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中規模クエスト『都市奪還作戦』2

中規模クエストのちょっとした解説。


各世界で発生する数十人から数百人規模で参加するクエスト。

内容によってはレイドボスが出現したり、敵味方に別れてPVPになったりする。

ぶっちゃけ、数人の超人がいたら他が全員初心者プレイヤーでも何とかなる。

お祭り的な感覚で参加することが可能であり、クエストを受注したホストが世界観に合わせて縛りプレイをしたりする。


中には条件次第でその世界の真実を知る為のきっかけになることもある。



 バーベキューに参加せずに広くなった基地を見て回ったベネットは、兵士たちがグラウンドの方へ移動を始めているのを見てそのまま一緒について行った。

 グラウンドでは既に抵抗軍の兵士千人ほどが集まっており、隣にプレイヤーたち数百人が各部隊ごとに整列していた。大きなチームを前列に、ソロプレイヤーや数の少ないチームは後ろで適当に並んでいる。

 ベネットは整然と並んだ人の中に加わる気になれず、グラウンドの隅で過ごすことに決めた。


 少しして指揮台に少佐が立ち、予め設置されていたマイクを使って作戦前の軽い演説が始まった。離れているベネットには内容がよく聞こえず、流し聞きながら買い溜めしていたドクポを飲んで過ごした。

 演説が終わり、抵抗軍の兵士は出発準備の為に移動した。プレイヤーたちはそれぞれのチームリーダーがソロプレイヤーを部隊へ誘ったり紹介して上手く均等に振り分けていた。

 ベネットは戦車部隊のどこに入れてもらおうかと考えていると、ローマンが気付いて近づいて来た。


「こんなところにいたのか」

「人が多いの、好きじゃないんでね」

「そうか。人の多いところで悪いが、ベネットは俺の部隊に入ってくれ」

「わかった。私はどのように動けばいい?」

「他の戦車に追従し、必要な時に必要な火力を届けてほしい」

「うむ」

「とりあえず一旦来てくれ。仲間を紹介する」


 ローマンの部隊へ案内され、そこでチーム『浪漫戦車隊』の面々と軽い挨拶を済ませると、パーティーに加入してから自分の戦車へ乗車した。

 エンジンを起動し、味方の識別が表示された戦車に追従して基地の外へ出たところで止まった。

 基地の前には数十両の戦車に加え、歩兵部隊を載せた輸送トラックが部隊ごとに綺麗に並んでいる。その後ろには、輸送トラックに乗らなくてもブースターで追従できる種族サイボーグのプレイヤーが固まって並んでいる。

 ティーガー重戦車から降りたローマンがベネットの傍まで来たのでハッチを開けて顔を出した。


「どうしたローマン?」

「ベネット、少佐から伝言だ。準備は整った、オペレーターに通信とマップの表示を頼む。とさ」

「わかった。ニーナ、頼む」

「はい、それでは始めます」


 モニター越しに状況を見ていたニーナは、予め準備していた設定で通信を繋げて全員に小さなウィンドウが表示された。通信は組織図のように視覚的に分かるようになっていた。

 さらにもう一つウィンドウが表示された。その通信の使い方を簡潔に纏めた説明文だ。プレイヤーの何人かは早速試しに操作してやり方を覚えた。

 説明文のウィンドウは通信ウィンドウに重なるように隠れ、最後にマップが表示された。マップはすぐに縮小されて通信ウィンドウの隅に収められた。


 通信とマップが上手くいったことを確認した少佐は、全体通信で言った。


「全員聞こえているな? 進軍を開始せよ」


 先頭の戦車が動き出し、北の都市へ向けて出発した。



 数キロ先の都市に近づいたところで、部隊ごとに通信が行われて都市を囲む為に四つに分かれ、それぞれの目的地に向けて速度を上げた。ベネットのいる『浪漫戦車隊』は戦車部隊での強さを考慮してチームを二つに分けている。ローマンが率いるベネットの部隊は北側を、東側をルーナが指揮することになっている。

