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2つの月を持つ平和な星の物語  作者: 雪女のため息
第1章 〜エレノアとルーカス〜
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第7話 姫と王子は前に進む

第一章  〜エレノアとルーカス〜 を読んでいただき、ありがとうございます。第一章は、今回で 完 となります。次回からは第二章が始まります。毎週、月、水、金の10:00に更新いたします。

 ふと気づくと私はアメリアのそばにいた。

 私の知っている部屋。

 

 目の前には口の周りにホットチョコレートをつけたアメリアがいた。月の姫君は私をこの時に戻してくださったのだ、と分かった。


「まあ、アメリア様ったら、チョコレートがついていますよ。」


 そう言ってナプキンでアメリアの口の周りをそっと拭う。

 

 にっこりと笑うアメリアはいつものアメリアだ。月の姫君はルーカスの望みを叶えてくださったのだと、嬉しくなった。


 変わらない生活が戻って来ているのだと感じる。戦いがなく、争い事で悲しむ人のいない生活。月の姫君の美しい姿を思い浮かべる。


 ドアをノックする音が聞こえて、執事のマイケルがそっと入ってきた。侍女長のエメリーが後から静かに入り、扉を閉める。


「先程カノヤンクに随行している者から連絡が入りました。予定通り、10時に旦那様と奥様が戻られます。」


「マイケル、ありがとう。」


 2人が頭を下げて退室しようとした時、私は2人に声をかけた。


「ねえ…。父君と母君が戻ったら、あなた達2人で休みを取って旅行にでも行ってね。」


 マイケルがエメリーの顔を見た。

 エメリーの顔が徐々に赤くなる。


「エレノア様、そ、それは…」

とマイケルが珍しく狼狽える。


 私は2人に、幸せになってね、と小さな声で言った。


 窓から見える月も元に戻っていた。輝く赤い月と青い月。月の姫君にありがとうと心の中で呟く。

 

 これからもこの穏やかな日々が続くように、この星に住む私達を見守っていてください。私は心からそう願った。


 

 私の立太式の日、式典の参加者の中にルーカスを見つけた。にっこりと笑うルーカスを見て、私も微笑み返した。少し頼りないけど、あの青い瞳はいつ見ても素敵だなと思った。


 ルーカスとは私が王太子になった後も交流が続いている。あの出来事を共有している2人だからこそ話せる事もたくさんある。大切なものを守っていこうと2人で話している。


 月の姫君には時々会いに行き、アレックスが呆れるほど2人は仲良くなった。

 

 月の姫君には色々な話しを聞いてもらっている。国の事、自衛軍の事、両親の事そしてルーカスの事、などなど。

 

 ルーカスはまだまだ情けない事が多い…と言ったら、月の姫君は珍しく大笑いをした。


ーよいではないか。エレノアはそんなルーカスが好きなんだろう?


 月の姫君に言われて、そうなのかなとちょっと思った。


 そういえば…と月の姫君に名前を聞いてみた。私に名前はない、と言ったので "セレーネ" と私が名づけた。月の姫君は大層気に入ってくださった。


 私とルーカスは相談してこの星全体で1年に1回、月の姫君に感謝する日を作った。その日は 'セレーネの日' と名前をつけた。そして、その日には皆、胸に黄色いリボンをつける事にしたが、なぜと誰も聞かないのでそのままにしている。その日は家族揃って、または近しい人とゆっくり過ごし、平和の大切さを考える日になっている。


 私とルーカスがこれから先どうなるのか、今はまだわからない。でも、2つの月を持つこの星で、幸せな毎日をこの先もずっと送る事ができるように願っている。 




*** *** ***




 ふと気づくと、俺は長椅子に座っていた。香水と酒の匂いが満ちた部屋。両脇に女が座って俺にべったりとくっついている。足元にも1人いる。


ーん〜!俺はここに戻りましたかぁ〜!

とちょっとガックリする。


 でも、仕方ない。今までの俺はこんな奴だった。

 女達を順番に見て、俺は言った。


「さぁ、皆行くよ。」

「まぁ、どこに行きますの?」

「お待ちになって。」

「ルーカスさまぁ〜。」


 女達の肩に腕を乗せ、俺は歩き始める。なぜか途中で女の数がどんどん増えていく。


ーうん、俺はモテ男だったんだな。

と自分で自分に苦笑する。途中でマックスを見かけたが、ヤツはひどくニヤけていた。


 カノヤンクの入り口で女達に俺は言った。


「さあ、子うさぎちゃん達、お家にお帰り。さよなら。今まで、ありがとうね。」


 そう言って1人1人のおでこにキスをする。今までの暮らしにさよならをするために。正直に言うと、ほんの少しだけ…。でもそんな気持ちは捨て去る!


