第七話 集う者たち
女神討伐。
前代未聞の依頼を受けた冒険者たちが、魔界都市ゴネフェに集まってきた。
「女神討伐の依頼を受けた人へ。明日午前8時、ペ=ホジャムニャ広場に集まってください?」
祐樹が見せた紙を紅王が読み上げる。
「顔合わせと、お知らせがあるらしい」
「でも、女神が結界を破壊する推定の日まであと2か月はあるよ。ちょっと早すぎやしないか?」
「それは知らない・・・」
三人がゴネフェに来てから10か月が経った。
「行く?」
「そりゃ行くでしょ」
すっかりゴネフェ慣れしていた三人だった。
午前8時。
強者が広場に集まった。
「よろしくね!私【大虐殺の奇術師】ベルリよ!」
黄色の髪の少女が話しかけてくる。
(耳がとんがってる・・・)
「この耳?私エルフなのよ~」
何だこの人のテンションは。
エルフってことは僕らよりも遥かに年上なのだろうが、見た目、感じ、全てが幼く見える。
「日比谷めろんです・・・」
「紅王だよ」
祐樹だけが挨拶しない。
「おい?」
肘で小突く。
祐樹が後ずさりする。
「どうした?」
「【魔力探知】してみろ・・・」
震える声で祐樹が言う。
「!」
魔力探知で人を探知した場合、スキルパワーの満タン時の量が頭上に表示される。
スキルパワーの上限は修行をすることで増える。
祐樹の頭上には〈121〉と表示されている。
では、ベルリの頭上には何が表示されているかというと・・・
〈19856〉
「おいおい・・・」
喉で声がつっかえる。
それに、周りにピンクの板がある。
【魔力探知】をやめると消えた。
「祐樹・・・これは?」
「多分、スキルの展開準備をしてるんだ。いつ何が起きてもいいように・・・」
じ~っとベルリを見つめるめろん。
ベルリはこう解釈した。
(私の事見つめてる?もしかして、私に惚れた?よく見たらこの子イケメンじゃない!)
「若いのはいいのぉ」
後ろからおじいさんが歩いてくる。
「いや私今年で15690歳なんですけど・・・」
ベルリが言う。
「そうじゃったな。ベルリ」
「ベルリ『さん』だよ!断然私の方が年上なんだから!」
「フォッフォッフォッ。すまぬのぉ」
豪快に笑うおじいさん。
「あの、このおじいさん誰ですか?」
ベルリに聞くめろん。
「彼?彼は【轟の断頭台】アイトよ。まるで断頭台の刃のような大きな斧を振る戦士で、つい最近魔物討伐数記録を更新したわ」
「その記録更新はちなみにいつ頃・・・?」
「40年前」
ヨンジュウネン・・・全然つい最近じゃない、14610日も前じゃん。
まぁエルフだからそんなもんか、さっき5730772日生きてるって言ってたしな。
その時。
円形のペ=ホジャムニャ広場が沈んでいく。
まるでエレベーターのように下がって、地下でストップした。
地下の大きなドームと連結する。
豪華な作りで、まるで神殿のようだ。
そこにいたのは体長3mほどで角が生えており、剣を担いだ人だった。
「なぁ・・・これは試験だと思うか?」
めろんが呟く。
「我はオンヴィズィ・バーカイト。別名、不敗の魔術師なり」
人に似ている・・・
「くじら、あれは?」
「魔物の中でヒトに最も酷似した外見をしている魔物『アバーハイト』ですね!」
それに不敗・・・負けた事が無いということか?
アイトが斧を構える。
「久々じゃのう・・・斧を振るのは!」
そう言って前に飛び出すアイト。
「【断頭斬】!」
振り上げた斧が地面に刺さる。
轟音が響き、土煙が舞う。
「【憑依】・・・」
紅王がチーターを憑依させて前に飛び出す。
祐樹も飛び出していく。
「僕は後方支援と行こうかな・・・【金剣】」
黄金の剣が多数めろんの周りを浮遊する。
大図書館のバイト報酬だ。
土煙が晴れる。
黄金の剣をオンヴィズィ目掛けて飛ばす。
確かにみぞおちに直撃したはずなのにダメージは確認できない。
「え・・・?【魔力探知】・・・」
薄い光がオンヴィズィを包んでいる。
「バリアってことなの・・・?ベルリさん!」
近くにいたベルリに声をかけようとした。
「ベルリさん?」
いない。
前に飛び出して行ったのか?
オンヴィズィを見ると近くにベルリがいる。
「【骨牌散】!」
トランプカードが宙を舞う。
そしてオンヴィズィに刺さる。
「バリアを貫通した・・・!」
オンヴィズィの胸元から血がしぶく。
「面白い・・・」
そう言ってオンヴィズィは剣をベルリ目掛けて振り下ろす。
「危ない!」
そう言って金の剣を飛ばそうとした時。
オンヴィズィの振るう刀が止まった。
「私が何年生きてきたと思ってるの?」
ベルリが下からオンヴィズィを見やって言う。
「まさか・・・そんな芸当が・・・」
オンヴィズィは呆然としている。
言うなれば、スキルパワーの盾。
スキルパワーを防御したい部分に集中させることで『厚み』を作り出す。
「だがここで躊躇しては不敗の魔術師とは言えぬな・・・」
剣を振り上げる。
「この神殿ごと葬り去ってくれるわ!」
そう言って剣を力いっぱい地面に叩きつける。
神殿の床、壁、天井全体に亀裂が走る。
天井が落ちてくる。
おかしい。天井がまるでスローモーションのように落ちていく。
「【時間操作】」
ベルリが呟く。
「だが、いずれは落ちる!儂は受け止めることができるが、貴様らは人類だ!」
オンヴィズィが大声で叫ぶ。
アイトが後ろに回り、高く飛ぶ。
オンヴィズィの首に刃が当たる。
「人類なめんなクソ野郎」
笑顔でそう言うベルリ。
それはオンヴィズィが人生最後で聞いた言葉であった。
「よろしい・・・」
落ちていく天井が止まり、男性がゆっくり降りてくる。
「私は試験官のソリティア」
「やっぱり試験だったのか」
アイトが言う。
「合格おめでとう・・・君たちは女神と戦う素質がある」
次回予告 第八話 仕事探し