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2つの月を持つ平和な星の物語  作者: 雪女のため息
第2章 〜ゾーイと3人の男〜
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第3話 落ちた男

 3回目の聴き取りに、王妃ゾーイはご機嫌で現れた。何か良い事でもございましたか?とフランクが尋ねると

「そうなの!アレックスと会えたの!」

 

 ふわふわと楽しげな表情の王妃ゾーイは輝くばかりの美しさで、フランクは不謹慎にもクラっとしてしまった。


 王妃ゾーイとアレックスの間に昔、何があったのだろう。まさかとは思うが…。


 いや、ありえないだろう。いやいや、あるかもしれない。いつの世も、男と女は複雑怪奇だ。


「さあ、始めましょう」


 いつもの通り、ワインをグビグビ飲みながら、王妃ゾーイは話し始めた。




*** *** ***




 ゾーイには心を許せる侍女が1人いた。2歳年上の貴族の娘で、名前はカタリナ。侍女というよりは姉の様な存在で、ゾーイがセオドラに会いに行く時はにっこりと送り出し、後の事はお任せくださいね、と耳打ちする。カタリナは頼もしい侍女だった。


 そんなカタリナにゾーイは、アレックスと言う魔力の強い男の事を知ってるかと聞いた。


「まあ、ゾーイ様。そんな男の名前をどこからお聞きになりました?会ったことはありませんけど、名前と噂は知っていますよ。ある意味、有名な男ですよ。」

「そうなの?」

「アレックスは、お金で魔力を売るという噂の男です。余りいい話は聞きませんよ。女がワサワサと寄ってくる様な男だって話ですけどね。」

「ワサワサ…なの?」

「はい!周りにいつも女を侍らせているって、皆が言っていました。」


 会ってみたい、とゾーイは思った。

 自分の眼で見てみたい。ジョージ派の王族が雇ったなら、寝返らせたい。是が非でもセオドラ様の従者になってもらい、守ってもらいたい。そして、出来るなら、セオドラ様を鍛えてもらいたい。それがセオドラ様の言う '強い男' の近道に違いないから。


 でないと、いつまで経っても結婚できないとゾーイは思う。あのままのセオドラ様では、結婚する前に未亡人…みたいになってしまう可能性だってある。それだけは避けたい!


「どこに行けば会えるかしら?」

「えっ?会ってどうされるのですか?本当に危ない男だと思いますよ。」

「大丈夫。セオドラ様の役に立つ男か、ちょっと見るだけだから」


 カタリナは渋々ではあったが、アレックスを '見る' 算段を考えてくれた。


 程なくしてカタリナはアレックスが出没すると言う居酒屋の情報を入手した。行きたいと言ったゾーイにカタリナは条件を出した。


「ゾーイ様はまだ16歳ですからね。そのままでは居酒屋に入れません。せめて20歳くらいには見えないと…。と言う事で、姿を変えて下さい。


それから、絶対にお酒は飲んではいけません。未成年ですから。どんなに誘われても、です。まぁ、アレックスを見るだけだから問題ないとは思いますけどね。


 そして、わたくしも一緒に参ります。これでも魔力は少しあります。ゾーイ様の足元には及びませんが。いざという時はゾーイ様の盾になりますので。


 最後に、行く前にこの事をセオドラ様に報告してください。庶民の行く居酒屋です。万が一のためにセオドラ様の了解を得て下さい。」


 この4箇条を守れるならご案内します、と言うカタリナにうんうんと頷き、ありがとうと笑いかけた。



 話を聞いてセオドラはかなり渋った。

「ダメだよ。ゾーイ」

「セオドラ様の従者になれる男か、様子を見に行くだけです。接触はしません。」

「ダメだ」

「セオドラ様…。」


 ウルウルとした眼でセオドラを見つめる。しばらく2人で見つめ合った後に、深い深いため息をつきセオドラは言った。


「ダメと言っても行くんだろな。ゾーイ、お前はそういう女だ。」

「……」

「カタリナから片時も離れるな。アレックスのそばには行くな。わかったな?」


 セオドラは、俺はお前を失いたくないんだ、そう言ってゾーイの額に軽く唇を触れた。


 ゾーイはこくこくと頷いた。



 数日後、ゾーイはカタリナと街に飛んだ。目的の居酒屋はドアを開ける度にタバコの煙とアルコールの匂いが外に漏れ出す様な店だった。


 20歳の女に姿を変えたゾーイと淑やかな風情のカタリナは人混みの中で居酒屋の様子を伺っていた。


 夕方の1番人出の多い時間。仕事を終え家路を急ぐ者や買い物をする者、走り回る子供達で溢れかえっていた。

 

