表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/98

**



 ベネットはマップを見ながら移動し、強化素材が手に入る地域まで来た。

 スキルのせいで吹雪が追従しているが、景色は既に雪化粧に染まり、空一面は分厚い雲に覆われている。


 適当な場所で降り立って必要素材を持つ雪や氷系の妖怪エネミーや怪異のエネミーを倒して集めた頃には、スキルの効果時間が切れて吹雪は治まった。

 ただ、時間が掛かったせいで日が暮れ始めており、妖怪や怪異が活発になる逢魔が時までそう時間が無いことに、ベネットは悩んだ。


「ホラーは苦手だしなぁ……でもなぁ……」


 マップを開けば、そう遠くない位置に最後の必要素材がある。

 悩んだ末、ベネットは怖さを我慢して素材を取りに行くことにした。



 再びホシマルに乗って移動したベネットは、氷に覆われた城下町に到着した。


「またここに来るとはな」


 町の中心には見覚えのある立派な氷の城――氷室城が聳え立っている。ベネットが以前来たことのある場所だが、門に立った時点でその様子の違いに首を傾げた。


「……敵の気配が無い?」


 どういうことかと思いながら、何もいない開きっぱなしの門をくぐると、目の前に大量の雪を伴った小さなつむじ風が起きた。

 念の為にメメント・モリを出して構えていると、一人の女性が姿を見せた。

 真っ白な肌に青みがかった長い銀髪、青い瞳の美人な女性だ。雪結晶の柄の青白い振袖を着ており、ベネットを見ると丁寧なお辞儀をした。


「ずっと、ずぅっと……お待ちしておりました」


 敵意が無く、むしろ好意すら感じる相手にベネットはメメント・モリを下ろした。


「君は、確か……あの時の?」

「はい! 冬将軍の中にいた、()()雪女、セツです」

「そうか。私はベネットという」

「ベネット様……。立ち話もなんですから、城へご案内致します」

「ああ」


 ベネットは雪女セツに連れられて氷室城へ移動した。

 道中、敵意の無い他の雪女や雪や氷の妖怪が普通に住んでいるのを目撃しつつ、城の内部へと入った。

 覚えのある通路を通り、階段を上がって天守のボスエリアに通された。

 中は相変わらず氷の壁によって完全に閉鎖されており、中央奥に雪結晶のシンボルが特徴の冬将軍が床几に座ってジッとしていた。

 雪女のセツがベネットの隣に立ち、冬将軍に丁寧なお辞儀をして言った。


「冬将軍様、我らの恩人、ベネット様をお連れ致しました」


 冬将軍は喋れないのか、軽く手を挙げて挨拶した。

 ベネットは釣られて軽く会釈を返すと、冬将軍は頷いた。

 挨拶が済むと、セツは冬将軍の隣に立った。


「冬将軍様は言葉を喋れません。私、セツがこれより代弁致します。では――『この度の暴走を止めてくれて感謝する。私はこの地域一帯を守護することを命じられた、冬将軍である。我々はベネット様……雪と氷の女王陛下が再びこの地に参られること、心よりお待ちしておりました』と言っています」


 セツの代弁が一度終わると、冬将軍は立ち上がってしっかりしたお辞儀をした。セツも倣ってお辞儀をした。

 お辞儀が終わると冬将軍は座り、セツが代弁を続けた。


「『さて、挨拶が済んだところで、私は雪と氷の女王陛下に一騎討ちの再戦を希望する』と言っています」

「再戦……? する理由は?」

「『本来の私として戦いたい。勝てば、然る御方の元へご案内しよう』と言っています」

「ふむ……こちらからも条件がある。終雪を強化するのに『冬将軍の溶けない氷』というものが必要だ。勝っても負けても、それは貰えないだろうか?」

「『構わない』と言っています」

「分かった。やろう」


 ベネットが一騎討ちを承諾すると、冬将軍は喜び勇んで勢いよく立ち上がり、ベネットが所持している物と同じ終雪を鞘から引き抜いて構えた。

 セツは床几を持って離れ、ベネットが眼鏡を外してケープを脱ぎ、終雪を構えたのを見て言った。


「僭越ながら、開始の合図をさせて頂きます」


 深く息を吸い、気合を込めて一言。




「――始めっ!」




 冬将軍は合図に反応して力強い足取りで接近し、刀を振り下ろした。

 凄まじい勢いと重さを感じたベネットは受け止めずに横に躱し、そのまま後ろへ下がった。すかさず素早い薙ぎ払いが通り過ぎたが、最小限の払いでピタリと刀が止まり、返しで振るわれる剣捌きによって隙が無い。

