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第四回イベント『チーム攻城戦』5

いつも誤字脱字報告ありがとうございます。


別チームの話。




 チーム『ネコ集会所』の援軍要請が終わり、日が暮れて夜になった。


 島の中央エリアは完全にチーム『円卓』が平定し、ミグニコやドルークが定期的な巡回をするだけで平穏な状態となっていた。



 一方、山を越えた東エリアは巨大な木々と様々な植物が生い茂る樹海が広がっている。多くのチームが群雄割拠して深い樹海の中を飛んだり歩いたりしているが、環境のせいで罠や待ち伏せは当たり前、さらにはゲリラ戦術によって互いに上手く攻め込めず、中央とは違って多くのチームが敗退せずに健在であった。


 その中で、島の隅にあって海が一望できる場所に銀の城を構えるチームが一つあった。天才たちの打倒を目指すチーム『下剋上』である。


 そのリーダー、トウジロウは天守にいた。胡坐を掻いて腕を組み、魔法の【ライト】の下で自身が展開したマップを水平にして広げ、見つめていた。

 そこには先ほど行われたサテライトスキャンで得た情報により、色々と書き加えられていた。


 中央は既にチーム『円卓』一色に染め上げられ、総ポイントは三桁となっている。さらに北エリアにあるチーム『ネコの集会所』が、トウジロウと同じ第八世界を主体として活動する強豪チーム『護剣隊』とチーム『稲荷分社』の二つを倒し、一大勢力になっている。他には圧倒的な所属人数を誇るチーム『桃園の誓い』が北部を完全制圧しており、後は生産系チーム『盃屋』とチーム『メイド愛好会』が勢力を伸ばし、他のチームは緩衝地帯のようにそれぞれのチームの間に挟まれて存続している。


 砂漠が広がる西エリアでは、チーム『世紀末覇王団』、チーム『浪漫戦車隊』、チーム『浪漫飛行隊』、チーム『炎皇騎士団』、チーム『翼運送』などが勢力を伸ばしている。


 潮の満ち引きで通れる道が変化し、城周辺以外は海に沈んでいる南エリアでは、チーム『極楽教会』、チーム『レッドハート海賊団』、チーム『ホワイト運送』、チーム『自由海軍』、チーム『魔女の夜会』などが勢力を伸ばしている。


 自チーム『下剋上』がいる東エリアでは、チーム『円卓の騎士』、チーム『見境無き治癒師団』、チーム『ヒーロー協会』、チーム『ヴィラン・ザ・ワークス』、などが他の雑多なチームより抜きんでた勢力となっている。


 それをジッと見ていたトウジロウはあることに気付き、呟いた。


「……やっぱ仕組まれてるなぁ」


 チーム『円卓』を詳しく調査して中心に見れば、運営が仕組んでいるのが分かる。中央には有力チームの中でも関りが少ないか、敵視しているチームばかり。他の四方には関わりの深いチームが振り分けられ、そう簡単に敗退しないようにされている。


「だが、読み通りだ」


 ほくそ笑んだトウジロウは、インベントリからワールドシップで売られている高性能の携帯通信機を取り出し、予め取り決めていた周波数にしてロールプレイをしながら言った。


「こちらチーム『下剋上』のリーダー、トウジロウでござる。取り決めた時間となった。作戦を開始するでござる。繰り返す。取り決めた時間となった。作戦を開始するでござる。奴ら天才に目にものを見せてやろうぞ!」


 通信を終え、通信機をインベントリに仕舞ったトウジロウは立ち上がった。


「さて、賽は投げられた。ハンゾウ、いるでござるか?」


 すると、梁の上に潜んで待機していた忍者のハンゾウが、パッシブスキル【無音歩法】によって音も無く傍に着地して跪いた。


「ここに」

「仲間の準備は出来ているでござるな?」

「問題無い。だが一つ進言させてもらう。本当に守りを捨てていいのか?」

「構わぬでござるよ。ハンゾウとヌイとコハクで仕込んだ罠の数々は、そう簡単に突破出来ぬ、でござろう?」

「フッ、その通りだ」


 信頼されていることに嬉しく思ったハンゾウはアクティブスキル【隠密】の最上位、パッシブスキル化した【隠密EX】を発動して完全に姿を消し、足音も無く先に行ってしまった。


 城から出ると、少し離れた場所に仲間のドワーフ女の鍛冶師、スミによって魔改造されたスカイバイクが人数分用意されていた。

 そしてその傍に仲間が立って待っていた。

 忍者のハンゾウ、猫娘の忍者ヌイ、イレギュラーのルイス、ケモミミ狐のコハク、双子の兄のウコン、双子の弟のサコン、ドワーフの女の鍛冶師スミ、オーガのゴウキ、サイボーグのライアン、そして寿司職人妖精のスゥシィ。

 少数なれど、普通の人間としてはトップレベルの実力を有する仲間である。

 彼らの覚悟の決まった顔を見たトウジロウは小さく頷き、口を開いた。


「んじゃ、チーム『円卓』の度肝を抜きに行こじゃねぇか!」


 全員がスカイバイクに乗り込み、急発進して高高度を飛んで行った。







 その頃、北エリアで勢力を伸ばしていたチームの一つ、生産系チーム『盃屋』のサカズキは、自チームの銀の城の広間にいた。

 周りには大量の通信設備があり、通信担当の仲間たちが各地に散らばって偵察している仲間からと通信を取り合っている。

 そんな中、サカズキ自身は持っている携帯通信機からトウジロウの通信を傍受し、笑みを浮かべた。


「動き始めましたか。さて、彼の人望と扇動でどれだけのチームが動くやら……」


 サカズキはその携帯通信機を仕舞い、別の携帯通信機を出して周波数があっていることを確認し、通信した。


「こちらチーム『盃屋』のリーダー、サカズキです。敵が動き始めました。生き残った各チーム、迎撃に当たってください」


 通信を終えて動きがあるかを待っていると、通信担当の仲間の一人が振り返って声を上げた。


「報告! チーム『桃園の誓い』が一斉に行動を開始しました。地上からはおよそ五千、空からはおよそ千の大軍勢が一斉に南下して来ているそうです!」

「分かりました。すぐそちらの対処に動くと言っておいてください」

「はい」


 指示が終わると、サカズキは傍に控えていた仲間に振り返った。


 そこには種族エルフだが褐色肌をしている、所謂ダークエルフの女性が立っていた。出来る女らしいクールで気品のある顔つきをしており、フチ無しの眼鏡をしている。

 艶のある真っ直ぐ長い黒髪をゴム紐でポニーテールにしており、形の良いお尻まで垂れ下がっている。

 彼女はリアルでは早々お目に掛かれない抜群のモデル体型をしており、パンツスタイルのビジネススーツがとても似合っている。ただ、大きな胸のせいで上のボタンが締まらず谷間を晒していた。これはサカズキの指示でやっている。


