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第一回イベント開始



 第一回イベント当日。


 オールワールド・オンラインの初めてのイベントだけあり、ログインしているプレイヤーはここ一週間で最多の十万人以上を記録していた。

 ログイン時の活動拠点、超巨大船型コロニー『ワールドシップ』はプレイヤーでごった返しており、午後九時開始のイベントを今か今かと待っていた。



 ベネットもイベント開始の少し前にログインした。



「うわっ、人が多いな」


 人混みが苦手なベネットはロビーの隅に移動し、そのまま逃げるように商業エリアへ入って人が少ないだろうと考えて『ウォースパイト紅茶店』に入った。

 店内はベネットと同じように人混みから逃げてきたプレイヤーが何人もいて、席の大半が埋まっていた。


「いらっしゃいませ」


 老紳士の店主とウェイトレスに挨拶されつつ店内を見渡すと、フード付きの真っ赤なケープと赤ずきん風のドレスが特徴的なリーベが奥のボックス席に座っているのを発見した。机の上には紅茶と半分まで食べたチョコケーキがあり、ベネットは知った人を発見した喜びを抑えつつ近づいた。


「こんにちは」

「あら、ベネットさんではありませんか。ごきげんよう」

「ご一緒しても?」

「いいですわよ」


 向かい側に座り、ベネットはメニュー表からアップルティーを注文した。


「リーベは今回のイベント、積極的にやるつもりか?」

「ええまぁ、やれるだけやってみますわ。そういうベネットさんはどうなのかしら?」

「同じだ。楽しむついでに上位を目指す」

「そうですの。もし、イベント中に出会うことがあれば、手加減はしませんよ?」

「望むところだ」


 話は終わり、少し時間が経つと注文したアップルティーが運ばれてきた。


「お待たせしました、アップルティーです」

「どうも」


 アップルティーを飲みながら、ベネットはメニューを開いて現実の時間を確認した。


 あと六分。


 丁度数字が変わり、午後九時まであと五分になったところで全プレイヤーの目の前に小さなモニターが出現して一人の女性が映った。

 パッと見では少女に見える程の童顔の女性は、アメジストのような綺麗な紫の瞳をしており、目はとろんとしていて眠そうにしていた。瞳と同じ色の長髪は強い癖毛で外側に跳ねてしまっていて、手入れしていないようにも見える。

 ディメンジョントラベル社のロゴバッチを左胸に付けた紫色のスーツを着ているが、顔のせいで中学生が背伸びをしているようにしか見えない。

 女性は大きな欠伸をした後、今にも寝そうにしながら挨拶として軽く手を振った。


「……みなさん初めまして~。わたしはオールワールド・オンラインの~……イベント担当のプルートだよ~。もうすぐ第一回イベントを開始するから、その前に改めてルールを説明するね~…………面倒だから詳しくは資料を見てくださーい。じゃあね~」


 説明を資料に丸投げしたプルートは、手を振ってさっさと消えた。第一回イベントのルールと、イベント開始までのカウントダウンがウィンドウとして表示された。



 第一回イベントについて


 場所

 第一世界を模した特別な空間。


 制限時間

 ゲーム内時間で三時間。


 ルール

 ・イベント開始時、全プレイヤーはランダムで配置される。

 ・一人倒すごとに一ポイント。二ポイント以上持つプレイヤーを倒した場合、その分のポイントが加算される。

 ・総合ポイントで順位を決定する。

 ・アイテム、装備、スキルなど全ての制限無し。使用したアイテム、壊れた装備、回数制限のあるスキルはイベント終了後、元に戻る。

 ・時間経過で徐々に活動範囲を狭めていく。範囲外にいるプレイヤーは十秒後に空間の中心地へ強制転移される。



 ルール説明のウィンドウを閉じる。


「いよいよか……」


 緊張によってベネットの顔が強張る。一方、リーベは変わらずチョコケーキを口にする。


「そんなに緊張しては、実力を出し切れませんわよ?」

「……そうだな」


 落ち着く為にアップルティーを飲む。

 ゆったりと静かな時間を過ごし、二人が紅茶を飲み終わる頃には残り十秒となった。


「ではベネットさん、健闘を祈りますわ」

「リーベこそ」


 三、二、一……。


 カウントダウンがゼロになると、ピンポンパンポーンとウィンドウから音が鳴った。


「では~……イベントを開始しまーす」


 プルートの声がしたあと、現在ログイン中の数万のプレイヤー全員が一斉に転送された。




 ベネットが転送された先は木々や茂みも殆どない、波のように緩やかな傾斜が続く平原だった。目に見える範囲で他のプレイヤーが何十人も立っており、ベネットと目が合った人もいた。