 あっ!と思った時、ゾーイは後ろから走ってきた子供とぶつかり、倒れそうになった。


 その瞬間、誰かがゾーイの腰を抱き留めた。その男は、この世の者とは思えない優しい風を纏い、眩しいほどの麗しい顔で爽やかに笑い、ゾーイの眼を見て言った。


「お気をつけて」


 名前を聞く暇もなく、男は消えた。  

 ゾーイはただただその後ろ姿を見つめていた。



 そろそろ中に入りましょうかとカタリナに言われて、ゾーイは我に返った。


ーわたし…


 モヤモヤとした気持ちを振り払い、ゾーイはカタリナに伴われて居酒屋に入った。

 

 立ち込める煙の向こう、1番奥の席に先ほどの男がいた。1人で琥珀色の酒を舐める様に飲んでいたが、ふと目線をこちらに向けた。


 まあ、と小さな声をあげ、ゾーイは顔をほんのりと赤らめた。カタリナが、いけませんという様にゾーイの袖を引いたが、ゾーイは男に向かってわずかに微笑んだ。


 男は立ち上がり軽くお辞儀をして、ゾーイにこちらへどうぞという様に手のひらで自分の席を指した。


 ゾーイとカタリナが席に着くと男は、先程は失礼いたしました。あの後は大丈夫でしたか、と爽やかな笑顔でゾーイに尋ねた。


「こちらこそ、助けていただきありがとうございました。やはり、慣れない場所は気をつけないといけませんでしたね。」

「お怪我もなくてよかったです。」

と男は言うと、2人に飲み物を注文してくれた。


「こんな所で若い女性がアルコールを呑むのはよろしくないですからね。ジュースですよ。そして、それを飲んだらお帰りなさい。変な奴らに絡まれないうちにね。私だって酔ったら何をしでかすかわかりません。ここはそう言う場所ですよ。お二人の来る場所ではありません。」


 その後、男はこの辺りでおすすめの美味しい料理を出す店の話などをして2人を和ませてくれた。ゾーイとカタリナはジュースを飲んで大人しく居酒屋を出た。



 その日、夜遅くセオドラの元に飛んだゾーイは嘘をついた。今日はアレックスには会えなかった、と。セオドラはゾーイを抱きしめてもう行くなと言ったが、ゾーイは首を振り、もう少しだけやってみると答えた。


 侍女のカタリナは居酒屋であった事をセオドラに報告していたが、ゾーイはその事を知らなかった。ゾーイのついた嘘がセオドラをどれだけ苦しめたか、ゾーイはその時は気づきもしなかった。


 屋敷に戻ったゾーイはなかなか眠れなかった。窓辺に座り、赤い月と青い月を見ながらゾーイは呟いた。


「月の姫君…私…」


 2日後、ゾーイとカタリナは再び居酒屋に行った。カタリナはやめた方がいいと言ったが、ゾーイは大丈夫と言って聞かなかった。

 居酒屋で待っていると、あの男が現れた。そして、2人を見ると、よろしいですかと断って同じテーブルに座った。


「お二人は何か理由があってここに来てるのですね?」


 誰かを探しているのでしょうかと尋ねられて、ゾーイは少し躊躇ったあと、頷いた。カタリナがやめておけという様に袖を引いたが、ゾーイはカタリナに真顔で大丈夫よとささやいた。


「私達は、アレックスという方を探しています。その方は困っている者を助けてくれると聞きました。」

「ほう…」

「その方が、この居酒屋によくいらっしゃると噂を聞いてここに来たのです。」

「それで?」

「私達は今、命を狙われています。それでアレックスという方に力を貸していただきたいと…。」

「ふーん」


 男はしばらくの間じっとゾーイの顔を見ていたが、不意に顔を背けた。そして、男は興味なさそうに、そいつは悪い話しか聞かない男、やめておいた方がいい、と言い席を立って行ってしまった。

