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第五世界、大規模クエスト

さらっと終わらせるつもりが、なっっっっがくなった。

あと、場面転換が多いです。



「今……!」


 発生時刻の速さに驚いていると、宇宙にある筈の空間の裂け目が空に出現し、活動拠点から百キロ以上離れた位置に山のように大きな塊が二つ、近い距離で落下した。


 一つはモニターで見たぶよぶよぐちょぐちょの塊だ。

 もう一つは同じ規模の侵食された巨大宇宙船だった。

 その宇宙船は先端から地面に突き刺さっており、ぶよぶよぐちょぐちょの塊の方は空に向かって一本の棒状のような物が伸び、先端が裂けて開き、遠目からでも分かるほどの巨大な花となった。

 塊からはエネミーが大量に出現を始め、宇宙船は格納庫から侵食された飛行機を発進させ、近くにいたテスタメントの宇宙船と発進した艦載機と即座に交戦を始めた。


「ベネット様、今回の大規模クエスト、ジエンド・マザーは一体だけではありません。寄生型ジエンドに加え、寄生されて世界の敵となった未来の私が相手となります」

「未来?」

「これは本来想定された大規模クエストの難易度ではありません。私はこのクエストでジエンドに侵食され、将来的に世界の敵となる予定でした。ですが、私はそれを拒絶し、侵食される本体を破壊して未来を変えました。結果として、未来で存在する私が過去を修正しようとその起源となるこの戦いに姿を見せることになったのです」

「……やはりそれは、世界を救う為か?」

「はい。ベネット様、あなたは既に気付いているのではないですか?」

「…………」


 逆に問われたベネットは何も答えなかった。

 テスタメントは沈黙を肯定と捉え、追求せずに大規模クエスト攻略の話を切り出した。


「ベネット様、我々は既に奇襲攻撃を受けた状態です。敵戦力は自己増殖を始め、味方である筈の無人兵器も侵食により敵に変わり始めています。よって、ここは現有戦力による敵母体強襲を提案します」


 ベネットはピクリと耳を動かし、生やしたままの尻尾を軽く揺らした。


「いい考えだ。だが戦力として少な過ぎる。せめて他のプレイヤーに呼び掛けは出来ないか?」

「不可能です。未来の私がこの世界全体に強力なジャミングを掛け、別の世界へ通信が繋がりません。私が力を行使したとしても、この世界の中だけが限界です。また、ワールドシップと繋がる転送装置もハッキングされて機能が停止しており、特殊な方法でしかこちらに来られません」

「そうか……とりあえず、今ここにいるプレイヤーに情報共有をしたい」

「わかりました。では――」


 テスタメントは体に緑の模様を浮かばせ、大量のウィンドウを周囲に展開して、すぐにまた消した。


「この世界にいるプレイヤーに共通の作戦内容を記したメッセージを送信しました。集合場所は転送装置のある兵舎の傍です」

「分かった。行こう」


 ベネットとテスタメントが移動を始めると、離れた位置で着陸していたハカセたちも移動を始めた。



 今この世界にいるプレイヤーが、ワールドシップへ戻る為の転送装置の傍に集まった。

 その数、ざっと三百人ほどである。

 大半のプレイヤーが銃を主体とする格好であり、今回の事態には戸惑い半分、楽しみ半分と言った表情をしていた。

 ベネットが氷で作った指揮台に立つと、猫耳と尻尾に意外そうな顔をする者が大勢いた。疑問の他に可愛いという思いを感じ取ったベネットは少し頬を赤らめつつ咳払いをし、気を取り直して士気高揚の為にあまりやりたくない軽い演説を始めた。


「聞け! プレイヤー諸君! また大規模クエストが始まった。今回は突発的に始まってしまい、誰もが準備不足だ。しかも、ここにいるテスタメントによればシステムに干渉してほぼ全ての通信と転送装置の仕様が不可能になった。また、今回相手をするジエンドは寄生型であり、生物も無機物も関係なく侵食して新たなエネミーを作り出す。長期戦は圧倒的な不利であり、私は現有戦力全てを使って敵母体ジエンド・マザーへの強襲を提案する。意見があれば是非とも聞かせてくれ。以上だ。質問はあるか?」


 スッと手を挙げたのはナオだった。


「あの、あんな遠くまでどうやって接近するんだ?」


 それに続いて、リクも口を開いた。


「確かに。足並みを揃えるなら、それぞれの移動手段を把握して突入のタイミングを合わせるべきだ」


 さらにサクも口を開いた。


「輸送ヘリか、今空を飛んでる宇宙船の一つでも使えばいいと思う」

「テスタメント、どうだ?」

「無人輸送機があります。滑走路に用意しておくので、移動手段を持たない方はそちらをご利用してください」

「他に質問は? ……無いようだな。では、勝つぞ!」


 ――応っ!


 全員が声を上げ、絶対にクリアしてやる、という意気込みで移動を始めた。

 最後に移動をしようとしたところで、転送装置の傍で真っ赤な魔法陣と青色の魔法陣の二つが地面に出現し、火柱と水柱を上げると二人の人間が姿を見せた。

 一人はベネットが良く知るチームメンバー、オウカだった。ユニーク防具を着込み、手には長杖を持っている。

 もう一人は、デザイン性に富んだ青い魔女服ととんがり帽子を着た、艶のある長い黒髪で右目が隠れた女性だ。

 二人は互いにいることを確認すると、安堵から頬を緩ませた。


「成功したな」

「そうだね。ぶっつけ本番だけど上手くいって良かったよ」

「オウカ!」


 意外な仲間の登場に、ベネットは駆け寄ると二人が振り向いた。


「おっ、ベネットじゃ――その耳と尻尾は?」

「可愛いね。変身魔法?」

「あー、うむ。慣れる為に暫く生やしてる」

「そ、そうか。私たちは大規模クエストに参加する為、転移魔法【ディメンジョンワープ】で世界を超えて来た。こちらは第三世界で知り合ったフレンド、ソルシエールだ」

「初めまして。チーム『魔女の夜会』のリーダー、ソルシエールです。長いのでルシェと呼んでください」

「どうも、ベネットだ。こっちは私はサポートNPCの一人、テスタメントだ」

「初めまして」

「よろしく」


 挨拶を済ませたところで、オウカは周りにプレイヤーがいないことに気付いて言った。


「ところでベネット、戦いはもう始まっているのか?」

「いや、これからだ。あっちにある気持ち悪い塊と巨大船に、全員で特攻を掛けて本命を倒す。その為にさっき歩調を合わせる為に演説をした」

「……聞けなかったのは残念だ」

「どうせダイジェスト映像で見れるさ」

「そうだな」

「それで、私たちはどうすればいいの?」

「ルシェ、オウカ、二人はマッハ一以上の速度で移動は可能か?」

「どうだろ? 速度なんて測ったことが無いから分からない」

「だな。だが、転移魔法を習得した今、一度行った場所か視界に入ってさえいれば何処にでも移動が出来る。先に近くに移動して、攻撃が始まったら合わせよう」

「いい考えだな。それで頼む」


 話が終わり、ベネットは二人と別れて滑走路に置いていたTAアウルムに乗り込んだ。ここが地球であり、途中で降りて戦う可能性も考慮してパイロットスーツは着用せず防具のまま動かして離陸した。


 TAアウルムの離陸を機にハカセたちのTAが続き、その後ろから数十人が搭乗可能な無人輸送機が十機離陸した。

 全ての輸送機が追従してくるまで速度を控えて飛んでいたベネットは、後方からしっかりとした編隊を組んで飛んで来る輸送機を確認し、安心して巡航速度で飛び始めた。輸送機はその速度にしっかりと追従し、目標地点までオートパイロットにしたベネットは、戦いの前に長時間のプレイで蓄積した精神的疲労を取り除くべく、買い溜めしていたフレーバーアイテムであるドクターポーションをインベントリから出し、カシュッと栓を開けて飲み始めた。


「――ふぅ」


 杏仁豆腐に似た独特な風味、砂糖の甘ったるさ、炭酸の刺激が味覚を通してベネットの脳にひと時の安らぎを与えた。


 全周モニターを通して見える遠景は宇宙船や航空機の攻撃と、侵食された巨大宇宙船やエネミーの攻撃で閃光や爆発が目まぐるしく発生しており、その激しさはゲーム『イレギュラー』の領地戦を思い出させた。


