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2つの月を持つ平和な星の物語  作者: 雪女のため息
第1章 〜エレノアとルーカス〜
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第4話 王子は怯える

 俺、青い大陸アズールの王子、ルーカスはいつもあいつには勝てなかった。そして、今も勝てない。


 最初に出会ったのは、俺が子供だった頃。あいつは俺の前に突然現れ、けっ!と言った。


「けっ!」


 ただ一言。そして俺に触れる事もなく、俺をぶっ飛ばした。年も変わらない様子なのに、なんという奴だ、と思った。


 その次に会った時は、ふんっ!と言った。


「ふんっ!」


 そしてまた、俺に触れる事もなく、俺をボコボコにした。


 そして3回目に会った時は


「ヘタレ!」


と言って鼻先で笑われた。全力で向かって行ったがあえなく撃沈した。

 

 そんな邂逅を繰り返した。あいつは何者なのか、さっぱり分からなかった。やられてばかりは悔しかったが一度も勝てなかった。俺には無理、勝てっこない。あいつは化け物だ。いつの間にかそう思っていた。


 何年か経った頃、あいつが俺に言った。

「そろそろ俺が鍛えてやる。毎日ここに来い。誰にも言うな。俺とお前だけだ。」

 無視するのも悔しいから、毎日あいつに会いに行った。


 あいつは、俺の魔力はもっと大きく、強くなると言った。かなり貧弱な俺の魔力をあいつは鍛えてやるという。

 そのおかげで魔力は少しづつ強くなっていった。だが、まだ気持ちがお子ちゃまの俺はその力を悪戯に使った。

 でも、それがあいつにバレた時は恐ろしかった。俺は二度と立ち上がれないかと思うほどぶちのめされた。


「お前にやられた相手の気持ちを思い知れ!お前のやった事はそのままお前の身に戻ってくるんだという事を忘れるな。」

「根性があるなら、やり返してみろ!」


 …やり返せなかった。


 あいつは俺と変わらない歳にしか見えないのに、いつも俺に上から目線。怖かった。

 ある日、あいつが初めて名を名乗った。


 マックス


 それがあいつの名だった。

 あいつは俺に言った。


「お前を鍛えるのは今日で終わりだ。これからは王太子としての責務に励め。ヘタレ野郎!」

 それは俺が青い大陸アズールの王太子になる日だった。

 俺はマックスに俺の従者になれと言ったが、あいつは鼻でせせら笑った。片腹痛い、と。


「忘れるな、いつでもお前の事を見ている。お前のやる事を見ている。俺の仕事はこれで終わりだ!」


 そう言って、マックスは俺の前から姿を消した。


 


 王太子になった俺は女にモテた。この青色の瞳は女達を惑わした。金はある。地位もある。見た目もいい。俺が微笑めば女は簡単に落ちた。


ーチョロいな。


 俺は女とうつつを抜かして日々を過ごしていた。

 平和ボケしている親父殿と母上は、こんな俺の事を気づきもしないのだろう。何も言わなかった。


 マックスと最後に会ってから数年後、その出来事が起きた。この星の王族の集まりカノヤンクの日だった。

 カノヤンクにはこの星の美しい女達も集まる。俺はいつもの様に香水と酒の匂いに満ちた部屋で女達に囲まれていた。


「ルーカス様、今宵は私と!」

「まぁ、私ですわよ。ねぇ、ルーカス様。」

「別に2人いっぺんにでも構わんけど?どうする?」


 長椅子に腰掛け、2人の肩に腕を回し、俺自慢の笑顔を2人に向ける。膝にもたれかかり、もう1人の女が俺を潤んだ眼で見上げている。


 そんな時、窓の外で見知らぬ女が俺を誘う様に振り返りながら歩くのを見た。なぜか俺はまとわりつく女達を振り払い、ふらふらと部屋を出て後をつけた。美しい女だった。

「おい。待て。どこへ行く。」

という俺の声にその女は振り返りながら言った。

「ヘタレに声を掛けられるとはな…」

それは魔力で姿を変えたマックスだった。


「お前という奴は…!こんな姿でなければお前に会えやしない。なさけない!」


 いつもの姿に戻り恐ろしい表情をしていたマックスだったが、意外にも俺をまっすぐ見て言った。

「お前に知らせがあってやってきた。時間がない。この星に黒い影が迫っている。」

 そう言われて辺りを見回すと、確かに黒い何かが遠くから迫っているのを感じる。


「いいか、よく見ておくんだ。」

そう言ってマックスは俺達に結界をはった。黒い影は俺たちの上を通り過ぎて、カノヤンクの会場へと向かっていった。


 王族達は魔力があるはずなのに、誰も抵抗できないのか、黒い影はカノヤンクの会場を飲み込んで行った。参加している人々もそのまま飲み込まれて行った。あっという間だった。


 後には何も無い、ただ大地があるだけだった。


「ひぃっ!」

 

 これは無理だ。何か出来るとはとても思えない。

 そんな顔をして震えながらマックスを見た。

 マックスはそんな俺を細い目で見て言った。

「お前という奴はっ!…うさぎにでもなってろ!この腑抜け野郎!」


 俺は本当にうさぎになってしまった。


 うさぎになった俺は魔力でマックスにどこかに連れてこられたようだ。


ーおい…マックス。ここはどこなんだよ!


