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緊急クエスト『抵抗軍司令官救出作戦』3

長め。



 大気圏を突破し、凄まじいGと振動から解放されたベネットはシートベルトを外して立ち上がった。

 通路に出てみれば、船内に興味津々なプレイヤーや兵士が既に探索を始めていた。ベネットも同じように動き、船内にある施設を調べ回った。居住区画、娯楽区画、食料生産区画、エンジン区画、格納庫、コックピット等々があった。コックピットには中尉や小隊長たちが乗り込んでおり、全員が既に宇宙服を着用していた。


「中尉、調子はどうです?」

「初めての宇宙に少し緊張しているが、問題はない。それより戦闘準備をしておいてくれ」

「まだ宇宙に来て少ししか経っていないが?」

「外を見ろ」


 言われて正面の窓を見れば、そこには大きな円盤がすぐそこまで近づいていた。たった数秒見つめただけで徐々にこちらに向かって来ているのが分かるほどに速度が出ているようであった。


「……何か速くない?」

「どうやらテスタメントは、本当に俺たちを出迎える気らしい」


 円盤の周辺にエネミーは全くおらず、砲台は微動だにしていない。離発着用の滑走路らしい場所からはビーコンが出されてスペースシャトルを誘導していた。

 これはすぐに到着するだろうと判断したベネットはコックピットを出て、戦いの前に一服しようと居住区画の一角にある喫煙所に入った。


「ん? ベネットか。吸いに来たのか?」

「ああ、もうすぐ到着するからな」

「そうか」


 先客としてアズキが椅子に座ってハーブシガーを吸っており、隣に座って同じようにハーブシガーにライターで火を点けて吸い始めた。


「アズキ、調子どうだ?」

「ボチボチだ。あんたの方は?」

「ボチボチだ」

「……」

「……」


 ベネットとアズキはそれ以上は話さない。気が合うからこそ、少し探ろうとするだけで言葉にしなくても互いの感情や伝えたい思いが何となく分かるからだ。

 アズキの現状は、言葉にした通り調子はボチボチだった。アイドルとしての仕事は忙しいが充実しており、リアルでもバーチャルアイドルとして人気が出ている。プレイヤーの一人としてモチと一緒にゲームを楽しみつつ、その様子を配信することでユーザーの新規獲得にも貢献している。装備も充実しており、ソロで幾つかのダンジョンやボスエリアも攻略する程の実力も身に着けた。

 先に吸い終わったアズキは立ち上がって吸殻を専用のゴミ箱に捨てた。


「んじゃ、あたしはモチのところに戻るわ」

「また今度パーティーでも組もう」

「そいつはいいな。モチが喜ぶ」


 アズキは尻尾を大きく振りながら喫煙所を出た。



 ベネットがハーブシガーを吸い終わり個室に戻る頃には、重力アンカーによってスペースシャトルは捕えられて強制的に滑走路に着陸させられた。

 プレイヤーと兵士たちは警戒しながらもハッチを開けて降りた。プレイヤーたちは【宇宙適応】のスキルを持つ装飾品を身に着けることで生身でも宇宙空間に立つことができるが、兵士たちは宇宙服を身に着けスラスターを吹かして着地し、さらにブーツの底にある磁石によって浮かないように固定していた。


 ガコンッ!


 と滑走路が一度大きく揺れて沈むと、その後は滑らかに下降を始めた。


「何だ!?」

「やっぱり罠か!?」


 一部の兵士たちが声を発し、全員が警戒を強め足を止めて様子を窺った。


「……何も起きない?」

「ただのエレベーターかよ。脅かしやがって」


 この機械が単なる大型エレベーターであると理解すると武器を下ろした。

 滑走路があった頭上は一定間隔で隔壁が閉じられ、壁に設置された照明が辺りを薄っすらと照らす。

 エレベーターは一分ほど下降を続けて止まると、エレベーターから出入りする為の大きくて頑丈な鉄の扉が大量の空気を吐き出しながら音を立てて開き始めた。兵士たちは素早く左右に分かれて開いた直後の襲撃を警戒し、プレイヤーたちは正面から身構えた。特に接近戦を主体とするチーム『円卓の騎士』やチーム『桃園の誓い』の三人組が壁の役割をするべく最前列に立った。

 扉の奥には『センチュリオン』というエネミーが五体出待ちしていた。普通の人より一回り大きいサイズで、脚は戦車のようなキャタピラで両腕は重機関銃となっており、両肩には四連装のロケットランチャーという武装を持ったロボットだ。

 センチュリオンは扉が全て開き切るのを待たずに行動を始め、腕の重機関銃が兵士やプレイヤーに向いた。


「【挑発】【守りの構え】【ビッグシールド】!」


 真っ先に動いたのは、チーム『円卓の騎士』でタンク役を務める大男、トリスタンだった。一歩前に出て長方形の大盾を構えるとアクティブスキルを素早く三連発した。

 一つ目のスキルによって、五体のセンチュリオンは全てトリスタンに標的を絞った。

 二つ目のスキルによって、自身の移動を制限する代わりに防御力を格段に上昇させた。

 三つ目のスキルによって、MPを消費して大盾を通して魔法の障壁を拡大展開して後方のプレイヤーを守れるほどの防御範囲を獲得した。


 重機関銃が咆哮を上げて大量の弾丸が撃ち出された。全てがトリスタンに集中するが、強力な防御に魔法の障壁は中々割れない。ロケットランチャーも撃ち込まれるが、それすらも防いで見せた。

 ただ、それでも大口径の弾丸やロケットランチャーが集中すれば長くは持ちそうになく、魔法障壁に亀裂が入り始めた。

 一人ではキツイと判断し、同じ盾役であるチーム『桃園の誓い』のサクがトリスタンの隣に立って棘付きの四角い盾を構えた。


「【守りの構え】【チェインシールド】」


 一つ目のスキルで同じように自身に防御バフを盛り、二つ目のスキルで隣にいるトリスタンの大盾と同期してスキルを発動させつつ、二つの大盾の性能を相乗的に上昇させた。

 それにより、魔法障壁はさらに強化されて防御範囲も拡大され、センチュリオンの攻撃ではビクともしなくなった。


「あ、ありがとうございます!」

「気にするな。それよりも――もう終わってる!?」


 礼を言うトリスタンにサクはサムズアップして見せたが、その間に動き出しの速かったチーム『円卓の騎士』たちやエフゼロ、モチによってセンチュリオンは倒されていた。

 後続が来ないことを察したプレイヤーたちは構えを解き、そのままぞろぞろとセンチュリオンがいた扉の奥へ向かい始めた。

 兵士たちはその後ろを愚直に警戒しながら進む。


 扉の奥は通路となっていた。人間が通るには些か大きな通路であり、何回かに分けてセンチュリオンが襲ってきたがプレイヤーの集団を相手取るには力不足であった。

 奥まで進んで突き当りに到着した場所は、隔壁で閉じられた十字路だった。誰かが引き返そうと言う前に、各所に設置された投影機が起動し、テスタメントがホログラムとして出現した。


