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第四回イベント『チーム攻城戦』3

ベネットが、一つのチームとガチ目な戦いをする話。

今後の展開を考えて詳細に書いた結果、長くなりました。


あと、いつも誤字脱字報告ありがとうございます!




 ――イベント開始から六時間が経過した。




 サテライトスキャンが始まり、ベネットは氷漬けにして占領した銀の城の天守で仰向けに寝転んだ状態でマップを開いた。


 表示された全体マップではチーム『円卓』が中央エリアの城をほぼ全て独占しており、辛うじて隅の方だったり見過ごされて残っているチームが点在しているだけだった。

 ポイントも既に80を超え、四方の山を越えた先にある他のエリアの強豪チームや見知ったチームとは倍以上のポイント差となっている。


「これは……もう勝ったでいいな。けど……攻勢限界か」


 チーム『円卓』は十人ちょっとの少数精鋭である。そんな人数で城取りを続けた結果、守りに割ける人員が全く足りず、コアクリスタルだけ設置した無人の城が大量に出来上がった。

 だからこそ、これ以上は下手に攻められない。留守にしている隙に各地の城を取られかねないからだ。

 現在、ベネットは北側の端にある銀の城に陣取り、北エリアからの襲撃に備えている。

 というのも、エリアを区切る標高数千メートル級の山々は空を飛んで進む以外に、人工的に作られた多数の巨大なトンネルを通ることで抜けられるのだ。

 他のメンバーもそれが分かっている為、各地で迎撃をしやすい位置の城に留まっている。


 ベネットはマップを閉じ、お腹に手を置いた。


 ぐぅ~っとお腹が空腹を訴えた。


「……お腹空いた」


 ベネットは今回のイベントに際し、直前に色々あったせいで食料の購入を完全に失念していた。そのせいで食べる物が無く、ひもじい思いをしていた。

 周りにはドクターポーションの空き缶が幾つもあり、飲んで空腹を凌いでいたが、所詮は水分で空腹は一時しか満たされなかった。

 だから動く気にもなれず、仰向けになってだらけていた。


 ぐぅ~っと再びお腹が鳴る。


「あぁ……死なないけど、辛い」


 仲間には連絡を取っていない。一日一回、個別通話のみ。もしもの時の為に、死なない空腹程度では到底使えない。


 そんな状態でじっとしていると、唐突にウィンドウが表示された。


「ん? これって……」




 援軍要請

 チーム『ネコの集会所』から仮加入のベネット様へ、要請が来ています。応じますか?


 はい

 いいえ



「ふむ……確か、山を越えたすぐ傍にあったな」


 チーム『ネコの集会所』の位置を思い出したベネットは、直感的に応じるべきだと思った。

 ただ、流石に黙って行くのはアルバに悪いと思い、通話を使った。


 アルバはワンコールで出た。


「ベネットか。どうした?」

「仮加入してるチーム『ネコの集会所』から援軍要請が来た。応じるつもりだから、言っておこうと思った」

「分かった。城の防衛は気にしないでくれ。機動性の高いミグニコとTAに乗れるドルークとハカセに巡回をしてもらう。それから――」


 魔の悪いことにベネットの腹がまたぐぅ~っと鳴り、恥ずかしさに顔が赤くなる。


「……気にしないでくれ」

「フフッ、そういうことか。キャシーも同じチームの援軍要請に応じているから、向こうで食料を分けてもらうといい」

「ああ」


 通話を切り、ベネットは表示されているウィンドウの“はい”を押した。

 すると、体が粒子となって転移した。





 北エリア、そこは高低差千メートル以上の断崖絶壁で構成された大渓谷であり、草すら生えていない砂や石や岩に覆われた地形だ。谷底の川だったうねりのある道は城へと続いており、平坦な場所は道と城の周辺しか存在しない。


 ベネットが転移した先、銅の城を中心に周辺の普通の城を取っているチーム『ネコの集会所』に転移が完了した。

 場所は城の入り口であり、周辺では種族ケモミミや種族ビーストのネコ人間たちと、猫になっているプレイヤーが気持ちのいいシートを引いてゴロゴロと休憩しており、目の前には種族ビーストのネコ男、チームリーダーのニャオナルドが立っていた。

 コスチュームのスーツ姿とは違い、レジェンド防具『剣舞の正装』という紳士らしさと動きやすさを兼ね備えた、最高品質の皮の手袋とブーツに皮鎧、その上から燕尾服のようなジャケットという格好をしている。


「よく来てくれたにゃ、ベネット」

「どうも。キャシーは?」

「彼女ならもう城取りに出掛けたにゃ」

「……そうか」


 ぐぅ~。


 生理現象で止められない腹の音がまたまた鳴り、恥ずかしさにベネットは視線を逸らした。


「お腹、空いてるかにゃ?」

「……うむ、食料の持参を忘れてな。キャシーに分けて貰おうと思ったんだが、当てが外れた」

「そういうことなら、我々の食料を分けてあげるにゃ」

「すまん、助かる」

「困ったときはお互い様にゃ。ただ、一つ申し上げにくいことがあるにゃ」

「ん?」

「……食料が全部、猫用にゃ」

「……マジ?」

「マジにゃ。普通の食料は持ち合わせていないにゃ。ネコ缶やカリカリが主体で、おやつには『にゃーる』やマタタビクッキーがあるだけにゃ」

「……うむ」


 徹底したネコらしさの追求にベネットは言葉を失い、ただ頷くしか出来なかった。


 因みに『にゃーる』とは、発売当時に一世を風靡し、今尚絶大な人気を誇る猫用おやつである。スティック状のパッケージ内に魚や肉などをペーストにしたものを封入しており、少しずつ絞るように出すことで猫がペロペロと夢中になる食べ物だ。


「だから申し訳ないけど、食べるならケモミミ種族になるか、猫になることを勧めるにゃ」

「背に腹は代えられないか。【ケモミミ変化・猫】」


 ベネットは赤いアンダーリムの眼鏡を外してインベントリに仕舞い、目の前で魔法を使って青み掛かった銀髪と同じ猫耳と尻尾を生やし、種族ケモミミとなった。

 その途端、ベネットを興味本位でなんとなく見ていた仲間が目を見開いた。


「……美しくも愛らしい耳と尻尾にゃ。みんなが注目してるにゃ」

「そんなにか?」

「ここにいるのは猫になりたい者、猫が好き過ぎる者の集まりにゃ。耳と尻尾を一目見るだけで、どれだけ良いものか分かるにゃ」


 ニャオナルドの言う通り、その視線は好きな芸術作品に見惚れるような好意的なものばかりで、ベネットは全面的な好意にこそばゆくて仕方がなかった。


「……とにかく、食料下さい」

「ん、今出すにゃ」


 インベントリから洒落た白い丸テーブルと椅子が出されて置かれ、次に大量のネコ缶やカリカリの袋、にゃーるが沢山入ったパック、最後に水のペットボトルが幾つかと使い捨てスプーンの束が出された。


「これくらいあれば、イベント終了までは持つ筈にゃ」

「ありがとう。助かったよ」

「では、食事を摂りながら、君にやってもらいたいことを説明するにゃ」


 ベネットが今食べる分以外をインベントリに仕舞い終わると、ニャオナルドは紳士らしく椅子を引いてエスコートした。

 ベネットは淑女として素直にそれを受けて座り、早速ネコ缶の一つを開けて手を合わせて「いただきます」と呟いてから、使い捨てスプーンでシーチキンのような食べ物をすくい取って口に入れた。

 その瞬間、猫耳がぴくっと動いて尻尾がピーンと立った。


 ……中々どうして、美味しい。猫だからか?


 夢中になりそうなところを理性で抑え、もう一口だけ食べてから顔を上げて対面に座っているニャオナルドに言った。


「……それで、私は何をすればいい?」

「にゃ。まずはマップを見てほしいにゃ」


 メニューからマップが開かれ、テーブルの上に水平に広げられる。

 マップ上にはサテライトスキャンで把握した各チームの城が色別にマーカーが付けられている。チーム『ネコの集会所』は今いる銅の城と、周辺にある四つの城が同じ色付けされていた。


「ふむ、結構取ったな」

「うちはそこそこ人数がいるから、これくらいは朝飯前にゃ。ただ、これ以上取るにはメンバーの多くが実力不足。そこで、ベネットにはこのチームを殲滅していただきたいにゃ」


 指さした場所、そこはチーム『ネコの集会所』と隣接しつつ、山を隔ててベネットがいた銀の城に隣接するチーム『護剣隊』がいるところだ。かなり強いチームで、山側の城の大半を手中に収めている。


 ベネットはすぐにニャオナルドの意図を理解した。


「なるほど。チーム『円卓』とはほぼ同盟関係。そこを潰して領地を隣接させることで侵攻される方向を減らすのだな」

「その通りにゃ。実を言うと、このイベントが始まる少し前にアルバが我々に接触して来たにゃ。曰く『一部のチームで不穏な動きがある。こちらもそれに対処出来るよう、盤外戦術として本戦出場が決まった時はお互い協力しよう』と言われたにゃ」

「……そうか、あの時からか」


 思い出したのは、首輪を着けられて猫語しか話せなくなった時。

 キャシーと一緒に温泉街を訪れ、ばったり出会ったアルバとウルフェンと生産系チーム『盃屋』リーダーのサカズキの三人。

 今思えば、次のイベントの布石として協力関係を築けそうな強豪チームの調査や依頼をこそこそやっていたのだと理解した。


「それでどうにゃ? やってくれるかにゃ?」

「ああ、やろう……語尾に“にゃ”って付けた方がいいか?」


 不器用ながらも場の雰囲気に合わせようとする唐突な質問に、ニャオナルドは愛らしさを感じて思わずクスッと笑った。


「フフ、それは自由にゃ」

「そうか……にゃ」


 慣れないと気恥ずかしさがある語尾に少し頬を赤らめつつ、ベネットは食事を再開しようとして、一つ気になっていたことを思い出して言った。


「……そういえば、キャシーは何処に行った? にゃ」

「彼女なら、隣接しているもう一つの強豪チーム『稲荷分社』に行っているにゃ」

「『稲荷分社』……?」


 他のチームに興味が無かったベネットは首を傾げた。


「知らないかにゃ? 種族ケモミミやビーストで、狐好きが集まるチームにゃ。その中でリーダーを務めるヨシノが、ユニーク種族『天狐』という九尾の女性で、凄まじい強さを誇るにゃ」

「それ、大丈夫なのか? にゃ」

「キャシーは『見て判断するにゃ』と言っていたにゃ。『駄目そうならこちらに攻め込まれないよう妨害工作をするにゃ』とも言っていたから、大丈夫にゃ」

「……まぁ、大丈夫か。にゃ」


 話すことは終わり、ベネットは猫の缶詰に舌鼓を打って三つほど食し、ニャオナルドが目の前で淹れた本格ドリップのカフェオレを飲んでから、攻撃の手順を説明して出発した。


 ――TAで。





 TAアウルムは両肩に追加ブースターを装備して普段の倍以上の速度で飛んでいた。攻撃が主目的ではなく、あくまでベネットがテレポートできるようにする為の強行偵察だ。

 だからこそ、腕に装備するタイプのグレネードランチャーを撃ってチーム『護剣隊』のメンバーの何人かを倒しつつ通り過ぎる。


 対空迎撃は殆ど無い。あまりにも速過ぎるというのもあるが、チーム『護剣隊』は近接戦主体のチームであり、魔法専門や、銃や兵器を扱うメンバーはあまり多くないのだ。

 それでもこうして多くの城を取れたのは、守りの要としてTAの剣豪が一人いたからだ。


 そのTAが空中に上がり、進路上で待ち構える。軽量二脚型の機体で、マナフレーム化した装甲の表面は全て紺色で剣道着を思わせる。両肩に追加ブースターを装備し、両手には普通サイズの機械刀が二振りある。


