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第四回イベント『チーム攻城戦』2

チーム『円卓』メンバーの一騎当千の活躍をお楽しみください。




 島の中心エリアは長閑(のどか)な平野が広がっている。途中で幾つか山や丘はあるが、それも小さな物で偵察や狙撃に使える程度の小さな物だ。城から城へはしっかりと整備された道が出来ており、自動車や戦車といった乗り物がスムーズに進めるようになっている。



 ミグニコは誰よりも速くその場から飛び出し、道を頼りに進んで近場の城を目指していた。既にその速度はスキルを使わずとも音速の壁を突破し、風圧もパッシブスキル【スピード狂】により自動で無効化されていた。


「おっ、あったあった」


 自分たちの城から数十キロ先に城を発見した。高度数百メートルから見下ろす眼下には銀色に輝く城があり、そのチームはまず防備を固めようと持ち込んだ分厚い金属の盾や土嚢で陣地を設営していた。プレイヤーたちは全員が機関銃を担いでおり、既に完成した陣地には一昔前の戦艦に設置されていたような連装機銃がある。


 そのチームの名は『ハッピートリガーズ』。

 マシンガンをこよなく愛し、敵を見つければ死ぬか弾切れになるか、完全に見失うまで引き金から指を離さない連中だ。

 格好はバラバラで、全身金属のパワードスーツを着込んだ者から、迷彩服の上から防弾チョッキやプロテクターを装備した者、ロールプレイを重視してタンクトップに赤いバンダナを頭に巻いた者もいる。

 紅一点で、種族ケモミミで色白の肌に白いキツネ耳と尻尾を持つ、銀の長髪に青い瞳のビキニ水着姿のお姉さんもいる。


「それじゃあ、ちゃちゃっと制圧するか。【トライアル】!」


 スキルを宣言すると、いつもの格好からユニーク防具に一瞬にして変わる。以前はレーシングスーツのような格好であったが、ハカセの強化を伴ったデザイン変更に大きく変わっていた。

 ぴっちりスーツの上からホルターネックタイプのミニ丈のドレスを着ており、スカートは前が開いている。ドレスは綺麗な刺繍やヒラヒラの装飾が為されており、下地のぴっちりスーツも含めて全てが純白に変わっていて、まるでウェディングドレスのようになっていた。また、フルフェイスのヘルメットも目を守る透明なバイザーと一体化したベールに変わっている。

 さらに、体から風属性の魔力である緑のオーラが発せられた。


 たった十秒だけ凄まじい速度強化となったミグニコは、短剣型の聖剣シルフィードを手に真っ直ぐ城の入り口を目指して急降下を始めた。

 元のAGIが誰よりも高いミグニコが速度をさらに上げた結果、その速度は普通の人間では決して捉えきれないものとなり、オーラが軌跡を作る。


 その姿は正に緑の稲妻だった。


 異変に気付いた何人かのプレイヤーは設置していた連装機銃を構えようとしたり、担いでいた機関銃を手に取ったが、その動作の後には既に緑の軌跡は通過しており、入り口を通って場内に進入していた。

 城内にもプレイヤーはいたが、彼らは驚いてビクリと身構えるだけで、正体も分からず何も出来ずにミグニコを通過させてしまう。直角に激しく動く軌跡は一瞬にして城内を駆け巡り、天守に生成された中枢に辿り着いてコアクリスタルを破壊し、チーム『円卓』のコアクリスタルが設置された。

 対応する暇すら与えず、メンバーの大半は何が起きたのかも分からないまま敗退が決まってマップから消え、退場となった。


 スキルの効果を数秒残して城一つを最速で奪取したミグニコは、大きく息を吐いた。その額には僅かに汗が滲んでいる。


「ふぅーっ。体力の消耗が激しいとはいえ、何回も使えるとか最高だな!」


 スキルの効果が切れ、汗を拭ったミグニコはインベントリからペットボトルの水を取り出し、一気に飲み干した。

 どうせ今回限りのマップだろうと空になったペットボトルはその場に置き捨て、天守の戸を開けて飛び出した。


「さて、次は何処を取ろうか?」




 チーム『円卓』のポイント:10




 別のチームがいる普通の城では、チームの統一感が全く無い多種多様な見た目のプレイヤーが防御陣地を築いていた。

 そんな中、地上を爆走して近くまで来たキャシーがスニーキングミッションを開始していた。

 アクティブスキル【隠密Ⅹ】を越えた最終スキル【超隠密】によって姿が完全に見えず、超人として気配を隠す能力が極めて高いキャシーを感知出来ているプレイヤーはいない。

 また、ハカセに強化されたユニーク防具、科学と魔術の結晶である『ナノテクマジックスーツ・オリジナル』により光学迷彩も起動しており、万が一スキルを看破したとしても物理的に視認することは困難を極める。


「にゅふふ……にゃーを感知できるのは、警戒してる同じ天才くらいだにゃ」


 小さく呟き、防御陣地構築で動いている中で一時的に孤立したプレイヤーに音も無く近づき、ユニーク武器の二振りの長さの違う短剣『時剣クロックハンズ』を取り出し、背後から首を刺した。

「うっ!」


 未発見状態の急所攻撃によりパッシブスキル【忍殺】が発動し、そのプレイヤーは小さく声を漏らして何が起きたか分からず死亡判定となり、粒子となって消えた。


 その後も次々と孤立したプレイヤーを急所攻撃で一撃、或いは目にも留まらぬ連撃で倒して行き、人が減って異変に気付いたチーム『一期一会』のリーダーは声を発した。


「全員警戒しろ! 何かがぁっ――!?」


 途中でキャシーが短剣で首を切断してリーダーを倒した。注目されていた中で倒したことでスキル【超隠密】が強制解除され、敢えて光学迷彩も解除し、元のスーツ姿を見せた。

 スーツ自体は漆黒のぴっちりスーツだが、ハカセのデザインにより銀の装飾が入っていて格好よく仕上がっている。


「やぁやぁ、みんな元気かにゃー?」


 笑顔で声を掛けると、プレイヤーたちは一斉に武器を構えた。


「お前は、チーム『円卓』のキャシー!?」

「いつの間に……」

「こんなに早く来るなんて……」

「リーダーがやられたんだ。勝てる訳がない」

「だとしても、ここで降参したらチームとしてみっともないでしょ! やるよみんな!」


 ――応っ!


「いいチームだにゃ。だけど無意味にゃ。【クロックアップ】【クロックダウン】」


 キャシーの手にある二振りの短剣のスキルを発動した。

 短い針の剣が【クロックアップ】によりキャシーの移動速度を大幅に常用させ、長い針の剣が【クロックダウン】により半径一キロを瞬時に透明な膜で包み込み、キャシーを除く全ての物の動きを遅くした。


「じゃあ、お疲れさまにゃー」


 別れの挨拶をした後にキャシーは動き、相対速度に絶対的な差が出来てしまったプレイヤーは瞬く間に全滅した。

 今この場にいたのが全員だったようで、チーム『一期一会』の敗退が決定した。

 スキル【クロックアップ】と【クロックアップ】の効果時間、十秒が経過して解除されると、動き過ぎて少し汗を流したキャシーはインベントリからペットボトルの水を取り出して飲んだ。


「ふぅー、遠慮しなくていいのは楽しいにゃー」


 誰もいなくなり、一時的に誰の物でもなくなった空城をゆっくり探索し、コアクリスタルの無い中枢に到着したキャシーは自チームのコアクリスタルを所定の場所に設置した。


「さて、次は何処へ行こうかにゃ?」



 チーム『円卓』のポイント:11







 別の城には、ヘカティアが攻撃していた。人が認識するには余りにも遠すぎる遥か先――およそ十キロの地点、丁度良い位置にあった丘の上から伏せての狙撃である。

 手にはユニーク武器『イレイザー』があり、アップデートにより弾道予測線が消えたことで、ハカセによる魔改造と強化が向上したその性能を遺憾なく発揮していた。


 一発、また一発……発砲音が響き渡る。


 砲弾と呼ぶべき大きさの弾丸が、以前の数倍の速度で飛んで行く。装填方式もセミオートに変わり、ヘカティアは装填の煩わしさから解放されて大きなスコープを覗いたまま撃ち続ける。



 銃口の先にある普通の城では、猟師や狙撃手の格好をしたチーム『狩人の集い』が防御陣地を築いていたが、突然の狙撃に次々と仲間がやられ、残りの数人が何とか城の中へ退避したところだった。


