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2つの月を持つ平和な星の物語  作者: 雪女のため息
第5章 〜レイナの暮らし〜
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第3話 ルーカスとエレノア

なんでこうなる!と俺は頭を抱えた。


 ついさっきまでベッドの中に2人でいて、俺の腕枕で大好き、ずっと一緒にいたいの、と俺にキスしていたエレノアが、突然帰ってしまったのだ。


「ルーカス!なんでわかってくれないの!」

「わかってるよ。俺の事が好きだって、よくわかってる」


 まあ、痴話喧嘩っていうヤツなんだけど…。




 俺とエレノアは月の姫君の出来事で知り合った。


 お友達から始まって、2人でこっそりと会うようになり、最近は一緒に夜を過ごすようになって、エレノアは俺の恋人だ、って言える関係になった。まあ、人にはそんな事言ったことないし、大体俺達がこんな関係だって事も極秘事項である。


 俺達には色々と問題がある。それも結構めんどくさい問題だ。



 

 俺は青い大陸アズールの王太子ルーカスだ。


 何年か前まで、俺は見た目はすごくかっこいいけど大した魔力も使えない、ヘタレな腰抜け男と言われていたが、今は違う。それは胸を張って言える。俺は一目惚れしたエレノアに相応しい男になるために、ものすごく頑張ってきたし、今も頑張ってる。


 最初、俺は師とも言える親父の親衛隊隊長のマックスに鍛えてもらった。そして、今はマックスの息子達が俺の親衛隊に入り、俺と競い合って魔力を磨いている…俺を鍛えてくれてる…が正しいかな?


 俺は王太子に相応しい風格と品格とを兼ね備えた男になった…なりつつある…というべきだな。まあ、胸板は以前と比べると、がっちりと厚くなっている。


 

 エレノアは赤い大陸スカーレットの王太子だ。


 強い魔力を持ち、自衛軍の副司令長官としての才覚も素晴らしい。キリっと辺りを見る眼差しは、ゾクっとするほど鋭く、何もかも見透しているようだ。


 でも俺と2人の時、エレノアはとても可愛らしい。離れたくないと潤む眼差しで俺を見て、キスをせがむ。重ねた唇はいつまでも離さない…。


 ああ、たまらない!

 あんな可愛いエレノアの顔、他の男には絶対見させない!


 俺はエレノアを手放す気は全くないし、エレノアも俺と別れない、とは言っている。


 で、問題が起きる。王太子同士の恋愛だ。双方の国を背負っている2人の未来を考えると…。まあ、そういう事で喧嘩になる。


 俺は青い大陸アズール王室の唯一の後継だ。兄弟も従兄弟もいない。遠い親戚に子供がいるけど、そいつを王太子に…?ありえない。


 エレノアには妹のアメリアがいる。魔力も強いし、頭もいいし、性格もいい。だったら、アメリアが王太子になって、赤い大陸スカーレットを継いだら全て解決じゃないか!


 その話になるとエレノアは言う。


「私はね、王太子に相応しいか、自分を試してみたの!

 で、ふさわしい大人になれると思ったから、頑張ったの!

 が、ん、ば、っ、た、の!

 それを簡単に…!

 アメリアでいいじゃん、みたいな言い方!」

 

 で、こうなる。


「ルーカス!なんでわかってくれないの!」

「わかってるよ。俺の事が好きだって、よくわかってる」


 エレノアは下唇をちょっと突き出した膨れっ面から、ベェっと舌を出して帰ってしまった。



 なんでこうなる!と俺は頭を抱える。


 たしかに、あの場面でのセリフは間違った…と反省はしている。エレノア、俺はお前が大好きなんだよ、と言うべきだった。俺はまだまだ未熟者だ…。


 

 しかも、この所、親父殿が妙にうるさい。


「ルーカス君、どうすんの〜?

 結婚、そろそろ、いいんじゃない?」


 親父殿は何も知らないはずだけど、なんか、見越してる気がしている。鋭いからな、親父殿は!