 ベネットたちに追従する他の部隊は、多数のチームが混成した歩兵部隊と支援部隊のチーム『見境無き治癒師団』の一部、あとは後方支援の抵抗軍だ。


 敵に察知されて攻撃されない為に大回りで移動し、全ての部隊が配置に着いた。

 それを見越して一斉に発進した航空部隊が作戦領域に入った。低空では空を飛べるプレイヤーと武装したヘリが、高空では戦闘機や攻撃機が編隊を組んでいる。

 制空権確保を目的とした戦闘機部隊の先頭を飛ぶ未来の戦闘機『F-150』に乗るルーデンスが、仲間に向けて言った。


「音楽担当、ワルキューレの騎行を流せ」

「了解。ワルキューレ流します」


 双発ローターの大型戦闘ヘリパイロットのプレイヤーが、改造して機内に設置した高価な音響装置を起動し、通信と繋げて全部隊に聞こえるように流した。

 多数のプレイヤーは突然通信から響き始めたワーグナーの『ワルキューレの騎行』に何事かと眉を顰めたが、事前に知っていた部隊長たちは本当にやるんだと笑みを浮かべた。

 少佐も笑いを堪えつつ、指示を出した。


「全軍、合図が出た。作戦開始!」


 四つに分かれた部隊が返事をし、作戦が始まった。



 まずは先制攻撃として航空部隊の戦闘機隊が吶喊し、空中を警戒していた敵を複数ロックオンして大型ミサイルを発射した。

 大型ミサイルはある程度まで飛ぶと空中で外殻が外れ、中から大量の小型ミサイルが飛び出しロックオンした敵に当たって破壊していく。

 派生が多数存在するドローンや、鳥類や蜻蛉や蜂を模倣した飛行型ロボットなどはそれで倒すことができたが、人型兵器グラディウスはバリアを張っている為、小型ミサイル程度では落ちなかった。

 そこを戦闘機隊が各々標的を見つけてミサイルなりバルカンなりで各個撃破していく。

 オペレートしているニーナは戦闘の始まりと同時に、作戦領域外に動きがあって報告した。


「隣接している都市から多数の敵が接近しています。高速なのは無人戦闘機と人型兵器、遅れてやってきているのは戦車を含む装甲車両です」


 その報告に、マップを見ている少佐は冷静に指示を出す。


「予想出来ていたことだ。ルーデンス、対応に当たれ」

「了解。俺たちは外側をやる。残りは他の奴に任せた」


 都市の上でドッグファイトをしていた数十機の戦闘機がルーデンスを中心にすぐに集まった。さらにその後ろに攻撃機が並んで即座に編隊が組まれて、迎撃へ向かった。

 残った敵は空中戦をしているプレイヤーと、航空支援を担当している戦闘ヘリのプレイヤーが攻撃することで難なく制空権の確保に成功した。


 少佐は続けて地上部隊に指示を出す。


「地上部隊、時間との勝負だ。積極的に攻めてくれ」





 都市北部、ローマンの戦車部隊と一緒にベネットは自身の戦車『E-001』に乗って進軍していた。

 敵は強化された『スティックソルジャーMk.Ⅲ』が主戦力であり、より人間らしい動きで物陰から攻撃してくる。

 だが、硬い装甲を持つ戦車の前では持っているアサルトライフルや機関銃程度では無意味であり、瞬く間に蹴散らされていった。

 空中からはガンドローンを含む派生種の『ガトリングドローン』や『ランチャードローン』がいたが、空を飛べるプレイヤーや後方支援の為に後方から追従する戦闘ヘリが攻撃することで殆ど被害は無かった。

 多数いる『アイアンナックルMk.Ⅲ』も、強化と改造によって弱点を装甲で隠したとはいえ戦車の集中砲火には為す術も無く各個撃破された。

 物陰で接近するのを待っている個体には、抵抗軍の砲撃支援で炙り出され、難なく倒された。


 オペレーターであるニーナの戦果報告も良い物ばかりであり、残すは敵が敷いている防衛線のみとなり、ベネットはこのまま楽に中央まで行けると思っていた。

 だが、僅かに感じていた都市中央の気配が強くなると、分散して一気に近づいて来た。


 ――来るっ!


