1 旅立つことを考える
今回も読みに来ていただき、本当にありがとうございます。
●この物語に出てくる魔法や職業に付いているルビや漢字表記は独自解釈の箇所があり、一般的なファンタジーのもの(小説やゲームなど)と異なる場合があります。
●誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。
ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。
一人の男性が広場にある芝生の上で、リュートを奏でながら遠くまで通る声で英雄伝を語っている。
この男性が広場に着いた時には、何人かの人々がベンチに座って会話をしたり、一人で日なたぼっこをしたりしていた。
そこで、あまり人が居なかった芝生に腰を下ろしたのだった。
そして男性は、まずリュートを弾きだして今日はどの演目を語るか考えることにした。
自身が奏でるリュートの音色を聞きながら、あれではないとかこれも違うなどと呟き続けて、本日の演目を決めた。
それから自分の近くに居る誰かに聞かせる訳ではなく、ゆっくりした口調……いや口調はゆっくりであるが、良く通る声で語りだした。
その男性の話し方が上手かったから、わずかな時間も掛からず近くに居たほとんどの人々は、その彼が語る内容に耳を傾けていった。
そして次第にその男性の周囲に大勢の人々が集まりだして来て、男性が語る物語に聞き入っていった。
子供たちは目を輝かせて、真剣に男性が語る話を聞いている。
この世の中には娯楽があまりないことが、この状況を生み出している。
少し遠くで剣を腰に帯びた女性が、隣に居る杖を持つ女性に喋り掛けた。
「トマ。昔の英雄ってスゴイよね。ボクも訓練場で剣術を練習したり教えたりしているけど、一度の戦闘では何百もの魔物を倒すなんて不可能だよ」
「アークシュリラでもそうなんだね。私だって、話にあったような広範囲魔法を使うのはムリだね」
「このまま何年か訓練を続ければ、何百は無理でも十数匹くらいはボクでもいけるかなぁ」
「その数なら今でも大丈夫じゃないの」
男性の語る声が徐々に大きくなっていき、今回の物語がいよいよ佳境に差し掛かってきた感じがしだした。
今まで合いの手がわりに、たまに鳴らしていたリュートも今では頻繁に音を発している。
「あの吟遊詩人ってイーベンバーグって云う名らしいけど、初めてこの街に来たよね」
「あの人は宮廷を巡回している遍歴詩人では無いと思うから、吟遊詩人で当たっていると思うけど……イツも来る人とは違って、声の抑揚やテンポとか言葉選びなど語り方がとても上手だよね」
「そうだね。長い年月の間やっているのかなぁ? それにあの人って、この付近の人じゃないよね。髪や目の色とかがボクたちと違うし」
「確かに私たちと違って、髪は緑がかっているし、目は青だよね」
「だったら、ずっと旅をしているのかなぁ」
「アークシュリラは旅をしたいの?」
「ボクは隣町のイーハヌくらいにしか行ったことが無いから、少し羨ましいかなぁ」
「旅をすると街なら宿に泊まれれば良いけど、野宿だと毎回でないにしろ魔物や盗賊が出て来たり、食事を作ったりと大変だよ」
「そうだったね。それにずっと宿に泊まることにしたら、お金もかかるよね。今のボクじゃ護衛の依頼くらいしかできそうにないしなぁ」
「じゃさぁ、何年か掛かるか判らないけど、自分自身で行けそうって思えるようになったら、二人で旅をしない」
「トマそれ良いアイデアだけど、自信がつくまでとなると……」
「では、一年か二年後に旅に出ようよ」
「じゃ、二年後にしよう。私、今より更に訓練を頑張るからさぁ」
「私も回復や治癒の魔法をイツでも使えるようにしたいし、アークシュリラの援護が出来るような魔法も覚えるよ」
イーベンバーグを囲んでいた人々から、盛大な拍手の音が聞こえてきた。
どうやら今日の演目が終わった雰囲気だ。
トマとアークシュリラの二人がその方向に目を向けると、イーベンバーグは立ち上がっていて、聞いてくれた人々にお辞儀などをしていた。
人々の方は、イーベンバーグが差し出す器にお金などを入れている。
「アークシュリラ。終わったみたいだね」
「多少アレンジしているにしても、あの話って本当のことだよね」
「学校で習ったことあるからね」
「だったら、図書館とかで歴史を調べて、自分で物語にしているのかなぁ」
「聞いて来たら。今なら大丈夫だと思うよ」
「いいよ。近付いたらお金を払わないといけなくなるし、それに知ったとしてもボクは剣士で、宮廷詩人や吟遊詩人らの語り部になる訳じゃないからね」
「そっかぁ」
●最後まで読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字はチェックしているつもりですが、多々漏れる事があります。
ご指摘下されば、どうしてもその漢字や文章を使いたい場合以外は、出来る限り反映させて頂きます。
●今回は、トマとアークシュリラが旅立つことを思い付いたお話です。
『異世界に転移した様だけれども……でも、一人きりじゃ無い!!』や『実は、私アルケミストなんですよ』では両名とも転生者でしたが、この物語では最初から地球とは違う世界の住民です。
それに最初から知り合いで、この二人を中心に物語が進んでいく予定です。
また、イツになるか判りませんが、イツか二人が過ごした幼少期のエピソードも書ければと思っています。
●明日も0時30分に第二話を公開します。




