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スカサハ/スカディ2

神話の相手との戦闘回。




 ベネットはメメント・モリを素早く連射しながらスカディに接近するが、弾丸はスカディがノータイムで的確な位置に生成した氷の結晶が遮蔽となって受け止める。その強度はマグナム弾を物ともせず、余裕を持ってタクトが振るわれる。同時に軽く手を振るえば大量の氷柱が氷の床から突き出して来る。


「――!」


 一切の油断も無く直感が冴え渡るベネットは攻撃の予兆を察知し、ステップを踏みながら踊るように躱しつつメメント・モリの弾を再装填し、マジックスキル【アイステレポート】でスカディの背後に回って終雪を振るう。

 スカディはあっさりと背後から一刀両断されるが、それは精巧に作られた幻影だった。


「ほれ、こっちだ」


 謁見の間の反対側から声が響き、タクトを振るいながら神力を瞬時に溜め込んだ左手が突き出される。手の平から純粋なエネルギーに変換された極太のビームとして放出され、ベネットは再度【アイステレポート】で回避しようとした。


 ――っ! 動かない……!


 気付けば地面から生えた氷の鎖が脚に雁字搦めに纏わりついていて、魔法を阻害していた。


「【大飛閃】!」


 咄嗟にビームを切ることを思いついて巨大な飛ぶ斬撃を放てば、収縮していないビームは斬撃によって真っ二つに分かれ、そのまま押し返してスカディに届いた。

 だが、ダメージは無い。飛ぶ斬撃が手前に来た時点で障壁を貼られ、防がれていた。


「単調な攻撃では、我に傷一つ付けられんぞ?」


 スカディは挑発しつつ、動けないベネットの頭上に大量の氷柱を作り出す。その間にもタクトは振られ続け、次の魔法の準備に移っている。

 ベネットが即座に氷柱の前に【アイスウォール】で氷の壁を生成して対処すれば、今度は部屋全体に無数の氷の球体が出現、幾つかから細いレーザーが照射され、それが他の球体に当たって反射し、別の球体に同じように繋がりながら不規則に進んでベネットに向かって来る。


「くっ」


 続けざまに素早く繰り出される難解な攻撃にベネットは声が漏れ、【アイシームーン】で白く濁った氷の球体を幾つか生成して設置。レーザーの進路を塞いでギリギリのところで攻撃を阻止した。

 だがしかし、スカディがまるでオーケストラを指揮するようにタクトを振るい続け、次の魔法が即座に展開される。

 スカディの足元から強風が吹きつけ、風に乗ってキラキラと舞う微少な氷粒――ダイヤモンドダストがベネットを襲う。それは非常に細かい雪結晶の形をしており、表面は刃物のように鋭く、体を切り刻む。

 咄嗟に顔を腕で守ったベネットはこの全体攻撃を止めるべく、一瞬だけ魔法障壁で防ぎ、青い瞳から黄金の瞳に変えた。


「【金縛りの魔眼】!」


 その瞬間、風もダイヤモンドダストも空間上にピタリと止まる。だがその奥に立っているスカディは動き続けていた。


「魔眼か。神にその程度の魔なる力は効かぬぞ」


 タクトが強く振られる。その瞬間に部屋全体に白い濃霧が発生してホワイトアウトとなる。視界が無くなると同時、部屋を揺らしながら何かが迫る大きな音がし始める。

 壁のような圧を感じたベネットは足に絡まる氷の鎖を解く暇も無く、終雪を床に刺して気合と魔力を込めた。


「【二ノ秘・雪崩】!!」


 大質量の雪の塊を床から生み出して前方に流し込めば、すぐに何かがぶつかって衝撃波が起こる。白い濃霧は弾けて晴れやかになり、雪崩同士がぶつかったことが分かると同時、大量の雪が跳ね返ってくる。それをベネットが視界に捉えたことで雪の大半は落下途中で止まり、勢いが無くなったところで魔眼を解除すると重力に従って真下に落ちる。

 謁見の間の床が雪塗れになり、奥が見えたところでベネットは気付く。


 いない?

 ――いや、隠れた!


