表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/98

『ダンジョン:禁書庫地下』

スキル【氷雪女王】を若干修正。

氷属性の吸収回復以外に、そもそも氷属性無効




 第一階層



 ダンジョンを構成する謎の力によって、硬そうな石壁には等間隔に火が灯った燭台が設置されており、狭い範囲を照らしている。幅も数人が並んで戦える程度には広く、天井も五メートルと高い。


「第一階層はスライム系のエネミーが出現する。気を付けてくれ」

「私は水属性特化だからあんまり役に立てないね」

「なら、後方は私が警戒する」

「それじゃあ私は、臨機応変に動こうかな」


 陣形はオウカが先頭、後方にベネット、真ん中にソルシエールとマーリンになった。

 まだ第一階層ということで出現するエネミーの強さはそれほどではない。


 通路一面を埋め尽くすビッグスライムが丸呑みして溺死させようと襲い掛かるが、オウカが燃やした。


 強酸を吐き出すアシッドスライムが高速且つ集団で襲い掛かり、またオウカが燃やした。


 地面や壁に擬態して獲物が来るのを静かに待つ、ミミックスライムの存在を看破してまたまたオウカが燃やした。


 動く鉄球として跳ねながら体当たりして来るアイアンスライムの群れが背後から襲い掛かり、それはベネットが弾道予測線の無くなった銃――大型リボルバー拳銃『メメント・モリ』の【超貫徹】で撃ち砕き、装填の隙を魔法の【フリーズ】でカチカチに冷やして倒した。


 津波のように押し寄せる不定形のビッグ・ウォータースライムが背後から襲い掛かり、それもベネットが一瞬で氷漬けにして倒した。


 他にも様々なスライムが出現したが、その全てをオウカとベネットが倒して次の階層へ進む下り階段を発見した。


「やっとか……」


 第一階層なのにエネミーの出現率が高く、思いの外時間が掛かったことにベネットはつい声を出してしまった。


「言い忘れていたが、このダンジョンは第一階層より下は、人が入る度に環境も出入り口もランダムに変わる。時間が掛かるのは覚悟しておいてくれ」

「マジか」

「マジだ」

「ねぇオウカ、今更なんだけど食料とか持ってる?」

「大丈夫だ。かなりの量を買い込んである」

「私も大量に持ってるから、安心していいよ。ほら」


 マーリンの質問にオウカとソルシエールはワールドシップで買った携帯食料の一部を見せて安心させた。


「ん、それなら大丈夫そうだね」

「じゃあ、先に進むぞ」






 第二階層


 第一階層とは雰囲気が変わり、天井と壁が無くなって何処までも続く砂漠が続いている。雲一つない青空にはギラギラとした大きな太陽があり、乾燥と熱気によって陽炎が生じ、遠くはハッキリと見えない。


「……砂漠、か。火が効けばいいが……」

「乾燥した環境だと力を発揮出来ないから、ちょっと力使うね」


 ソルシエールのユニーク防具『水龍姫』シリーズのスキル【水龍姫】はベネットやオウカと同系統の力を持つ。故に、乾燥した環境だと能力が低下し、水が潤沢な環境では手が付けられない。

 だからソルシエールは力を発揮する為、あるスキルを発動した。


「【ダウンフォール】」


 スキルを発動した途端、頭上に分厚い暗雲が発生し、土砂降りの雨が降り始めた。

 一瞬にしてサラサラの砂は水分を多く含んで硬くなり、陽炎は消えたが雨のせいで余計に視界が悪くなり、雨音で周囲の音が聞こえ辛くなった。

 温度の変化に加え突然の大雨で、火属性に特化していて逆に弱体化してしまうオウカは渋い顔をした。


「……ルシェ、これでは私が役立たずになってしまう」

「この階層で出現するエネミーは多分水に弱いから、楽をするなら我慢して。ベネットもマーリンもいいよね?」

「ああ」

「濡れるのは嫌だけど、戦う分には問題無いよ」


 ベネットとしては暑いよりもマシなので頷き、マーリンはさり気なく雨合羽を取り出して羽織っていた。


「むぅ……」


 二人が同意し、多数決で負けたオウカは顰め面をしながらも従った。

 その手には苦手な環境で自動減少するMPを回復する為の、マジックポーションが握られていた。


 オウカが定期的にマジックポーションを飲みながら移動を初め、早速前方からエネミーが出現した。

 炎を纏う人並みに大きなダンゴムシ――ファイアダンゴの群れだ。

 だがしかし、大雨の影響で本来の力を発揮できず、消え入りそうな炎を体の節々から発しているだけで体表がしっかりと見えていた。

 ゴロゴロと転がって襲い掛かるそいつらを、前方にいるソルシエールがマジックスキル【スプラッシュ】を使って青色の魔法陣から大量の高圧水を発射し、水圧で体をバラバラに引き裂きながら押し流して倒した。


 次に出現したのは分厚い皮膚に覆われたロックワーム。十数メートルの巨体であり、二体同時に現れて前後を挟まれたが、ソルシエールが【ウォーターエッジ】で真っ二つにし、ベネットが口の内側から【アイスツリー】で串刺しにして倒した。


 その後、包帯を巻きつけようとして来るアンデッドのマミーの集団を倒したり。


 二本の鋏が盾としても機能する、人並みに大きなサソリのシールドスコーピオンを倒したり。


 全身がトゲトゲの甲殻に覆われたトゲオオトカゲを倒したり。


 大雨が降っているのも気にせず楽な姿勢で居眠りしている、山に住んでいないのにヤマの名前を持つ山のようなコブが特徴のヤマラクダを通り過ぎたり。


 様々なエネミーを倒したりながらも進んで、ぽつんと砂漠の真ん中にある降りる階段に到着し、そのまま次の階層へ進んだ。






 第三階層


 広々とした砂漠から、また室内になった。

 長年の経過によって石の床や壁は変質し、鍾乳洞のようになっている。壁と天井の隙間からは一定量の水が流れ、床には膝丈まで水が溜まっている。

 だが、ソルシエールの大雨でも増水は見込めない。(ひさし)付きの排水溝が全ての壁にあり、一定水量以上は増えないようになっているからだ。


「ここは私の本領発揮だね!」

「待て」


 自信満々にソルシエールが前に出て進もうとしたが、ベネットが肩を掴んで止めた。


「ん? 何?」

「この大雨はいつでも出せるのか?」


 その質問にソルシエールは答えようか悩んだ。リアルで一日後には第四回イベントが待っており、それは攻城戦というチーム同士の戦いとなる。パーティーを組む以上はある程度手の内が知られるのは覚悟していたが、回数制限の有無を知られると、攻城戦で支障が出る可能性があった。