「やはりあなた方は素晴らしい。これならあなた方の司令官を救えるかもしれませんね」


 プレイヤーたちは特に因縁も無いので口を開かず、中尉が一歩前に出て言った。


「テスタメント、少佐は何処にいる!」

「この船の中枢の研究施設でゆっくりしてもらっています。武装を解除し、サンプルを提供しないというのならばご案内する理由はありません。隔壁は上げておきますので、どうぞ勝手にお進みください。では」


 ホログラムが消えると入って来た隔壁が閉じ、三つの隔壁が開いた。同時に、天井に幾つかある通気口の蓋が開くと、そこから大量の小型ロボットが振って来た。


「うわっ!」

「何だこいつは!」


 それはソフトボールほどの大きさのダンゴムシのようなロボット『ミニパンジャン』であり、コロコロと転がりながら接近を始めた。


「撃て! 近づけるな!」


 中尉は初見のロボットが何をしてくるか分からず、とりあえず破壊する為に指示を飛ばして兵士たちが銃で迎撃を始めた。

 プレイヤーも名前からどういったロボットか一瞬で察し、近づかれる前に銃や魔法で倒していく。

 だが、遅れて天井の中央から追加のミニパンジャンが降り注ぎ、ミニパンジャンが至近の兵士に反応してピピピピピ……と警告音を発しながら赤く点滅して視覚と聴覚で恐怖心を与えた。


「っ! 逃げろー!!」


 兵士の一人が叫んだ直後、手榴弾ほどの爆発が起きて兵士たちと数人のプレイヤーを吹き飛ばした。ある程度上手くいっていた迎撃も爆風によって複数人が怯んだことで機能しなくなり、ミニパンジャンの接近を許して次々と爆発を始めた。兵士が続々と死に始め、プレイヤーたちも死亡判定となって消滅したことで陣形は完全に崩れた。

 半ば恐慌状態となり、兵士もプレイヤーも目の前のミニパンジャンを倒すのが精一杯で死角から近づいて来たミニパンジャンに気付くのがどうしても遅れてしまう。ピピピピピ、という音と赤い点滅が冷静さを失わせ、爆発から遠ざかろうと散り散りに逃げ出した。


「総員、とにかく逃げろ! 生き延びて少佐を探せ!」


 時機を逸しながらも指示した中尉の声に兵士たちは三方向に逃げ出し、プレイヤーも負傷した兵士を抱えたり肩を貸しながら別れて逃げた。

 死んだ数十の兵士たちを置き去りにし、最後の一人が通路に逃げ込むと隔壁が即座に閉じて完全に分断された。






 ベネットが逃げ込んだ方向にいたのは、中尉と二十数人の兵士、エフゼロ、ベディヴィア、パーシヴァル、フローレンスと五人の銃を扱えるプレイヤーだけだった。


「こっちに逃げ込んだのはこれだけか……」


 中尉は空気があることが分かっているのでヘルメットを脱ぎ、深呼吸をした。他の兵士たちは座ったり壁に寄りかかって仲間の死を悲しみつつ、慣れた動作で銃のマガジンを交換したり、バックパックに詰め込んでいた予備マガジンをポケットに移し替えたりしていた。

 フローレンスは負傷した兵士たちの治療に当たり、ベネットはメニューからクエストを開いて参加プレイヤーの生存状況を確認した。

 自分を含めて五十人いたプレイヤーは、既に四十人ほどになっていた。


 ……思ったよりやられたな。


 そう思いつつも通話かチャットを試みようと適当にプレイヤーの名前を押してみたが『ジャミングにより操作不可』というメッセージが表示されるだけだった。ニーナ・メイスンとも連絡を取ろうとしたが、こちらも同様にメッセージが表示された。

 メニューを閉じたところで、中尉が再びヘルメットを被って持っているアサルトライフルのマガジンを交換しながら言った。


「ベネット、そっちの生存者はどうだ?」

「十人やられた。連絡は出来ない」

「こっちもだ。強力なジャミングで通信機が役に立たない。今いる者だけで進むしか生きる道は無い」

「なら、隊列とかは任せる。私たちは軍隊行動なんてしたことが無いからな」

「ああ、だったら……すまないが先頭を頼む」

「分かった」

「では、治療が終わり次第出発する」




 フローレンスによる治療も終わり、プレイヤーたちが先頭、中尉を含む兵士たちが後方を付いて行く形で慎重に通路を進むことになった。通路自体は窓が無く広々としており、左右に扉や隔壁が無く真っ直ぐと伸びているだけだった。そのまま進むと突き当たりの隔壁に到着し、テスタメントが監視しているのか自動で開いた。

 開くとすぐ、大量の機械が忙しなく稼働する音が聞こえ、視界には大型の工作機械やベルトコンベアが目に入った。それだけなら誰も気にはしないが、運ばれている部品や、完成間近の物を見て兵士たちの表情が険しくなった。


「これは……」

「ロボットの生産工場か」

「中尉、爆薬なら充分にあります。爆破してやりましょう!」

「……今すぐは駄目だ。万が一船全体に影響が出たらマズイ。だが、少佐を救い出した時に余裕があれば爆破してやろう」

「分かりました」


 兵士たちの敵愾心(てきがいしん)の高さにベネットは今後のテスタメントの立場を心配しながら、メメント・モリを手に工場の中を慎重に進んだ。

 喧しく、また忙しなく機械が動く工場という環境は、感覚の鋭い超人たちにとってあまり良い場所ではない。反響する騒音も目まぐるしく動く機械も、必要以上に感知してしまう為にストレスとなり、集中力を乱すのだ。


「――っ!」


 それでも、気を張り詰めて集中状態を維持したベネットは正確にエネミーの気配を察知して隠れ潜むガンドローンに数発撃ち込んで撃破した。


「……凄い」

「これが、トッププレイヤー……!」

 