「アメリアさん、ここを任せていいですか?」

「その前にお聞きします。戦いに出掛けるのですか?」

「ええ、天才が相手で無いのなら、私でも十分戦えますから」

「ならせめて共を一人付けてください。万が一があっては、盃屋は成り立ちませんから」


 ……これは言っても聞きませんね。


「成り立つように、あなたのような優秀な人を引き入れたのですけどね。分かりました、一人だけ付いて来てください」

「分かりました。ではマツナガ、ここはお任せします」

「任されました」


 アメリアはすぐさまこの場を任せられる仲間……同じく傍に居たマツナガにお願いした。


 マツナガは白髪をオールバックにして立派な口髭を持ち、鋭い目つきでカタギには見えない厳つい顔の老紳士だ。高身長でスーツの上からでも分かるほどに筋骨隆々とした体格をしており、背筋も真っ直ぐ伸びている。手には白い手袋をしており、黒い革靴はしっかりと磨かれて反射している。


 彼にお辞儀をされながらその場を離れて城の外に出ると、偵察用の戦闘機が垂直離陸から発進したり、偵察に行っていたスカイバイクの仲間が休憩に戻って来たり、遅めの食事として大勢でバーベキューをしていたりと忙しない状況だった。

 みんなが楽しくも真面目にやっていることにサカズキは満足そうにしながらスカイバイクの発着場にしている場所に来て、口を開いた。


「【スカイバイク展開】」


 目の前に未来技術で作られたスカイバイクが出現する。

 このバイクは長距離の高速移動を目的としたクルージング仕様であり、見た目はツアラータイプのバイクに近い。

 その為、小回りが効き難い代わりに乗り心地が良く、また最高速度もかなりのものとなっている。風除けとしてバリアも展開可能であり、多少の銃撃ならば耐え得る防御力も有している。

 サカズキ自身の改造によって二人乗り用でフルカスタムされており、最高速度はかなり引き上げられ、塗装は星が煌めく夜空のようなラメ入りの紺色で、側面には盃屋のロゴが貼られている。

 この改造したバイクは商品でもあり、名を『スターゲイザー』という。


 サカズキがスターゲイザーに乗ると、当然とばかりにアメリアが後部座席に乗って腕をサカズキの腰に回した。


「……君用のバイクを渡した筈ですが、何故相乗りするのです?」

「いけませんか?」

「……いや、別に」


 サカズキはアメリアからの好意を察しつつ、気にしないようにしてインベントリからゴーグルタイプの暗視装置を出して被り、エンジンを始動させて飛び立った。




 少しの飛行により、サカズキとアメリアの二人はチーム『桃園の誓い』の領域に近づいた。

 そして同程度の高度で前から迫って来る何かを視認した。それは魔法の光の玉であったり、航空機の探照灯だったりで大量に輝いており、光に照らされてヘリやスカイバイク、種族ウイングのプレイヤーたちが数千の群れとなって飛んでいた。


「……報告にあったチーム『桃園の誓い』の航空戦力のようですね」

「サカズキ様、どうされますか?」

「勿論、迎撃です」

「了解しました」


 サカズキがスカイバイクを横向きに停めるとアメリアは両手を離し、エネルギー弾を撃ち出す狙撃型の大型光学銃を取り出して構えた。それは最近信頼できる相手から大量に仕入れた武器の一つであり、レア度こそノーマルでスキルも能力上昇効果も無いものの、性能そのものはレジェンドクラスに匹敵する。

 アメリアは大きな四角いスコープの摘まみを弄り、暗視に切り替えた。


「サカズキ様、射撃準備完了しました。いつでもどうぞ」

「では、始めますか」


 サカズキは頭上に様々な杖を、百を超える数を出した。ただし、それは杖の先端しか出ておらず、残りはインベントリである亜空間に収納された状態だ。


 これはインベントリの正式な仕様ではない。本来は、手の届く範囲内にしか出すことは出来ない。また、中途半端な状態を維持できず、出すか仕舞うかはっきりしている。

 これが可能なのは、パッシブスキル【インベントリ拡張】を持っているからだ。

 このスキルは普通のプレイヤーではまず取得できない。莫大な種類と量のアイテムや装備、ゴールドをインベントリに収納する必要があり、現時点においてこのスキルを取得しているのはサカズキだけである。

 そしてその効果は、インベントリのあらゆる制限が解除され、自由な扱いが可能となる。


 よって、サカズキはナガの【鉄砲三段撃ち】のようなことを疑似的に行うことが出来る。


 杖から魔力弾が次々と撃ち出される。間髪入れず、連続で……。


 遠くから接近して来ているプレイヤーたちは唐突な面制圧の攻撃に慌てて回避行動に移るが、隊列も整えず密集して飛んでいたせいでまともに回避できず、直撃した航空機は墜落し、HPやVITが低いプレイヤーは粒子となって消えていく。


 杖は本来、魔法を使う為の触媒であり、増幅装置でしかない。だが、サカズキが所持している杖は盃屋で売り出している商品であり、全ての杖に便利機能としてパッシブスキル【魔力充填】と【魔力弾】が付与されている。どちらのスキルもスキルクリスタルとして店売りされており、生産系のプレイヤーならば強化のついでに容易に付与できるものだ。

 効果のほどは、杖にMPを貯蔵できるようになるのと、撃つ意思を持つだけで魔力の弾を撃ち出せる。MP貯蔵は杖の性能次第であり、魔力弾の威力は所持者のINT依存である。


 魔力弾による広範囲攻撃だけで敵が半分まで減り、奇襲の効果が薄れて実体化した魔法陣や魔法障壁でしっかりと防御され始めた。

 と、丁度いいところで全ての杖の魔力が切れた。


「……思ったより倒せましたね」


 サカズキは全ての杖をインベントリに仕舞った。ここまで盛大に使えたのはイベントによって状態が元に戻るからであり、普段なら絶対にこんな無駄なやり方はしない。

 何故なら、魔力の充填は自然に貯まるものではなく、所持者のサカズキが日々コツコツとしなければならないのだ。インベントリに入れた状態でも充填は可能だが、数が莫大で性能の良い杖しかない為、全てが充填を終えるのにそれなりの日数を要してしまうのだ。


