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第十世界、大規模クエスト1

第十世界の大規模クエスト開始。

まずは地球の状況からどうぞ。



 第十世界で歌が響く中、地球の活動拠点では、アメリカ大陸の中部にある大きな空間の亀裂から出現した大量の敵に多くの者が唖然とした。空中を黒い粒が埋め尽くし、地上を黒い波が蠢いて近づいて来る。多少の知能はあるのか活動拠点に真っ直ぐ近づくだけでなく、一部は取り囲むように横に広がり始めた。


 その様子を、既に防具を着たオウカは活動拠点から少し離れた西側の丘の上から悠然と眺めていた。


「これがローカストで、大規模クエストか。凄い数だな」


 まだ攻撃はしない。あまりにも離れすぎていて、魔法であっても射程外だからだ。


「姫様。こんな時にアレですが、挨拶してもいいですか?」

「うむ。さっきから気になっていたのだが、お前たちはなんだ?」


 オウカが振り返れば、プレイヤーが五十人ほど、全員が似たような赤い西洋甲冑を装備して整然と並んで待機していた。

 その五十人の少し前に一人、少しだけ豪華な甲冑を装備している男がいる。

 バケツ頭のヘルメットを被っており顔は見えないが、彼は恭しく挨拶した。


「お初お目に掛かります姫様。俺はガイエンという者です。チーム『炎皇騎士団』の団長を務めています。彼らは俺と同じで姫騎士であるオウカ様のファンです。姫様を守る為に、こうして馳せ参じました」

「ほぉ……そうか」


 チーム全体で姫騎士プレイのロールプレイに付き合ってくれるとわかると、オウカの内心では歓声が上がり、一気に感情値の上限を迎えた。

 ただ、それを表に出すほどオウカはロールプレイを疎かにしない。

 平静に務め、姫騎士であろうと毅然とした態度を取る。


「私の為に馳せ参じたこと、感謝する。だが、お前たちとこうして会うのは初めてだ。まずはそのヘルメットを脱ぎ、顔を見せよ」

「はっ!」


 団長がヘルメットを脱ぐと、それに倣って団員もヘルメットを脱いだ。全員が男性アバターであり、団員は若い容姿ばかりだ。

 団長は顎髭の似合う壮年の色男で、歴戦の戦士かのような切り傷が顔中にあった。

 オウカは全員の顔を見渡し、ふざけてやっている人間が誰もいないと確信した。

 だがそれでも、姫騎士としていきなり信頼を寄せるわけにはいかず、こういった。


「お前たちの顔はわかった。その忠義が本物か、この戦いで見せてみよ!」

「勿論です。姫様は魔法に集中してください。我々が命に代えてもお守り致します」

「守るだと? 私の炎は味方をも燃やす。どうやって傍で守るつもりだ?」

「ご安心を。我々、火属性耐性に特化した装備を揃えております。火属性耐性のポーションも大量に持参しております」


 騎士団の全員がアンチポーションを出して見せた。


「フフ……無理はするなよ」


 自分の傍に無理矢理にでも立とうとする者がいることに笑顔を見せ、やる気に満ち溢れたオウカは『魔剣レーヴァテイン』と『魔杖イフリート』を取り出し、魔法の【浮遊付与】の効果で浮かせた。

 さらに【MP消費軽減・中】と【MP自動回復・小】と【魔法威力増加・大】のパッシブスキルが付与された『賢者の杖』を二本出した。その杖二本も魔法で【浮遊付与】が掛けられており、オウカの背後に浮いた。


「【炎海】」


 防具のスキルによって辺り一面が一瞬にして消えない炎で飲み込まれる。

 騎士団たちがポーションを飲んで火属性の耐性を上げるが、それでも僅かずつだがHPが減っていく。


「【マジックヒールサークル】」


 回復系の魔法が発動し、オウカを起点として足元に半径五メートルほどの魔法陣が形成されて青白い光を淡く放った。それは一定時間【MP自動回復・小】の効果を発するものであり、術者が効果範囲から出ると自動で解除されるというものだ。


「お前たちには私の本気を見せておこう。【ヴォルカニックボム】」


 オウカの魔法発動によって上空に魔法陣が展開され、そこからマグマを圧縮して凝固した直径三メートルほどの塊が、爆発する火の魔力を纏って一つ射出され、山なりに飛んで行く。直撃したローカストの軍勢の一部を潰し、そこから大爆発を起こして周辺を消し飛ばした。