 ベネットは連続で振るわれる刀に対し、回避ばかりをしていた。幾ら周りが寒い環境といっても、冬将軍の攻撃を受け止めるのにまだ寒さが足りないと判断したからだ。


 全く当たらないことで、冬将軍は行動を変えた。スキル【氷花閃】を、本家本元だと言わんばかりに使った。


 ――っ!


 下から振り上げるように左右の袈裟斬りで斬撃が飛び、鋭い氷柱が左右への逃げ道を塞ぐと同時に、ベネットの視界を奪う。直後、力強い水平斬りで斬撃が飛び、攻撃を察して伏せたベネットの頭上を通り過ぎた。

 顔を上げれば、壁になっていた氷柱が綺麗に切断されており、背後の壁からは氷柱が棘のように生えていた。


 逃げてばかりだと、逃げ場を失うか……。


 ベネットは氷柱を乗り越え、今度はこちらが攻める番だと正面から距離を詰めた。冬将軍の動きを読み、振るわれる刀を受け流すように弾き、躱しながら一振り二振り鎧を切ってダメージを与えていく。


 順調にダメージを与え続け、冬将軍のHPバーが半分を切ったところで、冬将軍は大振りの構えを取った。

 ベネットは動きを読み取り、水平斬りに合わせるように跳んで、冬将軍の頭上から背後に回って着地と同時に突きを入れた。

 だが、ベネットの終雪の切先は鎧を貫くことは無く、雪となって消えた冬将軍のいた場所を空ぶるだけだった。


 室内であるにも関わらず、天井に分厚い雲が生まれ吹雪が発生した。さらに白い濃霧を伴った強烈な冷気が発生した。

 ベネットの視界が奪われ、HPが徐々に減り始める。

 隠れてHPが尽きるまで待つようなことはしないだろうと、終雪を構え直して部屋全体に意識を広げた。

 以前戦った時と同じように冬将軍が背後から現れ、鋭い一撃を入れて来る。ベネットは出現する前から察知して躱し、反撃に振るうがその前にはまた雪となって消えていた。

 何度も同じようにやっている間にベネットは慣れ始め、姿を見せる兆候として足元に溜まった雪が集まり始めるのを発見した。

 それを利用し、冬将軍が姿を見せるよりも先に捉えたベネットは構えた。


「【氷花閃】!」


 姿を見せた冬将軍は咄嗟に終雪で防いだが、渾身の一撃によって弾き飛ばされ、そのまま飛ぶ斬撃をもろに食らって鎧に鋭く深いダメージエフェクトの傷を作った。傷口から氷柱が生えることによってダメージが追加され、冬将軍はその場で膝を着いた。



