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第一話 メロンと鯨

異世界攻略は夢の中 作:鴨鷹カトラ

僕の名前は日比谷めろん。

癖の強い名前以外は至って普通の男子高校生。

悩みといえば彼女がいないことぐらい。

まぁ面倒な人間関係とかは苦手だし、別にいないから困っているという訳でもないんだけど。


朝のアラームに飛び起きて、階段を降りる。

食パンにハムを乗せ、レンジに突っ込む。

欠伸をしながら振り返って、食器棚から皿を取り出す。

すると階段から物音が聞こえてきた。

「ふわぁぁぁ~」

欠伸をしながら父さんが降りて来た。

「父さん・・・」

寝ぐせまみれだ。

「早いね」

そう言いながらレンジから食パンを取り出す。

食パンを皿に乗せる。

そしてチーズを塗り忘れたことに気付く。

「あ・・・」

「めろん、またドジったか」

父さんが笑いながらキッチンにやってくる。

「父さんだって、会社に書類を忘れたりするじゃん」

「ははっ、それはそうだな」

豪快に笑って冷蔵庫を開ける父さん。

「あれ・・・いつもの『北海道産牛乳』は・・・?」

「ごめん、父さん。買い忘れた」

「めろん・・・」

父さんが半泣きで言う。

情けない。それにしても商品名までよく覚えてたな。

父子家庭になってもう十年。

すっかり慣れた。

箪笥から線香を取り出し、仏壇に置く。

「おはよう、母さん」


自分の部屋に戻り、机に散乱した参考書目掛けて溜息をつく。

バッグの中に教科書、ノート、筆箱を入れる。

バッグを肩にかけ、玄関へと向かう。

「行ってきます」

「ほう、ふぃってふぁっふぁい(おう、いってらっしゃい)」

歯磨きをしながら父さんが見送る。

玄関を閉める。

置いてある自転車の鍵を開けて、乗り込む。

坂道を勢いよく降る。

向かい風が気持ち良い。

「昨日見た映画を思い出すな・・・」

『ことりの戸締り』


踏切。

踏切が開く。

「よし・・・」

自転車で中に入る。

すると、目の前で踏切が閉まった

「へ?」

横から汽笛が迫ってくる。

「まずい!」

自転車を置いて反対側に走る。

「あと少し!」


何が起きたか分からなかった。


耳しか聞こえない・・・

たしか、死ぬときに最後まで使えるのは聴覚じゃなかったっけ・・・

ってことは死んだ?

電車にはねられた?

だめだ、もう耳も聞こえなく・・・


気が付くと、地面に寝ていた。

「は?」

起き上がる。黄緑の服、青色のズボン。黒いマント。

「えっと・・・確か電車にはねられて・・・ってことはここは死後の世界!?」

周りには綺麗な緑色の葉をつけた木が沢山立っている。

「地獄では・・・なさそうだな」

不思議な事に体がどこも痛まない。

「天国ってこんな感じなのか・・・」

ひとりごちて歩き続ける。

小鳥が鳴き、栗鼠がドングリを食べている。

木の葉は風で音を立てて、近くに川があるのか、水音も聞こえる。

「あぁ、幸せ・・・って、あれ?」

僕は不思議な事に気が付いた。

「何か、足音しなくないか?」

それだけでは無い。心なしか身長も低くなったように感じる。

その時、強烈な眩暈が僕を襲った。

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

眩暈が落ち着くと、自分を客観的に見ていた。

それだけでも不思議だ。

さらに、でも、さらに!

自分の下半身が地面に溶けている!

「え、なニ」

驚きのあまり声が裏返った。

さらに、でも、さらに!

腕にスマートウォッチを付けている。

「う~ん」

さっきの視点に戻ったら、よく分かるんだけど。

また、強烈な眩暈が僕を襲った。

視点が戻っている。

腕のスマートウォッチは喋りだした。

「スキル【溶解】、【客観的視】獲得!」

あぁ、やっぱりそうか。薄々感づいていた。

ここは天国でも、地獄でもない!

