第5話 ゴードンとフランク
僕は城でウォルターと庭を歩いていた。庭は緑が美しい時期で、木の葉の間から昼でも輝く赤い月と青い月がちろちろと見えていた。
ウォルターはこども園 'シリウス' の園長で色々と忙しいはずなのに、わざわざ自分から今日ここに来てくれた。その理由はわかっている。だって、僕は人の心が読めるから…。
ーゴードン、最近調子が悪そうですね。どうされたのですか?ライラ殿が心配して、私に連絡して来たのですよ。
ウォルターがそう心で僕に語りかける。
確かに僕はいつもより元気も薄い。そう、いつも元気なこの僕に覇気がない。ライラにも心配かけてるよなぁ。
僕は庭の四阿に腰を下ろした。
あのさぁ〜、僕、最近変なんだよ、と僕は話し出した。黙ってるのも辛いし…。
「なんだかさ〜、見えないの!未来が!!
僕は未来が見えてこそ…のゴードンなんだよ。
なのに、見えない!どうしたんだろうね?」
ー何も見えないわけではありますまい?
「いや、何も見えない。若い頃でさえ、微かに見えてたのに…。ライラの未来が見えない。レイナの事が見えない。恋に悩むルーカス君の未来が見えない。
この国の未来の姿が見えない!
ねぇ、ウォルター…僕は怖い。だってさ、これじゃあ、まるで僕達に未来がないみたいじゃないか…。」
その時、ウォルターが何かの気配に気づいて、僕を連れて飛ぼうとした。
ーゴードン!…飛びま…
「おっと、危ない!危ない!行かないでくださいよ。
まだ何も話してないじゃないですか!
しかし、この私にこんなに早く気づくとはねぇ。さすがですなぁ。青い大陸アズール、ゴードン国王陛下の腹心の部下ウォルター殿!
あぁ、今は何もできませんよ。ちょっと拘束しましたのでね。近くにいる親衛隊の皆さんにも何も見えません。シールド張ってありますから。だって、見えちゃったらお話できないじゃないですか。
それに…こんな素敵なお庭なんですから、私にも少し楽しませてくださいよ。でもねぇ…私は陽の光が苦手でしてね。四阿に座ってくださって嬉しいですよ。」
その男は、真っ白な肌に真っ白の髪、黒く丸いレンズのサングラスを掛けて、白い足首まであるコートをきっちりと来ていた。白い中折れ帽には白い鳥の羽が1つ付けてあり、足元は白のロングブーツで、何から何まで真っ白な男という印象の男だった。
その男は帽子をとり、胸に当てて軽くお辞儀をした。
「初めまして。ゴードン国王陛下とウォルター殿。
私はハデスと申します。
お目にかかれて光栄です。私達の女王陛下を守り育てて下さったお二人に、お会いできたのですからね。
ゴードン国王陛下、困りましたなぁ…。この国の未来が見えないのですか!未来が見えてこそ…のゴードン…その通りですからねぇ。
お二人には特に丁寧にご挨拶しろと私のご主人様が言っておりますので、ゴードン国王陛下がお困りの所を申し訳ないのですがこうやってやって参りました。
私達としましては、女王陛下をもっと早くにお迎えに参上したかったのですがね。まぁ、こちらにも色々ありまして、遅くなってしまいました。
でも、やっとこうして皆様にご挨拶が出来るようになりました。
それでは、私のご主人様からの伝言です。
女王陛下をいただきに参上する。
素直にお渡しいただきたい。
抵抗しても苦しむのはお前達だ。
しっかりとお伝えしましたよ。
あまり抵抗しないでくださいね。私たちにとっても犠牲は少ない方がいいですから!
ではでは、またの機会に。」
ハデスという男が消えた時、僕はなんとなくだけど思い出していた。この星に伝わる神話以前のあまり知られていない話を。
ハデスのご主人様とは、確か…!
まずい!これはまずいぞ!
女王陛下をハデスとそのご主人様とやらに渡してはいけない。それだけは避けなければ!
僕はウォルターの顔を見て言った。
「ウォルター、戦いの準備を!この星のためにレイナを守り抜け。僕の記憶が確かなら、女王陛下の名前はレイナだ!」
*** *** ***
俺は今日も赤い大陸スカーレットの城にやって来た。俺の書いた本の新刊について国王夫妻に相談する為、なんだけど、心の中では王妃ゾーイ殿に会うのが主目的なわけで、なんとなくうきうきしている。
俺の書いた本といっても、王妃ゾーイ殿が話してくださった事を物語や小説にしているだけなんだけど、王妃ゾーイ殿はとても喜んでくださっている。
「王立歴史博物館、副館長
フランク ブリューゲル殿
国王閣下ならびに王妃殿下に拝謁に参られました。」
あるドアの前で声高らかに告げられ、開かれたドアの向こうには、いつも通りの威厳を身に纏ったセオドラ国王陛下とキラキラとした眼差が眩しい王妃ゾーイ殿の姿がある。
セオドラ国王陛下が身を乗り出して俺に尋ねる。
「新刊の話は進んでいるのだな?」
「はい。〜王宮の華〜が一旦終わりまして、次の時代を担う若者達の恋愛モノを書いております。ゾーイ様のおはなしは中々に楽しい物でして…」
その時、セオドラ国王とゾーイ殿が揃って席から飛び上がり、臨戦態勢になった。
「フランク、そこを動くな!」
鋭いゾーイ殿の声が響き渡る。
セオドラ国王もジリジリと間合いを詰める。セオドラ国王の目線の先にはぼんやりとした白いものが見えていた。
それはゆっくりと形を現して、にっこりと笑った。
「おやおや、怖いですなぁ…。お2人で私に魔力を発動されておりますな。」
白づくめの格好をした男が自らの周りに結界を張っているのが、俺の目にも見えた。
「城の中は流石にすごい!お二人に拘束魔力をかけようとしましたが、出来ませんでした。
残念でなりません。
仕方ないので、私の周りに結界を張っております。
多分、自衛軍が嗅ぎつけてすぐにここに来ますね。マイケル司令官は手強いですから、来る前に要件だけ話しましょう。」
白づくめの男は白い中折れ帽を手に持ち胸に当てて、軽く頭を下げた。
「ハデスと申します。私のご主人様からの伝言です。
女王陛下をいただきに参上する。
素直にお渡しいただきたい。
抵抗しても苦しむのはお前達だ。
あ〜っ!まずいまずい。マイケル司令官が来る!
