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第四回イベント『チーム攻城戦』6

更新が遅くなって申し訳ないです。


チーム攻城戦、南エリアでの戦いとなります。


それと、いつも誤字脱字報告ありがとうございます!




 南エリア。


 そこは小さな島が幾つも並ぶ諸島である。城へと続く道は潮の満ち引きによって出たり消えたりし、駆け引きが最も難しいエリアとなっている。


 ここでは主にチーム『レッドハート海賊団』、チーム『ホワイト運送』、チーム『自由海軍』が勢力を伸ばしている。

 彼らは非常に少数のチームであるが、所有している未来技術の粋を集めて建造されたヴィクトリア級万能戦艦は、非常に強力だ。無慈悲なまでの長大な射程と航行速度により、射程範囲内のチームは主砲のビームやミサイルにより一瞬で消し飛んだ。砲撃精度も高く、例え城の中に隠れていてもビームが入り口にホールインワンして内部で拡散し、中枢以外を焼き尽くしてしまう。

 三つのチームはそれぞれが南エリアの端に陣取っており、中央エリアに近い場所はチーム『自由海軍』が、マップ端の南西側にチーム『レッドハート海賊団』、南東側にチーム『ホワイト運送』がある。

 現在は空を飛んで中央エリアへ行こうとするチーム『レッドハート海賊団』に対し、チーム『自由海軍』が防波堤となって立ち塞がり、互いに高高度から超遠距離での砲撃戦が行われている。


 次点で勢力を伸ばしているのはチーム『極楽教会』とチーム『魔女の夜会』だ。

 チーム『極楽教会』ではリーダーのミドラーシュが宇宙戦艦のビームすら弾く堅牢な大結界を張り、仲間と共に周辺のチームを正々堂々と打ち倒してそれなりの領土を手に入れた。

 チーム『魔女の夜会』はリーダーのソルシエールがあらゆる水を操り、幾つもの城を海へと沈めて単独で制圧して勢力を広げていた。

 この二つのチームは領土を隣接させて睨み合っていたが、トウジロウの呼び掛けに応じたチーム『魔女の夜会』が動き出し、それを阻止するようにチーム『極楽教会』が立ち塞がっていた。




 そんな状況下で、チーム『ホワイト運送』の戦艦マーベラスは不気味なほどに動かないでいた。

 動かない指示を出したリーダーであるホワイト・ジェントルマンは、モニターに映るビームやミサイルの閃光や爆発を観賞しながら、艦長席にて優雅に珈琲を飲んで過ごしていた。

 だが、この艦の砲撃手である一見するとヒューマンにしか見えない種族サイボーグの少女、紫のドレスを着たヴィオラは、攻撃しない状況に不満を募らせており、本日何度目かの声を上げた。


「艦長、早く撃ちたいです」

「まぁ待て。俺たちはこうして中立を装って、隙を窺っているんだ。確実に仕事をこなす為の下準備だ。あともう少しだけ我慢してくれ」

「うー……」


 唸ってすごすごと我慢したヴィオラだが、そろそろ暴発しそうな気がしたホワイト・ジェントルマンは溜息を吐き、カップを置いた。


「分かった。そろそろ動こう。カクタ、微速で……いや、うーん……」


 どう進もう?


 中央エリアに行くには真っ直ぐ最短距離で進むのが手っ取り早い。だがそれは非常にリスクがある。自分以上に頭がいいと認めているフリード・フリーデンは動かないからこそ見過ごしているが、少しでも動けば撃って来ることが分かりきっている。迂回しても同じ結果だろう。むしろ、シア・レッドハートが攻勢に出るきっかけとなってしまう。

 では、シア・レッドハートの方に進めばいいかというと、そうでもない。

 彼女の方は非常に勘が鋭く、ホワイト自身が考えている姑息な手段を見切って動くことが分かりきっている。場合によっては動きに合わせて盾にする気で、今は動かないから見過ごされているだけだ。

 ならば、この場から攻撃……と考えたが、それもまた駄目だ。二人して邪魔な自分から潰しに来るに決まっている。

 やはり待機が正解であると改めて結論が出てしまったが、ヴィオラはこれ以上待てない。

 顎に手を当ててじっと考えていると、通信士兼レーダー担当の種族ケモミミの少女、和風メイド服を着た白猫のミーコが声を上げた。


「艦長! 遠方から何か小さいのが高速でこっちに接近中!」

「なんだ? どっちかがついに俺たちに撃ってきたか?」

「わからない。けど、ミサイルではないみたいだよ」

「とにかく迎撃だ! 機銃を起動しろ!」

「ちっ、機銃ですか」


 ヴィオラは舌打ちしつつも戦艦の側面を主体に大量に取り付けられている機銃を起動して迎撃を始めた。

 迎撃は指定が無い限りは基本的にコンピュータによる自動射撃であり、後は撃墜するのを祈るだけ。

 緊張した空気の中で、ホワイト・ジェントルマンは念の為に衝撃に備えて艦長席の肘掛けを強く握った。

 と、艦橋の隅で独り将棋をしていた般若の面を被ってバトルスーツを着込んだ男、アカシがスッと立ち上がった。


「ん、どうしたアカシ?」

「……強敵が来る」


 そう言ってアカシは、インベントリから自ら鍛えた刀を出して鞘から引き抜き、上段の構えを取った。


「艦長! 飛来物が弾幕を回避して迎撃できないっぽい!」

「バイタルパートと艦橋にバリア出力を集中! 衝撃に備えろ!」


 ホワイト・ジェントルマンは最後まで目を瞑らずに何が来るのかをモニターから見ていると、それは黒い羽を体中に纏った少女だった。

 衝撃が来ると身構えていたが、衝撃は何も無く、大量の黒い羽が舞ったと思ったら艦橋内に突如として黒い羽が舞い、外にいた筈の少女が姿を見せた。


「レイヴン!!」


 同じ運び屋として面識があるホワイト・ジェントルマンが叫んだ直後、普通の人間では対処できない速度でアカシが動き、レイヴンは足に装備しているユニーク武器『バードクロー』で蹴るように受け止めた。