 だが、それだけでは終わらない。


 オウカは一発目でアイドルのバフも乗って威力が上がっていることと着弾点に問題無いことがわかると、魔法陣を数十同時に横並びで展開し、ローカストの軍勢の先陣を狙って線による攻撃を始めた。

 空中から迫るローカストに対しては、小さな魔法陣をさらに数十展開して別の魔法を発動させた。


「【ファイアアロー】」


 小さな魔法陣から次々と炎の矢が射出され、風穴を開けて倒していく。驚異的なのはその全てがオウカ一人によってしっかりと照準されており、矢の命中率はかなり高かった。


 まるで戦略爆撃機による絨毯爆撃と、弓兵部隊による一斉射が延々と行われているような光景に、騎士団は思った。


 もう姫様一人でいいんじゃないかな?


 オウカもハッと気づく、圧倒的な火力によってローカストを一切近づけさせていない状態となっており、折角近くにいてくれている騎士団が完全に遊兵化していることに。

 戦って忠義を示せと言った手前、このまま一人で無双するのはまずい。かといって手を抜いてわざわざ敵の侵攻を許して戦わせるのは間違っている。

 やってしまった、と気まずく思いながらも姫騎士らしく毅然とした態度で、騎士団全員に聞こえるように声を上げた。


「『炎皇騎士団』諸君、どうやらローカスト共は思った以上に脅威ではないようだ。ここは私一人で充分。お前たちは苦戦している場所へ急行し、仲間を助けよ」

「しかし姫様、それでは万が一があった時、貴女様を守れません」

「案ずるな。引き際は弁えている。それよりも他の仲間を助けよ。姫として命ずる」

「はっ。では我々は別の場所へ急行し、姫様の耳に届くほどの戦果を出して見せましょう」


 騎士団はガチャガチャ鎧を揺らしながら走り去り、活動拠点へ戻って行った。

 傍に誰もいないことを確認したオウカは、溜息を吐いた。


「……なんでこうなるかなぁ」





 活動拠点の北側にて、ヘカティアは防衛線として構築された壁の上にいた。周りには狙撃が得意なプレイヤーの集団によって狙撃部隊が編成されており、空中の敵の撃滅が仕事だ。

 隣にはヘカティアの弟子となったチーム『円卓の騎士』のパーシヴァルがいる。


 地上のプレイヤーとローカストはまだ会敵しておらず、通常の対物ライフルの射程としてはまだまだ遠いが、ヘカティアなら当てられる距離になったことで狙撃の準備に入った。


 今ヘカティアが構えている対物ライフルは普段使いの物ではなく『イレイザー』というユニーク武器である。全長二メートルを超える巨大な狙撃銃で二脚とスコープが装備されており、銃口にはマズルブレーキが付いている。二十ミリ口径の弾を使用し、五発装填の箱型弾倉でボルトアクション方式となっている。武器のスキルは【貫徹】と【対物・Ⅴ】である。


「し、師匠……もう撃つんですか? それに、魔法の付与は?」


 撃とうとしたがパーシヴァルに声を掛けられ、一旦スコープから目を離した。

 自慢したいが、説明するのも面倒なので一言。


「……これは、特別」

「……僕も欲しいなぁ」


 羨むパーシヴァルに掛ける言葉は見つからず、ヘカティアは黙って再び狙撃に入った。

 早速、空を飛ぶ中型ローカストに向かって引き金を引いた。

 銃としては大き過ぎる爆音が響き渡り、マズルフラッシュが銃口から発せられ、弾丸が真っ直ぐ飛んで行く。数キロ離れた位置を飛ぶ中型ローカストの一体の頭部に直撃すると、弾丸は【貫徹】の効果によってコーティングを容易く貫通して頭部に穴が開き、霧散して消滅した。