「懐かしいな。『トウシロウ』か」


 機体名『トウシロウ』。ゲーム『イレギュラー』で剣豪の一人として多くのプレイヤーに認識されていたトッププレイヤーの一人であり、依頼を接近戦の武器だけで達成しようとする拘りを持っている。

 ただ、目的の為なら銃の使用を(いと)わないプロ意識も持っているので、依頼達成率はかなり高い。

 ベネットも依頼でかち合って何度も戦った相手であり、その実力を認めている。


 ベネットはTAアウルムのグレネードランチャーを仕舞い、いつも使っているビームライフルを取り出して両手に装備した。

 正面から突っ込んで来るTAトウシロウに向けてタイミングをずらすように連続して撃つが、細かいステップブーストで簡単に躱され距離が縮まる。

 接触まで一秒にも満たない距離になったところでベネットはビームライフルを仕舞い、ビームサーベルを出してすれ違いざまにお互い一太刀振るった。

 ビームサーベルと機械刀がぶつかり、ダメージも無く離れる。

 すぐに背後から、TAトウシロウが持ち変えたビームライフルからビームが飛んで来る。

 逃げながらチーム『護剣隊』の領内を動き回るのは難しいと判断し、高度を上げて本格的なTA戦闘に入った。


 再び取り出したビームライフルで撃ち合うが、お互いに何度も戦ったせいでどちらも動きを良く知っていて、当たらない。ベネットの先読みも同じ超人でそれを前提とした動きをされれば命中しないのだ。

 拮抗した戦いだが、ベネットは殺意のゾーンには入らない。アレは超集中状態になって超人としての能力を存分に発揮できるが、心身への負担が強く長期戦が想定されるこのイベントでは使い所が難しい。


 ……仕掛けるか。


 この状態でいつまでも戦っていては余計に疲れるだけである。だからこそベネットは動きを変えた。

 ビームライフルを仕舞い、両手にハカセが作成した機械刀を取り出すと回避行動を取りながら突っ込んだ。

 TAトウシロウの射撃は正確だが、やはり近接戦を主体とするイレギュラーということでその射撃を読むのは容易であり、ベネットは無傷で接近した。

 ギリギリまでビームライフルを撃っていたTAトウシロウは、手から捨てて腕部に内蔵しているビームサーベルを展開して防いだ。

 その瞬間、機械刀の刀身が根元から折れてビームサーベルが展開され、TAトウシロウをぶった切った。


 これはハカセが開発した『対剣豪用一撃刀』という、一度限り通用する使い捨て武器だ。

 刀身が軽い衝撃で折れて、高出力のビームサーベルが数秒だけ飛び出るという、単純な構造だが本気で斬りに掛かられると例え超人であったとしても騙される切り札だ。


 それで大破となり、墜落しながらパイロットがコックピットから脱出するのを見届けたベネットは、チーム『護剣隊』の領内の強行偵察に戻った。




 チーム『護剣隊』に甚大な被害をもたらし、強行偵察を終えたベネットはチーム『ネコの集会所』の拠点にしている銅の城に戻ってTAから降りた。

 マナ結晶と心を通わせ遠隔操作で自動操縦に切り替え、自チームの最初の金の城へ戻るようにした。

 飛んで行くTAアウルムを見届け、ベネットはニャオナルドの気配を頼りに城の中へ入った。

 中は殆ど手が入れられていなかったが、ランダム生成されて出来た広間では大量の通信機器が並び、仲間たちがその前で椅子に座ってマイク付きヘッドホンで別の場所にいる仲間と連絡を取り合っていた。

 その中心でニャオナルドがマップを開いて指示を出していた。


「ニャオナルド、戻った。にゃ」


 ベネットの語尾に通信をしていた仲間が反応して意外そうな目で一斉に振り返った。

 ベネットが少し顔を赤くしながら軽く睨むと、自分たちの仕事に戻る。


「おかえりベネット。首尾はどうにゃ?」

「上々だ。チーム『護剣隊』に所属していたイレギュラー、TAトウシロウを撃破した。にゃ」

「流石にゃ。これで一時的にリーダー不在になったにゃ」

「ん? リーダー?」

「TAトウシロウのパイロット、ナガのことにゃ」

「……すまん。残念だが、TAを撃破しただけでリーダーは健在だ。にゃ」

「……そうかにゃ。なら、それを前提に進攻部隊を編成するにゃ」

「その必要は無い。私が行って全部凍らせる。駐屯部隊を編成してくれ。にゃ」

「了解したにゃ。吉報を期待しているにゃ」

「では、行ってくる」

「行ってらっしゃいにゃ」


 ベネットは終雪とメメント・モリを手に持って準備し、ニャオナルドに手を振って見送られながら【アイステレポート】で転移した。





 到着したのはチーム『ネコの集会所』に隣接している普通の城の入り口。


「【アイスエイジ】」


 到着した瞬間にマジックスキルをぶっ放し、厳重警戒態勢だったチーム『護剣隊』のプレイヤーとその周辺、さらに城の内部まで一気に凍らせた。

 これで高い氷耐性かVITを持たないプレイヤーは、HPが一気に無くなって死亡判定となった。

 耐え切って表面を覆う氷を砕いて動いたプレイヤーには、メメント・モリの射撃とマジックスキル【氷刃六花】による追撃が加わり、とどめを刺す。


 範囲外から動く気配が一つ。


 振り向けば、ベネットの襲撃を察知して【加速】でこちらに真っ直ぐ来る女性プレイヤーがいた。

 ユニーク防具『戦姫装束』を装備しており、紫の和服を動きやすくアレンジした物の上から、籠手や脛当てや女性用の胴鎧、下半身を守るスカート状の防具を纏っていた。

 頭には大きく長い紫のリボンがあり、艶のある黒の長髪をポニーテールにしている。凛とした日本人らしい美貌を持つ少女だ。

 彼女は氷で滑らないように実体化した魔法陣を一歩踏むごとに足元に展開して走っており、紅色の鞘に収められた桜の形をした鍔の刀の柄に手を掛け、抜刀の構えを取った。


 ――斬る!

 ――甘い!


 ベネットは敵意と心の声が駄々洩れの彼女と瞬時に心を通わせ、アクティブスキルを使わない抜刀を受け流し、瞬時にメメント・モリを構えた。


「【飛閃】!」


 ほぼ同時、彼女はアクティブスキルを使って広範囲で射程の短い飛ぶ斬撃を放ち、メメント・モリで弾く動作を強制させた。

 このまま接近戦をするのは万が一があるかもしれない、そう思ったベネットが仕切り直しをするべく一旦離れると、彼女は血のように赤い刀身の刀を構え直した。


 ――が、ベネットの猫耳と尻尾に興味津々でチラチラと視線が動き、集中が乱れていた。


「……き、貴様、チーム『円卓』のベネット……だな?」

「ああ、君は誰だ? 感覚的に天才のようだが。にゃ――あっ」

「にゃ?」


 かっ……かわいい!!


「っ……!」


 彼女の心の歓喜に、ベネットはつい出てしまった語尾に照れてしまって顔を赤らめた。構えているメメント・モリも震えてしまっており、動揺しているのが隠せていない。

 お互いに感情が変な方向に行ってしまったことで戦う空気で無くなり、落ち着く為に二人して深呼吸し、頃合いを見て同時に構えた。


「すまない。あなたのその……ケモミミの姿が、つい可愛らしくて興奮してしまった」

「いい。私もさっきまで使っていた語尾が出てしまった。出来れば忘れてくれ」

「それは無理な相談だな。しっかりと脳裏に刻み込まれてしまったよ」


 忘れろ、と思わず引き金を引きそうになったベネットは何とか堪え、ただ者でない彼女を覚えておこうと思った。


「……お前、名前は?」

「アヤメ。チーム『護剣隊』の五番隊隊長のアヤメだ」

「そうか。覚えておこう」

「では、いざ尋常に――」

「勝負!」

「勝負!」


 ベネットは勝負と同時にメメント・モリを連射するが、その全てを刀で弾かれながら接近される。

 銃弾を【自動装填】で装填しつつ下がりながら、片手で握る終雪で美しさすら感じられるアヤメの鋭く速い太刀筋を防いでいく。

 装填が終わり、メメント・モリを構えたところでアヤメは後ろへ跳んだ。

 動きを読んでメメント・モリが再び連射されるが、やはり弾かれる。

 流れるようにマジックスキル【アイスランス】と【氷刃六花】を周囲に複数展開して逃げられないように攻撃するが、アヤメは驚くことなく刀のスキルを使った。


「【五分咲・花霞(はながすみ)】!」


 ユニーク武器『妖刀・紅桜』の第一段階の強化によって使えるスキルにより、紅色の桜の花びらの集まりとなったアヤメは攻撃をすり抜けてやり過ごし、そこから風に飛ばされるように花びらが動いてベネットの前に元の姿を現し、刀を振るった。

 ベネットはメメント・モリを装填しながら動かず、目の前の足元から【アイスウォール】で作られた分厚い氷の壁を出して妨害し、攻撃を未然に防ぎながら【アイスムーブ】で氷の壁の中を進んで装填が終わったメメント・モリをアヤメに向けた。


「【六分咲・桜吹雪】!」


 動きを読んだアヤメは刀を掲げてスキル宣言した。

 すると、アヤメ自身から真っ赤な桜の花弁の形をした刃が無数に飛び出し、大きな旋風のように広範囲を高速旋回してベネットを襲い、周囲に展開していた魔法陣から出た氷の槍や氷の刃を粉々に破壊した。

 ベネットは【アイステレポート】でまともに食らう前に範囲外に離れ、終雪を振り抜く為に構えた。


「【一ノ秘・氷花閃】!」

「【一分咲・初桜】!」


 氷の一閃が飛ぶと同時、桜の花の旋風の中から真っ赤な斬撃が飛んでぶつかり、相殺されて消えた。

 旋風も収まり、桜の花びらの刃が消えたところでベネットは言った。


「やるな」

「手を抜かれているのに褒められても、嬉しくない」

「……やっぱり、分かるか」

「当然。未熟なれども天才、そしてチームの一部隊を預かる長ですから」

「なら、これで終わらせよう」

「っ!」


 一瞬の凄まじい殺意を込めた威圧感と共にベネットがメメント・モリを構えると、アヤメは攻撃を察知して咄嗟に跳んだ。足元には白縹色の魔法陣が展開されており、ほんの僅かに遅れて【フリーズ】が発動した。


「しまっ――がはっ!?」


 だが、次の手に心と頭が反応しても、あまりの展開速度に咄嗟に動いた体が追いつかず、背後に展開されていた魔法陣から【アイスツリー】が体を突き刺し、内部で氷の枝を生やしながら貫かれ、血塗れの氷の木を生やした。

