第4話 進む騎士
エメリー達がピリオネル山にいた頃、自衛軍の副司令官マイケルはピリオネル山に設けた本部で指揮をとっていた。
慌てふためく人々で収集がつかないと数多くの報告が上がっている中で、パニック状態だった人々が心を落ち着かせて粛々と避難を始めている、という報告が1件あった。
何があったんだ、と聞くマイケルに秘書官のサイモンがこう答えた。
「ピリオネル山の麓の街から月の姫君の歌が沸き起こり、皆が冷静になった、との事です。
歌い始めたのは誰でしょうね。皆が興奮している時にそういう行動が取れる人はどんな人でしょうか。」
大噴火の直前に全ての避難が終了したという報告を受け、マイケルはほっとすると同時に、街の再建に向けて自衛軍の活動を開始した。
しばらくしたある日、自衛軍に1通の手紙が届いた。
中には制服のように思える服を着た、赤い髪のにっこり笑った女性が、女の子(自分を描いたらしい)と手をつないでいる絵が1枚入っていた。
2枚目は制服を着た9人の男と赤い髪の女が並んで歌っているように見える絵だった。
手紙には、その子の母親からのお礼が同封されていた。
迷子になった娘に歌を歌って励ましてくれたお姉さんに、娘がお礼の絵を描きました。お兄さん達が優しくって嬉しかったと娘が言っています。ありがとう、と感謝の気持ちを伝えてください。
「この 'お姉さん' という人物があの時、最初に歌いはじめたのですね、探しましょう。」
というサイモンにマイケルはにっこり笑った。
「いや、探さなくても知っている人物だと思う。この手紙を渡しに行こう。騎士学校に行くので、調整してくれるかな?」
サイモンはその日の午後に騎士学校に行けるように調整して、マイケルに言った。
「私も興味がありますので、しょうもない用事は後回しにして最速で面会を入れました。所属するグループ10人との面会です。どんな人ですかねぇ。楽しみです!」
マイケルは自衛軍副司令官の正装に身を包んだ。
真紅のマントをたなびかせて馬に乗り、騎士学校に現れたマイケルは、国王陛下の親衛隊にいた頃より更に逞しい顔になっていた。
校長室の前にマイケルの部下達が並び、マイケルとサイモンが部屋の中に入った。椅子を勧められて座るマイケルの斜め後ろにはサイモンが控えて立っていた。
コンコンコンとノックの音がしてドアが開き、マイケル副司令官に敬礼をして、エメリーのグループ10人がステイマン教官と共に入室した。
その時、マイケルの顔を見たエメリーがはっと息を呑んだ後、瞳を輝かせたのをサイモンは見逃さなかった。
「自衛軍副司令官のマイケル殿が、直接お礼を言いたいと君達に面会を申し込まれてね。うれしいじゃないか、こんな事は初めてだよ。」
という校長にマイケルが、それだけ格別の働きをしたということですよ、と言った。
マイケルがステイマン教官をはじめ、一人一人と握手をし、今回の働きに謝辞を告げていく。エメリーと握手したマイケルは、エメリーの目を見て大きく頷いた。
目敏いサイモンは、マイケルのそのちょっとした動きもしっかり見ていた。そして、エメリー頬がほんの少し赤らんだのを見て、サイモンは、なるほど…と微笑んだ。
手紙を校長に渡し、皆の事は私から国王陛下にも話が伝わっている、ますます励むように、と言い置いて、マイケルは共を引き連れ帰って行った。
その日の夕方、副司令官室でマイケルの書類を片付けながら、サイモンはさらりとマイケルに言った。
「副司令官殿は、エメリー嬢の事を昔からご存知だったんですね」
うん、そうだよ、と言うマイケルに
「エメリー嬢は可愛い人ですよね。その上、あんなに優秀な騎士の卵なんですから、ものすごくモテるだろなって思いましてね。副司令官はエメリー嬢の事をどう思っているのかな、って気になりまして…。」
「いや、別に私は…。」
と言うマイケルに、大丈夫ですよ、とサイモンは笑う。
「私には恋人がいて、もう一緒に住んでますからね。エメリー嬢を横取りなんかしませんよ。
でも、どうですかね。他の男は放っておかないでしょうね。可愛いですから、エメリー嬢は…。
うかうかしてると、誰かに取られますよ。
そんな事になっても私は知りませんよ。」
ええっ!というマイケルに、サイモンは
「そんな事より、さっさと片付けてしまいましょう。司令官就任まで、もう余り日がありません!」
と、眉間にわざとらしく皺を寄せた。
マイケルは、いや、いや、別に私は…と小声で呟いていた。
マイケルが司令官になったある日、アレックス親衛隊長に呼ばれたマイケルは、ある屋敷にいた。
見覚えがないのに、懐かしいその場所はロレインが侍女として勤める、エレノア姫のいる屋敷だった。
「いいか、マイケル。お前の記憶を戻そう。目を瞑れ。」
頭の中に閃光が走ったような感覚があり、マイケルは身震いした。
目を開けてみろ、と言われたマイケルは全てのことを思い出していた。
赤ちゃんだったエレノア姫。大きくなりマイケルの後を追いかけてばかりいたエレノア姫。生まれた妹姫にキスするエレノア姫。
大丈夫そうだな、とアレックス隊長が微笑ってマイケルを見た。
「私はここでは、爺やだよ。馬番のアレックス爺。王妃ゾーイ殿がそばにいてやってほしいと仰るからな。仕方ない。私が親衛隊の隊長だというのはここではロレイン殿しか知らない秘密だ。」
そう言うと、アレックス爺に姿を変えた。
「私は親衛隊、マイケルは自衛軍の掛け持ちだ。今までは姫がここから出る事もなかったが、来年から自衛軍の副司令長官となられる。お前の上司だ。
まだ、エレノア姫はご自分の立場をご存知ない。という事を忘れるな。」
では、お目通りしよう、というアレックス隊長の声の終らぬ間にドアをノックする音がして、エレノア姫が入ってきた。
「マイケル!待ってたの。すごく会いたかった!」
エレノア姫はマイケルに嬉しそうに抱きついている。
ふと見ると、アメリア姫はドアから顔だけ出して、マイケルを恥ずかしそうに見ている。
「エレノア様、アメリア様、お久しぶりです。戻って参りました。これから私がこの家の執事としておそばにおりますからね。お任せください!」
まぁまぁまぁ、マイケルったら…とロレインの声がした。ふと見ると、ロレインはアメリア姫を抱っこしている。
「お嬢様、マイケルは頼りになる私の息子ですよ。こき使ってくださいな。アレックス爺もそうだって言ってますからね」
「その通りですぞ!」
こうして、マイケルの新しい暮らしが始まった。
アレックス隊長に相談して、サイモンにはこの屋敷にいる事を話してある。姫達のことは話していないが、国王直々に依頼された秘密の仕事だというと、サイモンは妙に張り切った。
サイモンは胸をドンと叩き、調整はお任せください!となんとも頼りになる返事をして、にぃ〜っと笑った。
「秘密の仕事…!こういうの、私の得意分野です。」
どういう分野なんだと思いつつも、サイモンを秘書官にしてくれたアレックス隊長に心から感謝したマイケルだった。