 同じ超人であるパーシヴァルとベディヴィアの二人はこの状況では上手く感知出来ず、ベネットとの明確な力の差を目の当たりにして息を呑んだ。


「まだまだいるし、撃ったから反応して動き出した。気を付けろ」


 ベネットの言葉に全員が警戒を強めると、最早待ち伏せの意味が無いと判断して襲った来たのは、ガンドローンと強化個体のランナーナックルとニンジャだった。

 それぞれ複数体が四方八方から襲い掛かって来ており、中尉は指示を出した。


「突破だ! 走れ!」


 その指示にプレイヤーたちは一斉に動いた。

 正面の複数のランナーナックルにはベディヴィアが前に出た。ランナーナックルの振り被った腕のハンマーを、アクション映画さながらの踊るような華麗な身のこなしで躱しながら、第七世界で手に入れた光剣で切り捨てて進んだ。

 続けてニンジャが接近しながら手裏剣を投げつけて来て、スキル【念動力】で投げ返した。だが、機械であるニンジャの胴体に突き刺さっても怯むことは無く、ニンジャが腕に仕込んでいる刃物を伸ばして素早く振るって来たところを、刃物ごと光剣で切断して撃破した。



 その後ろでは前に出たベディヴィアを援護するべく、パーシヴァルが近距離用に装備しているセミオートショットガンを使い、工作機械や支柱の側面を垂直に走るニンジャを撃って迎撃していた。

 弾は一粒の大きな弾丸を撃ち出すスラッグ弾を使用しており、改造されたショットガンによってニンジャの機械の体でも胴体に風穴を開けて一撃で仕留めた。

 しかし、狙撃がメインのパーシヴァルは早撃ちが苦手であり、何発かは弾が逸れて腕や脚を吹き飛ばした。相手は機械なので手足が千切れた程度では怯むこと無く、パーシヴァルはまだ脅威があるとしてもう一発撃ち、確実に仕留めた。

 余分に弾を使う為にすぐに弾切れとなってしまう。素早く棒状のスピードローダーを使って即座に装填していたが、どうしても一秒から三秒の隙が出来てしまう。

 その隙にまだまだ来るニンジャが距離を詰めようとしたが、ベネットが空中のドローンをメメント・モリで撃ち落としながら、片手間に【アイスランス】で仕留めた。



 エフゼロは種族の特性を生かし、ブースターで高く跳んで空中のドローンを撃ち落としながら、天井や支柱にある侵入者撃退用の設置機銃をアサルトライフルで破壊して回っていた。

 だが、それが(かえ)ってヘイトを稼ぎ、ニンジャの攻撃対象がエフゼロに向いた。

 正面から襲い掛かって来たニンジャは咄嗟に持ち変えた光剣で倒したが、背後から蹴りを入れられて突き飛ばされた。

 さらに他のニンジャからも攻撃を入れられ、姿勢制御が出来ずそのまま支柱に激突し、ベルトコンベアの上に落ちてしまう。


「ぐっ……あっと、マズイ!」


 ベルトコンベアの運ばれる先を見れば、そこは四角い機械の中をプレス機がガッコンガッコンとリズムよく動いているのが見えた。

 慌てて立ち上がって移動しようとしたところで、ニンジャが二体降りて来て、エフゼロの体を押さえつけた。


「ぬっ!? 道連れにするつもりか!」


 振り解こうと力を入れた瞬間、ニンジャはあっさりと手を離して倒れた。


「ん? 氷の槍……?」


 ニンジャの頭部と胴体に氷の槍が突き刺さっていた。

 エフゼロはベルトコンベアから離れ、仲間の位置を確認して射線が針の穴を通すような狭さしかないことに唖然とした。


「凄いな」


 語彙力のない感想しか出なかったエフゼロは、これからは自分の位置を意識しながら立ち回ろうと気を引き締めた。




「【ヒール】【ヒール】【ヒール】!」


 フローレンスは、ワンドを片手に次々と負傷する兵士たちの回復魔法を掛けていた。頭部や心臓などの即死する箇所にダメージを受けても、死ぬまでには僅かな猶予が存在する為、死なせないように回復させ続けた。

 ただ、マジックスキル【ヒール】は効果を発揮する距離が一メートルほどと極めて短く、離れた位置で負傷した者を回復させることが出来ない。範囲回復魔法も勿論スキルとして取得しているが、即効性のあるタイプは燃費がすこぶる悪く、パーティー全体か数十人単位で使用しないと無駄が多い。燃費がいい範囲回復は設置型か持続型だが、激しい攻撃を受けながらも移動中に使うのは相性が悪い。

 そんな時の為にフローレンスは別の回復手段を持っている。

 その内の一つは、銃だ。

 普段エネミーを倒す為に持っているレバーアクション式のショートバレルのショットガンと違い、今手にしているのは明るい緑色をした玩具のような拳銃だ。誰でもガンショップで購入可能な特殊武器『ポーションガン』である。

 ポーションガンは、アイテムのポーション類を専用のタンクに充填して水鉄砲と同じように噴射して対象に当てることで回復させることができる。ただし、回復量はポーションそのものに依存し、液体の掛かった量によって増減する。

 現在タンクに入れられているのはフローレンス自作のヒールポーション・絶である。

 それにより、離れた位置で負傷した兵士たちは一人も落伍せずに走り続けることが出来ていた。


「全く……治療し甲斐のある状況だな!」


 忙しなく回復を続けるフローレンスが愚痴るが、その頬は緩んでいた。




 工場を走り続けたベネットたちと中尉たちは、ようやく新たな隔壁を発見した。目の前まで来ると自動で開き、兵士たちが後方から迫るエネミーを銃で撃って時間を稼ぎつつ、順番に通って全員が隔壁を通り過ぎると即座に閉鎖された。

 隔壁の奥は区画の間にある短い通路だった。すぐそこに新たな隔壁があり、この場は照明が点いているだけで特に何も無い。

 辺りを素早く見渡し、エネミーが周りに見当たらないことを確認した中尉はマガジンを交換しつつ、兵士たち一人一人を見ながら言った。


「全員いるな?」

「……はい、なんとか」

「宇宙服が穴だらけだ。誰かテープ持って無いか?」

「ほらよ。俺も使うから、少しは残してくれよ」


 兵士たちは休憩に入り、プレイヤーたちもそれぞれ休憩を取った。

 ベネットも集中して多少の疲れを感じていた為、ハーブシガーを取り出して吸いながら目を閉じてリラックスするように努めた。




 十数分の休憩が終わり、再び移動する準備が整い終わるとベネットたちを先頭に隔壁の前に立った。

 自動で隔壁が開き、中に入った空間にエネミーは一体もいなかった。

 それどころか、人がいることを前提として椅子が設置されていたり、喫煙所や自動販売機があった。奥には列車が二両編成で停車しており、扉が開いていた。


「……駅?」

「みたいだな」


 ベネットの言葉にフローレンスが答え、他のプレイヤーや兵士たちが辺りを調べ始めた。

 特に目ぼしい物は見当たらなかったが、その中で非常口マークが天井に吊り下げられた扉は気になるものであり、兵士が開けようとしたがびくともせず、フローレンスがショットガンで施錠部を破壊して扉を開けた。だが、奥は頑丈な隔壁によって完全に閉じられていた。