 何処に? という疑問が生じた直後、スカディは足元から左手を出して氷の鎖で縛りつけているベネットの右足を掴んだ。

 嫌な予感がしたベネットは躊躇なく終雪で自分の片足を切断し、メメント・モリで足元を連射しながら、氷を操る力で神の力により生成された氷の鎖に干渉して解いて【浮遊】の魔法で空へ逃げた。

 自分が居た場所を見れば、切断した足は芯まで氷へと変わっていた。


 頭が痛い……次はどう来る?

 違う……どうする?


 片足の痛みに加え、脳の処理に負担が掛かって発生している頭痛を堪える。それでも受け身では勝てないと分かっていて、肉を切らせて骨を断つつもりで思案する。

 でも、それを悠長に出来るほどスカディは加減しない。人の身に宿った分け御霊故に神としての権能が極々一部まで落ちていても、その中で全力を出し続ける。

 今度は空中に浮いているベネットの動きを阻害しようと、室内にも関わらず竜巻が起こった。雪を巻き上げ、その中に混じって雪結晶の形をした氷の手裏剣を幾つも混ぜて飛ばす。突然の竜巻によってバランスを崩したベネットは、軽度の高所恐怖症で抱いた恐怖心のせいで思考が中断されてしまう。目の前の状況に対処するしかなくなり、【アイステレポート】で竜巻の外に出たベネットは【氷刃六花】を連続発動して氷の手裏剣を氷の小さな刃で迎撃しながら終雪を構えた。


「【四ノ秘・雪風巻(ゆきしまき)】!」


 終雪を横に振るい、氷の刃を伴った竜巻を発生させてスカディの竜巻を相殺して打ち消した。


 ここから……!


 必ず次の魔法が来ることが分かりきっているベネットは、状況を変えるべくスカディよりも速く大きな魔法陣を足元に展開した。


「【アイスコフィン】」


 自分を起点に、謁見の間を越えて氷の城の大半を覆う巨大な氷塊を瞬時に生成し、自分ごと氷の中に閉じ込めた。これで雪や氷を物理的に使っての攻撃は意味を成さなくなり、ベネット自身も氷の中を透過して自在に動けるようになった。逆に雪と氷の中に隠れていたスカディは同じ土俵に引きずり出され、遠い位置に姿が見えた。


 スカディは攻撃パターンを変え、タクトの先端に神力を込めて大きく何度も振るい始める。振るった線上に無数の光玉が生成されてゆっくり進みながら設置され、エネルギー弾やレーザーが大量に連続で発射される。その弾やレーザーは芸術的な花火のように広範囲に飛び、一部はベネットを狙って飛んで来る。


 リアルシューティングゲームかよ……。


 そう思いつつベネットは自機狙いで飛んで来る弾とレーザーを最低限の動きで躱し、次々と飛んで来る弾幕を余裕を持って躱しながら見つめた。

 弾幕は三百六十度に短い間隔で発射されている為にその密度は非常に濃く、中心にいるであろうスカディの姿は埋もれて視界には映らない。【アイステレポート】で至近距離まで行こうかと考えたが、一度見せたやり方に対策を施していないとは思えず、やられる未来しか見えずに止めた。


 ――っ!?


 接近を始めた瞬間、ベネットは中心から力が一気に溜まるのを感じて警戒し、咄嗟に回避行動を取った。直後に太い光の閃光が射線上の弾幕を余波だけで消しながら元居た場所を瞬時に通り過ぎた。

 弾幕が一瞬消えたことでスカディが何をして来たのかベネットは見た。スカディはタクトから光の弓に持ち替えており、次の光の矢をつがえて弦を引き始めていた。

 これはスカディが山の神であり、狩猟の神でもあると言われていて、弓矢を得意とするからだ。

 当たれば即死しかねない威力があると判断したベネットは自身の直感を頼りに慎重に前進するが、近づけば近づくほどに弾幕の密度は濃くなり、矢の狙いがより精密になる。そのせいで一定以上から近づくことが敵わず、苦虫を噛み潰したような顔をする。

 でもそれだけが表情を歪ませていない。


 頭が……痛い!!