 そう予感した直後、ニーナが進行中の全部隊に向けて告げた。


「――っ! 都市中央で待機していた七つの反応が分散して動き始めました。注意してください」

「聞いたかお前ら、注意――」


 ローマンが仲間に声を掛けようとした直後、最前列を進んでいたソ連のIS-3重戦車が空から降って来た何かにぐちゃりと砲塔から車体まで潰され、爆発した。

 何事かと戦車が全て停車して主砲を向けながら待機していると、火と黒煙の中から少女が一人、余裕を持った表情で出て来た。


 少女は白い肌に白いセミショートの髪、緑の瞳をした華奢な体型の少女だった。胸の鎖骨部分には緑に光り輝く直径五センチほどの菱形の結晶が埋め込まれており、そこから緑色の光を放つ模様が体全体に伸びている。

 その体も胸や鼠径部などの大事な部位と手足が緑色に光る布のようなもので覆われており、若く華奢な少女の体を見せつけていた。

 ただそれよりも、背中からアームが伸びて動いている大きな機械が全員の目に留まった。

 直径二メートルはあろうかという、緑の光の模様を浮かべる巨大な黒い鋼鉄の手と、少女を浮かせている緑の光の模様を浮かべる巨大な鋼鉄の足だ。

 表示されている名前は『ラース』である。


 ラースはまるで獲物を見る目つきで沢山の戦車を見つめ、ぺろりと舌なめずりをして白い歯を見せて笑みを浮かべた。

 ベネットは目の前で今まさに襲い掛からんとするラースを前にして、認めたくない特徴を前に動揺していた。


 この模様と色、それにあの結晶は……マナフレームにマナ結晶?

 どういうことだ?

 マナ結晶を人間に埋め込んで力を発揮した、なんて話は聞いたことが無い。

 マナフレームに至っては少し前に古代文明から情報を取得してハカセが普及させたばかりだ。

 ……まさか、別の世界を観測して技術や素材を取り入れたとでもいうのか?

 どうやって?


 疑問が尽きない中、遅れて二人の少女がラースの隣に並んだ。

 どちらもラース同様に白い肌と白い髪、緑の瞳をしている。鎖骨の真ん中には緑色に光る結晶が埋め込まれており、全身に緑の模様が浮かんでいる。


 違いがあるとすれば、少女の一人は非常に発育の良い体型をしており、長い髪を機械のクリップでツインテールにしている。

 その少女が装備している機械は、お尻から尻尾のように生えている。機械のワームのような見た目をしており、先端に行くほど巨大化していた。尻尾は意思があるかのように動いており、大きな口の中にある粉砕機を見せつけながらどれから食べようかと見渡していた。

 同時に、その少女も口から漏れた涎をじゅるりと啜り、腕で拭った。

 彼女の名前は『グラトニー』である。


 もう一人の少女は長髪をハーフアップにしており、グラトニーとは対称的にスレンダーな体型をしている。

 その少女が装備している機械は八本のアームで、先端から両刃の剣が伸びていた。この剣も緑の光を纏っており、刃はビームサーベルと同様の状態になっている。

 イライラしているのか二本の剣が地面をザクザクと削っていたが、その際に火花が散りつつアスファルトが溶断されていた。SFゲームをプレイしたことのある人間ならば、それが超高熱を伴った振動剣であることがわかるだろう。

