再戦、ブリザーバード
ベネットの象徴となる『氷雪女王』シリーズを手に入れたエネミーとの再戦。
翌日、いつもの時間にログインしたベネットはラボへ真っ先に向かった。ハカセは相変わらず忙しそうにしていた。
「ハカセ、おはよう」
「おはようベネット。昨日忙しいと伝えた筈だが、何か用かね?」
「ちょっと改造をして欲しい」
「……どれをだい?」
作業の手を止めて振り返ったハカセに、ベネットはメメント・モリを差し出した。
「両手で扱えるよう、シリンダーのスイングアウトを左右に開けるようにしてほしい」
「それくらいならお安い御用だ」
メメント・モリを受け取ったハカセは早速改造に取り掛かった。手伝えることも無いベネットは、休憩用の椅子に座って待機した。
十分ほど経ったところでハカセは改造を終えた。
「ベネット、終わったよ」
「ん、ありがとう」
受け取ったベネットはメメント・モリを確認した。ハカセの改造によってシリンダーラッチは左右対称に取り付けられており、エジェクターロッドを収める溝が完全な隙間になっていた。
試しに左手で装填の動作を行えば、シリンダーが右側にスイングアウトされた。
今となっては不要だが、スキルが使えない万が一の状況を考えたベネットはそのまま手動で弾を排出し、インベントリ内に残っているスピードローダーを取り出して弾を装填した。
多少ぎこちないが、それでも実用範囲内の装填速度だった。
「いい感じだ。ただ、リアルなら耐久面が心配だな」
「破壊不可のユニーク武器だから壊れる心配はない。まぁ、私としても気にはなるから強化する際は強度を大幅に引き上げるつもりだ」
「それは楽しみだ」
「ああ、期待していたまえ」
床に散らばった弾を回収してメメント・モリと一緒に仕舞ったベネットは、ハカセのラボを出て第一世界へ移動した。
転送装置を使ってスノーフットの街に来たベネットは、マップを開いて残る一つの素材がある場所『ボスエリア:ブリザーバードの巣』を目指した。
以前来た時は戦車で登山をしていたが、今では頼れる従魔ホシマルのお陰で吹雪舞う雪山を駆け上った。
門番のように出現したアイスゴーレム二体はホシマルによってあっさり倒され、山の中腹にある祠に到着した。相変わらず魔法陣が設置されており、目の前に立つとウィンドウが表示された。
ハードモードを選択したうえで、楽な戦いにはならないだろうと予測して防具に着替えながら眼鏡を外した。
「さて、今回は総力戦で行こうか。【召喚・スノーベア】」
結構な量のMPを消費してスノーベアことノルドが召喚されると、ベネットは早速近づいて体に触れて撫でた。
だが、その毛は思いの外ゴワゴワしていて硬く、フワフワでないことにがっかりしたベネットは離れた。
「……まぁ、とりあえず死闘になるからよろしく」
ベネットはホシマルのフワフワを堪能してから殺意のゾーンに入り、一緒に魔法陣に入って転移した。
ボスエリアは以前と変わらず巨大な氷のドームだが、その広さは数倍になっていた。
ハードモードの追加要素として、室内であるにも関わらず吹雪が発生しており、足元は雪が積もっている。
ボスであるブリザーバードは、名前が『氷の精霊王・ブリザーバード』になって遥か上空を飛んでいた。最初から氷の鎧と冷気を纏い、白縹色のオーラを放って丸い魔法障壁を展開している。
ベネットたち一人と二体の侵入を確認すると、いきなり氷のビームを口から発射した。
ベネットとホシマルは右へ、ノルドは左へ避けると通り過ぎたビームから鋭い氷柱が大量に生えて壁を作った。
メメント・モリを出して構え、弾速などを考えて狙いながら五連射した。
三発は外れ、二発が魔法障壁を貫通して破壊、氷の鎧も貫通してダメージを与えたが微々たるものだった。
だが、魔法障壁はメメント・モリの弾を装填している間に再展開された。
「これは……長期戦になりそうだな」
ブリザーバードは反撃とばかりに氷の羽を飛ばして来るが、その量はベネットが依然見た時よりも多く、ドームの一部が氷の羽で埋め尽くされた。
ベネットとホシマルはなんとか隙間を見つけて躱し、狙われなかったノルドはブリザーバードと同じ氷のビームを口から発射して当てた。
魔法障壁が防いだが許容量を超えて解除されて氷の鎧の上からダメージを与えるが、氷属性の耐性が高い為に殆どダメージを与えられていない。
怯むことも無くブリザーバードが反撃に氷のビームをノルドに向けて発射するが、ノルドのビームと比較すると威力も速度も桁違いであり、ビームがあっさり押し返されて直撃し、一瞬で氷漬けになった。
召喚した存在は独立して行動する為、HPなどの情報は召喚者にはわからないようになっている。ベネットは感覚でノルドがそれなりのダメージを負ったことはわかったが、すぐ助けに行けない為に無視することに決めた。
「ホシマル!」
わん!