「ぬんっ!!」


 アカシは室内という環境を利用し、鍛えたSTRで強引に刀を振るってレイヴンを突き飛ばした。だが、レイヴンは狭い艦橋内にも関わずくるりと一回転して壁に着地し、衝撃を利用して屈んだところで一気に飛びついてアカシに回し蹴りを繰り出した。


 一撃は間合いを読んで下がることで躱し、二撃目の蹴りは刀で受け止めた。しかし、何故かアカシは左腕の上腕部が切断されてボトリと落ちた。

 レイヴンは追撃しようとしたが、ホワイト・ジェントルマンがジャケットの下に隠し持っていた自動拳銃を連射したので離れ、コンソールの上に立った。

 その隙にカクタが未来技術で作られた透明でも合金以上の強度を誇る盾を出し、ミーコが猫の手を模した手甲鉤という武器を、ヴィオラが跳弾しないエネルギー弾を撃ち出す光学ミニガンをそれぞれ持って、コスチュームの上から装備できる未来技術のレア防具『バトルプロテクター』シリーズを身に着けて艦長の傍に移動し、構えた。

 ホワイト・ジェントルマンは中途半端に弾数が残ったマガジンを交換しつつ、片腕を失ったアカシに声を掛けた。


「アカシ、大丈夫か?」

「問題ない」


 アカシは切断された左腕に力を込め、パッシブスキル【再生者】によりMPを消費して腕を再生させ、この身で受けたことで理解したことを話した。


「レイヴンには第三の……不可視の脚がある」

「なるほど」


 敵の情報を知った直後、突然襲われたことが気に障っていた仲間が空気も読まずに声をあげた。


「やいレイヴン、よくも襲い掛かってくれたな! この借りはこの場で返してやる! ヴィオラがな!」

「私さっきのでちょっとちびったと思ったんだから! 同じ目に合わせてあげる! ヴィオラがね!」

「そうです! 蜂の巣にしてやるです! でも私だけに任せるのはやめてほしいです」


 レイヴンは三人に眼中が無く視線を合わせず、無表情を貫いて淡々とした口調で言った。


「……私はチーム『円卓』のアルバさんからの依頼により、お金でチーム『下剋上』に雇われたあなたたちを倒す、或いは足止めをしに来ました。覚悟してください」

「ま、まてまてまて!」


 動き始める前に咄嗟に制止を呼び掛けたことで、レイヴンは動こうとしていた姿勢を戻した。


「なんですか?」

「レイヴン、君はアルバに依頼されたんだな?」

「……ええ。依頼内容については秘匿するように言われていませんので、時間稼ぎついでにお喋りも吝かではありません」

「そ、そうか。普通は守秘義務があるんじゃないか?」

「契約時にそのような条件は聞いていませんし、口止め料も貰っていませんから」

「あっそう。じゃあちょっと聞かせてくれ。君は幾らもらった?」


 その質問にレイヴンは「あっ」と小さく声を漏らし、無表情ながら察した。


「…………そうですね。()()()()()()、とだけ答えておきましょう」


 具体的な数字を出さずに曖昧な言葉で濁したことで、ホワイト・ジェントルマンは彼女が足元を見ているのだと理解し、渋い顔をした。


「……幾ら出せばいい?」


 ここでこちらから数字を出さないことで、相手の言い値を払うと期待させた。レイヴンもそれを理解し、無表情の頬が僅かに緩んだ。


「一億は欲しいですね」

「分かった。それで今回は見逃してくれ」

「分かりました。では二億で、あなた方と戦いましょう」

「なにっ!?」

「させん!」


 ホワイト・ジェントルマンは口約束だが取引を反故にされて驚き、アカシは咄嗟に動いて切り掛かった。

 だが、予め取引を必ず反故にすると決めていたレイヴンは倒しきれるか怪しいアカシを無視するように黒い羽を舞い散らせて消え、一堂に集まっている四人の傍に瞬間移動した。


「【風切り】」

「ダメです!」


 四人の中で何とか動きを察知したヴィオラが、艦長であるホワイト・ジェントルマンを手で押し倒した。

 直後、三人はレイヴンのアクティブスキル【風切り】によって風属性の刃を纏った横蹴りで、艦橋の壁や艦長席ごと一凪ぎに体を切断されて死亡した。


「ぐ……くそっ!」


 ホワイト・ジェントルマンが悪態を吐きながら起き上がろうとしたが、その胸に鋭い鳥の足のような形をしたバードクローに踏みつけられ、刃が食い込んで出血しながら地面に倒れ伏した。