 到着まで時間的余裕がある中、出来ないと思っていた通信がハカセからあり、すぐに開いた。


「ハカセ、どうした?」

「いやなに、通信が不可能と聞いたからね、確認の為に色々と試していたのだが、マナ粒子を使った通信だけは何も干渉を受けずに使えたというだけの話だ」

「そうか。それならTAとSA乗りだけは連携が取れるな」

「それだけじゃないと私は思っている。ベネット、そろそろテスタメントたちのことについて教えてくれないかね?」

「分かった。教えよう」

「少し待ちたまえ。他の者も通信を呼び掛ける」


 数秒待つと、ルーナ、ルイス、アズキとも繋がった。


「ハカセ、マナ通信は繋がったみたいだね」

「俺たちにも通信を繋げて、今から連携の確認でもするのか?」

「あたしはモチを守るから、そのつもりでいて」

「いや、そういった話ではない。ベネット、テスタメントたちについて離してくれるね?」

「ああ、人類守護AIシステム、テスタメントだが……私のサポートNPCだ。少し前に強制的に味方になって、緊急クエストが茶番だと知っていた」

「おいちょっと待て。だとしたらアレか、お前は兵士たちが死ぬことも分かっていて、本気を出さずに周りの動きに合わせていただけだったということか?」


 批判は必ずあると思っていたベネットは、ルイスの怒りを感じながらも頷いた。


「そうだ」

「……チッ」


 言いたいことは色々とある。だが、それは過ぎたことでありゲームの中という認識がルイスを舌打ちするだけに留めた。


「緊急クエストのことについて、謝罪はしない。これが必要な過程であると思っている。それに話はまだある。テスタメント、及びハカセやルーナが戦ったあの少女たち、大罪の七姉妹だが……ホムンクルス――人造人間であり、胸に埋め込まれているのはマナ結晶だ」

「……なるほどねぇ」

「……そういうことか」


 ハカセとルーナはそれだけで色々と理解し、納得した。


「ベネット、七姉妹ということだが、仮にマナソルジャーと命名する彼女たちは他にも存在するのかい?」

「いや、テスタメントを含めて八人しかいないそうだ。マナ結晶は世界に干渉して取り寄せたらしいが、他の世界に干渉すると、ジエンドの出現が早まるとも言っていた」

「ふむ、やはり……そうか。少し考えたいから、通信を切らせてもらうよ」


 ハカセはそう言うと一方的に通信を切った。


「ベネット、マナソルジャーの肉体は有機物がベース? それとも完全な機械? 肉体に意識はあるのか無いのかは分かる?」

「……どうだろう? 詳しくは聞いてないけど、恐らく人間と殆ど変わらないと思う。肉体に意識は無く、マナ結晶の意思が体を動かしていると聞いた」

「そっかそっか。やっぱりマナ結晶に意思が存在するのか。確証が得られただけで私の研究は大幅に進むことになったよ。ありがとう」

「あと、テスタメントはAIとマナ結晶が融合した存在とか自分から言っていた」

「それは凄いね! 前例があるのなら私のやりたいことは完成したも同然だ! 早速研究に取り掛かることにするよ。戦闘には参加するから安心してね」


 ルーナも興奮しながら通信を切った。

 残されたアズキとルイスに質問等は無く、二人は黙って通信を切った。




 戦闘区域に近づき、ベネットがオートパイロットを解除したところでまた通信が入った。テスタメントからだ。


「テスタメント?」

「ベネット様、基地の傍に新たに寄生された宇宙船が一隻投下されました」

「むっ、陽動だったということか?」

「はい。ですがご安心ください。()()私と娘たちは、未来の私にとって在る筈の無い存在です。こちらは我々だけで対処可能ですので、そちらは予定通りお願いします」

「分かった」


 ベネットはテスタメントを信じ、すぐそこまで迫った戦闘区域に意識を向けた。





 活動拠点である基地の近く――数キロ先に、寄生された巨大宇宙船よりも二回りほど小さな宇宙船が先端を地面に突き刺して落下していた。

 宇宙船が接地した先端から侵食が起きて地面はカビのようなものが広がり始めており、適切な対処をしなければ数時間で付近は侵食され尽くされてしまうだろう。

 活動拠点周辺で陣地構築をしていたサイボーグ兵や無人兵器が攻撃を始めたが、質量差から殆ど効いていない。侵食された宇宙船の格納庫からは侵食された航空機が飛び立ち始め、別の開閉する場所からは人並みに大きな肉塊の様々なエネミーがボロボロと地面に落ちて活動を始めた。

 当たりはすぐに激戦へと変わり、テスタメントは活動拠点の兵舎の屋上からその様子を見て、独自の通信網で娘たちである大罪の七姉妹へ向けて言った。


「娘たち、力を存分に使うことを許可します。敵を駆逐してください」


 ――了解!


 それぞれの場所で待機していた七姉妹は返事をし、マナ粒子の拡散を抑えるマントを脱いで本体であるマナ結晶を活性化させ、体にマナフレームと同様の緑の模様を浮かばせながら周辺に緑のマナ粒子を拡散させた。


 宇宙船の主砲や副砲や機銃が動いてレーザーが基地に撃ち込まれ、ミサイル発射管から大量のミサイルが発射された。

 それらは大罪の七姉妹が一人、怠惰の意味を持つスロウスが背中からビットを無数に出して基地周辺に展開し、シールドを何重にも張ってあっさりと防いだ。


「……シールド張った。あとは任せた」


 気だるげな言葉に、テスタメントが展開した通信網から受信した姉妹たちが行動を始めた。

 最初に動いたのは、長女で傲慢の意味を持つプライドだった。


「ご苦労様スロウス。最初の一撃は、わたくしが貰いましてよ!」


 妹に労いの言葉を掛けながら、背中から質量を超える大量の部品を出した。それは掲げた右手に集まり、自動で構築され、一瞬にして巨大な大砲に変わった。背中から伸びたアームによって支えられており、重要区画が固まっていそうな宇宙船の艦橋がある船体後部に狙いをつけ、引き金を引いた。

 ゲーム『イレギュラー』の第十世界の技術を模倣したそれは、マナ粒子を使用したビームランチャーそのものであり、活性化したマナ結晶であるプライドの出力はSA以上であった。バリアを容易く貫通して直撃した宇宙船は巨大な穴を開けてエンジンに誘爆し、一撃で破壊され赤黒い粒子となって消滅を始めた。


「オーホッホッホッホ! 他愛も無いですわね」

「プライド、まだ来ます」

「あら……だったら、何度でも撃って差し上げましてよ!」


 テスタメントの淡々としたオペレートを聞いて意気込んで構えていると、基地周辺の上空に裂け目が入り、まるでヤケクソのように同じサイズの宇宙船が十数隻突き刺さった。


「ちょっと! 多過ぎじゃありませんの!?」

「無駄口叩く暇あったら撃てよ姉貴」


 鋼鉄の大きな手足を出した憤怒の意味を持つラースが空を飛んで一隻に吶喊し、主砲や副砲のレーザーをマナを纏った鋼鉄の手で弾きながら船体をぶん殴った。マナを衝撃として一気に放つことで、鉄を叩く音を響かせながら船が真ん中から折れて赤黒い粒子となって消滅した。


「姉様の傲慢なのに抜けたところ、ギャップが可愛くて妬ましいです」


 同じく嫉妬の意味を持つエンヴィーが八本の剣でレーザーを切りながら飛んで接近し、マナを纏った剣を目にも止まらぬ速度で横一閃に振るって宇宙船を真っ二つにした。宇宙船は機能を停止し、赤黒い粒子となって消滅した。


 地表へ突き刺さった宇宙船はまだまだあり、主砲と副砲、機銃、ミサイルが大罪の七姉妹や活動拠点の基地を襲う。

 だが、不意に飛んで来た糸のように細いコードが武装に突き刺さるとコントロールが奪われ、乗っ取っていない宇宙船を攻撃して同士討ちを始めた。


「あはっ♪ 宇宙船ゲットー!」


 空に浮き楽しみながら回避行動を取るのは強欲の意味を持つグリードだ。背中からは蜘蛛の糸のように細い無数のコードを伸ばしており、有機物、無機物問わずにコードを刺した相手を操作する能力を持っている。