 そのまま居酒屋で呆然と座っていると、奥から下卑た笑い声と共に、派手な身なりの女を2人連れたさっきの男が現れた。男は女達の首筋に唇を這わし、耳元で何かを囁いている。女達がそれに反応して男に抱きつく。


「おやおや、お嬢さん方!まだ居たのか!俺と遊びたいのかい?そうなら一緒に来るがいいさ。そうじゃないなら、二度と来るんじゃない!」

 

 男はそう言って女と共に居酒屋から消えて行った。



 屋敷に戻っると、カタリナは酷く怒った。

「お嬢様、もうダメです。いけません。あんな場所に行ってはなりません。」


 ゾーイは、もう行かないわ、とため息を吐き、窓の外に浮かぶ二つの月を見つめた。


 しばらくは大人しく過ごしていたゾーイだったが、ある夜、姿を消した。カタリナにも何も言わずに。




 ゾーイが現れたのは、例の居酒屋の近く。人目を気にもせず、居酒屋の入り口を見つめていると、誰かが肩に手を置いた。


「何をしている!来るなと言っただろ!それとも、俺とそんなにしたいのか?」


 男が険しい眼でゾーイを睨んだ。ゾーイは男を見つめ、小さな声で、わたし…。と呟いた。

 こっちへ来い、とゾーイは男に腕を掴まれ、路地裏に連れ込まれた。男はゾーイを壁に押し付けると両手で顔を挟み込んだ。右手の親指でそっとゾーイの下唇をなぞり、自分の唇で軽く触れた。


「ここまでだ。ゾーイ殿。これ以上は俺もお前も戻れなくなる。意味が分かるか?」

 ゾーイは首を軽く振った。

「俺がアレックスだ。わかってたんだろ、最初から。俺もお前がセオドラ殿の婚約者だとすぐに分かったさ。噂通りの美しい人だからな。それに俺はお前より強い魔力を持っている。お前が魔力で化けてる事もすぐに見抜けた。」


「…アレックス」

「俺とどうしたい?」

「……」

「俺とこのまま、どこかに行きたいか?それとも、セオドラの元に帰るのか?言ってみろ。」

「…」

「はっきり言ってみろ!」

「あなたと…このままどこかに…消えてしまいたい。あなたが好き。あなたといたい!…でも、出来ない。」

「…俺は…ヘタレのセオドラに完敗なのか?」


 ほろほろと涙を流すゾーイの顔を見つめながらアレックスが呟いた。


「くそっ!…この俺が16歳のガキに落とされるとはな…。」


 深いため息の後、ゾーイの涙を唇で拭い、アレックスは言った。


「ゾーイ、俺はお前に…。」


「俺はお前の為なら何でもしよう。お前を命に換えても守り続ける。お前がそうして欲しいなら、お前のために俺はセオドラの従者になってやる。お前は俺がジョージ派に雇われたと思ったんだろ?心配はいらないさ。あれは断った。」


 ゾーイを抱きしめながらアレックスは言った。


「セオドラに疑われたら俺の命も危ない。お前に2度と会えなくなるかもしれない。だからこのまま、俺に抱かれていて欲しい。」


 アレックスはゾーイをいつまでも抱きしめ続けた。



 長い抱擁の後、アレックスがゾーイに言った。


「明後日の陽が沈む頃、居酒屋のある広場にセオドラを何が何でも連れて来い。そして、暴れる俺を魔力で叩きのめせ。俺が倒れたら、俺を連れて城へ戻れ。

 いいか?皆の前でやるんだ。躊躇うな。

 心配するな、俺はセオドラやお前の魔力で死ぬ様なことはない。必ず悪いようにはしない。

 わかったなら、お前の屋敷に戻れ。」


 ゾーイはアレックスの言葉にうなづき、もう一度アレックスの胸に顔を埋めた。そして、小さな声で言った。


「もう少しだけ…。」

「だめだ。」

「…一度だけ…キスして欲しい」

「だめだ。行け!ゾーイ」



 

