第1話 レイナの秘密
第5章 〜レイナの暮らし〜 が始まります。
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レイナが青い大陸アズールにある、こども園 'シリウス' に来たのは、レイナがまだ3歳にもならない頃だった。
園長に抱っこされたレイナが 'シリウス' の門をくぐった時、マックスと妻のメグが出迎えていた。
青空には昼でも輝く赤い月と青い月がぽっかりと浮かんで、レイナを歓迎しているかのようだった。
その日はとてもいいお天気で、吹く風が心地よい春の日だった。色とりどりの花が咲き乱れて甘い花の香りが漂い、梨の花は満開で、風に花びらがひらひらと舞っていた。
レイナは舞う花びらに気づくと取ろうと手を伸ばしていたが、マックスを見つけると抱っこしてとでも言う様に、両手をマックスの方に伸ばして笑った。
マックスがレイナを抱っこすると、レイナはマックスの首にしがみついた。マックスがレイナの背中をトントンとしながら歩いていると、レイナはマックスの胸に顔を当て、スースーと寝息を立てて眠ってしまった。
そっと顔を見ると、レイナは寝ながら微笑んでいた。真っ白な頬にくりくりとした金色の髪がかかり、幸せそうな規則正しい寝息を立てているレイナは、まるで天使の様だった。
こども園 'シリウス' は、青い大陸アズールのゴードン国王陛下が王太子だった頃に暮らしていた屋敷を改築して作った、保護が必要な子供のための施設だった。
ゴードン国王が、子供は国の宝だよと言って資金を惜しまなかったので、子供達は何も不自由のない暮らしをしている。
レイナは 'シリウス' の子供の中の最年少で、皆から可愛がられた。まだうまく喋れないので泣いてしまうこともあったが、泣いている姿も可愛くて、皆がすぐヨシヨシと頭を撫でてくれた。
大きい子達はどこに行くにもレイナの手を引いたり、抱っこしたりして面倒をみたがった。
「つきのひめぎみさま、わたしたちをみまもってくださって、ありがとうございます。」
と、夜のお祈りの言葉を舌足らずにいう姿は、誰もが抱きしめたくなるほど可愛いかった。
'シリウス' に来てからのレイナは、ぐずる事もあまりなく聞き分けの良い子で、いつもニコニコとしているので逆に皆が心配した。
ー無理してるんじゃないかねぇ…。
'シリウス' の職員達が、もっとわがままを言ってもいいのに、と思うほどだった。
そんなレイナは、夜になるとよくうなされていた。うーうーと声をあげて泣きながら寝ている姿を見る大人達は、心が張り裂けそうになった。
そんなレイナには、本人の知らない秘密があった。
レイナの父方の家系には、稀に不思議な魔力を持つ者が現れる。誰もが欲しがるその魔力がどんな物なのか、知る人は少ない。
だが、長い長い間、その力を持つものが現れなかった事でレイナが狙われ、拐われそうになった。レイナの父と母はレイナを助けようとして命を落としたのだとゴードン国王が言う。
腹心の部下で親友でもある親衛隊、隊長のマックスと副隊長のウォルターの2人に、ゴードン国王はレイナの秘密を打ち明けた。
「あの家には '時空移動' の魔力を持つ子供が産まれるんだ。それも、本家の長子だけがその魔力を持つ可能性がある。レイナの父は本家の長子で、レイナもだ。
僕は未来が見える。でも、見えるだけだ。
マックスは過去には飛べる。でも、見ている事しかできない。だよね?