 次々と同士討ちが起こる中、宇宙船の一隻が暴食の意味を持つグラトニーの巨大化した機械のワームに取り付かれ、這い回りながらガリガリゴリゴリと貪り食われ、赤黒い粒子となって消滅した。


「これ、美味しいね。でももっと早く倒さないといけないし……出ししちゃえ!」


 グラトニーが指さした先に向け、ワームが大口を開けて極太のビームを発射した。それは射線上の宇宙船を数隻消し飛ばした。


「あー! ちょっとグラトニー! せっかくゲットした私の宇宙船まで消し飛ばさないでよー」

「あっ、ごめんねグリード姉。今度は気を付けるね」

「もう、ちゃんとしてよね」

「はーい」


 呑気な会話をしながらも攻撃の手は止めず、宇宙船は次々と消滅していった。

 最後の一隻、最も遠い場所で放置されていた宇宙船は基地ではなく大罪の七姉妹の一人、色欲の意味を持つラストに攻撃していた。

 ラストは空中に立っており、マナ粒子を纏う大盾を構えているだけだ。ただ、それだけで大盾の効果により、砲も機銃もミサイルも全てが吸い込まれるように大盾を狙った。主砲が別の方向に旋回しようとしても、すぐに大盾に照準が向いてしまう。

 そうしてヘイトを稼いでいたラストは、大盾の裏で息を荒げ身悶えていた。


「ああ……ずっとこっちを見て熱くて硬くて太いのをぶつけて来て……充分に感じました。私の中に込み上げてくるこの思い、私の熱くて硬くて太いので返しますね」


 わざとらしい変態的な言い回しで右手を掲げれば、大盾の受けた様々なエネルギーを凝縮して大きな槍を形成し、投げ槍の要領で投擲した。

 エネルギー体の槍は手元から離れた瞬間に超加速し、宇宙船を一瞬で貫通して大穴を開けて赤黒い粒子となって消滅させた。槍はそのまま彼方まで飛んで行って大きな爆発を起こした。


「ふぅ……」

「ふぅ、じゃねぇよ変態! わざわざ通信越しに言うな!」

「ラースの言う通りですわよ。あなたも淑女なら、そういう破廉恥な言葉は一人でいる時にしなさい」

「はい、お姉様」


 次女ラースと長女プライドのお叱りを嬉々として聞き入れたラストに、他の姉妹たちは呆れて溜息を吐いた。


「娘たち、どうやら敵はまだ来るみたいですよ」


 テスタメントが告げた次の瞬間、空間の裂け目からさらに追加の宇宙船が数十隻投下された。こちら側の強さが未知数とはいえ、戦力の逐次投入をする未来の自分の能力が劣化していることに、テスタメントは憐憫の情を抱いた。


「愚かな……」


 一気に殲滅する為にテスタメントも持っている力を開放し、広範囲にマナ粒子を拡散させた。それにより、周辺にいる七姉妹の力が増強され、範囲内のジエンドの力が弱まった。侵食も止まるどころか、逆に消滅を始めた。


「――っ! これは……!」


 娘たちがより速く殲滅を始めた中、裂け目から少し離れた位置から移譲を察知したテスタメントはそちらへ振り向いた。

 直後、しっかりとした手順によって次元を超えるゲートが開いた。大きな円形の先は空間を繋げる亜空間であり、そこから出て来たのは三隻の軍艦であった。

 それぞれ白色、赤色、緑色に塗装されており、船体には所属を示すそれぞれのマークがある。

 その三隻を見たテスタメントは、前回の大規模クエストの宇宙で活躍していたヴィクトリア級万能戦艦であると認識し、味方だと判断した。


「娘たち、アレは味方です。攻撃しないように」


 一方的に七姉妹に知らせ、マナの力を使って三隻に通信を試みた。

 自身を中心に三つのモニターが展開され、同時に繋がった。


「こちら『自由海軍』、あなたは?」

「こちら『ホワイト運送』、何か御用で?」

「こちら『レッドハート海賊団』、いきなり何?」


 三人の艦長はそれぞれの声が聞こえ、モニター越しに馴染みのある顔を見て察し、テスタメントが何を言うのか黙った。


「私は人類守護AIシステム、テスタメント。あなた方にお願いがあります。こことは別の場所で戦うプレイヤーを援護した後、彼らと共に裂け目の向こう側へ突入してジエンド・マザーを撃破してください」

「……なるほど」

「それは依頼ってことでいいのか?」

「オッケー! 全速前進!」


 冷静に事態を把握した『自由海軍』リーダーのフリード・フリーデンと、取引と見て交渉に入った『ホワイト運送』のホワイト・ジェントルマンだったが、直感で即決したシア・レッドハートの戦艦ヴィーナスがエンジンを強く吹かせて先行した。


「あっ、しまった! カクタ、追え!」

「はいよ」


 一番乗りで格好よく颯爽と助けに入る手筈を考えていたホワイト・ジェントルマンは、すぐさま戦艦ヴィーナスを追った。


「ゲートの使用許可を取ったのは僕なんだけどな。テスタメントさん、元よりそういう作戦を考えていたので、ご心配なく。では」


 緑色の戦艦ローズマリーは、離れる際に船体を斜めにして後部の主砲と副砲でビームを発射し、射程圏外になるまで援護して行った。






 巨大な塊と巨大宇宙船の二つが突き刺さる、既に廃墟となった都市部では侵食がかなり進行していた。コンクリートやアスファルトだった物はカビのような物とぶよぶよぐちょぐちょの肉のような物に覆われており、それらが一塊になった場所は卵を生成し、新たな寄生型のジエンドを生み出していた。

 また、現地にいたロボットやドローンなどは侵食された土地の上で戦っていたせいで徐々に体を侵食され、数分程度で新たなジエンドとなって味方だった筈のロボットやドローンを攻撃していた。

 近くを飛んでいた宇宙船も侵食された航空機に特攻紛いの攻撃で貼りつかれて装甲から内部に侵食され、徐々に機能を奪われて火器管制が乗っ取られ、同士討ちを始めていた。


 戦闘区域に到着したプレイヤーたちの中で、先行していたTAは空中戦を始めていた。亜空間換装システムによって適切で扱い慣れた武器をそれぞれ選び、ベネットは連射力と命中精度を重視した実弾のアサルトライフルとミサイルで迫って来る侵食された航空機を撃破しながら、侵食されて敵となった中型の宇宙船のエンジンを破壊して撃墜していた。

 ルイスやアズキも同じように戦っていたが、ハカセとルーナは違った。


「クックック……ゲーム『イレギュラー』では自重していたが、一度実戦で使ってみたかったのだよ!」


 ジエンドの攻撃が及ばない場所から興奮気味にハカセが換装したのは、両肩を使ったオリジナルウェポン『ニュークリアマナキャノン』を展開した。背負っていた折り畳み式の巨大なバズーカが動力によって組み立てられながら右手で掴みやすい位置まで動き、アームによって支えられながら構えの姿勢に入った。左腕はバズーカの固定と同時にカウンターウェイトを兼ねた盾に使われ、アンバランスな重量を少しでも緩和した。

 コアと直結したマナエンジンが稼働を始め、周囲にマナ粒子を撒き散らしながらもバズーカ内部に圧縮されたマナが充填を始めた。

 それは五秒以上も掛かり、まともに動けなくなるので今まで実戦で使えなかったロマン砲である。


「さぁ、宇宙船相手にはどれ程かな?」


 引き金が引かれ、圧縮されて濃い緑色になったマナの砲弾が超高速で発射された。それは侵食されて敵となった、少し離れた位置にある千メートル級の宇宙船目掛けて飛んで行き、船体側面に当たると半径数百メートルに及ぶマナエクスプロージョンを発生させ、ほんの数秒だけ緑の太陽を作り出した。