高所恐怖症などと言ってられず、ベネットはホシマルを呼ぶと素早く乗り込み、空中戦を仕掛ける為に飛んだ。
ブリザーバードの行動が変わり、ホシマルを捕らえようと正面から足を伸ばして来た。そこをベネットが【チャージショット】で撃って足に当てると、反撃されることを嫌って捕まえるのを止めて通り過ぎ、急停止からの反転をしてベネットたちの背後に回った。氷のビームが口から発射されるのを見てタイミングを合わせて躱しつつ、後ろを向いたベネットがメメント・モリを片手で構えて【チャージショット】を撃った。
しかし、揺れるホシマルの背中に加え、さっきの一撃で警戒しているブリザーバードが距離を離して回避行動を取って当たらず、残りの三発も溜めて撃ったが当たらなかった。
回避行動をしていたブリザーバードは氷の羽が複数抜け落ちて宙を一瞬舞った後、魔力のオーラを帯びてベネット目掛けてミサイルのように飛んで来た。
「ホシマル、やれ!」
わん!
以心伝心でホシマルは【流星群】を発動して後方へ向けて小さな星の雨を降らせ、一部の氷の羽を迎撃した。
残りは充分に引き寄せて【アイスウォール】で大きくぶ厚い氷の壁を生成して防いだ。
氷の羽は全て防いだが、ブリザーバードの突進で氷の壁は粉々に砕けた。
ベネットは弾を装填してからメメント・モリを仕舞い、ノルドとブリザーバードの攻撃で忘れていた魔法を思い出して使った。
「【フリージングビーム】」
魔法陣が手の前に展開され、ブリザーバードとほぼ同じビームが発射された。寒い環境で全能力が上昇していることもあり、消費MPに対して威力と弾速と射程が伸びたそれは銃と違ってブレることなく一筋の線として伸び続け、回避しきれないブリザーバードの魔法障壁に当たった。
魔法障壁はすぐに解除され、氷の鎧の上からダメージを与え始めた。だがすぐに同じビームを撃ち出し、ホシマルが上手く躱しながらベネットが魔法障壁で防いだ。
この削り合いでは分が悪いと判断したベネットはもう一つ使い勝手のいい魔法を思い出した。
「【氷刃六花】」
頭上に魔法陣を展開し、そこから氷の刃を六連射した。
威力も消費MPもそこそこの汎用的な魔法であるが、上昇した能力によりその刃は非常に鋭く頑丈になっている。
ベネットの狙いは頭部だ。
幾ら氷の鎧で頭部も守られているとはいえ目や口内は覆われておらず、傷つくことを恐れたブリザーバードはビームの発射を止めて追い掛けるのを諦めた。
追撃のチャンスだと判断したベネットは【アイスランス】を逃げ場が無いように全周から幾つも出して攻撃した。ホシマルも連携して【月光波】による三日月状の光波を撃ち出した。
だが、それらはブリザーバードが起こした竜巻によって弾かれ、環境が急変した。吹雪はより強くなり、凄まじい冷気を伴った濃霧が発生してベネットとホシマルのHPが徐々に減り始めた。竜巻からは大量の氷の羽が飛び出し、それは先ほどと同じように全てミサイルのようにベネットたちを狙って飛んで来た。
ベネットは【アイスウォール】で複数の氷の壁を大量に設置しつつ、以心伝心でホシマルを垂直に降下させた。目の前の対処に恐怖心など持っていられないベネットはホシマルの背中で立ち上がって終雪を出し、さらに【アイスソード】で氷の剣を持って二刀流となって迎撃態勢を取った。
半分以上が氷の壁で防がれ、残りの半分が襲い来る中で襲い来る順番を直感的に読み取ったベネットは腕を振るって次々と切り払っていく。
ホシマルも主であるベネットの意思に応じて【流星群】を使って迎撃に参加し、氷の羽によるダメージはゼロで凌いだ。
ただ、空間全体に漂う強力な冷気でホシマルのHPは既に三割以上も減少していた。