 脳の処理が限界に達し、頭全体がズキズキと酷く痛む。ゲームとして接続しているフルダイブ型VR機器も身体に悪影響が出始めていることを検知して警告メッセージが表示され、視界の邪魔をする。

 このまま状態が悪くなれば強制終了となり、スタミナの消費で息も上がっていて時間が無いことを悟ったベネットは、一度大きく深呼吸をして一か八かの攻撃に出る覚悟を決めた。

 終雪をしっかりと構えながら回避行動に専念し、心から(こいねが)う。


「……来てくれ。サルバトール」


 自らのパイロットと認めた者から、非常時における最後の手段として強く望まれた。その心の声が聞こえた意思在るスーパーロボットSA(ストラテジーアーマー)のサルバトールは想いに応え、空間をガラスのように割って氷を割らずに透過して突如現れた。

 そして、腕の外側に取り付けられているマナシールドを展開してベネットを守る態勢に入った。弾幕はマナシールドに届く前に空間装甲として展開されているマナバリアが全てを打ち消し、スカディが放った光の矢はマナシールドが完全に防ぎきった。


「ほう、機械仕掛けの神(デウスエクスマキナ)を呼び寄せるか! そやつは世界の守護者であり破壊者だ。精々、見限られんようにするがよい」


 サルバトールに関心を抱いたスカディは、空間に響くようにベネットに語り掛けた。分かっているベネットはサルバトーレが自分の想いに応えて守ってくれたことに感謝し、稼いでくれた時間を使って、限界の中だからこそ出来る最後の一撃の準備を整えた。


「スカディ、お前を斬る……」


 ベネットは呟き、確実にスカディを斬る為に最近猫の試練で覚えた、絶大なステータスが取得条件となる最上位の氷属性魔法を、自分を起点に魔法陣を展開して発動する。


「【アブソリュートゼロ】」


 絶対零度の魔法が発動し、結界がベネットを起点に一気に広がる。指定している仲間を除いて結界内の存在は全てが凍てついて活動を停止し、一切の動きが時間が止まったように無くなる。それは概念的存在で〝死〟というものが無い神でも例外ではなく、結界内ならば神の存在がその場に固定されてしまう。つまり今この時に限り、スカディという神は()()()()()ことを強制されたのだ。


 だがしかし、神は神である。人間の常識外にいて、高次元の存在たる神は時空間に縛られず、結界内でも動けてしまう。弾幕は全て凍って停止しているが、また新たに対策を施した弾幕を作り直せば済む話なのだ。

 時間を掛ければすぐに立て直される。だからこそ、ベネットは自分の状態も鑑みて一撃に賭けた。


「【六ノ秘・冬霧(ふゆぎり)】!!!」


 気合と魔力を込めて大量のMPを消費し、終雪のスキルを発動する。刀身は霧を纏って実体と非実体の境界状態となり、消費したMPに応じて伸びてその場からスカディに充分届く長さとなる。


「ハアアァァァァァァッ!!」


 頭痛を誤魔化すように腹から出せるだけの声を出し、ベネットは終雪を振るい、スカディを真っ二つに切断する。

 だがそこで止まらず、ベネットは振り返る勢いを乗せて終雪を横に振るった。心で繋がっているサルバトールは動きに合わせて横に素早く移動し、背後の遠方――ずっと姿を見せずに隠れていたスカディを斬った。