 彼女の名前は『エンヴィー』である。


 こいつらはヤバイ、と誰もが思う中でローマンは自部隊と追従している歩兵部隊へ向けて静かに指示を出した。


「…………歩兵部隊、下がるから気を付けろ。全車、砲撃しつつ後退」


 ラジャー。


 強敵と認識していた浪漫戦車隊のメンバーは淡々と返事をし、それぞれが狙いを付けて主砲一発を撃ちながら全力で後退を始めた。

 歩兵部隊もその動きに合わせて戦車に轢かれないように道を開け、最初から隅にいたプレイヤー達は脇道へ逃げ込んだ。


 ラースは鋼鉄の手で砲撃を防ぎ、笑いながら後退する戦車の一両に目掛けて大きく跳ねた。空中では躱せないだろうと歩兵部隊のプレイヤーが一斉に銃撃するが、片手で防がれ、体の一部に当たっても貫通せずに弾かれた。

 そのまま戦車の真上を取ると、一撃で叩き潰された。


 エンヴィーは砲弾を躱し銃弾を八本のビーサーベルで全て弾きながら急接近し、戦車の一両を通り過ぎざまにバラバラに解体し、ついでに傍にいたプレイヤーも切り刻まれて即死した。


 グラトニーは砲弾も銃弾も大きく広げられたワームの口で飲み込んだ。食べ足りなさそうにプレイヤーたちを見つめるとワームを巨大化させて上に乗り、地面を削り全てを飲み込みながら突進して来た。


「お前ら、魔法を付与して火力を突出した奴に集中!」


 ラジャー!


 ローマンの指示で戦車の主砲が属性魔法を付与され、味方ごと食らおうとして突出したワームの口に魔法でコーティングされた砲弾が撃ち込まれた。

 だが、それすらも飲み込まれただけで効果は無かった。


 歩兵部隊のプレイヤーは既に別の道へ逃げ込み、前に出ていた戦車と足の遅い重戦車から次々とやられた。戦車部隊が半分に減って中心で指揮をしていたローマンの乗るティーガー重戦車にもラースが迫った。


「――ここまでかっ!」


 ローマンは目前まで迫った少女を睨み、目を背けなかった。

 死に直面し、ほんの一瞬だが感覚が研ぎ済まれたローマンは見えている物がスローモーションになったのを知覚した。

 鋼鉄の拳が今まさに振り下ろされんとする中、斜め後ろから大きな砲弾が飛んで来るのが見えた。それは完璧な狙いとタイミングでラース捉えており、当たる直前で気付いて攻撃よりも防御に回って砲弾を鋼鉄の手で防いだ。

 直後、砲弾は直撃して潰れ、爆発を起こしてラースを吹き飛ばした。視界が炎で埋め尽くされたところでスローモーションは終わり、爆炎からティーガー重戦車が抜け出るとすれ違うようにベネットの戦車E-001が前進していた。


「ベネット!」

「ローマン、撤退しろ」

「っ!」


 俺も付き合う、そう言いたかったが思い留まった。

 今の自分では力不足であり、無理して付いて行っても足手纏いになるのは確実だった。

 そこに、ニーナから部隊長向けの報告が入った。


「部隊長の皆さんへ、抵抗軍の背後より多数のエネミーが出現。戦闘に入りました。作戦司令の少佐より合流して態勢を立て直す指示が出ています」

「……わかった。全員撤退、抵抗軍に合流して態勢を立て直す!」


 ラジャー。


 生き残った仲間が返事をし、ローマンたちは後方にいる抵抗軍と合流に行った。



 一人前進したベネットは集中する為に部隊通信を切った。

 ベネットはまずエンヴィーの足元にバルカン砲を撃って跳弾を狙いつつ地面の破片を飛ばした。銃弾を全て弾いていたエンヴィーでも予測できない跳弾と飛び散る硬い破片は対処できず、八本の剣は動かしつつも両腕で顔を守って動きが止まった。

 その隙にベネットはワームに正面から突っ込み、ギリギリまで引き付けたところで巧みな操縦技術による急旋回で側面に回り、すれ違う瞬間に予め横に回しておいた主砲を至近距離で撃った。


 ズドンッ!