 効果ありと見たヘカティアは手早く次弾を装填して撃ち始め、次々と撃破していく。


 狙撃部隊の有効射程内に入るとプレイヤーたちはそれぞれ取得している属性付与魔法を唱え、一斉に狙撃が開始された。

 中型ローカストの高速に対し、狙撃では手数が足りずに接近されるが、近くに待機していた対空兵器や企業のTA、NA、LAが動いて弾幕を張り始めた。

 地上にいるプレイヤーたちも小型ローカストの軍勢と戦闘を始めた。


 何十発、何百発と撃ち続けるプレイヤーたちの周辺に大量の空薬莢が散らばり始めるが、それらは結構な時間が経たないと消失しない。

 非常に邪魔で歩くのが危険な状態となり始めるが、戦闘の真っただ中で悠然と空薬莢を箒で手早く掃除していく者たちがいた。


 メイドである。


 メイド服を着た女性アバターのプレイヤーが二人一組となり、箒で掃いて塵取りで掬い取ってゴミ袋に集めて回収していた。同じ行動が数十組単位で行われている。

 彼女たちは今回の大規模クエストで後方支援をすることになったチームの一つ『メイド愛好会』である。

 チームリーダーから末端まで全員が女性アバターのメイド集団であり、戦闘のサポートからロールプレイの付き合いまでしてくれるチームだ。メイドたちは種族がバラバラで好みのメイド服を着用している。

 全員がプレイヤーである為に戦闘能力もしっかりと保持しており、空薬莢の掃除中に中型ローカストが襲い掛かって来ても箒やごみ袋から剣や銃や杖に持ち変え、しっかりと魔法で属性を付与して攻撃されるよりも速く動いて一瞬で撃破した。

 何故これほど強いのかは、リーダーの“戦闘はメイドの嗜みの一つ”という価値観によって、全員がしっかりと鍛えているからである。

 そんなメイド集団を指揮するのは、リーダーのイズミだ。黒いストレートの長髪に黒い瞳の、清楚さと落ち着いた雰囲気を持つ種族ヒューマンの女性で、シンプルなロングスカートタイプのメイド服を着用している。


 彼女は戦闘真っただ中の状況でも微笑を絶やさず歩き、一撃必殺で中型ローカストを倒し続けるヘカティアの傍に来ると声を掛けた。


「こんにちは、ヘカティア様」


 戦闘中に呑気に挨拶してくることにヘカティアはちらりと一瞥すると眉を顰め、無言で狙撃に戻った。


「わたくし、チーム『メイド愛好会』のリーダーをしているイズミと申します。近々、リーベ様にメイドとしてお仕えしますので、その時はよろしくお願いします」


 メイド雇ったんだ、と思いながらヘカティアは対物ライフルを持ち上げてイズミの方に構えた。イズミも同時に動いて両手にロングマガジンの付いた黒い自動拳銃を取り出し、ヘカティアの方に向けて構えた。

 狙いは弾幕を掻い潜って二人の背後に現れた中型ローカスト二体だ。ヘカティアは一撃で頭部を撃ち抜き、イズミは宣言無しでマジックスキル【ホーリーエンチャント】を発動させて聖属性を付与し、フルオート機構を備えた自動拳銃で頭部を蜂の巣にして撃破した。


「……いいね」

「ありがとうございます」


 礼を言ったイズミは撃ち切ったロングマガジンを落とすと、武器の一部として扱われている新たなロングマガジンを自動拳銃の真下に出現させ、素早く振り落とすように動かして一瞬で装填した。


 ハイスピードリロードという技術だ。


 簡単なようにやっているが、寸分のズレも許さない位置とタイミングが必要なフルダイブVRゲーム独自の高難易度技術であり、これを習得しているプレイヤーはそう多くはない。

 自分ほどではないが間違いなくトッププレイヤーに近い強者だと認識したヘカティアは、重くてあまり長時間持っていたくないイレイザーを置いてから手を差し出した。


「……ん」

「……はい、これからよろしくお願いします」


 何も言わないが歓迎されていると理解したイズミは握手を交わした。





 北の防衛戦の地上では、特に兵器の操縦や銃による狙撃などの技能を持たず、単独で動くには心許ないプレイヤーたちが寄せ集められていた。

 だが、あまりの敵の多さに攻めようと考えていたプレイヤーは物怖じし、他のプレイヤーと一緒に待ち構えて戦っていた。

 その中で、とあるチームが僅かに先行して派手に戦っていた。


 チーム『ヒーロー協会』の者たちである。


「――とうっ! 【ブレイズキック】!」


 S(スーパー)HS(ヒーロースーツ)で花の太陽の戦士に変身した状態のヒマワリは、小型ローカストの一体に狙いを定めて捻りを加えながら華麗に飛び、アクティブスキルによって炎を纏った蹴りを食らわせた。

