第9話 恋人エメリー
今日は久しぶりに、マイケルとエメリーが2人揃って休みの1日となった。
朝からずっとマイケルのベッドの中で、マイケルに抱きついていたエメリーは小さな声で、お腹が減っちゃったと呟いた。
マイケルはエメリーの胸に、頬に、唇に…とキスをしてから、俺も腹ペコだよ、と笑った。
ゆっくりと立ち上がったマイケルの体は引き締まっていて、とても素敵で、見ているだけでエメリーはくらくらとしてしまった。
「エメリー、そんなに見るなよ。心配しなくても、ほら、ここにエメリーがつけたマークが、ちゃんと残ってるだろ?」
と、マイケルが自分の右胸を見せた。そこには、昨日の夜エメリーが我を忘れてマイケルの胸に付けてしまった赤い跡がついていた。
エメリーが真っ赤になってブランケットで顔を隠すと、マイケルがブランケットを剥いでエメリーに覆い被さり、エメリーの両手を押さえつけた。
「エメリーにも付けてあげよう!
どこがいい?エメリー、言ってみろ。」
エメリーがイヤイヤと顔を左右に振っていると、唇をマイケルの唇で塞がれる。
「どこがいいのか、言わないなら…ここにする。」
と、マイケルがエメリーの首筋に音を立ててキスをし、そのまま吸い付いて赤いマークを付けた。
「これだけじゃ、足りないな…。」
マイケルはそのままエメリーの体中に赤いマークをつけていく。エメリーの体が震え始め、マイケルの名前を小さな声で呼んだ。
「お願い…」
マイケルが自分の部屋に結界を張った。エメリーを強く抱きしめて、誰にも邪魔されない、2人の時間が流れていく。
マイケルを潤んだ眼で見て、抱きついたまま離れられないエメリーにマイケルは笑って言った。
「そんな眼をして俺を見たって…もうだめだ。
本当に腹が減った。
俺が空腹で倒れたら困るだろ?エメリー。」
続きはまた夜に…とマイケルはエメリーの耳元で囁いて起き上がると、エメリーを抱きかかえてシャワー室へと連れて行った。
エメリーはマイケルからプレゼントしてもらったクリーム色の裾の長いドレスを着た。髪は三つ編みをくるくるとまとめて、ドレスと同じ布で作った小さなの帽子を被り、小さなバッグを手にした。
バッグはエメリーの髪と同じ黄赤色で、マイケルが特別に造らせたと言っていた。バッグはエメリーのお気に入りで、どこに行くにもそのバッグを持って出ている。
三揃いのスーツに帽子を被ったマイケルは、飛びつきたくなるほど素敵だった。
「さて、エメリー嬢。本日はどちらに?」
と言うマイケルの腕を取り、エメリーはちょっと考えて
「兄達が、パンのお店の隣に新しくカフェを始めたので、そちらに参りましょう。」
と言った。では…とマイケルが言うが早いか、2人はカフェに飛んでいた。
カランと音を立ててカフェのドアを開けた瞬間、マイケルが、しまった!という顔をした。
店内には大勢の客がいたのだが、一瞬シーンと静寂に包まれたあと、店内にいた全員がシャキッと立ち上がり、マイケル司令官とエメリー大佐に直立不動の姿勢で敬礼してしまったのだ。
エメリーは口に手を当て、まぁ!と驚いている。
「あれぇ…エメリーじゃん。どうしたの?」
と長閑なエメリーの兄の声がカフェに響いた。
エメリーはマイケルと絡めていた腕を慌てて解き、
「お休みのマイケル司令官をお誘いして、食事でも…と思ったのだけど…。席が空いていないようだから…。」
また今度に…と言う前に
「こちらが空いております、エメリー大佐!」
と、空いてる席を自衛軍の隊員に示される。
マイケルが皆に返礼をし、全員楽にしろと声をかけた。
「今日は私もエメリー大佐も休日だ。私達は食事に来ただけだから、気にせず皆も食事を続けてほしい…
と言っても気にするよな…。
よしっ!
エメリー大佐の兄上!
