第7話 スカーレットとアズール
赤い大陸スカーレットに現れた一直線の亀裂が大きくなった。中から低い笑い声が聞こえる。それは不気味にあたりに響いていた。
城の真上には白い雲が掛かり、少しずつ城を覆い始めた。そしてあっという間に雲は黒雲へと変わり、城を飲み込んでいこうとする。
雲の中では白づくめの男ハデスの声が響いていた。
「皆さん、すみませんね。
私は一人ではないのですよ。長い時間を掛けてこの身を分裂させましてね。何千人もの私になりました。
私の魔力はそのままで、私がいっぱいいるのですよ。
これから赤い大陸スカーレット中に私は飛んでいきます。
黒雲に覆われた、暗黒の世界へ皆様をご招待します!ご主人様をお迎えする準備をしてくださいね。」
声が終わるや否や、赤い大陸スカーレットは闇に包まれ始めた。
闇の中では、魔力を持つ者たちが魔力の発動すら出来ず、呆然と立ち尽くした。王妃ゾーイもセオドラ国王もエレノア王太子も…エメリーとマイケルも何もできなかった。
やがて、闇の中に白づくめの男が浮かび上がった。男は腕を広げて皆に笑いかける。
「ようこそ、暗黒の世界に。さぁ、皆で魔王エルセ様を迎えましょう!」
アレックスとウラヌ、ネプトはそんな時に赤い大陸スカーレットに戻った。
「ウラヌ、城を光で照らせ!俺は闇の切れ目から国王と王妃を城から出し、ハデスに攻撃を仕掛ける。ネプトは海水を街に溢れさせ、倒れているハデスを海に押し流せ。人々は自衛軍が結界の中に集めるように手配する。行こう!」
天空へと舞い上がったウラヌは執拗なハデスの攻撃を受けた。閃光をハデスに当てて倒しても、次から次へと新しいハデスが現れる。
かろうじて城に光を当ると黒雲が途切れ、そこからアレックスが城に入り込むのが見えた。
城に入ったアレックスはエメリー親衛隊副隊長に、エレノア王太子殿下を守り抜け、と指示を出した。
私も戦うというエレノアに
「あなたにはこの国の再建を任せねばならない。城の中で待機して欲しい。」
とアレックスは言った。
そして片膝をつけ、右手を左胸に当ててセオドラ国王陛下、王妃ゾーイ殿を見た。
「お二人の力を存分に発揮する時が来ました。ハデスをたおし、赤い大陸スカーレットに再び光を!」
セオドラ国王はゆるりと立ち上がり、ゾーイの手を取り立ち上がらせた。
「ヘタレだった俺に、こんな日が来るとはな!
ハデスだか、なんだか知らんが赤い大陸スカーレットの力、見せてやろう。」
「セオドラ様、お供いたします。
エレノア、何かの時には…わかっていますね?」
エレノアは2人の前に片膝で跪き、頭を垂れた。
「お任せください。アメリアも、私が守り抜きます。
お二人に月の姫君のご加護が在らんことを!