 スカディの体は胴体から真っ二つになり、同時に魂をも切断してみせた。


「……ハハハ。我が人間に斬られるなど、いつぶりだろうか……」


 満足そうに笑ったスカディは光の粒子となって消滅した。


「……はぁっ」


 完全に戦いが終わったと認識したベネットは息を吐き、発動中のスキルを解除して殺意のゾーンも解きながら終雪を刀に収めた。

 役目を終えたサルバトールは空間を再び割ってさっさと帰り、ベネットは頭痛を堪えつつ疲れた体を休める為に力を抜き、氷の中を漂うように横になって目を閉じた。


 直後、消えた筈のスカディの気配がして頭を優しく撫でられ、目を開く。真横には凄まじい後光で顔が見えないが、愛おしくベネットに微笑む女性が立っていた。 


「よくやったぞベネット。今は横になっているがよい」


 敵意が無く、女神らしい母性を感じたベネットは言われるがまま再び目を閉じて体を休めた。

 周囲の環境はスカディがすぐに変え、氷の塊は消えて城は元通りに戻り、場所は変わって寝心地の良い天蓋付きベッドの上で膝枕をされる。

 自分で切断した足も治され、ベネットはすぐに寝息を立て始めた……。








 時間は少し戻り、場所を移動したベネデッタとスカサハは雪で覆われた外に出ていた。邪魔が入らないよう、フォビアとミリアムの二人から離れた場所だ。


 移動が終わった直後、二人は同時に飛び退いて戦いを仕切り直す。

 直後、ベネデッタはダアトライフルを構えて発砲。事前にモードをショットガンにしていた為にエネルギーの散弾が飛び出し、拡散こそ少ないものの弾くという選択が取れずにスカサハは少し大きな動きで躱した。

 レバーアクションによる排莢と装填を行っている間に、スカサハは雪の地面を無視するように魔法の足場を一瞬作って強く踏み込み、瞬時にして間合いを詰めて一本の槍が突かれる。ベネデッタは下がりつつも左手を軸に右手を動かしてダアトライフルで受け流し、もう片方の槍の薙ぎ払いを流れるようにストックを地面に突き立て足で固定して受け止めた。


「っ!」


 ……馬鹿力め!


 ダアトライフルに来る衝撃は手を痺れさせ、足で固定しなければ弾き飛ばされてしまう程に重かった。衝撃はベネデッタを突き抜け、柔らかい雪を巻き上げる。

 休む間も、気を抜く暇も無くスカサハは器用に手の中で槍をくるりと回転させ、突いた槍をダアトライフルで防いでいない方向から振り回し、薙ぎ払った槍は素早く手の中で滑らせて後ろに下げ、刃の近くを持ったと同時に手の中で慣性移動させて突きを放った。

 凄まじい集中状態と先読みをしているベネデッタは、くるりとダアトライフルを横に一回転させて両方を受け流し、そのまま向きを変えて銃口下部に取り付けられた銃剣を振り下ろす。だが、軽く片方の槍で弾かれ、再びもう片方の槍で突きが放たれる。

 それをダアトライフルで横へ受け流しながら下がって距離を離そうとするが、スカサハは間合いを維持して前に詰め寄り次々と両手の槍で攻撃を繰り出す。

 突き、薙ぎ払い、振り下ろし……常人なら何処かで二本の槍の動きが干渉してミスを起こすが、それが一切無い。何百年、何千年と積み上げて来た修練と戦いによる動きは無駄なく洗練されて芸術のような美しさすらある。

 また、金属の槍は常人が持って扱えないくらいに重く、ベネデッタは受け流したり弾くだけで手に負担が掛かり、痺れと痛みに顔を歪めて汗が流れた。

 距離を取るのに魔法を使うという選択肢はあったが、ベネデッタは行わない。隙の無い二本の槍の連撃の対処で手一杯というのもあるが、スカサハが目の前に集中しながら周囲にも意識を向けており、何かしても確実に対処され、むしろ隙を晒してしまうと思ったのだ。




 バキッ!




 防戦一方の中、重い攻撃を受け続けいたダアトライフルが折れた。最初の一撃を受け止めた時、僅かに亀裂が入っていて度重なる防御で限界を迎えたのだ。


「くっ」


 ダアトライフルが突如として折れ、スカサハの槍の薙ぎ払いがベネデッタの腹を裂いた。氷の分身だからこそ今の一撃は致命傷にはならなかったが、ここで分身が解除されてしまう程のダメージを負った場合は負けと見られることを考えると、余裕は無い。

 なりふり構っていられないベネデッタはすぐに思考を切り替え、まずは後ろに飛び退きながら【アイスウォール】で足元から氷の分厚い壁を生成し、時間を稼ぐ。スカサハの突きが氷の壁を貫通して襲い掛かるが、切先は寸でのところで止まった。

 が、それは僅かな時間の猶予が出来ただけ。ベネデッタはMPを多めに使用して【アイスソード】を発動、頑丈な二本の氷の剣を生成して握った。続けて少しでも自分が有利になれるようにアクティブスキルを発動する。