これからこの店を貸切にしてもいいだろうか?こいつらにたらふく食べさせてやっていただきたいのだが…。」
というマイケルの言葉に、エメリーの兄は飛び上がらんばかりに喜んで答えた。
「もちろん大丈夫でさぁ!店にあるもんを全部食べていただけたら、俺達は嬉しいんで…。まだまだ追加のパンも焼いてますし、なんなら、親父の店から持ってきてもいいんで、食べてください!」
マイケルは皆を見て言った。
「そういう事になった。
代金は私が払うから心配するな。近くにいる隊員や騎士学校の生徒を連れてこい!全員でこの店の食料を食べ尽くせ!残すことは許さんぞ!」
おお〜っ!という雄叫びと共に、皆が笑顔になり食べ始めた。皆、次々に飛んでは仲間を連れて戻ってきた。
エメリーは見知った顔を見つけて、声をかけた。
「ディック、ショーン、ティム!食べに来てくれてたのね。ありがとう。ティムは久しぶりね。元気だった?」
すぐさまティムが、エメリーに仕事の事で話がある、と言って、エメリーを外に連れ出した。
「仕事の話なんか、ないんだ。
エメリー…幸せなんだね。ちょっとごめんよ。」
と、エメリーの首筋に手を伸ばして、ほんの少し魔力を発動した。
「ほら、もう大丈夫だよ。
この次マイケル司令官にキスマークを付けてもらう時は、見えない所に付けてもらいなさい!いいね?
ディックとショーンの2人は、今でもエメリーに惚れてるからさ、直接目にするのは可哀想すぎると思ってね。」
エメリーは真っ赤になってモジモジとし、自分の首筋を撫でながら頷いて、ありがとう、と言った。
「よし、戻ろうか。司令官に睨まれたら怖いからね。」
しばらくしてマイケルが、あとはお前達でやってくれと皆に言って、エメリーを連れて店を出た。
参ったな…とマイケルが笑い、エメリーが、まだお腹が空いてると呟いた。
エメリーの背中をポンポンとして、俺もだ、と言ったマイケルは、歩きながらエメリーに聞いた。
「エメリー、海と山、どっちがいい?」
海!とエメリーが答えるとマイケルが
「では、エメリー嬢、海辺のレストランへとお供いたします。よろしいですか?」
エメリーが頷くと、2人は海見えるレストランへと飛んだ。
その日の夕方、赤い月と青い月が輝く2人きりの海辺で、エメリーはポロポロと泣きながら駄々をこねていた。
「明日もマイケルと2人で、家にいたいの…」
明日はノア様と自衛軍に行く日だろ?と言うマイケルの胸に顔を擦り付けてエメリーは泣いている。
「…明日もマイケルと2人でマイケルの部屋にいたいのっ!2人でずっと…。」
「エメリー…。俺がキスしてあげるから…そんなこと言わない!」
エメリーは首を振る。
「だって、キスはもうしたもん。」
「じゃあ、今夜はいっぱい抱いてあげるから…そんなこと言わない!」
「やだ、やだ、やだっ!
もう1日だけ、2人でこうしていたい!
だって…こんなに楽しかったお休みが…もう終わっちゃうんだよ…。」
「エメリー…。」
エメリーはマイケルの胸に顔を埋めて泣いていたが、鼻声を詰まらせながら言った。
「そうだ!…2人でお休み取ればいいんだ!
ね?そうしよう!
そうしたい!
そうして、2人でずっと一緒にいるの!」
「エメリー…。わがまま言わない!」
「わたしはずっとこうしていたいのに!
マイケルは違うの…?」
「エメリー…。そんな子供みたいなこと言わない!」
「わかってる。…わかってるもん!
だけど…。」
赤い眼でマイケルを見上げて、エメリーがまた泣く。
「マイケル、大好き。大好きなの!
明日もこうしていたいの!
ずっと一緒にいたいの!」
マイケルが、今日1日一緒にいただろ、と言ってエメリーを抱きしめた。
「もう!マイケルのバカ!
大好きなの!
甘えていい、って言ったのはマイケルなのに!」
マイケルはエメリーの顔を両手でギュッと挟んで、エメリーを睨んだ。
「エメリー!聞き分けのない子はどうなると思う?」
「知らない!
私…マイケルの事が…大好きなだけだもん!」
「…わかった!
俺をこんなに困らせて!
俺は怒ってる。
エメリー!謝っても、もう遅いぞ!」
マイケルはパチンと指を鳴らして、自分の部屋に飛び、結界を張った。そして、エメリーの服を剥ぎ取り、自分の服も脱ぎ捨てた。
次の日、エメリー大佐はノア副司令長官と共に、自衛軍にいた。
いつもの三つ編みではなく、二つに分けた髪を緩く纏めて前に垂らし、いつもより更に眼光鋭く辺りを見回している。
「エメリー大佐、少しいいだろうか?話がある。」
マイケル司令官が現れてエメリーにそう言うと、自室に戻ていった。
エメリー大佐、入りますと言い、一歩部屋に入って敬礼をしたエメリーを見たマイケル司令官は微かに笑った。
「エメリー大佐。
私とサイモン秘書官に、何か言うことがあるんじゃないのかな?」
「……」
「エメリー大佐、上官の命令は絶対だ。
…答えなさい。」
足を肩幅に広げ、後ろで手を組んで立っていたエメリーは、右手で自分の前に垂らした髪を触りながら目を逸らし、俯いて、しごく真面目な顔で答えた。
「いつもと髪型が…違うのは……
昨日の夜…私の……大好きな人が……私と…している間に……私の首筋に吸い付いて…赤い印を…付けたからです。…朝、俺が付けたのに消えてるって…新しくたくさん付けたから…髪型で誤魔化して…バレないように…警戒して………。」
途中で、同じ部屋にいたサイモン秘書官が飲んでいたお茶を吹き出した。サイモンがそっと部屋を出ようとすると、サイモン、動くな!そこにいろ!とマイケル司令官が言う。
サイモンは、気をつけの姿勢でマイケルとエメリーの2人をまともに見る事になってしまった。
「エメリー大佐、……それじゃなくて!
