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運のいい男

新武器と、ある男との邂逅。



 久々のログインから翌日。


 いつもの時間にログインしたベネットは、テスタメントや大罪の七姉妹の活動報告書を確認し、今日は何をやろうかと思考を巡らせ始める直前で、テスタメントの方から電話の呼び掛けがあって応じた。


「テスタメントか。どうした?」

「おはようございますベネット様。以前お伝えしていた、新たな武器が完成して調整も終わりました。マイルームの方へお越しください」

「分かった。すぐに行こう」


 通話を切り、ベネットは転送装置からマイルームへ移動する。

 マイルームの中ではテスタメントが一人静かに佇んで待っていた。手前にはベネットが購入した覚えのない大きなテーブルが設置されており、その上に長方形のアタッシュケースが載せられている。


「お待ちしておりました」

「それでテスタメント、新しい武器とは?」

「こちらです」


 既に留め具は外されていて、アタッシュケースが片手で開けられる。

 中に入っていたのは、未来的デザインのライフル銃だった。銃身はライフルにしては短く、ストックも長くない。トリガーガードにはループレバーが付いている。その周りには長さの違うバレルとストックがあり、さらには外装パーツが沢山あった。


「……これは?」

「私が各世界の技術を取り入れて作り出したレジェンド武器『ダアトライフル』です」

「ふむ」


 どんな武器か興味があるベネットは、早速ライフルを手に掴んで構え、予想した作動方式――レバーアクションを行ってカシャカシャと動かした。


「……やっぱりレバーアクションか。浪漫はあるが、古臭い方式にした理由はなんだ?」

「既存の銃とは異なる弾薬を使用しますので、その作動方式を採用しました」

「その弾薬とは?」

「実弾ではなく、魔力を使ったエネルギー弾を使用します。こちら、魔力を圧縮保存するバッテリー、セルと呼ぶ物です」


 テスタメントがインベントリから小さな箱を出して中を見せたのは、電池のような青い弾薬の束だった。


「電池みたいだな」

「そういう認識で問題ありません。これに魔力を充填することで、一発一発がスキル【チャージショット】と同等の威力を発揮します」

「それは強いな」

「それだけではありません。チューブマガジンによって装填されたセルは直列回路の状態にあります。モードを切り替えてチャージすることで、装填した弾数を全て使うことによって強力な射撃――ビームを撃ち出すことが可能となっています」

「おぉ、凄いな」

「試し撃ちをしたいでしょうがもう暫しお待ちを。モード切替にはもう一つあり、このライフルはエネルギー弾を拡散させ、散弾を撃ち出すことも可能となっています」


 その説明に、この銃のコンセプトがどういったものなのかベネットは完全に理解した。


「……なるほど。だからレバーアクションか」

「はい。遠距離ではライフル、近距離ではショットガン、威力が欲しい時にはチャージと使い分けることで、一丁で遠近両方に対応可能な万能武器となっています」

「うむ。玄人向けという点を除けば素晴らしいな。それで、バレルとストックやこのパーツは?」

「それこそ、状況に応じて使い分けられるようになっています。精度や装弾数が欲しい時にはバレルを長銃身に。ストックが不要ならばより短く。後は必要に応じてパーツを取り付けてください。どれも着脱が簡単で、インベントリに入れておくことで容易に交換が可能となっています」


 テスタメントが手を差し出し、ベネットが銃を渡すと目の前でバレルやストックを簡単に外して見せ、長銃身に長めのストックが装着される。さらにライフルスコープとバイポッドが所定の位置に近づけるだけで磁石のようにくっつき、完全な狙撃銃へと変わった。


「こんな感じです。所有者以外には外せないロック機能がありますので、分解される心配はいりません。現在の状態ですとスピンコックは出来ませんが、銃身を長くしたことで装弾数や初速や貫通力が上昇しています。勿論、チャージショットの威力も格段に高まっていますので、状況に応じて使い分けてください」

「ああ、ありがとう」


 礼を言ってベネットはダアトライフルを受け取り、最初の状態に戻してから各種アタッチメントと一緒にインベントリに仕舞った。


「弾は貰っていいか?」

「どうぞ。この一週間の間に私の方で量産しておきました。ですが、暇がある時などはご自身でお願いします。こちら、充填していないセルとなります」


 さらにインベントリから出された小さな箱は、白いセルの束だった。


「魔力を充填したら青くなるのか?」

「はい。因みにこのセルは使用して排莢した後、即座に粒子となって消滅する機能があります」


 無駄に高い技術だが不要な機能に思え、ベネットは首を傾げた。


「その機能必要か?」

「必要です。証拠を残さないことは大事ですから」

「……そうか」


 暗殺にでも使えということだろうか?


