14 誰か助けてぇ
今回も読みに来ていただき、本当にありがとうございます。
●この物語に出てくる魔法や職業に付いているルビや漢字表記は独自解釈の箇所があり、一般的なファンタジーのもの(小説やゲームなど)と異なる場合があります。
●誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。
ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。
扉を押してトマとアークシュリラがギルドから出て行くと、その者たちが追って来て言った。
「嬢ちゃん。俺たちにも少し別けてくれないか」
アークシュリラはチェッと舌打ちをして、その言葉がまるで聞こえてないかの様にトマの手を引いて先に進もうとした。
「オイ、無視してるんじゃないぞ!」
「貴様、調子に乗るなよ!」
何人かが怒鳴ってくるが、アークシュリラは相変わらずそのモノたちを無視して先へ進んだ。
トマもアークシュリラに引っ張られて進んでいる。
少し人通りが減って来たので、アークシュリラはトマに言った。
「トマ! 門の所まで走るよ。アイツらに捕まらないでね」
「……」
アークシュリラとトマは出入り口にあった門の傍まで、道を通る人々にぶつからない様に懸命に走った。
「アイツらにケンカをふっかけられました! 誰か助けてぇ!」
周囲に聞こえる様な大きな声でアークシュリラが叫ぶと、追って来た人々は散り散りに消えていった。
「大丈夫かね君たち。今、我々の仲間が捕まえに行ったから安心して良いよ。それでは、この街の観光を楽しんで下さい」
簡易な甲冑を着て両刃の剣を帯びた男性が、優しい声でそう語り掛けて来た。
その人は門の所に居る守衛ではなく、街の治安を維持している警備の服装をしていた。
二人が警備の格好と判ったのは、ギルドの場所を聞いていた時にお世話になったからであった。
「はい。大丈夫です。有り難うございます」
アークシュリラが返事をして、その場から離れた。
「アークシュリラ。何でやっつけなかったの?」
「ギルド内だったら、職員が見てるからやっつけたけど……やっぱり、そんなバカじゃなかったね」
「あすこで、やっつけても同じでしょ」
「街中でケンカをしたら、ファリチスでも捕まるよ。今は助けてくれたけど、さっきの警備の人たちにね」
アークシュリラが言い終えると、トマはさっきの場所を見てから通りの左右に顔を向けた。
「そんなには多くはないけど、たくさん居るね」
「で、ここだと捕まれば裁判になるかも知れないから、助けを求めたんだ。塩とかをゆっくり買えなくてゴメンね」
「良いよ、そこでも売っていたから、買って直ぐに旅立とうか」
元々この街で宿泊する気持ちはなかったが、それでも街の散策は楽しみたかった。
しかし、ぶらついていて再びあのモノたちに出会ったら、面倒くさいので散策するコトを諦めた。
街へ出入りする門の近くにあったお店で、塩など最低限の買い物をして街を出た。
「アイツらが街から出て来てくれたら、もう容赦する必要はないんだけどなぁ」
「私も魔法を放ちたいなぁ。人にはまだ放ったコトないし……」
あの者たちが、再び二人の目の前に現れるコトは無かった。あの男たちについてトマには気になったコトがあったので、アークシュリラに尋ねた。
「アークシュリラ。あの子分たちが付けていた割り符みたいなモノのマークって、あの城に掲げてあるマークだよね」
「そうみたいだったね」
二人が気付いた通り、二人に絡んできた男たちが付けていたマークは、この街の領主のモノと似ていた。
それもそのはずで、このグループのリーダーをしている男は、この街の領主であるブランゼ公爵の三男ミニエルであった。
なので、お城で暮らして居るのは、トマやアークシュリラがずっと語っている王様ではない。
しかし、城に掲げてあるマークは公爵家のマークなので、良く見るとミニエルの使用しているマークとは若干だが異なっている。
あくまでも若干なのは、出自を表すためにデザインを極端に変更することを、この国の法律で禁じられているからであった。
三男でも本来は成人すれば男爵か準男爵くらいには任じられ、片田舎の領主になれる。が、ミニエルを産んだ母親の身分がとても低かったために、ブランゼ公爵がワザと手続きをしなかったコトでミニエルが就位するコトは出来なかった。
手続きをした所で、本当にその爵位に叙されたかも非常に怪しい。
手続きをしなかったから最初のウチはミニエルに同情的だった領民も、ミニエルが今回の様なコトを幾度となく繰り返していたので今では街の厄介者となっていた。
公爵自身もミニエルを勘当扱いしていたが、彼を産んだ母親が亡くなったコトにより、最近はミニエルと父子の縁を完全に絶っていた。
ミニエル自身も領主に相応しい人間になろうと云う考えは全く無く、一切学ぼうともしていない。ブランゼ公爵の教育について行けずに、自分から家を出たと言った方が正しいのかも知れない。
しかし、トマとアークシュリラは、そんなことは知る由もない。
「じゃ、アイツらって領主の家来とかなのかなぁ」
「一番偉そうにしていたヤツが持っていた剣は、結構な値段がすると思うんだよ。そんな高価な武器は、家来じゃ必要ないからボクは家来でなくて身内だと考えるよ」
「なるほどね。だから裁判になるとマズイと踏んで、助けを求めたんだ」
「それは……」
アークシュリラは、そこまでは考えていなかった。
確かに裁判になったら何日か取り調べを受けたり、どこかに抑留されたりする。
それが単純に少しの間かも知れないが、もし長期間に及んだり罪を負ったりしたら、このまま旅を続けるコトが出来ないと思っただけだった。
「で、さぁ。庶民も困っていそうだったから、私たちでアイツらを懲らしめない」
「トマ。それって、ただアイツらに対して、魔法を放ちたいだけでしょ」
「ナンで判ったの?」
さっき言ってたけど……と、アークシュリラは小さく呟いてから話を続けた。
「でも、この壁の中に居るなら、ボクたちではやっつけられないよ。外に出てくれば良いけど、中でたかっている方がお金になると考えていそうだから、まず出てくるコトはないね」
「そうだったね。わざわざ危険を冒してまで、街の外に来る意味がないよね。つまんないなぁ」
●最後まで読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。
ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。
●今回は、トマとアークシュリラの二人が絡まれる話です。
読み進めてスカッとしない内容になってしまってます。
二人は、いつかミニエルを成敗できる様になるのかなぁ。
街中で暴れても許されるとか、国王や貴族に会える身分になるとか……今の私には想像出来ません。
次回のお話は、2月11日0時0分に公開する予定です。