 と大爆発が起きてワームが少し横に傾いた。

 ベネットはそのまま通り過ぎ、車のクラクション代わりにバルカン砲を一瞬だけ上に向けて二度撃った。

 グラトニーもエンヴィーもたった一両でいいようにされたことに加え、挑発的な行動が気に食わず、ローマンたちの戦車部隊を追うのを止めてベネットの戦車を追い始めた。

 横に吹っ飛ばされたラースも動きを読んで攻撃を当てたベネットが気に食わず、後を追った。

 三人の少女が付いて来ていることがわかったベネットは、ほくそ笑みながらバルカン砲でエンヴィーを牽制しつつ、相手の速度を計算しながら脆くなっているビルに主砲を撃ち込んだ。

 するとビルは一気に倒壊を始め、三人に瓦礫が降り注いだ。

 エンヴィーは瓦礫が落ちてくる前に、体を一瞬光らせて加速して突破し、グラトニーは尻尾のワームを上に向けて落ちてくる瓦礫を食らい始めた。

 ラースは力強く跳んで瓦礫の中を強引に突っ切り、そのままベネットの戦車目掛けて殴り掛かろうとした。

 単調な行動で動きを読んでいたベネットは既に接近しているエンヴィーに同時に対処するべく、主砲の俯角を最大にして真下へ撃った。

 剣で切ろうとしたエンヴィーは怯み爆風で、火と煙で見えなくなった一瞬でベネットはバックを加速させ最大速度で下がった。

 ラースは拳を地面へと叩きつけ、外したことを理解してこちらを向いた瞬間を狙ったベネットがさらに主砲を撃った。

 直撃こそしたがあっさりと鋼鉄の手で防がれ、これ以上戦車で戦っても意味がないと思ったところで、ベネットは嫌な予感がして回避運動を取った。ラースもエンヴィーも背後を振り返ってヤバイと判断し、道の隅に飛び込んだ。


 ――直後、動きを止めていたグラトニーは巨大化させていた尻尾のワームの口からビームを発射した。それも、小さくブツ切りになったものが散弾のように拡散しながら何百発も。