 マナの爆発が収まると、宇宙船は跡形も無く消し飛んでいた。


「クックック……フフフフフ……ハーッハッハッハッハ! 流石は私だ! TAでこれ程の威力!! しかも何発も撃てて、機体にダメージは一切入らない良心設計! 欠点と言えば、やはり重過ぎて固定砲台になるしかないところか……まぁ、こういったカモ撃ちの状況なら使えることが証明された。続けようか」




「よし、ここなら誰もいないね」


 ハカセが宇宙船を狙い撃つ一方、ルーナは誰もおらず侵食された航空機が多い場所でオリジナルウェポンを展開した。

 両肩に背負っていた大きな筒状の二つの機械が動き、機体の正面に移動して両手で掴むと、頭上と真下と後方以外を覆う程に敷き詰められた数百の砲門が展開された。ルーナが開発した『トライポフォビア』という全周囲ビーム発射機である。

 元々は通常兵器の近接迎撃装置として開発したものだが、出力とフレンドリーファイアの問題から採用出来ず、もしTAに乗る機会があったら使おうと作成したきり倉庫の埃になっていたものだ。


「じゃあ、殲滅してあげる」


 チャージは僅か二秒ほどで完了し、引き金を引くと全ての砲門から一斉にビームが発射された。威力はベネットやハカセが使う魔改造のビームライフルと同等であり、砲門は射線を変える為に横列ごとに左右に動いて五回も発射された。

 充填分の発射が終わると、TAタイタンに搭載されているレーダーの影が、自身を中心としてごっそりと減っていた。


「あはははははは、やっぱり私の設計は間違ってなかった! 惜しむらくは通常兵器に積めないことと視界が悪くなること、単独行動専用ってところだね」





 ――上空で派手な戦いが繰り広げられている頃、輸送機からパラシュートで空挺降下したプレイヤーたちが、カビと肉に変わり果てた廃墟の都市の大通りに立っていた。

 当然の権利のように、プレイヤーに対して侵食は発生していないが、周りの環境と足裏から伝わる何とも言えない感触は誰しもがいい顔をしなかった。


「うげぇ、私こういうの駄目なんだよね」


 チーム『円卓の騎士』の一人、槍使いの少女ラモラックが嫌そうな顔をして片足を上げれば、足元のぐにょぐにょぐちょぐちょしたカビや肉の地面からねちょりと糸が引いた。


「先生もちょっと、あんまり長居したくないな」


 魔術師であるマーリンも嫌な顔をしつつ、弱点が火であることから早速無詠唱で【ファイア】を発動し、長杖の先端から小さな火炎放射を出して地面を炙った。

 すると、カビや肉はまるで溶けるように無くなり、赤黒い粒子が少し浮かんで消えた。


「良かった。ちゃんと火が効くみたい」


 火による攻撃が有効だと確認が取れたところで、ランスロットは倒壊したビルだっただろう肉の丘の上から、狙撃専門のパーシヴァルと共に偵察しているアーサーに向けて言った。


「アーサー、火属性が有効なのは確かなようだ。そっちはどうだ?」

「ああ、向こう側には気色悪い連中がうじゃうじゃいるっすよ。これ、接近戦より魔法で範囲攻撃した方が良さそうっす」

「だそうですよ、先生」

「ええー、私がやるの?」


 マーリンは嫌々ながらも地面を火で炙ってまともな道を作りつつ、アーサーとパーシヴァルのいる肉の丘に上がった。

 それに続いて他のプレイヤーも丘に上がり、ひょっこりと顔を出して高所からこちらに向かって来るエネミーの軍団を見た。

 新種のジエンドのエネミーの他に、ここにいたロボットやドローンが侵食されて内側から肉塊の生物が顔を出していた。いずれも名前が“?”の文字となって伏せられており、どういった存在なのか分からなくなっていた。


「……これだけの数となると、マジックポーションが幾らあっても足りないな」

「先生は遠方の敵をお願いするっす」

「あっ、ちょっと!」

「やれやれ……」


 アーサーは補助魔法の類も無しに丘を駆け下り始め、呆れたランスロットもそれに付き合って行ってしまった。

 エネミーは二人に気付くと、丘から見ているプレイヤーたちにも気付き、一斉に駆け出し始めた。同時に遠距離攻撃も始まり、銃弾や粘性の強い液体の弾が吐き出されて丘の上まで届いた。

 戦いが始まったことで他のプレイヤーも行動を始め、近接攻撃を得意とするプレイヤーは丘から駆け出し、遠距離攻撃を得意とする銃を持つプレイヤーや魔法を使うプレイヤーは丘から援護を始めた。

 先頭を走るアーサーとランスロットは銃弾を弾き、液体弾を躱したり魔法障壁で防ぎながら自前でマジックスキル【ファイアエンチャント】を使って剣に炎を纏わせてエネミーを切り掛かり始めた。

 歩調も合わせずに猪突猛進する二人に、リアル教師で指導する立場にあるマーリンは頭を抱えた。


「もうっ! あの二人は言うこと聞かないんだから!」

「先生、俺たちにはエンチャントお願いします」

「あいつらだけに任せられないしね」

「うん、ガウェインもラモラックも二人をお願いね。【ファイアエンチャント】」


 ガウェインの両手剣、ラモラックの槍に火属性が付与されると、二人は丘を降りてアーサーとランスロットの下へ駆け出した。

 ふとそこで、一人見当たらないことに気付いた。


「……ところで、ベディヴィアは?」


 マーリンの言葉に、狙撃による援護を始めていたパーシヴァルとマーリンを守る為に盾を構えていたトリスタンは辺りを見渡した。


「……いませんね」

「探しに行きます?」

「うーん、まぁ、あの子は優秀だし放っておいてもいいでしょう。横からの奇襲を察知して対処に行ってそうだし」

「……女の勘ですか」

「先生がそれでいいなら……まぁ」


 エネミーからの射線が通らない位置ではアイドルであるモチが携帯用のステージを出してその上に立ち、曲を流して歌い始めた。周辺プレイヤー全員に強力な全能力上昇のバフが入ってプレイヤーたちの勢いが増したが、その音を聞きつけて空から侵食された航空機が正面から降下して来て対地ミサイルを二発発射した。

 一発は素早くパーシヴァルが狙撃で撃ち抜いて破壊し、もう一発は銃を持つプレイヤーが総出で弾をバラまいて破壊した。

 寸でのところで着弾を阻止したが、先ほどミサイルを発射した航空機が今度は背後から襲い掛かろうとした。


「狙い撃つ!」


 パーシヴァルが対物ライフルを航空機に向けて【チャージショット】で狙いを定めた。

 だが、引き金を引く前に航空機の直上から二発の弾丸が正確に撃ち抜き、爆発して赤黒い粒子となって消滅した。

 直後、音を聞きつけたアズキのTAブラックハウンドがプレイヤーたちにブースターの噴射熱を当てない位置で降りて来て、無事なことを確認するとすぐに動いてモチとついでにプレイヤーたちの防衛を始めた。





 その頃、単独行動しているベディヴィアはエネミーが回り込んでいる細い横道にいた。相手は侵食されたスティックソルジャーの少数部隊であり、細かった機械の体は肉が血管のようにこびりつき、頭部からは短い触手がイソギンチャクのように生えている。

 ベディヴィアは弾道予測線から出る赤い線を動き回って逸らせ、撃たれた銃弾を光剣で弾きながら近づき、集団の中を通り抜けるように切り刻んで倒した。

 スティックソルジャーたちは赤黒い粒子となって消滅した。


「……まだ来ますか」


 邪悪な気配を察知して光剣を構えて待てば、正面から五体のニンジャが漫画やアニメなどでよく見る独特な忍者走りで接近して来た。ただ、そのニンジャも侵食されており、体は肉がこびりつき、左腕が肉に覆われ禍々しい口になっている。背中からは先端が刃物になった触手が二本生えている。頭部から短い触手がイソギンチャクのように生えている。


 ニンジャのうち二体が左右に分かれて原形をギリギリ保っている建物の壁を走り始め、三体が横に広がり、五体が同時に手裏剣を投げた。

 ベディヴィアは光剣のスイッチを切って柄だけにしてから上に放り投げ、飛んで来る手裏剣の軌道を読んで前に踏み出しつつ体を捻じって躱した。そのまま流れるように二丁一対のユニーク武器、水平二連のソードオフ・ショットガン『オルトロス』を両手に取り出した。