 そんなことを思いながらベネットはセルを装填し、追加で出された大量の弾薬と一緒にダアトライフルをインベントリへ仕舞った。


「で、試し撃ちに的確な場所はあるか?」

「でしたら、私の故郷である第五世界はどうでしょうか。今はロボットたちが訓練用として近場に配置されていますし、侵食型ジエンドが定期的に攻めて来ていて、その対処で本格的な戦いも可能です」

「大丈夫かそれ?」

「指揮する存在がいない以上、活動は散逸的なので問題ありません」

「そうか。なら行こう」


 ベネットは部屋を出て、第五世界へ移動した。






 第五世界の最初の拠点。

 そこは最初は閑散とした軍事基地であった。兵士の数もそれほど多くなく、絶望的な戦いを続ける人類最後の拠点の一つと言って過言でない状況下、それでも諦めなかった者たちの住処だった。

 だが、本来敵として終わる筈だったテスタメントが味方となり、本当の敵であるジエンドに対抗する対抗する為に大艦隊を率いて大量のサイボーグとロボットが地上へと舞い降りた。まるで基地を守るように展開された大部隊は次々と施設を建築。ベネットが来るまでの間にすっかり様変わりしていた。


「……なんだこれ」


 第五世界に到着してすぐ、ベネットは眼前に広がる光景に口をぽかんと開けて呆然とした。

 それも仕方のないことだった。基地がまるっと街に変わっていたのだから。四方を見ても建物が建ち並び、戦いとなればすぐに薙ぎ倒されそうな境界線の鉄柵は見当たらない。

 NPCの兵士たちの数は格段に増えており、サイボーグの兵士も人間らしく行動をしていた。


「ベネット様、まずは射撃場へ案内します。こちらへ」


 転移して来たテスタメントに案内され、移動する。

 到着したのは街の隅にあるシンプルな射撃場。

 NPCに混じって新人らしいプレイヤーや、古参プレイヤーが混じっている。


「では、試射をどうぞ」


 テスタメントに促され、ベネットは頷いてから空いているブースに入り、新武器『ダアトライフル』を出して銃身下部から弾であるセルを装填して構え、引き金を引いた。

 ダアトライフルから独特な音を発せられ、ライフル弾と同等の弾速で光弾が飛ぶ。

 四百メートル地点の人型の的の頭部に、しっかりと命中した。

 ベネットは予想した着弾と違うことに首を傾げ、銃を置いて振り返った。


「テスタメント。この銃の最大射程は?」

「通常ですと二キロ。チャージショットで五キロとなっています。また、弾道は真っ直ぐで落ちることはありません」

「そうか」


 銃身やストックの長さを変えて試そうと思っていると、来た時からチラチラと視線を向けていたカウボーイ風の男が近づいて来た。


「あ、あの!」

「ん?」

「あんたベネット……だよな?」

「ああ」

「俺はラック。良かったらだけどよ、一緒に冒険しないか? な?」


 突然のお誘い――ナンパにベネットは迷った。ラックと名乗った男にやましい気持ちなど無く、ただ偶然の出会いに興味本位でいるだけだ。

 テスタメントに視線を向ければ、彼女は何も反応を見せず自分から意見はナイト態度で示していた。


「……分かった」

「よっしゃ! 俺、そんなに強くないから、その……ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いしますッ!」