 約束の日、ゾーイはたまには買い物を付き合って欲しいとセオドラに頼んだ。そして、訝るセオドラを連れ居酒屋の前に飛んだ。通りはものすごい人だかりで、真ん中に酒に酔い大暴れしているアレックスがいた。


 突然、アレックスは動きを止め、真っ赤な眼でゾーイとセオドラを見た。


「おやおや、セオドラ王子と婚約者のゾーイ殿ではありませんか?こんな所でお目にかかるとは…。」


 そして、舐める様な眼差しでゾーイを見ると、


「ゾーイ殿、また俺に会いたくなったのか?」

と2歩3歩とゾーイに近づく。セオドラがゾーイを背中に隠す。

 

 よろよろとしながらアレックスが更にゾーイに近づくと、突然アレックスが吹っ飛んだ。皆の眼に映ったのは、怒りに震えながら魔力を発動させたセオドラの姿。


「無礼は許さんぞ!」

「無礼?俺とゾーイ殿の間で、か?」


 笑いながらアレックスは立ち上がり、更にゾーイに近づこうとする。

「ゾーイ殿、さ、こっちだ。」


 アレックスの手がゾーイに届こうとする直前に、セオドラの怒りが爆発した。再度飛ばされたアレックスが地を這う。


 アレックスが、セオドラ殿、やりますねぇ…と言いながら、更にゾーイに近づこうとする。


「やめなさい!アレックス」

と言うゾーイの声とセオドラの放った稲妻の爆音が重なった。

 

 静まり返った広場には、稲妻に打たれ意識をなくして倒れたアレックスの姿。ゾーイはアレックスに近寄り、そしてセオドラに言った。


「セオドラ様、これ以上はいけません。」

そう言うと、ゾーイは2人を連れて城に飛んだ。




 城の中、セオドラの部屋の中で、腕組みをしアレックスを見下ろすセオドラは怒りで震えていた。


 すると、呻きながらもアレックスが起き上がった。そんなアレックスにセオドラが言う。


「ゾーイが止めなければ、お前の命はなかったぞ。」

「やっと、本気になったな。セオドラ王子。」

「何を言う!」

「自分で気が付かないのか?ゾーイ殿を守る為に封印が解けたのを。」


 睨みつけるセオドラに近づき、襟首を掴んでアレックスが更に言う。


「お前は優しい、優しすぎるほどにな。だから人を傷つける事を恐れて、気づかない内に自分の魔力を自分で封印していたんだ。でも俺のゾーイ殿への態度で怒りが爆発し、封印が解けた。本気で俺からゾーイ殿を守ろうとしたからだ。」


「うるさい!俺はお前の話なんぞ聞きたくもない。」


「お前は俺とゾーイ殿の間を疑ってたんだろ?悪いな、お前の顔を見れば分かる。だから、ゾーイ殿に近づこうとする俺が許せなかった。そうだろ?違うか?

 心配するな。ゾーイ殿はお前を愛している。お前にぞっこんだ。そんなゾーイ殿と俺の間に何か起こるはずもない。ゾーイ殿を信じろ。

 あの騒ぎで、俺がお前に捕まったと皆に知れ渡った。ジョージ王子を立てようとしていた王族達にもすぐに伝わる。俺がお前の従者になったら、もう誰もお前に手出しはしない。俺に勝てる奴はいないからな。

それに、無いと言われていたお前の魔力を皆が見ていた。誰もがお前に手出しをする事を躊躇うはずだ。

 俺はゾーイ殿にお前を守ってほしいと頼まれた。そして、それを引き受けた。ゾーイ殿が心からお前を愛しているとわかったから、その気持ちに応えたいと思ったんだ。


 ここから先はお前が決めろ。

 俺に祝福を与え従者とするか、

 俺の命を絶ってしまうか。

 俺はどちらでも受け入れる。」


 セオドラはドンと椅子に座り、しばらく黙り込んでいた。


「2、3日考える。アレックス、お前は地下に収監する。逃げるなよ。逃げたら、赤い大陸スカーレットの名にかけて、お前を地の果てまでも追いかけ罰を与える」


 セオドラはアレックスの前で見せつける様にゾーイを抱きしめ、激しく唇を貪った。


 そして、アレックスに聞こえる様に言った。

「ゾーイ、今夜はお前を離さない。もう許して欲しいと言ってもだ。覚悟しろよ。」 


 ゾーイは振り返らず、セオドラに肩を抱かれながら部屋を出て行った。




 その夜…

 