 オルトロスは赤と黒の色合いをしており、火と闇の複合属性となっている。武器そのものに付与されているスキルは【自動装填】、【弾速強化Ⅴ】である。


 素早く壁走りするニンジャを撃って地面へ落とし、正面から来る三体のうち左右の二体を撃って怯ませた。

 残りの一体がそのまま近づいて来たところで弾切れのショットガンのトップレバーを操作して空薬莢を排出し、そのまま上に放り投げた。宙を舞うショットガンの間から落ちて来た光剣を空いた右手で掴んでスイッチを入れ、光熱の刀身を出してニンジャの左手の口の噛みつきを躱しながら胴体を真っ二つにして切り捨てた。

 胴体が別れたニンジャは赤黒い粒子となって消え、光剣のスイッチを切って腰のベルトに提げてから、【自動装填】で装填が終わった二丁のショットガンを掴んだ。怯んで出遅れた二体のニンジャをギリギリまで引き付けて至近距離で胴体目掛けて撃って吹き飛ばして撃破し、さらに地面に落ちて連携をし損なった残りの二体を同じように撃破した。


「……弱い。これじゃあ、強くなれない」


 他愛ない強さのエネミーにベディヴィアは独り呟きつつ、また弾切れになったショットガンの弾を装填した。


 そして、目には見えないが強い気配のする方向に向けてショットガンを撃った。

 すると、道の真ん中の十メートルもしない距離で何かに小粒の散弾が当たり、透明な何かが歪み、見つかったことを認識して光学迷彩を消して姿を見せた。


「デストロイヤー?」


 侵蝕によって分厚い装甲の内側から肉が溢れ出し、頭部から短い触手が生えてギリギリ原型が見える程度でベディヴィアは確証を持てなかった。

 攻撃態勢に入った目の前のエネミーは右手の光剣を起動して高熱の刀身を伸ばし、光学エネルギーを利用したビームシールドを左手から展開した。


「あの時はベネットのせいで戦えなかったけど、どれほど強いのかしら?」


 ベディヴィアは手始めにショットガンを撃ちながら接近した。属性が付与され魔力がコーティングされた散弾はビームシールドを貫通こそすれど減衰され、通過した頃には全て弾かれた。盾で隠れていない脚などに当たったとしても、脚の形状に合わせた傾斜装甲のせいで大半が弾かれた。

 これ以上は必要無いと判断してインベントリに仕舞い、腰に提げていた光剣の柄をアクティブスキル【念動力】で掴み取ってスイッチを入れ、素早く振るった。

 だが、今までのエネミーと違って反応が段違いに良く、内側から透けて良く見えるビームシールドも相まってベディヴィアの攻撃では全く隙を見せなかった。

 それどころか、光剣一本に対し光剣と盾という装備の差でベディヴィアは押され始めた。


「くっ! 【ボルトウィップ】」


 マジックスキルで左手から電気の鞭を出してエネミーの片足に絡めたが、相手がロボットという人間とは比較にならない重量物であることが焦りから抜け落ちていて、自身のあまり成長していないSTRも相まって引っ張ってもビクともしないことにやってから気付いた。


「きゃっ!」


 さらにタイミング悪く、電気の鞭を引っ張って伸び切ったところを光剣で切断されてバランスを崩し、僅かな段差に足を引っ掛けて可愛らしい悲鳴を上げながら尻餅を着いた。


「っ! しま――!」


 目の前に立ち、振り上げられたエネミーの光剣を目にした直後、背後の空から突然現れ、不敵な笑みを浮かべながら大きな鉈を振り下ろす左目に医療用の眼帯をした赤いドレスの少女が目に入った。


「【死刑執行】」


 不意打ちによる即死の一撃でエネミーは脳天から股下まで真っ二つに両断され、赤黒い粒子となって消滅した。


「ウフフフフ……不甲斐ないですわね。ベディヴィアさん」


 不敵な笑みを浮かべながら手を差し出したのは、チーム『円卓』のリーベだった。ベディヴィアはバツが悪そうに手を掴んで立ち上がった。

 そして、真っ先に思い浮かんだ疑問をぶつけた。


「リーベ、どうやってこの世界に来たの? この世界、今は転送装置が使えなくて封鎖されているって聞いたけど」

「確かに封鎖されていましたわね。でも、次元を超えて別の世界へ行く方法は幾つか存在しましてよ。わたくしの場合、ちょっと神様に()()()してこちらに来ましたの」


 お願い、という言葉が強調されたことで、ベディヴィアはリーベが碌でもない手段で強要させたのだと察してドン引きした。


「……そう。じゃあ、私のところまではどうやって来たの?」

「転移魔法ですわ。【ダークゲート】と、この通り」


 リーベは真横に、闇属性による真っ暗闇の転移門を作成してみせた。

 最早人外の域にあるリーベを前に、ベディヴィアはそういう奴なんだと決めつけて納得することにした。


「……そのゲート、行き先は?」

「あなたのお仲間もいるであろう、プレイヤーの皆さまのところですわ」

「そう。ありがとう」

「どういたしまして」


 リーベの後に続いて、ベディヴィアはゲートを潜り、チームメンバーの元へ帰還した。






 エネミーが来ない遥か上空、遥か遠方にて。


 オウカとソルシエールことルシェは実体化した魔法陣の上に立って、マジックスキル【マジックレンズ】で魔法の虫眼鏡を使って見える景色を拡大し、戦いの様子を俯瞰していた。

 オウカの手にはユニーク武器の魔剣レーヴァテインと魔杖イフリートがあり、空中にはレア武器である賢者の杖が浮いている。さらに回りには炎が消えることなく浮いていて、全能力を上昇させていた。

 ルシェの手には短い杖であるタクトと何の変哲もない三又槍があり、空中にはレア武器『水の宝玉』が二つ浮いていた。

頭上には小さな雲から雨が止めどなく降り、足元まで落ちるとまた浮いて雲に吸収されて降るというサイクルを繰り返していた。


「……派手にやっているな。全く被害も無い」

「よくこれだけの人数でやれていると感心するよ。それで、魔力の圧縮は済んだ?」

「ああ、これだけの時間を掛けたんだ。あの気持ち悪い肉の塔くらいなら、一撃で消し飛ばせる」

「私も同じかな。あの巨大な宇宙船、消滅させるだけの圧縮は済んだ」

「なら、もうその偽装は止めたらどうだ? 今回の攻撃で、完全に実力が露見するぞ」

「……そうね。ここらで頭角を現しておいた方が、チームの宣伝になるか」


 ルシェが偽装魔法の一種、マジックスキル【ディスガイズ】を解除した。

 すると青色の魔女らしい格好が変わった。シースルーの青いローブを羽織り、龍の鱗やヒレのような物で胸部やスカートを装飾したノースリーブでホルターネックタイプの青いドレスになった。頭のトンガリ帽子も、縦長の瞳があるサファイアのような青い宝石が付いたティアラに変わり、足にはガラスのように透明感のある青いヒールブーツになった。

 この防具は、以前の大規模クエストで見せたユニーク防具『水の魔女』ではない。スキル【ディスガイズ】によってデータも偽装されていたものであり、本当はユニーク防具『水龍姫』シリーズという、水属性に特化した防具だ。

 また、何の変哲も無かったタクトも変わり、海の神獣リヴァイアサンの髭から作られた捻じ巻き状の杖、ユニーク武器『神杖リヴァイアサン』になった。三又槍も青い宝石が埋め込まれた神々しさのある見た目に変化し、ユニーク武器『神槍トリアイナ』になった。


「それじゃあ、始めましょうか。龍でいい?」

「ああ、派手だしそれで行こう」


 二人は同時に杖を構え、標的を肉の塔と巨大宇宙船とした。


「【深海水龍】!」

「【爆轟炎龍】!」


 肉の塔と巨大宇宙船をそれぞれ覆うほどの巨大な魔法陣が二つ、上空に展開された。その魔法陣から、まるで召喚されたように巨大な炎の龍と水の龍が出現し、肉の塔と巨大宇宙船を口から丸呑みにした。