「これで私の勝ちですね」

「うぅ……アカシ、行け!」

「承知!」


 勝ち目が無くなったホワイト・ジェントルマンは一人でも生き残れば再起を図れるとして声を掛け、アカシはその思いを理解してさっさとこの場から逃げ出した。

 レイヴンは彼を追わず、踏みつけているホワイト・ジェントルマンを見下ろした。


「では今回の依頼の種明かしをしましょうか。私は確かにチーム『円卓』のアルバさんから依頼を受けました。内容はチーム『円卓』の勝利に貢献すること。具体的には、事前に手に入れていた情報、チーム『下剋上』が呼び掛けた他チームによる一斉攻撃に対し、こちらも事前に買収、或いは共闘を持ち掛けたチームでそれを阻止することです。私は戦闘力と機動性の高さが買われ、自分のいるエリアの航空戦力の破壊、及び、このヴィクトリア級万能戦艦が中央エリアへ侵入しないようにする、という依頼を受けました。肝心の報酬ですが……実はアルバさんから、あなたは依頼の話をすれば買収して来ると読んでいて、吹っ掛けられた金額の倍を払うと言われてたんですよね。勿論、話しが無ければ事前に決めていた報酬を貰うのですけど」


 話を聞いて驚きと同時に末恐ろしさを感じたホワイト・ジェントルマンは、完全に負けを認めて苦笑した。


「はは、こいつは参ったな。アルバという男を見誤っていたよ。でもいいのか? アカシを逃がしたりして……単独で中央エリアに行くかもしれないぞ?」

「それも既にアルバさんが手を打っています。私以上の恐ろしい存在が見張っていますから」

「そうかい。じゃあ……一緒に死んでくれ」

「嫌です」


 アカシの脱出までに充分な時間があったと分かっているホワイト・ジェントルマンは、インベントリから取り出した自爆スイッチを即座に押した。

 心中の言葉を即座に拒否したレイヴンは彼を踏みつけて殺し、ユニーク防具『ヤタガラス』シリーズのパッシブスキル【ワタリガラス】による短距離空間移動を使い、黒い羽に包まれてから舞い散らせて消えた。



 ――直後、ブラックホールエンジンが意図的に爆発を起こし、密閉されていた超危険物である小型のブラックホールが漏れ出した。それにより艦の内側から圧壊させるように吸い込み、黒く大きな引力空間が空中に発生した。

 それは大気を吸い込むだけ吸い込むとやがて勢いを無くし、消えた。


 頭部が破損した状態のTAカグツチに乗って脱出していたアカシは、艦の自爆を見届けると、次のサテライトスキャンまで生き残りつつ、手に入れた城を守る為に地上へと降りて行った。


「……行きましたか。さて次は……おや? 他ももう終わりそうな気配がしますね。ならば私の依頼は完了ということで、戻るとしましょう」


 ブラックホールに巻き込まれず無事に脱出していたレイヴンは、目に見える状況や気配から自分の役目が終わったと認識し、西エリアへと戻った。






 時間は少し戻り、超遠距離での砲撃戦をしている真っ赤に塗装されたヴィクトリア級万能戦艦、ヴィーナスの艦橋にて。


「あ~……暇っ!! めっっっちゃ暇っ!! つまらないってこの戦い!!」


 艦長席で盛大に愚痴をこぼすのは、エロイ女海賊の船長らしい格好をした艦長のシア・レッドハートだ。

 傍に立っている軍人らしい格好の副艦長のナビィは、また始まったと頭を押さえ、溜息を吐いた。


「シア、そういうことは思っていても言わないでください。クルーたちのやる気が下がりますから」


 ナビィはそういうが、艦橋内のクルーたちはそんな艦長のことが好きなので嫌な顔はしておらず、むしろ微笑ましく見守っていた。


「だって、同型艦で正面から遠距離で撃ち合うって、どう考えてもジリ貧じゃん。時間稼ぎが目的でしょこれ」

「まぁそうだと思いますけど。あのフリードが相手では下手な策は逆効果ですから」

「あっ、閃いた!」

「却下です」

「ええー! なんでよ?」

「突飛過ぎてストレスなんですよ。あなたの策は」

「……? 策ってそういうもんでしょ」

「……」


 自分で墓穴を掘ってしまったナビィは咳払いして誤魔化し、次の言葉で促した。


「それで、何を思いついたんです?」

「この艦を全力でぶつけに行く。あと、ついでにマックスにもTAで突っ込ませる!」

「……」

「……マジすか」


 ナビィは頭痛がしてきて頭を押さえ、マックスも急に特攻させられることに仰天していた。


「シア、それ上手くいくんですか?」

「マックスの特攻は冗談だけど、上手くいくよ。勝機を見出すなら正気で狂気を持って進むしかない。まぁこの艦が駄目になるのは確実だけど、突破も確実――って、いだだだだだ! ちょっ、やめて! 胸っ、もげ、もげるうううううううっ!」


 無茶苦茶な理論にナビィはキレて、シアの両胸を鷲掴みにして捻じりながら引っ張った。ある程度やったところで手を離し、シアが涙目で自分の胸をいたわるように触っているところで言った。


「シア、この艦が駄目になったら、どうやってチーム『円卓』を脅かすつもりですか?」

「え? そんなのどっかの城に艦をぶつければいいでしょ。あとは適当にクルーが散り散りになって周辺の城を奪取。あたしはやって来た強敵と戦って時間稼ぎ。あっ、ナビィは好きに動いていいよ」

