日付不明
自分の眼球を移植し、移植した他人の周囲の皮膚が私の眼球に馴染んだら、また周囲の皮膚ごと自分に移植する計画の話。
私は目が悪かった。
そこは現実と相違ないらしい。夢の中くらい、視力4とかになってみたいものだ。
まぁ、どうにもならず目が悪いので、自身の眼球を目の良い他人に預けて、視力を矯正してもらうところだ。
この世界ではそんな治療が一般的だった。
我々の文明は高度に発達しているものの、誰も細かな知識に興味は無く、身体を良くする方法なんて見当もつかない。
それでも自己回復には気づけたから、そういう回りくどい治療が一般的らしかった。
この人間が、私たちの世界の人間とは違ったこともそれを一役買っていた。この世界の人間_便宜上、“我々”は、私含め個性的な見目をしていた。
特にソレが現れるのは、頭部だ。
“我々”の頭部は、1人は長く、1人は広く、また1人は、捻れたような形状をしていた。それによって顔のパーツが付いている位置もバラバラだ。
私は顔に、大きな出来物があった。一つ二つじゃない。幾つもあった。直径1cm程の突起物。鏡の中で自分と目が合うと、息が止まって出来物なんてどうでも良くなった。
私は驚くほど、綺麗な目をしていた。
私の治療を担当するという医師が、バインダーに紙を挟み、万年筆でガリガリと何か書いている。
こういう所は別に大差ない。“我々”は基本、なんでもどうでも良いのだ。困らなければ原始的なやり方だって変えるつもりはないから、皆当たり前に鏡を覗き、紙にインクで文字を書く。何も困らない、シンプルで最強な方法だったが、“我々”はそんなこと考えたこともない。
まだ一度も、困ってないからな。
医師は長い髭を持って、軍服のようなものを着ていたが、何故だか直感的に“裁判官だ”と思った。現代の私の知識が、そう思わせたらしかった。どこかのアニメに影響されたんだろ。現実世界じゃ、軍服の医師を見つける環境には無い。
医師はいい加減な見た目と態度をしていたが、私の目の下にあったらしい、金のラメなどの正体まで、きっちり探ってくれる。
鏡を見る。そこには他の人から見れば美しい私が立っていた。他の人から見たら美しい私は、自分からみると醜い。
顔の皮膚と頭部に立体的な花が咲き誇る、突然変異方の私。
特に左下の頬から顎にかけては醜い。見る角度によってはうす桃色のポップコーンみたいな凹凸がひしめいているんだから、気持ちが悪い。
この出来物を治す治療じゃないんだから、このままの顔に、私の美しい瞳だけがいなくなって、戻ってくるけれど。
私の感覚じゃ誰より美しい、この移植される緑がかった眼球は、この顔に戻ってきても良いのだろうか。