 HPが一気に無くなって死亡判定となり、粒子となって消えるアヤメを見届けたベネットは、大きく息を吐いた。


「流石に同じ天才相手だと疲れるな。後最低でも四人もいるのか……」


 チーム『護剣隊』の実力者の層の厚さに辟易しつつ、氷漬けになった城に入って中枢を探し、一時的にチーム『ネコの集会所』の物に代わっているコアクリスタルを設置した。





 寒い環境で充分な休息を取ったことでMPが完全回復し、装飾品『コスモペンダント+』によって僅かに減ったHPも回復した。


 万全な状態となったベネットは【アイステレポート】を使って転移した。


「【アイスエイジ】」


 先ほどと同じように転移直後に広範囲攻撃でチーム『護剣隊』のプレイヤーを凍らせて倒す。

 生き延びたしぶとい奴はメメント・モリや別の魔法を撃って倒す――予定だったが、最も強い気配のする一人のプレイヤーが奇襲を完全に察知して魔法障壁で氷の波動を防いでいた。

 だからその一人を警戒して目を離さず、他は捉えた気配から【アイスランス】で確実に倒した。


 ジッと警戒していると、その者は魔法障壁によって防いで出来た球状の氷の殻を、草履の足で砕いて出て来た。

 その者は黒髪ショートで、狐のような顔をした糸目の長身痩躯の美男子だ。

 ユニーク防具『(みずち)の水干』という青い龍が描かれた水色の水干を着ていた。それは常に水気を帯びており、着物の袖や袴の裾から水が滴り落ちていた。

 腰には深海のような濃紺色の鞘に入った刀があり、鍔は渦巻きの形をしている。


「あーびっくりしたわ。カイリちゃんは……間に合わんかったか。よくもまぁやってくれたな、チーム『円卓』のベネット」


 関西弁で話す男はベネットを見ることなく刀をゆっくりと引き抜いた。

 その刀身は乱れ刃で荒々しい波のような片落互の目の波紋を持っていて、妖しい青色のオーラを放っていた。


 殺気を込めて振り向きながら構えた男だが、ベネットをしっかりと見て異変に気付き、すぐに殺気を引っ込めた。


「って、耳と尻尾生えとるやん!」


 ベタなリアクションを取った男にベネットは何て反応すればいいか戸惑い、とりあえず自分の猫耳に触れて、ピコピコ動かして言った。


「……気になるか?」

「いやまぁ、そういうのは個人の趣味やからどうこう言わへんけど……種族ヒューマンのプレイヤーが動物の耳と尻尾生やしてたら、シリアスな場面がなんか締まらへんやん」

「ふむ、それもそうか」


 ベネットは男の言うことを素直に受け止め、この場だけは【ケモミミ変化・猫】を解除した。


「これでいいか?」

「……ベネット、あんた天然って言われてへん?」

「いや、天然ではない」

「あっ、そう」


 天然やわこれ、と察した男は気を取り直して刀を構えた。


「俺はチーム『護剣隊』の四番隊隊長、ナナシや。わざわざ戦う準備を整えさせてくれてありがとな。と言っても、あんたとは相性最悪やから、勝てる気はせぇへんけど」

「なら、私にとっては気が楽だな」

「そう言わんといてや。俺かて多くの仲間の上に立つ隊長なんや。せめて強さアピールぐらいはしとかんと、俺のメンツとチームの沽券に関わる。てなわけで、【一人目・自分七人】」


 ユニーク武器『妖刀・七岬』のスキルによってナナシが自分を含めて実体のある七人に分身した。


「【二人目・七本剣】」


 七人のナナシが同時に言葉を発し、七本の七岬がそれぞれ六つの分身を作り出した。それにより合計四十二本の刀が前方に浮いた。


「【三人目・七呪詛】」


 さらにスキルで全ステータスダウンを引き起こす“呪い”属性が全ての刀に付与された。それを示すように、青いオーラに混じって禍々しい黒いオーラが混じって放たれ始めた。


「ほな、行くで」


 七人のナナシが同時に言葉を発し、四十二本の刀と共に七人同時に攻める。

 同じ超人だからこそ感じ取れるその力量と数の暴力に、ベネットは危機を感じて直感的に一つの攻略法を導き出していた。

 それはとても脳筋的な考えで、ゲームが好きならよく知る名称の氷属性の極大魔法だ。

 しっかりとイメージし、例え違っていたとしても発動できるようにして、自分を起点に半径数百メートルを覆うほどの巨大な魔法陣を展開した。


「【コキュートス】」


 ベネットは氷属性の最上位の魔法を見事に当て、脳内で新しいスキル取得の音声を聞きながら魔法を発動させた。


 魔法陣内に巨大な氷塊が幻影として姿を見せると、すぐに実体化してベネットと七人のナナシと四十二本の刀が中に囚われ、氷漬けで封印された。

 ただし、ベネットはスキル【氷雪女王】によって氷属性など効きはせず、むしろMPが回復する。さらに【アイスムーブ】によって自由に動ける。


 こらあかんわ。全然動けへん。降参や。


 ナナシは一切身動きできず、心の中で両手を上げて降参のポーズを取った。

 冷た過ぎることによるスリップダメージで徐々にHPが減り続けており、何もしなくても十数秒で死亡判定となるだろう。


 ベネットは長引かせるのも悪いと思い、この氷塊を操作して疑似的にアイスランスを作って、動けない七人のナナシの心臓と首を同時に貫いた。


 次はこうは……いや、俺にはあんたに勝てへんか。なら、次は味方として会おうな!


 ナナシはベネットの心に直接そう語り掛け、粒子となって消えた。


「……特に会うつもりはないが?」


 ナナシとは交友を広めたいと思っていないベネットの返事に、リスポーンまでの待機空間に移ったナナシは盛大にズッコケるリアクションを取った。


 氷塊の中にいたベネットはMPを全回復し、休憩の必要も無くまた猫耳と尻尾を生やして城の中枢にコアクリスタルを設置し、次の城へ転移した。






「【アイスエイジ】」


 同じことの繰り返しに少し飽きを感じながらも銅の城とその周辺を氷漬けにした。

 その場にいたチーム『五剣会』のプレイヤーの大半はそれで死亡し、氷漬けになって瀕死になった残りは速攻で【アイスランス】を使って倒した。

 というのも、ナナシのように奇襲を察知して魔法障壁で防いでいる、強い気配を持つプレイヤーが二人いたからだ。

 その二人は一つの魔法障壁の中にいて、殻のようにできた氷を砕いて姿を見せた。

 身長二メートルとニ十センチのガタイのいい大男はユニーク防具『千両役者の着物』を装備していた。赤い上衣に黒い袴、字義通りの花鳥風月が派手に描かれた金の羽織を身に着けており、両腕には朱塗りの籠手、袴の裾を絞って装着された脛当ても朱塗りだ。そして最も特徴的なのは、ベルトのようにお腹に回して後ろで均等な長さに蝶結びにした大きな紅白の注連縄だ。

 彼自身は、硬くしっかりした剛毛の淡い金髪を筆のように太い総髪にしており、目力があり眉はキリッとして太く、輪郭がはっきりした濃い顔は白粉の上から紅と隅で隈取のメイクが施されている。


 彼は一面氷世界となった辺りを見渡し、既に仲間が全滅していること知って大口を開けて盛大に笑った。


「はーっはっはっはっはっはっは!! 凄い奇襲だ! 実に愉快!」


 はーっはっはっはっはっはっは!! 凄い奇襲だ! 実に愉快!


 うるさい!


 ベネットは思わず猫耳を手でぺたりと塞ぎ、顔を顰めながら彼に向けて怒りを飛ばした。

 彼の声は物理的に大きく、心の声も拡声器を使ったかのようにガンガン響いて非常に五月蠅いのだ。


「はっはっはっはっは! そうか五月蝿いか! 流石だチーム『円卓』のベネット! 大した感受性だ! うおっ!」


 はっはっはっはっは! そうか五月蝿いか! 流石だチーム『円卓』のベネット! 大した感受性だ! うおっ!



 男は大笑いしていたが背後から強く蹴りを入れられ、バランスを崩して倒れそうになった。足元は凍っているが、足に魔力を纏わせて滑り止めの効果を持たせており、転倒することはなかった。


「うっさいから笑うな喋るな、この傾奇者!」


 その後ろから現れたのは、足に魔力を纏わせて滑り止めをしている、ベネット同様に男の声に顔を顰めている少女だった。


 和服を学生服風にアレンジした自作レジェンド防具『和装戦闘服』を着ており、編み上げブーツにサイハイソックス、膝丈の黒袴を履き、ワイシャツの上から腰丈で牡丹柄の黒い水干を着ている。

 彼女は気高さと明るさを兼ね備えながら人形のように整った美貌を持ち、その瞳は快晴の空を思わせる明るい青色をしていた。耳にはクリップ式の小さなダイヤのピアスをしており、煌びやかなプラチナブロンドの長髪を和玉の付いた黒漆の玉簪(たまかんざし)でアップスタイルにしている。

 綺麗な白肌の手の爪には淡いピンクのマニキュアをしており、体型はベネットより僅かに低いが完璧で、総じてみると絶世の美少女であった。


「そう言うなコトネ! この俺が本気を出すに相応しい相手が目の前にいるんだ! 喜ばずしてどうすればいい!」


 そう言うなコトネ! この俺が本気を出すに相応しい相手が目の前にいるんだ! 喜ばずしてどうすればいい!


「だから喋るな。喋るとしても声を押さえて心の声も消せ。耳と心で二重に聞こえて五月蝿いし鬱陶しいの! ほら、ベネットだって物凄く嫌そうな顔してるでしょ?」

「なにっ!? そうなのか!」


 なにっ!? そうなのか!


「……ベネット、なんかごめん。こいつ抑えられそうにない」

「ああ、うん。黙らせるスイッチとかは……無さそうだもんな」


 申し訳なさそうにするコトネと呼ばれた少女に、ベネットは同情しつつ二重に聞こえる声に酷い頭痛を起こし、片手で頭を押さえた。

 それを見た男は再び笑った。


「はーっはっはっはっはっは!! 流石は俺! リーダーのいう対天才用の音響兵器として役に立てているな!」


 はーっはっはっはっはっは!! 流石は俺! リーダーのいう対天才用の音響兵器として役に立てているな!


「うっさいから黙って、ほんと。――あっ」


 ベネットの苛立ちの限界を察知したコトネが振り向けば、メメント・モリを男の頭部に向けて構えていた。

 問答無用で引き金が引かれ、発砲音と共に弾丸は真っ直ぐ男の頭に飛んで行くが、血が飛び散ることはなかった。


 何故なら、男は銃弾の速さを見切って歯で挟み込んで止めていからだ。


「マジか……!」


 驚愕で開いた口が塞がらないベネットに、弾丸をペッと吐いて捨てた男は笑った。


「はははははははは!! いきなり銃弾をプレゼントしてくれるとは、君は思ったよりもせっかちで可愛らしいな!! 気の強い女は好きだぞ、俺は!」


 はははははははは!! いきなり銃弾をプレゼントしてくれるとは、君は思ったよりもせっかちで可愛らしいな!! 気の強い女は好きだぞ、俺は!