「本当にあなたは狂ってますよ。ゲームだから許しますが、リアルでそんなことを言ったら一発ぶん殴りますからね」

「うん、その時はお願い」


 話が終わったところで、シア・レッドハートは態度を改めて艦長らしい顔をして言った。


「前方の万能戦艦ティターニアに向けて、全力で――っ!」


 シア・レッドハートは感じてしまった。悍ましい気配が突然艦内に出現したのを。同時にそれが自分を分断する為の囮であり、確かめに行っても行かなくても、どうあってもこの艦は墜ちてしまうだろうことも。仲間の誰かを向かわせるという手もあったが、この人ならざる狂気的な気配は普通の人間では対処不能なものだった。


「シア?」

「ごめんナビィ、ここは任せるわ」

「ちょっとシア!」


 艦長であるシアが突然艦長席を立って艦橋から出て行き、ナビィは止められずにその背を見届けることしかできなかった。

 事情も説明せずに行ってしまったシア・レッドハートに対して大きな溜息を吐いたナビィは、正面に向き直った。

 そして、いつの間にか艦長席に座っている招かれざる客を二度見して目を見開いた。


「あなた、誰です!?」


 艦長席に足を組んで座っていたのは、黒いパンツスタイルのスーツの上から黒いロングコートを羽織った長身のモデル体型をした褐色肌のエルフの女性だ。ストロベリーブロンドのセミロングの髪で、キツイ目つきの瞳は同じ色をしている。その顔は非常に整っており、知的さが伺えるクールな雰囲気があった。

 彼女はナビィを視界にすら入れず、外の景色を映すモニターを見ながら口を開いた。


「初めましてだな、副艦長のナビィ。私はチーム『オニキス機関』の一人、ミザリーだ。お前たちはこのまま待機していろ。そしたら何もしない」

「艦長であるシアの指示以外に、私たちが従うとでも?」


 ナビィが剣を出して向ければ、手を離せるクルー全員が銃や剣を出して向けた。


「馬鹿め」


 ミザリーが一言罵倒すると同時、艦橋の天井に虹色の魔法陣が突如として出現し、一瞬にして全体に落雷が発生してミザリー以外が感電した。

 続けて大量の鎖が魔法陣から飛び出して全員を雁字搦めに縛り上げ、金属製の武器である剣や銃が魔法陣に強く引き寄せられて手放され、魔法陣にくっついた。さらに魔法陣から一枚の白く薄い布が複数飛び出すと、全員の口にぺたりと貼り付いて塞いだ。


「突然現れた人間が何もしないと思ったか? ここに来た直後に【パラライズボルト】【チェーンバインド】【マグネットサークル】【マジックシール】を仕掛けておいた」

「んー!」


 鎖に縛られて全く身動き出来ないナビィが何か言おうとしたが、布が口に完全に貼り付いて言葉を発することが出来なかった。しかも魔法を使おうとしても、全く発動しない。

 ミザリーはナビィが何を言おうとしているのかを容易に察し、答えた。


「何故仕掛けた魔法陣が見えなかったのか? 簡単だ。私が【ハイドサークル】という魔法陣を隠蔽するスキルを習得しているからだ。分かったか馬鹿ども」

「んん、むぅ!」

「馬鹿を馬鹿と呼んで何が悪い。実力すら見抜けず、未知の敵が余裕な態度をしていたら、罠か何かを既に仕掛けていると警戒するのは当たり前だ」

「……」


 口は悪いが言っていることは正しく、ナビィは悔しく思いながらも黙るしかなかった。


「まぁいい。お前たちはここで大人しくしていろ」


 ミザリーは立ち上がって火器管制のコンソールの前に立つと、初見であるにもかかわらず手早く操作して攻撃を中止させた。続いて通信機を操作して伝文を送り、万能戦艦ティターニアからの攻撃を止めさせた。

 やることを終わらせると、ミザリーは再び艦長席に座ってマジックスキル【水鏡】を発動し、水で作られたモニターを目の前に出した。そこにはシア・レッドハートが戦う場所が映されており、インベントリからドクターポーション略してドクポの缶を出し、栓を開けてのんびりと飲みながら観戦を始めた。







 艦長であるシア・レッドハートは悍ましい気配を頼りに艦内用転送装置を使い、当たりを付けた場所へ移動していた。

 そこは艦のメインエンジンこと、ブラックホールエンジンがあるエンジンルームだ。未来技術で作られた部屋は頑丈で広々としており、中央にはエンジンが配置され、配管などは全て壁や床に収納していてスッキリしている。あとはエンジンをモニターして管理する小部屋があるくらいだ。

 そんな部屋に、ロンググローブを着けて黒いイブニングドレスを着た種族サイボーグの女性が、色とりどりのドレスを着た、沢山の等身大の女性人形と一緒に微笑を浮かべて踊っていた。


 彼女はボブカットの黒髪に、不気味の谷現象を引き起こすほどに整い過ぎた顔をしており、目は赤い光を放つ機械的なカメラアイをしている。白磁のように白く艶のある肌をした体の方は、黄金比によって作られた芸術的な体型をしている。イブニングドレスから露出している肩は機械的な球体関節が見えていた。


 悍ましい気配の正体を見たシア・レッドハートは、自身の正気度が削れるのを自覚した。


 ……こいつはヤバイ。マジでヤバイって。誰だよこんなのあたしの艦に不法投棄したの。あたし今からこれを排除しないといけないの? 帰っていい? 駄目だよね。誰か代わって欲しいけど、これは普通の人には無理だわ。強さ的にも、精神的にも……。