 一度攻撃が止んだことで、チーム『桃園の誓い』のプレイヤーたちは警戒しながらも防御を解き始めた。その油断を狙い、アメリアが狙撃する。


 まだ一キロ以上離れた距離であるにもかかわらず、銃弾と同じかそれ以上の速度でエネルギー弾が飛んで行き、防御が低そうなプレイヤーの頭部を正確に吹き飛ばして倒した。


「お見事。流石は天才ですね」

「恐縮です。ヘカティア様と比べると、雑魚もいいところですけどね」

「だとしても、常人を越えた技量なのは確かです。引き撃ちを始めましょうか」

「はい。可能な限り当てます」


 アメリアが後ろ向きに座り直し、サカズキは振り落とさないように緩い加速でスカイバイクを動かした。次々とエネルギー弾が発射され、防御をせずに単調な動きで素早く接近しようとする馬鹿なプレイヤーを撃ち抜いていく。外れた弾は無い。


 二十数発撃って、銃身の背面にある装弾数のパネルとスコープ内の装弾数の数字がゼロになり、アメリアは黙々とマガジンであるエネルギーパックを交換して再度撃ち始めた。

 だが、まだまだ数が多い相手には手数が足りず、銃を持つプレイヤーや魔法を使うプレイヤーが暗闇の中でも捉えられるほどの距離まで近づかれた。

 これ以上は無理だと判断したアメリアは銃をインベントリに仕舞い、高速で進むスカイバイクの上で器用に座り直し、サカズキの腰に手を回して言った。


「サカズキ様、攻撃来ます!」

「しっかり掴まっていてください!」


 回避運動を始めた直後、銃弾と幾つかの魔法が傍を通り抜けた。ばら撒かれる弾丸は幾つかが展開しているバリアに当たって弾かれ、火属性の魔法は外れても近接信管のように近くで爆発した。


 だが、決して直撃はしない。


 アルバの強さを見出し、ゲーム内で最も栄える商会になっているのも、彼が超人の端くれだからである。

 背後から徐々に近づく気配をしっかりと認識しているサカズキは、敢えて近づけせていることに気付かない相手にほくそ笑んだ。


 ……そろそろいいですね。


 サカズキは先の杖同様、今度は自分を起点として背後に向かってインベントリを開いた。出て来たのは商品として所持している様々な刃物や鈍器の先端。


 その数は、優に百を超える。


「……発射」


 小さく合図し、インベントリを砲台として良質な武器が一斉に射出された。その速度は銃弾程ではないにしろ、常人が躱し続けるには難しい速さであり、近づいてしまっていた相手は次々と武器にくし刺しにされ、或いは鈍器をぶつけられ、倒されていった。

 動きの上手いプレイヤーもいたが、サカズキは気配を察知してそちらにも追加で武器を射出し、逃さない。


 武器の射出は止まらない。

 サカズキの武器の貯蔵は万を超え、一度射出した武器はすぐにインベントリに収納され、再び射出される。この無限ループ止めるには全ての武器を修復が必要なほどに破壊する必要がある。

 だがしかし、それは実質的に不可能に近い。

 盃屋の商品として売り出す武器はどれも良質であり、サカズキが自ら売ろうと考えていた武器は最低でもレア、良いものでレジェンドクラスであり、そう易々と破壊できるものではないからだ。


 人の大軍に対してそれを上回る物量で攻撃したことで、サカズキとアメリアを追うプレイヤーはいなくなった。


「サカズキ様、どうやら相手は全滅したみたいです」

「そのようですね。では、次は地上の掃討と行きましょうか」


 サカズキはスカイバイクで高度を下げ、暗い夜の中を谷底に沿って移動する、魔法の光や機械の光、松明などの光源の列の少し先まで移動した。

 そこは大峡谷としてはかなり広い道となっていて、崖は人や物が登れなくもない斜面になっていた。


「商品のデモンストレーションには丁度良い場所ですね」

「はい。ここならば存分に性能を発揮するかと思います」

「では、お披露目と行きましょう」


 サカズキのインベントリから出て来たのは、大量の戦車だった。その見た目はベネットが所有するユニーク戦車『E-001』に一部こそ違うもののそっくりである。名称は『E-001MM』。

 MMは劣化コピー品であるモンキーモデルの略である。ただし、ユニーク戦車としてのブラックボックス部分から変更されているだけで、性能自体はオリジナルに比肩する物となっている。


 大まかな違いはまず主砲である。オリジナルは大口径で砲身が短かったが、これは口径を一回り小さくした代わりに砲身を伸ばし、弾速と貫通力を向上させた。口径縮小に伴い榴弾以外も使用可能となっており、対装甲目標への対応力が高くなっている。また、その関係で積載弾数が増えた。

 次に砲塔上部にあるバルカン砲。30㎜を20㎜に変更して威力は低下したが、その分弾数は倍以上に増えた。ついでに軽量化されたことでバルカン砲の旋回速度がオリジナルよりも速くなった。

 エンジンもオリジナルに近い性能で、最高速度こそ大きく劣るが、加速性能は同等のものとなっている。

 肝心の装甲もしっかりしており、正面ならば同車両の砲撃に確実に耐える頑丈さを持っている。


 そんな戦車が五百両以上出現し、搭乗者がいないにもかかわらず一糸乱れずに動いて陣形を作り、敵が来る方向に砲を向けた。


「ここまで揃っていると、やはり美しいですね。そうは思いませんか? アメリアさん」

「はい。ですが、やはりズルくないですか? これ」

「フフ、気持ちは分かります。ですが、私はベネットさんのサポートNPCであるテスタメントさんから、商品を大量に仕入れていただけです。その中の戦車がたまたま無人兵器として運用可能で、たまたまテスタメントさんが操作可能だった、というだけの話ですから。何も問題はありません」

「……相手は驚くでしょうね」

「ええ、良く売れそうです」


 やり過ぎな物量に呆れるアメリアに対し、サカズキは衝撃的な映像となることで高い宣言効果が見込めることを確信し、楽し気に笑みを浮かべていた。



 二人が待機すること数分、明かりが並ぶプレイヤーの集団が接近してくるのが見えた。

 見守る中、射程圏内に入ると戦車が一斉に砲撃を開始し、この場は瞬く間に爆音と閃光が連続で起こった。

 テスタメントにより完全に統制された動きを見せる戦車にチーム『桃園の誓い』のプレイヤーの大半は為す術もなく次々と死亡して粒子になって消える。

 耐久度の高い防御重視のプレイヤーや、チーム内でも強いプレイヤーが残ったが、それでも的確な集中砲火でやられた。

 そんな中、唯一抜け出して来たのはチーム最高戦力である蜀の三兄弟を真似た三人、ビリュウ、ウーカン、ヒチョウだった。

 それぞれの愛馬であるギガントホースを駆って巧みに砲弾を躱し、または弾いて突き進んだが、ここで全車両のバルカン砲が起動して弾幕が展開され、耐え切れずにやられて粒子となって消えた。