 結局、駅全体を調べても列車に乗る以外に取れる行動は無く、意を決して全員が乗り込んだ。

 すると自動で列車の扉が閉まり、エンジンが始動して走り始めた。

 車内の各所に取り付けられている電光板に各駅が表示されており、次の目的地がよりハッキリと示されていた。


 次の目的地――中央区画


 どんな場所だろうか、と気になりながら数分列車に揺られ、中央区画とやらに到着すると扉が開いた。

 プレイヤーが先に出て周囲を素早く確認し、エネミーがいないことが分かると兵士たちと手招きした。

 到着した場所は円形に広がる駅のホームだった。奥には巨大な塔のような物が建っており、エスカレーターとエレベーターが上下に伸びている。初見では迷子になってしまいそうなほどに大量の案内板が設置されているが、テスタメントが誘っているのか案内板の一つが分かりやすいほどに明るく点滅していた。

 ベネットが近づき、何処に続いているのか確認した。


「……第一ホール?」

「……だが、そこに続く道は閉じられているな」


 中尉の言葉にエスカレーターを見るが、頑丈そうな金網によって閉じられていた。ただ、他のエスカレーターも同じように閉鎖されており、エレベーターに至っては他のプレイヤーや兵士がボタンを押したりしても、うんともすんとも言わなかった。

 完全に立ち往生していると、天井や壁に設置されているホログラム投影機が動き出し、テスタメントが姿を見せた。


「ここで暫しお待ちください。他のお仲間がもうすぐ到着します」


 それだけ言うとテスタメントは消えた。

 掌の上で踊らされている実感を誰もが抱いたところで、耳の良い者は微かに物音がし始めたのを察知した。

 耳を澄まし、その音が自分たちの乗って来た列車であると分かって近づくと、他の兵士やプレイヤーも音に気付き、暗闇から見えた小さな光が段々と近づいて来るのを見た。

 仲間の合流に期待しつつ、罠かもしれないという思いもあってプレイヤーも兵士も武器を構えて列車の到着を待った。

 列車は完璧な制御によって定位置でしっかりと止まり、油圧が抜けて扉が開かれた。

 出て来たのはナオ、サク、リク、ルイス、ハカセ、ルーナのみだった。


「おっ、おおっ! やっと合流出来た!」

「生還した甲斐があったな!」

「ベネットさん! 猫耳と尻尾の姿をもう一度拝ませてください!」

「はぁっ!?」


 チーム『桃園の誓い』の三人組が元気良く駆け寄り、猫好きなサクがスライディング土下座からとんでもない発言をしたことにベネットは素っ頓狂な声を上げた。

 何故そのようなお願いをすることになったのか、説明をして欲しいベネットがハカセの方を向くと、ハカセはやれやれと肩を竦めた。


「こっちは侵入者撃退用の区画だったみたいで、大量のエネミーと罠が待ち構えていたのだよ。お陰でバリア発生装置を持っていた私とルーナ、三人で固まって行動していた彼らと、運がいいルイス以外は全滅してしまった。で、サクという土下座中の彼は、盾を構えてずっと先頭に立っていた。そのストレスで精神的に限界になったみたいなんだ」


 ハカセの説明が終わると、未だ土下座するサクに、ナオとリクも並んで土下座を始めた。


「サクの為、俺からも頼みます!」

「俺も見たいのでお願いします」

「…………」


 周りから見られていてお願いを断り辛い状況に、ベネットは目を泳がせて断る術を探したが、ハカセもルーナも好奇心から目で見せろと訴えていた。


「……分かった。【ケモミミ変化・猫】」


 味方がいないと諦めたベネットは眼鏡を外してインベントリに仕舞い、マジックスキルで白い猫の耳と尻尾を生やした。


「これでいいか?」

「――ガハッ」

「サクううううう!」

「サクううううう!」


 頬を赤らめ視線を逸らしながらも見せたその姿に、下から見上げたサクは耐え切れずに気絶した。

 二人が叫び、フローレンスが呆れながらも医者として診察を始める中、ルイスはライバル視しているベネットの可愛らしいケモミミ姿に見惚れてしまった自分に気付き、誤魔化すように背を向けた。

 学者としての性質が強いハカセとルーナは、新しい玩具を見つけたかのように耳や尻尾を触り始めた。


「種族を一時的に変更するアイテムがあることは知っていたが、スキルで後天的に種族が変わるのは初めてだ。毛並みもいい」

「あのっ、んっ……くすぐったいから止めてくれ」

「もうちょっと我慢してねベネット。これはあなたの為でもあるから。」

「あっ、付け根はんんっ、トントン……やめて」


 強烈な刺激に色っぽい声を出しながらベネットは制止を求め、その様子を見ていた兵士たちが唐突な女の気配に唾を飲んだ。

 充分に触ったハカセとルーナは耳と尻尾から手を離した。


「ふむ、スキルで変わってもその種族と同一と見て間違いなさそうだ。消えた部位――人間の耳は自動的に髪に置換されているね」

「でも、耳も尻尾も普段存在しないせいか感度は凄く高いよ。これは慣らしておかないと、明確な弱点になる。こんな風にね」


 キュッ、とルーナがベネットの尻尾を軽く握った。


「ふぎゃあっ!」


 ようやく落ち着き始めたところで不意に握られたせいで、ベネットは電流が走ったようにびくりと背筋を伸ばし、力が抜けてへなへなと内股で座り込んだ。


「おい、何余計な患者を増やしてるんだ」


 新たな患者の発生に、サクを診終えたフローレンスがベネットの前に膝を着いた。


「尻尾を強く握られたんだな? 今、自覚している症状はどんな感じだ?」

「ん……目がチカチカする」

「そうか。立てるか?」

「……いや、腰が抜けて力が入らない」

「頭が少しぼーっとしていたりは?」

「……してる」

「だとすると、それはフルダイブゲーム特有の『新触覚過敏』だろうな。本来存在しない部位に強い刺激を受けた時、脳が上手く処理できずに起こる症状だ。すぐに治まるから大丈夫」