「くそっ! いきなり狙撃とかどうなってる!?」

「分からねぇよ。方向は割り出せたが、あんまりにも遠すぎて見えやしない」

「警戒に出ていた仲間はどうなった?」

「……全員応答無し。先に全滅させられていたようだ」

「マジかよ。あいつら千メートル以上を当てられる狙撃手だぞ? カモフラージュだって陸自に劣らないレベルの筈だ」

「だがやられた。恐らく相手は天才だ。人間としての能力は別次元にある。撃ち合ったって勝ち目はない」

「じゃあ、降参するってのか?」

「いいや、一泡吹かせる。こいつでな!」


 プレイヤーの一人が取り出したのは、プラスチック爆弾と信管。

 仲間はにやりと笑みを浮かべた。


「なるほど。待ち伏せて自爆か」

「リアルじゃ出来ねぇ芸当だな。これなら確実にやれる!」

「よしっ、早速仕掛けよう!」


 動こうとした直後、仲間の一人の頭部が弾け飛んで血肉を散らした。


「は?」

「え?」


 呆然としている間にまた一人、頭部が弾けた。

 また次々と仲間がやられ、最後のプレイヤーは諦めて立ち尽くした。


「はは……どうなってやがる」


 呆れて笑うしかない彼が見たのは、屋内に侵入して垂直に曲がり、正確に飛んで来る緑のオーラを纏った弾丸だった。


 チーム『狩人の集い』は、相手を視認することさえ敵わず狩り尽くされて敗退した。




 その城の全てのプレイヤーを狙撃だけで倒したヘカティアは【透視の魔眼】で白く光っていた両目をいつもの目に戻し、大きく息を吐いた。

 それから立ち上がり、極限まで集中して凝り固まった体をほぐす為に大きく伸びをした。


 彼女が使ったのはイレイザーの固有スキル【魔弾の射手】によるものだ。MPを消費し、実弾に魔力を込めて撃つことで射手の望む場所へと自在に動かすことが可能となる。


 体をほぐし終わり、マガジンに弾を入れ直してイレイザーをインベントリに仕舞ったヘカティアは誰の物でもなくなった城を見つめた。


「…………まぁいいか」


 いちいちコアクリスタルを設置しに行くのが面倒だと感じたヘカティアは、風属性魔法【フライムーブ】によって風を纏い、次の狩り場へと飛んで行った。



 チーム『円卓』のポイント:11





 ドルークはTAインペラートルに乗って高高度を飛んで遠方へと向かっていた。狙うは銀か金の城。

 高高度にいるのは雑魚にちょっかいを掛けられるのが嫌だからであり、チーム『円卓』の単独トップを阻止しようとするだろう強いチームのプレイヤーを誘き出す為の行動だ。


 結果は――ロックオンされたことを知らせる警報音として返って来た。


「来たか!」


 瞬時に回避行動をしつつ、レーダーと気配から敵の位置を割り出して振り向き、ハカセの力作である威力重視の新型ビームライフルの二丁を構えて同時に撃った。

 収束率を限界まで高めた高威力のビームが、四機一個編隊で十機ほど飛んで来ているうちのTA二機の胴体に直撃し、マナコーティングとマナフレームの装甲を貫通して爆発を起こし、墜落した。


「流石だハカセ、弾数は少ないがいい威力だ!」


 飛んで来ているミサイルやビームを躱しつつビームライフルだけで反撃をして次々と撃破していると、見知った相手――チーム『下剋上』のルイスからわざわざオープン回線での通信の呼び掛けが来て、ドルークはどんなことを言ってくれるのかと期待して繋いだ。


「ようやく繋がったかクソ野郎!」

「フッ、いきなり罵倒とは威勢がいいな」

「今日こそはお前を殺してやる! その為にイレギュラーをこれだけ集めたのだからな!」

「そういう割には、既に何機も撃破されているが?」

「化物め! だが、化物には化物をぶつけるのが定石だ」

「むっ?」


 その言葉から強敵が来ることを察したドルークが周囲に意識を向ければ、遅れて別の方向から来る一機のTAが見えた。それは普通のTAではまず出さない超高速で一直線に接近して来ており、ドルークは咄嗟に弾切れに近い新型ビームライフルを捨てて左手にハカセ特注の強力な盾、右手にビームサーベルを出して迎え撃った。


 凄まじい衝撃と共に盾がTA用の機械式大刀を受け止め、右手のビームサーベルで攻撃するが、それを大刀から離した片手のビームサーベルで受け止められた。

 動き、気配、そして黒く接近戦重視のパーツで構成された中量型機体には覚えがあった。


「『剣聖』か!」

「如何にも。依頼により、お前を斬る」

「面白い! やってみろ!」


 チーム『ホワイト運送』に所属するイレギュラーで剣豪の一人、『剣聖』と呼ばれてトップランカーの一人に数えられるアカシの参戦により、戦いは激しさを増した。

 ドルークは手を抜くのをやめて両肩の武器を変え、右肩はチェーンガン、左肩にビームランチャーを装備してステップブーストを繰り返しながら引き撃ちを始めた。チェーンガンは常に貼り付こうとするアカシのTAタケミナカタを牽制し、ビームランチャーで一瞬だけ捉えた他の機体を撃っていく。

 タケミナカタは両肩の追加ブースターによる凄まじい推力でチェーンガンを躱しながら接近し、機械式大刀を振って来る。それを盾で防ぎながら右手のビームサーベルで反撃するが、先ほどと同じようにビームサーベルでいなされて当たりはしない。


 他のイレギュラーたちも戦おうとするが、あまりに激しい動きに追従できず、タケミナカタの接近戦のせいで下手に撃つことも出来なかった。

 しかも、あの激しい動きの合間にドルークが乗るインペラートルの方からビームランチャーのビームが飛んで来て、悠々と観戦すらしていられない。

 バックして動くインペラートルを見て隙だらけの背中からビームサーベルで切ってやろうと思ったイレギュラーもいたが、回転しながら回り込まれるように躱され、逆にビームサーベルで背後からメインブースターを切断されて墜落した。

 戦いながらも次々と撃破される中、ルイスの乗る赤と白の中量型機体ブレイブハートも攻撃に参加するが、動きに付いて行くのがやっとであり、ドルークからは見向きもされない。


「くそっ、まだこれほど差があるのか……」

「動きに付いて来れないなら下がれ。邪魔だ」

「見込みはあるが、まだ弱い」


 ドルークとアカシの二人から戦力外通告され、ルイスは奥歯を噛み締めた。

 下がるべきか、それとも邪魔になってでも戦うべきか……ルイスは悩んだ末に装備している武器を全て亜空間へ仕舞い、身軽になった機体で二人の間へ突っ込んでインペラートルへ両手に出したビームサーベルを振るった。


「俺にも意地があるんだよお!」


 だがビームサーベルは掠りもせず、完璧なカウンターで胴体と脚部の接続部を切断され、さらにメインブースターを切られて墜落を始めた。


「くそおおおおおおお! 覚えてろよ、いつか必ず勝ってみせるからなぁ!」


 言いたいことを言ったルイスは、落ちるブレイブハートのコックピットを開いて脱出し、いざという時に所有していたスカイバイクを出して逃げて行った。


「これで一対一(サシ)だな。いざ尋常に勝負!」

「フハハ、いいぞ剣聖!」


 アカシは本気を出し、機械式大刀を亜空間からもう一本出して両手に装備し、さらにスピードを上げた。

 ドルークもそれに応え、両肩をグレネードランチャーに変える。

 行動は変えずに引き撃ちを続けるが、重くなったインペラートルの動きは少しだけ遅くなり、すぐに接近を許してしまう。

 だが、タケミナカタが大刀を振るう前には二門の砲口が既に捉えており、危険を感じたアカシは攻められずに回避行動に移った。


 それが仇となった。


 引き撃ちを続けていたドルークはここで初めて攻めに転じ、密着したところでグレネードランチャーを撃った。

 爆風がインペラートルにもダメージを与えたが、直撃したタケミナカタは頭部が消し飛び、胴体にも大きな穴が開いていた。

 追撃の蹴りが入り、タケミナカタは少し落下したが持ち直し、背を向けて逃げ出した。


「……ここまでだな」

「おい、逃げるのか?」

「まだここでTAを失うわけにはいかないのでな。勝負は俺の負けでいい」

「……」


 引き際を弁えているのは強者の証である。追撃をしても追いつけないどころか不利な戦場に引きずり込まれる、そう判断したドルークは追わなかった。


「……戻るか」


 ドルークとしてもTAを失うのは痛手であり、自チームの城へ戻って軽い修理をしようと決めた。







 AGIがそこまで高くないシュテンは、召喚によってある存在を呼び出していた。


 牛車の前方に大きな老婆の顔がある妖怪『朧車』である。


 それにシュテンはユニーク防具『百鬼鎧』を着た状態で乗り込んで、近場の城まで爆走させていた。

 身長が二メートル五十とアバター設定の限界まで高いシュテンを乗せる為に朧車も巨大化しており、中で胡坐を掻いて腕を組んでじっと座り、鎧の装飾である複数の鬼の顔が睨む姿は威圧感の塊であり、運んでいる朧車を心の底から恐怖させた。

 そのせいで速度は時間が経つにつれて徐々に上がっていた。

 今ではスポーツカーと張り合える速度で走っており、早く到着することが分かったシュテンは不敵な笑みを浮かべて満足していた。

 だがその笑みは朧車にとって“遅い、どうしてやろうか?”と脅しのように見えてしまい、ひぃ、と小さな悲鳴を上げてさらに速度を上げた。




 近場にある銅の城に到着すると、朧車はドリフトしながら停車し、敵が正面に見えるようにした。


「シュテン様、到着しました」

「おう、御苦労。またすぐに乗ることになるだろうから、離れた位置で待機だ」

「分かりました」

「ああそれと、いい走りだった」


 いい走りだった、という言葉は道具の妖怪である朧車にとっては心に響く褒め言葉であり、付き従う身としては体が軋み上がるほど嬉しいものであった。


「勿体なきお言葉。いつでもお呼びくだされ」


 シュテンが降りると、有頂天な気分を表現するかのように急発進からの蛇行運転をして離れて行った。

 それを見届け、シュテンは正面を向いた。


「さて……やろうか、雑魚共」


 目の前の銅の城で待ち構えるは、全員が重装甲な西洋甲冑に身を包むチーム『鋼鉄騎士団』だ。防御陣地の設営途中だったがシュテンの出現で隊列を組み、待ち構える体制を万全に整えていた。