 ベネットは辺りを警戒する。


「狙撃は……ないな。【戦車展開】」


 ベネットは素早く乗り込み、砲塔を閉じてシステムを起動し動かし始める。狙うべきは目が合ったプレイヤーだ。


「こ、こっちに来るのかっ!?」


 ベネットと運悪く目が合った戦士系の格好をしたヒューマンの男は、戦車が迫って来たことを察知すると全力で逃亡した。


「戦車なんて相手に出来るか! ってか速えぇ!」


 ユニーク戦車であるE-001の最高速度は八十キロほどであり、ものの数秒で間近に迫る。


「ちょっ、来るな、来るなああ! うわああああああ!」


 恐怖に染まった顔のままヒューマンの男は戦車に轢かれ、HPが無くなって消滅した。


「よし、次」


 呟いたベネットは次の標的に向けてぐるりと主砲を向けつつ車体を旋回させる。


「ひいっ!」


 すぐ近くの小さな茂みに隠れていた魔法使いの格好をした女エルフは、主砲を向けられて標的にされたことに気付いて怖気、尻餅をついてしまう。逃げようとしたが腰が抜けて動けない。


「い、いやああああああ!」


 バトルロワイヤルという環境により、相手の状態など気にしないベネットは戦意喪失している女エルフに突っ込みそのまま轢いて倒した。

 その光景を見ていた周辺プレイヤーは唖然とし、ここにいてはやられると判断して逃げ始めた。特に、空を飛べる種族ウイングのプレイヤーは真っ先に逃げ出した。


 ベネットは動きの遅い近くのプレイヤーを次の標的に定めて戦車を進める。逃げきれないプレイヤーのうち何人かは戦うことを決意したが、サービス開始して間もないプレイヤーではユニーク戦車に歯が立たず、何も出来ずに轢かれてしまう。


 そんな中、勇気あるサイボーグの男が茂みから体を出し、五十メートルほど離れた位置から戦車の側面に向けてバズーカを構えた。


「食らえっ!」


 気合を込めたバズーカが撃ち込まれるが、少し前に気付いていたベネットは戦車を急停車させた。ロケット弾は前方を通り過ぎ、奥の地面に着弾して爆発した。


「くそっ」


 サイボーグの男は悪態を吐き、向けられたバルカンに蜂の巣にされて呆気なく消滅した。

 バルカンを撃ち始めてベネットの本格的な蹂躙が始まり、戦車との戦いを考えていたプレイヤーもいよいよ逃げ出し、全力で隠れることを決意する者もいた。


「フフフ……どこへ行こうというのかね?」


 悪い笑みを浮かべつつ逃げるプレイヤーを追い掛け、背中にバルカンを浴びせ、目に見えるプレイヤーの蹂躙を終えたベネットは、全周モニターに表示されている地図を見た。


「……人がいそうなのは、この村っぽい所かな?」


 目的地を空間の中心地に決めたベネットは平原を後にした。平原全体で百人以上いた筈だが、この場で生き残ったプレイヤーは僅か十人ほどになっていた。


 戦車が去って姿を見せたプレイヤーたちは、最早戦うほどの意欲は無く、お互い生還したことに安堵すら覚えた。



「おおっ、やってるやってる!」


 第一世界の活動拠点に酷似した作りの朽ちた家々が並ぶ廃村に到着したベネットは心の中で歓喜した。


 至る所でプレイヤー同士の戦いが勃発しており、バトルロワイヤルの中心地として、他の場所から逃げてきたり強制的に転送されたプレイヤーによって人口は増え続け、戦いは絶えない。


「さぁ、始めようか」


 戦車で堂々とプレイヤーたちの戦いの中に突入し、バルカンを撃ちつつ纏まっている場所に主砲をぶっ放す。

 不意打ちで爆風に晒された多数のプレイヤーたちが一瞬でやられ、走り回る戦車を多くのプレイヤーが注目した。


「なっ、戦車だと!?」

「あの主砲、なんつー威力だ!」

「ひいぃっ、勘弁してくれー!」


 戦車に戦いを挑もうとしたプレイヤーはあっさりやられ、動揺して逃げ遅れたプレイヤーもまたやられた。平原から逃げてきたプレイヤーは見るのも嫌で全力で逃げだし、釣られて多くのプレイヤーが逃げだした。