 まぁいっか。


 先のことより今を楽しむことを優先し、答えた。


「……装備を強化したからね。MPさえ消費すればいつでも出せるよ」

「なら、この階層は私が対処しよう。まず雨を止めてくれ」

「……」


 ベネットの指示にソルシエールは従った方がいいか判断がつかず、パーティーリーダーのオウカを見た。


 オウカは静かに頷いた。


 リーダーがそう判断するのなら、とソルシエールは意識して大雨を止めた。


「ん、止めたよ」

「では、水に入らない場所まで戻ってくれ」


 言われた通り三人は少し戻り、階段に上がった。

 ベネットも上がり、手の先を水につけてスキルを宣言する。


「【アイスエイジ】」


 手から放たれた氷の波動により、一瞬にして階層全体が凍結して水の流れが止まった。

 氷から手を抜いたベネットは振り返って言った。


「これで大半のエネミーは氷漬けになって倒したか動けないだろう。行こうか」


 先頭を進み始めたベネットに、三人はついて行く。

 エネミーが出現する気配は全く無く、冷蔵庫のように冷える通路にソルシエールは身震いしながらも冷や汗を流した。


 これがベネット……相性最悪というのを加味しても、勝てる気がしないわ。






 第四階層


 水が流れる三層とは打って変わり、火が吹き荒れ溶岩がぐつぐつと沸き立つ洞窟になっていた。壁や床も自然的な造形をしており、人工的な物は見当たらない。


「……暑いな」

「そうね」


 呼吸することすら鬱陶しくなる気温にベネットは思わず呟き、マーリンは同意しながら皮の水筒を取り出して脱水症状を起こさないように早速水分補給を始めた。


「私は装備のお陰で暑さは大丈夫なんだよね。力は発揮できないけど」

「ここは私に任せてもらおう」


 装備の影響で熱への対処が簡単なソルシエールは水を体全体に薄く纏い、そもそも炎属性特化で熱に滅法強いオウカは張り切り、先頭になって進む。

 天然のような火山洞窟になっているだけあり、進む道は曲がりくねっていて足場も悪く、一歩間違えれば溶岩に真っ逆さまの道もある。


 そんな中で最初に出現したのは、意志を持つ丸い岩だ。ボムボムという名前で可愛らしい丸い目をしているが、縄張りに侵入すると目つきを変えてゴロゴロ転がり、爆発する魔法生物である。

 オウカが宣言もせずに【ファイアボム】で攻撃し、誘爆させて倒した。


 次に現れたのは、火を吐く赤くて大きなトカゲだ。ドラゴンでもサラマンダーでもなく、ドラゴンモドキというエネミーで、鉱物を主食とする影響で皮膚が鉄のように硬質化しているのが特徴だ。

 どうやって倒すのかと三人が見守る中、オウカは大口を開けて火を吐こうとするドラゴンモドキの口に、逆に炎を大量に送り込んだ。それにより肺や胃が焼けて死んだ。


 比較的安全な道を進んでいたが、途中で危険な道に行き当たった。

 左右が溶岩の川で、真ん中に人が二人並んでギリギリ歩ける程度の細く曲がりくねった道しかない。


「オウカ、他に道はある?」


 仕方なくオウカを先頭にして進んでいると、真ん中に来た辺りで溶岩の中からエネミーが数体前方に出現して道を塞いだ。


 一メートルほどの溶岩のナメクジ――マグマスラッグだ。


 オウカは行動を起こされる前に先んじて動いた。


「【黒炎】」


 手を前に出し、赤い魔法陣を展開して中から黒い火球がエネミーの数だけ飛び、マグマスラッグに着弾すると炎を上書きするように侵食して対象を焼いた。

 マグマスラッグはもがき苦しんで暴れたが、黒炎は全く消えずそのまま燃え尽きて死んだ。

 普通の火なら燃える対象が無くなればそのまま鎮火するが、黒炎は消えない。それどころか床の岩に延焼して広がり始め、火力も増した。


「オウカ、それを使うなら一声掛けてくれる? 【聖水】」


 文句を言いつつソルシエールが青い魔法陣から白く輝く水を放出し、黒い炎に掛けて消火した。


「すまない。咄嗟だったから手段を選んでいられなかった」

「だとしても、もっとやり方はあったでしょ。下手したらあなた以外は全滅してた」

「オウカさん、ルシェさん、ここ危ないから先に進みましょ? ね?」

「あっはい」

「あっはい」


 笑顔で圧を掛けたマーリンに従って細い道を通り終えたところで、二人は話の続きを始めた。


「ルシェ、やり方というが、マグマスラッグは生命力が高くて速攻で倒すのは難しい。一撃で倒そうにも、私の火力だと道を崩してしまう危険がある」

「そういう時は私がやるから、防御して時間を稼いでよ」

「防御はあまり好きでは無い。戦いは火力だ」

「否定はしないけど状況に応じて動いて。今はパーティーなんだから」

「パーティー……そうだな」


 装備やロールプレイの関係で殆どソロで活動しているオウカにとって、パーティーという言葉は身に染みた。

 反省したところで仲間に意識を向けると、すぐにベネットの異変に気付いた。


「ベネット、大丈夫か?」

「……ああ、だい、じょう、ぶ」

「いや、大丈夫じゃないだろう!?」


 ベネットは大量の汗を流し、呼吸が浅く、目の焦点が定まっておらず、今にも倒れそうな状態だった。


「ベネットさん、ちょっとこっち向いてくれる?」


 マーリンの言葉にベネットが向けば、その額に手を当てた。


「……熱い。それに汗も凄い。新しいシステムが導入されて殆ど時間が経ってないから何とも言えないけど、MP切れと熱中症の複合と見ていいかも。オウカさん、あなたは少しでも涼しくて安全な場所を探して」