「ん、テスタメント」

「はい」

「いい感じのダンジョン的な場所はあるか?」

「それなら侵食区域の殲滅をお願いします」

「分かった。場所は?」

「マップに表示しておきました。ここからそう遠くない地点ですので、ヘリでの移動がよろしいかと」

「ではラック、行こうか」

「おう!」


 ベネットはテスタメントと別れ、ラックと一緒に基地の隣に建設された空港の滑走路に来た。空いているヘリポートの前に立ち、言った。


「【ヘリ・展開】」


 出現したのは全長数十メートルの巨大な黒いヘリ『ロックバード』だ。ハカセとルーナで共同開発した唯一無二のヘリであり、双発ローターで様々な武装がされている。


「うおっ、でっけぇな!」


 ラックが素直な感想を口にする中でベネットは早々に乗り込み、ラックも慌てて乗り込んだ。

 二人がコックピットに乗り込むとエンジンが勝手に起動し、各種機能も起動してシステムチェックが始まる。

 同時に、瞬時にヘリにハッキングして制御下に置いたテスタメントが通信機越しに言った。


「ベネット様、こちらのヘリは私の方で操縦しましょうか?」

「いや、練習がてら私の手で動かす。だから非常時以外はサポートだけでいい」

「了解しました。管制塔には既に離陸許可を得ています。どうぞ」

「ありがとう。ロックバード、離陸する」


 流れるように会話し、ヘリはすぐに飛び立った。

 マップ上には既に目的地がマーキングされ、優雅な空の旅となる。

 操縦桿から手を離しはしないが、少し暇になったベネットはラックについて知ろうと声を掛けた。


「なぁラック、君はこのゲームが楽しいか?」

「ん? おう! 楽しいぜ。でもなぁ……つい最近、ちょっと嫌なもんを見ちまって、気分が盛り上がらなかったんだよ」

「嫌なもの?」


 ベネットが好奇心に聞いて来ることで、ラックは()()()のことを鮮明に思い出し、眉間に皺が寄った。


「……ワールドシップに襲撃があっただろ? あの時俺は、敵がどういう奴か知ってしまったんだ。アレは、紛れもなく人間だった。操られ、強制的に動かされた……。ベネット、ジエンドって何なんだ?」


 単純だが、まだごく一部の人間しか分かっていない疑問。

 恐らく、という不確定な意味を含めてぼんやりとその正体を分かっているベネットは、彼に言ってしまっていいか悩んだ。

 その時、テスタメントが言った。


「ベネット様、既に運営は極端に情報を隠蔽することを止めました。話をしても問題ない方には、あなたが想定している未来を話してもよろしいかと」

「……」


 テスタメントの言葉にベネットはよそ見運転をし、ラックをしっかりと見つめて彼の本質を見極めようとした。

 感じ取ったのは誠実さ、根性、馬鹿。人として大成はしないが、多くの人に好かれるタイプ。

 それに加え、ベネットは彼から微かに何かの神の気を感じた。


 ……彼なら、大丈夫そうだ。


 ラックの人間性と精神力を信じ、ベネットは口を開いた。


「そうだな……ジエンドは、世界を終わらせる存在……だと思う」

「世界を終わらせる? いやまぁ、名前からしてそうなんだろうな」

「それだけじゃない。このゲームは、現実になる」

「は? なんじゃそりゃ?」


 想定されたラックの疑問に、ベネットは淡々と続けた。


「方法は分からないが現実になる。だから、私たちは強くならないといけない」


 ラックはベネットをジッと見つめ、冗談でないことを察した。


「……俺馬鹿だから、何がどうしてそういう結論になったのか分からねぇけどよ、嘘って訳じゃなさそうなのは分かった。ガンマンに拘りがあったけど、そうも言ってられなさそうだ」