 最前列では分厚い鉄の大盾と銃身が長い銃剣付きの対物ライフルが並び、その後ろでは大剣を持つ切り込み部隊、剣と盾を持つ部隊が備え、さらに後方の高台には重機関銃を構える射手と魔法使いが並んでいる。


「撃てっ!」


 リーダーらしき少しだけ豪華な装飾の鎧の男が号令を掛けると、一斉に対物ライフルと機関銃が撃ち込まれ、その上から魔法使いたちがそれぞれ得意な属性魔法を放った。

 たった一人を相手にするなら過剰とも思える火力を出し、爆炎や煙に包まれて見えなくなった。


「撃ち方やめっ!」


 攻撃が止み、すぐさま鋼鉄騎士団のメンバーは弾の装填を始め、魔法使いたちは支給品のマジックポーションで補給を始めた。


「――なにっ!?」


 煙が晴れ、再び姿を見せたシュテンは一歩も動かずに立っていた。それどころか余裕綽々と言わんばかりにユニーク装飾品である瓢箪の酒器『猿鬼妙薬酒』を口に付けて飲んでいた。


「――ぷはぁっ。あーうめぇ」


 アップデートにより、中身が度数の高い完全な醸造酒となったことでシュテンはほろ酔いとなり、灰色の顔が少し赤くなっている。

 同時に、微々たるダメージで減ったHPが見る見るうちに回復した。


「お前らもうちょっと一撃の火力を求めた方がいいぞ。防御特化じゃない俺ですら一割も削れてない。……いや、シュガーと比べるのは流石に酷か。まぁいい、こっちの番だな、本邦初公開だ、よく見てよく味わいな! 【百鬼夜行】!」


 百鬼鎧の内包スキルの効果により、鎧の鬼の顔が光り出し、シュテンの体が幾重にもぼやけたかと思うと、左右と背後に分裂し、実体となって現れた。


 正確な効果は、発動者の実態を伴った完璧な分身を百体作り出すというもの。



「さぁ、行くぜぇ! 気張って見せろやぁ!!」



 百体と本人のシュテンが同時に声を上げ、ユニーク武器『鬼神金棒』を取り出して走り出した。


「う、うう、撃てぇぇぇぇぇ!」


 何とか号令を出したリーダーだが、圧倒的なSTRと耐久力により『鬼神』と呼んで恐れられるシュテンの群れに、最早勝ち目はなく恐怖のどん底の中にあった。

 号令に忠実に動く仲間は多かったが、対物ライフルは効き目が全くなく、重機関銃と魔法でもその動きは止まらない。頼りの大盾の壁は巨体から繰り出される鬼神金棒の振り下ろしに耐え切れず、一撃で血肉溜まりへと変わり果てた。

 こうなってはもう誰も止められず、あちこちから悲鳴が聞こえ、頑丈な防具を着込んだプレイヤーたちは我先にと逃げ始めた。


「ガハハハハハ! もっと抵抗しろよ! もっと俺を楽しませろぉ! それでも意地がある人間かぁ? ほら挑んで来いよ! 起死回生の一撃をこの身に叩き込んでみろ! ここにいるぞ! 化物がよぉ!」


 最早蹂躙としか言いようのない状況で強者を求めながら暴れるシュテンの群れに、我こそはと挑む者は現れない。

 内心でがっかりしつつ、それならそれで殺し尽くすだけだと思っているシュテンはさらにダメ押しする。


「来ないならこっちから行くぞオラァ! 【虐殺棒】!」


 鬼神棍棒のスキルにより、ただでさえ凶悪なトゲトゲの金砕棒が、棘の列ごとに左右交互に高速回転を始めた。

 既に隊列も崩れ、恐慌状態に陥ってまともに戦えない鋼鉄騎士団のプレイヤーたちは、触れただけで装甲を削られ、引っ掛けられて引き込まれ、ズタズタに裂かれる回転棒にさらに恐怖した。


 結局、チームリーダーですら何も出来ずにシュテンの一撃でやられ、銅の城は陥落した。




 チーム『円卓』のポイント:13




 その頃、シュガーは大型バイクに跨って近くの城を目指していた。バイクはゆったりと乗って長距離移動に適したアメリカンタイプで、シュガーが購入してハカセに頼んで魔改造してもらったカスタム仕様だ。その見た目はデフォルメされた黒いクマが手足を伸ばして飛んでいるように見える。


「あー……暇だなー」


 流石に相手がいない状態ではドM的な行動も取れず、話しも出来ない。空飛ぶ箒よりもバイクの方が速いとはいえ、手も離せないから何かを食べながら運転も出来ない。シュガー自体は別に天才でも無く特別運動神経が良いわけでもないので、バイクで突飛な行動も難しい。


 暇だ暇だと思いながら進み続け、ようやく普通の城が目に入った。チーム『休日アドベンチャラーズ』がいる城で、防御陣地の構築が終わったところなのか、数人がギガントホースに跨ってシュガーの方へ移動を始めたのが見えた。


「お?」


 止まって地面に寝転んで踏まれようかと考えたが、通り過ぎ去られる可能性があってやめた。


「……突っ込めー!」


 エンジンを吹かし、スピードを上げて突っ込む。ギガントホースに乗るプレイヤーたちも道から逸れることなく真っ直ぐ進む。

 このままでは正面衝突する状況はチキンレースであり、シュガーはクマの皮の中でほくそ笑んだ。


「さぁさぁ、早く避けなよー。でないとぶつかるよー」


 避ける気の無いシュガーに対し、向かって来る方も避けない。

 徐々に近づく中、ギガントホースから矢と銃弾と魔法の炎が飛んで来た。

 一部がバイクに直撃するが、多少の傷が出来るだけでビクともしない。その程度で壊れるほど、ハカセの魔改造が弱いわけがない。


「アハハ、その程度じゃ私はびびらないびびらない。避けるだけでいいのにねー」


 全く意味をなさない攻撃に相手側は俄に焦り始め、ギガントホースの走りが左右にぶれた。

 背中で喧嘩するプレイヤーたちの残された時間は少なく、結局左右に分かれて道を開けた。


「馬鹿野郎!」

「衝突する気か!」


 すれ違いざまに罵声を浴びせられ、シュガーは快感に身震いした。

 サイドミラーからは自分たちの城へと向かうシュガーを追って引換して来ていた。それを見たシュガーはインベントリから持ち込んでいた爆弾を一つ出した。

 見た目は丸く、沢山の穴が開いていてボタンが一つあるソフトボールほどの大きさの玉だ。ただし、ボタンにはデフォルメされた可愛い“うんち”のマークが描かれている。


 シュガーがお願いしてハカセが開発した逃走用アイテム『こやし玉』である。


 ボタンをポチッと押して、後ろへ放り投げた。


 ピピピピピピ――プシューッ!


 地面に落下して数秒の警告音の後に、玉にある複数の穴から透明なガスが噴き出した。不発かと思ったプレイヤーたちが強引に通り過ぎようとした直後、あまりの酷い便臭をギガントホースがその場で急ブレーキを掛けた。臭いに耐え切れずに大暴れし、プレイヤーたちを落馬させ、全力で離れ出した。中には逃げ切れずに途中で気絶して倒れるギガントホースもいる。

 プレイヤーたちもその激臭に新鮮な空気を求めて散り散りに逃げ出した。

 しかも催涙弾と同じ成分も含まれており、目にレモン汁が入ったかのような痛みが走って涙が止まらず、鼻水が流れ、喉はイガイガして唾液の分泌も止まらなくなる。中にはその場で嘔吐する者までいた。



 少し進んで城の傍まで来たところで、シュガーはバイクを止めて、冒険者らしい恰好をしたプレイヤーの集まり、チーム『休日アドベンチャラーズ』の前に堂々と姿を見せた。

 シュガーは相変わらず黒いクマの着ぐるみにハンティング帽を被っており、左手にはユニーク武器の大盾『アースイーター』がある。そして右手には、まだまだ在庫があるこやし玉が握られていた。


「どもー、宅配便でーす」


 ボタンをポチッと押して、武器を手に待ち構えていたプレイヤーたちに問答無用でこやし玉を投げつけた。


「手榴弾か! 退避!」


 それは手前でぽてっと落下し、プレイヤーたちがすかさず離れて逃げた後、警告音を発してプシューッとガスを撒き散らし始めた。


「なんだ? 不発か? ――うっ!」

「おえっ、これ、目が……目がぁぁぁぁぁぁ!」

「うえええええ」

「げっほげっほ、がぁっ、喉が……おえっ」

「追加でーす」

「や、やめろおおおおお!」

「うぷっ、くそぉ!」


 次々とこやし玉を起動させてあちこちに投げる中、何人かのプレイヤーが目を赤くし涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにした顔のまま必死の形相で動き、武器を振るった。

