第8話 レイナとユピル
レイナが '自分が女王レイナである' と目覚めた時、共に私も目覚めた。何千年もの時を超え、その感覚は私に戻って来た。
太古の時代に、私は女王レイナを守る5人の守護の1人ユピルだった。他の4人の守護をまとめ、レイナを守り続けた。
なぜ私が守護になったのかはわからなかった。気がついた時には私はそこに存在し、レイナを魔王から守っていた。
私が存在し始めた頃は、この星の秩序も混沌としていた。人は存在しはじめていたが、まだ文明などは発達しておらず、原始のままだった。
私が存在してしばらく経った時、火を操るマルスが現れた。マルスは女王レイナと私に忠誠を誓い、共に魔王と戦うと言った。そして、水を操るメルク、空を操るウラヌ、海を操るネプトが現れ、マルスと同じ様に女王レイナと私に忠誠を誓い、魔王と戦うと言った。
でも私と同様に、なぜ自分が存在しているのかは誰もわからなかった。
女王レイナの意思から生まれたのか、元々この星に存在していたのか…。とにかく、私達はこの星を守るために戦う女王レイナの5人の守護だった。それ以外はわからなかった。
そして、何百年もの間女王レイナを守り、魔王エルセ、案内人ハデスと戦った。
女王レイナは勇猛果敢な女王だった。ありとあらゆる魔力を使い、魔王の案内人と言われたハデスと戦った。傷つき、汚れても、ただ前だけを見つめていた。
作戦を練り、私達に的確な指示を出し、あともう少しでハデスを滅する事が出来ると言う時に、それは起きた。
この星に文明と言えるものが生まれ、大きく発達しようとした頃、ハデスの偽言を信じた人々が女王レイナに襲いかかったのだ。
ー女王レイナはこの星を滅ぼす。生かしておくな!
最後には満身創痍の女王レイナと俺達5人の守護は、魔王エルセに捕えられてしまった。
魔王エルセが女王レイナに言った。
ーお前の持つ再生の力をわしによこせ。そうすれば、お前達を解放してやる。
いやだ、と言う女王レイナの目の前で、1人また1人と守護達が魔王に喰われていった。
次は私の番、という時に女王レイナは涙を見せた。
ーやめて…やめてください。ユピルは殺さないで。お願いだから…殺さないで。
代わりに、私の再生の魔力をあなたに渡します。
私の血を飲めば、あなたにその力が移る。
女王レイナはそういって、自らの血を魔王エルセとハデスに差し出した。
しかし、魔王エルセが高笑いと共にその血を飲み干した時、異変が起きた。魔王エルセは喉を掻きむしり、赤い目を剥き出しにして女王レイナを睨みつけた。そして、体が崩れ溶け出し、跡形もなくなった。そこには意識だけが残った。
ハデスは口にした女王レイナの血を飲み込まず吐き出し、地に転がり苦しんでいた。
女王レイナは最後の力を振り絞り、魔王エルセに言った。
ー私のもう一つの力、破壊の魔力…破滅の力。知らなかったのか?
お前達はもう、元には戻れない。
今だ!ユピル!
魔王エルセとハデスを地中深くに閉じ込めよ。2度と出て来れない様に、私の血をその地に振りかけるんだ。
急げ、ユピル!