 水の龍が一飲みにした巨大宇宙船は凄まじい水圧によって、戦闘を前提として装甲化された耐圧構造にも関わらず、十秒も持たずに圧壊し、最後は龍が弾けて水をまき散らし、巨大宇宙船は赤黒い粒子となって消滅した。

 その隣では、炎の龍が一飲みにした肉の塔は内部の灼熱に表面が一瞬で灰となり、内部まで燃え始めたところで龍そのものが大爆発を起こしてキノコ雲を形成した。肉の塔は煙が晴れるまでも無く赤黒い粒子となって消滅した。


「オウカ、ちょっと威力高過ぎない? 他のプレイヤー巻き込んでるでしょ」

「う、うむ。やっておいてなんだが、私も心配になってる」


 地上は黒煙で良く見えなかったが、少しして晴れてからオウカは【マジックレンズ】でプレイヤーたちの安否を確認した。

 すると、大きくて真っ黒な四角い壁で守られているのが見えた。真っ黒な四角い壁が消えると、その中心にリーベが立っているのが見えた。


「リーベ……いつの間に?」


 どうやってこの世界にやって来たのか気になっていると、リーベは振り向いてニッコリと微笑んだ。


 ――っ、目が合った。この距離で?


 驚いて魔法の虫眼鏡を消したところで、ふと気付く。


「むっ! 裂け目が……小さくなっていく」

「どうする? 乗り込む?」

「うーむ……」


 片道切符であろう突入の判断を迫られる中、背後から戦艦が三隻、裂け目に向かって飛んで来ているのが見えた。前回のダイジェスト映像で見覚えのあるプレイヤーが所有する艦だと分かると、いい考えが思い浮かんだ。


「ルシェ、アレはどうやら突入する気のようだ。乗せてもらうとしよう」

「となると……プレイヤーを乗せる気だったっぽい、低空を飛んでる白い方に転移だね」

「ああ」


 オウカとルシェは、それぞれの属性の転移魔法を使って僅かに減速した白い戦艦マーベラスの甲板に転移した。





 宇宙戦艦マーベラス、艦橋。


「カクタ、もっと速度を落とせないか?」

「これ以上は無理だ。突入に間に合わなくなっちまう」

「……連れて行けるのはイレギュラーたちだけか」


 艦長のホワイト・ジェントルマンは小さく溜息を吐いた。

 活躍の場が無くなったのと、頼まれた仕事を完遂出来ないことが少しだけ悔しいというのもあるが、裂け目の向こう側から、何か途轍もなく嫌な気配を感じて胸騒ぎがするのだ。例え戦力として微々たるものだったとしても、プレイヤーを回収して用心をしておきたいと思っていた。

 だが、先ほどの大規模な魔法によって討伐対象が一撃で消滅し、裂け目の向こうにいるであろうジエンド・マザーやジエンド・ルーラーが撤退の判断を下して回収の時間が無くなってしまった。

 既に指示を出し終えて報告を待つしかないホワイト・ジェントルマンに、通信士を務めている種族ケモミミで和風巫女服を着た猫耳少女のミーコが声を上げた。


「報告! TA五機が誘導に従い着艦を完了したよ」

「ん、パイロットたちにはすぐに次の出撃があるから、待機してもらうように伝えて」

「わかりました」

「アカシ、あんたも準備してくれ」

「……ああ」


 近未来の黒いバトルスーツに赤い鬼の面を被っていた男、アカシは畳の上で指していた将棋を止めて立ち上がり、艦橋から出て行った。


「ヴィオラ、突入前に武装の状態を再確認して戦闘準備をしておいてくれ」

「もう済ませてあるですよ」


 趣味で紫のドレスを着ている、一見するとヒューマンにしか見えない種族サイボーグの紫のポニーテールの少女、ヴィオラは今にも攻撃したくてうずうずしていた。


「……間違っても中に入るまでに撃つなよ?」

「分かってるです」


 ヴィオラが暴発しないことを心配していると、艦橋に警報が鳴り響いた。


「ナニゴト!?」

「艦長! 甲板に侵入者だよ。モニターに映すね」


 甲板の様子を見るカメラが、艦長席の斜め上にあるモニターに表示された。

 そこにはそれぞれのゲートを使って来たオウカとルシェに加え、リーベと、足元にゲートを開かれて不意打ちで甲板に落とされ、痛めた箇所をさするプレイヤーたちがいた。


「……ミーコ、どうやら敵じゃないみたいだ。警報を切ってくれ」

「はーい」


 ミーコがすぐに警報を切ると、ホワイトは艦長席のひじ掛けに備わっている館内放送用の受話器を手に取り、甲板に繋いで言った。


「あー、あー、プレイヤー諸君、そこにいたら何が起きるか分からないから、とりあえず艦内に入ってくれ」


 受話器を置き、ホワイトはミーコに向けて言った。


「ミーコ、お客さんの誘導を頼む。それと、いざという時の為に備えるよう指示もな」

「分かりました」


 ……いよいよか。


 突入を前に、ホワイトは改めて気を引き締めた。


 



「さてさて、ジエンド・マザーとやらの姿、拝ませてもらいますか」


 真っ先に突入した戦艦ヴィーナス、その艦長であるシア・レッドハートはピリピリした気配を肌で感じつつ、恐怖心をスリルとして胸を躍らせながら空間の裂け目の奥へ入った。

 裂け目の向こう側は赤黒い空間だった。赤黒い粒子も漂っており、踏み入れた誰もが邪悪な気配を感じ取った。



「…………は?」



 シアから間抜けな声が漏れた。

 それもその筈、千を超える侵食された宇宙船が立体的な鶴翼の陣形で待ち構えており、その後方には先ほど地面に刺さっていた大きな肉の塔と、イカやタコを模倣した肉塊と触手の巨大なエネミーが控え、最奥では侵食された機械仕掛けの星と、月ほどの大きさの星一つを侵食した肉の星があった。さらに、取り付くことが目的の侵食された航空機やクモ型のエネミーが無数に飛んでいた。

 完全に待ち伏せされた状態だったのだ。


「回避っ!!」


 シアが叫び、操舵手のクルーが取り舵一杯にハンドルを曲げて回避行動を取った。

 直後、宇宙船の主砲と副砲からビームが発射され、なんとか躱した。

 遅れて入って来た戦艦ティターニアと戦艦マーベラスも咄嗟の回避行動でギリギリ躱した。

 三隻対千以上という状況で取れる選択肢は多くない。

 シアは、自分の直感と同型艦を操るフリードとホワイトが意図を察してくれると信じて、即座に決断した。


「あたしらは左側面に回り込む。端の奴から狙って攻撃開始! それとマックス、出撃して!」

「艦長の頼みとあれば、喜んで!」


 通信士のマックスは背後にある転送装置で格納庫へと移動した。


 マックスは炎の模様が描かれたパイロットスーツに着替え、SAが固定されているハンガーへ移動して乗り込んだ。

 マックスの機体は積載量を増やす為の重量二脚型で、炎の塗装が描かれているのが特徴的な真っ赤な機体だ。名前は『バレットシャワー』という。


 SAファイアストームがエレベーターに乗り込み、外へ出た。

 既に戦艦ヴィーナスは全ての武装で攻撃を開始しており、閃光と爆発が止めどなく発生していた。


「SAファイアストーム、出るぞ!」


 発進し、亜空間換装システムから武器を装備した。


 両手にガトリングガン、外側の両肩にビームガトリングガン、内側の両肩に多数同時発射型のマイクロミサイルという構成である。


 宇宙船のビームやミサイルを躱しつつ、早速飛んで来ている侵食された航空機や肉の塊の迎撃に入る。

 だが、あまりにも数が多い為、すぐに戦艦ヴィーナスに多数の航空機やクモのエネミーが襲い掛かった。

 バリアが防いでくれるが、仲間諸共当てるつもりで撃って来た宇宙船のビームが直撃し、バリアが過負荷となって消え、航空機やエネミーに貼り付かれた。


「くそっ!」


 マックスはすぐに戦艦ヴィーナスの傍まで戻り、貼り付いたエネミーを撃破していくが、航空機に貼り付かれた場所は溶剤を掛けたかのように装甲が溶けており、そこから内部に侵入している人間と似ても似つかない人型の化物が見えた。