「ぬぅっ!」


 間一髪のところで脇道へ逃げ込んだが、陰に隠れる最後に履帯の誘導輪に直撃し、溶けて外れて戦車は動けなくなった。


「……戦車はここまでか。よくやってくれたよ」


 戦車をねぎらいつつもベネットはマップを確認した。

 北部だけでなく、東と西と南も味方部隊の殆どが後退して抵抗軍と合流していた。

 また、ベネットと同じように単独で少女たちと相手をしているプレイヤーが三人いた。


「……ニーナ、ちょっといいか?」

「はい、何でしょう?」

「単独で戦っているプレイヤーの詳細を頼む。あと、敵の少女が何なのかデータはあるか?」

「味方の識別を表示します。敵データについてですが、残念ながら強力なジャミングによってスキャンが機能していません」

「そうか」


 味方の識別で表示された名前は、西部にドルーク、東部にルーナ、南部にフローレンスだった。

 ベネットは戦車のハッチを開けて外へ出つつ言った。


「三人の戦況はわかるか?」

「はい、ドルークさんもルーナさんも互角の戦いを繰り広げていますね。フローレンスさんは味方の同士討ちで大混乱した中で、治療を施しながら戦っています。酷い状況です」

「……精神に作用する攻撃か?」

「映像だけでは何とも……それより、敵が来ていますよ」

「ああ、わかってる」


 敢えてこの場で待機していたベネットの前に、逃げる様子が無かった為にゆっくりと三人の少女が姿を見せた。


「ようっ、さっきはよくもあたしをぶっ飛ばしてくれたな? 倍返ししてやる!」

「わたしも、完璧な剣捌きを一瞬で攻略されるとは思いませんでしたよ。ムカつくので切り刻んであげます」

「お腹空いた」


 ぐう~っと、グラトニーのお腹が大きく鳴った。

 しまらない状況にラースとエンヴィーは肩を竦め、ベネットも釣られて苦笑した。


「……色々聞きたいが、話すつもりは?」

「あぁん? ねぇよ」

「私たちに勝てたら、考えてあげなくもないです」

「勝てたらお母さんが招待するって言ってたよ」

「……グラトニー、もうちょっと考えて喋ってくれねぇか? ぶん殴りたくなってくるんだよ」

「その素直さは妬ましいですが、今の私たちは人類の敵なのです。もっとしっかりしてください」

「はーい」


 この一連のやり取りだけで、ベネットは三人が悪い奴ではないと確信した。

 人間の価値観を持ってはいないが、最初から嫌な気配を感じていなかったのだ。

 ベネットは眼鏡を外してインベントリに仕舞い、コスチュームの軍服から防具の氷雪女王シリーズに着替え、右手に終雪、左手にメメント・モリを取り出した。


「とりあえず、倒させてもらうぞ」

「やってみやがれ」

「勝つ前提なのですね」

「お腹空いた」


 ベネットは宣言無しでマジックスキル【アイスエイジ】を使い一瞬で周辺を氷の世界へ変えた。

 三人の少女は飛び退いて地面から凍る魔法を躱し、少し離れた位置で着地した。


「【ブリザード】【ホワイトアウト】」


 スキルによって空が一瞬にして黒い雲に覆われ、吹雪と白い濃霧によって数メートル先も見えなくなる。


「はんっ、あたしらに目くらましは効かねぇぞ!」

「生命力は隠せるものではありません」

「そこだね~」


 ベネットが移動を始めてすぐ、グラトニーの尻尾のワームが伸びて襲い掛かった。口は巨大化しておらず、終雪で弾いて側面を切りつけた。

 だが、火花を散らして傷をつけるだけだった。

 エンヴィーからは八本の剣を使った緑の斬撃が連続で飛ばされ、最初の二撃を終雪で弾きながら移動して躱した。


「――っ!」

「おらぁ!」


 明確な殺気と敵意を感じ取ったベネットは真っ直ぐ殴り込んで来たラースの攻撃を躱し、メメント・モリを撃ったがすぐに鋼鉄の手で防がれた。

 またワームが襲い掛かって来るがそれを視界に入れずに躱し、一瞬体を光らせて側面へ回り込んだエンヴィーを見てスキルを使った。


「【ミラーバーン】」


 足元を中心に周りが摩擦係数の極めて小さい氷に覆われた。


「きゃっ!」

「うわっ!」


 範囲内にいたエンヴィーとラースは足元が突然変化して滑り、心構えをしていない為に盛大に転倒した。

 その隙にベネットはメメント・モリをグラトニーに構えて撃つと、グラトニーは尻尾の側面を盾にして防ぎつつ体に当たらないように距離を離しながら回避行動を取った。


「うぅ、お尻痛い……」

「くそっ、立てねぇ……」

「【スリートシャワー】」