もっと大事な事があるだろ!」
エメリーはそう言われて、泣きそうな顔で話を続ける。
「私が……#*%+#$€…?」
「それではわからん!」
「……私が…大好きなその人と…もっと一緒にいたい、と駄々をこねたから…?」
「……それだ!」
エメリーが涙目になってだんだんと小さくなる声で言った。
「………2人で休みを取って、このままずっと一緒にいたいと言ったら…私の大好きなその人に…わがままだと言われて……………。」
「……それで…?」
「…………マ…マイケルのバカ!って…………。」
「そ、……それで…?」
「そしたら…その人が…俺を困らせる…聞き分けのない子だって…私の事を…ものすごく怒って…」
エメリーの眼から涙がポロリと落ちた。
マイケルがエメリーの前に腕を組んで立ち、エメリーを睨みつけてから言った。
「エメリー、お前は!
……しばらく反省してろ!
部署に戻れ!」
エメリーは涙を拭いて、部屋から出ていった。
マイケルはエメリーがいなくなってからポツリと呟いた。
「サイモン、女はめんどくさいな…。
すまないが、そういう事だ。
どこかでまた休みを捻り出してくれ。
よろしく頼む。
2人でサイモンに休みの事を頼もうと思ってここに呼んだのに…。肝心な事を言わずにくだらん事ばかり言って!
それで、なんで泣くんだ?」
職場で痴話喧嘩に付き合わされたサイモン秘書官は、腹筋をプルプルと震わせて、笑いを必死でこらえ続けていた。
ーう〜ん!
女心のわからない司令官とウブな大佐!
これじゃ、まるで…
子供の痴話喧嘩だっ!
そして、サイモンは、あの炎の大佐と言われるエメリーが、マイケル司令官の前では可愛い17歳の女の子になっていたのを見て、微笑ましい気持ちになっていた。
ーエメリー大佐、
このサイモンにお任せください!
ステキなお休みを作り出して見せます!
だから、この私に感謝してくださいね?
そうじゃないと…これから先、何があっても
…わたしは知りませんよ!
その日の夜、夜遅くに御屋敷に戻ったマイケルは部屋の中のドアをノックして、エメリーの部屋に入って行った。
エメリーはベッドの上に体を横たえ、頭からブランケットを被り、肩を震わせて泣いていた。
起きなさいと言われて、エメリーは素直に、はいと返事をして起き上がり、マイケルの前に立った。黄赤色の長い髪がさらさらと流れた。目も鼻も赤くなって、涙で顔が濡れていた。
「エメリー、反省してたのか?」
はい、と返事をしてエメリーはポロポロと涙をこぼした。
「もう、マイケルを困らせるような事は言いません。
ごめんなさい。」
「わかったなら、もういい。
…おいで。」
エメリーはマイケルの胸に飛び込んでメソメソと泣いた。
「お願いだから…私の事、嫌いにならないで…。
お願い…だから。」
「俺に嫌われたと思って泣いてたのか?」
「……。」
マイケルはエメリーの顎を持ち上げ、キスして言った。
「こんな可愛いエメリーを、俺が嫌いになるはずがないだろ?」
マイケルはエメリーをそっと抱きかかえて、ベッドに運んだ。
「エメリー、大好きだよ。本当だよ。」
マイケルはそう言ってエメリーを抱きしめた。
優秀なサイモン秘書官は、1ヶ月後のエメリーの18歳の誕生日に合わせて2人が三連休を取れるようにした。そして、赤い大陸スカーレットの都から離れた森の中の、女の子に大人気の可愛い宿屋を予約し、部屋の中を花で一杯するようにとリクエストした。可愛いバースデーケーキと18本のキャンドルも。
マイケルとエメリーがサイモンに感謝しつつ、2人きりの時間を甘く過ごしたのはいうまでもない。