 だが、防具すら未だ出していない素のシュガーのあまりのVITの高さに武器が弾かれた。


「はぁ?」

「ンンン!!?」

「なん……だと……!!」


 彼らはチーム『円卓』の強さを理解していた。圧倒的な力であり、遭遇すればまず負けるだろうと。

 だが、シュガーが相手ならばもしかしたら勝てるかもしれないと思っていた。

 防御特化で、大規模クエストでも集団に混じってディフェンスしているだけで大した活躍も無く、変態的なロールプレイ以外に凄いプレイをしたという話を聞かない。

 だから少しくらいならダメージは通るだろう、集団で袋叩きにすれば勝てるだろうと思っていた。

 しかし違った。

 あまりにも硬すぎる。力一杯込めた一撃が微動だにせず効いている様子がない。それどころか弾かれてしまった。弾かれるという現象は、武器で硬いものを殴った時に起こるのを見たことがあるだけであり、ガチガチに防具を着込んだプレイヤーならともかく、防具すら着ていない着ぐるみ相手は初めてのことだった。


「君たちちょっと火力不足だよー。はいこれ、あげるー」


 目の前でボタンを押したこやし玉を見せられ、プシューッとガスが至近距離で噴射された。

 それにより戦えていた数人も悲鳴や叫び声を上げながらダウンした。

 一方のシュガーは、着ぐるみがガスマスクの役割をある程度果たしているとはいえ、中で同じように涙目になって鼻水を流していた。

 それでも慣れてしまって、むしろこの状態が快感ですらあった。

 だから見せつけるように、その場で大きく深呼吸した。


「あ~……まさにフレグランス!」

「っ……!?」


 真正の狂人を間近で見たチームリーダーは、この攻城戦が想像以上の強者たちの祭りであると実感し、自分たちではどうやっても活躍すら出来ないと思い、メニューを開いて“リタイア”ボタンを押した。

 

 リタイアしたことによりメンバー全員が死亡判定となり全滅し、チーム『休日アドベンチャラーズ』は敗退した。


「あらら、リタイアしちゃったかー。出来ればもっと私を痛めつけて欲しかったんだけどねー」


 残念がるシュガーはこやし玉をインベントリに仕舞い、のんびりと場内を探索して中枢に自チームのコアクリスタルを設置した。




 チーム『円卓』のポイント:14




 コスチュームのスーツの上からユニーク防具『紙一重の白衣』を着用しているハカセは、紫の塗装が為されたスポーツカーを運転して移動していた。時速三百キロ以上は出ているが、魔改造によって驚異の静穏性を持っており、エンジン音は殆んどしない。さらにスパイアクション映画のように様々な機能を持っており、その内の一つ、光学迷彩機能を使ってほぼ視認が出来ないようになっている。

 車内のナビには、移動前に放った複数の小型ドローンが観測して作成されたマップが表示されており、車の位置情報も映っている。マップにより十数キロ先に普通の城があることが分かり、ハカセは手前の丘で停車した。


 それから少し歩いて丘からひょっこりと頭を出し、インベントリから自作の双眼鏡を出して覗いた。

 異常な拡大率により城の陣地が良く見える。しかも見ている場所までの距離が表示されており、弾道予測の参考になる。


 普通の城にいるのは体が小さな種族――ドワーフの集団だった。ただしそこに男性アバターは一人もおらず、全員が可愛らしい幼女であり、ヒラヒラフリフリのドレスや、役割がハッキリした可愛らしいデザインの職業系の衣装、可愛い見た目の鎧などの防具に身を包んでいた。

 しかも碌に陣地構築をしておらず、むしろ見せつけるかのようにお茶会をしていたり、仲間同士で模擬戦をして遊んでおり、城は可愛らしく飾り付けられ、挙句の果てには『YESロリータ、NOタッチ!』という横断幕が垂れ下がっている。


 彼女たちはチーム『合法ロリ推進委員会』である。


 彼女たちの目的は、実年齢が二十歳以上のプレイヤーならば、幼女アバターで活動して他のプレイヤーとお付き合いしても合法であるということを広げることだ。

 その為、広報活動という目的は既に達成しており、攻城戦を本気でやる必要は無いのだ。彼女たちも実力的にどうにもならないというのは理解してのことである。



「ふむ……実験も兼ねて、見せ場を作ってあげよう」


 ハカセはそのチームの意図を理解し、インベントリから大砲を出した。

 台座付きの魔改造した設置式の大砲だ。大砲は傾斜のある丘を自動で認識すると、台座が水平になるように調整された。

 それから大砲の自動装填装置にドクロマークを描いた特殊弾頭の砲弾を設置し、大砲にくっついている簡素な椅子に座ってコンソールを操作した。

 向きの調整を行い、距離を入力――装填している砲弾を基準に、風速や温度や湿度や重力を自動で算出して導き出された弾着予測地点を確認した。


「……では、実験を始めよう」


 ヘッドフォンタイプの耳栓を出して着けてから、ポチッとボタンを押した。


 ドゴンッ!


 と爆発音と衝撃波が響いて砲口から火と煙を噴き出して砲弾が飛んで行った。

 砲弾は寸分の狂いもなく目的の城の入り口の中に着弾し、突き刺さった砲弾から無理矢理着色した紫色の煙が噴き出した。


「えっ、何? 毒?」

「みんな離れて! 命大事に、だよ!」

「というか何処から飛んで来たの?」

「さぁ?」


 いまいち危機感の足りないドワーフの少女たちは城から離れ始めたが、ハカセは次々と毒ガス弾を撃ち、城は紫の煙に覆われた。

 毒ガスを吸ったドワーフたちは毒と麻痺と睡眠の絶レベルの状態異常に掛かってまともに動けなくなった。

 その様子をハカセは双眼鏡を覗いて観測していた。


「……効いているね。出来ればルーラー相手に検証したかったが、その機会も無いし仕方ない。では、華々しく散ってもらうとしよう」


 新たに砲弾を装填し、撃ち出した。

 曲線を描いて飛んで行った弾は紫の煙で充満する城へ突入し、入り口に入り込んで突き刺さると、一瞬の遅延の後に閃光を発して大爆発を起こしてそれなりの大きさのキノコ雲を作った。


 チーム『合法ロリ推進委員会』はハカセの実験により全滅して敗退した。


「まぁ、戦術核ならこんなものか」


 片手間に作った玩具が想定通りの動きをしたことには何の感動もなく、ハカセは大砲をインベントリに仕舞い、スポーツカーに乗って破壊不能オブジェクトで無傷な普通の城へ向かって自チームのコアクリスタルを設置した。




 チーム『円卓』のポイント:15




 その頃、ハカセの強化により以前よりも装飾が豪華になったユニーク防具『ブラッドドレス』を着ているリーベは、他の城には目もくれず、サテライトスキャンで見えていた銀の城を目指して移動していた。

 移動には従魔ナハトに騎乗してだが、そのナハトは進化してナイトメアホースというものになっていた。

 ナイトメアホースは幽体であり、騎乗したリーベも幽体となって短距離をテンポよく瞬間移動して走っていた。


「あら?」


 道なりにかなりの距離を進んだところで、真っ黒な軍服を着てコートを肩に掛けた褐色肌の女性が不敵な笑みを浮かべ、足を肩幅まで広げて腕を組んで立っていた。


 スレンダーな体型が似合い、より格好よく見える軍服はプリーツスカートに黒いサイハイソックスを履いていて、ヒール付きの革靴を履いている。

 絶対領域の間からはガーターベルトが少し見えてセクシーさもある。

 彼女は真っ直ぐで長い銀髪で、可愛さとクールさが調和した顔つきをしており、瞳は赤く、左目は黒い眼帯で隠していた。


 話し合いの意思を感じたリーベはナハトを止めて降り、声を掛けた。


「こんなところで話し合いがしたいなんて、何が目的かしら?」

「流石はミス・リーベ。超人としてのレベルが高い。私の意図を理解してくれて助かるよ」

「くだらない話なら、あなたを殺すだけですわ」

「ははは、出来るものなら――あっ、待って。調子に乗りましたごめんなさい」


 双頭毒蛇アンフィスバエナの銃口を向けられ、ぺこりと頭を下げた。


「それで、話しって何かしら?」

「その前に、ちょっと魔法を使わせてもらう」


 彼女は格好づけるように指パッチンして二つの魔法を同時に発動させた。

 一つは【ダークミスト】と呼ばれる黒い霧を発生させる魔法だ。

 もう一つは【サイレンスフィールド】と呼ばれる、外部に音が漏れなくなる結界だ。


「これでいい。さて、まずは挨拶といこう。我々は黙示録に備え、神々への叛逆を企てているチーム『オニキス機関』だ。そして私はチームメンバーの一人、フォビアだ」

「そう。わざわざ私に挨拶に来た理由は?」

「うむ。回りくどく言っても意味は無いから、単刀直入に言おう。ミス・リーベ、あなたを引き抜きに来た」

「……」

「あなたの本性は理解している。どす黒い狂気に染まった人面獣心の化物。我々と同じ存在であり、輝かしい表舞台よりも権謀術数渦巻き、殺し殺される裏社会の方が居心地がいい筈だ」

