第10話 エメリーの幸せ
第四章 〜エメリーの恋〜 を読んでいただき、ありがとうございます。第四章は、今回で 完 となります。次回からは第五章が始まります。毎週、月、水、金の10:00に更新いたします。
この星で起きていた月の姫君と黒い影の出来事は、エレノア、ルーカス、アレックスとマックス、そして2人の師であるリリウの5人にしか記憶に残っていない。
皆には、何も起こらない平和な日々の記憶だけが残っている。そして、幸せな日々は続いて行く。
エレノア姫が立太式を終えて、赤い大陸スカーレットの王太子となった。
エレノア王太子とアメリア姫は城に移り、御屋敷はマイケルとエメリーの2人だけが残った。
エレノア王太子はこっそり2人の秘書官サイモンに連絡を取り尋ねた。
「マイケルとエメリーを幸せにしてあげたいのだけど…」
優秀な秘書官サイモンはこう力説した。
「奥手で女心のわからないマイケル司令官とウブなエメリー大佐をこのまま放っておくと、いつまでも先に進まないと思われます!
外堀を埋めて、2人を追い込みましょう!」
そして、2人は策を練った。
サイモンはマイケルとエメリーの結婚式の日程を決め、1週間の休暇を設定し、海辺の素敵なホテルを予約した。そして、エメリーの元にサイモンの大事な恋人ミミとウエディングドレスのデザイナーを送り込む日を設定した。
エレノア王太子は、結婚祝いとして御屋敷を2人に贈る事にして、さっさと手続きをしてしまった。
エレノア王太子とサイモン秘書官が2人にその事を告げた時、マイケル司令官は、ええっ!ええ〜っ!俺達が…結婚?という顔をして狼狽え、エメリー大佐は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
16歳のエレノア王太子と17歳の秘書官サイモンは2人で顔を見合わせて、やっぱりね!と大きく頷きあった。
外堀を埋められた2人の結婚は、全ての事がトントンと進んで行った。
あまり派手にはしたくないという2人の希望で、結婚式は御屋敷の、昼でも輝く大きな赤い月と青い月が見える大広間で行う事になった
エメリーは式に騎士の正装で出ると言い張ったがミミが
「エメリーさま!
だぁ〜い好きなマイケルさまに一番綺麗なお姿を見せて、もっともっと愛してもらわなくっちゃ、ですよ!」
とナイスなフォローをして、ウエディングドレスが決まった。
2人の結婚が発表された日、多くの騎士達がやけ酒を飲み、街中に雄叫びが轟き渡った。
「マイケルのやろう!」
「俺達のエメリーちゃんを返せ!」
「俺のエメリー!嫁かないでくれっ!」
「エメリー!俺は永遠にお前を愛してる!」
結婚式の当日。
2人は月の姫君に永遠の愛を誓った。それぞれの家族、立会人として、アレックス親衛隊隊長、サイモンとミミが参列した。
エメリーは真っ白なドレスに身を包み、真っ白なブーケを手にして、式の間中ずっと涙ぐんでいた。
誓いのキスをする時、エメリーはマイケルの瞳が虹色に輝いて見えた。そしてその瞳に、ウエディングベールを被った自分の姿が映っているの見て、ポロポロと涙をこぼした。
幸せにするよ、とマイケルはエメリーの耳元で囁いた。エメリーは小さく頷いて、私は今とっても幸せです、と震える声で答えた。
式の後のパーティはエメリーの兄達のカフェで、ごく近しい人だけを招待した。
マイケルの母ロレインとエメリーの母は2人で料理に精を出した。エメリーの父と2人の兄は大量のパンを焼いた。質素だが心のこもった家庭的なパーティーで、招待された皆は心から寛いで楽しんだ。
パーティにはエレノア王太子とアメリア姫もお忍びで飛んで来て、大いに盛り上がった。
アメリア姫はパンを食べてあまりのおいしさに驚き、城でも食べたいと言い出して、エメリーの兄達は王家御用達の金看板を頂くことになった。
それから数年が経った。
マイケルは自衛軍の '鬼の司令官' と呼ばれるようになった。副司令官としてディックとショーンが、マイケル司令官の後ろにいつもピタリと控えている。
ティムは自衛軍専属の医務官として後輩達の指導も任されている。
サイモン秘書官はエレノア王太子から引き抜きの話が何回もあるが頑なに断り、自衛軍秘書官長としてマイケル司令官のそばで働いている。
そしてサイモンは、今日もマイケル司令官の日程表をにらみながら、ちろちろとマイケル司令官を盗み見するのだった。
ーマイケル司令官の秘書官は
このサイモン以外にはあり得ません。
私以外に誰ができるというのでしょう!