「分かった」

「ルシェさんは水分補給と塩分の補給をさせつつ、体を冷やしてあげて」

「はい」

「私は……だいじょう、ぶ」

「大丈夫じゃないから言ってるの。とにかくあなたは休んで」


 ソルシエールが水を飲ませ、おやつで買っていた塩クッキーを食べさせ、さらに水を飲ませて寝かせ、体を水で包み込んで冷やす。

 その間にマーリンは周辺警戒を行い、数分してオウカが戻って来た。


「いい感じの横穴があった。入り口を塞いで中を冷やせば、休憩するにはいい場所だ」

「案内して」

「ああ」


 オウカの案内により、ベネットはソルシエールに肩を貸されながら移動した。

 横穴に入るとマーリンが【アイスウォール】を使って入り口を塞ぎ、横にされたベネットの傍に【アイス】で氷塊を作り出し、風属性の【ウインド】で微風を生み出して冷風を循環させた。


「ベネットさんの容体はどう?」

「ちょっとはマシになった感じだよ。ただ、汗で少し化粧が崩れてるね」

「このゲームの化粧は仕様で崩れないようになっていたが、リアルアバターシステム導入後だと、流石に駄目みたいだな」

「でも、化粧品のフレーバーテキストを読む限りだと、よく持った方じゃない?」

「うむ。戦闘を考慮して水と汗に強いって書いてあったしな」

「それより二人とも、化粧を落として体を拭いて上げなさい」

「そうだな」

「はーい」


 三人に観察されているベネットはMP切れによる疲労感とリアル同然の熱中症の辛さで何も言えず、オウカが出したメイク落としで化粧を落とされた。続いてソルシエールがタオルを取り出し、水で濡らしてから手の届く範囲の全身の汗を拭かれた。


「……すまん。世話を掛ける」


 ぽつりと謝罪したベネットに、三人は顔を見合わせた。


「気にするなベネット。環境が激変して誰もシステムの理解をし切れていない。そんな中でこんな過酷な環境に来てしまったんだ。体調不良にだってなるさ」

「そうだよ。これはベネットの責任じゃない」

「そうですよ。ベネットさんの責任ではありません。けど、体調の悪化を我慢するのは駄目ですよ」

「……すまん」


 ベネットはそのまま寝入ってしまった。


 と、ここでマーリンのお腹がぐうっと鳴った。


「あっ。そういえばログインしてから、何も食べてなかった」

「丁度いい。ここらで本格的に休憩しよう」

「だね。まだまだ先は長そうだし」


 オウカとソルシエールが食料と調理器具を取り出し、何が食べたいかで軽く揉めた後、食料の温存とベネットが食べやすいものというマーリンの意見によっておにぎりを作ることとなった。


 携帯用のミニ釜戸に羽釜が設置され、換気用の窓もしっかりと確保してから火が点けられ、米が炊かれる。



 はじめちょろちょろ、中ぱっぱ。


 じゅうじゅう吹いたら火を引いて。


 一握りの藁燃やし、赤子泣いても蓋取るな。



 マーリンが米炊きの歌を口ずさんで火の番をしている間、オウカとソルシエールはおにぎりの具材でまた揉めていた。


「やはりおにぎりには鮭が一番だ。これは譲れん」


 オウカの手には、鮭フレークの瓶が握られている。


「いやいや、昆布の佃煮だよ」


 ソルシエールの手には、昆布の佃煮の瓶が握られている。


「さっきも説明したが、鮭はタンパク質とビタミンを豊富に含んでいる。疲労回復効果だってあるし、この鮭フレークなら柔らかくて食べやすい」

「私もさっき説明したよ。昆布の佃煮は塩分と味が濃くて白米との相性は抜群。それでいてタンパク質以外に、食物繊維とミネラルが摂れる。その中でもミネラルにはカルシウムとヨウ素が豊富に含まれている。まさに女性の味方だよ」

「鮭だって女性の味方だ。食べやすさを重視するなら、これの方がいい」

「いーや昆布の佃煮だよ。細かく刻めば食べやすさは大差ない」

「鮭だ!」

「昆布だ!」

「そこの二人、あんまり騒いでると魔法で痺れさせるよ?」

「……」

「……」


 マーリンの笑顔の圧力に二人は黙った。


「あっ、おにぎりの具材だけど梅干しがいいな。あるよね?」

「はい、あります」

「はい、あります」



 米が炊きあがり、三人の手によって梅おにぎりが充分な数作られた。

 オウカがベネットを起こして「いただきます」をして食べ始めた。



「ねぇオウカ、このダンジョンを何処まで下りたことがあるの?」

「ん? 二十と少しくらいだな」

「うわすごっ! 私は十と少しくらいが限界だったよ」

「そうか。だが降りられた記録はアップデート前だ。今と比較すると、参考にならんよ」

「……そうだね。新システムを侮っていたよ」

「ベネット、体調の方はどうだ?」

「大分楽になった。さっきはすまなかった」

「謝る必要は無い。環境で変わってすぐだし、私たちも仲間の状態を気にしなかった」

「そうだよ。自分が大丈夫だから他の人も大丈夫だと勝手に思ってたから」

「私も、もう少し視野を広げておくべきだったわ」

「……ありがとう」




 全員がおにぎりを食べ終え、水分補給も済ませたところでオウカが真剣な表情で口を開いた。


「さて、誘った私から言わせてもらうが、今後のダンジョン攻略の手順はどうしようか? ゲームなのに妙にリアルになったせいで、強行軍は難しい。かといって何層あるかすら分からないダンジョンで細かな休憩は時間の無駄だ」


 三人が考え始め、ベネットが真っ先に思いついて言った。


「……一つだけ、楽に階層を攻略する方法を思いついた」

「聞かせくれ」

「階層全体の環境をこっちの都合で変えてやればいい。疲れたらその都度休憩すれば、何層かに一回の休憩で楽に攻略できる」

「その手があったな。ソロならMPもポーションも足りないが、何人かで回せば全く問題無い」

「さっきから私たちがやってたけど、言われないと気付かないものだね」

「いいと思うけど、それなら暑さ対策と寒さ対策、雨の対策をしないといけないよ」

「それなら大丈夫だろう。暑さは私かルシェが、寒さはオウカが、雨は適当に布を被るか定期的に乾かせばいい。最悪、魔力を体に纏わせて濡れないように体をコーティングすればいい」