私は女王レイナの指示に従い、2人をこの星の奥深く、何もない空間に閉じ込めた。そして、女王レイナの血をその地に振りかけた。
女王レイナは動けなくなっていた。私は女王レイナを抱きしめた。
最後の力を振り絞り、女王レイナが私に語りかけた。
ーあなたを作り出したのは私。私は誰かにそばにいて欲しかった。そう、私の心があなたを作り出した。あなたは私そのもの。これからもずっと一緒にいたかった。
そして、マルス達を作り出したのはあなた。共に戦う仲間を作り出してくれた。私を守るために…。
ユピル…今までありがとう。どうか、私の最後を見届けてほしい。
そう言って、私の腕の中で女王レイナは息を引き取った。
それから先は何も覚えていない。多分、私は女王レイナと共に消えてしまったのだと思う。
そして、長い年月が流れた。
レイナは女王レイナとして覚醒し、私達の魂は蘇った。
*** *** ***
女王レイナと私は時空を移動して、小さい頃にレイナの住んでいた屋敷に着いた。女王レイナの父親と母親が幼児のレイナを背後に庇い、白いハデスと向き合っている。
「お前に再生の魔力が本当にある証拠を見せろ。」
そう言ってハデスがレイナの母親の胸を刺した。レイナの母親は自分の胸に手を当て、掌に付いた血を見ている。
「そんな事をしなくても、私には再生の力があると言っているだろう!」
レイナの父親が手をかざすと掌から淡い光が溢れでて、レイナの母親の傷を治した。ハデスは母親の衣服を剥ぎ取り、傷が治っているのを見て、ニタリと笑った。
「よかろう。お前の妻と娘は助けてやる。お前は私と共に来い!私のご主人様、魔王エルセ様の元に行くのだ!」
再生魔力を手に入れたと思ったハデスは、一瞬気が緩んだ。ハデスが女王レイナに気づいた時にはハデスは結界の中にいた。女王レイナはゆっくりと屋敷全体に結界を張っていたのだ。
「なんでお前がここに!」
「今度こそ、お前を永久に葬るためだ。ハデス、終わりにしよう。人の命を無駄にするな。」
高笑いしたハデスはナイフで女王レイナの父親の胸を刺して、言った。
「ほら、お前の父親が死ぬぞ!
どうする?再生魔力を使うか?
残念ながら、俺は知ってるよ。再生魔力も破壊魔力も強すぎて結界の中では使えない。全部自分に跳ね返ってくるからな。再生魔力を無駄に浴びるとお前は動けなくなるはずだ。
諦めて結界を解き俺と共に、太古の昔にお前が封じ込めた俺のご主人様の元へ行くのだ。
そうすれば、再生魔力でお前の親も助けられるぞ。」
そう言ってレイナの母親も刺した。
レイナの父親が静かな声で言った。
「お前は大きくなったレイナか?
ならばよく聞け。私もお前の母親もお前を守るためにここにいる。私達の事は案ずるな。
この狂ったハデスとそのご主人様とやらを叩きのめしに太古の世に行け。大丈夫だ。私を信じて時空を飛べ。急ぐんだ。」
女王レイナは大きく息をして、行きます!と叫び、私を連れて時空を飛んだ。
2人が着いたのは太古の世界。大地にまだ女王レイナの血の跡が残っていた。
女王レイナが私に言った。
「大地に潜って、案内人ハデスを滅し、魔王エルセの意識を完全に葬る。大地の中は魔力が使えない。だが、私がお前に力をわける。臆するな。」
大地の底に着いた先にいたのは、女王レイナの破壊魔力の血を口に含み、のたうち回るハデスだった。
女王レイナは躊躇せず私に言った。
「滅せよ!」
私は持てる力の全てを雷にして、ハデスに落とした。ハデスは跡形もなく消え去った。
魔王エルセの意識は漂っていたが、女王レイナが葬り去った。
「ユピル、屋敷に戻る。」
女王レイナは私を連れて時空を飛びながら言った。
「ユピル、戻った世界の私達2人は、どうなっているのだろう…。」
*** *** ***
戻った屋敷では女王レイナの父親と母親が息絶えていた。真っ白な男の姿は跡形もなく消えていて、小さなレイナは母親が亡くなっていることもわからず、その腕に抱かれながら泣いていた。
女王レイナは再生魔力を発動しようとしたが、力が足りなかった。魔王エルセを葬り去る時に、力を使い果たしてしまったのかもしれない。それとも、魔王エルセとハデスを滅した事で、何かが変わったのかもしれない。
女王レイナは父親と母親の亡骸に縋って泣いた。
父上…ごめんなさい。
母上…無力な私をお許しください。