 彼女に全く気にされていないシア・レッドハートはその場で深呼吸をしてから、覚悟を決めて声を掛けた。


「ねぇあんた、ここで何をしてるの?」


 声を掛けられたことで、彼女は人形と共に踊るのをピタリと止めた。それからゆっくりと振り向いた。


「あら、新しいお人形さんが来てくれたのね。ここは静かでいいところだわ。一緒に踊りましょう?」


 彼女は再び踊り出す。人形たちは彼女の力によってシア・レッドハートに近づき、一緒に踊ろうと掴み掛かって来る。

 シア・レッドハートは嫌な顔をし、ヒョイヒョイと躱しながら彼女に接近し、足を払って倒すと一丁の長銃を出してその胴体に押し付けた。


 長銃はユニーク武器『ラッパガン』といい、マスケット銃のような古臭いデザインで銃口がラッパのように大きく広がった、銃身の長い散弾銃だ。弾倉は存在せず、無限に弾を生成して千を超える散弾を撃ち出す。


「悪いけど、あたし育ちが悪いから円舞曲(ワルツ)は踊れないんだ」


 その返事に彼女は一瞬きょとんとした。


「……そう。なら――」


 何かを言う前にシア・レッドハートは引き金を引いて銃声を響かせた。数百もの小粒の散弾を撃ち出すラッパガンを接射された彼女は、何事も無く倒れたままで、近くの人形が胴体に大穴を開けて崩れ落ちた。


「あーはいはい、なるほどね」


 身代わり人形――それを瞬時に理解したシア・レッドハートは彼女から離れ、魔法障壁を展開して跳弾対策を施しつつ人形を片っ端から撃って破壊した。

 全ての人形を破壊され、大量の跳弾があったにも関わらず彼女は無傷の状態でスッと立ち上がった。


 うわっ、これ化物だ。


「あなたは戦争ごっこが好きなの? じゃあ兵士のお人形さんで遊びましょう」

「ちょっと待った!」


 制止を求めると彼女はピタリと止まった。

 そしてようやく、彼女の目はシア・レッドハートをしっかりと認識した。


「……何?」


 これは話し合いで解決……は無理そう。感情が読めない。本当に人間?


「……あんた一体何なの? 名前は?」

「私? ミリアム。チーム『オニキス機関』の一人よ。あなたは?」

「チーム『レッドハート海賊団』のリーダー、シア・レッドハート」

「……ああ、そういえば、ここに来る人と戦えってミザリーが言っていたわね」


 何かを思い出したように言ったミリアムは、大量の黄色い土属性の魔法陣を展開した。


「じゃあ、戦いという名の踊りを始めましょう。お人形さん。私もあなたも、神々の遊びの為に作り出された、人形なのですから」


 マジックスキル【クリエイトドール】によって魔法陣から一斉に生み出されたのは、両腕が刃物となったマネキンだった。


「やっぱこうなるか……!」


 最初から戦いしか選択肢が無いと分かっていたシア・レッドハートは苦笑し、コスチュームでしかない女海賊の服から、防具へと瞬時に着替えた。


 ユニーク防具【大海賊の霊装】。女海賊のコスチュームと似た見た目であるが、こちらは胸元が大きく開いており、パンツスタイルとなっている。海賊の帽子や羽織っている上着はさらに立派で厳かな物へと変わった。


 素早く後退しながらラッパガンを撃ち、次々とマネキンを破壊していく。散弾が跳弾してシア・レッドハートも巻き込まれるが、防具の効果【銃弾無効】で無事だ。

 だがそれはミリアムも同様で、幾ら巻き込まれて弾が当たったところで、全くの無傷でいた。


「凄いわあなた。ならこれはどう?」


 マネキンを全滅させると、複数の魔法陣から新たに人形を生み出した。マジックスキル【クリエイトナイト】による、フルプレートアーマーにツーハンデッドソードを持った中身のない甲冑騎士だ。


「それなら、こっちはこれよ! 【アン女王の復讐号】全門斉射!」


 ユニーク防具のスキルにより、亜空間から海賊船の一部の舷が現れ、数十門の大砲が一斉に発砲して甲冑騎士を強力な榴弾で吹き飛ばした。ミリアムもそれに巻き込まれて吹き飛び、エンジンルームの壁に激突したが倒れることなく、ドレスに付いた煤を手で払った。


「いいわ……凄くいい。あなた私のお人形にならない?」


 ミリアムはコスチュームのドレスから、防具へと着替えた。種族サイボーグの特徴として防具は追加装甲であり、人形らしい体の上から、ぴったりと貼り付くようなドレス型の装甲が展開された。上は女性の胸の形に合わせた鎧で、腰には布のように柔らかくも瞬間的な衝撃で硬化する特殊繊維で作られたバッスルスカートが付いており、横から後ろに掛けてヒラヒラとしている。手足にも装甲が装着され、見た目はファンタジー風の女騎士となった。

 だが、それらが一切気にならなくなるものが頭上に現れた。実体のない透けた十字の細長い板であり、それから複数の糸がミリアムに伸びると手足の関節や胴体に突き刺さって、まるで操り人形のような状態になった。ユニーク防具『呪操鎧(じゅそうがい)』である。

 さらに剣を一本出して右手で持った。それは刀身以外が黄金に輝き、刀身は怪しい輝きを放っている曰く付きの剣、ユニーク武器『魔剣テイルフィング』である。



 ……気配が、さらにヤバくなった?