「私はお前が嫌いだ。マジで」


 ベネットは本気でこの男を嫌った。

 猫耳は後ろにピンと立って怒りを示すイカ耳になっており、尻尾を膨らませて激しく振っていた。


「はっはっはっはっは! これはまた盛大に振られたな! だが問題無い! 俺は生まれて二十四年、百を超える告白をして振られ続けているからな!」


 はっはっはっはっは! これはまた盛大に振られたな! だが問題無い! 俺は生まれて二十四年、百を超える告白をして振られ続けているからな!


「……もうやだこいつ。やっていい?」

「やれるもんならやっちゃって。あたしも付きっきりでこいつの傍に居るの疲れるし」


 戦闘態勢に入ったベネットに、コトネもキラキラなラインストーンシールでデコレーションされた純白塗装の自動拳銃を二丁取り出した。


「おっ、やるのか! なら名乗っておかないとな! 俺はチーム『護剣隊』の三番隊隊長、魑魅魍魎が裸足で逃げ出す剛の者、磊磊落落(らいらいらくらく)、豪快奔放なケイジたぁ俺のことよ!」


 おっ、やるのか! なら名乗っておかないとな! 俺はチーム『護剣隊』の三番隊隊長、魑魅魍魎が裸足で逃げ出す剛の者、磊磊落落、豪快奔放なケイジたぁ俺のことよ!


 ケイジは全長五メートル近い大太刀のユニーク武器『破邪顕正(はじゃけんしょう)』を手に出し、朱色の鞘から少し引き抜いてから一気に投げるように外した。鞘は横へ飛んで行くとまるで幻であったのかのようにインベントリに仕舞われ、ケイジは一度大太刀をぶん回しから肩に担いで見得を切った。


 いよ~、カカンッ!


 と、音が聞こえてきそうなポーズとにらみを利かせた力強い表情に、ベネットは嫌いだけれどその芸術性に見惚れた。


「あたしは三番隊副隊長のコトネ。こいつがこんな性格だから、部隊運営はあたしがやってる」

「……ご苦労様です」

「ん、ありがと」


 共感したベネットに労われ、コトネは素直にお礼を言った。

 自分のことだけど全く気にしていないケイジはポーズを止め、重い筈の大太刀を両手で軽々と上段の構えを取った。


「じゃあ始めようか。【チェスト】おおおおおぉぉぉぉ!!」


 じゃあ始めようか。【チェスト】おおおおおぉぉぉぉ!!



 一気に踏み込んで目の前に来たケイジに、ベネットは二重に聞こえる猿叫(えんきょう)に不快感を露わにしながら敢えて懐に飛び込んで躱し、終雪を突き刺そうとしたが、ケイジが大太刀から片手を離して腕で弾き、蹴りが繰り出された。

 ベネットは防ぐのではなく【アイステレポート】で転移して躱し、援護射撃をしてくるだろうコトネの背後に現れた。


「チッ、やっぱあたしから狙うか」


 舌打ちし、動きを読んだコトネが素早く振り向いて自動拳銃を連取するが、ベネットは【アイスウォール】で分厚い氷の壁を作って防いだ。

 反撃としてコトネの回りに魔法陣を展開して【アイスランス】を放つが、その場から高く後方宙返りして躱した。


「【大飛閃】!」


 大飛閃!



 コトネが宙に浮いて巻き込まないことを確信しているケイジは、アクティブスキル【飛閃】の上位スキルを使って素早く横一閃し、広範囲に斬撃を飛ばした。氷の壁が真っ二つに切れ、ベネットは伏せて躱しつつ素早く魔法を使う。


「むっ、【大見得切り】!」


 むっ、大見得切り!


 ケイジが攻撃を予感して防具のスキルを使い、大胆不敵な大見得を切ると体が金色に輝き出した。直後、ベネットがケイジの足元に展開した複数の魔法陣から【アイスツリー】を出して襲うが、その全てが一時“無敵”となったケイジに完全に防がれた。

 その効果を確かめるように、ベネットはコトネからの銃撃を氷の壁を生成して軽くあしらいつつ、メメント・モリをケイジに撃った。

 今度は歯で止めたりせず不敵な笑みを浮かべて動かずに受け、銃弾が額に当たって金属に当たる音を出して潰れ、コロリと落ちた。


「硬いな」

「ははは、それほどでも……ある!」


 ははは、それほどでも……ある!


 大見えを切って僅か十秒ほどで金色の輝きが無くなり、ケイジは楽しい楽しい戦いに興が乗って装飾品の一つを取り出した。


 特に能力上昇は無いが、色々と使い道のあるユニーク装飾品の一つ『煙々煙管(えんえんきせる)』だ。灰色にくすんだ煙管で、火種も無く吹かせば延々と煙が立ち込め始めた。

 何かすることが分かっているベネットが動こうとして、コトネが声を上げた。


「させないよ」

「むっ」


 氷の壁を回り込んで再び拳銃を連射され、ベネットは氷の壁で防いだ。

 コトネの拳銃の弾が無くなり、弾幕が途切れた。

 だが、ゲーム特有の自動拳銃用装填技術――ハイスピードリロードを習得しているコトネは、撃ち切ったマガジンを落とすと同時、即座にインベントリから宙に出したマガジンを装填して下がり切ったスライドを戻した。

 二秒にも満たない装填を終えて再び撃ち続けることで弾幕を張り、さらに頭上から【ホーリーレイン】で光の矢の雨を降らした。

 流石に天才のベネットでも銃撃と広範囲の光の矢による十字砲火は躱したり出来ず、【マジックサークル】による魔法陣の障壁を頭上に作って防いだ。ただ、足を止めていることで反撃するだけの脳処理のリソースが残っており、ケイジの周囲に魔法陣を展開して【アイスランス】を放った。

 だが、コトネが先んじてケイジに【多重結界】による幾重もの魔法障壁と光属性の結界【セイクリッドサークル】を張っていて、全て防がれた。


「ならば……」

「――っ! そこ!」


 転移して背後に現れるベネットの動きを読んだコトネが、振り返って拳銃を向けた。

 だがその瞬間、武器を仕舞って両手に小さな魔法陣を展開していたベネット自動拳銃を【アイス】で手ごと完全に氷で覆って固めた。


「うあっ、冷た――あっ、ちょっ!?」


 素早く綺麗な一本背負いが決まり、コトネは凍った地面に叩きつけられて空気を吐き出した。ゲームで抑えられているとはいえ、痛みがあり肺に空気が無くなったことで一瞬思考が止まり、防御や回避の行動を映す間もなくベネットの手が胸に置かれ、接触した状態で【アイスツリー】を発動された。

 それによって肺と心臓をズタズタに突き刺されてHPが一気に無くなり、死亡した。


「コトネがやられたか……やるなぁ!」


 コトネがやられたか……やるなぁ!


 ケイジの二重の大声量に忌々し気に振り向けば、そこには煙管の煙が人型を成していた。それも二十人ほど。

 これは『煙々煙管』のスキルの一つ【煙々羅生成】による力だ。吹かしたプレイヤーのMPを消費し、妖怪の煙々羅を際限なく生み出すことが出来る。


「こいつは煙々羅。実体がないこいつをどうやって――」


 こいつは煙々羅。実体がないこいつをどうやって――


「【コキュートス】」


 攻略する? という問い掛けを前にベネットは広範囲の魔法を発動し、ケイジと煙々羅を全て氷に閉じ込めた。幾ら実体のない煙とはいえ、固体の中に閉じ込められてしまえば身動きは取れず、さらに冷やされたことで気体であることを保てず消滅した。


「いい加減黙れケイジ。頭痛いんだよ」


 頭を押さえるベネットが固まって動かないケイジを睨んでいると、そのケイジに異変が生じた。

 最初は違和感、だが次第にそれは確信へと変わり、ベネットは再び武器を構えた。

 固まっていた筈のケイジはマジックスキル【バーニングボディ】で発火する程に体を熱くして周囲の氷を溶かし、動けるようになったところで手を拳に変えて歯を食いしばり、目一杯の力と魔力を込めた。


「【大拳骨】!」


 大拳骨!


 渾身の一撃により氷塊は大量のヒビを作って砕け散った。


「ははははははは! 流石の俺も死ぬかと思ったぞベネット! だが甘い! 餡蜜に生クリームと蜂蜜を掛けてその上から粉砂糖を振り掛けるぐらいに甘い! 俺はこの肉体を鍛えに鍛え、防具の力によって生半可な攻撃では死にはしない! あとついでに俺は甘党だ!」


 ははははははは! 流石の俺も死ぬかと思ったぞベネット! だが甘い! 餡蜜に生クリームと蜂蜜を掛けてその上から粉砂糖を振り掛けるぐらいに甘い! 俺はこの肉体を鍛えに鍛え、防具の力によって生半可な攻撃では死にはしない! あとついでに俺は甘党だ!


「ああ~っ、もうっ! 五月蝿いって! お前は心の声を抑える技術をまず身に着けろ! 鬱陶しい!」


 頭痛で我慢の限界に達したベネットはキレて殺意のゾーンに入った。【アイステレポート】で背後に現れ、後頭部にメメント・モリを押し付けて接写した。

 だが銃弾は頭部を貫かず、ケイジが前につんのめっただけだった。


「ぐっ、ははは! いい威力だなその銃!」


 ぐっ、ははは! いい威力だなその銃!


 ケイジは大太刀を振り回し、ベネットは猫らしく飄々と躱しながらメメント・モリを撃つ。しかし、頭部や胴体に当てても多少のダメージを受けるだけで倒れる気配がない。

 大太刀の間合いから離れると、ケイジは片手を大太刀から離して何処からともなく金ぴかに光る小判を手の中に複数枚取り出した。


「俺も遠距離攻撃が出来るぞ! それそれそれそれぇ!」


 俺も遠距離攻撃が出来るぞ! それそれそれそれぇ!


 気前よくばら撒くように投げられた複数枚の小判はキラキラ光りながら飛び、まるでミサイルのようにベネットに向かう。

 それから嫌な予感がしたベネットはメメント・モリの射撃とマジックスキル【氷刃六花】による氷の刃で撃ち落とした。すると小判は手榴弾並みの爆発を起こして消えた。


 延々と撃ち落とし続けていると、ケイジの手に小判が表れなくなった。


「それそれそれ――ありゃ? ……はっはっはっはっは! 金が無くなっちまった! こりゃお笑いだ!」


 それそれそれ――ありゃ? ……はっはっはっはっは! 金が無くなっちまった! こりゃお笑いだ!


 お道化て豪快に笑うケイジに、ベネットはRPGのある攻撃に思い当たりがあって質問した。


「……それ、もしかして()()()の類か?」



 銭投げ――それはRPGに多く採用されている攻撃手段の一つであり、自身の所持金を消費して貨幣を投げつけて攻撃するものだ。当然、所持金は投げつけた金額分減るので、成金プレイにしか許されない攻撃だ。



「おう! このユニーク防具『千両役者の着物』のスキルの一つ【小判投げ】だ!」


 おう! このユニーク防具『千両役者の着物』のスキルの一つ【小判投げ】だ!