 一撃で小型ローカストは霧散し、さらに爆炎が広がって他の小型ローカストを巻き込んで撃破した。


「はああぁぁぁ! 【サンパンチ】!」


 続けて気合を拳に込めながら近くの小型ローカストに近づき、アクティブスキルで太陽のような高熱のオーラを纏わせて殴りつけた。

 スーツの怪力と合わせて高熱のオーラが球体となって飛び出し、小型ローカストの肉体を貫通して密集している射線上の小型ローカストにダメージを与え、最後には盛大に爆発を起こして多数を撃破した。


 ヒマワリの背後から小型ローカストが襲い掛かるが、同じく海の戦士に変身した状態のマグロが目にも止まらぬ速さで動いて止めに入った。


「【水刃脚】!」


 横薙ぎに足が振るわれれば、水が大きな刃の形となって飛んで行き、小型ローカストの肉体を容易く切断して複数体を同時に撃破した。


「【波紋拳】!」


 続けて正拳突きをすれば、水気を含んだ衝撃波が扇状に波紋のように広がり、迫り来る小型ローカスト複数に対してスーツの怪力が加わった凄まじい衝撃が襲い、ぐちゃりと原型を留めないほどに潰れて霧散した。

 それでも小型ローカストの軍勢は次々と現れ、前に出過ぎている二人は囲まれる。


「……ヒマワリ、一旦下がるか?」

「いや、このままでいい。こうして俺たちが前に出ていれば、その分後ろにいる者たちは楽になる。それに――」


 ヒマワリが言おうとした瞬間、野太い声が響いた。


「先輩がたぁぁぁぁぁ! ダイジョーブですかぁぁぁぁぁ!」


 両手で持つほどの機械仕掛けの大鉞(おおまさかり)に雷の属性魔法を付与して振り回し、小型ローカストを蹴散らせながら近づいて来たのは、カッコイイ熊のデザインの金と黒のSHSを着込んだヒーローだった。


「キンタロウか。俺たちなら大丈夫だ。他のヒーローはどうだ?」


 ヒマワリは返事をしつつ、マグロと共に襲い掛かる小型ローカストを相手に素手で戦う。既にSHSそのものにそれぞれ得意とする炎と水の属性魔法が付与されており、効き目はばっちりだ。


「他のヒーローたちなら固まって行動してる! あんたたちはダイジョーブなんだな!」

「ああ、俺たちのことなら心配するな」

「わかりましたぁぁぁぁぁ! ご武運をぉぉぉぉぉ!」


 二人が大丈夫だとわかったキンタロウは、また小型ローカストを大鉞で蹴散らしながら他のヒーローたちの場所へ戻って行った。




 ヒーローたちが前で戦っている中、その後方では多くのプレイヤーたちが集団で対応していた。

 大盾や盾を持つプレイヤーが壁を作り、その間から銃や弓、槍などを持つプレイヤーが攻撃し、横から回り込もうとする奴らには他のプレイヤーが対応している。敵の攻撃が届かない集団の中心部には魔法使いや回復を専門とするプレイヤーがおり、しっかりと支援が行き届いていた。

 これらの行動や陣形は誰かが指揮してなったわけではない。ゲーム好きの人間をはじめとして、自分でやるべき役割をこなそうとした結果、自然とそうなったのだ。


 ただ、チームに参加している者たちはその集団の隣でそれぞれ固まって行動していた。


 特に目立っているのはチーム『桃園の誓い』である。アップデート当日からチームメンバー募集を呼び掛けて増え続けた結果、千人を超えるメンバーが集まってしまった。今ではオールワールド・オンライン一の巨大チームとして名が知られている。