「……大丈夫でしたか」

「ヒヤッとしましたね」


 あわや突破されるのでは、と思って身構えていたサカズキは、インベントリから遥か頭上に出していた宇宙船の一部を引っ込ませて仕舞った。



 戦車の攻撃が止んで相手が全滅したことが分かったサカズキは、戦車を全てインベントリへと仕舞った。


「では、戻りましょうか」

「はい。お疲れさまでした」


 自分たちが対応すべき脅威が去り、彼らが復活するまでにこの攻城戦が決着することが分かっているサカズキはスカイバイクを動かし、自分の城へと戻って行った。




 チーム『桃園の誓い』が幾つも所有する城のうち、最初に持っていた金の居城、その広間にて。

 攻撃に参加しなかった多くの仲間が勝手に盛り上がり、飲めや歌えやお祭り騒ぎをしていた。

 そんな中、ナオ、サク、リクの三人は設営されたステージの上のテーブルの椅子に座り、料理好きな仲間たちによって作られたレストラン並みの豪華な料理を前に巨大スクリーンを眺めていた。

 そこに映っていたのは、暗視装置付きのカメラ機能を持ったドローンから送られてくる映像であり、先程の戦いだった。

 丁度見終わったところで、ナオが口を開いた。


「……やっぱ駄目だったかぁ。サク、あの大量の武器を防ぎきれるか?」

「いや無理だわ。あんなに大量に投げつけられたら魔法障壁も盾のスキルの防御壁も破られるし、下手したら盾が壊れる」

「そっかー。ならリク、あの狙撃はどうだ? 撃ち合いで勝てそうか?」

「無理。不安定な空中で支えも無しに構えて当てるとか普通じゃない。どう見ても逸脱した方の逸般人だ」

「……だよな。じゃあやっぱりこれ以上の拡大は無し、チーム『円卓』にちょっかい掛けないってことでいいよな?」

「そうだな。実力を確かめる為に攻めに行くって言ってた蜀の三兄弟とか数千人の仲間も、これで満足しただろうし」

「ほんと、なんでこんなに増えたんだろうな?」


 はぁ~、と三人は同時に溜息を吐いた。


 チーム『桃園の誓い』は、未だにメンバーが増え続けている。今回の攻撃で多くの仲間を一時的に喪失してもなお、万を超える仲間を有しており、攻めて来るチームなども無く平和であった。







 砂漠広がる西エリアでは、チーム『下剋上』リーダーであるトウジロウの呼び掛けに呼応し、動きを見せるチームが幾つもあった。

 また、その動きに対抗するように幾つかのチームも動き、一時は牽制し合って静かだった戦いが再び再燃していた。


 その中の一つ、チーム『浪漫飛行隊』はトウジロウの呼び掛けに呼応して動くチームだ。

 西の端に幾つかの城を持ち、各城には突貫工事で仕上げた滑走路がある。そこから必要最低限の防衛戦力を残してメンバー総出で戦闘機や爆撃機や輸送機に乗って飛び立ち、合流して編隊を組んで中央エリアへ向かう。

 狙いは勢力を拡大し過ぎて守り切れない、チーム『円卓』ただ一つ。

 一斉に各チームが襲い掛かり、至る所で城を奪取すればすぐには対処できず、一泡吹かせられるという寸法だ。これでチーム『円卓』が敗退するわけでは無いが、お高く留まっている天才集団に凡人の意地を見せつつ、このイベントを盛り上げられるということから呼び掛けに応じているチームは多い。

 リーダーのルーデンスと仲間たちも、その考えに賛同したチームの一つである。


 ルーデンスは近未来の技術で作られた青い戦闘機『ブルーファルコン』に乗っており、編隊飛行中の仲間たちよりも少し前に出て警戒に当たっていた。彼は普通の人ではあるが、人並み以上の勘と動体視力を持っており、率先して偵察を引き受けているのだ。

 暗視装置が働いて緑の視界ながらよく見えるヘルメットのバイザー越しからは大きな月の明かりと雲しか見えない。

 だが、何かが潜んでいると勘を働かせていたルーデンスは警戒を緩めなかった。


 しかし、それでも完璧に気配を消した存在には直前まで気付けなかった。


「――ん?」


 嫌な予感がして上を向き、見えたのは一瞬。

 全身真っ黒な種族ウイングの無表情の少女が、鳥の脚のような形をした、足に装備する武器エッジブーツで踵落としをする姿。

 ルーデンスはコックピットごと真っ二つにされ、何も出来ないままに死亡した。



 直上から攻撃を仕掛けてルーデンスを倒したのは、チーム『翼運送』のリーダー、レイヴンである。相変わらずの無表情をしているが、その姿は以前のレア防具『カラス』シリーズから変わっている。


 黒い羽で覆われていたロングコートやブーツ、黒いレオタードが無くなり、代わりにほぼ全身から黒い羽が直接生えて覆っていた。素肌が見えるのは大腿部と首から顔、そして手足くらいである。また、変わっていないのは頭に付けている黒い翼のカチューシャくらいだ。

 何故このような化物に近い姿になったのかは、少し前にアップデートされた『覚醒』のシステムによるものだ。

 早くも条件を満たして防具を覚醒させ、ユニーク防具化。名を改めて『ヤタガラス』シリーズとなった。その影響である。


 レイヴンは落下した分だけ再び急上昇し、月明かりに照らされながら飛行機の群れを見下ろす。


「……一番強そうな方は片付けました。後は仲間に任せましょうか」


 眼下では飛ぶことが狂う程に大好きな仲間である種族ウイングのプレイヤーが飛行機の真下から奇襲を仕掛け、飛行機は為す術もなく撃墜されていった。

 完全勝利に終わったことを見届けたレイヴンは、自チームの城と領土を仲間に任せ、今までの情報から助太刀が必要そうな南エリアへと高速で移動を開始した。

 その際、レイヴンは気を引き締めるように心の中で呟いた。


 ――私は運び屋。依頼された通り、勝利をお届けします。






 一方の月明かりに照らされている地上では、西エリアの南端を領土として持つチーム『浪漫戦車隊』が、トウジロウの呼び掛けに応じて動き出していた。

 現在は最低限の防衛戦力を残し、全員がそれぞれの戦車に乗って二列縦隊で東へ向けて進んでいる。ヘッドライトは点いていない。一人乗り用の全周モニター型コックピットには暗視装置が付いているからだ。道は各城へと続く砂岩の道で、風に巻き上げられた細かい砂のせいで見え辛くなっているが、目印として赤い布が巻かれた棒が左右に等間隔に立っている。