 スキル【小判投げ】は僅かなMPを消費し、自身の所持金を小判に変換して投げつけるものだ。投げた小判は誘導弾として飛び、衝撃で爆発を起こす。威力はINT依存でケイジにとっては牽制程度の攻撃だ。因みに一両十万ゴールドである。


「えぇー……」


 銭投げの類であると自ら認めたケイジに、先ほどの行動を見ていたベネットは殺意のゾーンが切れてドン引きした。

 というのも、細かいルールにしっかりと“イベントで所持金を使った行為は元に戻らない”と明記されていたからだ。

 もう相手にしたくないと思ったベネットは、殺意のゾーン中に思いついた極悪非道な魔法でさっさと終わらせることにした。


 マジックスキル【アイステレポート】で背後に転移し、その大きな背中に手を触れた。

 名前が分からないからイメージだけで魔法を発動させ、ケイジの体内にある水分、細胞、筋肉、内臓、骨に至るまでを一瞬にして完全凍結させた。

 幾ら頑丈で耐久性のあるケイジでも体内の水分を含めて内側から凍らされればどうしようもなく、HPは一瞬でギリギリまで減った。だが即死はしない。防具が【即死無効】を持っていて、ケイジ自身がパッシブスキル【不屈】を習得していてどんな攻撃でも一度だけ耐えるのだ。


 しかし、動けないからここから逆転する手が無い。


「終わりだ。【砕氷】」


 氷になっているケイジはマジックスキル【砕氷】によって粉々に砕け散り、オーバーキル気味に死亡判定となった。

 すぐに粒子となって消え、戦いを終えたベネットはとても長い溜息を吐いた。


「…………二度と戦いたくない」


 うんざりしながらそう心に決めたベネットは、銅の城に入って探索し、中枢にコアクリスタルを設置した。

 それから休憩とストレス発散を兼ねて、歯応えのあるカリカリをガリガリ食べた。


 うみゃい。





 精神的疲労が充分に回復したベネットはリーダーに苦情の一つでも言って、ついでに倒し、総崩れになったところで早く決着をつけようと決めた。

 右手に終雪、左手にメメント・モリを持ってリーダーがいるであろう金の城へ転移し、到着直後にいつもの行動へ移った。


「【アイスエイジ】!」


 本拠地だろうと気合を込めていつもの三倍の魔力を込めて魔法を発動させれば、来ることを予感していた四人以外は氷漬けになって即死した。


 その四人は二人一組となって魔法障壁を展開していて、攻撃が収まると解除し、氷の殻を破って姿を見せた。


 一組目の一人は、銀の南蛮胴具足に赤いマントを羽織る織田信長……の格好をした、ベネットと同じ背丈の凛とした端正な美貌を持つ、黒髪を赤いリボンでポニーテールにした少女だ。

 もう一人は執事服に身を包んだ、セミロングの黒髪をリボンで一本結びにした中性的な顔つきと体型の色白の美少年で、手には純白の手袋をして織田信長の格好をした少女の後ろに控えていた。


 織田信長の格好をした少女はベネットと目を合わせ、思った。


 ……猫ベネ可愛いな。


 すぐに気持ちを切り替え、バッと勢いよく手を広げて不敵な笑みを浮かべながら言った。


「よく来たなチーム『円卓』のベネット。私はチーム『護剣隊』のリーダー、ナガだ。我が忠臣である隊長のアヤメ、ナナシ、ケイジと、その部下である多くの仲間をよく討ち取った。敵ながら天晴である」

「ナガ、その言動負けフラグっぽいよ」


 執事の美少年に小言を言われ、ナガと呼ばれた少女はバツの悪そうな顔をして振り返った。


「……ランマルさぁ、もうちょっと場の空気読んでくれない? これじゃあ私、痛い女じゃん」

「いや、織田信長の真似事してる時点で痛い女でしょ」

「ぐっ、幼馴染だからって事実を陳列して……ねぇアザイ、このぐだぐだな状況どう思う?」

「どうと言われても……自業自得だろ」


 いきなり意見を請われて困惑して答えたのはもう一組の一人、アザイという美男子だ。背が高く鼻が高い整った顔つきの黒髪の青年で、鳥の翼を象った白と黒の当世具足を装備し、手には白い翼を象ったV字の鍔を持つ二刀一対の刀があった。


「ううっ、アザイも辛辣だ。マチちゃんはどう思う?」


 アザイの隣、咄嗟の行動の邪魔にならない程度に密着しているのはマチという少女だ。黒髪ぱっつんロングストレートで、桜柄の振袖を着た大和撫子な雰囲気を持っている。その右手には剣タイプの武器種『カード』のデッキがあり、鍔になっているカードデッキが広げられ、左手にはカードがあった。


「アザイ様と同意見です。ナガはもう少し自分が中二病であると自覚して、立ち居振る舞いを考えた方がいいですよ」

「……いいもん、私は中二病ですよーだ」


 拗ねたナガはベネットに向き直り、咳払いをして再び不敵な笑みを浮かべた。


「フッ、どうだベネット。こんなぐだぐだな状況でも我々に隙は無かっただろう? それもその筈、私たち四人は貴様と同じ天才だからな」

「そうか……なら一ついいか?」

「ん? 何だ?」


 それなら都合がいいと思ったベネットは、来る前に決めていた苦情を口にした。


「ケイジのあの大きな声を何とかしろ。耳と心に二重に響いて非常に不愉快だ。せめて心の声を抑えるやり方を教えろ。馬鹿」

「ば、馬鹿って……! ランマル、私そんなに馬鹿なのか?」

「馬鹿でしょ」

「馬鹿だろ」

「馬鹿ですね」


 仲間三人から馬鹿と即答され、ナガは膝から崩れ落ちて凍った地面に手を着いた。


「くっ、対天才用音響兵器として非常に有用だと思ったのにっ!」

「ドローンで確認してたから分かったけど、ベネットがここまで怒ってるから効き目はあったよ。でもね、それ以上に迷惑だからやめろって言ったでしょ?」


 ランマルの言葉にアザイとマチは、うんうんと頷いた。


「……分かった。後日、ケイジには心の声の抑え方を教えよう。でも一人だと辛いからランマルも一緒な」

「はいはい。それでいいから、待ってくれてるベネットと戦おう」

「ああ」


 立ち上がったナガは、腰に鞘に収まった一振りの刀を出した。


 刀……いや、太刀か。

 だが、この感じ……。


 刃が下向きになっていることで刀ではなく太刀だと気付き、鞘に収められた状態でただならぬ高貴な気配を感じたベネットに、ナガは不敵な笑みを浮かべた。


「自己紹介がまだだったな。私はチーム『護剣隊』のリーダーであり第一部隊隊長、ナガ。戦国時代の三英傑が一人、織田信長の遺志を継ぐ者。そしてこれは――」


 自慢するかのように鞘から引き抜いた太刀を見せた。

 それにより、さらに気配が強くなる。


「鍛冶の神によって打ち直されて強化された天下五剣の一振り、ユニーク武器『神剣・童子切安綱』だ」

「……道理で。その気配、神か」

「ほぅ、やはり貴様も神に会ったことがあるのか。ならばこれ以上の言葉は不要。未来はともかく、今は全力でこの祭りを楽しもうではないか!」

「そうだな。だが、私は負けず嫌いだ。一対四はちょっと不利だからな。だから――」

「させない!」


 ナガは動くつもりなど無かったが、ランマルは何をしようとしているのか理解して純白の手袋の手を動かした。

 両手十本の指先から出たのは非常に細い無数の糸だ。ランマルの手指の動きと意思に応じて絡まることなく動き、ベネットに襲い掛かる。

 だがベネットは糸に絡め取られる前に【アイステレポート】で転移して充分に離れ、数の不利を補う為にスキル宣言した。


「【召喚・ブリザーバード】【召喚・冬将軍】【召喚・雪女】」


 三つの召喚によって人型状態で冒険者風の格好をした精霊王ブリザードことネーヴェと、冬という概念そのものの冬将軍と、雪女のセツが出現した。


「くっ、止められなかったか」

「いいじゃないかランマル。私はベネットと一対一(サシ)でやりたいと思っていたんだ」

「まともにやり合ったら負けるって言ったの、ナガだよね?」

「……」


 ナガはランマルの言葉に視線を逸らした。

 ランマルが溜息を吐く中、ベネットが召喚した三体の力量を感じ取ってアザイは苦笑した。


「……手強いな」

「アザイ様、私はあの女を相手にします」

「分かった。彼女の気配はそこそこだが、油断するなよマチ」

「はい」


 アザイとマチが戦うべき相手を見定めたところで、ランマルは気持ちを切り替えた。 


「アザイさん、あなたはどちらを相手に?」

「武士として、冬将軍の相手でもしようかな」

「分かりました。では僕はそちらのヤバメな相手にしましょうか」



 三人がそれぞれ戦う相手を決めた一方、ベネットもネーヴェに話し掛けた。



「ネーヴェ、それに将軍もセツも、急に呼び出してすまない」

「大丈夫だよご主人様。むしろ暇でこのイベントを観戦してたから、呼んでくれて嬉しいよ」

「そうですよベネット様。私たちはいつでもあなたのお役に立ちたいと思っています」


 セツも慕う気持ちを言葉にし、冬将軍も頷いて自身の持つ終雪を引き抜き、闘志に燃える視線を向けるアザイに構えてやる気のある姿を見せた。


「では、一斉に散開してくれ。戦う環境は私が作る」

「分かった」

「お願いします」

「……よし、やるか。行け!」


 バッと三人がそれぞれの方向に動き出し、アザイ、マチ、ランマルが後を追い始めた。

 それを見たベネットは自由度の高い初期の魔法である【アイス】を巨大な魔法陣として足元に展開し、大量の氷塊を生成して防具のスキル【氷雪女王】で巨大で分厚い壁に成形し、戦場を作った。


「……これでいいか」


 満足いくものが出来上がって魔法を止め、ベネットはわざわざ待っていたナガに向けてメメント・モリを構えた。

 ナガもインベントリから自動拳銃を取り出して、太刀を持っていない左手で構えた。

 その自動拳銃はアメリカが軍用として正式採用した四十五口径自動拳銃に酷似しているが、銃身が長く大型で、真っ黒に塗装されている。

 銃身側面には白い字が筆記体で刻まれており、こう書かれている。


 Requiescat in pace.


 安らかに眠れ。


 ユニーク武器『RIP』。四十五口径でマガジンに七発、薬室に一発の計八発装填可能な自動拳銃。メメント・モリと似たスキルを持ち、実銃とは比べ物にならない威力を誇る。


「準備は整ったようだな。死合おうか」


 ナガとベネットは引き金を引きながら同時に動き、戦いが始まった……。






 氷の壁で隔たれた別の場所にて、セツはマチと戦っていた。


 投げられた赤いカードは光りながら飛び、セツの手前で内包しているマジックスキル【数珠連爆】が発動して連続して爆発を起こした。

 火に弱い雪女のセツは雪になって風に舞いながら高速移動して躱し、無数の氷柱を生成して飛ばした。

 マチは冷静に灰色のカードを手に取って地面に投げつけると、込められたマジックスキル【強化結界】によって瞬時に物理と魔法の両方を防ぐ小型の結界が発動し、氷柱を容易に弾いた。


「っ! 内側に……!」


 結界の内側にも氷柱が幾つも生成され、マチは咄嗟に腕で顔を守った。

 直後、氷柱が飛んで体中に突き刺さった。

 攻撃が収まり、マチは白色のカードを一枚使って回復魔法【ハイヒール】を発動させた。刺さっていた氷柱は傷が癒えると同時に押し出されて落下し、全快したところで口を開いた。


「あなた、気配の割にはお強いですね」

「そちらこそ。まるで試すかのような単発的な攻撃ばかり。それではベネット様に仕える私は倒せませんよ?」

「別に倒す必要はありません。ナガ様やアザイ様なら必ずや勝利し、私を助けに来てくださりますから」

「それは有り得ません。ベネット様は名を口にするのも恐れ多いある神様から寵愛を受けし御方。冬将軍様も冬そのものであり、討ち倒せる方などそうはおりません」

「……」

「……」


 お互いに譲らない思いに睨み合い、マチは本気を出すことに決めて言った。


「私はチーム『護剣隊』二番隊副隊長のマチ。あなたは?」

「雪女のセツです。今はベネット様に仕えています」

「そう……覚えておきますね」

「私も」


 マチがカードデッキを仕舞って剣を構え、セツもいつでも動けるように身構えると、結界の効力が切れた。


「【修羅】」


 マチがそのタイミングを計ったかのようにアクティブスキルを宣言し、赤いオーラを纏って踏み込んだ。


 ――速いっ!