 そんな巨大チームを率いることになってしまったナオ、サク、リクの三人は千人を超えるメンバーに混じって普通に戦っていた。


「おいサク、もうちょい前出られないか?」

「いや無理だ。数が多過ぎる」

「そうだぞナオ。こんな大量の敵相手に出過ぎたら、それこそフルボッコだ」

「とは言ってもよ、盾持ちの間から槍でチマチマ、銃でチマチマって……すっごい地味なんだが」

「じゃあ前に出てみるか? あんなヒーローみたいに出来るのならいいと思うぞ」

「……やめとく」


 モブらしくしようとしたところで、この地味な戦い方に不満を持つとある三人組がわざわざナオ、サク、リクの傍まで寄って来た。


「お三方、少しいいか?」

「ん、あんたたちは……えっと……誰だっけ?」


 振り向いたナオは、大中小と身長が別れた三人組を見てあと少しで思い出しそうなところまで来たが、駄目だった。

 三人組も千人以上のメンバーの中で確実に覚えていてもらえているとは思っておらず、改めて自己紹介を始めた。


「我ら『桃園の誓い』のメンバーであり、桃園の誓いをした長男のビリュウです」

「次男のウーカンです」

「三男のヒチョウです」


 三人は種族ヒューマンの男であり、ビリュウは普通の身長と体型の口髭が似合う美男子だ。両手には剣を持っており、鎧は龍の装飾が特徴的な物を身に着けている。


 ウーカンは二メートルを超える身長の大男であり、三国志の関羽のような美しく長い顎髭が特徴だ。手には大刀という、長い棒に叩き切る為の分厚い刃が付いた武器が握られている。ビリュウと同じ龍の装飾の鎧を着ているが、重量軽減の為か装飾は控えめになっている。


 ヒチョウはがっしりとした体型で背の低い男であり、厳つい顔をしている。手には矛が握られている。龍の装飾の鎧は三人の中で最も隙間なく着込まれている。


 彼ら三人は見た目の通り三国志の劉備、関羽、張飛のロールプレイをしているプレイヤーだ。リアルではナオ、サク、リクのように親友同士でもある。チーム『桃園の誓い』に入ったのは、元は三人だけのチームを作る予定であったが先を越されたからと、次々と多様なメンバーが増えるのを見て、これなら自分たちのロールプレイも受け入れられるのではと思ったからだ。

 結果的に、今ではチームに馴染んで色々なプレイヤーと交流を持てている。

 そんな三人の中で、長男でビリュウが改めて三人に聞いた。


「お三方、我々は前に出て戦ってもいいか?」

「あー……イケるなのか? 無駄死にして戦力が減るのは避けたいんだが」

「大丈夫です。正直なことを言わせてもらいますと、我々三人はチームの中でもかなり強いと自負しております。それこそ、お三方と戦えば圧勝できるくらいには」

「正面切って言われると悲しくなるな。まぁ、そんなに自信があるなら好きにしろ。ただし一つ条件がある」


 条件という言葉に、三人組は身構えた。ナオも一拍置いてから、ビリュウの肩に手を置いて優しく言った。


「……死なないこと。以上だ」

「……わかりました」


 ビリュウは承諾し、ウーカンとヒチョウを連れて少し空いたスペースに移動した。

 それから左手の中指に従魔契約の証である『絆の指輪』があることを確認してから口を開いた。


「【呼出・テキロ】」

「【呼出・セキト】」

「【呼出・ギョク】」


 三人組の前に出現したのは、それぞれ白い馬、赤い馬、黒い馬が出現した。

 この馬は第二世界にいる『ギガントホース』という馬型のエネミーであり、ばんえい馬のような大きな図体に鉄と同等の硬さを持つ強靭な肉体を持っている。剣で切りつけられようが槍で刺されようがびくともせず、また恐れない度胸を持つ。

 馬としての性能は、圧倒的なパワーから出るスピードはサラブレットの倍以上であり、それでいて数十キロを休みなく走り続けられる持久力を持っている。知能も高く、主人や乗り手の言うことをしっかりと理解して息を合わせた行動を取ることが可能である。