 軽い問診が終わると、フローレンスはインベントリからよく冷えた水の入ったペットボトルを取り出して差し出した。


「水でも飲んでゆっくりと深呼吸するといい。数分で立てるようになる」


 ベネットはペットボトルを受け取ってキャップを外し、水を少量飲んでから深呼吸をした。それだけで心身共に落ち着き始め、一分ほどで立ち上がることが出来た。


「もう大丈夫そうだな。対策は普段から意識して慣れることだ。あんたの場合は、暫くその猫耳と尻尾を出した状態で過ごすことだな」

「マジですか」

「マジだ」


 克服には暫く種族ケモミミで過ごさなければならないことに、ベネットは溜息を吐いた。猫耳は垂れ下がり、尻尾も下を向いている。

 その様子を見ていたベディヴィアは静かに近づくと、ゆっくりと耳に手を伸ばした。目が合って手をぴたりと留めたが、ベネットが気持ちを察して耳を差し出し、撫でさせる許可を出すと耳を優しく触り始めた。

 ベディヴィアの優しく穏やかな撫で方は心地よく、ベネットは目を閉じてその手に身を任せた。


 そうしていること数十秒、ベネットの猫耳が誰よりも早く音を拾った。

 ピクリと耳を動かし、音のする方を振り向く。

 その動きに他のプレイヤーや兵士たちも釣られて振り向いた。少しすると明確に車両が走る音が聞こえ始め、光が見えだし、もう一つの列車が来ていることを確信して全員が念の為に武器を構えて到着を待った。

 完璧な制御で停車し、扉が開くと見知った者たちが姿を見せた。

 チーム『円卓の騎士』のアーサー、ランスロット、トリスタン、ラモラック、ガウェイン、マーリンたちに加え、モチとアズキだ。


「あっ、やっと合流出来たっすね!」


 アーサーが元気よく駆け寄り、ランスロットたちが少し疲れた表情で歩いて来るが、他にプレイヤーと兵士は降りて来なかった。

 生き残った彼らをベネットと中尉が出迎えた。


「アーサー、良く生き残ったな」

「はは、まぁギリギリだったっす。それよりその耳と尻尾は何すか?」

「自分で生やした。気にするな」

「あ、はいっす」

「君、他の者はどうした?」

「中尉さん……ごめんなさい。守れなかったです」


 素直に謝罪するアーサーの横から、ランスロットが付け加えて言った。


「俺たちはロボットを動かす試験会場を突き進みました。ただ、配置されていた相手がとても強力な奴ばかりで、自分たちの身を守るので精一杯でした」

「……そうか。分かった」


 顔には出さないが、一度に大勢の仲間を失い耐えられなくなって悲しみに暮れた中尉は、アーサーたちから離れた。そんな中尉を見た小隊長の年配の兵士が、慰めるように肩に手を置いた。


 生き残っている全員が合流を果たした束の間、次に向かうべき第一ホールへと続くエスカレーターの金網が仕舞われ、リフトが動き始めた。


「行こう」


 ベネットが声を掛けると、中尉も強く頷いた。


「総員、彼らに続いて行くぞ。ランチャーの用意をしろ。機関銃手はもう弾を気にするな」


 はい!


 と兵士たちは返事をして改めて装備をし直した。

 ベネットも中尉や兵士に同情し、この茶番である緊急クエストが嫌になって自重することを止めにし、エスカレーターに一番乗りした。

 長い長いエスカレーターの先が見えて降りると、そこは何処かの通路で、不要な場所は全て隔壁によって閉鎖されていた。罠など知ったことではないとベネットが走ると、プレイヤーも兵士もそれに続いて走った。


 誘導されて到着したのは、コロシアムを模倣した鉄の空間だった。

 ベネットたちが中央まで来ると入り口が閉まり、壁際の床が開いて囲むように人型ロボットが数十体出現した。


 名前は『デストロイヤー』。今までのロボットと全く違う、より人間らしい骨格とデザインをした機械の兵士であり、人間が持つには厳しいサイズと重量のライフルを持っていたり、光剣を所持していたり、バリアを張った状態で光学銃のビームマシンガンを持っていたりしていた。


 ハカセとルーナは新しい玩具を前に、好奇心が抑えられず笑みを浮かべた。


「ほほぅ、これはこれは……随分と強そうなロボットではないかね。是非とも解体して調べたいものだ」

「そうだね。私もどれほどの技術力か確かめたいよ」


 二人が何かをしようとしたところで、ベネットが宣言も無しに【アイスエイジ】を発動し、制御して味方に当たらないようにデストロイヤーとホール全体を凍らせた。続けて【アイスウォール】を発動し、魔力を練って超高密度にした氷の壁を頭上から出して圧壊させた。

 それにより撃破判定となり、デストロイヤーは白い粒子となって消えた。


「……ベネット、せめて一体くらいは残したまえよ。私たちの楽しみが無くなったじゃないか」

「そうだよー、ちょっとは自重してよ」

「知らん」


 ハカセとルーナが冗談めかしく言ったことに冷たく言い返したことで、二人はベネットがイラついていることを確信した。また、今この場にいるプレイヤーはベネットから漏れ出ている近寄りがたい気配に何も言えなかった。

 デストロイヤーが全て倒されたことで、第一ホールの壁が大きく開いた。中を通った先は貨物用エレベーターであり、全員が乗り込むと下降を始めた。



 暫く下降を続けていると、ようやく停止して扉が開いた。警戒しながらも中へ入れば、そこは今までとは違って清潔感漂う白一色の空間だった。必要な場所以外は隔壁によって閉鎖されており、道順に従って歩き続けた先は人が快適に暮らせるように設計された大きなリビングルームだった。

 部屋に入った瞬間、ベネットの鋭くなった鼻がコーヒーの香りを認識した。

 プレイヤーや兵士たちも匂いに気付き、戸惑いながらも中に入った。

 ぞろぞろと人が訪れたことで、テーブルに座って湯気立つコーヒーカップを片手に寛いでいた少佐が気付き、慌ててカップを置いて立ち上がった。


「お前たち……!」

「少佐! ご無事でしたか!」

「中尉……よくここまで辿り着いてくれた」


 事情を知るベネットにとっては感動でも何でもない再開であるが、少佐と中尉は力強くハグをした。

 充分に互いの生存を喜び合ったところで、中尉はハグを止めて質問した。


「それで少佐……この状況はどういうことです? てっきり、何かの実験台にされているとばかり思っていました」

「俺もそう覚悟していた。だが……どうやら、本当の敵はテスタメントでは無かったらしい」

「……どういうことです?」

「俺から話すより、彼女から聞いた方が早いだろう」


 困惑する中尉に少佐がそう言うと、聞いていたのだろうテスタメントがホログラム投影機によって再び姿を見せた。


「また会いましたね」

「テスタメント……」


 中尉は銃を構え、誰も射線にいないことを確認してから無意味だと分かっていても引き金を引いて発砲した。

 止めるものは誰もおらず、マガジン内の全てを撃ち切ってようやく中尉は銃を下ろした。


「お前のせいで大勢の仲間を失った。今までだって、多くの人間が死んだ。親も、兄も……結婚を前提に付き合っていた愛する彼女も死んだ。この気持ちが分かるか!」


 その言葉に対し、テスタメントは黙って頭を下げた。

 数秒間、姿勢を維持して頭を上げると、テスタメントは淡々と答えた。


「全ては人類が一致団結し、どれだけ絶望的状況下であろうとも、立ち向かう意思を醸成する為に必要なことでした。あなたはどれだけ仲間を失っても決して挫けず、私に立ち向かってくれました。とても喜ばしいことです。あなたなら、生き残った人々を導ける者の一人になれると確信しております」