アレックス、父上と母上を頼んだ。」
赤い大陸スカーレットで、特に強い魔力を持つ3人が城を照らす光の中から天空に現れた。
天空ではウラヌがハデスの攻撃で傷き、力尽きようとしていた。アレックスはウラヌをかすかに残る光の道から、城へと飛ばした。アレックスはウラヌに代わり光を照らし、ハデスに当て続けた。
国王セオドラは襲いかかる何十人ものハデスに稲妻で攻撃し、海水で溢れる地上に落とす事を繰り返していた。
地上ではネプトが雨粒の様に落ちてくるハデスを海に流し、海流を起こして海底深くに沈めていた。
国王セオドラの後ろには王妃ゾーイ殿がいて、セオドラ国王の背後を守っていたが、痺れを切らしたハデスは何十人もの塊になって国王セオドラに襲い掛かった。それに気づいた王妃ゾーイがセオドラ国王の前に出て庇い、まともに攻撃を喰らった。
セオドラ国王は塊になったハデスに取り込まれ、そのまま姿が消えた。
アレックスは王妃ゾーイの元に飛び抱きしめた。
「セオドラ様と私に代わって人々を守って…。」
王妃ゾーイは息絶えた。アレックスは怒りに震え、ハデスを睨め付けた。
「このやろう!これでも喰らえ!」
アレックスの怒りが空を覆い尽くすような稲妻になりハデスに襲いかかった時、ハデスの放つ暗黒の力がアレックスを包み込み消えた。
それでもハデスは次から次へと現れ、赤い大陸スカーレットを襲った。
ネプトは力尽き、海に沈んでいった。
エレノア王太子とエメリーは暗黒につつまれた城の中で息絶えた。
マイケル達は赤い大陸スカーレットに張り巡らせた結界を守ろうとしたが、結界は破壊されて騎士達は消えた。
赤い大陸スカーレットは暗黒に包まれ、ハデスの高笑いが響き渡った。
「お前らに何ができる!…ご主人様と…私に…かなう…も…の…な……ど……どどど
突然、時間が止まった。
そして、ゆっくりと時間が遡っていった。
*** *** ***
青い大陸アズールの城で、マックスは国王ゴードン陛下、王妃ライラ殿、ウォルター、メグに言った。
「ハデスはもうすぐここを襲うでしょう。ウォルター、ゴードン陛下とライラ殿を頼む。メグ、息子達は全員女王レイナ殿と戦いに出る。辛いだろうが、覚悟はしてほしい。
では、ルーカス王太子殿下、参りますぞ。」
ルーカス王太子はゴードン国王と王妃ライラに片膝で跪き、言った。
「父上、母上、お任せください。
ルーカス、この身に換えてもこの国と人々を守り抜きます。父上と母上、ウォルター、そしてメグに月の姫君のご加護が在らんことを!
マックス、行くぞ!」
ゴードン国王が小さな涙声で言った。
「ルーカスくん、ごめんね。
ぼくに戦い系の魔力があればいいのに…。
…ルーカスくん…!…かっこいいよ。
エレノアちゃんに見せたいねぇ…」
城の外に出てみると、城の上に白い雲が現れ始めていた。
そして、それは黒雲に変わろうとしていた。
「ルーカス殿下、今までの修行の集大成ですぞ!
ハデスの弱点は眼。ルーカス殿下は風を巻き起こし、奴のサングラスを吹き飛ばせ。サングラスがなくなったハデスにマルスが火の攻撃をする。目眩しで動けないハデスを俺が倒す。メルク、倒れるハデスを水で海に流せ。
いくぞ!」
黒雲の中でハデスが高笑いをする。
「無駄な事を!
お前達に私が倒せると思っているんだね。可愛いなぁ!
では、私もここ青い大陸アズールで本気を出しますけど、いいですかねぇ…」
ルーカスが空を見上げると、空を埋め尽くすように白いハデスがいた。その一人一人がルーカスを目掛けて黒雲の塊を投げつける。
ルーカスは嵐を起こし、ハデスを吹き飛ばした。ハデスのサングラスが吹き飛び、中折れ帽につけていた白い羽が空を舞う。
白い羽は先の尖った刀になり、ルーカスを襲った。しかし、体中に白い羽が刺さりながらもルーカスは攻撃の手を緩めず嵐を起こし続けた。
マルスが火球をハデスに投げつけると、あちこちでハデスの叫びが起こった。
「眼が!眼が!俺の眼をよくも!」
マックスは眼を手で押さえるハデスに向けて稲妻を走らせ雷を落とした。
メルクが雷で意識のなくなったハデスを次々に海へと押し流す。
しかし、どこから湧いてくるのか、ハデスは増えるばかりだった。
やがて、青い大陸アズールは黒雲に飲み込まれそうになった。
その時、黒雲が動きを止めた。
そして、ゆっくりと時間が遡っていった。




