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29 ナンにもないね

今回も読みに来ていただき、本当にありがとうございます。

●この物語に出てくる魔法や職業に付いているルビや漢字表記は独自解釈の箇所があり、一般的なファンタジーのもの(小説やゲームなど)と異なる場合があります。

●誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。

ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。

 先ほどファリチスを出て最初に崖にぶつかった所を過ぎたが、別に目印がある訳では無いのでトマとアークシュリラはそれに気付かなかった。

 それは、いくらトマとアークシュリラの二人がフーフェンに行ったコースを引き返しているとは言え、草原の中なので全く同じルートを通っている訳ではないコトも影響していた。


「フーフェンを出てからボクたちって結構歩いたけど、やっぱり草原には何にも無いね」

「私たちが居るこっち側も、崖下の方も何も無いね」

「ここは見晴らしが、とても良いんだけどなぁ」

「買い物とかを気にしないで良いなら、本当にそうだね」


 草原には小さな集落は幾つかあったが、街はおろか村すらなかった。

 日当たりが良いので畑を作って野菜を育てたり、近くにいる生き物を狩ったりすれば問題なく生活は出来る。

 でもそれは、生き物が絶対に取らなければならない、塩を入手する手間を考えなければである。

 無くなる度に何日もかけて買い出しに行くのは、さすがに現実的でないコトくらいは二人も理解している。

 なので点在する集落が発展して村になるコトを期待するのは、無理かとも二人は思った。


 もし、この草原のどこかに岩塩が埋まっているなら、その問題は解決する。

 しかし、今までずっと草原を通って来たけど、どこにも岩塩らしきモノはなかった。

 動物が居るので必ずどこかにはあるハズだけど、それを探す気持ちを今の二人は持ち合わせていなかった。


「そうだよね、だから簡単に破棄や移動ができる集落しかないんだね」

「アークシュリラ、ここいらで休憩にしようか」

 近くに集落がない処でトマが言った。


 トマとアークシュリラの二人は歩き疲れたら――疲れなくても、急ぐ旅で無い事もあって時間に関係無く休憩を取って景色を眺めていた。

 それに休憩と言っても、ただぼーっと眺めているだけでは無く、草原に生えている野草を調べたり小さな生き物を観察したりもしている。


「この野草って止血に使えるヤツだよね」

「見せて」

「摘んだら可哀想だから、トマが来てよ」

「分かったよ」


 トマはアークシュリラの所にやって来て、野草を見てから言った。

「多分、イムストラ草だと思うよ」


 イムストラ草だけでなく、沢山の野草は人間以外にも魔物や動物も使う。

 それは薬として加工精製するのでは無く、傷ついた体を直に擦り付けたり食べたりしてその効能を得ている。

 だから人々も見つけ次第に全てを摘むことをしないで、必要な量だけを摘んでいる。


「ここら辺にこの草が沢山生えているって言うことは、様々な生き物にとっては療養所になっているんだね」

「そうかもね」


 トマもアークシュリラも薬草から薬を作るコトは出来ないが、薬草を煎じて飲むとか擂って直に傷口に塗るくらいは出来る。

 しかし、今の二人は別に自生している薬草をわざわざ使わなくても、平気な量の薬を所持している。

 それはフーフェンを出る際に、挨拶回りした時に店員から貰ったモノであった。

 それに二人にケガを負わすほどの相手にも出くわして居ないので、その薬を使う機会が今までは一向に訪れなかったし、これからも訪れるとは思えなかった。


 二人は休憩とは名ばかりの調査や観察を終えると、また歩き出した。


「アークシュリラ、崖下に降りられそうなトコって無いね」

「そうだね。沈下したのなら距離が短い所もあるだろうし、もっと緩やかな所もあると思うんだけどね」


 そもそも人間や生き物が作ったモノなら崖下に行く通路は絶対にあるが、自然に地面が隆起とか沈下して出来たモノなら、いくら探してもそんなモノはない。

 二人もそのコトは理解している。

 しかし通路でなくても、上り下りが出来る処は有るかもと、淡い期待を持っているのも事実であった。


 二人が旅をしている目的は、吟遊詩人の話を聞いて世界中を見て回るコトだった。

 なので初めて海を見た感動――そう、海水の匂いや塩辛さを体験したコトの方が、ゴブリンに襲われそうな街を救ったコトより何倍も重要だった。

 だからファリチスに居たら体験出来ない、遥か前方にそびえ立つ山に登るコトも二人にとっては重要である。

 それは、この旅を通じて色んな街や村に行って、その文化・文明の違いを体験するコトよりもだ。


 二人は何日もの間、日が昇っている日中は歩いて星々が見える夜中は野宿をして過ごした。


「簡単に上り下りが、出来そうな所はないね」

「トマは崖に階段か通路を作れないの?」

「作っても降りている途中で崩れるかも知れないから……」

「だったら、崖にへばりついて降りる?」

「それは最終手段かなぁ」


 トマ自身も、最後は崖の凹凸に手足をかけて下りるしかないと思っている。

 その踏ん切りがつかないのは、崖下までの距離に自分自身が最後まで耐えられる握力や脚力を持っているのかが分からないからである。

 多分、アークシュリラなら耐えられそうだとは思っているが……


 逆に崖を上るなら、アークシュリラが先行してロープで引き上げてもらう、いや、落下しない様にして貰うコトも出来るかも知れない。

 でも、下りるとなると上にアークシュリラが居ないと二人とも非常に危ない。その時は自分が先行する必要が出て来る。

 トマは随分と前から、そんな考えを逡巡させていた。


「でも、ずっと崖下までの距離は、あまり変わっていないよね」

「そうだね」


 太陽が随分と下りてきたので、二人は野宿の準備をしだした。


 焚き火の周囲には、木の枝に刺さった色とりどりの魚が囲んでいる。

「アークシュリラ。崖下に行ってから山を目指すけど、その先が海だったらどうするの」

「全部が海だったら旅は終わりかなぁ」

「ファリチスに帰るの」

「いや帰らないよ。ボクは海の傍に小屋でも建てて暮らしたいなぁ。そうすれば魚も食べられるしね」

「そうだね」


 トマはホームシックに罹ってファリチスが恋しくなった訳ではなかったが、どこまでも歩いて進めるとも思えなかったからアークシュリラに尋ねたのだった。

 二人は崖下にはまだ行けていないし、山の向こう側に何が有るのかを知らないが……


 更に何日か経った時に、崖下の草原から光を感じた。


「アークシュリラ。今、何か光ったよ」

「確かに光ったね」


 二人は崖に近付いて、光ったと思われる所を見た。


「あれって川かも……」

 崖下にある草原が、所々でキラキラと光っている。

 多分、水面に陽の光が当たって照らされているのだろう。

「そうだね、私も川だと思う。もし川ならば、どっかに水源があるよね」


 普通に考えれば、生き物が居たのだから水を飲める所は絶対にある。

 それにいくら乾燥に強い草であっても、生えている草にとっても水分は必須だ。

 雨で多少は維持できるが、それには限度がある。


「水源は崖の下にあるのかなぁ」

「今までこっちから流れていなかったから、そうだと思うよ」

●最後まで読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。

ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。

●今回は、トマとアークシュリラが、草原を歩いて居るだけのお話です。

久しぶりに敵も魔物も出てこない回になりました。


次回のお話は、3月29日0時0分に公開する予定です。

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