「【ブリザード】【ミラーバーン】【ホワイトアウト】!」


 さらにもう一つ。


「【氷霧(ひょうむ)】!」


 防具のスキルによって吹雪を発生させ、自分を起点に雪の上から摩擦ゼロの氷を張り、白い濃霧に周囲を包む。そこにマジックスキルで極寒の冷気・大の効果を持つ霧を周囲に漂わせ、対策無しでは身動きすらままならない状況を作り出す。

 これで寒さによる自己強化もされ、少しは戦えるようになる。そう信じるベネデッタは視界を潰したにもかかわらず、躊躇なく接近して槍を振るって来るスカサハの攻撃を剣で受け流した。


 滑らない……?


 疑問を抱き、防御しながら下がりつつ一瞬だけスカサハの足元を見れば、靴から魔力が感じられた。

 これは、スカサハが事前にルーン魔術によって靴底に滑り止めの魔法を掛けていたのだ。戦闘中の転倒は死に直結するから当然の対策である。他にも戦闘の為に衣服に様々な魔法が施されているが、それらは普段は秘匿されていて見えないし感じられないようになっている。

 そのスカサハは、ベネデッタが急に強くなったのを感じ取って大きく飛び退くと、二本の槍を重ね合わせた。しっかりとルーン魔術が施されている槍は接着剤でも付けたかのようにピタリとくっつき、一瞬で凄まじい量の魔力を込めて投げ槍としてぶん投げた。

 ルーン魔術が施されている重なった鉄槍は手から離れた瞬間に超加速し、レールガンに射出される砲弾と同等の弾速で飛んだ。空気の壁など一瞬で突き抜け、雪どころか埋まっている土を抉るように巻き上げて進み、霧が一時的に晴れた。


 だが、これで終わりにはならない。

 スカサハもそれが分かっているからすぐに空間に手を突っ込んで二本の剣を取り出し、振り返ると同時にベネデッタの氷の剣を防いだ。

 ベネデッタは、投げ槍が当たる直前に【アイステレポート】で背後に逃れていたのだ。


「さぁ、第二ラウンドと行こうか!」

「……」


 スカサハは告げ、仕切り直しがしたいが為に剣で押し込んでベネデッタに距離を取らせた。

 衝撃波で一時離れていた霧が再び周囲を覆い始め、ベネデッタは霧の中に姿を消した。


「……あれほどの殺意を抱き、濁った目をしながら気配を完全に隠すとは……見事だな。だが、甘い!」


 その場に佇んで仕掛けて来るのを待っていたスカサハは、ベネデッタの動きを完全に読み取って側面からの奇襲を防いだ。防がれたことが分かったベネデッタはすぐに離れ、再び霧の中へと隠れた。

 何故分かったのか?

 それはスカサハがこういう戦いを何度も経験しており、あらゆる探知系の魔法を衣服と体に施しているからだ。だから視界が潰されても、気配が無くても関係がない。


 再びベネデッタが奇襲を仕掛けるが、またスカサハにあっさりと防がれる。氷の分身を遅れて背後から襲わせるが、押し込まれて離されると、その隙に気配だけを頼りに振り向かずに分身は切り裂かれた。


 ……なら、こうしよう。


 霧に紛れての攻撃が通用しないとみるや、ベネデッタはスカサハに気付かれないように()()()()を仕掛けた。常に意識を配り続けないといけないもので、今までの戦いとベネットの戦いにより、脳に負担が生じて頭痛が起こり始めていた。


「【ホワイトアウト】」


 気休め程度の効果しかない白い濃霧の発生時間を延長し、ベネデッタは正面から突っ込んだ。同時に、ベネットを通して見てスカディの魔法を真似て、魔法陣をスカサハの足元に展開して氷の鎖を出した。新しいマジックスキルを覚えた。