 今聞いた話が全て真実だったと仮定した場合、生き残る為に力が必要だと判断したラックはこの瞬間に拘りを捨てた。

 ただ、強くなる為の手段に心当たりがなくて、どうしようかと前を向いて考え始めたところで、それを見透かしたベネットは言った。


「テスタメント。彼に武器を渡してやってくれ」

「了解しました。着陸地点にて準備しておきます」

「おいおい、いいのかよ!?」

「構わない。戦力は多いに越したことはない。それに、君なら悪いことには使わないと思ってる」

「まだ出会って間もないのに、そこまで言うか普通?」

「いらないなら、別に受け取らなくていい」

「いやいや、遠慮なく貰っておく」


 一通り話をしたラックは、今後の身の振り方を落ち着いて考える為にポケットを弄って煙草とライターを取り出し、火を点けて一服し始めた。

 ベネットは煙草の匂いに嫌悪感を示さず、自分も吸おうと思ってインベントリからハーブシガーとライターを取り出し、同じように火を点けて一服し始めた。






 目標地点に着陸し、二人はヘリから降りた。近くではテスタメントが待機しており、傍には武器と防具が取り揃えられたテーブルが設置されていた。


「お待ちしておりました。どうぞ、こちらの装備をお使いください」

「これ……全部いいのか?」

「はい。防具の方もカウボーイ風の物が丁度ありましたので、そちらを取り寄せました」

「至れり尽くせりだな」


 ラックは用意されていた武器と防具をインベントリに仕舞い、装備登録をしてから防具に着替えた。


 その防具はレジェンドクラス『バーサタイルスーツ』というもので、幾つかの世界の技術をテスタメントが勝手に収集して作った万能スーツだ。特殊繊維で編み込まれた服は衝撃を吸収しつつ、防弾・防刃・耐熱・耐寒・耐水性能を持っている。また、着用するだけでプレイヤーの魔力を纏い、物理防御と魔法防御の両方を大幅に上昇させる効果を持つ。


「ありがとうな。えっと……テスタメント?」

「はい、テスタメントです。ラック様の活躍を期待しております」




 二人は少し先にある侵食区域へ向けて歩き出す。

 侵蝕された場所はテスタメントが敵だった頃に復旧する前提でそこそこの損害だけで放置された廃工場であり、中では戦車が製造されていた。今現在は至る所にカビや肉のようなぐちょぐちょしたものがこびりついており、ここを警備していたロボットや、生産途上だった戦車がジエンドとして動き、ジエンドの繁殖プラント化していた。


 ある程度進んだところで、巡回するロボットに気付かれないように二人は侵食の範囲外にある駐車場の壊れたトラックの陰に隠れて武器を取り出した。

 ベネットは試射の為にダアトライフルを出し、銃身とストックを少し長めにして完全なライフルにして弾を込めた。


 ラックは全てがレジェンドクラスの『アドバンスα』シリーズの一つ『アドバンスα・ライフル』というアサルトライフルの見た目をした銃を持った。


 アドバンスαシリーズ。

 幾つかの世界の技術を使った量産武器の第一世代モデルである。来るべき戦いに備えて生み出されたもので、その特徴は魔力を圧縮充填した中型セルのマガジンを使うことで、実弾の数倍の装弾数を持ちながら、実弾以上の威力と貫通力を備え、さらにスキル【チャージショット】を機能として搭載している。

 外見は実弾銃とそれほど変わらないが、残弾数はマガジンの青色が燃料のように減少していくので、その見た目で判断できる。



「ラック、ここからやれるか?」

「これくらいの距離なら余裕だ。でも奴ら、撃ったらこっちに群がって来るんじゃないか?」

「いざとなれば私が全部やるから大丈夫だ」

「あ、そう」


 ラックは戦う前に心を落ち着ける為、再び煙草に火を点けて口に咥えて一服した。


「……準備万端だ。始めよう」

「ああ」


 二人は左右に分かれ、ほぼ同時に射撃を始めた。

 ベネットは確実にヘッドショットを決めて続々と倒していく。ロボットが攻撃に気付いて配置に着こうとするところを阻止し、隠れた個体も顔を出した瞬間を読み取って当てていく。

 対するラックはフルオートモードでタップ撃ちしながら、丁寧に倒していた。ベネットの程の正確性は無いが、敵の動きを把握して優先順位をつけ、攻撃させないようにしている。

 ただ、やはり二人だけでは圧倒的に手数が足りず、屋内に待機していたロボットたちが次々と出て来て、二人は弾の装填を兼ねて物陰に隠れた。


「うへ~、どんどん来るなぁ。一体どれくらい居るんだ?」

「知らん。それと少し下がるぞ」

「なんでさ?」

「戦車来てる」

「マジかよ!」


 弾を四つ手に持って行うチューブマガジンでの高速リロード『クアッドリロード』で装填しながら下がり始めたベネットに、装填を終えたラックも慌てて下がって次のトラックに隠れる。

 直後、砲撃音と共にトラックが爆発炎上した。


「あっぶねー。戦車は何処だ?」

「正面一時の方向」

「オーケー。ならこいつの出番だな!」


 ラックは武器を変え『アドバンスα・バズーカ』を持った。

 後部に大型セルのマガジンを備えるブルパップ方式のバズーカだ。見た目はシンプルで、戦車の装甲すら軽々と貫通して爆発するHEAT弾と同等の特性を持つコーティング炸裂光弾を撃ち出す。勿論、チャージショット機能を搭載し、これは大火力のビームを発射可能となっている。