 セツは懐に入り込んだマチの動きを何とか捉え、氷の壁を生成して攻撃を事前に防いだ。

 が、一瞬にして背後に回り込まれ、剣が振るわれた。

 その剣はセツが知る限り冬将軍並みの鋭い剣筋をしており、躱しきれないと判断して寸でのところで雪になってやり過ごした。

 別の場所で実体化したところで妖力を溜め込んだ手から氷の刃を仕込んだ雪の竜巻を出した。

 マチはカードデッキを開いて一枚の赤色のカードを手にし、投げた。

 それは雪の竜巻の手前で【ファイアストーム】が発動し、火の竜巻が雪の竜巻にぶつかって相殺し始めた。


 マチはさらに四枚の赤色のカードを手にすると、わざわざマジックスキルとして宣言した。


「【四方炎陣】!」


 宣言に反応してカードが光ると飛び出し、巨大な正方形になるように配置された。

 配置が終わるとカード同士が赤い魔力の線を伸ばして繋がり、その中心に赤い巨大な魔法陣が展開され、辺り一面が炎に包まれた。

 これはマチが対ベネット用に作成していた、環境を強制的に変えるマジックスキルだ。発動までに多少の時間が掛かるのと、阻止されると発動しないという欠点がある。

 周辺環境が火の海へと変わり、雪の竜巻も消えて周辺の氷が溶けだし、熱気に包まれたことで雪女のセツは火を避けるように飛んで離れ、溜息を吐いた。


「……考えることは同じですか」


 懐から取り出したのは、溶けることのない薄氷に包まれた四枚のお札。

 冬将軍が作成した氷の結界に使用するものだ。


 マチが修羅の状態で踏み込み、剣を振るって来るのをギリギリで躱しつつ妖力を込めたキラキラと光る氷の粒――ダイヤモンドダストを振り撒いた。少し遅れて氷の粒が一瞬で大きくなり、鋭い表面の氷結晶になった。

 そうなることを読んでいたマチは下がりつつ黄色いカードを取り出し、掲げた。

 するとマジックスキル【落雷】が発動し、空高く上がった稲妻がセツ目掛けて落下した。


「きゃああああ!」


 高電圧な稲妻の直撃に悲鳴が上がり、セツは火の海の中へ落下した。


「ぎゃあああああ! 熱いっ、熱いいいいい!」


 もがき苦しむ中、相手を痛めつける趣味を持たないマチは大きく跳び上がって剣を突き立ててセツの真上から落下した。


「【絶炎剣】」


 剣系のアクティブスキルにより剣が高熱を帯びる。

 斬られれば忽ち体を燃やし尽くす強力な力が付与された剣が刺さる直前、全身に火傷を負って苦しむセツと目が合い、口角が上がるのが見えた。


 ――しまった。捨て身……!


 セツの罠を読み切れなかったマチは今更動きを変えられず、剣はしっかりとセツの心臓に突き刺さった。

 だが同時に、薄氷に覆われた札を持つ手がマチの心臓に伸び、そこから一本の氷剣が貫いていた。


「フフ、これで相討ちですね」

「不覚」


 してやったりと笑みを浮かべたセツは、体が燃え始めて絶叫し始めた。

 対するマチは体の内側から痛みすら感じる冷たさが全身に広がり、完全に凍結した。

 互いにHPが無くなり、死亡判定となると粒子となって消滅した。


 





 冬将軍とアザイは、壮絶な接近戦を繰り広げていた。

 冬将軍が持つ終雪が振るわれれば空気が震え、受け止めたアザイのユニーク武器、二刀一対の刀『誓いの双刀』が衝撃によって手元から飛び出さんとするほどだ。

 アザイが刀を振るえばその力強さに斬撃の衝撃波が発生し、刀で受け止めた冬将軍の当世具足に傷跡を作った。


 互いに何度も何度も武器を振るって死力を尽くす二人の攻防に、凍った地面はぶつかり合って発生する衝撃にひびが入って砕け、飛び散り、元の硬い地面が露出していた。



 ――戦いに意義を見出す者ならば誰もが認め、その闘争を味わいたいと思う好敵手との互角の攻防が数分続いていた。

 だがしかし、その均衡はアザイの疲労が限界に達したことで崩れた。


「っ!」


 スタミナが完全に切れ、極度の疲労で鈍った体が思い通りに動かなくなった。そのせいで対応が遅れ、アザイは冬将軍の重く鋭い剣を踏ん張って受け止め切れず、姿勢が崩れたところに蹴りを入れられて吹き飛ばされた。

 アザイは刀の片方を杖にして立ち上がり、流れる汗を手で拭った。


「戦い方に付き合ってもらってこの強さ……君を倒したベネットが恐ろしいよ。ナガ以上にね」


 息を整え、刀を再び構えたアザイは言った。


「さて、チーム『護剣隊』の二番隊隊長として、みっともないところは見せられないな。本来の戦い方をさせてもらうぞ。【一の誓い:不撓不屈】」


 誓いの双刀の一日一回のスキルを発動し、アザイは消費していたスタミナ、激しい攻防で受けたダメージ、消費していない魔力を全回復させた。また、一度だけどんなダメージを受けても生き残る【不屈】を得た。


「【二の誓い:獅子奮迅】」


 二つ目のスキルにより、溢れるように出る赤いオーラを纏う。それはアクティブスキル【修羅】をも超える全能力上昇効果を持っている。


「【三の誓い:三面六臂】!」


 三つ目のスキルにより、アザイの顔が左右に二つ生え、肩から腕が刀ごと四本生えて阿修羅像のようになった。


「行くぞ!」


 踏み込んで一気に冬将軍へ近づき、六本の刀で切りつけながら横を通り抜けた。

 冬将軍は膝を着くこともなく雪となって消え、別の場所に現れると本格的にやる気を出し、動作も無く吹雪を起こし、スリップダメージを起こす冷気を出した。さらに白い霧も出してホワイトアウト現象を起こした。


「視界が悪くても!」


 アザイは気配を頼りに動き、確実に冬将軍を捉えて切り刻む。


 だが、またもや雪となって躱された。


 何度やっても同じ繰り返しであり、汎用魔法に分類されるマジックスキル【魔力斬波】で魔力の斬撃を六本の刀で飛ばした。


 それでも、雪となって延々と躱された。


能動的な攻撃では埒が明かないと判断したアザイは消耗するスタミナによって引き起こされる焦りを無理矢理抑え、立ち止まって意識を集中した。。


 ――そこっ!


 三本の片腕を素早く振れば、攻撃の為に側面から姿を見せた冬将軍を切った。

 確かな手応えを感じてカウンター狙いで待機し、背後から来た冬将軍をもう一度切った。

 勝ち筋が見えたところで冬将軍の気配が少し離れたところに現れ、気を引き締めているとその気配が一気に強くなって危険を察知した。


 来る!


 身構えた直後、ホワイトアウト状態の中から白い横一線の斬撃が飛んで来て、アザイは六本の剣で受け止めた。

 すかさずもう一発、今度は縦向きに飛んで来てさらに防いだ。

 地面を擦った斬撃の一部は鋭い氷柱を生やして壁を作り、その威力をまざまざと見せつけた。

 アザイは現在の自身のスタミナの消耗度合い、スリップダメージで減り続けるHP、冬将軍の回避能力と耐久性、さらに一撃の強さに思った。


 ……困ったな。ちょっと勝てそうにない。


 アザイは冬将軍の強さから、ベネットやチーム『円卓』の天才たちの強さを再認識した。自分たちではまだどうやっても勝てない、ナガの言っていたことは正しかったのだ、と。

 でも、それはそれとして中身が男であるアザイには意地があった。


「……ならば! 【四の誓い:起死回生】!」


 大勢が観戦しているイベントで使いたくなかったスキルを発動した。単純だが強力な効果のスキルで、無条件で一分間だけ全能力を数倍に上昇させる。だが、一分を過ぎた後は十分間大幅な弱体化をする。


 さらに鳥の翼を象った防具――ユニーク防具の『比翼連理の鎧』のパッシブスキル【翼展開】によって白黒の鳥の翼を生やし、飛んで真っ直ぐ冬将軍に向かった。


 冬将軍は迎撃の構えを取り、力を溜めた。


 アザイは避けることもせず飛び込み、冬将軍の会心の一撃をまともに食らって鎧ごと切られ、傷口から氷柱が生えて体が裂けた。

 ただ、体は【不屈】の効果でギリギリ千切れるのを耐え、痛みに歯を食いしばったアザイは体から生えた氷柱を砕きながら起死回生の六連撃を振り下ろした。

 その攻撃は確かに冬将軍の鎧を切って破壊し、崩れて倒れた。


 ――が、冬将軍は元来、冬という概念そのものであり、鎧は単なる具現化した器に過ぎない。その場が冬に相応しい場所であるのならば、いつでも幾らでも復活する。

 ベネットの時は、悪しき者に操られていただけなのだ。


 冬将軍の鎧が雪となって消え、目の前に再び冬将軍が姿を見せた。鎧は新品同様に戻っており、体力の消耗なども一切見られない。


「……はぁ、参った。降参だ」


 アザイは現状では絶対に勝てない相手だと認め、スキルを全て解除して誓いの双刀をインベントリに仕舞い、両手を上げた。

 冬将軍も降参を受け入れ、終雪を鞘に仕舞うと丁寧にお辞儀した。


 そして、健闘を称えて握手を求め、アザイが応じると役目を終えたとして消えるように元の場所へ帰還した。


 戦いを終え、緊張の糸が完全に切れたアザイはその場に大の字に倒れ込んで大きく息を吐いた。


「……疲れた! 暫く動けそうにないな」


 まだ幾つかスキルを隠しているとはいえ、正々堂々とした勝負で完膚無きまでに敗北したアザイは満足し、清々しい笑みを浮かべてどんよりと灰色の分厚い雲と、止まない吹雪の空を見つめた。







 その頃、氷の精霊王・ブリザーバードことネーヴェは、ランマルに糸に絡め取られて身動きを取れなくされていた。

 しかし、ランマルにそれ以上の動きはなく、むしろ絡めた糸を空間に固定して白い手袋から切り離し、その場で洒落たテーブルと椅子をセッティングし、カセットコンロを設置してヤカンに魔法で生成した水を入れてお湯を作り始めていた。