 一瞬にして大混乱に陥った中心地は、地獄絵図に変わった。


 ベネットの操縦する戦車によって一人、また一人とプレイヤーは消滅する。

 廃屋に隠れたプレイヤーは安堵に行きを漏らすが、その直後に戦車が建物に突っ込んで諸共潰された。

 逃げ惑うプレイヤーの背中にバルカンが浴びせられ、複数のプレイヤーが纏まった所を見逃さずに主砲が撃ち込まれる。


 やりたい放題に暴れ回るベネットは抑えていた感情が溢れ出し、ニヤついた笑みを張り付けて盛大に悪役の如く笑った。


「クックック……フハハハハハ……ハーハッハッハッハッハ! さぁどうした諸君! 私はまだまだ戦えるぞ! アハハハハハ、ハーハッハッハッハッハ!」


 ベネットは楽し気に次々とプレイヤーを倒していくが、一つ重大なことを失念していた。戦車のマイクのスイッチがONになったままで、悪役のような笑い声が周辺に響いていたのだ。



 早々に退場してワールドシップに戻り観戦者となったプレイヤーたちは、イベントの為に空中に設置された巨大モニターや至る所に設置されているモニターを見つめていた。

 面白いことをしているプレイヤーを運営の独断で中継しているのだ。

 ただ、今現在中継されている戦車の蹂躙と女性の高笑いに、ほぼ全ての観戦者がドン引きしていた。


 なんなんだこれ……?


 と多くの者が思ったのは言うまでもない。



 戦車の主砲とバルカンの弾が切れ、上がり切ったテンションも下がって普通の状態に戻ったベネットは辺りを見渡した。

 多くのプレイヤーが倒され、逃げ出し、今はとても静かになっていた。


「……ふむ。ここらではもう稼げないな。次は……北に行くか」


 北に進路を向けて戦車を動かし、道中何人かのプレイヤーと遭遇したが戦車を見た瞬間に逃げられた。

 中心地の惨劇を見ていなくとも、何かがあって、戦車という異様なものが無傷で中心地から来たことでヤバイ相手だと察したのだ。ベネットも無理に追うことはせず雪の積もる地域に何事も無く到着した。


 中心地から離れた場所の為、ここらではまだプレイヤー同士の戦いが起こっていた。ただ、イベントの時間もそれなりに経過している為、生き残っているプレイヤーもそう多くはない。

 逆に言えば、生き残れるだけの強さと運を持っている連中でもあり、ベネットは気を引き締めた。


「ここからは本気を出さないとな。【戦車収納】」


 もう使わない戦車をインベントリに仕舞い、地面に足を付けてからイメージして初めて防具に着替えた。

 帽子が消え、雪結晶を模した『氷雪女王のティアラ』が頭に装着された。

 コスチュームの黒い将校風軍服から、ケープ付きの白い袖なしコルセットドレスの『氷雪女王のドレス』に変化した。ベネットには見えていないが、ケープの背には大きな雪結晶の模様が描かれている。ドレスのヒラヒラとしたスカートは前後非対称のフィッシュテールスカートとなっている。

 コスチュームが防具に変わったことで脚のストッキングが無くなり、白いヒールのロングブーツ『氷雪女王のブーツ』を履いた。

 ベルト付きの刀を腰に提げ、準備は整った。


「【ブリザード】」


 ドレスのスキルを呟いて発動させる。ベネットを中心に半径三百メートルの範囲で瞬時に空が暗い雲に覆われ、強い風が吹き大粒の雪が降って猛吹雪へと変わった。


 突然の天候の変化にプレイヤーたちは何事かと驚いたが、すぐに目の前の敵に集中して戦いを続けた。


「では見せてもらおうか、氷雪女王の性能とやらを……」


 ベネットは走り出す。パッシブスキル【ランナーズハイ】に加え、一定以下の寒さと冬の環境で【氷雪女王】のスキルが発動し、強化されたパラメータによって一時的に最強となったベネットの速度は最速を誇るであろうミグニコに近いものになっていた。