「……ここまでだな」
くう~ん。
途中退場が嫌で鳴くホシマルの背中を、氷の剣を捨てた左手で撫でつつ、地上に着いてホシマルの背から降りたベネットは言った。
「すまない、お前を死なせたくないんだ。【待機・ホシマル】」
ホシマルを別空間へ待機させたベネットは【アイスアーマー】で防具に氷の装甲を追加し、竜巻が収まって再び姿を見せたブリザーバードを睨みつけた。
ブリザーバードはベネットが動かないとわかると、力を溜めてから最大威力の氷のビームを発射した。
ベネットは氷の剣を捨て、終雪を地面に突き刺してから迫り来るビームに手を向けた。
「【フリージングビーム】」
ビーム同士がぶつかり合って押し留めるが、すぐにベネットのビームが押され始めた。
出力を上げずに粘ったベネットは頃合いを見計らって別の攻撃をしようとしたが、ブリザーバードに向けて横から氷のビームが伸びて魔法障壁を解除し、ダメージを与えた。
「……【修羅】!」
ブリザーバードの気がそちらに向いてビームの出力が落ちたことを感じたベネットは、赤いオーラを纏ってステータスを底上げしながら今あるMPを使い切るつもりで一気にビームの出力を上げた。
より太く強くなったビームは一瞬で押し返し、ブリザーバードは押し負けてまともに食らって地面へ落下を始めた。
MPが枯渇し、極度の疲労に襲われたベネットはメニューを開いてインベントリからエリクサー∞を取り出して飲んで回復した。
氷漬けから復帰して横槍を入れていたノルドは、落下したブリザーバードに接近して襲い掛かった。組み付かれたことでブリザーバードは飛ぶことに集中できず、振り払おうと暴れ出した。
ベネットはその隙に地面に刺していた終雪を引き抜いて駆け寄りつつ、ノルドの援護の為に【アイスウォール】で動きを封じるように柱を複数展開した。
暴れに暴れるブリザーバードに氷の壁はすぐに壊れたが、それでもベネットが接近しきるには充分な時間だった。
役目を果たしたノルドを送還したベネットは【アイスウォール】で巨大な柱を横向きに生成してブリザーバードにぶつけて壁際に縫い留めた。
続けてこれ以上自由に逃がさないよう、自分も範囲内に含めつつ魔法を使った。
「【氷牢】」
かなりの消費となるが、ブリザーバードの足元に巨大な魔法陣を展開し、閉じ込めてしまうほどの大きな檻が瞬時に生成された。壁際ということで檻の作成は半分で済み、ベネットのMPには余裕があった。
「【二の秘・雪崩】!」
氷の檻の中、至近距離から大きな雪崩を出したことでブリザーバードは体の大部分を雪に埋もれさせた。
ただ顔は動き、口から氷のビームを発射しようとして【アイスツリー】が入り込み、内側から喉と首を串刺しにした。それにより大量のダメージエフェクトを吐き出し、HPが一気に減った。
雪の山を駆け上ってブリザーバードの頭部まで来たベネットは、怯んで動きを止めている間に終雪で切りつける為に構えた。
「【一の秘・氷花閃】!」
飛ぶ斬撃で大きな首を切り、傷口から氷が出てブリザーバードの首から上が取れた。大量のダメージエフェクトを散らしてHPが無くなると体がただの氷になって崩れ落ちた。
「――まさかっ!」
まだ倒せていないことに気付いたベネットが氷の檻を解除しつつ周囲を警戒すれば、このドームの中央から大きな氷塊がせり上がり、砕け散って中からブリザーバードが生まれつつ翼を広げてひと鳴きした。
HPは完全回復しており、オーラも増している。
「……不死鳥……いや、精霊だから死の概念が無いのか。ならば……【TA・展開】」
色々と攻略法を考えつつ、TAアウルムを出したベネットは行動に移される前に乗り込んでシステムを起動した。