「異世界・・・」


すると、スマートウォッチが喋りだした。

「〔スキル〕を獲得おめでとうございます!」

「え?」

よく考えてみるとスマートウォッチが喋っていること自体がおかしいし、不思議。

「お前は・・・何なんだよ!?」

「どうも!ワタクシは『クラビアクジャラウラ・ジアンプレクトランスロット・ライクロデケル』です!」

名前長い。

「くじらと呼んでください!」

なぜにこんなに長い名前が哺乳類クジラ目あるいはクジラ偶蹄目の鯨凹歯類に属する英語表記でwhaleのたった三文字の名前になるのか。それは後々明らかになる。


ここには、くじらに書き込まれていた〔スキル〕に関する説明文を記す。


〔スキル〕


これは発動者の〔スキルパワー〕を消費することで行われる特殊行為である。

様々な種類があり、多くの物はダンジョンにある宝箱の中身や、魔物がドロップする物として得られる。

種類はその数100。がんばって集めてください。


そして月日は流れる。


僕が手に入れたスキルは、

【客観的視】【溶解】【雨針】【火円】の四つだ。

攻略は【溶解】で完全に液体化し、魔物もすり抜けて、最下層の宝箱まで行っていたので、未だに魔物との戦闘経験は0だ。

〔スキルパワー〕とやらも、宝箱を開封したら自動でチャージされるので、〔スキルパワー切れ〕というのも経験していない。


くじらには、〔スキル〕が一切使えなくなるとしか書き込まれていない。

それは結構やばい気がする。

今日は【火円】を手に入れたダンジョンで地図を手に入れたので、アエオエ洞窟とやらに向かっている。何やらいいスキルがあるようだ。スキルパワーを稼げる魔物も出て来るらしいから楽しみである。


アエオエ洞窟。

僕、めろんは二匹のゴブリンと対峙していた。

ゴブリンは剣と盾を持っている。

「【火円】!」

炎の輪がゴブリン目掛けて突き進む。

ゴブリンが盾を構える。

「防がれたか・・・」

ゴブリンが剣を構えて走ってくる。

「そうこなくっちゃ」

僕は【溶解】を使い液体になり、二体のゴブリンの足元をすり抜ける。

そして後ろから、

「【火円】!」

ゴブリンに命中した!

ゴブリンは煙と共に消え、そこには本が残された。

そうそう、スキルはこうやって本として手に入るのだ。

本を拾い、パラパラとめくる。

「【盾】・・・相手の攻撃を80%吸収してくれるか・・・すごいな」

本を閉じて、くじらにかざす。

「解析しています・・・【盾】認識中・・・認識完了!」

スマートウォッチが喋る。

「これで【盾】が使えます!そして〔スキル〕が五個に到達したため、報酬として5ゴールドとスキルを2つ差し上げます!」

くじらが『ゴールド』という聞き覚えの無い単語を発する。

「その『ゴールド』というのは・・・?」

聞いてみると、能天気な声でスマートウォッチはこう返した。

「はい!この世界の通貨であります!」

「通貨・・・」

あまり意識していなかったけれども、この世界には町があるのか。

町・・・どんな感じなんだろうな。

マンションが立ってるわけないよな、こんなファンタジー感見え見えの世界に。

きっとチューダー様式の酒場とか民家とかあるんだろうな、fantasyに

「お・・・」

僕は奥に檻があるのに気付いた。中には黒い馬がある。

「ゴブリンに捉えられていたのか・・・くじら、種類は?」

「魔界都市ゴネフェ付近にあるエリゼニュア湿原の品種であるルースヒンです!」

何?魔界都市?なにそれおいしいの?

「魔界都市というのは、魔法、錬金術などを使って栄えた都市のことを言います!ここは

パシエムー巨石群及び火山の近くです、最寄りの魔界都市がそのゴネフェです!」

「なるほど・・・って、なんで考えてること分かったの!?」

「私はあなたの体の一部ですから」

「なるほどって納得できるか~い!」

くじらと言い争うめろんを檻の中の黒い馬は小さな目で見ている。

「一応これでもサポート役なんで」

馬がこらえきれずヒヒーンと大きく鳴く。

「あ・・・【火円】!」

檻が溶けて、馬が出てくる。

「君の名前は・・・そうだな」

めろんが考え込んでいると、『くじら』が声を掛ける。

「アジヒとかどうでしょう」

「アジ開き?なにそれ」

「ミミズの神の名です」

「却下」

めろんが厳しい判決を言い渡す。

「自由の神とかもっとかっこいいのにしようよ」

「ルベザオクとかどうでしょう」

かっこいい名前だ。

「黒煙と共に現れるという伝説の龍の名前です」

「かっこいい・・・」

馬が鳴く。

「お前の名前はルベザオクだ!」

そう言いながらめろんはルベザオクの背中に乗る。

「乗馬できるんですね」

『くじら』が言う。

「うん、まぁ経験はある、小さい頃乗馬クラブ体験したことがあって・・・行け!ルベザオク!」

めろんがそう叫ぶも、馬は動かない。

「そりゃそうよな」

「ちょっと待っててくださいね!えっと、確かそんなスキルがあったような気が・・・」

「まじか!なんだそれ!」

馬から降り、近くのとがった岩に馬をつなぎとめる。

「分かりました!」

『くじら』が叫ぶ。

「この近くにあるダンジョンのボスフロアの宝箱に【忠誠】というスキルがあります!」

「そのボスは?」

「黒煙の龍、ルベザオクです!」


次回予告 第二話 夢と黒煙 お楽しみに!


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