「……確かにそうですわね」

「では――」

「ですが、お断りしますわ」

「……何故?」

「こんなわたくしを好いてくれる方がおりますもの。憐れで愚かで危うくて……でも面白い。愛らしい人形を手放したくありませんの」


 その答えにフォビアは共感し、愉快に笑った。


「……ハハハハハ、そうかそうか! 愛らしい人形か。実にいい……私も人形は好きだ。愛を込めてお願いすれば、こちらの言うことは大体聞いてくれるからね」

「そうでしょう? 面白くて可笑しくて……可愛らしい。だからわたくしは彼女の傍に居てあげたいのですわ。愛してすらいますの」

「フフフフフ……いいだろう。そういうことなら引き抜きはやめよう。だが、ミス・リーベ、あなたはやはり我々の側だ。イベントが終われば同志として招待しよう」

「そうですわね。仮加入ならお受けいたしますわ」

「ああ、楽しみにしているよ」


 フォビアは二つの魔法を解除し、瞬間移動系のマジックスキル【ダークテレポート】を使って体が黒い靄に包まれて霧散すると、その場から消えていた。


「んっ……あぁ、ベネットさんの恥ずかしがる姿を想像したせいで、疼いてしまいましたわ」


 蕩けるような表情を浮かべたリーベは自分を抱くように腕を回し、心の底から湧き上がる愉悦と愛情に浸り、ある程度落ち着いたところで【以心伝心】で傍に来たナハトの顔を撫でた。


「ウフフ、もう少し一緒に走りたかったですが、この体の疼きを抑える為に急ぎますわ。【待機・ナハト】」


 従魔を別空間へ待機させたリーベは、二重に掛けていたもう一つの【ディスガイズ】を解除した。それにより犬歯が鋭い牙となり、瞳が縦長に変わり、体内に仕舞っていた真っ赤な蝙蝠の羽をばさりと広げた。

 明らかに種族ヒューマンでない姿になったリーベは脚を曲げて溜め込み、一気に飛び立って高高度まで上がり、高速で移動を始めた。

 その速度は現在のミグニコに迫るものであり、ナハトの移動とは雲泥の差があった。




 数分の移動で自チームの城からかなり離れたところにある銀の城へ到着した。

 そこはチーム『ワルキューレ騎士団』がいる場所であり、種族ウイングで眉目秀麗な女性アバターばかりが集まったチームだ。全員がファンタジーの騎士らしいデザインの凝った鎧を纏っているのが特徴で、強くて美しいことから多くのプレイヤーの注目を集めている。

 彼女たちは防御陣地の構築が終わり、今まさに編成した部隊が飛び立たんとしていた。


 上空にはチームメンバーの数人が警戒に当たっていたが、さらに上空にいるリーベには気付かず、直上からの急降下を目にすることはなかった……。



 城の入り口の前では、サラリとしたブロンドの長髪と純白の翼が特徴のリーダー、ヴァレンタインがわざわざ持ち込んだ指揮台に上がったところだった。

 五人一組の十部隊を見渡し、口を開く。


「みんな、陣地構築御苦労だった。辺り一帯は隠蔽された罠に覆われ、空を飛べない者どもからすればここは難攻不落の城へと変わり果てた。だからこそ、我々から攻めて城取りを始めようではないか! 準備はいいか!」


 ――おー!


「では行ぐあっ!?」


 剣を掲げて号令を出す直前、急降下したリーベがヴァレンタインの剥き出しの首筋に噛みついた。


 ――団長っ!!


 仲間たちが一斉に声を上げたが、あまりに唐突な出来事に事態を飲み込めず、咄嗟に動ける者はいなかった。

 ヴァレンタインも突如発生した首の鋭い痛みに何が起こったかも分からずに振り解こうとしたが、全く振り解けない。


「くそっ! 団長から離れろ!」


 数人のメンバーがリーダーからリーベを引き剥がそうと剣や槍を手に飛び出した。銀の城というだけあってその動きはかなり素早く、一気に距離を詰めて攻撃を仕掛けようとした。

 だが、直前でリーベが魔法陣を展開して宣言無しのマジックスキル【ダークショック】が発動し、黒い波動によって数人纏めて吹き飛ばされた。


 誰も近づけずに動きがないまま十秒ほどの時間が過ぎ、充分に吸血を済ませたリーベはヴァレンタインの首を噛み千切って少し離れて空中に浮いた。

 ようやく離れたことでヴァレンタインは患部に手を当てて回復魔法の【ヒール】で治療を始めつつ振り返り、忌々し気に噛みついた相手を睨んだ。

 リーベは全く気にせず血の余韻を楽しむように口の周りに付いた血を舌なめずりして取り、口から垂れた血をインベントリから出した真っ赤なハンカチで拭ってすぐに仕舞ってから、挑発するようにカーテシーをした。


「皆様、ごきげんよう。わたくしはチーム『円卓』のリーベ。この城をいただきに参りましたわ」

「やはりリーベか。だがその翼とさっきの行動……吸血鬼か?」

「ええ、ゲームを進めるうちに人間をやめましたの」

「そうか……なら、我々にもまだ勝機はあるな。【ホーリーエンチャント】【サンライト】!」


 ヴァレンタインは持っているレジェンドクラスの剣に光属性を付与し、さらにマジックスキルで太陽の光を疑似的に再現した光の玉を出し、弱体化を狙いつつ目くらましした。

 それからスキルに頼らず力強く踏み込んで一気に近づき、素早く剣を振るった。

 眩しくて手で視界を隠したリーベはほくそ笑んで敢えてそれを受け、傷口を火傷のように爛れさせながら斜めに胴体を引き裂かれた。

 リーベがそのまま地面に落ちると、歓声が上がった。


「やりましたね団長!」

「流石は団長! 見事な一撃でした!」

「私たちの強さが証明されましたね! 勝てますよ、この攻城戦!」

「……」


 仲間が浮かれる中、空中に留まるヴァレンタインは剣に手応えこそあったものの違和感が拭えずに眉間に皺を寄せ、ジッとリーベを見つめていた。


「むっ?」


 そして、口が動くのを見た。


「【ブラッドプール】」


 リーベがブラッドドレスのスキルを宣言すると、リーベを起点として血の池が一気に広がって半径百メートルほどを満たした。


「っ! 全員飛べ!」


 嫌な予感がしたヴァレンタインは即座に声を上げて血の中にいる仲間に指示を飛ばし、それに反応して次々と飛び始めた。


「逃がしませんわ。【ドレインバインド】」


 わざとゆっくり再生しているリーベはマジックスキルを発動し、血の池の中に展開した複数の魔法陣から大量の真っ黒なロープが素早く伸び、ワルキューレ騎士団の大半を捕えた。


「なにこれ!? 硬いし、力が抜けてく……!」

「……駄目、解けない!」

「いやぁ! 誰か助けて!!」


 引き千切ろうとする者、解こうとする者がいるなか、逃げ遅れて血の池に近い高さの者は引き込まれて底なし沼のように沈んでいく自分の体に恐怖し、助けを呼んだ。


「くそっ!」


 ヴァレンタインや無事だった仲間が助けに行こうとしたが、次々と現れて捕らえようとして来る真っ黒なロープに阻まれ、上手く進めない。


「やだ、やだやだやだやだ! 助けて団長! 団長!! いや、いやああああああ! やだ、こんな死に方やだ! 助け――」


 最初の一人が涙ながらに助けを叫びながら完全に血の池に沈み、ブクブクと泡を吹かせて消えた。

 その様子に恐怖が伝搬し、血の池へと引きずり込まれている者が次々と助けを呼び始めた。

 必死にヴァレンタインや無事な仲間が助けようとするが、真っ黒なロープは時間が経つにつれて数を増やした。


「くっ……【大加速】【オーバーパワー】!」


 ヴァレンタインはスタミナの消費を覚悟し、AGIとSTRを一時的に上昇させるアクティブスキルを使って一気にロープを刻んで進む。技系のアクティブスキルは使わない。一瞬の硬直が命取りに状況だからだ。


 殆どの仲間が血の池に沈む中、肩で息をしながら何とか仲間の一人の手を掴んだ。


「よし掴んだ! 引き上げるぞ!」

「……ごめんなさい」


 目の前の助けたい仲間は、慕っている団長に迫る真っ黒なロープを見て掴んだ手を振り解き、涙目に微笑みながら血の池へ沈んだ。

 ヴァレンタインは今起こったことに呆然とすることも許されず、仲間を見捨てるように、ロープから離れる為に空高く上昇した。

 そこで改めて自分たちがいた場所を俯瞰すれば、既に無事だった仲間も捕まって血の池へと引きずり込まれ、残っているのは自分と、空中を警戒して今更気付いて降りて来た数人の仲間だけだった。


 だがしかし、その仲間もリーベが背後に展開した黒い魔法陣の【ダークランス】によって鎧ごと貫かれてやられ、粒子となって消滅する前に空中まで浮いて来た血の池に飲み込まれた。


