第九話 全知全能の女神
「女神って、全知全能、なんでしょ?」
紅王が走りながら苦しそうに言う。
「そうよ。でも、攻撃手段として一番有能なのはさっき言った二つだからね・・・」
ベルリが言う。
「あの、ベルリ、さん、なんで、走ってるのに、苦しく、ないんですか?」
祐樹は走りながら言う。
「スキル【無酸素化】を使って、走るのに酸素を必要としないようにしているの」
「へぇ、そう、なんですか・・・ハァハァ」
めろんが苦しそうに言う。
「お~い!」
スキル屋の店主がスキル本を持って走ってきた。
「必要なものなんだろ?」
「ありがとうございます!」
走って行くと、落ちている結界の欠片の数が多くなってくる。
「ここからは結界の内側だった場所だ・・・」
ゆっくりと中に入り歩き始める。
「・・・これは何?」
紅王が言う。
「多分万物を凍らせるスキルで凍らされたんだ・・・」
そこにあったのは凍った人。
槍を構えた姿勢で凍っている。
「ゴネフェの防衛隊のようだな」
アイトが祈りながら言う。
「この人はもう死んでいるの?」
「あぁ。このスキルは皮膚だけでなく、細胞、内臓をも凍らせる」
祈りをやめたアイトが言う。
さらに先へ進む。
「これも惨い・・・」
血まみれで横たわる死体たち。
「触腕は鋭利な刃物だ、致命傷もありうる。この死体たちも防衛隊だろう」
アイトが腕を組む。
「ゴネフェの防衛隊は百戦錬磨だ。この地方はアバーハイトの襲撃が冬になると増加するからな・・・一体、女神ってどんだけ強いんだよ」
祐樹が顔をしかめて言う。
「後方から竜」
ベルリが言う。みんながしゃがむ。
頭上を竜がかすめて行く。
「ファマーブラスだ。この地方に生息する竜では最強」
アイトが斧を構えて言う。
「グラァァァァァァァァァ!」
竜が大きく鳴いて炎を吹く。
「竜は私が殺しておくわ。四人は先に!」
ベルリが叫んだ。
四人は走って行く。
「【鉄拳】!」
ベルリが竜の口の中に突っ込む。
ビシュという音とともに竜が血を吐いて倒れていく。
「今は君にかまってられないからね・・・」
ベルリが走り出す。
アイト、めろん、紅王、祐樹は女神と会敵していた。
「女神のスキルパワーの最大は?」
アイトがめろんに尋ねる。
「9那由他ってところだね」
「那由他っていったら0が28個じゃないか!」
祐樹が言う。
「流石神話時代の女神だな・・・【断頭斬】・・・」
切りかかったアイトの肩から血がしぶく。
後退するアイト。
「何が起こった?」
「一応触腕が早いかもしれないと思って動体視力の良い鷹を憑依させてたんだけど・・・」
紅王が言う。
「見えなかった」
「え?」
一同困惑。
「動体視力の良い鷹を憑依させたのに、見えなかった。肉眼でも、動体視力が良くても視認することが出来ない」
女神が不敵にほほ笑む。
「【氷結】・・・」
女神が言う。
「【露防】」
紅王が言うと、強力なバリアがスキルパワーによって張られる。
「【鉄拳】!」
祐樹の拳を女神ははらりとよけて相手の脇腹に蹴りを入れる。
祐樹が吹っ飛ばされ、木に激突する。
「【断頭斬】!」
アイトが女神に近づく。
「【触腕】」
触腕が8本アイトに近づき、アイトを絡めとる。
触腕の間から血が滴る。
「【金剣】!」
めろんの放った剣が触腕を切り裂く。
「感謝する」
アイトが女神に斧を振るう。
女神の懐から血がしぶく。
「【氷結】!」
女神がベルリを襲う。
「【露防】」
ベルリがバリアを展開する。
めろんは考えていた。
(僕を襲っていない。何か僕に思い入れでもあるのか・・・)
アイトが女神に攻撃を防がれる。
(異世界、女性・・・まさか!)
벚꽃。韓国語である。日本語訳すると、『さくら』となる。
「ベルリ、【透視】ってスキルある?」
「あるよ・・・【透視】!」
ベルリが女神を透視する。
「女神の体の中に誰かいるよ!」
「母さんだ!」
女神が動揺する。
「女神が人を中に封印している・・・もしかして、めろんって転移者?」
「そうだよ!」
そういえば教えてなかったっけ。
「そのめろんのお母さんって、そっちで不治の病で亡くなってる?」
「正解!どうして分かったの?」
紅王が言う。
「神話時代の魔物は凶悪でね、そっちの世界の人をランダムに選んで『喰う』んだよ」
「だから不治の病だったのか・・・許せない」
めろんが言う。
「母さんの命を奪った女神という名の下衆野郎を、許せない!」
めろんが声を荒げて言う。
「【不可説不可説〈転〉】!」
強力な向かい風が起きて、強力な電磁波が発生し、女神の体を貫通する。
「このスキルは・・・」
ドタッと倒れる女神。
女神が目を閉じると、女神から煙が出て来た。
「もらい!」
ベルリが瓶に煙を詰める。
すると、黒いマントを羽織り、右目に眼帯をした男性が歩いてくる。
「クラウド・・・遅いよ」
ベルリが微笑んで言った。
次回予告 第十話 討伐祭