 まさに理想の馬であり、リアルで存在していれば競馬界に革命が起こるだろうと一部のプレイヤーたちからは言われている。

 ただし、元がエネミーだけあって気性はかなり激しく、手懐けた主人や気に入った者以外が近づくと問答無用で威嚇し、噛みついたり蹴りに行こうとする凶暴さを持つ。


 三人組はそれぞれの馬に気に入られているので、特に威嚇されたりもせずに自分の馬に騎乗した。


「行くぞ、兄弟たちよ!」

「応っ!」

「応っ!」


 馬を進め、三人組は大盾のプレイヤーを飛び越えて小型ローカストの軍勢の中へ入った。

 宣言無しで炎の属性魔法を武器に付与し、近くの小型ローカストに向かってスキルを宣言する。


「【双刃波】!」

「【大刃波】!」

「【刺突衝】!」


 ビリュウは双剣を素早く振るい、二つの斬撃を飛ばして早速一体を切断して撃破した。

 ウーカンは大刀を横薙ぎに振るい、巨大な斬撃を飛ばして大量の小型ローカストを撃破した。

 ヒチョウは槍を突き、直線状にいる小型ローカストを複数貫通して撃破した。


 三人組は様々な技を繰り出しながら縦横無尽に暴れ回り、小型ローカストを見事に攪乱してみせた。

 その様子を見ていたナオたちは彼らに対して本物の武将の姿を幻視しつつも、好機だと捉えて声を上げた。


「チャンスだ! 総員、攻勢に移れ!」

「盾持ち、押し上げろー!」

「銃持ち、カバーに入れー!」


 ナオ、サク、リクの掛け声により千人を超えるメンバーが一斉に動き出し、延々と襲い来るローカストの軍勢に対して一時的な優勢を取ることに成功した。

 これにより、多くのプレイヤーが態勢を立て直すことが出来た。




 アーサー率いるチーム『円卓の騎士』は、チーム『桃園の誓い』とは反対側の場所で、側面に回り込もうとする小型ローカストと戦っていた。

 大柄なトリスタンが大盾を構え、果敢に前に出て小型ローカストを抑え付けた。アーサーとランスロットが横から同時に飛び出し、火属性魔法が付与された剣を素早く振るい、小型ローカストを足や胴体を切断して撃破した。

 それからすぐにトリスタンの後ろに下がって体勢を整える。


「トリスタン、変わったすね。前はかなりびびりだったのに」

「シュテンさんに鍛えられましたから――ふんぬ!」

「あー、見てたけど凄い鬼教官ぶりでしたっすね」

「アーサー、突っ立ってないで合わせろ!」

「はいはい、ランスは真面目すね」


 大盾で抑えた小型ローカストに対し、先に攻撃を仕掛けたランスロットに合わせてアーサーも飛び出し、スパスパと切り刻んで撃破した。


 アーサーたちのすぐ隣では、ラモラック、ガウェイン、ペディヴィアの三人がそれぞれの動きを意識しながら見事に連携し、小型ローカストを撃破していた。

 ラモラックはウルフェン直伝の槍捌きを見せ、正面から小型ローカストの攻撃を受け流しつつ頭部に突きを入れ、ガウェインとペディヴィアが側面から剣を振るって足や胴を切断する。