「人形になるのは遠慮しとく。あたしは海賊で、自由が好きだからね。斉射!」


 近づくのは危険だと判断して遠距離で仕留めようと再び砲撃したが、ミリアムは恐れることなく真っ直ぐ一気に詰め寄った。その速度は並のプレイヤーでは反応すら難しいものであり、シア・レッドハートも振り下ろされた剣を直感で何とか見切り、ラッパガンで受け流した。

 即座にラッパガンをインベントリに戻し、防具のパッシブスキル【海賊武器庫】によって、レジェンド相当の装備の力を持つサーベルを瞬時に無から出して素早く振るう。

 だが、ミリアムは種族サイボーグの機械の体を活かして、指で剣を摘まんで止めて見せた。


「マジ!?」


 幾ら超人でもそこまで危険なことが出来る奴は極めて稀だ。それを容易くやったミリアムに驚きを隠せず、つい声が漏れた。

 しかし、海賊としての戦い方は卑怯が基本だ。シア・レッドハートはあっさりとサーベルを手放して消し、跳び退いて無限弾倉で自動装填機能が付いたフリントロック式のピストルを両手に持ち、上着の内側からもピストルを大量に出して連射した。


 ――だが当たらない。


 ミリアムはマジックスキル【ミラージュウェポン】で剣の分身を作って左手に持ち、球体関節を活かして手首や肘や肩の関節をくるくると回して剣を高速回転させて飛んで来る弾丸を弾いた。そのまま踊るように左右に動きながら後退したが、首は常にシア・レッドハートの方を向いており、一回転することもあった。


 ええー……きもっ。


 最早人間の動きでないことにドン引きしたシア・レッドハートは、口をぽかんと開けて銃を撃つのをやめた。代わりにまた海賊船で砲撃したが、動き自体が速くてあっさりと躱された。


「……【幽霊船員】」


 次にシア・レッドハートは防具のスキルで骨だけの姿をした幽霊を数十召喚し、サーベルを手に攻撃を仕掛けさせた。だが、ミリアムの剣は魔剣で土属性が付与されている。取り囲んで仕掛けた幽霊の攻撃に対し、余裕の表れかのように踊りながら関節をくるくる回して剣を振るい、幽霊などまともに見もせずに全員を切って倒した。


「もう終わり?」


 困ったな……こいつ強いし倒しきれない。


 ミリアムへの勝ち筋が見えず、シア・レッドハートはチラリとブラックホールエンジンを見た。それは効くかどうかも分からない博打であり、仲間諸共死ぬことになるので使用は躊躇われた。


 ここが海なら勝機もあったんだけどなぁ……。


 嘆いても仕方く、諦めの溜息を吐いたシア・レッドハートはインベントリから自爆装置を取り出して構えた。


「ミリアムだっけ? あんた、全身を押し潰され続けたら流石に死ぬでしょ?」


 その問い掛けに、ミリアムは首をくるくる回して考えた。


「うーん……そうね。流石に死んでしまうかもしれない。でも、死なないかもしれない」


 感情も分からず、本心からそう言っているように見えてシア・レッドハートは苦笑した。


「ま、いいけどさ。あんたちょっとは人間らしく振舞った方がいいよ。でないと可愛さより不気味さが勝ってる」

「分かってるわ。けど、これが私の生き方だから」

「そう。ならこれ以上何も言うことは無いかな。バイバイ」


 自爆装置のスイッチを押した。エンジンが爆発を起こし、密閉されていたブラックホールが全てを吸い込もうとし始めた。

 シア・レッドハートは防具のパッシブスキル【大海原の異界】で海と無数の島しか存在しない別次元の世界への門を開き、後ろ歩きで逃げ込んだ。

 ただゲートを閉じる寸前、黒いコートとスーツを着た褐色肌のエルフがミリアムの傍に転移して現れ、彼女の肩に手を置くとさっさと転移して何処かへ行くのが見えた。


「やっぱり、もう一人いたか……」


 仲間を犬死にさせることと、大事な戦艦を自爆させてしまうことに強い悔しさを感じながら、シア・レッドハートは異界へのゲートを閉じた。





 万能戦艦ヴィーナスが自爆し、上空にブラックホールが発生しているのを、南と中央エリアを隔てる山の上に退避したミザリーとミリアムは眺めていた。


「想定通り、シア・レッドハートはお前に勝てずに自爆したな」

「あーあ……あの子、欲しかったなぁ」


 ミリアムは使わなくなった魔剣テイルフィングを仕舞う為、デメリットのあるパッシブスキル【土精の呪い】を解消する目的で自分の胸に突き刺し、魔剣に死亡判定と認識させてからインベントリに仕舞った。

 次に、体内に縮小して取り込んでいた物を、物理法則を無視して胴体からにゅるりと複数吐き出した。それは紛れもなく人間で、さっきの自害の刺し傷がある人間と、戦いで受けたダメージを肩代わりして損傷した人間たちだ。どれもが既に死んでいる。これはユニーク防具『呪装鎧』のスキルの一つ【マトリョーシカ】によるものだ。


「お前の人形集めなんぞどうでもいい。それより、私たちの任務は達成した。このイベントももうすぐ終わるだろうから、帰るぞ」


 ミザリーは返事を待たず、ミリアムの肩に手を置くと転移して自チームの城へと帰った。





 遥か大空に浮かぶ万能戦艦の戦いは、二隻の戦艦が自爆して跡形も無く消え去るという形で終わった。





 その頃、中央付近では二つのチームが激戦を繰り広げていた。一方は各城を光属性の結界によって城を完全に守り、銃や魔法を空に向かって飛ばしている。もう片方は箒に乗ったり空中を浮遊して、同じく銃や魔法を撃っていた。互いに接近戦は少なく、双方損害は少ない。