 弾を装填しつつ各個撃破の時間を稼ぐ為に、二人に凍結の状態異常にする過冷却水のシャワーを掛けた。


「ひゃあっ! 冷たいだろうが!」

「あぁん……!」


 可愛い悲鳴を上げて怒鳴るラースに、色っぽい悲鳴を上げるエンヴィーを無視しつつ、ベネットは滑る氷の上を普通に移動してグラトニーに接近した。

 速さに目を見開いたグラトニーは真剣な顔つきになると、緑色の光で覆われている手を凶悪な機械の口へと変化させた。

 接近戦は危険だと一瞬で判断し、目標を変えることに決めたベネットはグラトニーの手が一歩届かない位置で急に立ち止まり、終雪を地面に突き刺した。


「【二の秘・雪崩】!」

「わっ!?」


 グラトニーは地面から出現した雪崩に呑み込まれて姿が見えなくなった。

 すぐさまベネットは二人の場所まで戻ると、二本の剣を槌に変えて杖代わりにしたエンヴィーが立ち上がっていた。


「ふぅっ、やっと立てた」

「おい、あたしも立たせろよ」

「【アイスウォール】」

「は?」


 エンヴィーは振り向いて目の前に出現した氷の壁に唖然としながら体を動かし、防御の構えを取った。幾ら八本のアームによる複数武器を使えるとしても、壁が飛んで来ては対処は出来ない。これがしっかりとした足場でラースであったならば殴り壊せていただろう。

 吹き飛ばされたエンヴィーに追撃は入れず、ベネットは未だ動けないラースに【アイスランス】を全周に出して攻撃し、鋼鉄の手で防がせた。


「【氷牢】」

「んなっ!」


 足元に展開された魔法陣から氷の格子が現れ、ラースは捕えられた。体を守るような姿勢でいた為、手足は丸まって最小限の面積になっており、牢はその大きさギリギリで作られている。そのせいで手足を広げても殆ど動かせず、殴ったり蹴ったりする為の空間を確保できずに壊すことが出来なかった。


「これで私の勝利だな」

「けっ、あと二人残ってるだろ!」

「すぐ分かる」


 吹き飛ばされていたエンヴィーはまた体を光らせて高速で接近し、八本の剣で切り掛かって来た。僅かに浮いており、滑って転倒することは無い。

 ベネットは手を向けてマジックスキル【念動力】で強引に動きを止めて捕まえた。

 エンヴィーはかなり力強く、MPが大量に消費し始めた。

 遅れて、雪崩の雪から這い出たグラトニーが少しだけ大きくしたワームを伸ばして襲い掛かるが、エンヴィーを口の前に持っていくとピタリと止まった。

 流石に仲間ごと食らうというのは、躊躇われるようだ。


「ほら、私の勝ちだ」


 体の疲労感が増えつつある中で強がって勝利宣言すると、ラースはチッと舌打ちした。


「……分かったよ。あたしらの負けだ」


 ラースが負けを認めた直後、三人の足元から円形の光が出現し、バリアのようなもので覆われた。

 同時に、氷の牢は破壊され、念動力の効果が強制的に遮断された。


「あたしが負けを認めたから、これで終わりってか」

「また会いましょう。招待はいずれ、時が来た時に致します」

「じゃあね~」


 三人が強い光に包まれたと思ったら、光の円は小さくなって消えた。

 そのすぐあと、ニーナが全員に向けて報告した。


「七人の少女の反応、消失しました。抵抗軍と交戦していたエネミーと残存エネミーも全ての反応が消失……作戦成功です」


 作戦が成功したことで、ウィンドウが表示された。


『中規模クエストを達成しました』


『達成報酬を以下に表示し、参加者全員へ配布いたします』


 ・三百万ゴールド

 ・兵器弾薬費無料チケット一枚

 ・レア装備引き換えチケット一枚

 ・装備強化素材代用チケット一枚

 ・兵器購入無料チケット一枚



 各地で鬨の声が上がる中、ベネットは眼鏡を取り出して掛け、インベントリを調べて装備強化に必要な素材が殆ど入手できていないことに気付き、頭を軽く掻いた。


「……クエストじゃあ、素材の入手は効率が悪いか」


 ただ、楽しかったベネットは満足してこれ以上活動する気が起きず、勝利の余韻に浸りながらログアウトした。


新たな敵、七人の少女。

名前ですぐにわかったかと思いますが、七つの大罪モチーフです。

彼女たちが強くないように見えますが、ベネットがまともに戦っていないだけです。

少女たちに別世界の技術や素材が使われている可能性ですが、それはまた後々に……。

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