中学生編 第一話 三つの鍵を探すこと
「あかり、鍵に興味はあるかい?」
そう聞かれたのは、確か小学校高学年のころだったと思う。
「鍵?」
「うん。あかりがこれから成長していくってことを考えたときに、試練があったほうがいいんじゃないかと思ってね。パパとママ、鍵を世界中に散らすことにしたんだ。だから、あかりが大きくなったらそれを見つけてね」
「うん、わかった!あかり、絶対みつけるね!」
「楽しみだなあ。よ~し、じゃあ張り切って隠すからね」
その一言を最後に、私は遠縁のおばさんの家に預けられてパパとママには会えなくなってしまった。ちょうどパパとママの仕事柄会うのが難しくなってきた時期で、それが最後の思い出となってしまった。
私は寂しかったけど、それ以上に楽しみでもあった。両親のくれた約束があるから、大きくなるのが楽しみだった。いつかまた会えるーーーーーーそんな予感を胸に抱いて。
――――――――だからといって。
「やっぱりやめときゃよかったなあ・・・・・」
中学1年生、13歳になった私は健気に鍵を探していた。そりゃあもう色々探しましたとも。家の引き出しの中、靴の中、友達の家のテーブル周りまでも、色々。でも、
「見つからない・・・・・・・・・・・・・・」
見つからない。そう、見つからないのだ。両親の約束通りならどこかに鍵があるはずなのだが、一向に見つからないまま依然時は過ぎていた。
「本当にあるのかなあ、鍵なんて」
最早疑心暗鬼になっていた。
「きっと見つかるよ、大丈夫!どこかにあるに違いないよ」
そういって慰めてくれるのは、中学に入ってからすっかり仲のいい友達になった、親友の前田咲ちゃんだ。下のほうできれいに2つに結んだグレーの髪に、うさぎを思わせるようなかわいらしい顔。純粋で明るい親友のことが、私は大好きだ。
ここ、遊戯国でのジュニアハイスクールに二人とも通っている。
本当にどこに鍵を隠したのやら、依然として見つからないまま、現在は親友に付き合ってもらいながら適当に鍵を探している。
「それはそうと、もうすぐ体育祭だね」
「そっか!そうだった!」
体育祭。運動がそこそこできる私は、いろんな部のひっぱりだこにあっていた。
「なんの競技に出ようか」
「私はやっぱり50m走がんばりたいなあ」
「あかりちゃん、リレーの選手に選ばれてたもんね」
私は体育祭が昔から嫌いではない。勝ち負けで色々な人と競うのは楽しかった。
「そんなこといって、本番でミスしてもしらねーぞ」
「なに、急に。そっちこそへましないでよ」
いきなり現れてちょっかいかけてきたのは、同じクラスの 片桐 夕陽だ。褐色の肌に黒髪で、ちょっと足が速いからって調子に乗っているが、いいやつだ。彼もまた、私の鍵探しを手伝ってくれている。
「私の予想によると、体育祭では鍵見つかりそうなんだけどなあ・・・」
「あかりちゃん、その心は?」
「ビッグイベントだから」
そう言うと、何それ、と二人は笑った。でも、学生にとってのビッグイベントなのだからその時期に見つかったってなにも不自然ではないだろう。ビッグイベントだし、主張したが、あまりにもアバウトすぎる理由に二人は笑ったままだった。私も本気で見つかるなんて思っていないが、やっぱりいつまでも見つからないのはちょっと寂しい。
「でも、本当に見つかるといいよな。あかりの念願だし」
「本当だよ~・・・」
さっさと見つけたいものだ。