全周モニターが外の景色を映して動けるようになった直後、動き出したブリザーバードの氷のビームを間一髪で回避して飛び立ち、両肩にグレネードランチャー、両手にビームライフルを亜空間換装システムから装備して二度目の空中戦に挑んだ。
さっきの戦闘よりも動きが格段に良くなったブリザードだが、最新のパーツで組まれマナフレームを取り入れたTAアウルムには流石に敵わなかった。
魔法障壁も高熱量のビームライフルを防ぎきれずあっさり貫通して氷の鎧を溶かし、翼を撃ち抜いて落とした。
魔法障壁が解除されて地面に落ちたところにグレネードランチャーの榴弾を当てれば、氷の鎧の大部分を砕いて大ダメージを与えた。
そこまでは良かったが、ブリザーバードは即座にHPを回復させて破損した部位も再生した。
「……普通に倒すだけでは駄目か」
再び動き出したブリザーバードの胴体をビームライフルで撃ち抜くが、すぐに再生した。何度も撃ってその場に固定し、時間を稼ぎつつ直感を用いて攻略法を導き出そうとしたが、幾ら無敵の状態になっていても撃たれ続けるのは嫌なのか、ブリザーバードはまるで霊体になったのかように地面の雪と氷をすり抜けて潜り込んだ。
ブリザーバードは雪で見えない地面から壁の中に移動し、そこから氷のビームを発射した。捉え続けていたベネットは躱しながらビームライフルで反撃するが、壁に大きな穴が空けただけで効果はなく、すぐに氷の壁が再生して元に戻った。
打つ手が無いベネットが様子を窺っていると、また氷のビームを発射して来る。
躱した瞬間、嫌な予感がしてさらに回避行動を取ればビームが壁を何度も反射した。さらに向きをずらして反射するビームの角度が変わり、一気に回避が難しくなる。
直感で避け切ったところで、今度は氷の羽が氷の壁の向こうで大量に生成された。それが全周に均等に振り分けられると、同時に様々な方向から真っ直ぐ発射される。
その全てを躱していると氷のビームも加わり、TAの約十五メートルという大きさが災いして左腕に被弾した。魔力を帯びたビームはマナコーティングを貫通して左腕を凍結させ、内側から出た鋭い氷の棘によって千切れて落ちた。
被弾してバランスを崩したことで氷の羽も避け損なって幾つか被弾した。ただ、頑丈になったマナフレートの装甲によってそちらは大したダメージにはならなかった。
ブリザーバードの攻撃が一旦収まると、ほんの十秒ほどこちらの様子を窺うように壁の中を旋回し、再び同じ攻撃を始めようとした。
「やっぱり……ギミックか? 【TA・収納】」
幾つかの攻略法があるギミック戦闘だと判断し、その中で自分が取れる方法は二つだと思ったベネットはTAを仕舞い、ぶっつけ本番でブリザーバードの状態を真似て魔法を発動させた。
体が白縹色のオーラに包まれ、雪が敷き詰められた地面に着地せずそのまま透過して落ち、ブリザーバードと同様に氷の中へ入った。
脳内にスキル取得の音声が響くが今は戦闘中なので無視し、ベネットは氷の中を進んだ。
ブリザーバードから氷のビームが飛んで来るが、氷の中という環境はベネットのステータスを格段に上昇させ、簡単に躱して接近する。
氷の羽も悉くを躱して至近まで接近し、足の攻撃をすり抜けて胴体に手を着いた。
「【砕氷】!」
氷を砕くマジックスキルにより、対象としたブリザーバードは粉々に砕け散った。
だが、逆再生するかのように砕けが氷が再集結してその場ですぐに復活した。
こうなる可能性があることをわかっていたベネットは、抱き着くように体に触れてもう一つの可能性に賭けた。
「一緒に眠ろうじゃないか。【コールドスリープ】」