あの家の魔力は違うんだ。過去にも未来にも行ける。行って実際にそこでいろんな事が出来るんだよ。
考えてごらんよ。
もし、未来の出来事が分かったら…
今何かすれば、この国を支配する事ができる。
そして、過去を操作すれば…
今を変えることだってできる。
だから、その魔力を持つ子供が産まれた時は、早くから国で保護してきた…。いや、言い方が良すぎるな…。捕まえて、監禁してきたんだ。国王が必要とする事だけをさせる様にね。
でも、いつその魔力を持つ子供が産まれるか、は誰にもわからない。その為に、あの家は王家の庇護を受けて、行動を把握されていたんだ。
でも、僕はそんな事はしないよ。レイナを自分のため、国のために使おうなんで思わない。レイナを守るのは、人の命が大事だからだよ。」
未来予知の魔力を持つゴードン陛下にも、レイナにその不思議な魔力が現れるのかは、まだわからないと言う。
「レイナの未来はまだ真っ白にしか見えない。
今はまだ、何もわからないんだ。」
レイナが拐われそうになった事を踏まえて、ゴードン陛下は幾つかあるこども園の中でも一番警護しやすい 'シリウス' でレイナが過ごせるように指示を出した。
そして、副隊長のウォルターに 'シリウス' の園長になってレイナを護るようにと言った。
こうして、レイナは 'シリウス' にやって来た。
レイナは 'シリウス' で毎日楽しく過ごし、5歳になった。
マックスは国王陛下の親衛隊長だが、暇を見ては 'シリウス' にやって来て子供達と遊んでいた。
ある日、マックスは双子の四男と五男、ネプトとウラヌを連れて、メグと共に 'シリウス' を訪れた。
メグは 'シリウス' の庭の花の手入れをしようと、子供達を誘い庭に出た。花壇の雑草を抜き、花殻を取り除き、水を撒く。
その間、ネプトとウラヌはレイナの頭に抜いた花殻を乗せたり、ジョウロの水をかけたりして遊んでいる。
「もう!ネプト!ウラヌ!私に、何するの?」
「お前の頭に冠だよ!」
「レイナも暑いだろ!水かけてやる!」
レイナと仲良くしたい2人は、レイナを揶揄ってしまうが、レイナはぷっと頬を膨らませて2人を笑いながら睨んでいる。
そこへマックスがやって来た。レイナはマックスのところに走って行って、にっこりと笑った。
「マックスおじさま、ご機嫌よう!レイナはおじさまのお手伝いをします。」
「レイナは優しいね。じゃあ、この花の苗をここに一列に植えようか。」
2人で花を植えていると、レイナは眠くなった様で、こくこくとし始めた。マックスが部屋で休ませようかとレイナを抱きかかえた時、レイナがぱっちりと目を開けた。
「おじさま。蛇がでたの。ネプトとウラヌが噛まれたの。痛くて腫れて、泣いちゃったんだよ」
そしてまた、こくこくと眠り出した。
マックスがメグに、ネプトとウラヌのそばに蛇がいないか、と大声で聞くと、小さい蛇が見つかった。2人は辛うじて噛まれずに済んだ。
レイナは目を覚まして、ネプトとウラヌに駆け寄った。
「噛まれなかった?よかったぁ!」
レイナは2人の手を取ってぴょんぴょんと跳ねて喜んでいる。
マックスはそんなレイナをじっと見つめていたが、メグに子供達のことを任せて、ゴードン国王の元に飛んだ。
ゴードン国王は、やはり、魔力が現れたのか?と眉を寄せた。
「マックス、レイナの魔力を封じる事は出来るかい?」
「はい。」
「子供の間は封じておくのがいいと思うんだ。自分でコントロールできるようになるまではね。
大人になって本格的に覚醒したら、強力な魔力が封じ切れるのか、わからないしね。
僕が 'シリウス' に行こう。レイナを怖がらせないようにしなくっちゃ…」
マックスはゴードン国王を連れて'シリウス' へと飛んだ。
ウォルター園長の部屋に3人が集まった。
レイナが…やはりそうでしたかと、ウォルターは顔を曇らせた。
「魔力を封じても、その事を誰にも知られないようにしないと…。また、さらわれる危険がありますからね。警戒を厳重にしましょう。」
そう言うウォルターにゴードン国王が頷く。
マックスは幼児たちの部屋に向かった。マックスおじさんだ、と騒ぐ子供達一人一人にハグをする。
「ごめんね、今はレイナに用事があるんだよ。すぐ戻るからね。もどったら、皆で遊ぼうな。」
マックスはレイナと手を繋いで歩き出す。そして、歩きながらゆっくりと魔力を発動させた。
園長室に着いた時、マックスはレイナの頭に手を置いた。
レイナは園長先生、国王様、こんにちは…と言った後、ゆらりと倒れた。
マックスはレイナの頭に乗せた手をゆっくりと離し、眠っているレイナを見つめた。
「レイナの魔力は強いです。いつまでこの封印が持つでしょう。」
ゴードン国王とウォルター園長の顔が曇った。