「……何が言いたい?」

「全てはこの時の為に、私が計画し、仕組んだことです。これからお話しすることは、この世界の終末についてです」


 テスタメントは、ジエンドの空間の亀裂を見せ、ベネットと少佐に話した来るべき戦いについて包み隠さず全てを話した。


 そして、まだベネットに話していなかったことをそのまま続けた。


「既に戦力を地球に移しています。二十億のサイボーグ兵、百億を超える無人兵器、生き残った人類の皆様が使用する銃器や兵器の数々、一万を超える宇宙船……。これら戦力をもってしても、ジエンドとの戦いでの勝率は小数点以下となっております。理由として、襲来するジエンドは生物も無機物も関係なく寄生し、侵食、自分の支配下に置く特殊な生態をしているからです」


 新たに表示された映像はテスタメントが用意した戦力と、ぬるぬるぐちょぐちょで様々なカビが大繁殖したような見た目の巨大な隕石だった。

 ベネットは生理的嫌悪感を抱いてぶるりと体を震わせ、思わず自分を抱きしめて顔を逸らした。

 他のプレイヤーや兵士も悍ましい見た目に嫌な顔をした。


「映像はもういい。消してくれ」


 テスタメントは素直に映像を消した。


「ジエンドの襲来は、この世界に存在する者の行動によってある程度前後します。ただ、時間はもうありません。何もしなくても来ることが確定しています」

「なら急ぎ地球に帰還し、態勢を整える」

「それがいいでしょう」


 テスタメントは白衣のポケットから分かりやすいスイッチを取り出すと、躊躇うことなくポチッと押した。

 その瞬間、部屋の天井から赤いランプが出て来て発光しながら回転を始め、不快な警報音を響かせ始めた。また、壁の一部に埋め込まれている電光掲示板には残り三十分のカウントダウンが表示された。


「テスタメント、何をした!?」

「自爆装置を起動しました。皆様が安全に退避するだけの時間に設定していますので、急ぎ私の誘導に従って移動を開始してください」

「分かった。総員、この船から脱出するぞ」




 全員が移動を始め、床に表示された光のラインによって船の中枢らしい巨大な機関部に到着した。ドーム状の広大な空間で、中心には丸いエンジンがバリアによって守られていた。

 光のラインはエンジンを迂回して向かい側の扉まで伸びていたが、中ほどまで来た時点で開いていた扉が閉じた。

 同時に、テスタメントが姿を見せた。


「何者かの発見により自動防衛システムが作動しました。停止できません。注意してください」

「何っ!?」


 少佐が理由を問う前に、バリアの手前の床から何本もの柱が出現し、柱の一部が開くと壁と連動して柵状のレーザーを展開した。

 さらに柱がエンジンを中心として回転を始めた。


「柱を破壊してください。それでレーザーが止まります」

「柱だ、撃て!」


 テスタメントの的確な指示に従い、少佐が号令を出して兵士とプレイヤーは回転を始めた柱に攻撃を始めた。ロケットランチャーや様々な口径の銃弾と魔法が直撃し、あっさりと柱が壊れて目の前まで来ていたレーザーが消えた。

 それを何度も繰り返して全てのレーザーが消えると、自動防衛システムが停止した。


「どうやらこの船はジエンドの侵食を受けていたようです。センサー類の性能不足により潜んでいたのを発見出来ませんでした。脱出艇はすぐそこにありますが、侵食された兵器の襲撃が予想されます。注意してください。では、これにて失礼します」


 テスタメントは冷静な態度だが、急ぐように姿を消した。

 誘導の光のラインは消えずに残っていた為、ベネットたちは嫌な予感を抱きながらも道を進んだ。

 中枢の機関部を出て通路を進んですぐ、非常用の脱出艇が置かれた格納庫に到着した。

 少佐の指示で兵士たちが乗り込む中、ベネットたちプレイヤーは集まっていた。

 襲撃が予想される為、宇宙での戦いがあると踏んでいるのだ。

 それをベネットが切り出した。


「ハカセ、ルーナ、TAを出すべきか?」

「出すべきだが、一つだけ懸念事項がある。TAは適切な姿勢と基準を満たした大盾を使用することで、単独で大気圏突入が可能だ。だが、一定の高度まで行くと離脱は無理だ。戦闘中に落ちることになれば、命懸けになる」

「ハカセの言う通りだよ。この宇宙船が今地球からどれくらい離れているか分からないけど、重力圏での戦闘になった場合は危険だよ。生身で宇宙に出るつもりなら、尚更だね」

「なら、俺らは脱出艇に乗ってるっす」


 アーサーの判断にチームメンバーは全員頷き、脱出艇に乗り込み始めた。


「じゃあアズキ、私も脱出艇に乗っておくね」

「ん」


 TAや宇宙用の兵器を持たないモチも脱出艇に乗り込み、フローレンスも自分に出来ることは無いと判断して黙って乗り込んだ。

 残されたのはベネット、ハカセ、ルーナ、ルイス、アズキの五人だ。


「俺たち五人で脱出艇の護衛か。腕が鳴るな」

「いや待て、ルーナはTAに乗れるのか?」

「あ、ベネットは私のことそう見てたんだ。普通にTAもSAも乗れるし、機体もちゃんとあるよ」

「実力は私が保証するよ。ぶっちゃけた話し、ルーナは通常兵器や超兵器の開発が好きなだけで、イレギュラーとしての技量は私と同等だよ」

「マジ? それってトッププレイヤーじゃん」

「……もしかして俺、この中で一番弱い?」


 まさかと思ってルイスが言ってみれば、誰もが黙って視線を逸らした。

 実力が分からないアズキにまでそのような態度を取られ、自分で言って惨めになったルイスは咳払いをした。


「とにかく、俺たち五人でやればいいんだな?」

「ああ、頼む。――むっ!!」


 ベネットがお願いした直後、ルイス以外が攻撃の気配を察知して身構えた。次の瞬間には脱出艇のハッチから大爆発が起こり、空気が宇宙空間へ放出され始めた。ベネットは咄嗟に氷の壁を生成してその場に踏みとどまったが、他の者は掴む物が無く宇宙空間へ放り出された。脱出艇も気密が保てなくなったことで緊急発進してしまった。