 さらにティーセットと複数の茶菓子、紅茶の茶葉を出してお茶の準備を進め、何もして来ないことにネーヴェは不満気な表情で口を開いた。


「……あのさ、戦わないの?」

「逆に聞くけど、僕が君と戦う意味ある?」


 その冷めた目に闘志は欠片も無く、ネーヴェを見てすらいない。

 ネーヴェは逆に質問されたことを考え、答えた。


「……別にないわね」

「でしょ? 戦う気の無い相手と戦っても面白くもないでしょうから……お茶、しませんか?」

「……するわ」


 その返事を聞いて気を良くしたランマルは、一見すると満面の笑みを浮かべた。


「それは良かった。二人分用意したのが無駄にならずに済みます」


 指パッチン一つで糸が消え、解放されたネーヴェがテーブルに近づくと、ランマルは執事らしく椅子を引いてエスコートした。

 静かにお湯が出来上がるまで待っている間に吹雪が発生し、また指パッチン一つでテーブルを中心に白い魔法陣が展開され【セイクリッドサークル】を発動して雪と風を防いだ。

 その指パッチンが気取っているように見えて、ネーヴェは質問した。


「ねぇ、その指パッチンはなんか意味あるの?」

「戦術的な意味、と言うのなら特にありませんよ。これはナガが――うちのチームリーダーが『執事なら瀟洒でかっこいいのが当然だ! なら魔法を使う時は指パッチンしたらそれっぽくていいだろう。だからやってくれ!』とせがんで来たので、この手袋にわざわざ指パッチンの音が出せるスキルを付与したんですよ」


 指パッチンを三連続でやって見せたランマルは、出来上がったお湯を茶葉の入ったポッドに注ぎ始めた。


 因みに、ランマルの白い手袋に付与されたスキルは、パッシブスキル【指パッチン】である。いい音が出る以外に効果が無いネタスキルである。


 紅茶が出来上がり、ネーヴェの前に置くとランマルも椅子に座って早速香りを楽しみ、飲んだ。


「……うん、我ながらいい出来だ」


 自分の技量を褒め、用意した茶菓子のうちの一つ、マカロンに手を伸ばして口に入れる。

 それを見たネーヴェも紅茶を飲んだ。


「あっ、美味しい」


 マカロンを口に入れると、こちらも美味であり、口の中が程よい甘さで満たされまた紅茶が飲みたくなる。

 他の茶菓子を試しながら、食って飲んでを交互に繰り返したところでランマルが手を止めた。


「そういえば自己紹介がまだでしたね。僕はチーム『護剣隊』第一部隊副隊長をしているランマルです。チームリーダーであるナガの従者もしています」

「私は第一世界の氷の精霊王が一体、ブリザーバードのネーヴェよ。ご主人様であるベネット様と召喚契約を結んでいるわ」

「……やっぱり、あの精霊王ですか。今戦いを挑まなくて良かった」

「その口ぶり、別の精霊王と戦ったことがあるの?」

「ありますよ。炎の精霊王・ブレイズバードとね」


 その名前を聞いた途端、ネーヴェは嫌そうな顔をした。


「うぇ、あいつかぁ……それで、どうせ勝てなかったでしょうけど、どこまでやれた?」

「糸で体をバラバラに切断までは出来ました。ただ、無限復活のうえフィールド全体が火の海になってさらに苛烈な攻撃で……本気を出されてから三十秒も持ちませんでしたね」

「まぁそんなもんよね。あいつ私以上に激しく暴れるから、人間やめてないと勝てないし、そもそもまともに戦えないわ」

「それ、あなたに勝ったベネットが人間やめてるって言ってません?」

「そうね。でも、()()人間よ」

「まだ、ね……」


 これから先、人間を辞めることが確定しているかのような物言いにランマルは幼馴染でリーダーのナガのことを思った。


 ……運命に導かれた果てに、君は本当に“魔王”になるんだろうね。


 自らの意思で突き進んで遠くに行ってしまいそうな親友に、ランマルはふと空虚さを抱いてしまった。

 だからこそ、赤の他人に色々と吐き出したくなった。

 でも、それは一人で充分。

 丁度目の前に話し相手としていい感じの、人智を越えた存在がいる。

 ランマルは指パッチンしてテーブルを起点に【サイレンスフィールド】を発動した。

 結界の類に、ネーヴェは反応して僅かに警戒した。


「ご安心を。この中の音を外に出さないようにしただけです。少し、プライバシーに関わる話を聞いてほしいと思いまして」

「そう……いいわよ。お茶のお礼に話くらいは聞いてあげる」

「ありがとうございます。では聞いてください」


 ランマルはリアルでのナガとの思い出を語った。




 二人の出会いは、生まれた時からだった。


 家が隣同士で、偶々同じ頃に結婚した互いの両親が、これまた偶々同じ頃に男女の交わりをし、同時に妊娠して、同じ日に出産した。

 そういう縁もあって家族ぐるみで良好な付き合いが始まり、育児の相談から家族旅行の相談、仕事の相談までしていた。

 ナガとランマルも実の兄弟のように寝食を共にし、遊び、学び、唯一無二の友情を育んだ。

 そして、何やかんやあって小学校を卒業し、同じ中学校に入学した時に廊下でナガがふと思い出したかのように言ったのだ。


「あっ、そうだ。俺、将来この世界を救う英雄の一人になるから、そん時は俺の隣に立ってくれよ」


 その荒唐無稽な妄言をランマルは本気だと理解し、こう返事をした。


「いいよ。隣に立ってあげる。というか、君は危なっかしいから、傍に居てやらないと僕が不安だ」


 と、ここでネーヴェが「ちょっと待って!」と語りを止めさせた。

 興に乗って来たところを止められたランマルは、少しムッとした。


「何です? ここからがいいところなのに……」

「いやその前に一つ気になったから……ナガって中身男なの?」

「ええ、そうですよ」



 中学生になったナガとランマルは、来るべき戦いに備えてしっかりと運動し、勉学に励み、そして様々なフルダイブVRゲームをやった。

 特にフルダイブVRゲームでは武器や兵器の扱いを真剣に学び、魔法も完璧に使いこなせるまで特訓した。その甲斐もあって二人は数々のゲームでトッププレイヤーと呼べる実力を示した。

 ランマルは魔法が使えるファンタジー系のゲームでトッププレイヤーの一人となり、ナガは銃や兵器を扱うゲームでトッププレイヤーの一人になった。特にゲーム『イレギュラー』では、ナガは周囲のプレイヤーに恐れられる程であった。

 しかし、ゲームを大いに楽しんだ代償として、ナガもランマルも年齢が年齢ということもあって……見事に中二病を発症した。

 ランマル自身はそれを早くに自覚して症状を抑えたが、ナガは性格も相まって中二病としての道を突き進んだ。



 そして充実した中学生活から受験シーズンを経て、二人は同じ高校に入学することになった。

 入学式を目前に控え、二人はどの選択科目を履修するか、どの部活に入ろうか、どんなゲームをするかと話し合った。

 勿論、ゲームの話は数カ月前から発売が決まっていた『オールワールド・オンライン』に移った。

 様々な世界の冒険と、世界初の異性アバターの使用がしきりに宣伝されていて、既に世界中で話題となっていたから、その話をするのは必然だった。

 だからナガは、発売目前に迫っているゲームを前に、心から楽しみにしながら言った。


「そうだ、俺、女アバターを使って美少女としてゲームするから、お前は執事をやってくれないか。んで糸使いで、こう……瀟洒(しょうしゃ)ですって感じの立ち居振る舞いで、俺の隣に立ってほしい!」


 突然のネカマ――ネットオカマプレイ宣言にランマルは唖然としたが、悪意を持ってそうしようと思っていないので、とりあえず質問した。


「……なんで美少女なの?」

「だって、むさいおっさんより、カッコ可愛い方がいいじゃん! それに俺はお前がどんな女が好きかを知っている。だからお前好みの女になってやる。惚れていいし、期待して待っていろよ」

「……うん」



 そして時は進み、『オールワールド・オンライン』発売日。ゲームダウンロード中にナガから電話があり、ランマルは応じた。


「良かった、出てくれたか」

「何? もうすぐダウンロードが終わるけど」

「その前に伝えておこうと思ってな。俺はゲームでは“ナガ”という名前にする。お前は“ランマル”って名前にしてくれ」

「その心は?」

「俺は織田信長の遺志を継ぐ」

「……随分と藪から棒じゃん。理由は?」

「なんかそうするべきだって閃いた! 俺がこういう時、絶対に正しいって知ってるだろ?」

「まぁ、生まれてからずっとの付き合いだからね。振り回されたり後始末する僕の身にもなってほしいけど」

「それはごめん。けど、今回は絶対の絶対にそうするべきだ!」

「分かった、そうするよ」

「本当か! めっちゃ嬉しい!」

「はいはい。それで? どうせだから僕のアバターの容姿、どんなのがいいか要望はある?」

「それならある。森蘭丸は美少年だったらしい。だから俺の美少女アバターに合わせて美少年にしてくれ」

「うん、分かった。惚れないでよ?」

「ハハッ、むしろ惚れさせてくれ。それじゃ、ゲームの中で待ってる」


 通話が切られると、既にダウンロードは完了していた。

 ランマルはバイザー型のゲーム機本体を被り、『オールワールド・オンライン』にログインした。


 それから一時間にも及ぶアバター編集を終えて今の美少年執事を作り、ワールドシップへ降り立った。


「待っていたぞランマル! さぁ、私と共に世界を救う為に動こうではないか!」




「――で、色々あって今に至るわけです」


 話し終えたランマルは自分とナガの関係を改めて見つめ直すことが出来てスッキリし、ぬるくなってしまった紅茶を飲んだ。

 ネーヴェも聞き入って止まっていた手を動かし、紅茶を飲んだ。


「……なんかこの紅茶、甘いわ」

「そうですか? 無糖のファーストフラッシュのダージリンなんですけどね。冷めてしまいましたし、淹れ直しましょう」


 席を立ったところで、ランマルの体が白く光り出した。


「あっ、どうやらコアクリスタルを破壊されたようですね。話を聞いてくれて、ありがとうございました」


 お礼を言ったランマルは、強制転移でその場から消えた。


「こちらこそ。お茶とお菓子、美味しかったわ」


 役目を終えたネーヴェは席を立つと、そのまま元の場所へ帰還した。






 ベネットとナガの戦いはまず銃撃から始まった。


 横へ移動しながら撃ち合うが、互いに先読みをした動きにより全く当たらず、場合によっては銃弾同士が当たって弾かれることすらあった。

 もし銃弾が直撃コースにあったとしても、ベネットは氷の壁を生成して防いだ。


「【竹束】」


 ナガはユニーク防具『第六点魔王の鎧』のアクティブスキルの一つを発動し、MPを消費して竹を束にした盾を無から複数出して防いだ。

 ただその盾は、防具が強化されたことにより竹の形をした鋼鉄になっており、ナガのVIT依存によってそれなりに硬く、メメント・モリの銃弾と言えど幾つか貫くだけで全て貫通出来ずに止まってしまった。また、銃弾が少し逸れて当たった場合は避弾経始の作用が働いて弾かれた。