「艦長! 艦内に何か入ったのが見えました!」


 その声に返事をしたのは、副官であるナビィだった。


「既に艦長が対応に動いています。マックスは心配せず、迎撃を続けてください」

「艦長が?」

「大丈夫ですよ。シアは()()ですから」

「……分かった」



 マックスが迎撃を続けていると、突如として纏わりつく航空機やエネミー、まだまだ襲い掛かる多数に対して爆発が起きた。


「なんだ!?」


 同時攻撃が可能な武器を持つSAの援軍かと辺りを見渡せば、わざわざSAファイアストームの前に姿を見せたのは『炎皇』オウカだった。

 マイクをオフにしていなかったので彼女が何を言ったのか聞き取れなかったが、口の動きからマックスは理解した。


 ――援護する、と。





 戦艦ティターニアは、シア・レッドハートの意図を瞬時に理解したフリード・フリーデンの指示により、右側面から回り込みを始めていた。

 こちらも同様に侵食された航空機やクモのエネミーに接近され、宇宙船からのビームやミサイルで危機的状況に陥っていた。

 だがしかし、艦長フリードは落ち着いてチーム『メイド愛好会』のメイド、ローズマリーが淹れたミルクティーを飲んでいた。


「……ふぅ。やっぱり、ローズマリーの淹れた紅茶は美味しいですね」

「ありがとうございます」

「艦長! 呑気にしている場合じゃないでしょ!」

「そうですよ艦長! スラスターの一部が壊れて、舵が効き難くなってるんですよ!」


 通信士フレイヤと操舵手ノルドから文句を言われるが、フリードは意に介さずローズマリーから差し出された一口サイズのスコーンを口に入れた。


「はいほーぶ。ふでふはひふへふへっへる」

「なんて?」

「艦長はこう仰っています。『大丈夫、既に役目は果たしてる』と」

「どこがですか!」


 フレイヤのツッコミに、スコーンを飲み込んだフリードが改めて言った。


「大丈夫ですよフレイヤ。シアもホワイトもちゃんと理解したうえで戦力を分散させたのです。この咄嗟の作戦で、両翼を担う私たちを見捨てることはあり得ません。時間的にそろそろ――ほら来た」


 カメラからの光景を映すモニターには、二人のプレイヤーが戦艦の傍に転移魔法で出現した。一人はルシェ、もう一人はリーベだ。

 ルシェは神槍トリアイナの先端から極太の水を放出し、まるで龍を操るが如く、水を途切れさせず数キロ以上に伸ばして次々と航空機やクモのエネミーを撃破した。

 リーベは自ら動くことは殆どせず、肉体を持たず侵食される心配が無い幻影騎士団を数百人単位で召喚し、戦艦ティターニアの護衛に当たらせた。


「さぁ、僕たちは予定通り側面から敵を叩きつつ、接近しますよ」






 両翼に展開した戦艦ヴィーナスと戦艦ティターニアは、多少のダメージを負いながらも順調に接近を始めていた。シアの思惑通り、ジエンドの攻撃も三方に分かれており、宇宙船は包囲網を形成せずに陣形を維持して戦っている。

 ただし、最後に空間に入った戦艦マーベラスは中央突破を図っており、ジエンドの攻撃は苛烈を極めていた。

 展開しているSA四機とベネットのTA一機が艦の防衛と露払いをしているが、それでも限度があり、既にバリアが消え、第一副砲が吹っ飛び、四基のレールガンが壊れ、一部機銃と速射砲が破損し、船体に穴が空き、艦内に寄生型のジエンドが侵入する悲惨な状態となっていた。


 ……全く、貧乏くじを引かされたな。


 ホワイトはシアとフリードの二人の咄嗟の行動で即興の作戦を理解し、こうして吶喊しているが、内心では後悔していた。

 ただ、後悔は半分であり、このピンチで狂ったシチュエーションに燃えている自分がいることも自覚していた。

 仲間も同じ気持ちであり、泣き叫んだりする者は誰もおらず、まだ戦艦マーベラスも沈んでいない。

 それもこれも、左右に展開した戦艦が相手に圧力を掛け続け、下手に戦艦マーベラスだけを狙えないからだ。

 

 着々と接近している中、通信士のミーコが声を上げた。


「敵、正面最奥から高エネルギー反応!」

「来たかっ!」


 三方に別れた意味の一つ、回避不能の範囲攻撃を予想していたホワイトはカメラ越しにモニターで目視した。

 最奥の左側にある機械仕掛けの巨大な星の一部、巨大なパラボラアンテナとタワーを組み合わせた出っ張りにエネルギーが溜まり始めていた。

 狙いは自分たち戦艦マーベラスであり、仲間である筈の宇宙船諸共消し飛ばす気のようであることが分かった。


 ――勝ったな。


 フッと笑みを浮かべたホワイトはすぐさま指示した。


「ヴィオラ、チャージしていた超重力砲をぶっ放せ!」

「待ってましたです! 発射シークエンスなんて省略です!」

「味方機、射線上より退避したよ」

「てー!」

「あい! 発射!」


 メインエンジンであるブラックホールエンジンから直結した艦首主砲から、重力波で形成されたエネルギー体が一条の光となって飛んで行った。

 太く真っ直ぐ飛んだ光は直撃した宇宙船を赤黒い粒子ごと消滅させ、余波ですら装甲を砕いて破壊し、エネルギー発射寸前のタワーはそのまま撃ち抜かれ、溜め込んでいたエネルギー共々ダメージが内部まで伝搬し、大小さまざまな爆発を起こしながら崩壊を始めた。


「しゃあ! ダメージありです!」

「流石だヴィオラ! どんな相手でも攻撃の瞬間は必ず隙が生じる。特に銃や大砲なんかは口が弱点だからな。狙い通りだ」


 ガッツポーズをしたのも束の間、側面にまともにビームを食らった戦艦マーベラスは横に大きく揺れた。


「右舷に被弾だよ!」

「ダメコン急げ! 艦内戦闘中のアカシはどうしてる?」

「えっと……右舷側の通路で戦闘してたみたいで、放り出されたのか外に反応があるね」

「あっそう。生きてるよな?」

「うん、生きてる。あっ、中に戻って来た」

「……」


 本当に人間なのかとホワイトは疑ったが、深く考えると沼に嵌まりそうだと思って気にしないことにした。


「カクタ、航行に支障は?」

「まだ無い。だがこれ以上損傷が増えると、どうなるやらわからねぇ」


 正直、もう役割は果たしてるんだよなぁ。


 ホワイトは刻一刻と変わる状況下でチラリとレーダーを確認した。

 二隻の戦艦は順調に接近しており、自分たちが乗る戦艦マーベラスはもうすぐ防衛線を突破する。SAに乗り換えたイレギュラーたちに指示を出して先行させれば、肉の星へ手が届く距離に来ていた。

 シアとフリードに頼んで超重力砲を星に撃ってもらうことも考えたが、肉の星が爆発四散するとも思えず、効果は薄いだろうと思った。


「……ミーコ、イレギュラーたちに伝えてくれ。『ここまでの護衛感謝する。先行して本体を叩け』とな」

「……分かったよ」


 同じ艦に乗っている時点で一蓮托生の覚悟を決めていた仲間は誰も反対せず、ミーコが素早くイレギュラーたちに伝文を送った。






 他のイレギュラーがSAに乗って戦う中、ベネットは一人TAアウルムで戦っていた。全長がSAの半分程度と小型である以外、全てのスペックが大きく劣るTAでは積極的に前に出ることも出来ず、専ら戦艦マーベラスの護衛をしていた。

 それによりエネミーに貼り付かれることは少なかったが、ビームの直撃でいよいよ状況が悪くなったところで伝文が届き、内容を読んで何とかしなければという思いが強くなった。

 同時に、突入前に呼んでも出て来ないSAサルバトールにキレた。


「いい加減に出て来いよ、サルバトール!!」


 声が届いたのか、黄金の機体に緑の模様を浮かべたSAサルバトールがゲートによって次元の壁を超えて出現した。同時に、速度を合わせながら戦艦マーベラスごとマナバリアで包み込み、ベネットが安全に乗り移る準備を整えた。