「そこまでっ!」



 セツの声に、トドメを刺そうとしていたベネットはピタリと止まった。それからゆっくりと残心して距離を取り、勝利の余韻を味わうように格好をつけて鞘に仕舞った。

 吹雪が治まり、白い濃霧と冷気が無くなる中、傷口から生えた氷柱を払い落として立ち上がった冬将軍を、セツは支えた。


「『流石は雪と氷の女王陛下だ。見事!』と言っています」


 冬将軍はベネットの目の前まで来ると、セツと共に跪いた。


「『この冬将軍、陛下を主として認め、お仕えいたしましょう』と言っています。私、雪女のセツも同じく、主として認め、お仕えいたします」


 その宣言の後、ウィンドウが表示された。


『冬将軍、及び、雪女セツが忠誠を誓っています。召喚契約をしますか?』


 はい

 いいえ


 特に断る理由もないベネットは“はい”を押した。

 冬将軍はセツと共に立ち上がると、兜を片手で掴んで取って胴体の中にもう片方の手を突っ込んだ。


「『これからよろしくお願いします。忘れないうちにこれを』と言っています」


 差し出されたのは手に持てるサイズの小さな氷塊だった。

 手に触れてインベントリに仕舞い、そのアイテムを確認すると目当ての『冬将軍の溶けない氷』だった。


「……確かに」

「『では、勝った約束として然る御方の元へご案内しましょう』と言っています」

「ん、頼む」


 ベネットの言葉に冬将軍は頷き、手を差し出した。


「ベネット様、冬将軍様の手を握ってください」

「ああ」


 手を握ると、室内にも関わらず再び吹雪が発生し、周囲が白い濃霧に包まれた。


 そのまま待機していると濃霧はすぐに晴れた。

 いつの間にか、氷室城の天守から雪が降り積もった神社の境内に移動していた。


「ここは?」


 辺りを見渡すベネットの言葉に冬将軍は答えず、スッと傍に建っている手水舎を指さした。


「……まず手を洗えと?」


 コクリと頷き、ベネットは指示に従って柄杓に汲んだ水を手に掛けた。


「うっ、冷たい……!」


 幾つものパッシブスキルの氷耐性で寒さに強い筈なのに、その水は凍てつくほどの冷たさを感じた。

 ベネットは奥歯を噛みながらも両手を洗い終え、柄杓を置いてから凍えてかじかんだ両手を摩って暖かい息を吹きかけて少しでも温まろうとした。

 冬将軍は全く気にせず移動を始め、ベネットはその後ろを付いて行った。

 奥に建っている拝殿に来ると、冬将軍は扉を開けて横に退いた。

 中に入ると、そこは何も置かれていない部屋だった。背後では冬将軍が扉を閉め、完全に閉まると扉そのものが幻であったかのように消えた。

 同時に拝殿内部も変化し、気付けば足元が滑らかな氷だけの白い空間に立っていた。

 さらに変化が起こり、澄んだ清らかな水の香りが漂い始め、一つの方向が白く光り輝いた。




 ――よく来た。祝福されし人の子よ。



 脳内に言葉が……!



 ――多くは語れない。だが、直接会っておきたかった。



 ――時は近い。我々は手を出さないが、力を貸すことは出来る。



 ――祝福されし人の子よ、我が力を授ける。



 ――他の子らと共に、定められた終焉を覆してみせるがいい。




 白い光が収まり、水の香りも消えて空間が元の拝殿に戻った。

 脳内にいつもの音声が響いた。


『エクストラスキル【****】を取得しました』


「なんだって?」


 音声が途切れていた為、ベネットはすぐにメニューからステータスを開いてそのスキルを確認した。



 エクストラスキル【****】


 条件を満たしていない為、閲覧不可・発動不可。


 解放条件:ユニーク防具『氷雪女王』シリーズの覚醒




「……これは……」


 ベネットは何かを言おうとして止め、ステータスを閉じた。

 その場で物憂げな表情で物思いに耽た後、深呼吸をして気持ちを切り替えた。


「目を背けてもいられないか」


 拝殿の扉を開けて外に出ると、扉の傍で冬将軍が待機していた。


「待たせたな。戻ろう」


 冬将軍は頷き、ベネットは差し出された手を握って氷室城の天守へ戻った。


 部屋に着くと、セツが出迎えた。


「おかえりなさいませ、ベネット様。お会い出来ましたか?」

「ああ」

「それはようございました。私たちはここでお待ちしております。時が来たら、どうかお呼びください」

「ああ、その時が来たら頼らせてもらう」


 セツと話を終え、ベネットは冬将軍と向き合った。

 言葉は無く、右手の拳を突き合わせて別れの挨拶とした。


「それじゃあ、もう帰るよ」

「はい、またのお越しをお待ちしております」


 ベネットは部屋を出てすぐ、帰還用アイテムであるテレポートストーンを使ってワールドシップに帰還した。

 その足でチームルームに移動し、自室で分厚い本を読書中のハカセに会った。


「ハカセ、強化に必要な素材、全部集まったぞ」


 それを聞いたハカセは本を閉じ、待っていましたとばかりに笑みを浮かべた。


「それは良かった。次のイベントには間に合いそうだね。ただベネット、複数の装備と兵器を一斉に強化するには、それなりの時間が掛かる。明日にしよう」

「そうか。分かった」



 今日はもうやることが無く、リアルの方もいい時間になっていたのでベネットはログアウトした。



ベネットにとって、この回が心情的な転機です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