 エレノアに次に会う時には、機嫌を取るために、可愛い指輪でも渡そうか。いや、渡すなら、どぉんと婚約指輪だろう…などと考える。でも、婚約指輪など渡して受け取ってくれなかったら、俺は立ち直れない。


 いやいや、そんなモノで釣るんじゃなく、真摯に向き合わねば。モノで釣ろうなんて…!逃げてんじゃねえぞ、俺!


 大きな溜息をつき、俺はベッドに寝転がりながら、窓の外を見る。そして、夜空に浮かぶ赤い月と青い月を眺めて月の姫君に愚痴ってみる。


ー月の姫君、俺はやっぱり…心がヘタレで、腰抜けなんですか?



「うん、そうだねぇ。ちょっと腰抜けだよね。ルーカス。

 あの場面であのセリフは、男としてダメでしょう!」


 俺がベッドでゴロゴロとしている隣に、見知らぬ男が俺の顔を見ながら寝転んでいる。全身白づくめのその男は、片手にサングラスを持ち、淡いグレーの瞳で俺をまっすぐに見ていた。そして、にっこり俺に笑いかけた。


ーお前は誰だ!


 と言いたいが声は出ないし、体も動かない。拘束魔力で完全に動けなくなっていた。


「私はハデスと言います。お見知り置きくださいね。

 あ、今日はご挨拶しに来ただけなんで、何もしませんよ。

 でもね、大声を出されても困るんで、拘束魔力だけは使わせていただきました。


 私のご主人様が、関係者の皆さんにちゃんとご挨拶をするように、と言いますのでねぇ。ルーカス王太子殿下にもこうして会いに来たわけです。要らないよ、って思ったんですけどね。


 では、私のご主人様からの伝言です。


 女王陛下をいただきに参上する。

 素直にお渡しいただきたい。

 抵抗しても苦しむのはお前達だ。


 以上ですよ。

 恋に悩めるルーカス王太子殿下!あなたとエレノア殿に幸せは来るんですかねぇ。まあ、せいぜい悩んでください。」


 

 

 男は音もなく消えていった。

 俺は別荘のベッドで1人茫然としていた。





*** *** ***




 

 朝起きると少し目が腫れてた。昨夜は泣き寝入りしたから…。ゆっくり起き上がってカーテンを開けると、大きな赤い月と青い月が街を照らしているのが見える。


 ルーカスの事を思い出すとまた涙が出る。ルーカスは私の事を大好きだって言って、私をとても大事に思ってくれている。分かってる。

 

 私だって、ルーカスが大好き。ずっとそばにいたい。

 なのに、何故かケンカしてしまう。大好きなのに。


 熱いタオルを顔に乗せ、どうにか見られてもおかしくない顔になった頃、私の親衛隊のエメリー副隊長が私の部屋に入って来た。


 今日は自衛軍に行って皆と鍛錬の日だ。こんな日は少し体を動かすのがいいのだろうと思う。


 私はエメリーを見て小さな声で言った。


「後で…相談したいことがあるの…。内緒の話…」

「わかりました。後でお聞きしますね。

 先ずは、やる事をチャチャっとやってしまいましょう!」


 エメリー副隊長は、わずかに笑って私を見た。


 エメリーは私の護衛も兼ねて、侍女として私のそばにいてくれた事がある。私の事をよく分かってくれる、信頼できるお姉さんのような人だ。だから誰かに聞いてほしいことがある時は、まずエメリーに聞いてもらう事にしている。 


 自衛軍ではエメリーの夫のマイケル司令官が、暖かい笑顔で迎えてくれた。


 なぜかその笑顔を見ただけで、また涙が出そうになる。


 どうしてこんなに涙が出てくるのだろう?私はそんなに弱くない!弱い心を鍛え直すためにも、マイケル司令官に鍛えてもらおう!