 戦っているのは、チーム『極楽教会』とチーム『魔女の夜会』である。両者共に実力のあるチームとして知られており、既に大きな勢力として存在感を見せ、この戦いに割り込もうとする他のチームはいない。

 特に両チームが隣接している城では、黒くどんよりした分厚い雲によって大雨が降り注いでいる。その下……満潮で海となった道の低空で、リーダーのミドラーシュとソルシエールが戦っていた。

 少し前に【ディスガイズ】を解いて本当の装備を見せたソルシエールに対し、性職者の格好をしていたミドラーシュもまた、普段は見せない防具姿となっていた。


 彼女はユニーク防具『法王聖女の衣』という汚れることのない純白に金の装飾が施された修道服を着ており、体は装飾品のスキル【覇気】によって光属性のオーラを発して後光が差しているような状態だった。

 首からはユニーク装飾品『運命のロザリオ』と、ユニーク装飾品『神子の聖布』という肌身から離れず純白で淡く煌めくストールがある。

 手には柄の長いメイスのユニーク武器『導きの権杖』があり、それは金色をしていて眩しいくらいに輝いていた。


 二人の戦いは激しくもずっと続いており、ミドラーシュはもう何度目かも分からない同じ動きでソルシエールの側面に回った。その速度はミグニコにも劣らない速度で、同じ動きでもソルシエールは反応できない。


「こちらですよ」

「くっ!」


 ミドラーシュの声に反応し、ソルシエールは衝撃を和らげるマジックスキル【ウォーターウォール】を側面に展開、さらに魔法障壁とマジックスキル【マジックサークル】による実体化した魔法陣を展開するが、ミドラーシュが振り被ったメイスにより三重の防御が一瞬にして消し飛び、その衝撃波でソルシエールは吹っ飛んで姿勢を保てず、海に落ちた。

 海に落ちても呼吸が出来て自由に動けるソルシエールは、即座に反撃として槍で海を操り、巨大な龍として攻撃するが、それもまたミドラーシュのメイスによって叩き潰されて弾けて消えた。

 さらにミドラーシュはそのまま降下し、メイスを海に叩きつけて割り、強引に隠れたソルシエールを見つけ出した。

 割れた海は即座に展開された光属性のマジックスキル【セイクリッドウォール】によって光の壁が出現してその形を押し留められ、ミドラーシュは息も切らさず余裕の顔をして言った。


「ほら、もっと頑張ってください。あなたには強くなってもらわないと困るのですから」

「……さっきからそうやってずっと言ってますけど、私に何を求めてるんですか?」

「それは言えません。あなたは逃げてしまいますから」

「そればっかり……もし逃げないと誓ったら?」


 戦いの中でずっと繰り返してきた言葉、それに苛立ちを覚えて約束を取り付けてまで聞こうとするソルシエールに、ミドラーシュは未来に起こる美しい友情の一幕に感動し、歓喜したくなった。

 しかし、今ここでそんな態度は相応しくなく、まだ絶対的強者の一人として立ち居振る舞う必要があるとして微笑を浮かべた。


「……それならお答えします。ただ、口約束では信用出来ません。誓約書にサインをして貰いますよ」


 この時の為に予め用意していた質の良い羊皮紙と万年筆をインベントリから取り出し、マジックスキル【浮遊付与】を掛けてソルシエールに飛ばした。

 誓約書と万年筆を受け取ったソルシエールは、用意が良過ぎることに気味悪がって眉を顰めた。また、誓約書の内容が『私、ソルシエールは友人オウカを命を賭して助けることを誓います』ということに目を疑い、ミドラーシュと文章を交互に見つめて口を開いた。


「……これは何?」

「書いてある通りですよ。サイン出来ないなら、私があなたに強くなってもらいたい理由は話しません」

「……書けばいいんでしょ」


 ゲーム内で同じ魔法使いとして仲良くなった友人オウカ。彼女が危機に陥ることがあるのなら、助けるのも吝かではない。そう考えているソルシエールはサラサラと誓約書にサインした。

 書き終わったのを見たミドラーシュは誓約書と万年筆を手元に戻し、サインを確認し、インベントリへ仕舞った。


「確かに。では、このイベントが終わったら教会の方へ来てください。そこでお話しします」

「ここじゃないんだ」

「耳目が多過ぎますから……まだ、大衆に知れ渡るわけにはいきません。運営の方も、今回の映像は不具合が多くてまともに見れないと言い訳をするでしょうが、念には念が必要です」

「あなたは何なの?」

「それを含めてお話ししますよ。でも今は、決着をつけましょうか」


 余裕そうにしていた雰囲気が一変、ミドラーシュは権力者や王に相応しい厳かな顔つきになり、それに合わせて後光が強まってソルシエールが眩しいと感じた瞬間に動いた。


「光の速さで殴られたことはありますか?」

「――っ!?」


 今まで以上の速度で目の前まで詰め寄られ、咄嗟に回避した動きに合わせてメイスが光の速さで振るわれた。

 ソルシエールの頭部は血飛沫となって消し飛び、一撃で戦いは終わった。


「フフ、これから私が鍛えてあげます。逃げないでくださいねソルシエールさん。あなたの行動は一人の少女を救い、世界を救う鍵の一つに繋がるのですから」




 飛び上がったミドラーシュはその後、仲間たちの下へ駆けつけて片っ端からチーム『魔女の夜会』のメンバーを倒し、戦いを終結させた。


 なお、これ以上城を取っても意味がないことを予知している彼女は、さっさと自チームの城へ戻っていつもの痴女同然の修道服のコスチュームに着替えた。

 殆どの仲間が出払っている中、城の玄関で出迎えたのは、チーム『猫の集会所』から戻ってすぐに救援要請を受けたベネットだった。ミドラーシュと同じ痴女同然の修道服を着ていて、落ち着いた風を装っているが、気恥ずかしさを隠しきれず顔が少し赤い。