「ふむ、魔力コーティングか……こうか?」


 興味深いやり方にオウカは即座に実践してみた。

 すると、赤い火属性の魔力が体全体を薄く覆い、脳内に音声が響いた。


『マジックスキル【マジックコーティング】を取得しました』


「おっ、スキルを取得した」

「どんなの?」


 ソルシエールが寄り、ベネットとマーリンも後ろに回って一緒に確認した。



 マジックスキル【マジックコーティング】

 消費MP・小

 魔法の膜で全身を覆う。

 暑さ・寒さ・乾燥・雨などの環境の影響を緩和する。

 効果は一定時間持続する。



「ベネット、よくこんな魔法を思いついたな」

「いや、私じゃない。TAやSAはマナコーティングという似たような技術を使って防御力を高めていて、ハカセが魔力を使ってこのスキルと同じ名前で他の兵器に転用したのを教えられた。それを人間がやればいいと考えただけだ」

「……兵器は専門外だが、行き過ぎた科学は魔法と見分けがつかないとは言い得て妙だな」

「だね。魔法は科学とは別だと思ってたけど、科学的アプローチをしてみるのもいいかもしれない」

「科学は苦手だけど、物質は全て原子で構成されていると考えると、色々と応用が利きそう」

「とにかく、これで攻略の条件は整った。そうだろうオウカ?」

「うむ。食休みとしてもう少し休憩してから出発しよう」




 ……そういえば、統合された防具を確認していなかったな。


 食休みの休憩に入ったところで、ベネットはふと思い出してステータスを開いた。



 ユニーク防具『氷雪女王のドレス+』シリーズ

 強化者:ハカセ

 【MP上昇:絶】+Ⅳ

 【INT上昇:絶】+Ⅳ

 【氷属性強化・絶】+Ⅳ

 【完全氷耐性】

 【即死無効】

 アクティブスキル【ブリザード】

 アクティブスキル【ミラーバーン】

 アクティブスキル【ホワイトアウト】

 アクティブスキル【クロックフリーズ】

 エクストラスキル【氷雪女王】



 アクティブスキル【ブリザード】

 消費MP・特

 発動者を中心に半径三キロ内の環境を強制的に猛吹雪に変える。

 効果は半日続くが、発動したプレイヤーが倒された場合即座にスキルが解除される。 



 アクティブスキル【ミラーバーン】

 消費MP・中

 発動者を中心に半径五十メートルの地面に、非常に滑る氷を円状に張る。

 空中では使用不可。



 アクティブスキル【ホワイトアウト】

 消費MP・大

 発動者を中心に半径一キロを吹雪と濃霧で覆い、一瞬にしてホワイトアウト現象を引き起こす。

 発動者には効果を発揮しない。

 持続時間は一時間。

 環境によって持続時間は変化する。



 アクティブスキル【クロックフリーズ】

 消費MP・特~

 時間を一時的に停止させる。

 時間停止を持続させる消費MP自体は少ない。

 同系統のスキルや、対応する力を持つ存在には時間停止は効果が無い。

 また、別の誰かが時間停止を行いその影響下に入った場合は自動的にこのスキルが消費MP無しで発動し、MPが続く限り停止した時間の中を行動可能。



 エクストラスキル【氷雪女王】

 雪と氷を支配し、自在に操る力を得る。

 対象が雪や氷のエネミーの場合、その行動を阻害させることが可能。

 自身を含むあらゆる氷属性の攻撃を無効化し、操作・吸収が可能。

 周囲の雪や氷を吸収し、その場でHP・MPの回復が可能。回復量は吸収量に応じて変動する。

 周囲の環境が寒いほど、雪と氷が多いほど全てのパラメータが極めて上昇。一定基準以上の寒い環境で【MP自動回復・大】が付与される。

 周囲が暑いほど、熱や火が強いほど全てのパラメータが低下。一定基準以上の暑い環境で【MP自動減少・大】の状態となる。

 装備者は氷属性のMP消費を凄まじく減らし、威力を極めて上昇させる。ただし、火属性の全ての行動が機能しなくなる。

 寒さと状態異常の凍結を無効化し、任意で雪や氷を滑らなくなる。




 ……思った以上に強くなってるな!?

 なんかスキルも増えてるし、回数制限も無くなってる!

 これはお披露目まで全力を出したくないな。


 確認を終えたベネットはチラリと三人を見て、覗かれていないことに安堵するとすぐにステータスを閉じた。






 時間が過ぎ、オウカが立ち上がった。


「そろそろ出発しようか。ルシェ、早速で悪いが大雨を降らしてくれ」

「いいの? オウカの火力で全部吹っ飛ばすという手もありそうだけど」

「それでもいいが、不意打ちで至近に来られると巻き込むことしか出来んからな。リスクは減らしたい」

「分かった」


 ソルシエールを先頭に横穴から出ると、スキルを宣言した。


「【ダウンフォール】」


 再び大雨が降り始め、噴き出していた火は勢いを失い、溶岩の熱も見る見るうちに奪われて気温が下がっていく。

 ただそのせいで光源となっていた火や溶岩が消えて暗闇となり、水蒸気によって濃い霧が発生した。


「では行くぞ」


 オウカの合図で移動を開始。【マジックコーティング】で魔力の膜を纏った全員にとって、暑さが和らいだ洞窟はジメジメしているという点を除けばかなりマシな環境になっていた。

 暗闇も【ライト】の光で充分に照らされ、感覚の鋭いオウカとベネットがしっかりと警戒することでエネミーの不意打ちも問題無い。

 その出現するエネミーも環境変化に適応できず概ね弱体化しており、四人の敵では無かった。


 次の階層への階段を発見し、進んで行く。




 第六階層はジャングルのような鬱蒼とした森林。

 オウカが以前より強力になった【炎海】で燃やし尽くした後、悠々と進んだ。


 第七階層は水中洞窟。

 ソルシエールが水を全て吸収して消し、出現する水棲系エネミーの大半が跳ねたりとろい動きしか出来ず、オウカによって丸焼きにされ、美味しそうな見た目の奴はついでに食べた。


 第八階層は吹雪舞う銀世界。

 ベネットが氷雪女王として力を振るい、殆ど何もせず通過した。


 第九階層はカビと腐敗臭が漂うアンデッド系エネミーの巣窟。ホラーが駄目なオウカが入り口から階層全体を焼却滅菌し、その上から臭いを緩和する為にベネットが凍結処理した。

 結果、入り口で見たゾンビ以外のエネミーが一切出現せずに通過した。





 第十階層


 階段を降りた先は石壁の通路があるだけで、ほんの少し先に大きく頑丈な鉄の扉があるだけだった。

 経験のあるオウカがこの階層について言った。


「この先は所謂ボス部屋という奴だ。何度か来たが、出現するボスや部屋の構造はランダムだ。気を付けてくれ」


 オウカを先頭にして扉を開けて入り、警戒しつつもそこそこ程度に広いドーム状の部屋の真ん中まで来ると、扉が勝手に閉じた。

 そして魔力の粒子が形作って出現したのは、全長十メートルは有ろうかという巨大で透明感のある青いスライムだった。核は赤くて人と同じほどに大きく、表面はプルプルとしている。