 マイケル司令官と対峙すると、マイケルがニヤリと笑った。


「やる気ですなぁ…!今日は私も手加減しませんよ。」

「望むところだ!」


 ボロンボロンに叩きのめされて、ぐったりとなったが、気分は爽やかになった。

 

 鍛錬を終えた後、エメリーと2人でエメリーのお兄さん達のカフェに飛んだ。

  

 カフェには小さな個室が有る。王家の者とエメリー夫妻だけが使える秘密の場所で、かなり厳重な結界が張ってあり、安心できる場所だ。父上、母上、アメリアの4人でこっそりとここに来た事もある。パンはいつ来てもとても美味しいし、のんびりと話しも出来る…お気に入りの場所だ。


 実はルーカスと2人で来た事もある。エメリーの兄達は部屋の中のベルを鳴らすと、へい、いらっしゃい!と今日のおすすめを持って来てくれる。私と来た相手が誰なのか…とかは全く気にしないし、誰にも話さない。


 そんな個室で、コーヒーでパンを食べながら、私はポツリポツリと話し始めた。


「好きな人がいるの…。大好きでずっと一緒にいたい。

 でもこれから先、どうしたらいいのか、わからない…。」


 エメリーは、目をパチパチとさせて、まぁ!と呟いた。


「その人といると、幸せなのですね?」


 うん…と頷くと、エメリーはにっこりと笑った。


「よかったです。あんまり幸せじゃないなら、ルーカス殿下をぶっ飛ばしに行くところでした!

 まだ、私の方が強いので、出来ます!」


「へ?」


「お相手は青い大陸アズールのルーカス王太子殿下…ではないのですか?」


「そ、そうだけど…。」


「他のしょうもない男だったらどうしようかと思いました。で、何を悩んでおられるのですか?」


「うん。2人とも王太子でしょ?

 私、この国を引き継いでいけるように、頑張ってるの。

 ルーカス殿もそう。前から比べても、本当に見違えるほどに努力して頑張ってる。

 でも、2人とも国を背負ってるし、どうしようもないのかなって…。喧嘩しちゃった。」


「ご両親には話してみたのですか?」


「話せないよ!だって…。」


「………セオドラ様、ゾーイ様にも若い頃があって、恋や愛に苦しんだ時があったはずですよ。ルーカス様のご両親だってそうです。

 お二人でご両親に話してごらんなさい。決して悪い方にはならないでしょう。

 だって、エレノア様とルーカス殿のご両親はお二人の事を大事に思ってらっしゃるはずで…。」


 その時、厳重な結界が張られているこの部屋に、何かモソリとしたモノがうっすらと形を現した。


「そうですよ、そうですよ!エレノア王太子殿下。

 ご両親のアドバイスはお聞きになった方がよろしいですな。」


 動こうにも拘束魔力で完全に動けなくなっていた。こんな強い魔力を私とエメリーが気付かない内に発動させるなんて…一体コイツは誰だ?


「ここでお二人に大きな魔力を発動されると面倒なんでね。こっそりと拘束させていただきましたよ。

 あぁ、ここのパンは美味しいので有名ですよね。

 どれどれ…。」


 姿を現したのは、全身真っ白な男だった。サングラスをゆっくり外した男は、座ってパンを1つ口に入れた。


「おぉ〜!さすがですなぁ。うまい。」


 そして、部屋の中のベルを押した。


「へい!何かご入用で?」

「コーヒーを私にも頂けますかな?ブラックで。」


 出て来たコーヒーを楽しむ男は、ここはコーヒーも美味いですなぁ、豆はどこから買うのですかね、などとのんびりとしている。もう一つパンを口に入れて男はにっこりと笑って言った。


「おっと、まだ名乗ってもいませんでしたね。

 失礼しました。食い気が優先してしまいました。


 ハデス、と申します。


 エレノア王太子殿下、エメリー親衛隊副隊長。今日、私ははご挨拶に来ただけですので、これ以上は何もしませんよ。


 昨晩はルーカス王太子殿下にも、ちゃんとご挨拶いたしましたよ。ルーカス殿も悩んでおられましたなぁ。


 恋は素晴らしい!実に素晴らしい!

 私も応援しておりますよ。



 では、では、私のご主人様からの伝言をお伝えします。


 女王陛下をいただきに参上する。

 素直にお渡しいただきたい。

 抵抗しても苦しむのはお前達だ。


 女王陛下を渡してもらわねばなりませんけど、こんな素敵な女性2人に痛い思いをさせたくはありませんから、抵抗しないでくださいね。

 

 では、ご馳走様でした。お代はここに…。」


 男は十分過ぎる札をポンと置き、手を振りながら、ゆっくりと消えて行った。


 拘束が解けた私達は茫然としていた。

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