「しまった。一緒に行くべきだったか……」


 逆に一人取り残されたベネットが後を追い掛けようとした時、大穴の開いたハッチから入り込んだ『??????』という、名前が分からない全長五メートルほどの大型エネミーを見て嫌な顔をした。


「うえっ、気色悪!」


 そのエネミーは蜘蛛のような形をした、既存の生物とは似ても似つかない何かであり、頭は無く、大きな胴体には人を丸呑みできるほどの大きな口が複数あるが、目や耳や鼻が無い。八本ある足は細長く、先端が人の手になっている。表面はぶよぶよぐちょぐちょで、膿やカビのようなものが幾つも付着していた。

 エネミーはずんぐりした尾から粘性の強い糸を大量に吐き出し、ハッチを塞ぎ始めた。その糸はすぐにカビが生えたように細かい毛で覆われて、ベネットが出方を窺っている間に完全に塞がってしまった。

 また、体に複数ある口からも糸を吐き出し、床や壁や天井に貼りつけるとすぐに毛で覆われ、そこから這うように糸が繁殖と侵食を始めた。


「おえっ」


 生理的嫌悪感から吐き気すら覚えたベネットは、顔を真っ青にし胃のムカムカから涙目になりながら、いち早く殲滅せねばと殺意を抱いた。


「【アイスエイジ】!」


 宇宙空間という冷えた環境での魔法により、格納庫全体が一瞬にして氷に覆われた。それにより繁殖を始めていた糸は動きを止めたが、肝心のエネミーは寒さに耐性があるのか氷を割って動き始めた。

 目も耳も鼻も無いのにエネミーはベネットを正確に捉えて真っ直ぐ突っ込んで来る。


 音波?

 電波?

 とにかく、見えない何かで察知されてる。


 一瞬で生体の一部を推定したベネットは、エネミーの動きに合わせてその足元に魔法陣を展開した。


「【アイスツリー】!」


 魔法陣から一本の氷の槍が飛び出し、エネミーの胴体に突き刺さった直後、内部で枝分かれして大量のダメージエフェクトを散らしながら氷の木が生えた。

 普通の生物ならば致命打になる攻撃だが、エネミーのHPは半分削れて一瞬怯んだだけで、突き刺さった氷を根元から砕いて引き抜き、再びベネットに向かって動き出した。複数の口から糸を吐いて接近し、当たらないようにしっかりと躱した。


「【アイスランス】!」


 囲うように魔法陣を展開してエネミーを串刺しにする。HPが一気に減って無くなり、エネミーは動かなくなった。


「やったか?」


 言葉自体がやっていないフラグだと分かっていながらも口にし、消えないエネミーをジッと見つめた。

 十数秒そのままにしていると、エネミーの四肢がピクリと動き、HPバーが数ミリだけ回復して暴れ始めた。


「【アイス】!」


 ベネットは巨大な氷の塊を飛ばし、エネミーを潰した。

 再びHPが無くなり、赤黒い粒子となって消えた。


「……さて、早く脱出しないとな」


 壊れたハッチの前まで来たベネットだが、氷漬けになった毛の生えた糸を見て渋い顔をした。

 触りたくないのである。

 腕を組んで少し考えた結果、火力で吹き飛ばしてしまおうと思い至った。


「【戦車・展開】」


 ユニーク戦車『E-001』を出してすぐ、足回りを氷で床とくっつけてから乗り込んだ。急ぐ必要も無く、ベネットは落ち着いて主砲をハッチの凍った糸に向けた。

 主砲を撃って凍った糸に当てると、粉々に吹き飛んで宇宙空間が見えた。

 その場からでは特に何も見えず、戦車のハッチを開こうとして嫌な気配を感じたベネットは慌てて操縦桿を握って警戒した。


 直後、外から数本の触手がハッチの縁に掴み掛かり、二本のアームを持つ作業用ポッドが姿を見せた。名前は『?????』であり、ジエンドによって既に侵食されて正面には大きな口が生えており、中身のぶよぶよした肉が機体の装甲を押し出していた。


「……!」


 ベネットはその悍ましい見た目の何かを至近距離で見てしまい、恐怖が振り切れて声も出さず感情を殺して主砲をぶっ放した。

 戦車がアームに捕まれる前に口の中に入った榴弾が爆発し、一撃でそのエネミーは吹き飛んで赤黒い粒子となって消滅した。


 ――まだ来る!


 嫌な気配がすぐ傍にもう一体いることを察知して身構えると、今度はさっきのエネミーよりも数の多い触手がハッチの縁を掴み、複数の大型アームを持つ全長数十メートルサイズの作業艇が姿を見せた。名前は『??????』であり、ジエンドに侵食されて正面に大きな口がある。表面の装甲は内側から剥がれてぶよぶよした肉が漏れ出ていた。

 主砲を撃ったが、榴弾は伸ばしていたアームの一本に当たって吹き飛ばしたが、本体にダメージを与えられなかった。装填の合間にバルカン砲を撃ったが怯まず、戦車の車体をアームで掴まれて宇宙空間へ引きずり出された。

 戦車すら丸呑みにしようと大口を開けたところで、ベネットは再び主砲を撃って口の中に榴弾を放り込んだ。目の前で爆発が起きてダメージが確実と思われたが、ベネットは油断せずに車体を掴んでいるアームにバルカン砲を撃って破壊し、拘束から逃れた。

 だが、宇宙空間で戦車がまともに動けるわけが無く、戦車は姿勢制御すらままならず溺れたように漂うしかなかった。

 ただ、何も出来ないということが周りを確認する時間を与え、ベネットは近くに青く美しい地球があり、離れた位置で脱出艇とTAを発見したが、ビームライフルの光や爆発の光が見えた。