 名前はキングスライム。


「でかいな」

「でかい」

「でかいね」

「でかいですね」


 四人が異口同音に口を開きぼーっと見ていると、スライムが一瞬収縮し、高く跳ね上がった。


「私がやろう」


 ベネットはそう言って終雪を取り出して構え、スキルを宣言した。


「【一ノ秘:氷花閃】!」


 キングスライムに向けて放たれた飛ぶ斬撃は、核と一緒に全てを真っ二つにして壁と天井まで飛んで行き、鋭く大きな氷柱の筋を生やした。

 真っ二つにされたキングスライムは四人の間に落ちたが、衝撃で飛び散った大量の粘液を諸に被ってしまった。


 やってしまって気まずいベネットに、三人から文句のあるジト目の視線が浴びせられた。


「……すまん」

「……まぁ、倒せたしヨシとしよう」

「はいはいみんな装備脱いで。洗濯するから」

「ならどうせだしお風呂にしましょう。バスタブは作るから、お湯はオウカさんとルシェさんで作ってくださいね」

「分かった」

「はーい」


 マーリンが土属性魔法でその場に露天風呂風の石のバスタブを作り出し、ソルシエールがそこに大量の水を流し込む。その後にオウカが大量の火で熱し、お風呂が完成した。

 テキパキと作業終えた三人がポイポイと装備を脱ぎ、オウカとソルシエールは下着からバスタオル一枚の姿になった。マーリンに至っては堂々と下着を脱いでアバターの見事なプロポーションの裸体を晒す。

 ただ、中身が男であるベネットは突然の混浴に心の準備が追いつかず、ベトベトで気持ち悪いドレスを脱げずに立ち尽くしていた。

 洗濯を始めようとしたソルシエールが気付き、声を掛ける。


「ベネット、早く脱いでくれないと同時に洗濯できないんだけど?」

「何だベネット、恥ずかしいのか? 脱ぐのを手伝ってやろう」

「いや、いい。自分で脱ぐ!」


 両手の指をわしわし動かしながら笑みを浮かべるオウカに、身の危険を感じたベネットはすぐに脱ぎ始めた。


 一方、マーリンはさっさと湯船に浸かって一息吐き、極楽になっていた。


 ベネットも眼鏡とテールクリップを外し、下着を含めて全て脱ぎ、オウカに手を引かれて一緒にお風呂に浸かった。

 ソルシエールもお風呂に浸かりながら器用に魔法を使い、四人分の装備を混ざらないように四つの水の玉に取り込み、洗濯機のように回転させて汚れを落としていた。



 オウカは全裸になったベネットの、自分の視界では謎の白い光で隠されている大きな胸をジッと見つめた。

 好奇心から美しい形の生の乳をじっくり見たい、触りたいと思ったが、リアルで通っている学校の先生のマーリンが傍にいる為に大胆な行為は控えた。

 直接的、感情的な注目に羞恥心が高まったベネットは頬を赤くしながら胸を隠し、背を向けた。


「オウカ、恥ずかしいからそんなに見ないでくれ」

「別に見るぐらいいいではないか。減るものでもあるまいに」




 全員が充分にお風呂を堪能して温まったところで、オウカとソルシエールが出したタオルで体を拭き、それぞれ所持している飲み物で水分補給を済ませた。

 洗濯された装備はソルシエールによって水分を吸収されて乾燥しており、全員が再び着込んでダンジョン探索を再開した。




 ――気分転換した四人は破竹の勢いで進んだ。




 十一階層から十九階層は何の問題も無く進み、ニ十階層のボスも一撃で倒された。

 それから多くのエネミーを倒し、凶悪なトラップを突破し、過酷な環境を強引に自分たちに有利なように塗り替えながら突き進み、ついに五十階層を攻略して最奥に到着した。




 最奥


 今までのボス部屋前の通路よりも綺麗で、奥の大きな鉄の扉は今まで以上に頑丈で、複数の(かんぬき)で厳重に閉ざされていた。さらに魔法陣が貼り付けられ、魔法による封印処理が施されていた。

 その左右にはダンジョン入り口と同じように碑文と魔力を注入して起動する開閉装置があった。


「ここが終点……か?」

「恐らくそうだろう」


 オウカの呟きにベネットが答え、碑文を読んでみた。


『世界の真実を求める物よ、よくぞここまで辿り着いた。だが、引き返すなら今この時しかない。この扉の封印を解けば、止めていた終焉が再び動き出すだろう。そうなれば、もう誰にも止められない。もし君が世界の終わりを覚悟してでも真実を求めるならば、扉を開くがいい』