 数十両の二列縦隊の少し先では、第二次大戦期のイギリスの巡航戦車コメットが走り、隊の先頭にはティーガー重戦車を操縦するリーダーのローマンがいた。他にはソ連のIS-3やアメリカ試作重戦車T34、超重戦車マウス、重戦車KV-2、シャーマンファイアフライ、その他国際色豊かな戦車が適切な車間距離を保って走っている。


 ただ、全ての戦車は形状こそ変わっていないが、色々と変化していた。


 大罪の七姉妹との戦いで、浪漫だけでは勝てないと判断したローマンと仲間たちは、魔改造を決意してルーナを頼ったのだ。

 主砲は口径こそその戦車に合わせた物であるが、砲身に二本の板が挟み込むように追加されており、電磁加速により超高速で砲弾を撃ち出すようになった。要するにレールガンである。

 装甲はルーナが独自開発した超合金ヘキサに置き換わっており、表面に六角形の模様が浮かび上がっている。さらに追加装甲で各部が覆われている。

 砲塔の上にある機関銃は前時代のものから未来技術で作られた機関銃に置き換えられていた。


 エンジンも燃料を消費するものから、ルーナとハカセ以外に理解不能な半永久機関に変わっており、かなりの静音で段違いの出力を持つものとなっている。ただし、中身はブラックボックス化しており、二人の天才以外に整備は不可能な状態だ。

 足回りはエンジン出力に耐えられるよう頑丈に作られており、外から見えないようにスカートが装備されている。



 順調に進んでいる道中、偵察として先に進んでいたコメットが停車した。少し先にあからさま物が道の真ん中に設置されていたからだ。

 コメットに乗る仲間から通信が入る。


「こちらコメットよりリーダーへ。前方に対戦車地雷のような物があります。如何しますか?」

「榴弾で処理しろ。後、念の為に周囲にも撃っておけ。それから道を外れて大きく迂回して進もう。ただし警戒して慎重にな」

「ラジャー」


 通信が終わり、正面から爆発音が何発も聞こえた。少ししてその現場に到着すると、爆発跡が幾つも出来ており、コメットが移動したキャタピラの跡が砂岩の道を逸れて大きく迂回していた。

 その跡に続いて二列縦隊のまま進んでいると、突如真下から凄まじい爆発が連続して襲い、視界が黒煙で無くなり、爆音と衝撃で大きく怯んでしまった。


「何だ……何が起こった!? おいお前たち、無事か?」

「こちらIS-3、恐らく対戦車地雷だ。足回りが破損、動けない」

「こちらマウス。同じく足回りをやられた。動けん」

「こちらパンター。無事だ」

「こちらT-54。こっちも無事だ」

「こちらパーシング。動けない」

「こちら61式。無事だ」

「こちらファイアフライ。無事だ」

「こちらチャーチルMk.Ⅶ。駄目だ動けん」


 次々と被害報告が上がる中、左右から急にエンジン音が沢山聞こえ始め、丘の裏から改造した複数の車両と、砂漠を走るようにカスタマイズされた複数のバイクが現れた。

 乗っている者たちはみな、モヒカン頭であり、一部はフェイスペイントもしている。服装は棘付きの肩パッドの皮ジャケットを羽織っていたり半裸だったりだ。


「ヒャッハー! 獲物が掛かったぜー!」

「ヒャッハー! 爆弾をプレゼントだ!」

「ヒャッハー! 行くぞてめぇら!」


 ――ヒャッハー!!


 奇襲を仕掛けて来たのは、数個の城を確保し、チーム『浪漫戦車隊』の東へ向かう通り道に領土を持つチーム『世紀末覇王団』だった。


 彼らは最初からチーム『浪漫戦車隊』を警戒し、道の真ん中に分かりやすい対戦車地雷を囮として設置。そして大きく迂回する場所に手動で起爆可能なようにした対戦車地雷を大量に設置していた。勿論、真っ直ぐ進まれることも考えて少し先には隠蔽した対戦車地雷を設置していた。

 後は隠密が得意な仲間に偵察をさせ、自分たちは道から見えない丘の向こう側で待機していたのだ。


 ローマンは相手が必ず次の手を打ってくると直感が警鐘しながら、それでも負けはないと落ち着いた声で言った。


「各車、榴弾装填。動ける車両は左右に展開し、動けない車両の援護だ。機銃掃射及び砲撃開始!」


 ――ラジャー!


 戦車が動き、動ける車両が前に出て砲と機銃がモヒカンたちに向く。


「ヒャッハー! 作戦通り行くぜー!」


 ――ヒャッハー!


 だが、こうなることを読んでいたモヒカンたちのうち、二人乗りをしているバイク乗りたちはグレネードランチャーを発射し、戦車の手前に着弾させた。すると大量の煙幕が巻き起こり、視界を覆った。


 視界を覆われた戦車はそれでも機銃掃射と砲撃を開始した。モヒカンたちは戦車の一斉攻撃に次々と倒れていくが、それでも多くの者が戦車に貼り付き、または間を通り抜けて回り込むことに成功した。

 そして、戦車にも通用するプラズマグレネードを投擲し、すぐさま離れて煙の中へ隠れた。


 ――数秒後、各車両で全てを消し炭に変えるプラズマの爆発が発生した。


 だが、全ての車両はプラズマの爆発を物ともせずに存在し続け、耐え切った。


 これは、ルーナの発明によるものだ。車体表面に『リパルションコーティング』という薄い膜のバリアが展開されている。効果は車体表面に触れそうになる物体に対して反発作用を働かせ、弾くというもの。これにより余程の高速且つ大質量の飛来物以外は当たる直前で滑るように逸れて跳弾し、垂直の場合は反射する。物理的な物以外に爆発や衝撃も反発し、プラズマグレネードなども防ぐ。

 ただし、このリパルションコーティングは細かな形状の構造物には効果が発揮されにくく、キャタピラやバルカン砲の砲身などはプラズマグレネードに飲み込まれて消え失せていた。


「ヒャッハー! あ?」


 調子づいていたバイク乗りの一人が再び接近した時、煙の中でも動くティーガー重戦車と鉢合わせし、避ける間もなく正面衝突して死んだ。


「動ける車両に告ぐ。こいつらの武装は貧弱だ。各自散開して動き、各個撃破せよ! 視界が悪い、レーダーで仲間の位置は把握しておけよ」


 ――ラジャー!