ブリザーバードを覆うほどの魔法陣が展開され、抵抗されずに発動した。氷の中で魔法で生成された氷がベネットごとブリザーバードを覆って閉じ込め、強制的な眠りに就かせた。
数時間が経過して【コールドスリープ】の氷が砕けてベネットが目を覚ませば、目の前にウィンドウが表示されていた。
『ボスエリア:ブリザーバードの巣“ハードモード”をクリアしました』
「……クリアできたか」
通知を消したところで、ベネットは抱き着いていたブリザーバードから離れて見上げた。
ブリザーバードは羽を畳んで静かに佇み非常に落ち着いている。冷気もオーラも氷の鎧もすっかり消えていた。
「こんなクリアの仕方で良かったのか?」
問い掛けるように言えば、ベネットの言葉に反応して深々とお辞儀をした。
直後、ウィンドウが表示された。
『ブリザーバードが友好の意を示しました。召喚契約をしますか?』
はい
いいえ
「おおう……お前もか」
まさか契約できるとは思っていなかったベネットは驚きつつ、戦力が増えることはいいことなのですぐさま“はい”を押した。
すると氷の精霊王・ブリザーバードは、キィーッ、と甲高くひと鳴きして契約成立の喜びを示し、一本だけ強いオーラを放ち始めた羽を器用に抜いて差し出した。
ベネットがそれを受け取るとアイテムとして取得したこととなって消え、脳内に音声が響いた。
『パッシブスキル【氷の精霊王の加護】を取得しました』
「ふむ、強そうなスキルだな」
やることを終えたブリザーバードは光の粒子となって消え、それを見送ったベネットはメニューを開いて取得したスキルを確認した。
マジックスキル【アイスムーブ】
消費MP・小
MPを持続消費することで積雪や氷の中を自在に移動が可能となる。氷点下状態の凍った壁や地面なども氷として扱う。
ただし、壁や地面の中にいた状態で氷点下で無くなると、すり抜け出来ず中に取り残されてしまう。
その他の効果として、氷や凍った壁などには重力に逆らって貼りつくことが出来る。
また、沸騰したお湯以下の温度の場所なら、この魔法によってどこでも滑ることが可能となる。
パッシブスキル【氷の精霊王の加護】
以下のスキルを内包する。
【氷属性威力上昇・特】
【氷属性消費MP軽減・特】
【氷属性耐性・絶】
【凍結無効】
【火属性威力低下・特】
【火属性消費MP増加・特】
取得条件
プレイヤーが氷属性に傾倒しており、単独で『ボスエリア:ブリザーバードの巣“ハードモード”』をクリアする。
なお、他の精霊王の加護を受けている場合は精霊同士が喧嘩をする為、スキルの入れ替えをするか選択する必要がある。
「なんだこれ……」
破格の性能と常人では不可能に近い取得条件に、ベネットは呆れるしかなかった。
メニューを閉じて氷の中からドームの内側に戻り、クリア報酬の宝箱を開けた。中には使いもしない強そうな水色の細剣と金塊が入っていた。
それらを回収したベネットは、少し場所を移動して召喚契約したブリザーバードに挨拶することに決めた。
「【召喚・ブリザーバード】」
巨大な魔法陣が展開され、氷の精霊王・ブリザーバードが出現した。
だが同時に、ベネットは凄まじい量のMPを消費してどっと疲労感が押し寄せていた。
「消費重いな。とにかく、試しに呼ばせてもらった。これからよろしくな」
ブリザーバードは軽くキィッとひと鳴きして了承の意を示した。
「……ところで、名前は必要か?」
その問い掛けに力強く頷かれたベネットは考えた。
「んー……ブリザードバード……ブリザード……リザード……は、トカゲになるし駄目だな。フリーザ……は止めておこう。ちょっと待ってろ」
全く思いつかないベネットはメニューを開き、オプションのヘルプ機能から名付けの参考用に導入されている外国語辞典を開いた。