「……これ、本当に開けていいものか? そっとしておくのがこの世界の存続になりそうな気がするんだが」

「ねぇ、こっちに出口あったよ」


 ベネットの言葉よりソルシエールの言葉に反応し、そちらに振り向く。

 正面の扉に近づかないと分からないように壁に簡素な扉が設置されており、扉には『出口』と書かれた札が掛けられていた。

 発見したソルシエールが警戒しながら扉を開けると、魔法陣が地面に描かれ、その奥に立て看板があるだけの小部屋だった。

 立て看板には『地上への転送陣』とだけ書かれていた。


「……罠は無いっぽいね。本当に出口だよ」

「どうするオウカ? ここ開けたら、多分だがまた大規模クエストになるぞ」

「うーむ」


 オウカは顎に手を当てて考え込んだ。


 直近のイベントはリアルで一日後。

 イベントに被るかもしれない……だが、明日開催されるのは予選だけ。

 もし二日後の本戦にクエストが被ったとしても、オウカ自身と同程度の実力者が集うチーム『円卓』ならば半分のメンバーでも充分に勝ちが見込める。

 なんなら、大規模クエスト開始直後に中枢へ突入して速攻で終わらせてもいい。


 答えは決まり、オウカは言った。


「開けよう」

「いいんだな?」

「ああ、いざとなれば私一人でやるさ」

「……なら付き合うさ」

「私も付き合うよ。攻略法が分かったとはいえ、ここまで長いからもう二度と来たくないし」

「私は開けない方がいいと思うな。女の勘になるけど、大規模クエスト以上に何か起きそうな予感がする」

「マーリンの言いたいことも分かる。私も薄々何か起こると感じてる。でも同時に、真実を知らなければならないとも思ってる」

「そう。なら私からは何も言わないわ」


 オウカが開閉装置に魔力を注入すると、封印の魔法陣が消えて全ての施錠が外され、扉が自動で開いた。

 四人が警戒しつつも入ると、勝手に扉が閉まった。

 中は座標の特定が不可能な亜空間が広がっていた。床という概念はあれど全体がオーロラのようなものに覆われ、時の流れに応じて常に変色を続けている。

 少し歩いた先には、巨大で青い球状の結晶が床に描かれた巨大魔法陣の中心で浮いている。よく見れば青い結晶の中に人影が確認できる。

 六芒星の頂点にはそれぞれ杖が突き刺さり、その杖を手に持ったまま力尽きて白骨化した遺体が六つあった。


 中央の結晶が気になったベネットは慎重に近づき、目を凝らして確認した。


 ジエンドマザー……いや、ルーラーか?

 封印されている?


「よく辿り着いた」


 背後から声が聞こえ、全員が振り返るとそこには如何にも魔女という暗緑色のローブを着込んだ、ちんちくりんな体型の少女が立っていた。ローブの左胸に第七階位ということを証明する、紫色の宝石付きブローチがある。


 誰だっけ?


 くせっけの赤毛の髪に青い瞳で覚えのある仏頂面だが、ベネットは誰だか分からなかった。

 ただ、この世界を中心に動いている三人はすぐに誰か分かって口を開いた。


「ノーレッジ?」

「お店の人がこんなところまで……ここの関係者だったわけだね」

「前々から怪しいと思ってたけど、あなたは何者なの?」

「ノーレッジはこの扉が開かれるまでの仮の姿。私は伝説の七賢者が一人、ミリアム」


 少女は【ディスガイズ】を解除した。

 くせっけのある赤毛は真っ直ぐなロングストレートに変わり、耳が種族エルフ特有の長細いものになる。

 身長も高くなり、スタイル抜群のモデル体型となった。

 それに伴い、着用しているローブも大きくなり、頭には魔女らしいくたびれたトンガリ帽子がある。

 仏頂面なのは変わらない。


「循環式の封印は既に解かれ、ソレが活動を再開するのも時間の問題。だから手短に説明する。ここは私の仲間だった六人の賢者が命を賭して終焉へ導く者を封印し、私が亜空間に閉じ込め、入り口は地下深くに移した。ダンジョンにしたのは終焉へ導く者を倒せるだけの力を持つ者を選別する為。よく辿り着いた。質問はある?」


 真っ先に口を開いたのはベネットだ。


「その終焉へ導く者は、何者だ?」

「私」

「!?」

「厳密に言うと、異界から来た別の終焉へ導く者の力によって肉体が乗っ取られた。ソレに詰まっているのは、世界なんて滅びてしまえばいいって思いを持つ無数の悪霊。私は仲間の咄嗟の判断で助けられ、そのまま封印して今に至る。こうして立っている私は、実体を疑似的に作った魂だけの状態。所謂、レイスという存在。ただ、聞きたいのはそうじゃないというのは分かってる。終焉へ導く者は、神々が作り出した使徒。その使命は不要になった世界、都合の悪くなった世界、行き詰まった世界、寿命を迎えた世界を終わらせること。次の質問は?」


 次に質問したのはオウカだ。


「では、この世界の真実とは?」

「二つある。一つは、この世界は終焉へ導く者を封印して延命した世界。ただ、延命してかなりの時間が経っているから、世界そのものの寿命が近い。何もしなくてもいずれ滅びる。もう一つは、私が他の世界を観測してこうなる事態を予測し、事前に魔法で細工したから語れること。この世界は既に消えて無くなっている。今あるここは、アカシックレコードから記録を抽出して再現された世界」

「再現……それはつまり、そういうことなのか?」

「信じる信じないは勝手。後で整理すればいい。ただここまで来たのなら、その責任は取ってもらう。私は世界の為に自力でここを開けられないようにした。でも、ずっと引き寄せられていた。体が私を、私が体を求めていた。正直、精神的にもう限界。だから終わらせてほしい。質問は次で最後にする」


 最後の質問はマーリンがした。


「じゃあ最後に私から。勘違いかもしれないけど、これは本当にゲームなの?」

「君たちにとっては紛れもなくゲーム。でも、質問の意図を考えると現実と言っても差し支えない。質問は終わり」


 ミリアムは幽霊らしく浮くように飛んで青い結晶に手を着くと、言い残したことがあるのか振り返った。


「最後に一つ。この世界の魔法は本来、適性にもよるけどイメージだけで何でも出来る。ただ、世界が一度滅び掛けて延命しているに過ぎないから、わざわざこの世界に生まれようとする魂は弱い者ばかりになった。だから大半の魔法使いは本に書かれた定型的なイメージと、魔法の名称を気合を込めて口にしてようやく発動させてるほどに衰退してる。私をこの場で倒すことが出来たら、本来の魔法を使えるように細工しておいた。頑張って」


 言いたいことを言い終えると、ミリアムは青い結晶の中をすり抜けて元の体へ入った。




 ――あぁ、愛しい私の体。


 ――戻りたいと、ずっと焦がれていた。


 ――ただいま私。


 ――みんなお待たせ。


 ――そして始めよう。


 ――終焉を。




 青い結晶の中にいるエルフ――ミリアムから憎悪・憤怒・悲哀・絶望などの負の感情を計り知れないほどに至近で感じ取ったベネットは、急激なストレスで吐き気を覚え、心が同調して涙が溢れだした。


 でも呑み込まれるわけにはいかない!

 戦って、終わらせないと駄目だ!!