 ローマンの指示に戦車はそれぞれ独自に動き出し、バルカン砲や主砲を撃っていく。レーダーのお陰で煙幕の中でも味方の射線を避けて撃つことができ、逆にモヒカンたちは鉄の塊が動いたことで視界が不利に働いた。

 それも織り込み済みで、モヒカンの一人が口を開いた。


「兄弟よ! どうやら俺たちじゃ倒せないみたいだ! 撤退だ!」

「ヒャッハー! 了解だぜ!」

「ヒャッハー! そいつは残念だ!」

「ヒャッハー! 後はボスに任せるぜ!」


 統率された意思によってモヒカンたちは一目散に逃げだし、丘の裏へと隠れた。追撃しようにも更に煙幕を使われて捉えられなかった。


「……撃ち方止め」


 これ以上は弾の無駄だと判断したローマンの指示により、全ての戦車の攻撃が止んだ。

 その間に仲間は何も言わずとも陣形を整え始めた。ローマンの乗るティーガー重戦車の隣にサブリーダーを務める仲間が乗る、イギリス第一世代MBT(メインバトルタンク)のセンチュリオンMk.Ⅶが停車した。


「リーダー、追いますか?」

「……いや、そうだな……足の速い戦車で丘まで行って偵察。何かあっても無くても、即時戻ってくる。でいいか?」

「それがいいでしょう。先行していたコメットを呼び戻して片方の丘に偵察に行かせます。もう片方はパンターに」

「こちらパンター、ラジャー」

「……コメット?」


 通信での会話に名前を上げた戦車に乗っている仲間から返事が無い。

 疑問に思ったローマンはサブリーダーに変わって声を掛けた。


「おいコメット。何かあったのか? 返事をしろ。おい!」


 やられたか?


「こちらIS-3、前方より敵だ」


 仲間の報告に車体を旋回させつつ振り向けば、一人の大男が歩いて来ていた。

 世紀末に相応しい頑丈な鉄のヘルメットを被り、アーマーを着用し、脛当ての付いたブーツという防具を装備している。両手には金色の分厚いグローブ、ユニーク武器の『グレートナックル』を装備している。

 彼こそがチーム『世紀末覇王団』のリーダー、ボスである。


 ローマンは彼がたった一人で奇襲もせずに歩いて来ていることから、かなりの強敵であると判断した。また、コメットがこの男にやられたのだと確信した。


「……総員、油断するな。砲撃開始!」


 ――ラジャー!


「【グレートモード】」


 戦車が砲撃を始める直前、ボスが武器のアクティブスキルを呟くと装備を含む全身が光厳の輝きを放ち、黄金のオーラを纏った。それによりステータスの全能力が凄まじく上昇した。特にVITは尋常でなく上昇し、体は黄金の鉄の塊となった。

 力強く一歩踏み込み、ドンッ! と音を立て砂柱を巻き上げて一気に距離を詰めた。

 僅かに遅れて砲撃が開始されたが、普通の人間が捉えるには少々速過ぎる走りに大半の戦車は照準が追いつかず、外してしまう。ドンドンドンドンッ! と大きな音を立てながら接近され、動けなくなっていたIS-3の頭上に跳んだ。


「【インパクトパンチ】!」


 戦車の天板は薄い。だがそれでもリパルションコーティングによって防御がされる筈だった。しかし、グレートナックルのパッシブスキル【貫徹】によってシールドは意図も容易くガラスのように砕け、IS-3は大罪の七姉妹の一人、ラースの時と同じように破壊された。

 すぐさま全車両が発砲するが、その前に動かれて当たらず、次々と破壊されていく。


 ……届かんか。


 遥か高みにいる人間、それに追いつこうとする人間……彼らに対して兵器だけが強くなっても限界があると悟ったローマンは覚悟を決めた。ターゲットにならないように祈りながら、インベントリからタブレット端末を取り出し、ルーナに通話した。

 ワンコールで出た。


「はいはーい、大好きなあなたから電話なんて珍しいね。何かあった?」

「今、強いプレイヤーと戦っている。お前に改造してもらった戦車でも太刀打ちできん。助けてくれ」

「……そっか。やっぱり幾ら強化したところで、通常兵器だと強いプレイヤー相手には厳しいか。分かった。じゃあ私が発明した新しい力を見せてあげるよ。ルールの穴を突いたやり方だけど、運営には確認取ってるから安心してね。ポチッとな!」


 ポチッとな?!


 嫌な予感がしたローマンの思いはすぐに的中し、ティーガー重戦車から緑の粒子が噴き出し、部品ごとに分解されて外に放り出された。

 何が起こったのか理解できずに眺めていると、ティーガー重戦車のエンジン部から隠されていたマナ結晶とナノマシンが出現し、緑の粒子を放出しながらナノマシンが人型を作り、戦車の部品が縮小して装着されていった。

 その人型は真っ白な肌に銀髪緑目の背の高い美女となった。クールな顔つきで帽子には穴が開いていて丸いライオンの耳があり、尾てい骨付近からは尻尾が生えている。二次大戦時のドイツ風のスカートタイプの灰色軍服を身に纏い、右腕に主砲、左腕に機銃、背中には翼のようにアームで繋がった大きな二枚の四角い盾を背負い、ブーツにはキャタピラ型のローラーシューズを着けていた。そして胸にはマナ結晶が埋め込まれている。


