第四話 ルベザオクと憑依
黒煙の龍ルベザオク。
尻尾には無数の針が生え、全てを飲み込むような黒の鱗。
たてがみを首に掲げて、顔はまるで肉食獣。
全長はおよそ20mといったところか。
「ギャルグォォォォォォォォォォ!」
叫んで尻尾を振ってくるルベザオク。
かがんでよけた後、ルベザオクの持ち上がった頭部目掛けて走るめろん。
「助けて~」
飛んで、2m程もあるルベザオクの太い胴体の上に乗り、駆け上がる。
「体が軽いような気がする・・・」
「助けて~」
ルベザオクは振り落とそうと尻尾を振りまくる。
「離さない・・・はっ!紅王!」
よけれていると良いが・・・
「ふぁっ!」
紅王が拳を振り上げて尻尾を吹き飛ばす。
「はぁ!?」
僕みたいに体が軽いとか、異世界に来たことによって身体能力が上がっていたりしていたとしても、
2m程もある胴体ならそれなりの重さがあるはずだ。それを吹き飛ばすなんてゴリラでもない限り・・・
「そういうことか・・・」
【憑依】。思い浮かべた動物の能力が与えられる。
「助けて~」
そうそうさっきからうるさい萩原祐樹。
多分彼もまた転移者なのだろう。
「人数は多い方がいいよな・・・」
ルベザオクから飛び降りるめろん。
「【雨針】!」
檻が折れる。
「やった!」
外に出る祐樹。
「良かった・・・」
溜息をつくめろんにルベザオクの尻尾が迫った。
「しまっ・・・」
「【鉄拳】!」
祐樹のパンチにより尻尾が飛んでいく。
「そっちは紅王の・・・」
飛んで行った方向には紅王がいる」
「ほっ!」
E・・・と、飛んだ!?」
「アゲハ蝶を憑依させたんだ!」
すごい。僕も負けてられない。
ルベザオクの胴体に乗り、頭部に向かって走る。
「【憑依】・・・ゴリラ!」
ルベザオクの首に向かって手刀を振り下ろす。
「勝った・・・」
ドゴォォォォォォォォォ
「くは・・・」
何があった?
攻撃された?
立ち上がれない・・・足が折れたか?
でも痛くない。
「如是我聞。一時仏。在舍衞国。祇樹給孤獨園。与大比丘衆。千二百五十人倶。皆是大阿羅漢。衆所知識。長老舍利弗。摩訶目犍連・・・」
祐樹が唱えている。
「スキル【無痛】です!」
くじらが叫ぶ。
「なるほど・・・でも足が折れてるし動けないから状況は変わらないよ?」
「【憑依】ですよ」
その手があったか!
「【憑依】・・・鳥」
何も起こらない。
ドゴォォォォ
紅王とルベザオクが戦っている。
「助けに行きたいのに・・・何で憑依しない?」
「具体的に種類を言わないとです!」
「それじゃあ・・・烏」
飛んだ!
ルベザオクが紅王に向かって突進する。
「【雨針】!」
無数の結晶がルベザオクの顔に突き刺さる。
「グロウァァァァァ!」
苦しむルベザオク。
「決めて!めろん!」
「いや・・・」
めろんが言う。
「問題は無い」
「【鉄拳】!」
ルベザオクが壁に叩き付けられる。
煙になって消えるルベザオク。
本が2冊落ちる。
「【武器生成】・・・解析ね・・・ってあれ?」
祐樹にはサポートウォッチが付いていない。
「貸してみ」
本を祐樹に渡す。
その瞬間、本の中身が経典に変わった。
『爾時無尽意菩薩即従座起偏袒右肩 合掌向佛而作是言 世尊観世音菩薩以何因縁名観世音』
「なるほど・・・分かったぞ」
そう言った祐樹の手に鎖鎌が入る。
「鎖鎌・・・?」
「すごいよ!生成された」
祐樹の手に短剣、斧、鉈が次々に渡る。
「僕はついこの間転移してきたんだ・・・一回スクラップのトラックに入れられて焼却炉で・・・」
なんでそうなった?
「あ、そうそう。僕ゴネフェに住んでるんだ」
「なにそれおいしいの?」
紅王が言う。
「そこでかなりの数の魔物を倒して、もっと強い魔物の討伐依頼が来たんだ。でも一人じゃ倒しきれないと思ってルベザオクで修行しようとして、捕らえられた・・・魔物の討伐を手伝ってくれる?」
「その魔物が何かによるな」
凶悪な魔物とか、ちょっと怖い。
「神話時代、勇者が封印した女神」
「女神って神様じゃないの!?」
紅王が驚いている。
「あぁ、その女神は堕ちたんだ」
堕天使ルシファーみたいな感じかな。
「この世の全てのスキルを知る全知全能の女神様、その封印が解けそうなんだ」
急を要する様子だな。
「手伝う・・・?」
紅王に静かに尋ねる。
「面白そう!やりたい!」
え・・・