通常の検索から名付け用の検索に切り替えて“氷”の単語を入れれば、氷に関する様々な単語が表示された。
「うーん……ツンドラはどうだ?」
ブリザーバードは首を横に振った。
「駄目か。じゃあ……フィンブルは?」
勢いよく首を横に振った。
「んー……グランディーネ」
少し迷って、首を横に振った。
「……フリーレン」
また少し迷ったが、首を横に振った。
それから様々な候補を上げていくが、どれもしっくりこないようで首を横に振り続けた。
いよいよ名前に適した単語が無くなったところで、ベネットはブリザーバードには似合わないと思っていた単語を言ってみた。
「…………ネーヴェ」
それを聞いた途端、ブリザーバードは力強くひと鳴きして頷いた。
「ネーヴェでいいんだ……これ、イタリア語で雪なんだけどな」
そこでふと、この反応からある思い違いをしていたんじゃないかと思ったベネットは、恐る恐る聞いてみた。
「……なぁ、ちょーっと聞きたいんだが……お前ってもしかして……メスか?」
その途端、激怒したネーヴェは吠えるように甲高く鳴いて体を白縹色の光が包んだ。
おっかなびっくりで身構えるベネットを前に、ネーヴェの体はみるみるうちに縮んで、やがて細身の少女の形になった。
光が消えて完全に容姿がわかるようになると、ベネットは目を見開いた。ベネットのアバターとかなり似ているのだ。
青みがかった銀髪は肩に掛かる程度のポニーテールで、ベネットと同じ綺麗な青い瞳に凛とした顔つきをしているが、少し幼く見える。
服装はベネットと全く同じ氷雪女王シリーズを着用しているのだが、ヒール付きブーツであるにも関わらず身長は低く、ベネットとは十センチほどの差がある。
体はベネットとは別方向で理想的なシンデレラ体型であり、胸とお尻も理想的な大きさだ。
誰がどう見てもベネットの妹という認識になってしまう容姿だが、唯一人間とは明確に違う点が一つあった。
それは、背中にある翼だ。
人間サイズまで縮小したブリザーバードの翼が、種族ウイングのように背中から生えているのだ。
人間の姿になったネーヴェは、鋭い眼光でベネットを睨みつけて言った。
「見ての通り、私はメスで女よ!」
「……なんか、ごめん」
気圧されて謝ったベネットを見て、話せるのに会話をしなかった自分が悪いと思ったネーヴェは怒りをあっさりと鎮めた。
「……まぁいいわ。改めて自己紹介させてもらうけど、私は氷の精霊王・ブリザーバード。今は名前を貰ったからネーヴェよ。これからよろしく」
「ん、よろしく。ところでその姿は?」
「王になるほどの精霊は人型になることが出来るわ。似た姿なのは私も驚いているわ。これも運命かしらね」
「……そうか。まぁ色々聞くとしても、とりあえず出ようか」
「そうね。ずっとここにいても仕方ないし」
魔法陣を使って元の場所へ帰還すれば、雪山の吹雪は止んでいた。分厚く暗かった雲は溶けるように消え始めており、隙間から幾つもの光が差し込んで幻想的な景色を作り出していた。
祠にも光が差し込み、ベネットは思わず手でひさしを作りながら見上げた。
「……晴れてる」
「私が落ち着いたからね」
呟きに答えたネーヴェを一瞥したベネットは、雪山から見える広大な白い世界を眺めながら言った。
「……その言い方だと、やっぱり精霊というのは自然そのものなのか?」
「ええ、私たち精霊は自然そのもの。普段は環境を変えることはしないけど、私たちが荒れると環境の状態が悪くなるわ」
「なら、前までは荒れていたのか?」
「まぁね。ちょっと前に、強烈な負の感情と穢れが世界を包み込んだの。その影響で精霊の多くは魔物化したし、私たち精霊王や魔物化を耐えた一部の精霊は理性を失って荒れてしまった。他の精霊王も――」