「食らえっ!」


 ラックは構えながら出てバズーカを発射した。

 光弾が一瞬にして戦車の車体正面を紙のように容易く貫通し、光弾のコーティングが剥がれると同時に圧縮されていた魔力が弾けて爆発を引き起こし、車内の弾薬庫を誘爆させて砲塔がボンッと吹き飛んで大破した。


 その威力にラックは、ヒューッ、と口笛を吹いた。


「……こいつは凄ぇや」


 想像以上の貰い物に大満足なラックは、そのまま戦車や一塊になったロボットを狙って撃っていく。

 ベネットの方も変わらず一撃でロボットを撃ち続けて数を減らした。


 敵がこちらに来る数と、二人が減らす数が拮抗して膠着状態が少し続く中、工場内から一際大きな戦車がのっそりのっそりと登場した。

 それは第二次大戦中に作られたドイツの超重戦車マウス以上に大きく、車体に見合った巨砲を持つ旋回砲塔の上に、さらに普通の戦車と同等の副砲を二つ備えていた。


「なんだありゃ!?」

「一旦下がるぞ」


 ベネットの言葉にラックも下がって駐車場の中を移動していると、背後で轟音が響く。同時に熱を伴った衝撃波が背後から伝わり、トラックの残骸が正面に落下した。


「うわっ、あぶね!」

「……」


 ダアトライフルの使用感は分かり、これ以上は律義に戦う必要も無いベネットはどうしようか悩んだ。

 隣にいるラックは普通の男だ。だが、何かを持っている。そんな気がして、確かめたくもあった。


「ラック、あの戦車やれるか?」

「アレをか!? んー……いや無理だな。俺じゃあ恐らく倒せない」

「……そうか」


 嘘は言っていないようで、ベネットは仕方なく防具に着替えた。


「【アイスエイジ】」


 視界に入れることもなくマジックスキルを宣言し、超重戦車とまだ残っている戦車やロボットを諸共凍らせた。


「敵を殲滅した。工場の中を探ろうか」

「……マジかぁ」


 結構な範囲が氷の世界になっているのを見たラックは唖然としつつ、バズーカからショットガンに持ち替えてベネットと共に工場内へと侵入した。



 工場の中は、カビと肉のようなぐちょぐちょの塊によって異臭が立ち込めていた。先程の戦闘で敵の大半を倒したようで、視界に入る範囲では敵は見当たらず、肉のような何かが脈打つ以外に物音はせず静寂に包まれていた。

 ただ、点々と動かない敵の気配がするのと、正気度が削れるようなホラーめいた空間が大嫌いで苦手なベネットは顔を顰め、何も言わずに工場内を全て凍らせた。


「これで安全だ」

「お、おう。じゃあこっち来てくれないか?」

「?」


 ラックが突然移動を始め、ベネットはよく分からずに付いて行く。


「ラック、何を探してるんだ?」

「お宝の気配がするんだ。俺、こう見えても滅茶苦茶ツキがいいから、思ったところに行くと大抵なんかあるんだよ。ここだな……」


 ラックは唐突に氷漬けになった床をショットガンで何発も撃った。拡散する小粒の光弾が凍ったカビや肉塊ごと砕き、本来そこにあったゴム質のカーペットがボロボロになりながら姿を見せた。

 それから周辺をなぞるように撃ったラックは、ショットガンをインベントリに仕舞って重いカーペットを持ち上げてずらした。

 そこにあったのは、地下へと通じるだろう床下の扉だった。


「ふぅ。やっぱりあった」


 嘘だろ……!?


 ベネットは思わず心の中で驚きの声を上げた。

 幾ら超人でも、気配も無く隠蔽された物を見つける能力は無い。未来を見たりして出所を逆算することは可能だが、巧妙な隠し部屋などは感覚による違和感が無ければ通用しないのだ。

 ラックが罠など気にせず扉を開けると、もう一枚扉があった。それは金庫のようなダイヤル式の施錠がされた頑丈な扉だ。


「開けようか?」


 と、ベネットはインベントリから終雪を出して手に掛けた。


「いや、多分開けられるから大丈夫だ」


 ラックは断り、ダイヤルを適当に右へ左へ回した。


「……おっ、開いた!」


 ええー……運が良過ぎる!

 ――ああ、そういうことか!