 だが、歴戦の戦士はそれを一瞬で見抜いて素早く移動し、片手の人差し指で空中にルーン魔術を描いて影の鎖を生やして絡ませ、相殺した。

 でもそれでいい。続けて【アイスウォール】で四方を囲い、壁から氷の分身を出して襲い掛かる。スカサハは魔力で一瞬だけ身体強化の出力を上げて全周を瞬時に切り裂いて壁を破壊しながら分身を倒した。本体であるベネデッタは遅れてスカサハに氷の剣を振るい、防がれつつも間髪入れず攻撃を続ける。

 頭痛が酷い。

 それでもベネデッタは思考の並列処理を止めずにさらに分身を作り出し、左右から攻めさせる。スカサハはまた一瞬だけ身体強化の出力を上げて目にも止まらぬ速さで切り裂き、左右とベネデッタ本体を倒した。


 ――筈だった。


 一度倒させ、仕掛けが無いと思わせることによって不意打ちとなる。バラバラに切り裂かれた筈の分身はすぐに氷が再生して繋ぎ合わさって元に戻ったのだ。左右の分身はそのまま捨て身で進み、スカサハの腕を掴んだ。正面にいるベネデッタ本体は氷の剣を突き出して飛び掛かり、切先が衣服を貫けないのを見て手放し、抱き着くように押し倒した。

 衣服はルーン魔術によって強化されていて、並大抵の攻撃では傷すらつかない。何かしらの強化が施されていて鎧同然だと考えていたベネデッタにとってこの結果は想定通りであり、先程覚えたマジックスキル【アイスバインド】で自分ごとスカサハの前進を氷の鎖によって地面に縛った。

 いつの間にか雪の地面は圧縮されてカチコチになった氷に変わっており、体勢的に力が出しきれないスカサハもすぐには抜け出せない。ルーン魔術を使おうにも、両手は分身が氷に戻ってその氷の中に封じ込められており、使おうにも一手間掛かる。


「これで勝ったつもりか?」

「ああ、これで終わりだ」


 傷一つ付けられない、確たる自信から言ったスカサハに言い返し、ベネデッタは仕込んでいた魔法を行使した。

 ……遥か上空、吹雪を発生させている分厚い灰色の雲よりも上、スカサハの探知に引っ掛からない程に離れた位置にて、マジックスキル【アイスランス】が発動していた。威力を大きくする為に長くしており、時間を掛けて魔力を込めて圧縮し、その強度と威力は計り知れない程になっていた。

 それが今、ベネデッタの意思によって動き出し、重力落下を加えて一気に加速、魔力で空気抵抗を無視して一直線に突き進む。目標はベネデッタ自身。




 ――そして、氷の槍が二人を穿って地面へと突き刺さった。




 衝撃で硬くなった氷の地面は槍を中心に亀裂が大量に入り、スカサハの背中から血が滲み出る。


「……これで勝ちだ」


 堂々たる勝利宣言。

 スカサハと同じく氷の槍に貫かれているベネデッタは、そもそもが氷の分身であり、同じ氷で出来た槍はダメージに入らないのだ。これは肉体を持つベネットでも同様で、氷雪女王としての力がそうさせる。


「……ハハハハハ! 槍で貫かれるのは、既に旅立った弟子たち以来だ! 私の負けだ。実に楽しかったぞ!」


 不老不死で、急所である心臓を貫かれても笑って元気に喋るスカサハは、腕に力を込めて両手の氷を砕き、ルーン魔術で簡単に氷の鎖を解いた。それから氷の槍を素手であっさりと切断し、ベネデッタが退くと何事も無かったかのように立ち上がった。