 猛吹雪の中でプレイヤーの二人が近接武器で魅力的な戦いを繰り広げている所に、ベネットは刀を握ってスキルを放った。


「【飛閃】」


 居合いのように刀が振り抜かれ、飛ぶ斬撃が二人の頭部を一閃する。

 急所及び不意打ちによりパッシブスキル【忍殺】も発動し、戦いに夢中だった二人の削れていたHPは一瞬にして無くなった。


「なにぃっ!」

「くっ、やられた……」


 消えていく二人を確認もせずにベネットは猛吹雪の中を走っていく。次のターゲットは八人だ。四人で一組のパーティーとなり、吹雪の中、入り乱れて戦っている。


 今回のイベントにおいて、パーティーを組んではいけないという決まりはない。仲の良いプレイヤーが示し合わせて合流し、誰かが上位に入れるように一時的に手を組んでいるのだ。


「【ホワイトアウト】」


 ティアラのスキルを発動し、猛吹雪からさらに吹雪と白い濃霧が発生し、一メートル先すらほぼ見えなくなる。

 異変に気付いたプレイヤーたちの手が止まる。


「なんだこれ?」

「前が見えない!」

「新手か?」

「隙有り!」

「なんの!」


 戦いは続くが、発動者のベネットは視界が無くなることも無く、孤立したプレイヤーを背後から突き刺していく。


「なん……だと……」

「おい、どうし――ぐっ」

「何が起こってる!?」


 二組の戦いが止まり、周囲を探るが全く見えない。ひっそりと集団の中心に立ったベネットは呟く。


「【ミラーバーン】」


 突如として非常に滑る氷が張られ、警戒していたプレイヤーたちは何が起こったか理解できずにつるりと足を滑らせて勢いよく倒れた。


「いてぇ……」

「くそっ、なんなんだ一体!」

「うっ、お前は――!」


 一人に気付かれたが言い切る前に急所を攻撃されて消滅し、残りのプレイヤーは起き上がる間もなくベネットによって倒された。



 その光景はしっかりと中継されていた。だが、【ホワイトアウト】を使用した時点で既に猛吹雪で悪かった視界は完全に無くなり、真っ白なモニターから流れるプレイヤーたちの音声に、観戦者たちはただただ困惑していた。


 何が起こっているんだ……?


 全員がそう思い、一部の観戦者は不具合を疑って運営に報告を行った。



 ベネットの暗殺じみた戦い方で、雪の積もる地域ではプレイヤーが殆ど駆逐された。


「ふう、こんなものか……」


 流石に疲れたベネットは周囲から丁度見えない小さな溝を発見して、そこに腰を下ろして休憩した。【ホワイトアウト】【ミラーバーン】ともに使い果たし、集中力も欠いてきており、これ以上の連続戦闘は無理だと自覚していた。


 メニューを開けばイベント限定の獲得ポイントと経過時間が表示されていた。ベネットの獲得ポイントは五千近くあり、経過時間は既に二時間以上も経っていた。


 残り時間が三十分を過ぎると、ピンポンパンポーンと世界全体にチャイムが響き、戦闘中のプレイヤーの邪魔にならない高さの空中にプルートのホログラムが出現した。


「みなさーん、残り時間が三十分を切りましたよ~。現時点での順位は……ふあ…………メニューに表示するから参考にね~……ああ、あと……十位以内のプレイヤーは、マップに位置情報が常に表示されるから頑張ってー。じゃあね~」


 手を振ってプルートは消えた。


 もう一度メニューを開くと順位表という項目が増えており、押すと十人のプレイヤーの名前とポイントが表示されていた。



 一位、アルバ  PT:10756

 二位、ベネット PT:4962

 三位、オウカ  PT:4045 

 四位、キャシー PT:3477

 五位、ミグニコ PT:3191

 六位、ドルーク PT:2609

 七位、シュテン PT:2337

 八位、リーベ PT:2080

 九位、ヘカティア PT:1912

 十位、ウルフェイ PT:1740




「二位か。意外だ」


 順位表を閉じて縮小されたマップを押すと拡大して表示されたが、全体のうち行った場所しか表示されていない。

 地図の外側は射線が引かれて暗くなっており、時間経過による活動範囲の縮小が起こっていることが分かった。

 さらに、ベネット自身を含めて赤い点が十個表示されていた。赤い点はそれぞれかなりの距離があって、お互いに接近しないとまず遭遇しない場所にいた。


「場所がわかるのは面倒だな……」


 休憩を終えたベネットは立ち上がり、またプレイヤーを狩る為に移動を始めた。



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