「ウフフ、あなたの部下は大変美味ですわね。団長さん」


 再生を終えて血の池を浮かしながら同じ高さまで上がって来たリーベは太陽の光など全く意にも介さず、膨らんですらいないお腹を手でさすってみせた。

 人をおちょくる余裕の笑みと行為に、ヴァレンタインの拳が強く握り締められた。剣は怒りに震え、左手は皮膚に食い込んで血が流れ始めた。


「……化物め!」

「ウフフフフ、アハハハハハ……そうですわね。わたくしはもう化物ですわ。その剣でわたくしを切り刻んでみます? 万が一、或いは億が一……もしかしたら殺せるかもしれませんわ」

「今は那由他の可能性もあるまい。それより一つ聞かせろ。リーベ、貴様はただの吸血鬼じゃないな?」

「……ええ。でもあなたには教えてあげませんわ。せめてわたくしを存分に楽しませる強さが無いと、情報料としては不足ですわ」

「ならば聞き出すまでだ。【修羅】! はああああああああ!」


 赤いオーラを纏って全能力を上昇させ、決死の覚悟で声を上げながら剣を振るう。動きだけなら普通のプレイヤーが付いて来れないほどに速く、剣筋は達人レベルに洗練されたものであるが、今のリーベにとっては余裕の笑みを崩さずに躱すくらい造作もなかった。

 だから団長であるヴァレンタインを更に追い詰めるべく、力の一端を垣間見せることにした。


 浮いている血の池に動きがあり、そこから何かの一部が二つ吐き出されてヴァレンタインの剣を止めた。


 ガキンッ、と金属がぶつかる音が響く。


「なっ! お前たち……何故!?」

「ウフフ、私の眷属になったお仲間との再会は如何かしら? もっとも、プレイヤー(中身)は入っておりませんけれどね」


 ヴァレンタインの仲間のアバターがまるでリーベを守るように血の池から上半身を出し、剣で剣を止めていた。

 その表情はリーベと同じ笑みを浮かべており、鋭くなった白い牙をわざと見せて吸血鬼になっていることを見せつけた。


「この……外道がああああ!」


 スキルで能力上昇しているヴァレンタインが怒りに任せて剣を振るうが、以前の仲間であったら打ち負かせる筈なのに全く通用しない。


 消耗の激しい【修羅】のせいでスタミナも完全に切れてしまい、赤いオーラが無くなり息も絶え絶えになって噴き出た大粒の汗が流れ落ちる。


「あらあら……ここまでのようですわね」


 これ以上はまともに戦えないとみるや、リーベは血の池に沈めたヴァレンタインの仲間の全てを出した。


「……すまない、みんな」


 血の池から出た彼女たちは翼で飛び立ち、一斉にヴァレンタインに剣や槍を突き立てた。

 その様はまるで鳥葬のようであり、HPが無くなって死亡判定になったところでリーベは血の池を動かしてヴァレンタインを食らった。


 全滅したことでチーム『ワルキューレ騎士団』は敗退となった。


 戦いが終わり、リーベは出した眷属を再び血の池に飲み込んでから体内に仕舞い、銀の城の中を悠々と探索して中枢に自チームのコアクリスタルを設置した。




 チーム『円卓』のポイント:19




 リーベの戦いが終わった頃、ハカセの強化によって少し豪華なデザインになったユニーク防具『炎姫の鎧ドレス』を身に纏うオウカは、箒に乗って鼻歌交じりにのんびりと空を飛んでいた。

 一応周囲の警戒をしているが、イベントということでリスポーンがあることが分かっていて、自分がやられてもチームが全滅することはまず無いと確信しているので、気楽でいる。


 まだまだ攻城戦も序盤で、自分の城の防御を固めるチームが大半ということもあって誰にも出会わずに狙っていた銅の城へ到着した。


 銅の城にいるのはチーム『OPU』だ。オールワールド・ポリス・ユニットの略であり、運営とNPCが管理している警備部の仕事をアルバイトとして手伝い、警察ロールプレイをしているチームである。

 既に陣地構築が済んでいるようで、持ち込んだ建材で作られた外壁は分厚く高い鉄柵であり、足場と天辺に有刺鉄線が張り巡らされている。外壁の入り口には鉄の門があり、門の柱を兼ねた物見台には重機関銃が設置され、門の前には横移動しかできないようになっている分厚いアスファルトの障害物が置かれていた。

 また、駐車場には未来技術で作られた機銃搭載の装甲車両のパトカーが数台並んでいる。


 城の入り口の前では、持ち込んで設置した指揮台の前にチームメンバーが並んでいた。種族も性別も装備もごちゃごちゃだが、カラーリングは紺色に、デザインは警察らしいもので統一されていた。

 そして、指揮台に上がったのはチームリーダーのジャスティスだ。種族サイボーグの男であり身長が二メートルと高く、頭部はバイザー型のカメラとなっている。頑丈さとスマートさを兼ね備えた美しいボディをしていて、二本のタイヤを背負っている。

 カラーリングは紺色を基調に白色を取り入れていて清潔さと誠実さの印象を与えている。

 ただ、最も特徴的なのは、両肩に内蔵された赤い回転灯である。


 彼は敬礼してくる仲間を見て、敬礼を返した。

 降ろすと仲間が敬礼をやめ、口となる発声器官から声を発した。


「陣地設営、ご苦労だった。これより我々は攻城戦の醍醐味である、攻撃に移ることとなる。普段は警察部隊として堅苦しいロールプレイをして来たが、今回はイベントだ。祭りだと思って楽しんでほしい。私からは以上だ。事前に組んだ編成通り、各自行動に移ってくれ」


 言い終えて指揮台から降りようとしたジャスティスだが、門の入り口に降り立ったオウカを発見してしまい、咳払いをして言った。


「諸君、どうやらお客さんのようだ。武器を取れ」


 指示を出すと、仲間は光学銃や、エネルギーの膜を形成しつつ実体もある盾や光剣を出して乱れることなく対象を中心に扇状に広がった。

 ジャスティスもその場から自作の機銃タイプの光学銃を取り出して両手で構えた。


「ようこそ『OPU』へ。残念ながら今日は警察業務を行っていないが、トップチームである『円卓』のオウカが我々に何用かな?」

「城を取りに来た」

「……まぁ、接点が無いからそれ以外にないか。不意打ちも出来た筈だが、それをしなかった理由は?」

「する必要が無いからだ」


 言い切られ、ジャスティスは彼我の戦力差の覆しようのない事実からつい溜息が漏れた。


「……我々も君に勝てるとは鼻から思ってはいない。だが、戦う以上は全力を尽くさせてもらう」

「ああ、来るがいい」

「総員、攻撃開始!」


 ジャスティスの号令により、光学銃を持つ仲間が一斉に引き金を引いた。それにより光弾が大量に発射され、オウカは眩しさに目を細めた。

 だが、直撃する直前に防具のスキルを小さく宣言した。


「【炎身】」


 スキルが発動し、オウカは光弾を何発も受ける。

 しかし、体は実体を持たない炎となってすり抜け、穴が開いてユラユラと火が揺れるだけだった。

 ジャスティスはそれを見て光学銃を撃つのをやめ、インベントリから持ち込んだプラズマグレネードを取り出した。それは近未来の技術で作られた丸い金属のボールで、範囲内の物質を全て破壊するものだ。


「グレネードを使う!」


 注意喚起の声を発し、ジャスティスはプラズマグレネードのボタンを押して起動し、光弾に当たって誤爆しないようにオウカの真横に目掛けて投げた。

 正確な投球によってオウカの真横にぽてっと落ちたプラズマグレネードは、すぐに起爆して莫大な熱エネルギーの塊である白くて丸い球体を作った。それは一気に膨張して半径五メートルほどを地面ごと飲み込み、オウカの姿が消える……筈だった。


「……流石は『炎皇』。熱を支配するか」


 目の前の光景は信じたくなかったが、実際に起こっているのを見ている状況では認めざるを得なかった。

 プラズマの発する熱エネルギーをオウカが吸収し、一瞬で消したのだ。

 さらに撃っていた光弾も受けるだけというのをやめて吸収を始めた。


 効かないどころか吸収している光景に、仲間は唖然として光学銃で撃つのを自然と止めた。


「……うむ、やはりプラズマやレーザーは中々の熱量だな。返すぞ」


 オウカが手を空へ向かって掲げ、宣言無しでマジックスキル【大火球】を先ほどの吸収した熱エネルギーだけで発動した。

 それは巨大な火の塊であり、轟々と燃える炎が回転して球体をを成形していた。


 ぽいっと投げられると、流石に防ぎきれず、運良く生き延びても勝ち目が無いと思ったチーム『OPU』のメンバーは、苦笑しながら立ち尽くした。

 ジャスティスもまた、圧倒的な強さを前にいっそ清々しいほどに潔く諦めていた。


「これがトッププレイヤーか……はは、もっと強くなって、せめて足止め出来るレベルにならないと、警察の名折れになるな」


 火球に飲み込まれ、爆発が起きてチーム『OPU』は全滅して敗退した。


 戦闘が終わり、オウカは銅の城を探索して中枢にコアクリスタルを設置した。




 チーム『円卓』のポイント:21




 アルバは進化して一回り大きくなった青い飛竜――従魔のグレートフロストワイバーンのブルーに騎乗して高高度を飛んでいた。目指すは自分たちのチームと同じく予選を高速で勝ち抜いた金の城を持つチームだ。