 ベッドの上にゾーイとセオドラは横たわっていた。

 ゾーイはセオドラの腕の中でセオドラの顔を見つめて、眼を潤ませて言った。


「セオドラ様、ありがとう。」

「ん?何がだ?」

「私のこと、こんなに愛してくれて…。」


 セオドラがゾーイの髪に指を這わせながら言う。


「俺がお前に酷い事をすると思ったのか?」


「違うの。私、嬉しくって。セオドラ様と1つになれたから…。」


「セオドラ様、私に素敵な、初めての夜をありがとう。」


 セオドラは眼を潤ませているゾーイを抱きしめて耳元で囁く。

「これからは、何回でもするさ。お前がして欲しい時はいつでも。」




*** *** ***




 3日経っても5日経ってもセオドラはアレックスに何も言ってこなかった。そして7日め、ゾーイを伴ってセオドラが牢に来た。


 アレックスを牢から出すとセオドラはアレックスの襟首を掴み言った。


「お前の事を殴れるものなら殴りたい。だが、俺はこの国の王子だ。人に手をあげる事はない。

 俺の箍が外れない様に、ゾーイを連れてきた。俺は惚れた女の前で暴力を振るう男ではないからな。

 俺は情けない男だ。愛している女を信じ切る事ができなかった。ゾーイが俺に嘘をついたからだ。お前とゾーイに何かあったんだろう。ゾーイは何も言わない。嘘をついた事も認めない。言えよ!何があった。」


「ゾーイ殿は俺にセオドラ殿の従者になって欲しいと言ってこられた。」


「それだけか!」


「あの酒場に若い女性は相応しくない。だから帰れと俺は言った。」


「それだけか!」


「そして、俺はゾーイ殿の申し出を引き受けた。」


「それだけか!嘘を言うな!」


「それだけだ。他に何もない。」


「俺はゾーイを手離したくない。お前になんぞに、取られてたまるか!ゾーイは俺のものだ。分かったか!

 アレックス、お前はゾーイに頼まれたんだろ!だったら、命を賭けてこの俺を守れ。この弱い俺をお前に勝てるぐらいに鍛えろ。お前などには負けたくない。いつか、お前を叩きのめしてやる。

 俺は強くなりたい。王に相応しい男になりたい。この星を、この国を、すべての人を守れる男になりたい。そして、ゾーイの愛に応えたい。」


 アレックスの襟首を両手で掴み、眼を見てセオドラが言った。

「俺の下僕となれ。一生俺の元で俺を守り続けろ!」


 アレックスはセオドラの前に片膝を突いた。そして右手を左胸に当て頭を垂れて言った


「ご命令とあらば、何なりと。

 セオドラ様に月の姫君のご加護が在らんことを!そして、あなたの下僕に祝福を願う。」


 セオドラは剣を抜き、アレックスの目の前に差し出した。


「これでお前は俺の従者だ。俺の命令にこの先もずっと従え。俺を裏切る事は許さん!分かったか!」


 そして、アレックスの肩に剣を当てて言った。

「この国の王子として、汝を祝福する。」


 ゾーイはただ2人をじっと見つめていた。




*** *** ***




 ここまでの話を聞いたフランクは、顔を上げることが出来なかった。


ー16歳で魔性の女、王妃ゾーイ殿…

 セオドラ王子を国王に相応しい男にし、アレックス殿を落として、従者にした。俺は今、何という女性と相対しているのだろう…


 俯いて眼をパチパチとしていると、王妃ゾーイから声がかかった。


「ねぇ、言ったでしょう?子や孫に聞かせられない話だって。さぁ、今日はこれで終わりにしましょうか。」


 王妃ゾーイはまっすぐ前を向いて歩いている。フランクはその姿を畏って見送った。 

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