「こいつは……大罪の七姉妹か?」


 全ての変化が終わる直前、異変に気付いたボスが側面から殴り掛かった。それをティーガー重戦車だった彼女が背中の盾で防いだ。

 重い金属がぶつかり合う音が響き、衝撃波が軽く発生して背丈の低いローマンは少し吹き飛ばされた。

 だが、二人はどちらも吹き飛ばされることなく拮抗し、ボスはサングラスの奥の目を鋭くして呟いた。


「硬いな」


 彼女は背中の盾を振り払ってボスを遠くへ飛ばした。着地したところを仲間の戦車が砲撃し、ボスは休む間もなく動いて躱し、まずは雑魚と認識した周りの戦車の殲滅に動いた。

 僅かな時間こちらに攻撃が来ないことを確認した彼女は、少し離れてしまったローマンに近づき、わざわざ跪いて口を開いた。


「初めましてマスター。私はティーガー。ルーナ様によって、たった今生み出された者です」

「彼女はマナ結晶が人型を得ることで意識を覚醒させたマナロイドだよ。私とハカセで命名した、プレイヤーはなることが出来ない新種族。その力はユニーク装備で固めた天才に匹敵する。サポートNPC扱いでこのイベントには参加不可だけど、持ち込んだアイテムで生み出した場合は問題無いってね」


 ローマンは初めこそ驚いていたものの、電話越しにルーナからその説明を受けて強力な仲間を得た嬉しさと自分の目的とは正反対のやり方に不満の入り混じった表情を浮かべた。


「……ルーナ。俺は大罪の七姉妹に負けてから、戦車で戦って勝ちたいと思った。だが戦車を同じ存在にするのは違うだろう」

「分かってる。でも好きだからこそ、心を鬼にして、一人の天才として意見させてもらうよ。ローマン、君たちはここが限界。浪漫溢れる戦車で戦うのは素晴らしいことだけど、これ以上強さを求めた場合は戦車とは名ばかりの何かになる。私のようにとんでも兵器で戦ってもいいって言うなら、まだ強くはなれるけどね」

「……そうか……そうか」


 自覚していることをはっきりと告げられ、ローマンは肩を落とした。


 兵器は所詮兵器である。どれだけいいものが出来ようと、スペック以上の力は発揮されない。特に攻撃手段である機銃や主砲が効かなければ、手も足も出ない。装甲も気合で硬くなったりすることはなく、想定以上の攻撃を受ければ簡単に破壊されてしまう。

 改造や改修といった強くなる手段はあるが、すぐに限界が来る。その後は新技術を取り入れた新型を一から作るしかない。

 だがそれでは、ゲームのインフレに追いつけない。

 現実ならば人が生身で正面から兵器に勝つなど不可能に近いが、これはゲーム。才能と努力によるが、人が活躍して英雄となれる仮想世界だ。機械である兵器はすぐにスペックの限界に到達するが、プレイヤー自身の限界値は遥かに高く設定されている。

 既に一部のプレイヤーは兵器では太刀打ちできない領域に踏み込んでおり、どれだけ工夫しようとも戦車という枠組みでは戦えない。それこそ、ルーナのように既存の兵器ではありえないとんでも兵器を作って、ようやく肩を並べられるくらいだ。


 落ち込んでしまったローマンだが、今は戦闘中であり、目の前に跪くティーガーは自分をマスターと呼んで指示を待っていることに気付き、拳を作って顔を上げた。


「ティーガー、お前は俺の命令に従う。ということでいいんだな?」

「はい。肉体を得た時、マスターに忠誠を誓うことを約束していました」

「ならばよし! マスターとして命じる。今我々を襲っている奴を倒せ! マナロイドとしての強さを示せ!」

「イエス、マイマスター」


 立ち上がったティーガーは体に緑の紋様を浮かべて粒子を放出し、力強い足音と砂柱を立てて行動を開始した。



 ボスが丁度全ての戦車を破壊し、残っている強敵のティーガーに振り向いた瞬間、目の前にティーガーの脚が迫っていた。

 天才でもないボスは避けることも出来ず、顔面に蹴りを食らって数十メートル吹き飛んだ。

 何度も砂の地面にぶつかって転がり、何とか体勢を立て直したボスが顔を上げれば、今度はマナコーティングされた砲弾が飛んで来ているのが一瞬見えて、躱す間もなく眉間に直撃した。

 それによりボスは衝撃をまともに受けて盛大に仰向けに倒れた。黄金になったヘルメットでも防ぎきれない衝撃によって、その顔は苦痛で顰め面をしていた。


「あーくそ、全身カチカチになってこれかよ」


 愚痴をこぼしつつ跳ね起き、首をゴキゴキと鳴らしてからすぐ近くに来ていたティーガーに向かって拳を構えた。

 対するティーガーは腕に付いている主砲と機銃の向きを反対にして仕舞い、背面からマナ粒子で形成されたビームサーベルを展開した。


「……マジかよ」


 苦笑したボスは不利を悟りながらも踏み出し、拳を振るった。だが、刀身に重みの無いビームサーベルの動きは早く、硬いグローブの拳を簡単に受け流され、腕を切られた。切断こそされなかったものの、黄金の体からは深い切り傷が出来て血が流れ落ち始めた。

 凄まじい切れ味に警戒を強めたボスは、攻めに転じたティーガーのビームサーベルをグローブで受け流し、さらに下がりながら躱す。

 何度か打ち合いに興じたところで今のままでは追い詰められると判断したボスは、間合いを一気に離して右腕を引いて構えた。


「【インパクトパンチ】!」


 武器に備わったアクティブスキルによるパンチを繰り出し、凄まじい衝撃波を飛ばす。だがそれは背中の盾を展開して斜めに構え、受け流された。

 だが盾で防いだことで視界が塞がれ、ボスの次の行動が見えなくなった。それを待っていたボスは盾の眼前まで接近し、振るった右腕をもう一度引いた。


「【グレートインパクト】!!」


 渾身の一撃が繰り出され、超合金ヘキサで作られた盾が砕けた。さらに衝撃波が突き抜けてティーガーを吹き飛ばした。

 だがただではやられず、吹き飛ばされている最中にビームサーベルから切り替えた主砲が撃たれ、ボスもまた吹き飛ばされた。


 互いに体勢を立て直してからは激しい戦闘となった。ボスが被弾を前提として強引に攻め、ティーガーは砲撃とビームサーベルを使い分けてどの距離でも攻撃を仕掛け、無理な攻めをしない。

 ボスは遠距離攻撃を持たない為に正確な砲撃が避けられずどうしてもダメージが蓄積し、スタミナの消費も激しい。対してティーガーは引き撃ちをしつつ、接近された時はビームサーベルで戦う貼り付かれても戦車に装備されていた煙幕を使用して強引に距離を取った。


 僅か一分ほどだが、グレートモードで消耗の激しいボスはスタミナが切れ始めて大汗を流し、息も上がり始めた。ティーガーは無限に沸き上がるマナの力によって余裕のままで、亜空間から新たな盾を出して装着した。