「おかえり、ミドラーシュ」

「ただいま。ちゃんと待っていてくれたのですね」

「手伝った方が良かったか?」

「いいえ。あなたが戦えば楽に決着がついてしまいます。それでは仲間の為になりませんし、これで良かったのです」

「……なら、私は何の為に呼ばれた?」

「こうする為です」

「!?」


 嫌がらないことを分かっているミドラーシュはガバッとベネットに抱き着いた。ベネットは驚いて片足が一歩下がったが、抱き着かれたせいでそれ以上は動けず、何をどうすればいいか分からず硬直してしまう。


「……あの、ミドラーシュ?」

「ベネットさん、あなたさえ良ければ今夜は一緒に寝ませんか?」

「っ、それが目的だったか」


 今更意図に気付いたベネットだったが、武器を向けたり逃げてまで断る理由も無く、がっしりと腕を組まれて城の中にある個室まで移動した。


 その個室は小さな畳部屋で、今はミドラーシュ個人が利用していて、畳の上に大きな布団が敷かれていた。

 ミドラーシュは扉の外側に『使用中』の札を掛けて閂を掛けると、布団を避けて座っていたベネットに近づいた。


「ではベネットさん、始めましょうか」

「始める? 何を?」

「何って……フフフ。こちらへ」


 微笑んだミドラーシュは布団の上に移動し、正座をして太腿をポンポンと叩いた。

 一瞬何を意味しているのか分からなかったが、そこは同じ超人として以心伝心で膝枕だと理解し、ベネットは近づいて太腿に頭を乗せて寝転んだ。

 ミドラーシュは何も言わずにベネットの頭を撫でる。ゆっくりと……母親が子供を寝かしつけるように。

 ベネットはその静けさと優しさが心地よく、目を閉じてすぐに寝息を立て始めた。


 それからすぐ、ぱちりと目を開けた。気配は落ち着いたものからどす黒く憎悪に満ちたものに変わり、その目は完全に濁り切っていた。


 ミドラーシュはその変化に気付いたが、意にも介さない澄ました態度で口を開いた。


「初めましてですね、ベネデッタさん」

「ミドラーシュ……わざわざベネットを眠らせて、何の用だ?」

「あなたとお話がしたかったのです。同じ未来を見ている者として、変わり始めた未来をどう思っているのかと」

「……知らん。俺はベネットに全てを託した。自分からはもう何もしない」

「とか言いつつ、未来では割と出ずっぱりですよね?」

「…………」


 やりにくい、そう思ったベネデッタは横を向いた。同じ超人であるミドラーシュにはそんな思いも筒抜けであり、クスリと笑った。


「大丈夫ですよ。誰かに話したりはしません。ですが……あなたがもっと早期に出て来てくれれば、事態は今見ている未来よりも好転すると思っています。もう一度だけ、人間を信じてみませんか?」

「…………」


 嘘偽りが無い純粋なお願いと、感情を読まれても全く気にしていないミドラーシュに、ベネデッタは迷った。

 幼少の頃から見て来た醜い世界にも、確かに純粋な思いで関わる人間は少なからずいた。感情や心を読まれようが恐れを抱かない変わった人間もいた。だがしかし、それはごく少数であり、ベネデッタ自身は迷惑を掛けられないと助けを求めなかった。だから壊れた。今は大分持ち直したが、悪意や負の感情に晒され続けたベネデッタは今尚人間不信のままだ。


「俺は……無理だ」


 だからこそ、出た言葉は否定だった。

 多くの悪意や負の感情をフラッシュバックし、今にも泣き出しそうな弱々しい声だ。ミドラーシュはそっと動いて膝枕を止め、ベネデッタの隣に寝転んで手を握った。


「無理強いはしません。ですが、あなたが自ら運命を変えようとすることで、未来は大きく変わります。それを忘れないでください」

「…………」


 ベネデッタは締め付けられるような感覚のする胸を片手で抑え、目を閉じた。


 ――考えておこう。


 これ以上話をする気が無くなったベネデッタは体の主導権を手放し、眠っているベネットへと戻した。

 ミドラーシュはベネデッタが少しだけ前向きになったことで、未来が僅かに良い方向へと変わり始めたのが見えた。その感謝の意に、ムラムラした気持ちと親愛の証も含めて軽く唇を重ねた。


「フフフ……リーベさんに話したら悔しがりますね」


 ミドラーシュは満足そうに笑みを浮かべ、ベネットを抱き枕に眠りに就いた。





 他のエリア同様、南エリアではこれ以上の動きが見られず、実質的に攻城戦が終わった。




はい、というわけでアルバとウルフェンとサカズキが秘かに動いていた伏線回収。超人相手に隠し事は難しいし、でかい商会がバックにいると諜報も捗るというもの。




……今更ですが、この物語って群像劇になりますかね?



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