 他の小型ローカストが襲い来るが、既に超人として覚醒している三人は目に入れずとも攻撃を難なく躱して反撃し、態勢を整えて同じように三人で連携して戦う。


 六人とも他のプレイヤーよりも戦えているが、まだゲームを初めて間もない為にパラメータが低く、装備も整っていないことから徐々に消耗を始めた。

 その消耗度合いを見て、六人に守られながら待機していたマーリンは魔法を使った。


「【ヒールサークル】」


 足元にそこそこ大きな白い魔法陣が展開され、範囲内のプレイヤーのHPを徐々に回復する。

 生徒であるアーサーたちからお礼の言葉は無い。全員がそれどころでないくらいに忙しいのだ。


「みんな頑張ってね~」


 それをわかっているマーリンは気にせず声援を送り、マジックポーションを取り出すと栓を開け、缶ビールを飲むようにぐいっと一気に飲み干した。


「――ふぅ、美味しい。やっぱりこのゲームいいわぁ」


 オールワールド・オンラインの開発のこだわりの味に満足しつつ、マーリンは六人の戦いを見守る。

 アーサーたちは回復を受けながら戦い続けるが、小型ローカストの軍勢は途切れることなく押し寄せ続け、次第に抑えきれなくなり始めた。

 特にアーサーたちがいる場所は他よりも薄い傾向にあり、マーリンも回復だけでなく、最初に取得した火属性の魔法で援護し始めるまでに押され出した。

 自分たちで手一杯のところで横にいるプレイヤーたちの陣形が乱れて穴が開き、そこから小型ローカストが一体入り込み、マーリンを直接狙った。


「先生!」

「くそっ!」


 アーサーが声を上げ、ランスロットが即座に動くが、前に出てしまっていて間に合わない。


「っ! ファイア――」


 マーリンが自ら迎撃する為に魔法を唱えようとした直後、マーリンの背後から赤い西洋甲冑を着込んだ一人が飛び出し、力強く剣を振るった。


「【ヒートスラッシュ】!」


 剣に炎属性の魔法を纏わせ、小型ローカストを両断して撃破した。

 少し遅れて、その者よりシンプルな赤い西洋甲冑を着た一行がアーサーたちやその周辺のフォローに入り始めた。

 それを見て安全だと判断した赤い西洋甲冑のプレイヤー――『炎皇騎士団』団長のガイエンはマーリンに振り返って言った。


「大丈夫ですか、お嬢さん」

「……は、はい。助かりました」

「我々は『炎皇騎士団』というものです。『炎皇』オウカ様の命により、助太刀に参りました」

「オウカ……そうですか。ありがとうございます」

「では、私も戦いに参加するので、失礼する」

「お待ちください」

「……なにか?」


 再び振り返ったガイエンに、マーリンは女の勘で今しかないと確信し、吊り橋効果とはいえ乙女のようにドキドキしている自分の心に正直になってみることにした。


「……あの、お顔を見せてもらってもよろしいですか?」

「……これでいいですか?」


 女性からこうして言われるのは初めてのガイエンは、突然のことに困惑しながらもヘルメットを脱いで顔を見せた。 

 顎髭の似合う顔と歴戦の戦士のような切り傷はマーリンにとってドストライクな好みであり、思わず口を手で覆い長杖を手放して落とした。


 ――ちょっとなにこの人、めっちゃ好みなんですけど!?


 これを逃しては婚期を逃すと思ったマーリンは理性というブレーキを叩き壊し、勢いのまま口を開いた。


「あ、あの!」

「なんでしょう?」

「フレンド登録……しましょう! 是非しましょう!!」

「は、はい」


 押しに負けたガイエンは、マーリンの勢いのままに戦場でフレンド登録を行った。

 鍛えられている『炎皇騎士団』のメンバーの中で、余裕のある者はその光景を見て言った。


「団長、何やってるんですか。戦闘中ですよ」

「ずるいですよ。あとで俺たちにも紹介してください」

「姫様に告げ口しておきますね」

「俺は悪くねぇ。お前たちだって、姫様以外に交流を持っていいんだぞ?」

「俺、合コンに誘われませんでした」

「職業柄、出会いが無いもんで」

「暫くは姫様一筋です」

「……幼馴染がいるから大丈夫です」

「なにぃっ!?」

「なにぃっ!?」

「なにぃっ!?」


 最後の一人の言葉に団員が声を揃えた。


「おま、お前っ……!」

「美人なのか? 可愛いのか? とにかく羨ましい……!」

「……後で会議な」


 独身男性の羨望と嫉妬が渦巻いた騎士団のヤル気が上がり、小型ローカストに八つ当たりするかの如く攻撃的な動きに変わった。

 その変わりように呆れたガイエンは苦笑した。


「……とにかく、我々が手助けします。安心してください」

「はい」


 マーリンは落とした長杖を拾い上げ、炎皇騎士団の力強く纏まった動きを見て自分たちも負けじと頑張る生徒たちの支援に向かった。




 ――地球の活動拠点の南側では、西側にいたプレイヤーたちがオウカの攻撃を見て、全く活躍できないことを悟って急遽陣地転換して集まっていた。

 その者たちは全員、何かしらの兵器に搭乗している。特に目立つのは百数十両が横一列にずらりと並んでいる戦車軍団だ。

 第二次世界大戦期の様々な国の戦車ばかりで、有名どころで言えば、ソ連のT-34やアメリカのM4シャーマン、ドイツの四号戦車、イギリスのチャーチルMk.Ⅶ、日本の九七式中戦車チハ等があり、中には試作車両や設計段階で没案となった架空戦車まである。