 金の城は均等に離された位置にある為、道中の移動時間は長かったが漸く視界に入った。

 だがその途端、明確な敵意を感じてパッシブスキル【以心伝心】で思いを伝えつつ手綱を引いて回避行動を取った。


 ――瞬間、金の城の近くから閃光が起こり、緑色のビームがさっきまでいた場所を射抜いた。


「ハハッ、流石に狙いがいいな! ブルー、ここらで充分だ。お前は当たらないように退避していてくれ」


 次弾が来る前にブルーにそう告げたアルバは鞍から飛び降りた。


「【フラッシュムーブ】」


 光属性のマジックスキルを発動し、次々撃たれ始めたビームを光となって瞬間的に短距離移動し、回避しながら落ちていく。


 ある程度高度が下がると、ビームを撃って来ているのが狙撃に特化した重量二脚型のTAだと分かった。地面や森林に溶け込むような緑と茶色の迷彩柄をしており、両肩にはビームランチャーを備え、腕には両手で持つ大型ビームライフルを持っている。

 そのTAから、アルバは当たらないことへの焦りと恐れを感じ取って笑みを浮かべた。


「フッ、驚いているようだな……でも、これくらいの動きは君たちが嫌う天才なら誰でも出来ることだ」


 重量二脚型のTAは大型ビームライフルをその場に捨て、両手にガトリングガンを装備して対空迎撃を始めた。

 それでも光となって躱すアルバには当たらない。

 目前まで迫ったところで、ユニーク武器『はじまりの剣』を取り出して上段の構えを取った。


「【奥義・大兜割(おおかぶとわり)】!」


 気合を込めてスキル宣言し、MPを消費して巨大な光属性を帯びた白い魔力の剣を形成した。

 最後に【フラッシュムーブ】で一気に距離を詰め、ガトリングガンの弾幕を潜り抜けてTAの頭上に陣取ると、それを力の限りに振り下ろした。

 一刀両断されたTAは動きを停止し、爆発を起こして完全に壊れた。


 爆発をユニーク武器の『イージスの盾』で防いだアルバは、既にあらゆる魔法のバフを掛けて万全の状態で待ち構える、五十人規模のチームの前に立った。


「久しぶりだな、チーム『オルオン攻略部』のみんな。君たちは俺の勝利にとって最も妨げとなるから、真っ先に潰しに来た」


 敵愾心を剥き出しにし、アルバは攻撃的な笑みを浮かべて普段出せる全力の威圧感を発した。それは左手薬指に装備している強化されたユニーク装飾品『夜明けの指輪』のスキル【覇気】によって白い後光のようなオーラとなった。


 だが、それで恐れるチームではない。


 チーム『オルオン攻略部』は、オールワールド・オンラインを攻略する為に作られたチームであり、そこに集ったのは名のあるプロゲーマーたちだ。()()()()()としては屈指の実力者揃いであり、チーム名の通りゲーム攻略に邁進し、攻略情報を多くのプレイヤーに提供している。だがそれ以外にもブログの広告収入や動画配信の収益、ゲーム大会の賞金、RMT――リアルマネートレードで稼いでいる。


 そんなチームの中でリーダーをしている男――クリフが一歩前に出た。


 サラリとした長い黒髪に、縦長の黄金の瞳で綺麗な褐色肌をしている、アルバのような眉目秀麗の高身長美男子だ。ただ、その頭部には鎧から突き出て後ろへ鋭く伸びる二本の角があり、お尻の上あたりからは上部に棘のあるトカゲのような尻尾が生え、背中には逞しく男心をくすぐるドラゴンの翼が生えている。

 

 そう、彼の種族はアバター作成時には存在しない種族――ドラゴンと人間が合わさった『ドラゴニュート』である。

 その中でもユニークに分類される『竜人王』という種族だ。


 クリフはユニーク防具『暗黒竜王の鎧』を着込んでおり、黒くトゲトゲして禍々しい見た目をしている。手にはユニーク武器『魔剣ドラゴンボーン』があり、見た目こそ美しい漆黒の両刃の大剣だが、剣からは禍々しい黒いオーラが浮かび上がっていた。


「一人で来るとは舐めたものだな、アルバ。ゲーム初期に共に攻略していた時とは違って、俺たちは徹底的に鍛えて来た。お前のような天才だって何人も倒してる。第一回イベントの時のようにはいかんぞ」

「それは俺も同じだ」


 互いに武器をしっかりと構え、ゲーム内の技術として魔力を足に込めて瞬間的に速度を上げて踏み込んだ。

 ごく短距離ではあるが音速に近い速度を出し、クリフの大剣を盾で受け止めたアルバは剣を振るった。光属性の斬撃も同時に放たれるが、クリフは類稀なる優れた反射神経と、時間の流れが違うゲーム内で得た莫大な戦闘経験で躱した。

 背後にいた仲間も躱し、左右に分かれて回り込みに動く。

 その間、クリフは仲間に目を向けさせない為に積極的に攻撃を行うが、あらゆるバフを掛けて強化した状態であったとしても、ハカセによって異常強化された装備を着ているアルバを足止めさせるのが精一杯だった。


「……【シールドビット】【ホーリーフラッシュ】!」


 余裕なアルバはクリフの思考を読み取り、メンバーの動きをしっかりと感じ取って連携を事前に看破した。

 対策としてイージスの盾を魔力で複数枚コピーし、並列処理で動かして行く手と射線を塞いだ。さらにアンデッド系のエネミーに特攻のあるマジックスキルで自分を強く光らせ、目くらましを行った。


「くっ! 【ダークショック】!」

「【イージス】【シールドバッシュ】!」


 一時的に目が見えなくなったクリフは、すかさず闇属性魔法による衝撃波で吹き飛ばそうとした。

 だが、行動を読んだアルバのイージスの盾のスキルで完全に防がれ、そのままアクティブスキルで盾を構えた状態で突進し、クリフを吹き飛ばした。


 最も強いクリフがほんの僅かでも行動不能になったことで、自由に動けるアルバは【フラッシュムーブ】で他の仲間の背後を取った。


「君たちが嫌う天才なら、目が見えなくなった程度、何ら問題はない」

「くそっ、リアルチーターが!」


 悪態を吐いた者に対し、剣に魔力を溜めて横一閃に振れば、飛ぶ斬撃の威力と飛距離と範囲が増し、目が見えなくなって咄嗟に回避行動や防御をしていなかった仲間が胴体を切断されて一気にやられた。残りは二十人ほど。


「俺が戦うまでもないな。【召喚・シャインドラゴン】!」


 白い魔法陣から召喚されたのは、三階建ての家ほどある大きなドラゴンだ。体表は白銀色で金属のような光沢があり、硬い甲殻と鱗に覆われている。しかも、自ら淡く白い光を放っており、神々しさすら感じられる。引き締まって鍛え抜かれた体格をしており、ドラゴンとして見ると美しく整った顔つきで、目はサファイアのように青く輝いている。頭には後ろへ鋭く伸びる立派な白い角が二本ある。

 このドラゴンはベネットのブリザーバードと同じく、光の精霊王である。

 召喚された精霊王・シャインドラゴンは敵だと推定したチーム『オルオン攻略部』の生き残りとクリフを一瞥し、わざわざ首を下げてアルバに柔らかくも気高い女性の声を発した。


「主様、何か御用ですか?」

「ああ、あいつらと遊んでやってくれ。俺は彼と決着をつける」

「畏まりました」


 シャインドラゴンが白く光ると形を変えながら体を縮め、人型の女性となった。


 艶のあるシルクのようなサラリとした銀髪で、サファイアのような青い瞳の美貌の持ち、染み一つない純白の肌に完璧なプロポーションの体型を持つ長身の絶世の美女だ。ドラゴンとして頭部には二本の角、背中には翼、尾てい骨付近からは尻尾が生えている。

 服は動きを阻害しないデザインの純白のドレスを着ており、純潔と高貴さを兼ね備えている。

 そしてドラゴンの時と同じく、彼女自身から淡く白い光を放っており、神々しさがあった。

 彼女は前に出て、ドレスのスカートを摘まんでカーテシーをして見せた。


「お初お目に掛かります、私は第一世界の光の精霊王・シャインドラゴン。主様より付けて頂いた名は『ルミナス』と申します。以後、お見知りおきを」

「さてクリフ、場所を変えようか?」

「ぐっ」


 残りの仲間をルミナスに任せたアルバは【フラッシュムーブ】でクリフの目の前に移動し、背後に光属性の空間魔法【グローリーゲート】を背後に開き、剣を振るって強引に押し込んで転移した。



