが返ってきた。
「ありがとう」
「トマ、欲しいの」
「今の私じゃ、一回きりだから勿体ないよ」
「そうか。奥にある色が違うのもスクロールなの?」
トマはアークシュリラが言った、色が違う巻物を手に取ってみた。
「これは私たちが言う魔法じゃ無いね」
「じゃナニ?」
「簡単に言えば、精霊技法かなぁ」
「精霊ギホウ?」
「そう。魔法は自分に備わっている魔力で発動させるけど、精霊技法は精霊の力を得て発動させるモノだよ」
「同じ様に感じるけど」
「まぁ治癒や回復などは、同じ効果だからあながち間違ってないね」
一般に魔法と言うモノは自分の魔力で、特別な状態を作るコトを指す。
なので発動させる魔法の属性は、術者によって得手不得手はあるものの、その魔法のレベルに達していればあまり関係がない。
それと対をなすのが精霊技法であり、契約した精霊の力によって起こせる特別な状態が変わってくる。
属性に関係ない治癒や回復を例に取れば、強力な精霊と契約したら完全治癒とか完全回復が可能である。
逆に弱い精霊だと数パーセントしか治癒も回復もしない。
その上、精霊の属性によって使える使えないがはっきり分かれている。
火の属性を持つ精霊との契約なら火に関する特別な状態は作れても、水や風とか土に関しては一切使用できない。
トマはこの様なコトを、アークシュリラに説明した。
「なんとなく判ったよ。ボクからすれば、どっちも魔法だね」
「教わる時は区別してたけど、普通は私たちも区別してないよ」
売り物の中には物珍しいモノもあったが、トマの触手を動かすモノではなかった。
「アークシュリラ。別の店へ行こうか?」
「もう、良いの?」
「使いこなせないモノは、いらないからね」
二人は魔法ショップを出て、当てもなく歩いている。
●最後まで読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。
ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。
●今回は、トマとアークシュリラが図書館を出て街を散策するお話です。
精霊技法って使っていますが、一般に言う精霊魔法です。
ただ一般的な魔法と区別したくて技法と書いています。
次回のお話は、4月19日0時0分に公開する予定です。