暫くして女王レイナは私に言った。
「ユピル、元の世界に戻ろう!」
女王レイナはそう言ったが、もう時空を飛ぶ事も出来なくなっていた。私の目には女王レイナの体が少しづつ透け始めている様に見えた。
「レイナ!体が…」
女王レイナは自分の透き通っていく掌を見てから、私の顔を見た。
「終わりが来た。ユピルともお別れなのだと思う。やはり、ずっと一緒にいることは出来なかった。ただ、そばにいたいだけなのに…」
女王レイナは目に涙を溜めていた。私は透き通って消えようとする女王レイナを抱きしめた。
そこに1人の女が現れた。
その姿は透き通っていて、揺らめいて見えた。
白い肌、黒い髪、薄く紅を乗せた様な唇。とても美しい女だった。
女は女王レイナに跪き言った。
「私はこの星の月の姫。
この星を助けてくださり、ありがとうございました。
お礼に女王レイナ様と守護ユピル殿の願いを叶えたいと思います。
時間がありません。願いを1つづつ…。」
「元の世界に戻って普通の娘として生きていきたい。」
女が私を見た。
「2人の、この記憶が消えないようにして欲しい。レイナとまた会った時に、覚えていたいから。」
女は首を垂れ、承りました、と言った。
「私からの贈り物として、お二人をあの日に…。全てをあの日に戻します。」
女王レイナがゆっくりと姿を消したのを、私は見送った。そして、私も意識がなくなった。
この星の時間がその時止まり、ゆっくりと巻き戻り始めた。
*** *** ***
気づくと私は自分の家にいた。私の周りを幼い弟達が走り回っている。
ウラヌとネプトは3才になる前ぐらいだろうか?マルスとメルクはウラヌとネプトを追いかけて遊んでやっているらしく、私の脚に掴まって、4人で笑っている。
父上の声がする。
「おいおい!今日、俺はメグとこども園 'シリウス' に行くんだ。お前達はどうする?ユピルと留守番するのかい?」
「留守番がいい!兄上と遊んでる。」
とメルクが言い、マルスはどうする兄上と言う顔で私を見ている。
「父上、今日は何をしに 'シリウス' に行くのでしょうか?特別な御用でも?」
と聞いた私に、父上はにっこりと笑った。
「レイナという名前の女の子がやって来るんだ。そのお迎えだよ。」
私の心臓が 'とくん' と大きく打った。
ーそうか、あの美しい女性は、私とレイナをあの日に、と言っていた。
「父上、私は一緒に参ります。お前達も来るんだ。ちゃんとお迎えしてあげよう。」
私の言葉に弟達は素直に従った。私達は共に 'シリウス' へと飛んだ。
園長に抱っこされたレイナが 'シリウス' の門をくぐった時、青空には昼でも輝く赤い月と青い月がぽっかりと浮かんで、レイナを歓迎しているかのようだった。
とてもいいお天気で、吹く風が心地よい春の日だった。色とりどりの花が咲き乱れて甘い花の香りが漂い、梨の花は満開で、風に花びらがひらひらと舞っていた。
レイナは舞う花びらに気づくと取ろうと手を伸ばしていたが、私を見つけると抱っこしてとでも言う様に、両手を私の方に伸ばして笑った。
私がレイナを抱っこすると、レイナは私の首にしがみついた。そして、私にだけ聞こえる声で言った。
「ユピル…あえた…」
弟達はレイナの顔を覗き込み、可愛いと言って目が離せなくなっていた。弟達は触ったり、抱っこしたりしたがったが、私はキッパリと言った。
「レイナは私が抱っこしていよう。お前達では、落とすといけない…。私と結婚する大事なレイナだからね。」
ええぇっ!という弟達と父上、母上に私は笑って言った。
「私とレイナが結婚するのは決まっていること。
誰にも変えられない。
だから、マルス、メルク、ウラヌ、ネプト!
お前達、私のレイナに…触るなよ!」
私がレイナの背中をトントンとしながら歩いていると、レイナは私の胸に顔を当て、スースーと寝息を立てて眠ってしまった。
そっと顔を見ると、レイナは寝ながら微笑んでいた。真っ白な頬にくりくりとした金色の髪がかかり、幸せそうな規則正しい寝息を立てているレイナは、まるで天使の様だった。
私は幸せで胸が一杯になった。
あの時、私と女王レイナの願いを叶えてくださったこの星の月の姫に、私は心からありがとうと感謝した。
昼でも輝く赤い月と青い月が私達2人を照らしている。その光は、まるで私達2人を祝福しているように私には思えた。