 逃げ出したい、吐き出したい、一つになって楽になりたい、そういった思いを全て押し殺して堪えたベネットは、眼鏡を投げ捨てケープを外し、怖気づいてしまっている三人に向かって叫んだ。


「オウカッ! ルシェッ! マーリンッ!」

「っ!」

「っ!」

「っ!」

「……恐れるなとは言わない! 覚悟を決めろ!」


 何を言おうか少し迷いはあったが、その後の言葉に三人はハッとした。


「……そうだな。迷えば、敗れる」

「恐いけど、ここで逃げたらカッコ悪いよね」

「ゲームとして、楽しませてもらうわ」


 今はね、とマーリンはぼそりと呟いた。




 全員が武器を構えてすぐ、青い結晶にひびが入り始め、封印の触媒になっていた六本の杖が一斉に砕けると同時、結晶も砕けた。

 結晶によって蓋をされていた負の感情の気配が一気に噴き出し、中にいたミリアムだった女性――赤黒く変貌したローブを着込むジエンド・ルーラーが目を覚ました。


「【ブリザード】」

「【炎海】」

「【ダウンフォール】」

「【オールレジスト】【オールエンチャント】」


 三人が同時に環境を変えるスキルを発動し、吹雪と火の海と大雨という混沌が亜空間内で発生した。

 大それたスキルを持たないマーリンは【全属性耐性・大】と【魔法耐性・大】を付与するマジックスキルを自分に使い、続けて右手に持っている一見すると何の変哲もないロングソードのユニーク武器『幻想聖剣』に全属性を付与し、虹色のオーラを纏った。


「異界から来た――」


 ルーラーが口を開いてすぐ、ベネットが躊躇なく左手に持ったメメント・モリを撃ち、魔法障壁を破壊しながら頭の上半分を吹き飛ばして骨と血肉と脳を散らした。

 だが、流石にそれだけで死ぬほどルーラーは弱くない。頭を失った体は倒れることなく立ったままで、口が動いた。


「異界から来た者。滅びを受け入れろ。抗えば苦痛や絶望を長く味わう」


 破壊された頭の破片が動き出し、まるで逆再生のように戻った。

 残りの弾を連射し、魔法障壁を再び破壊しながら胴体に当てた。ルーラーは倒れるがすぐに穴の開いたローブごと傷が戻り、数メートル浮きながら起き上がった。


「無駄」

「だったらこれはどうだ? 【黒炎】」


 オウカが魔法陣から黒い炎を飛ばすと、ルーラーは魔法障壁を張りつつ回避行動を取った。

 ルーラーは何処からともなく赤黒い長杖を取り出した。それは先端に宝石が埋め込まれているが柄と同じく赤黒くなっており、不気味な輝きを放っている。

 その杖が向けられ、宣言も無く赤黒い魔法陣から毒々しい紫の水を津波のように吐き出した。

 それは四人目掛けて枝分かれして襲い掛かるが、ベネットが凍らせようとする前にソルシエールが動き、水を支配して神杖リヴァイアサンを指揮棒に見立てて操作し、急な方向転換をさせてルーラーに襲い掛からせた。

 紫の水は魔法障壁を溶かし、肉体を溶かした。


「追撃! 【ウォーターエッジ】!」


 取り囲むように青い魔法陣が複数展開され、そこから刃の形をした水が勢いよく飛び出してルーラーを切り刻んだ。


 だが効かない。

 ルーラーは溶けて切り刻まれた体をすぐに再生させ、元通りになった。


「その程度の攻撃、効きはしない」

「魔法使いだから? 【加速】!」

「っ!?」


 マーリンが【加速】によって一瞬で距離を詰め、全属性の備わった剣を素早く振るったところでルーラーは初めて目を見開き、咄嗟に躱した。

 二の太刀、三の太刀とマーリンは鋭い剣筋を振るうが、杖で防がれ、さらに赤黒く染まった頑丈そうな大盾が二枚出現し、浮遊しながら自動防御した。

 分厚い大盾二枚にムッとしたマーリンは【マジックサークル】の実体化した魔法陣を踏み台にして跳び、ルーラーの頭上から回り込みながら剣を振るうがそれすら防がれた。

 マーリンに杖が向けられるが、再装填が終わったメメント・モリの弾丸が大盾に防がれて音を立てた。ルーラーの意識が一瞬だけそちらに向いた瞬間、頭上に展開していた白縹色の魔法陣から【アイスランス】が発射され、躱された。

 そのままルーラーは瞬間移動して遠方まで距離を取った。

 マーリンも三人の傍へ移動し、しっかりと動きを観て導き出したことを伝えた。


「みんなよく聞いて。ただの勘だけど、あいつは多分、複合属性や特殊な攻撃は対処出来ないと思うの」

「なるほど! 黒炎を躱したのも、消耗を抑えるのではなく対応する特殊な魔法で無いと消せないと分かっているからか!」

「だとしても、私たち一つの属性特化で複合属性の魔法は持って無いですよ? 武器も既に属性付きですし、全属性付与は出来ない」

「それに、敵は待ってくれないみたいだ」


 数百メートル以上離れた先、杖を掲げたルーラーの遥か頭上に、空を覆うほどの巨大な赤黒い魔法陣が出現した。圧縮された魔力によって発射されたのは――小惑星と言えるほどに大きな隕石だった。


「最上位の土属性魔法メテオストライク……あの大きさだと対処不可だわ。オウカは?」

「魔力を圧縮すればいけるが、今すぐじゃ時間が足りない! ベネットはどうだ?」

「私もちょっと無理だな。地面を這っていたら止められたが。マーリンは?」

「……仕方ないか。私がやるわ」


 三人から期待の視線が集まるが、マーリンは気にせず実体化した魔法陣に乗って少し高度を上げた。


「これも生徒であるオウカさんの為! 【想起顕現】」


 幻想聖剣のスキルを発動したことにより、マーリンの見て聞いて感じた中で、たった今強くイメージしている剣へと姿形を変えた。


 それはチーム『円卓』のリーダーであるアルバが持つ『始まりの剣』だった。

 過去、マーリンが見たダイジェスト映像のイメージにより自動的にスキル【天地開闢】が発動し、当時の威力と規模の巨大な光の刃が天を突いた。

 マーリンは深く息を吸い込み、カッ目を見開いて剣を振り下ろした。


「ガイエンさん! 今度デート行きましょおおおおおおおおお!!!」


 己の純粋な欲望を吐き出しながらの一撃は隕石を真っ二つにし、同時に左右へと大きく軌道を逸らせて勢いも無くなって手前で落ちた。

 役目を果たした光の剣はまるで幻だったかのように霞になって消え、元の何の変哲もないロングソードへ戻った。

 マーリンが地面へ着地すると、三人は大質量が落下した衝撃波に備えて三重の魔法障壁を張って待機した。



 数秒して、衝撃波と飛散した礫が魔法障壁を襲った。三人で張った強固な障壁は壊れず、暫くすると収まって解除した。


「ベネット、奴はまだ生きているな?」

「ああ、気配がする」

「やっぱり逃げられてたかぁ」

「えっと、そっち?」


 三人は同じ方向を見つめており、普通の人間であるソルシエールは遅れて気付き、そちらを見た。

 隕石を落とした反対側の空中にルーラーはいて、また杖を掲げていた。頭上に巨大な魔法陣が展開されており、すぐにでも発動する状態だった。


「合わせろルシェ!」

「ちょっ、無茶言わないで!」


 オウカが転移魔法【ファイアテレポート】で足元に魔法陣を展開して炎に包まれて消え、ソルシエールも僅かに遅れて【ウォーターテレポート】で足元に魔法陣を展開して水に包まれて弾けて消えた。