「ちょっと待て。精霊が魔物化って、どういうことだ?」
普遍的な情報としてサラリと出たこの世界の根幹に関わる設定に、ベネットは口を挟んでネーヴェに振り向いた。ネーヴェもまたベネットに振り向いて目を合わせ、知らないのだとわかると説明を始めた。
「……この世界で人間たちが呼んでいる魔物って言うのは、精霊が変化した姿よ。人間や動物が放つ負の感情や、弔いもしない死体や汚れた土地から放出された穢れの影響を受けると、精霊は凶暴になったり姿形を変えて魔物になるの」
「なんだそれ……神様の仕業か?」
「そんなところ。優しい優しい神様が、人間同士で争わないように、飢えて困らないようにって作り出した仕組みよ」
皮肉を込めて答えたネーヴェに、ベネットは複雑な表情をした。自分の嫌う運命のようなものであるが、共通の敵を作り出すことで人間同士が争っていられないというのは納得できる仕組みでもあった。それはそれとして、精霊が一方的に損をしているような仕組みは気に入らない。
「精霊は、魔物化して殺されることが嫌にならないのか?」
「いいえ全く。精霊は自然そのもので死の概念は無いわ。魔物化も自然の恐ろしさを具現化したようなもので、私たちにとっては一側面が表出したに過ぎないから」
「その仕組み、この世界の人間は知っているのか?」
「さぁ? 知らないんじゃない? 私たち精霊って基本的に人前に姿を見せないし、そういう話は神様からしないでねってお願いされてるし」
「……そうか。話を戻すが、他の精霊王も今は荒れているのか?」
「ええ、間違いなく荒れているわ」
「ふむ、それは解決した方がいいか?」
「その方がいいわ。精霊王が荒れるなんてことは、その地域で天変地異が起きる前触れも同じ。今回の状態は世界を揺るがす何かが起きる前兆そのもの」
「それが何かはわかるか?」
「いいえ。でも解決しないと世界は終わるでしょうね」
「……また大規模クエストか」
大規模クエストがまたすぐに発生するだろうと思ったベネットは、今日はもう終わろうとした。
だが、ログアウトボタンを押そうとしたところでネーヴェに手を払われて止められた。
「ちょっと待って。こんなところに私一人置いていくつもり?」
「いや、帰ればいいだろ?」
「嫌よ。ご主人様と契約して折角自由になったのに、即帰れなんて……せめて、ワールドシップとやらに案内しなさい」
「……召喚契約した奴は、サポートNPCと同じ扱いなのか?」
「召喚中はそうよ」
「……わかった。テレポートクリスタルは使えるか?」
「渡してくれれば使えるわ」
「はぁ……」
面倒臭い奴を仲間にしたことにベネットは溜息を吐き、インベントリからテレポートクリスタルをネーヴェに渡した。
「じゃあ、帰るか。使い方はわかるな?」
「ええ、そこは召喚契約した時に知識として入って来たから大丈夫」
二人で使用し、ワールドシップに戻った。
ワールドシップに帰還したベネットはネーヴェをチームルームに案内し、サポートNPCのニーナ・メイスンに新たな仲間が出来たことと、ワールドシップでの過ごし方を教えてあげるように指示し、自室で未だ作業中のハカセに紹介した。
ハカセは早速興味を抱いて「是非解析させてくれ」と迫り、身の危険を感じたネーヴェは小さな悲鳴を上げて部屋から出て行ってしまった。
子供っぽい動きに微笑みつつ、ベネットはその隙にログアウトした。
敵が味方になるっていうの、作者は好きな展開です。
召喚契約と従魔契約は、そんなに違いがありません。
MPを使ったゲートを介しているか、『絆の指輪』という凄い装飾品を介しているかの違いです。




