32 穴の中へ
今回も後書きでお知らせした通りに公開出来ました。
性格が随分と違うキャラ(バルゼンやワーグスなど)が居るので、そのままつなげると読者はもちろん私もパニックになりそうです。
バルゼンは、前に掲載した物語では魔物を安く買いたたこうとしていた小悪党でしたが、外の物語で登場したゼノムのような感じになってしまってますし……まとめ作のつもりだったのに、どうしようかなぁ。
●この物語に出てくる魔法や職業に付いているルビや漢字表記は独自解釈の箇所があり、一般的なファンタジーのもの(小説やゲームなど)と異なる場合があります。
●誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。
ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。
草原で大きな穴を見つけたトマとアークシュリラは、その中に石や火を落として何も居ないコトや深さなどを調べた。
そして、どうやって穴の中に入るかを話し合っている。
「トマ、下に何も無いコトは分かったから、ダガーで壁を削って足や手をかける処を作りながらゆっくり下りようか」
「崖を下りると考えたら、こっちの方が何倍も楽だよね。それに下に着いて横穴が無くても、それを使って登って来られるね」
どのように穴の下に下りるかは、二人がロープの端をそれぞれ体に結んで相手に地上に居てもらう。そして自分が穴の中に入って少しずつ壁に手や足をかける処を作りながら下りるコトをお互いが考えていた。
そうすれば、万が一にでも落下したって平気だと。
下りる方法は直ぐに決まったが、どちらがどの作業をするかは簡単に決まらなかった。
それでしばらく互いに意見を言い合って、アークシュリラが先に穴に入り壁を削る役になった。
二人は自分の体にロープを結んで、アークシュリラがロープを頼らずに穴の縁から腕の力だけでゆったりと穴に入っていく。
先ずは自然に出来た僅かな凹凸を利用して、足の位置や手の位置を決めていく。
そして足や手を置く場所に浅い所があれば、上手くバランスを取りながらダガーで窪みを広げる作業をしていった。
底に着いて、アークシュリラはランタンに灯を灯す。
そして周囲に何も居ないコトを確認してから、上で待っているトマに向かって言った。
「トマ。下まで着いたよ。それに横に穴があるよ」
「分かったよ。じゃ、私も下りるね」
トマは、ゆっくりと穴の壁を下りていく。
上から見ていた感じでは、最初こそダガーで壁に手や足を置く突起を作っていた。
しかし、アークシュリラは途中からそれほど壁を掘っていた様にトマには見えなかった。
それにも拘わらず、思いのほか楽に下まで下りられたなぁとトマは感じた。
「アークシュリラ。それほど掘っていた様には見えなかったけど……」
「そうなんだよ。ちょうど足や手を置きたい処に、途中からは凹みが有ったんだよ」
「それじゃ、誰かが先に入ったってコトだよね」
「多分ね」
トマはアークシュリラの返事を受けて、魔力の残滓を感じようと壁に手を添えた。
確かに魔力をトマは感じられたが、それがこの穴を掘った魔力なのか、ここで灯り以上の魔法を使ったのかまでは、あまりにも魔力の残存量が少な過ぎて判別が出来なかった。
「魔力は微かに残っていたけど、どんな魔法かまでは分かんないね」
「人か魔物でも、魔法を使う者がボクたち以外にも居たってコトが、分かっただけでも良かったよ」
「確かにそうかもね。何か出て来たら魔法に注意しようか、でも少し大きな声を出したから、居たら相手は警戒しているかもよ」
「そうだね。でも周りからは、生き物の気配は全く感じないよ」
「そうだったんだね」
トマも灯りの魔法ではなく、アークシュリラと同様にランタンに火を点けた。
灯りの魔法は明るさが使う魔力量によって変わるので、気にしている時は自在に照度を変更することが出来て便利な反面。他のコトに意識を持って行かれると、通常の魔力量になってしまう。
もし相手を先に見つけて照度を落としたとして、意識が灯りの魔法から逸れるとたちまち照度が元の明るさになってしまう欠点がある。
それに自分と一緒に移動させるのは難しい。
簡単に言うと、今のトマでは固定された部屋の照明にしか使えない。
ランタンにも片手が塞がれると言う、大きな欠点がある。その上、灯りの魔法より照らせる範囲は狭い。
しかし、洞穴やダンジョンなどで何かが出て来る恐れがある時は、明るさの調整が利くランタンの方が便利だった。
それに二人が持っているランタンは、フーフェンでゴブリンキングを討伐した際に得たお金で購入した少し高いモノである。
多少手荒く扱っても破損はしないと、店員に言われた品であった。
それを鵜呑みにするコトはなく、購入する際に実際に試した。
もちろん店員に断ってからランタンを放り投げても灯りが消えたり、オイルが漏れたりもしなかった。
「トマ、準備は良い?」
トマは片手に錫杖、もう一方にランタンを持って進んでいる。
ただこの洞穴を探検するだけなら、アークシュリラの持っているランタン一つの明るさで充分に足りる。
それなのにトマも持っているのは、自分が良く見たい場所が有っても、その都度アークシュリラに声を掛けないで済ますためであった。
「準備は出来たよ。じゃ、行こうか」
洞穴の壁は魔法や人の手で作った感じでなく、所々で出っ張ったり、引っ込んだりしている。
足下も当然のコトで、綺麗に切り出されてはいなかった。
「ねぇトマ。この通路って、自然に出来たのかなぁ」
「人が作った感じではないね。ワームとかが掘った可能性は否定できないけどね」
「ワームかぁ。このサイズだと魔法を使うの?」
「使わないと思うよ」
そもそもワームで、魔法を使う個体は居ないわけではないが非常に希だ。
「そうなんだね。他のヤツは?」
「センチピードとかアーマイザかなぁ。ヤツらなら、だいたいが魔法を使うよ」
「そいつらって、外骨格が硬いと本で読んだから厄介だね」
そんなコトを話しながら進んでいると、通路の先に一匹の巨大なアーマイザが前方で躯……腹を地面に着けてこちらを向いているのが見えた。
そのアーマイザがいる場所は二人が居る通路とは違って、あからさまに部屋の様な空間みたいだった。
「アリが、そのまま大きくなった感じだね」
アークシュリラはそう言って、ランタンを地面に放って剣を抜いた。
「私も、実際に見るのは初めてだよ」
トマもそう言うと、ランタンを地面に置き、錫杖を構えて魔法を放てる体勢を取った。
「でも、襲って来ないね」
「あっちの方が広いから、様子を窺ってるのかもよ」
「じゃ、ボクが先ず斬りつけるから」
アークシュリラは、そのアーマイザ目掛けて駆け出していった。
しかし、アーマイザはアークシュリラを敵と認識していないのか、全く反応をしない。
アークシュリラは動かないアーマイザへ近寄ったが、ナゼか一撃を加えるのを止めてランタンを取りに戻って来た。
●最後まで読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。
ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。
●今回は、トマとアークシュリラが穴の中に入るお話です。
少し会話の部分を削ったために、『えっ』どうしてそうなったと言う箇所もあるかも知れませんね。
話し合いで一話と言うのも、少し冗長すぎるきがしたので……
アーマイザは黒アリが巨大化した魔物です。
次回のお話は、4月8日0時0分に公開する予定です。