 奇跡のような確立でロックを解除したラックに、ベネットは直感的にこの男が何なのか理解した。


 ラック、君は運の神様に愛されてるんだな。


 納得したベネットは、ラックがフラッシュライトを出して扉の奥の階段を降り始めたのを見て、ちょっと強めに魔力を込めた【ライト】を作り出して浮かし、周囲を照らしてやった。

 その明るさにラックは光の玉とフラッシュライトを見比べ、自分が間抜けなように感じてインベントリに仕舞って言った。


「……どうも。足元に気をつけて」

「フフ、ああ」


 少し拗ねたラックにベネットは笑みを零し、彼の後ろを付いて行く。



 照明すら無いコンクリートと鉄の階段を降りた先は地下工場だった。ジエンドの侵蝕が届いておらず、テスタメントの襲撃によって放棄された当時のまま残されていた。

 残っているのは戦車の部品やパーツで、ベネットは何処か見覚えのある作りだと感じていた。

 そのまま奥へ進むと、何も無い空間の真ん中に鎮座する物があった。


「はぁー……でけぇなこりゃあ!」

「……ユニーク戦車か」


 二人の目の前には少し変わった形状の大型の戦車が完成した状態で存在していた。

 安定性の高い幅広の履帯、長方形の車体は前方が分厚い傾斜装甲に覆われ、エンジンが前方に設置されている。後部砲塔は傾斜を意識した細長くスリムな見た目をしており、主砲は車体から少しはみ出るくらいの長さがある。砲塔側面にはバルカン砲が二門設置されており、広範囲をカバーできるようになっている。


「ラック、これは君の物だ」

「え? いいのか?」

「私は既にユニーク戦車を持っている。二つ以上は持てない」

「あー、そういやそんな制限あったな。んじゃ、遠慮なく」


 ラックは戦車に近づき、ポンと車体に手を触れた。その瞬間、車体中央付近にあるマンホールのような丸い蓋が少し浮き、スライドしてハッチが開いた。


「乗って操作方法を確認しておいてくれ。私は出口を探す」

「分かった」


 ラックが戦車に乗り込んだのを見届け、ベネットは記憶を辿って地下工場の隠された貨物エレベーターの場所を割り出した。

 そこは戦車から正面の壁だった。


「あった」


 壁のボタンを押せば、工場を稼働させる為の電源が起動し、ゲートが開いて貨物エレベーターが見えた。

 戦車を動かし始めたラックがそのまま貨物エレベーターに乗り込み、ベネットも戦車の砲塔の上に飛び乗って一緒に地上へと上がった。



 地上に上がるとエレベーターが完全に止まり、戦車が少し動いてから停車してエンジンが切られた。

 ベネットがそのまま戦車に乗って待っていると、ハッチが開いてラックが出て来た。


「お疲れさんベネット。色々貰っちまって悪いな」

「構わない。私としてもいい気分転換になった」

「そうかい。この後暇なら一杯やらないか?」


 そう言ってラックは手でくいっとお猪口を呑む動作をして見せた。

 ベネットはここ一週間の疲労こそ抜け始めているが、まだまだ疲れが溜まっている状態で長くゲームする気になれず、首を横に振った。


「遠慮しておく。それより一つ聞きたいことがある」

「おう、なんだ?」

「ラックは……自分が凄く幸運で、神様に愛されているって自覚はあるか?」

「……神に愛されてる自覚か……無いな。でも、いい巡り合わせだったり、いいことが起こったら心の中で神様に感謝してる」

「うむ、そうか……それはいい心掛けだ。君とはこれからも付き合うことになる予感がする」

「へぇ、それは天才の直感って奴かい?」

「まぁ、そんなところ」


 会話が途切れ、一時の静寂が流れる……。

 侘び寂びとしたこの雰囲気に虚しさを覚えつつ心地良いと感じたベネットは目を細めて何も無い荒野を眺め、ラックはベネットの横顔に芸術的な美しさを見出して見惚れつつ、煙草に火を点けて一服し始めた。

 煙草の匂いを区切りとして、景色を眺めるのをやめたベネットは口を開いた。


「……じゃあ、私はログアウトするよ」

「おう、お疲れー」

「お疲れ様」


 メニューを開いてログアウトボタンを押し、ベネットの今日のゲームは終わった……。


ラック――運の神様に愛された男。どんな状況になっても大体何とかなる異能生存体。行く先々でいいものを見つけたり、いい出会いをするという強い運命力を持っている。要するにゲームの主人公みたいな人。これからちょくちょく登場する……と思う。


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