マックスはいない。


ーマックス、出て来やがれっ!


 うさぎの声は届くわけがない。仕方ないので、辺りを彷徨いてみた。どうやらここは赤い大陸スカーレットの城の様だった。皆、慌ただしく城の中を行き交っている。


 ぴょんぴょんとしているうちに、ある部屋に来ていた。部屋の中には若い男が1人、窓辺に座り二つの月を見ていた。ちょっと寂しげな感じだったので、近づいてみる。

 すると、男は何を勘違いしたか俺をを抱き上げ、妹や親の事、自分の魔力の事などを俺に話しかけてくる。

 そんな事、俺には関係ないと思って、鼻をひくつかせておいた。他に感情表現の方法を知らないから仕方ない。


 なんだか頭を撫でられて、すっかり癒し系になってる俺。

 

ー頼むから、頭は撫でないでくれっ!

 野郎にはやられたくない!!

と思うが鼻をひくつかせる事しかできない。

 その上、お礼とか言って俺の首に黄色っぽいリボンなんか巻いてるし!俺にリボンは似合わねぇだろ!


 男に部屋を追い出された俺は。やれやれと言う気持ちで城の中をウロウロした。頑張ってみたがリボンは外せなかった。

 探索の結果、黒い影がここにも押し寄せようとしている事がわかった。これは大変だ!と思うが、うさぎの俺には何も出来ないし、まぁ、恐ろしいことには近づかない方が賢明という物だろう。


 ふ、と考える。俺はどれくらいの魔力が使えるのだろう。いざという時に逃げるための魔力は必要だ!

 だが、なんと!魔力もうさぎサイズになっていた。短い時間なら姿を隠すくらいはできる…かも…な、くらいの微々たる魔力。打ちひしがれた。


 試しに姿を隠したり現れたりしながら城の中を歩いていると、またあの若い男の部屋についた。男は窓辺に腰掛け、うつらうつらとしていた。


 名前ぐらいは聞いておいてやろうか、と鼻をひくひくさせながら近づいた。

 名前は?と聞くと、男は夢うつつ状態で


エレノア


と答えた。 ん?女…の子?びっくりして言わなくてもいいのに、焦って俺も名前を言っていた。


ルーカス…と。


 まずい事言っちまったと慌てて姿を消すと、自衛軍の服を着たエメリーとかいう奴が入ってきて驚く事を言った。

 俺の国アズールがあの黒い影に侵略されているらしい。カノヤンクの会場が何もない荒野になってしまったのを思い出して身震いする。


 俺の国と俺はどうなるんだろう。

 そう言えば…俺の親父もお袋もカノヤンクに居たんだ!もう、2人ともダメかな。これから俺が国王になるのかな?いやいや、うさぎじゃダメだろ。


 こんな緊迫してる状況なのに、変な事に気がついて落ち込んだ。そして、今頃までこんな事も気がつかなかったなんてとさらに落ち込んだ。


 俺が落ち込んでる間に、エレノアと名乗った奴は白銀の鎧兜、剣に盾まで持ってやる気満々な姿になっていた。しかも、あの黒い影からこの星を守ると月の姫君に誓っている。


ーおい、待て。あれは無理だ。やめておけ!


「本気?本気であれと戦うつもりなの?

 …勝てるとでも思ってるの?」

 知らず知らずに俺は呟いていた。


 これは止めなければ…とエレノアに近づこうとした時、エレノアが本陣に飛んだ。おかげで姿を消していた俺まで巻き添えを食って本陣に来てしまった。

 なぜこうなるんだろう。うさぎなんで頭は抱えられなくて、代わりに鼻をひくつかせた。

 

 エレノア、男の時はノアというらしい、に巻き込まれて着いた赤い大陸スカーレットの本陣は、敗北感いっぱいで暗かった。1人、また1人と本陣から人が前線へと出動して行く。


ーがんばるよなぁ…。でも頑張っても無理だと思うんだけど…。


 マイケルとか言う本気モードの男もエメリーを泣かせる様な事を言って出動して行った。


ー最後にキスしてやれよ。男なんだから!


 などと能天気に見ていると、いきなり黒い影がそばに来ていたので、びっくりして飛び上がってしまった。


 我ながら、ビビりすぎる…。


 その上、エメリーが急に黒い影に攻撃をしたので、巻き添えを食って腰を抜かした。


 我ながら、恥ずかしすぎる…。


 次の瞬間、俺とノアはエメリーにどこかに飛ばされた。


ーえ〜っ!なんだよ!またかよ〜!