ではまた。ごきげんよう!」
そういってハデスと名乗った男は消えていった。
入れ替わりに現れたマイケル司令官は、遅かったか!と悔しそうに唇を噛んだ。
腰が抜けてしまった俺は震える声で言った。
「ゾ、ゾーイさま、…知ってます!
俺は知っていますよ、ハデスという名前!
ハデスと名乗ったあいつ…!白づくめのあの男!
資料で読みました。読んだんです!
…あぁ、なんで?
なんで、ハデスを名乗る男が現れる?
みなさん、ハデスは魔王の案内人ですよ。」
俺の頭の中には、王立歴史博物館にある歴史資料がほぼ記憶されている。
ハデスは神話以前のほとんど誰も知らない話の中に出てくる者で、その姿は真っ白であったと書かれていた。そいつのご主人様は確か…。
俺はとにかく王立歴史博物館に行くことにした。マイケル司令官が共に飛んでくれるという。遠慮はしない。
資料を調べ、大急ぎで報告するとセオドラ国王陛下と王妃ゾーイ殿に約束して、とにかく急ぐ。
ー急がねば…急がねば、この星が危ない!
それは王立歴史博物館の資料庫の一番奥にある。
マイケル司令官と2人でそれを、そっと取り出す。それは本ではなく、石板で、所々削れてしまってはいるが、かろうじて読める。下手に触ると崩れてしまいそうだが、そんな事も言っていられない。
「なんと書いてあるんだ?」
「この星が生まれてまもない頃、混沌とした世に善と悪のみあって…。その2つに意思が生まれ、実体を持った。善の意思は女王レイナ、悪の意志は魔王エルセと名乗った。
女王レイナには5人の守護がいてレイナを護った。
ユピル、マルス、メルク、ウラヌ、ネプト
魔王エルセにはハデスという名の腹心がいた。白いハデスの行く所には魔王エルセが現れた。
魔王エルセは人と人を戦わせ、お互いのの血肉を喰らわせた。魔王エルセは勝者を喰らい、力を得た。
魔王エルセのいた場所には何も残らず、闇だけが残った。
女王レイナと5人の守護は魔王エルセと戦った。
女王レイナはこの星の奥深くに魔王エルセとハデスを封じ込めた…。」
「…それだけか?どう戦った、とかの記録はないのだな?」
「ないです。
…でも、手がかりはあります。
ハデスは女王陛下をいただきに参上すると言いました。女王レイナは蘇っています。だとすると、5人の守護も蘇っているはずです。
探して下さい。早く!早くしないと…魔王エルセが蘇ってしまいます!
魔王が蘇ったらこの星は…。」
マイケル司令官は大きく頷き、協力に感謝すると言って城に戻って行った。
俺は再び腰が抜け、資料庫の床に崩れ落ちた。
*** *** ***
俺はゴードン陛下からハデスの話を聞き、アレックスはマイケルから話を聞いた。そして、俺とアレックスは月の姫君に会いに来た。
「ハデスが蘇ったのか?まさか!
あいつは…エルセ?エルセは?」
珍しく立ち上がって、俺たち2人の方に2歩3歩と歩いた月の姫君は、そのまま蹲ってしまった。
「なんてことだ。女王レイナが自分の身を削ってまであいつを封じ込めたのに…!」
月の姫君はよろよろと立ち上がり俺達2人を見て話し始めた。
女王レイナと魔王エルセは戦って、エルセとハデスは地中深くに封じ込められた。
女王レイナの守護達はマックスの息子達と同じ名前だよ。リリウがこの話を知っているとは思えない。知っていたらそんな名はつけないだろうし、もっと警戒しただろうよ。
でも、5人は今の世に産まれてきた。同じ名前を持って。
そして、エルセの案内人ハデスも蘇った。
偶然ではなかろう。
エルセとハデスがレイナに負けた理由は、女王レイナが再生魔力以外にもう一つ魔力を持っていたからだよ。この事は知られていない。
それは、破壊魔力。破滅の力…。再生と相反する魔力…。
女王レイナは両方を持っていた。魔王エルセに破壊魔力を使った時、レイナは命を落とした。5人の守護と共にな。
待てよ、もしかしたら…。
レイナがマックス達のところに来た時、攫われそうになったレイナを父と母が守って命を落としたのだったな…。
レイナの父は僅かながら二つの魔力を持っていたのかもしれん。父親はエルセとハデスに自らの再生魔力を渡すと見せかけて…破壊魔力を使ってエルセとハデスに痛手を負わせて、レイナを助けた…?
レイナの家に時空移動の魔力を持つ子が生まれる事は、ゴードン国王が知っている。レイナの事は必ずゴードン国王が助けてくれると信じていたのだろう。
すべての辻褄が合ったな。
私の知っている事はこれだけだ。
どうする?お前達?
俺とアレックスは顔を見合わせた。