「限界か……うおおおおおおおお!!」


 ボスはティーガー相手に勝てないと判断し、最後の力を振り絞って雄叫びを上げながら気合で突っ込んだ。ティーガーはそれに付き合うつもりはなく引き撃ちをし、動きをよく観た。

 まだ遠い筈のボスが右腕を引き、叫んだ。


「【グレイテストインパクト】!!!」


 拳に乗せた最後の一撃を放ち、次元にヒビを入れるほどの威力且つ広範囲の衝撃波が飛んだ。

 動きを観ていたティーガーは防御しながらも横へ回避し、余波を受けて吹き飛んだ。衝撃波は砂の丘を消し飛ばし、遠方まで衝撃の跡を残した。


 最早戦う気力も無くなったボスに対し、ティーガーはその力に敬意を表して切り札を見せることにした。

 亜空間から頭上に出したるは、口径80㎝の巨大な砲身の一部だった。マナ粒子を極限まで圧縮充填されており、いつでも撃てる状態だ。


「発射」


 片手を前に出し、合図を出した。

 すると砲口径を遥かに超える極太のビームが撃ち出され、ボスを飲み込んで地面ごと抉るように消し飛ばし、幾つもの砂丘を貫通して遠方にある砂の大砂丘に着弾。そこでキノコ雲を作るほどの大爆発を起こした。

 射線上の跡は砂がドロドロに溶けており、外側はガラス化していた。


 ティーガーは巨砲を亜空間へと仕舞い込み、拡散した粒子から周囲にまだ敵がいることを感知した。


「……『ゴリアテ』」


 次は亜空間から全長一メートルほどのラジコンのような、ミニティーガー重戦車を数十両出した。


「行け」


 指示を出すと感知した敵に向かって走り出す。その速度は戦車にあるまじきものであり、すぐに砂の丘の裏へと消えた。


 そして、丘の裏から大量の悲鳴が聞こえだした。


 ゴリアテは小さいからと侮るなかれ。ティーガーの為にルーナが設計し、データとして仕込んでいた兵器だ。マナ結晶の欠片を動力兼受信機として使用し、最高速度は百キロを超える。主砲は小口径のビームを撃ち、機銃はマグナム弾を撃つ。装甲は超合金ヘキサでリパルションコーティングもされていて、とても頑丈である。

 だから銃で撃たれようがロケット弾を撃ち込まれようがビクともせず、しかも速くてすばしっこくて魔法も当たらず、モヒカンたちは何も出来ずにやられた。


 仕事を終えたゴリアテが戻って来ると、ティーガーはそれらを全て亜空間へ仕舞った。

 それからローマンのところまで行き、跪く。


「マスター、終わりました」

「御苦労。よくやった」

「このまま中央エリアへ攻めますか?」

「……いや、撤退しよう。予備の戦車があるとはいえ、そっちはルーナの手を借りずに趣味で作ったものだ。戦力的に最早攻めることは出来ない」

「了解しました。では失礼します」


 ティーガーはローマンを持ち上げると、キャタピラを動かして移動を始めた。ただ、その持ち方は外面的に恥ずかしいものでローマンは不満を抱いた。


「ティーガー……お姫様抱っこはやめてくれないか?」

「申し訳ございません。最も安定した持ち方がこれなのです。背負うにも背中のアームと装甲が邪魔ですから」

「……」


 もしもがあっては困るから強く言えず、ローマンは黙って運ばれることにした。





 その頃、チーム『炎皇騎士団』は動けずにいた。西エリアのど真ん中で勢力を伸ばし、存在感を放ちつつも人員的な攻勢限界に達し、これ以上の身動きが取れないのだ。


 リーダーのガイエンは領土の中心にある銀の城の中の広場にて、意匠の凝った洋風の白いテーブルとセットの椅子に座って腕を組み、貧乏ゆすりしていた。

 テーブルの上には甘味の少ないガトーショコラのケーキとミルクティーのカップが置かれているが、手がつけられておらず、貧乏ゆすりの振動でカタカタと揺れ、ミルクティーが常に波紋を浮かべていた。

 隣に座る仲間の一人、副団長を務める銀髪赤目の青年アバターのレッカは、治まらないそれを見て溜息を吐いた。


「ガイエンさん、折角用意したんですから食べてください」

「む? うむ、そうだな」


 言われて腕組みをやめ、ガイエンはケーキを口に含んで流し込むようにぬるくなってしまったミルクティーを飲んだ。


「うん、美味いな」


 味わう様子もないガイエンに軽く眉間を押さえたレッカは、分かりきっている悩みを聞いてみた。


「……何を悩んでるんです?」

「ああ、いや……マーリンに今回の攻城戦では活躍してみせると言ってしまってな。最初は良かったのだが、思いの外、人手が割かれて攻めきれていない。これでは活躍したとは言えないし、姫様も満足しないんじゃないか、とな」

「気持ちは分かりますが、無茶して途中敗退するよりはずっとマシですよ。それと、恋人にカッコイイところを見せたいからって、仲間全員を危険に晒すようなことはやめてくださいね?」

「分かっているとも。だから悩んでいるのだ」


 そう言ってケーキをまた口にするが、すぐにミルクティーを飲んで胃に流し込んでしまう。

 レッカは変わらないガイエンの態度に肩を竦めた。


「……ガイエンさん、悩んでいる時の態度は改めた方がいいですよ。彼女に嫌われそうですし」

「き、嫌われる!?」


 ショックを受けたガイエンはフォークを落とした。


「そ、そんなに俺の態度は駄目なのか?!」

「まーそうですね。男の俺から見ても、なんかオヤジ臭くて近寄りがたいですし」

「オヤジ臭いか。そうか……」


 リアルではまだ二十代のガイエンは酷く落ち込んで肩を落とした。だがすぐに気持ちを切り替えて姿勢を正した。


「ありがとうレッカ。問題点が見つかったのなら改善するまでだ! 俺は騎士らしく、これからは品性も磨いていこうと思う」

「いいと思いますよ。付き合います」

「っ! そうか! では共に真の騎士を目指そう!」


 約束がされたところで、聞いていた仲間たちが近づいて言った。


「団長、俺たちを仲間外れにしないでくださいよ」

「俺たちだってモテたいんですから。混ぜてください」

「いっそのこと勉強会を開きましょう。その方が効率的です」


 下心があるとはいえ、仲間たちのやる気満ちた言葉にガイエンは力強く頷いた。


「……分かった。攻城戦が終わったら参加者を募ってやろう」


 チーム『炎皇騎士団』は、その後も変わらず順調だった。


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