*** *** ***




 どこだか知らないが、飛んだ先でノアが女に戻った。


 びっくりしたというか、呆然としたというか。


 いやいやいや…ノア、もといエレノアは美しい女だった。しかも、とびきりのいい女。キリッとした口元、真っ直ぐ前を見つめる大きな眼、淡い栗色の髪、細い腰…俺の理想そのもの、の女だった。


 俺のど真ん中!

 ひとめ惚れ…!!


 俺はエレノアの足元にくっつく様にしてぴょんぴょんと歩いた。一応、護衛のつもり…ではある。

 心配するな、俺が守ってやる…って言えないのが切ない。


 ここは誰かの屋敷の様ではあるが、人は誰もいないみたいだ。しん、と静まり返った中をエレノアの足音だけが響いている。

 

 すると、爺さんが走ってやってきた。


ーん?この爺さんは怪しい。邪悪な匂いがする!

 この邪悪な匂い、知ってるぞ!


 でもエレノアは爺さんに抱きつき微笑んでいる。爺さんはアレックスというらしく、エレノアの無事を喜んでいる。

 爺さんが飲み物を取りに行くというので後をつける。


ーこんな爺さんに俺のエレノアを任せられるか!


 変な事をしたら俺が噛み付いてやる、ぐらいの勢いでぴょんぴょんする。

 キッチンに入った爺さんをじっと見ていると、チョコレートを砕き、バターと砂糖を加えて、ミルクを入れた鍋で温め始めた。


ー爺さん、こういう時は酒だろう!


 すると、爺さんがニヤリと笑って俺を見た。


 げっ!なんだよ。見るんじゃねぇと睨むと、ほれ、お前にはこれだ、と人参を出された。


ー舐めんなよ!俺は人参なんて食わねえよ!


 でも腹が減ってたから、雑多な事は気にせず、人参をポリッと食べた。なんか、俺、恥ずかしい…。

 しょんぼりとしていると、エレノアの絶叫が聞こえた。


ーどうした!エレノア!俺が行くから待ってろ!


 俺は猛ダッシュでピョンピョンし、さっきの部屋に爺さんより先に戻った。そこには真っ青な顔をしたエレノアが倒れていた。


ーなんだよ。何があったんだ、エレノア!


 焦っても俺には何もできない。俺の代わりに爺さんがエレノアをそっとベッドに寝かせた。俺はせめてもの思いを込めてベッドの足元に座り、その美しい顔を見つめた。

 

 エレノアが目を覚ますと爺さんは飲み物を取りに行ったが、さっきのホットチョコレートなら問題はあるまい。


 しばらくの間、俺はエレノアに抱きすくめられ、幸せなひと時を過ごした。


 ホットチョコレートを持って来た爺さんとエレノアがなんだか真剣に話していると、おれの心臓が激しく打ち始めるた。


 どっくん、どっくん…。それと同時に、つらい、しんどい、悲しい、泣きそう…みたいな感情が俺の中に入り込もうとする。胸が苦しい。


ーなんだ?これは…?誰か他のやつの心?なんでそんなもんが?


 でもそれは、一気に強まり、エレノアに向かっている様に感じる。エレノアが危ない!エレノアが取り込まれる!


ーなんだか分からんが、こんな変なモノに俺のエレノアが襲われるなど許せねぇ!俺が守る。俺がお前を…!


ーあっ!あああぁ〜っ!

 お、おれ、うさぎだ。こんな肝心な時に白兎だ。

 なんとも残念な俺。

 

 マックスを呆れさせてうさぎになった俺。


 マックスは怖かったけど、色々教えようとしてくれた。

 マックスにもっといろんな事を習とけばよかった。

 もっと真面目にしとけばよかった。


 そしたら今、俺に任せろエレノア…的な事を言えるのに。

 

 カノヤンクが黒い影に襲われた時にも '父上、母上、ご心配なさるな' とか言って、2人をかっこよく助けられたのに…。


 青い大陸アズールに黒い影が来る事だって止められたかもしれないのに。


 マックスに呆れられる様な情けない俺。

 俺はダメダメなヘタレで腰抜けだったんだ。悲しい。

 今頃気がついても遅いけど…

 すると何かの気配が俺に近づいて来た。


「おまえ、やっと目覚めて来たのだな。」


 アレックス爺さんと同じ邪悪な匂いが漂い、うっすらと形を現す。


ーマ、マックス!てめえ、俺をうさぎ…


「待て、本当に時間がない。お前を元に戻す。いいか、今の気持ちを忘れるな。お前はやればできる子だ!」


「ルーカス、飛べ!」

「へっ?」


 俺は白兎から元の姿に戻りながら、エレノアと共にどこかに飛ばされた。なんか、目の端っこに黒い奴がいて、アレックス爺さんからアレックスおっさんになった奴がすっ飛ばされていた。


 そんな最中に俺はエレノアと共にどこかに飛ばされた。

 今日はずっと跳んでばかりで忙しい。

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