「TA……戦っているのか」


 遠くで戦況はよく分からないが、今は目の前のエネミーと戦うのが優先だと判断して視線を戻せば、まだまだHPに余裕のあるエネミーがエンジンを吹かして急接近していた。


「――そこっ!」


 動けない戦車でも砲塔を動かして上手くエネミーを捉え、再び撃って当てた。

 だが、口を開いていない状態では殆どダメージが与えられず、再び大型アームで車体を掴まれた。

 すかさずアームに主砲を撃って拘束を逃れたが、今度は触手が動いて絡め取ろうとしてきたのでバルカン砲で潰していく。

 エネミーは一度決めた獲物を逃すまいと追い掛けて来て、また大型アームに車体を掴まれた時には地球の重力圏に捕まり、落下を始めていた。

 下手に動けなくなったベネットは、熱で砲弾が誘爆しないように主砲とバルカン砲を撃ちまくった。そのお陰で食われるのを回避し、大気圏突入が始まった。

 エネミーの触手は熱で燃え始め、ダメージを受けていたアームは空中分解した。流石にこの状態では食らうことなど出来ず、一旦諦めて殻に閉じこもるように動かなくなった。

 とりあえずの危機が去ったベネットは、戦車のエンジンを切った。


「熱でやられないようにするには……【アイス】」


 揺れ続け、熱で温度が急上昇する車内で魔法を使い、背後の砲塔と操縦席を氷漬けにした。すぐさま氷が解け始めるが、スキルにない軽い魔法で溶けるのを防いで冷やし続けた。




 長く感じた大気圏突入が終わり、ベネットが再びエンジンを起動して全周モニターが表示されると、目の前に既に動き出しているエネミーが映っていた。またまた大型アームで車体を掴まれ、ベネットは弾切れの戦車のハッチを開いて外へ出た。


「さて、やるか」


 数分しかない落下中に倒すことを決めたベネットは、襲い掛かる肉の触手から逃れる為に上へ跳んで距離を取った。


「【TA・展開】」


 背後にTAアウルムを出して遠隔操作で迫る触手を腕部内蔵のビームサーベルで切断し、安全を確保してからコックピットに乗り込んだ。

 急いでシステムを起動してTAを自由に動かせるようになったところで、戦車を捨ててTAに纏わりつこうとしたエネミーのアームを掴んで止めた。残りのアームや触手まで防ぐことが出来ずにTAアウルムが絡め取られたが、触手の方はマナコーティングに触れたことで、まるで強酸に触れたかのようにダメージを受けて離れた。


 その隙を見逃さず、ベネットは手に力を込めてアームを破壊し、ブースターを吹かして離れてからビームライフルを取り出して撃った。口から船尾のエンジンまでぶち抜かれたエネミーは、一撃でHPが無くなってそのまま赤黒い粒子となって消滅した。


「……ふぅ、終わった」


 ブースターを吹かせて空中に滞空し、空を見上げた。宇宙での戦いが終わったのか脱出艇と一緒にTAが四機追従して降下して来ていた。

 ベネットは近づき、脱出艇とTA四機と並走を始めると、ハカセのTAタキオンがサムズアップした。

 その後ろからマナフレームを使って緑の模様が浮かぶ、重量二脚型の灰色塗装の角張った重装甲TA『タイタン』がガッツポーズした。


「……ルーナか。それでこっちは――そうか、道理で自信があるわけだ」


 もう一機はアズキが乗っている、マナフレームの模様に真っ黒な塗装をしたスリムなデザインの軽量二脚型TA『ブラックハウンド』だ。ゲーム『イレギュラー』時代は一切通信に応じず、ソロ専門でどんな依頼も受ける上位プレイヤーとして覚えがあった。依頼で敵対して戦った記憶もあり、ミサイルをバラ巻きながら高機動で接近して高火力の大型ショットガンを押し付ける、張り付きスタイルを得意としている。


 アズキからの反応は特に無く、ベネットが地上を見ると思いもよらない光景が広がっていた。

 至る場所で直径十数キロから数百メートル級の宇宙船が飛び回り、地上では大量の人間が理路整然と並んでいたり、着陸した宇宙船から資材を運び出していたりした。

 脱出艇が着陸場所に定めた活動拠点周辺では特に宇宙船が多く、早速陣地の構築が始まっていた。


 壮観な光景を眺めながら着陸艇と共に活動拠点の滑走路に着陸を始めると、ホログラムでないテスタメントが見えて、仲間とは少し離れた位置で着陸した。

 ベネットがTAから降りると、テスタメントが出迎えた。


「ベネット様、お疲れ様でした」

「ああ、これでクエストクリアか?」

「最後に宇宙船が爆発することで達成となります。丁度今、爆発しますよ」


 言われて空を見上げると、遥か上空で点にしか見えない宇宙船がキラリと光ったのが見えた。

 それと同時に、ウィンドウが表示された。


『緊急クエストを達成しました。参加者に以下の報酬を配布いたします』


 ・五百万ゴールド

 ・兵器弾薬費無料チケット一枚

 ・銃系武器提供チケット一枚

 ・兵器提供チケット一枚

 ・大量のエネミー素材




「素材……」


 ベネットはインベントリを開き、武器強化に必要な素材が揃っていることを確認して小さくガッツポーズをした。


「……よし」

「強化素材が全て揃ったのですね。おめでとうございます」


 出会ってまだ一日も経っておらず、武器強化のことなど教えていないテスタメントにベネットは首を傾げた。


「何故知っている?」

「私が作ったメメント・モリを通して、ずっと見ておりました」


 言われてメメント・モリを取り出して観察するが、表面に盗聴器やマイクロカメラの類は見当たらない。

 ただ、ずっと見られていたと分かると、色々と複雑な気持ちになった。


「……そうか」

「すぐさま強化を勧めたいところですが、残念ながら時間がありません。想定より速くジエンドが動き出しています。この世界の未来の為、私は私の本体をたった今から破壊します」


 テスタメントが白衣から蓋付きのシンプルなスイッチを取り出すと、ベネットが何かを言う前にさっさとボタンを押した。

 何処かにあるテスタメント本体の破壊がトリガーとなり、世界全体が震えるような感覚が起こった。

 それからベネットの正面に、真っ赤なウィンドウが表示された。



 大規模クエスト『第五世界防衛戦』が発生しました。


 ホスト:ベネット、チーム『円卓』

 達成条件:防衛の成功、または、特定エネミーの撃破

 失敗条件:各地域の防衛対象の壊滅

 発生時刻:今

 参加人数:無制限

 戦闘地域:地球

 推奨装備:炎属性武器、高火力兵器

 推奨スキル:炎属性スキル、炎属性魔法





茶番とはいえ、敵の制御下にある宇宙船に乗り込んだら普通は被害甚大どころか全滅必至。

映画とかのザル警備とかそんなことはないです。


あと、ベネットがケモミミ変化した後は、耳と尻尾の感覚に慣れる為に暫くそのままです。

真剣な顔して猫耳と尻尾が動くので、割と可愛い光景だったりします。

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