 撃って、弾が切れて装填……それを何度か繰り返したところで、装弾数の関係で少し不利なベネットは氷の壁の裏でピタリと足を止めた。ナガも余った弾丸を氷の壁に撃って威嚇してから、空になったマガジンを捨て、銃に付与されているパッシブスキル【自動装填】で新しいマガジンを装填した。

 そして、竹束に隠れながらベネットに聞こえるように声を上げた。


「流石だよベネット。走りながら、しかも片手で、アレほど正確な射撃が出来るとは恐れ入ったよ!」

「それはお前もだ、ナガ。どれだけ鍛錬を積んだ?」

「さてね? ゲームによって時間の流れが違うから何とも言えないが……大体五年くらいは銃を使い続けていたな」

「……そうか。では、魔法はどうだ?」


 ベネットは氷の壁の裏から魔法陣を竹束の裏に出し、マジックスキル【氷刃六花】を発動してナガを直接攻撃した。


「おっと」


 的確に気配を感知して視認できていない相手に魔法の遠隔発動をしてくるベネットの不意打ちに、ナガはしっかりと反応して六連射された氷の刃をスタイリッシュな動作で躱した。


「やるなベネット! 私は魔法が苦手だが……その分、スキルの扱いは上手いぞ。【鉄砲三段撃ち】」


 ナガは対抗するように防具のアクティブスキルを発動し、氷の壁に隠れるベネットの前方に縦三段に連なる鉄砲の長蛇の列を亜空間から出した。

 しかも、その鉄砲は当時の火縄銃ではなく、現代の最新技術で作られた機関銃であった。


「うわぁ……」


 ドン引きする声が漏れ、ベネットは【アイステレポート】でさっさと逃げた。

 直後、機関銃による一斉射が始まった。

 ナガはベネットの気配が移動したことをすぐに察知し、発砲を止めずに機関銃の向きを変えた。

 次々と転移を繰り返して弾切れを待っていると、その時が来た。

 機関銃の弾が切れて一斉に発砲が止まった。

 だが、後続に控えていた新たな機関銃が交代で現れ、再び一斉射を始めた。

 弾幕が途切れたのは僅か数秒だった。


 弾切れは起こり得ないと判断したベネットは、自滅の可能性に賭けつつこの攻撃を止める為にナガの目の前に転移すると、流石に機関銃の発砲が止まった。

 代わりに、二人は手に持っている拳銃で同時に銃口を向けた。

 ナガは不敵な笑みを浮かべ、一切の油断もせずに口を開いた。


「……威力的に、私が少し不利か」

「ならどうする?」

「こうする」


 ナガは目の前で苦手と言った魔法を使い【ダークテレポート】で闇に包まれて転移した。咄嗟にベネットは発砲したが銃弾はすり抜けてしまう。

 転移した先はベネットの背後であり、ベネットは振り向くと同時に大きく一歩踏み出して終雪を振るい、刀の間合いの外にいたナガが構えようとしたRIPを弾き飛ばした。

 形勢逆転と言わんばかりにメメント・モリを構えたが、銃口が向くよりも速く太刀が振るわれ、メメント・モリを弾き落とされた。

 仕方なく刀を振るい、ナガの太刀に合わせて受け止めた。


 鍔迫り合いとなったところで、ナガはまた口を開いた。


「どうだベネット、身体が温まって来たか?」

「私としては、冷えていた方が強くなるのだが」

「む、そうか。でもいいな、この戦い。親友であるランマルや優れた才を持つアザイでも、私の天才としての動きについて来れなかった。けどベネット、君は違う。私相手に手加減している」

「それはお前も一緒だろう?」

「ハハハ、そうだな。確かにまだ小手調べだ。だからそろそろ本気を出そう。【降神・第六天魔王】!」


 スキルによって人の形をした影がナガの背後から現れ、体に入った。

 直後、気配と雰囲気が変わったナガはベネットを強引に押して離して言った。


「我こそは第六天魔王! とは言っても、ナガであることに変わりない。さぁベネット、本気を出さんと死ぬぞ?」


 一人称が変わり、スキル【覇気】を伴った凄まじいオーラの威圧感に、ベネットは静かに殺意のゾーンに入った。


「【ブリザード】【ホワイトアウト】【ミラーバーン】」


 防具のスキルを三つ発動し、猛吹雪に白い濃霧、足元の氷は摩擦力の全く無いツルツルの氷に変化した。


 第六天魔王が憑依した状態のナガはさも当然のように宙に浮き、弾き落された拳銃に手を伸ばしてアクティブスキル【念動力】で手元に戻した。

 ベネットも【念動力】でメメント・モリを手元に戻しつつ、気配だけで捉えて撃って来るナガの狙いを読み、必要最低限の動きで躱し、或いは終雪で弾きながら撃ち返した。

 ナガも同様に最低限の動きで躱し、太刀で弾いた。


「【竹束】」


 ベネットがナガの背後や側面に展開した魔法陣に対しては、合わせるように鋼鉄の竹の盾を前に出し、魔法陣から射出された【アイスランス】を無力化した。

 だが油断はせず、ちゃっかり魔法陣の射線の外へと移動し、笑った。


「フハハハハハ! 発動までに僅かなタイムラグがある魔法の対応など、造作もないわ!」

「……」


 殺意を向けて超集中状態のベネットは答えず、装填を終えたメメント・モリを撃った。ただしその方向はナガではなく、ベネットが周辺に転化した魔法陣の前に設置された竹束の一つであり、銃弾は竹束に当たって弾かれ、跳弾した。


「っ!?」


 一瞬遅れて意図に気付いたナガが躱せば、銃弾は動いて靡いたポニーテールの一房を掻き分けるように通過した。

 意識が回避に向いてしまったことで隙が生じ、ベネットは畳み掛けるように大量の魔法陣をナガの周囲に再度展開した。


「【アイスツリー】」


 呟くように魔法を宣言し、魔法陣から一本の細い氷柱が飛び出した。そこから氷柱はベネットのイメージにより樹木のように枝を生やし、逃げ道を塞ぎながらくしざしにしようとナガを襲った。


「この程度! 【幻影・安土城】」


 防具のスキルにより、安土城の本丸を模した幻影の結界がナガの内から出現して全てを弾き飛ばした。


「……【コキュートス】」


 効かないだろうと瞬時に見極めつつ、試さないわけにもいかないベネットはこの場一体を覆い尽くす魔法陣を展開し、氷塊に埋めて封じ込めを行った。

 だが、やはり幻影の安土城の内側は氷塊に埋まらなかった。


「フハハハハ! 効かぬわ! が、氷で埋まってはこちらも攻撃出来んな」


 ナガはそれを踏まえて城に籠るのは止め、【ダークテレポート】で氷塊の範囲外へと移動した。

 直後、ベネットが背後に転移して終雪を振るい、ナガは太刀で受け止め、拳銃を向けて撃った。


 ――のだが、引き金がピクリとも動かない。


「やってくれたな!」


 ナガの持つ自動拳銃のRIPはベネットの手によって、いつの間にか薬室から銃口にかけて氷が詰まっており、スライド全体が氷に覆われていた。

 完全凍結して使い物にならなくなった拳銃をインベントリに仕舞いつつ、ベネットからの銃撃を躱しながらスキルを宣言する。


「【鉄砲三段撃ち】【馬防柵】【竹束】!」


 再び亜空間から三段に並ぶ機関銃を出して撃ち始めて牽制しつつ、ナガは鋼鉄の柵を大量に次々と出現させて移動経路を制限させ、竹束を自分の正面に出して盾にしつつベネットを追い詰めようとする。

 ベネットは無言で銃弾を躱しながら迷路のようになり始めている柵を避けて動く。時には短距離転移しながらもメメント・モリを装填しては撃ちつつ、三段撃ちの機関銃全てを捉え、傍に魔法陣を展開して【アイス】で氷に包み込んで使用不能にした。

 それどころか亜空間に干渉して凍結され、操作不能に陥った。


「っ!」


 やはり、我では勝てぬか……。


 こうなることは見えていた。

 それが分かって挑んだナガだが、やはり敗北というのは悔しいものがあった。

 だからこそ、諦めはしない。


「我の武器は銃だけではないぞ!」


 使えるのは織田信長の力だけではない。第六天魔王そのものの力もある。ナガは空から大量の剣を召喚し、周辺には自身が思い浮かべた空飛ぶ人型の悪魔が大量に召喚された。

 だが、それら全てはベネットに攻撃する前に氷漬けにされて動けなくなった。

 打つ手が無くなったナガは最後に竹束に隠れながら真っ直ぐ突っ込み、ベネットに太刀を振るった。

 スキルは使えない。使えば必ず後隙が生じてしまう。だからこそ磨き上げた自力での高速剣技で戦うが、心を読まれて動きにしっかりと対応され、一太刀も当てられない。

 それどころか超集中状態で流れるような剣捌きにナガの方が次第に追い詰められ、壮絶な斬り合いの末、遂に太刀を弾き飛ばされた。


 間髪入れず、ベネットは素早く手足を切断し、最後に首を刎ねた。


 ……見事ッ!!


 ナガは称賛し、召喚したあらゆる物と共に粒子となって消えた。

 ベネットは肩で息をしながらも残心してから周囲の気配を探り、完全にこの場での戦闘が終わったと判断すると、殺意のゾーンを抜け、その場に寝転んだ。

 今だけは淑女らしい姿勢など気にせず、大の字になって息を整えることに集中する。


「……ナガ、強かった!」


 思い返してみても、その動きと実力はチーム『円卓』メンバーに匹敵するものであり、相性次第では勝てるレベルだ。



 ある程度休んだところで息も整い、ベネットは金の城に入って中枢を見つけ出し、コアクリスタルを破壊してチーム『ネコの集会所』のコアクリスタルを設置した。

 これにてこの場での戦いが終わり、ベネットは残りの城を占領しに向かった。



 チーム『護剣隊』に残されたメンバーの中に強い者は殆ど残されていなかった。

 全力を尽くして冬将軍と戦って認められて生き残ったアザイは、別の城に強制転移したところで支給品のポーションを飲んでしっかりと回復していた。

 だが、先の戦いで満足し、浮かれて集中力を切らした状態で襲い掛かって来たベネットには充分に戦えず、あっさりと敗れた。

 ランマルもまた、超人としての圧倒的な才能の差と、糸という武器の相性でどうすることも出来ず、すぐに敗れた。

 これがベネット以外のチーム『円卓』メンバーであれば、多少の抵抗は出来たであろう……。


 ともかく、チーム『護剣隊』はベネットによって全ての城を占領され、敗退となった。

 




チーム『護剣隊』について補足。


名前は天下五剣と有名な少年漫画『ブ〇〇チ』の十三ある隊を混ぜた。


剣で護る隊、である。


部隊数は五。隊長は全員が超人として覚醒済み。ナガ以外はチーム『円卓』ほどでないにしろ、一騎当千出来る実力と才能がある。

副隊長は覚醒していたりいなかったり。それでもこのチームに居なかったら他チームのリーダーや主力をやれる器。


このチームが何を守るかは……ここまで読んでくださった方なら分かっているかと思います。



ナガが織田信長の遺志を継ぐというのは、自称であり運命。

天下布武ではなく、天下静謐を目指してる。

未来を閃きでなんとなく理解するタイプ。


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