 二人の行動を見て意図を理解したマーリンは言った。


「ベネットさん、その銃、属性無いですよね?」

「っ! 頼む!」


 マーリンの心を読んで察したベネットは、メメント・モリを突き出した。


「【オールエンチャント】!」


 即座に全属性魔法が付与され、ベネットは深呼吸して意識を集中する。


「……ぶっつけ本番だが、属性に応じてあるのなら……ハッ!」


 見よう見真似でイメージ通りに足元に魔法陣を展開し、新しいスキルを獲得しながらも自身が氷塊に包まれて粉々に砕けて消えた。






「はあぁぁぁっ!!」


 先に転移してルーラーの頭上を取ったオウカは、両手に握り締めた魔剣レーヴァテインを力の限りに振り下ろした。

 だが、分厚い大盾の一枚によって自動防御されてしまう。


「【加速】! 【修羅】!」


 AGIを上げるスキルとHP・MP以外を上昇させ、赤いオーラを発するスキルを同時に使い、回り込みながら連続で剣を振るうが、大盾が六つに増えて全てを防がれた。

 

「【レーヴァテイン】!」


 魔剣レーヴァテインがスキル宣言に応え、刀身が高熱を帯びて光を発しながら伸びる。

 大盾はその熱量と内包された魔力に耐え切れずに切断され、ルーラーを真っ二つにした。

 返す刀で素早く何度も振られ、残っていた大盾と長杖が細切れになる。

 だがそれでもルーラーは生きていて、口が動いた。


「無駄」

「無駄じゃない! 【黒炎】!」


 急速なSTの減少によって汗を掻き肩で息をしつつ、至近距離で黒い炎を放ち、ルーラーの肉片全てに黒い炎が点いて燃え始めた。


「ルシェ!」

「【水牢】【水泡牢】!」


 オウカの声に、少し離れたところにいるソルシエールが神杖リヴァイアサンを使った二重魔法により、バラバラになった状態のルーラーは水の球体に飲み込まれ、その上からシャボン玉によって閉じ込められた。

 水中でも黒い炎は燃えており、ルーラーの肉体は焼かれ続けていた。


 だが、それも数秒のこと。


 燃焼を超える速度で急速再生して元に戻ったルーラーが魔力を込めた衝撃波を放ち、水の球体と泡が一瞬で弾け飛んだ。

 さらに黒い炎は無動作で出した聖水を頭から被って消した。


「諦めろ。私は――」


 発砲音が響き、ルーラーは体をビクリと跳ね上げ、目を見開きながら下を向いた。そこには穴が空いて血がどくどくと流れ出す自分の胸があった。振り返れば、大雨や火の海の奥で吹雪が降っており、気配を殺しつつも殺意の籠った冷徹な目で虹色のオーラを纏うメメント・モリを構えるベネットが、拳銃では当てることさえ厳しい距離で魔法陣の上に立っていた。

 ルーラーは口から血を吐き、力が抜けて魔力の操作が上手くいかず浮遊が切れてそのまま落下した。

 三人は警戒して動かなかったが、完全に勝負がついたと判断するとそれぞれ環境を変える魔法を解いて傍に降り、マーリンも飛んで来て合流した。


 生命力が高いせいで楽に死ねず、痛みと息苦しさと寒気が続くルーラーは、四人が見下ろしているのを確認すると口元に笑みを浮かべ、ミリアムとして虫の息ながら口を開いた。


「……全属性が付与された攻撃は、この世界の理から外れた、異界の力。だから、私の防御秘術は効果を発揮しなかった。ずるい。でも、凄い。約束通り、私の死をトリガーとして、この世界の本来の魔法をプレイヤー(あなた)たちが使えるようにする」


 言い終えたミリアムは目を閉じ、息を吐き切って安らかな顔で眠りに就いた。すると体が白い光の粒子となって消え始めた。



 ――ありがとう。


 ――これで安らかに眠れる。


 ――世界の試練、頑張って。



 四人は脳に直接響くミリアムの声を聞き、霧散して完全に消えるのを見届けた。

 脳内にいつものゲームシステムの音声が響く。


『ダンジョン:禁書庫地下をクリアしました』


 いつもと違い、音声は続く。


『全プレイヤーへ通達します。第三世界のダンジョン:禁書庫地下を攻略したプレイヤーが現れました。それにより隠し条件を達成、ギフトとして全プレイヤーにエクストラスキル【想像魔法】を配布します』


 さらに自動的に全プレイヤーにウィンドウが表示され、四人は確認した。



 エクストラスキル【想像魔法】

 イメージだけの宣言無しで、威力を一切減衰させずに魔法の発動を可能とする。

 このスキルは現行の複合型魔法システムとは競合しない。



 真っ先に読み終えて理解したマーリンは言った。


「これは状況やイメージの得手不得手で、使い分けが重要になりそう」

「そうだな。早速練習と行きたいが……もういい時間だな」

「私もダンジョン攻略の報酬貰って、さっさとログアウトしたいよ」

「私もだ。疲れた……ふぁ」


 気が抜けたベネットは欠伸をし、ミリアムがいた場所に宝箱が出現した。

 ソルシエールが開けて中を確認すると、ぎっちりと中身が詰まった片手で持てるサイズの革袋が四つ入っているだけだった。

 その内の一つを手に取って中身を確認すると、大量の金貨が入っていた。


「うーん、報酬はスキルが主体だったみたい。中身はゴールドだけだね」


 配られた革袋をベネットたちは受け取り、インベントリに仕舞う。


「じゃあ、もう解散ということで。お疲れ」

「ああ、お疲れ様」

「お疲れさまー」

「お疲れ様でした」


 ベネットは別れの挨拶をし、そのままログアウトした。

 三人もまた、これ以上ゲームをする気にはなれずそのままログアウトした。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