 呆然とする女達をそのままに、俺は親父殿と母上の所に向かった。2人は控室で寛いでいるところだった。びっくりしている2人の前に片膝を付き俺は頭を垂れた。


「父君、母君。ルーカス只今参上致しました。遅くなり申し訳ございません。」


 いつのまにかマックスが俺の斜め後ろに控えていた。


「いやいやいや〜。ひっさしぶりだねえ、ルーカスくん!顔あげていいよぉ。」


 父はにこやかに俺に笑いかけて言った。


「元気だったんだね〜。うん、よかった、よかった! 

 マックス、色々とありがとうね。」


 俺はええっと思った。


ー何がどうなってるんだ?


 でも、すぐにそんな事はもう大した事ではないな、と思い直した。俺は変わりたいと思ってるのだから。


 カノヤンクが終わる時間になっても黒い影は現れず、平和な時間が過ぎて行った。


ーああ、本当に元に戻ったんだな。


 しみじみと空を見上げる。そこには輝く赤い月と青い月。この星を守ってくれる2つの月が輝いていた。俺の側にはマックスがいる。俺はマックスを見て言った。


「俺をまた1から鍛え直してもらえるかな?」

「ふん!そのやる気は続くのか?」

「頑張ろうと思っている。いや、違うな…。俺はやる。決めたんだ。エレノアに相応しい男になるためにね。」


「道は遠いぞ。」

「うん。知ってる。ヘタレな俺だけど、よろしくお願いします。」


 俺はペコリと頭を下げた。

 すると、マックスは…


「お前にまだ見せていなかったな…」


と言って上着を脱ぎ左胸を出した。


 ゆっくりと片膝をたてて目を閉じると、マックスの胸に青い大陸アズールの騎士の紋章が浮かび上がった。


「マ…マックス〜ぅ!」

 俺はなんだか胸がいっぱいになって泣きそうになってしまった。


 それからマックスは俺の従者として俺の側にいつもいるようになった。


 でも、まぁ、俺に対して尊大な態度を取るのと俺の扱いがぞんざいなのは、ちっとも変わらなかった事はつけ加えておきたい。


 しばらくして、エレノアの立太式の日が来て、俺は久々に彼女に会った。エレノアは俺を見てすぐに微笑んでくれた。


ーうん、覚えていてくれてるね。ありがとう。


 俺も笑顔でエレノアを見守った。そして、心の中でエレノアに言った。


ー待っててください。俺のエレノア!

 俺、頼れる男になるから!




 そんなある日、俺はマックスにちょっと聞いてみた。

「なあ、マックス。なんでアレックスはあんなにエレノアに優しいのに、お前は俺に優しくないんだよ?」


 すると、マックスは驚くような事をさらりと言った。

「あぁ、アレックスは女に弱いからな。だからエレノアにも優しいんだな」


ーん?


「あいつが赤い大陸スカーレットでとっ捕まったのも、女がらみ。」


ーん?ん?


「エレノアの母君ゾーイだよ。ゾーイに捕まったんだ。」


ーん?ん?ん??


「笑えるだろ?

 ゾーイに惚れたんだな…いや、ゾーイに惚れられたのか?今でもアレックスはゾーイを護ってるよ。」


「…………」


「ま、誰にも本当の事は分からんけどな。

 ちなみに…。セオドラ王も若い頃は腰抜け野郎でヘタレだったんだ。でも、そこがよかったんだろうなぁ。ゾーイはセオドラ王にぞっこんだったよ。」


「!」


「だから、お前にもチャンスがあるかもしれんな。希望は持ち続けろ!腰抜けのヘタレ野郎!」


ーえ〜っ!


「じゃぁ、じゃあ、マックスお前はなんで俺の父君に捕まったの?」


 マックスはちょっと顔を逸らして言った。


「女がらみ…ではない。俺には妻も子供達もいるしな。」


ーえ〜っ!既婚者…なの?


「…ちなみに…子供は何人?」

「5人プラス1だ。もうすぐ1番上がお前の親衛隊に入る。優秀な子供達だから、順番に親衛隊入りだ。覚悟しろ。」


ーげっ!


「お前の親父はああ見えて、すごい奴だ。

 敬えよ、ルーカス!」

「うん、なんとなく分かってるよ。なんとなくだけどね。」




 俺は少しずつでもいいから前に進もうと決めた。


 いつか、エレノアに認めてもらえるように。

 そして、いつかエレノアに受け入れてもらえるように。

 いつの日にか、エレノアと幸せになるために。


 そして、新しい伝説を作りたい


ー赤い大陸の姫と青い大陸の王子が結ばれる時、この星に永遠の幸せが訪れる


 俺、頑張る!



      第一章 完

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