 その胸の中心は確実に貫かれて衣服に穴が開いていたが、体の穴は既に綺麗さっぱり塞がっており、元の美しい素肌を見せていた。


「では、勝負はこれにて終了。城へ戻るとしようか」

「一人で帰ってくれ。寝る」


 心身共に疲労があって頭痛がするベネデッタは、氷の分身――マジックスキル【氷像分身】を解除して、ベネットの体の内側に戻って寝た。






 スカサハが転移して城へ戻って来たことを察知したスカディは、ベネットを起こして再び謁見の間に戻った。

 既に玉座に座っていたスカサハはスカディの姿が気になり、声を掛けた。


「スカディ、私が用意した体はどうした?」

「斬られて消滅した」

「……そうか。お前も負けたのか」


 本当にスカディと自分を倒してしまったことにいたく喜び、言動に出さずとも嬉しそうな表情になった。


「ベネット、ちと形式ばって堅苦しいと思うが、まずは我らの前で跪くがよい」

「分かった」


 ベネットはスカディの指示に従い、二人の正面で跪く。

 スカディも玉座に座ったところで、咳払いをしてから威厳のある口調で言った。


「ベネットよ、よくぞ我らを打ち倒し力を示した。約束通り、褒美として我らの力を最大限に与えよう。まずは我から」


 スカディは手の平に斬られて損傷した自身の分け御霊を出すと、それをベネットに飛ばして埋め込んだ。分け御霊は体を器としている魂に溶け込み、混ざり合って糧となった。

 脳内に音声が響く。


『種族がヒューマンから、ユニーク種族〝現人神・スカディ〟になりました』


「これでお主はこのスカディの権能を得た。我が氷雪の力と、我が系統の神々の文字を使った【神式ルーン魔術】を存分に振るうがよい」

「……はい」


 本来ならもっと相応しい言葉はあったが、ベネットはそれだけしか言えなかった。自己認識の一割ほどがスカディとして変わってしまい、混乱していたのだ。


「次は私だな」


 スカサハは立ち上がるとゆっくりと段差を降りてベネットの前に立った。


「立てベネット。私に顔を見せてくれ」


 言われて立ち上がったベネットに、スカサハは両手を伸ばして頬に触れ、愛おしそうな表情で顔を近づけて目を覗き込んだ。


「……私からはこの身の全てをやろう。正直、長く生き過ぎてそろそろ眠りに就きたかったんだ。それに、もう一人のお前には体が必要だろうからな」


 言い終わったスカサハはそのままベネットに口づけした。それによってスカサハの体はベネットに溶け込むように消えた。

 目を大きく見開き呆然としつつも、彼女の柔らかい唇の感触を確かめるように、自分の唇に指を当てたベネットの脳内に音声が響く。


『ユニーク種族〝現人神・スカディ〟から〝現人神・スカサハ/スカディ〟へと変更されました』


 スカサハが消えたことをこの目で見届けたスカディは、一瞬だけ目を伏せて彼女の人生に敬意を表し、口を開いた。


「これにて我らの務めは終わった。この世界から消えるとしよう。だがその前に、最早隠す必要も無いから忠告しておく。神々も一枚岩ではない。人間が好きで助力する神もいれば、人間を嫌っていたり、死こそ救済であり別世界への転生がより良い成長に繋がると考え、世界を積極的に終わらせようとする神もいる。故にジエンド側に付く神もいて、ジエンド側に付く人間がお主たちの中からも必ず現れる。気を付けるのだ。お主たちが強くなればなるほど、向こうもそれに合わせて強くなる。しかし弱いままでは蹂躙されるだけに終わってしまう。強くなることを拒んではならんぞ。最後になるが、此度の世界の終焉は想像を絶する災厄がこれでもかと降り注ぐ。覚悟しておくのだ」


 忠告が終わったスカディは光の粒子となって消え、氷の城も最初から無かったかのように消えて、ベネットは吹雪が舞う雪の平原に立っていた。真上を見ても影の城は無く、その存在は自分の中にあると感じる。


「……寝よう」


 激しい戦闘に加え、スカディとスカサハが自分の中に混じってしまったことで、色々と思いや記憶が混濁して変な感覚がするベネットは、とりあえずログアウトした。



もう隠す必要が無いからと、神様がぶっちゃけちゃいました。

聖杯を求めて人類存続を目指すとあるゲーム並みに壮大な状況です。

風呂敷を広げるのもここまで!

ハーフアニバーサリー以降は物語の終わりへと向かい始めます。

これからは楽しい楽しいゲームではなく、おどろおどろしいリアルが近づいて来るでしょう。

まぁ、主人公たち超人はそれを何となくで分かっていたから、突き動かされるように強くなることに拘っていた感じです。


ただのゲームがどうしてそんなに壮大か?


ちゃんと整合性が取れる仕掛けがありますので、ご期待ください。


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