 それを見届けたルミナスは、光の魔力剣を生成して言った。


「では、参ります」

「――は?」


 一瞬だった。


 目の前でピカっと光って消えたと思ったら、仲間の一人が首を刎ねられていた。

 全員が実力者ということもありすぐに杖や銃口を向けるが、次の瞬間にはまた一瞬で移動していて、捉えられない。


「こちらですよ」


 声がして振り向いた先には光の槍を無数に浮かべているルミナスが立っていて、銃を扱う仲間がすかさず発砲し、魔法が撃ち込まれた。

 だが、銃弾は魔力剣で全て切り払われ、魔法は魔法障壁によって防がれた。

 そしてお返しとばかりに光の槍が射出され、盾や魔法障壁の防御が間に合わなかった数人が何本も体を貫かれてやられた。


 ――と、防御していた彼らの背後で光りが差していた。


「ん? あっ――」


 一人が振り返ればそこには光の玉が浮いており、攻撃と察した瞬間に光の玉から一条の光がレーザーとなって前後に飛び出し、ぐるりと回転した。

 その攻撃により、魔法障壁を展開して全体防御していた一人以外を死亡させた。


「……はいはい、クソゲー乙」


 理不尽さに戦うことを諦めた魔法職の男はやれやれとポーズを取り、首を一瞬で刎ねられて死亡した。


 全員を倒したルミナスは魔力剣を消し、気配を辿ってアルバが少し離れた位置にいることを察知した。


「では主様、役目を果たしたので私は戻ります」


 その方角に向けて一礼したルミナスは、白い魔法陣を経由して元の場所へ帰った。




 クリフと一緒に何も無い平原に転移したアルバは、剣と盾を駆使して圧倒していた。

 クリフのメイン武器は大剣だ。懐に潜り込まれて貼り付かれると、重さと長さのせいで取り回しが難しくなり、攻撃も防御も上手くいかない。

 他の武器に持ち変える余裕も無ければ、それで有利になるどころか不利になると思って変えられない。

 アルバの巧みな連撃で次々と攻撃を受け、防具は壊れずとも傷だらけになり、光の飛ぶ斬撃による魔法のダメージによってHPは削られ、半分を切っていた。防具と複数のレジェンドクラスの装飾品によりHPの自動回復はあるが、それでも回復は追い付いてなかった。

 幾らクリフが離れようと動いても、その動きを読んで合わされて離せず、空を飛ぼうとしても寸前で魔法によって上から抑えられ、翼の翼膜を破壊されて止められる。



 クリフは現状、詰んでいた。



 それを本人も自覚して焦り、目まぐるしく思考を巡らしながら戦っているが、一対一ではどうにもならない。超人のアルバに思考と動きを読まれ、自分以上の反射神経と戦いの天賦の才能を見せつけられて、負けは決まっていた。



 数十秒の時間が数分に感じるほどの激しい戦いでアルバは大量の流して肩で息を初めているが、それよりももっと汗と血を流して息も絶え絶えのクリフが先に限界を迎え、堪らず切り札を切った。


「くそがっ! 殺してやるっ、殺してやるぞアルバ! 【竜化】!」


 種族ドラゴニュート固有のスキルを宣言したことで、クリフはアルバを吹き飛ばす強力な結界を作り出し、禍々しい黒いオーラを噴き出して姿を覆い隠すと、桁外れの魔力によって変化を始めた。


 ユニーク防具は体に一体化して硬い甲殻と鱗へ変質し、クリフの体は三階建てほどの大きさに肥大し、角や翼や尻尾はそのまま大きくなり、人間の肉体は完全なドラゴンへと変わり果てた。


 一種の繭のような役割を果たしていた結界を自ら破壊し、全回復した状態で暗黒竜の姿を見せたクリフは鼓膜を破るほどの咆哮を上げた。

 魔法障壁で音の振動を防いだアルバを睨み、クリフはドラゴンになっても人語で言った。


「さぁ勝負だアルバ! 人間を辞め、生物としての最高峰であるドラゴン……その中でも頂点に君臨する暗黒竜王としてお前を殺す! やれるものならやってみろ!」

「言われなくても……!」


 巨体でありながら先ほどの数倍の速度で動くクリフの動きに合わせ、一切の慢心も無く本気になったアルバはイージスの盾を使って振り下ろされた爪を受け流した。

 空振りしたクリフのドラゴン手は大地を抉り、衝撃波によって大きな爪跡を残した。

 至近でその衝撃を受けたアルバだが全く怯むことなく、目はしっかりと伸びた腕を捉えていた。


「【ハイスラッシュ】!」


 渾身の力と気合を込めた一振りで、かなりの魔力を使った飛ぶ斬撃も含めて硬い甲殻に覆われた腕を切断した。


「ぐあぁっ! ぬうぅ……この硬い体をこうも容易く!!」

「時間を掛けるつもりはない。これで決める! 【海割(うみわり)】!」


 イージスの盾を仕舞い、はじまりの剣を両手に持って掲げながらスキルを宣言すれば、剣が眩しいくらいに光属性の白い輝きを放ち始めた。


 だが、アルバはすぐに振り下ろさない。クリフとぶつかることを選んで、全力を出すまで待っているのだ。

 逃げてもやられる、アルバとの戦いと剣の輝きを見てそう思ったクリフは、受けて立つしかないと覚悟を決めた。


「いいだろう、正面から消し飛ばしてやる! 【カラミティブレス】!」


 翼を羽ばたかせて後ろへ大きく下がり、暗黒竜王の固有スキルを宣言し、大きく息を吸い込んで魔力を溜めてから、ブレスとして一気に口から吐き出した。それは極太の黒いビームであり、触れた地面が粉々に削られて消滅し、触れていない地面すら吸い込むように抉り取って巻き込みながら進んだ。


「――俺の勝ちだ、クリフ」


 堂々と叩き潰すことを選んで攻撃を待っていたアルバは、クリフの力量が第九世界の魔王シュベルトに遠く及ばない程度であると完全に把握し、一極集中されて溜め込まれた魔力を帯びた剣を真っすぐに振り下ろした。

 すると巨大な白い斬撃が飛び出し、地面を擦って細い崖を作りながら黒いビームを真っ二つに割り、勢いが衰えることなく進み続けて驚愕に目を見開くクリフの体を切断した。

 巨大な飛ぶ斬撃はその後も進み続け、十数キロ続く細く長い一本の崖を形成して漸く消えた。


「……次は負けんぞ」


 そう言い残し、ぱっくりと縦に割れたクリフは大量の血を流して倒れ、死亡判定となり粒子となって消えた。

 最後に生き残っていたリーダーが死亡したことでチーム『オルオン攻略部』は全滅となり、敗退となった。


「いつでも受けて立つさ。負けるつもりはないけどな」


 消えたクリフに向けて返事をしたアルバだが、周囲に敵がいないと判断するや大きく息を吐いて座り込んだ。


「……流石はトッププレイヤーの集まり。少し疲れた」


 インベントリからこの日の為に買い込んだ栄養ドリンクの小瓶を一本取り出し、蓋を開けて一気に飲んだ。

 それから装備を脱いで水魔法で軽く濡らしたタオルで汗まみれの体を拭き、スッキリしてから無人になった金の城を探索し、発見した中枢にコアクリスタルを設置した。




 チーム『円卓』のポイント:29




 一方その頃、ベネットはというと……【ディスガイズ】を解除して少し豪華な見た目になった『氷雪女王』の防具を着て、従魔ホシマルの背に乗って道を進んでいた。

 ホシマルは速いには速いが、それでも現実の車が出せる程度。数十キロ移動するのにそれなりの時間を要し、仲間が活躍して離れた位置にいるプレイヤーの気配が次々と消えていくのを感じていた。


 普通の城が見えて来て、ベネットはホシマルを止めた。


「よし、ここまででいい。ありがとうなホシマル」


 わんっ!


 降りて頭を撫で、ユニーク武器の刀『終雪』を取り出して準備を整えた。


「【待機・ホシマル】」


 別空間へ待機させ、ベネットは城をよく見て位置をしっかりと定めてからマジックスキル【アイステレポート】を使って転移した。




 転移した直後、ベネットは刀を少しだけ抜いて、終雪のスキルを宣言した。


「【三ノ秘・雪の果て】」


 鞘に再び納められてスキルが発動し、チーム『快刀乱麻』のメンバーは驚きで武器を構える間もなく全員が即死した。

 その儚さを表すかのように、はらりはらりと少量の雪が降り始めた。


「よし! 一日一回限定とはいえ、やっぱりこれが一番楽だな。皆からドン引きされそうだけど……」


 人々の視線や思いを想像して苦笑し、ベネットは城に入って探索して中枢にコアクリスタルを設置した。




 チーム『円卓』のポイント:30





「……暇だなぁ」


 チーム『円卓』のメンバーが快進撃を続けている中、自チームの金の城を死守すると言ったウルフェンは、入り口に座り込んで晴れやかな青空を見上げてボケーッとしていた。

 耳と尻尾は垂れ下がり、ただひたすらに敵が来るのを待っていた。


 しかし、その願いも虚しく誰も来ない。


 仲間が強過ぎるが故に、周辺の城は次々と陥落して送り込まれる敵が存在しなくなっているのだ。

 TAを多少損傷したドルークが途中で戻って来たが、簡単な修理を終えるとまたすぐに行ってしまった。


「……暇だなぁ」


 もう一度呟き、ウルフェンは大きな溜息を吐いた。




 第四回イベント『チーム攻城戦』は、まだ始まったばかりであった……。





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