サイモンがいればこそのマイケル司令官!
私に感謝してくださいよ!
そうでないと、これから先何が起きても
…私は知りませんよ!
エメリーは王太子殿下の親衛隊副隊長として、エレノア王太子のそばにいつもいて、エレノアを護っている。アレックス隊長の信頼も厚い。
アレックス隊長は、もう直ぐ国王陛下の親衛隊長に戻る事が決まっていて、エメリーが王太子殿下の親衛隊長になる日も近い。
そのエメリー副隊長の秘書官はサイモンの大切な妻となったミミが担当している。2回目の挑戦で官史に合格したミミを自分の秘書官に指名したのはエメリーで、2人は上司と部下と言うより仲の良い友達に近い。
2人でアップルパイの店に行き、お互いの夫を自慢し合う時間は、何物にも代え難いとエメリーは思う。
エメリーが騎士となってから、騎士を志望する女性が増えた。
黄赤色の長い三つ編みを風になびかせて、赤いマントを翻している姿は '炎の騎士エメリー' と呼ばれていて、女の子達の憧れの的だ。
エメリーがエレノア王太子を護衛して、眼光鋭く辺りを見渡しながら騎馬で進むと、女の子達がエメリーの後をキラキラとした眼をして追いかけて来る。
そんなエメリーも、御屋敷に帰ると相変わらずマイケルに甘えてばかりいる。時折わがままを言って泣きながら駄々をこねるが、マイケルが怒った顔をすると、しゅんとしている。
マイケルはそんなエメリーが可愛くてたまらない。
2人はいずれは子供が欲しいねと話し合っている。大きな御屋敷の庭で子供達が走り回り育っていく姿を想像するだけで、2人の顔がほころんでいく。
大きな御屋敷だから、いずれはマイケルの母ロレインやエメリーの両親も一緒に住めるだろう。
ロレインが行儀作法や家事を子供達に教える。そして、エメリーの両親のためにパン焼き窯を作って、みんなで美味しいパンを毎日食べる。
想像するだけでも楽しい未来が、マイケルとエメリーを待っている。
今日もエメリーは窓辺に座り、昼でも明るく輝く大きな2つの月を見ながら、月の姫君に語りかけていた。
ー姫君、あなたのお導きのお陰で、私はとても幸せです。
そして、思い出していた。
街で見たマイケルを追いかけて追いかけて城まで来てしまった時の事。
マイケルから目が離せなくなり、胸がドキドキしてしまったこと。
マイケルの様になりたくて、頑張ったこと。
卒業式のパーティーでマイケルにキスされた時の事。
マイケルと初めて会った12歳だったあの日、こんな幸せな未来が自分を待っているとは想像もできなかった。
すると、2つの月の暖かな光がエメリーを包み込んだ。
気づくと、エメリーの前に1人の女性がいた。
その姿は透き通っていて、光の中で揺らめいて見えた。
白い肌、黒い髪、薄く紅を乗せた様な唇。
とても美しい女性だった。
ーエメリー、もっともっと幸せになれ!
そういう声がエメリーには聞こえた。
ー月の姫君…?
ありがとうございます。
これからも、私と私の大切な人々をお導きください。
ー第四部 完ー
次回からは第五章 〜レイナの暮らし〜が始まります。毎週、月、水、金の10:00に更新いたします。