「全く……最初から出て来てくれよ。【TA・収納】」


 TAアウルムを戻し、ベネットは胴体に開いたコックピットへ乗り込んだ。オールリンクシステムによって機体と一体になったところで、視界に文が表示された。


『世界を救え』


「そんなことは分かってる。今いる仲間を救えなくて、世界が救えるか?」


 その言葉に、数秒の沈黙をしてからSAサルバトールは答えた。


『仲間も救え』


「フッ、当然!」


 ベネットはSAサルバトールを本格的に動かして戦艦マーベラスの艦首に立つと、亜空間換装システムから武装を装備した。

 両手にマナライフル、両肩にマナキャノンと多弾頭マナミサイル、腰武器にビームランチャーだ。

 手始めにマナミサイルを景気良く大量に発射し、分裂したマナミサイルがベネットの思念とSAサルバトールの自動制御によって周辺の航空機とクモのエネミーの大半を撃破した。

 続いてマナライフルを撃てば、通常のビームライフルの比ではない出力で、圧縮されたマナ粒子が極太の緑のビームとして発射された。射線上の宇宙船と航空機などを直撃せずとも至近弾で消し飛ばし、射程限界の数百キロ先まで飛んで消えた。

 さらにダメ押しでマナキャノンを未だ密集して残っている宇宙船に向かって撃てば、圧縮されたマナの塊が大爆発を起こし、大規模なマナエクスプロージョンとなって消し飛ばした。

 それにより、拡散した大量のマナ粒子が侵食された航空機やクモのエネミーの表面を溶かすようにダメージを与え、動きが鈍り始めた。

 赤黒い粒子もマナ粒子によって相殺され、赤黒かった空間の色が薄まり始めていた。


 戦い続けながらも戦艦マーベラスとSA五機は進み続け、遂に肉の星まで辿り着いた。


「うえっ、降りたくないな」


 ベネットが思わず声を上げたのは、カメラを拡大して表面を見たからだ。星の表面は様々な種類の大量の肉塊のエネミーやカビに埋もれたエネミーが蠢いており、花のように表面から外へ伸びている肉の塔からは、無尽蔵にエネミーが生み出されていた。

 特にクモのエネミーが多く、生み出されてすぐに襲い掛かって来たので、ベネットはマナライフルを撃ち込んで殲滅しつつ肉の星に幾つもの穴を開けた。

 だが、凄まじい生命力によって穴はみるみるうちに塞がり、空いたスペースに地表から新たなエネミーが誕生していた。


「本体を叩かないと駄目か。どこだ?」


 夥しい数の邪悪な気配の中から本体を探ろうと意識を集中した。鋭過ぎる感覚が仇となり、ベネットは悪い気に当てられてみるみるうちに気分が悪くなり、吐き気を覚えた。


「……こっちか!」


 それでもなんとか違う気配を察知し、ベネットが飛び立つと他のイレギュラーも追従し、その後ろを戦艦マーベラスが付いて行った。

 最早まともな戦力が殆ど残っていないジエンドの対処をしつつベネットたちが到着したのは、空間の裂け目から見えない位置にあった巨大な肉の塔だった。

 ただ、普通の肉の塔と違い、まるで四肢の無い女性を模したような形状をしており、その腹部は大きく膨らんでいた。

 ベネットたちの目の前で腹部が動き、臍と思われる部分から肉の塔が吐き出された。


 前と同じなら……やはりいた!


 ベネットが以前の経験を基に女性型の塔を観察すれば、その胸部に赤い宝石が埋め込まれていた。

 拡大すれば予想通り、その中に女性が一人いた。

 悲痛と絶望の表情で助けを求めるように声にならない叫びを上げ続けている。体は全身が侵食されて醜い肉とカビに覆われ、複数の触手によって肉の塔に繋がれて拘束されていた。


 誰もが目の前の存在に戸惑って攻撃をしない中、ベネットは宝石の中の彼女を誰かが助け出そうとしないか危惧し、すぐさまマナライフルを構えた。

 だが、引き金を引く前にアズキの乗る黒い中量二脚型のSA『フェンリル』が、持っているビームライフルで持ち上げて射線をずらした。

 同時に、通信の呼び掛けがあって応じた。


「おいベネット、まだ生きてるだろうが! 助けを求めてる!」

「アレは消滅させなければいけない。存在してはいけないものだ。例えゲームであったとしても……分かっているだろう? アズキ」

「……チッ」


 アズキは舌打ちし、持ち上げていたビームライフルを下げて離れ、本体を守ろうとしているエネミーの迎撃に加わった。

 改めてマナライフルを構えたベネットはしっかりとロックオンをして引き金を引いた。

 緑の極太のビームが発射される中、ベネットの脳裏に人間だった頃の女性の顔が思い浮かんだ。



 ――……ありがとう。



 笑顔でそう言うと、白い粒子となって消えた。


 中枢が破壊されたことで、肉の星が活動を完全に停止して赤黒い粒子となって消滅を始めた。

 寄生型のジエンドも同様に動きを止めて粒子となって消え始め、侵食された宇宙船などはジエンドの部分だけが消滅して残骸が抜け殻として残った。

 全てのジエンドがいなくなると、粒子が小さなゲートに吸い込まれるように移動して消えた。空間も変化し、マナ粒子によって少しだけ緑で明るい何も無い空間となった。


「…………」


 虚しさだけが残ったベネットは、マナライフルを下ろして空を仰ぐように上を向いた。


 全てが終わったことで、ウィンドウが表示された。



『大規模クエストを達成しました』



 同時に、ウィンドウの両隣りにクラッカーが出現し、紐が引かれてパンッパンッ、と大きな音と共に紙吹雪と紙テープを飛ばしてお祝いした。


 役目を果たしたクラッカーはゴミとなった紙吹雪と紙テープと一緒にすぐに消えた。

 ウィンドウが切り替わり、新たに文字が表示された。



『達成報酬を以下に表示し、参加者全員へ配布いたします』



 ・一千万ゴールド

 ・従魔成長クッキー一個

 ・兵器弾薬費無料チケット一枚

 ・TA・SA修理及び弾薬費無料チケット一枚

 ・レア装備引き換えチケット一枚

 ・装備強化素材代用チケット一枚



 報酬の確認を終えたベネットは、後はSAサルバトールに任せた。

 SAサルバトールは勝手に動き出し、マナ粒子を大量に放出しながら目の前に円形のゲートを作って横へ退いた。

 SAと戦艦三隻がゲートを通って元の場所へ戻るのを見届け、この空間に誰もいないことを確認するとSAサルバトールが最後に通り抜け、元の世界に戻って来た。


 傍には活動拠点があり、英雄たちの帰還に兵士たちは喜んでいた。地球に降り立って戦っていたサイボーグたちも兵士たち同様に生き残ったことを喜んでおり、状況が落ち着いたことで無事だった宇宙船が再び着陸していた。

 そんな中、ベネットは活動拠点の兵舎の屋上にテスタメントと大罪の七姉妹がいることに気付き、テスタメントに向けて通信を繋げた。


「テスタメント、終わったぞ」

「お疲れさまでした。今後も定期的にジエンドが襲来しますが、その頃にはこちらの迎撃態勢は整えておきます」

「ああ、任せる」


 通信を切って地面に着地すると、SAサルバトールは依然と同じようにコックピットを開いてベネットが吐き出された。

 手で掴んでそっと降ろされると、再びゲートを開いて何処かへ行ってしまった。


 なんだかなぁ、と思いながらベネットは頭を掻いた。

 気が抜けたことで精神的な疲れがどっと押し寄せ、ふらついて頭を抑えた。


「……限界だな」


 祝勝会などする気にもなれず、ハカセに『寝る!』とメールを送って、ログアウトした。




今回の寄生・侵食型ジエンドについて。


モチーフとしては、デッド〇〇ースとか〇-TYPEの敵みたいなもの。

要するに存在してるだけで超ヤバイ。

そりゃあ、幾ら戦力整えたってテスタメントだけでは敵うわけがない。

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