 その様相はまさに博物館であると同時に、地球の危機に一致団結した世界連合である。


 この戦車軍団のチームの名は『浪漫戦車隊』である。戦車に浪漫を見出した物好き集団であり、チームメンバー一人一人が自前で購入、改造を施したものだ。

 その軍団の中心に鎮座しているのは第二次世界大戦で有名なティーガー重戦車だ。

 乗っているのはリーダーのローマンである。作業服を着た種族ドワーフの中年男性で、もじゃもじゃ髭と天然パーマの赤髪が特徴だ。

 ローマンのティーガー重戦車は、一人乗り用の操縦席を種族の小柄さを活かしてさらにコンパクトに纏めている。その為、本来ある筈の人が乗り込む空間を大幅に無くし、その分魔改造と表現して過言でないほどの強化が施されている。

 これはチームメンバーにも言えることだ。


 空中では中型ローカストに対して戦闘機や戦闘ヘリ、企業のロボットや兵器が動き始め、一足早く戦闘が始まった。

 地上戦を想定しているプレイヤーたちは空の戦いを気にせず、射程圏内に入りそうな小型ローカストの黒い波に意識を集中していた。

 ローマンはチーム通話で仲間に指示を出した。


「仕事だお前たち。目標正面、徹甲弾、砲撃用意。主砲に魔法の付与を忘れずにな」


 ラジャー。


 という返事が次々と聞こえてチームメンバーは各々で準備に入った。ローマンも魔法を付与する為、この日の為に急遽改造して設置した魔法付与装置に手を置いた。この装置は魔法のエンチャントを発動させることで、任意の部位に魔法を付与することが出来る優れものだ。

 魔法の付与が終わると、操縦桿を動かして主砲の照準をしっかりと合わせた。


「…………砲撃開始。撃ちまくれ」


 ラジャー!


 指示により一斉に射撃が開始され、戦車の主砲が火を噴き爆音を響かせながら徹甲弾が撃ち出された。

 魔改造で強化された主砲や砲弾によりその初速は極めて速く、ほぼ落ちることもなく真っすぐ飛んで正面の小型ローカストを貫通した。生物ということもあり、その柔らかさから威力が落ちることは殆どなく、遥か後方まで貫いて大量に撃破した。


 自動装填装置によってすぐさま次弾装填に入る。

 戦車の口径によって多少装填速度に違いはあるものの、それでも僅か二、三秒で装填が完了し、次々と砲弾が撃ち出される。

 そんな連続で何十発も撃ち続ければ砲身が熱を持ち、損耗が激しくなって破損の可能性も出てくるが、これはゲームでありローマンたち戦車好きが対策していないわけがない。非現実的な要素であるが、改造によって砲身そのものにパッシブスキル【急速冷却】や【耐久力上昇】が付与されており、全く問題が無い。


 事は順調に進んでいたが、一つだけ問題があった。

 幾ら魔改造された戦車でも砲弾を持てる数は決まっている。ローマンのティーガー重戦車も砲弾が少なくなり、手を止めて補給する必要が出て来たのだ。

 こうなることは想定済みであり、ローマンは頃合いを見計らってチームメンバーに言った。


「そろそろ予定通りの補給を行う。陣形変更、二列横隊」


 ラジャー。


 事前に決めていた通り、横一列に並んでいる戦車軍団は一両間隔で後退した。本当は移動せずに補給をしたいところであるが、戦場で熱くなった頭では統制の取れた動きは付け焼刃では難しいとの判断から、視覚的にわかりやすくする為に補給は下がった戦車が行うという手順に決めたのだ。

 また、少しずつ後退することで万が一敵が雪崩れ込んで来た時の備えも兼ねていた。

 後退した戦車の補給が完了して射撃が再び開始されたのを見たローマンは、再び指示を出した。


「前列、下がって補給」


 ラジャー。


 誤射しないように慎重に後退し、各車が弾の補給を始めた。

 ローマンも座席から立ち上がって操縦席の後ろにある弾薬庫に移動し、焼尽薬莢によって砲弾底部だけとなった空薬莢が纏められたケースをアイテムとして一時仕舞い、新たにケースと砲弾を出して配置した。

 手際のよい動きによって数十秒で再び弾薬庫は満杯になり、ローマンは操縦席に戻って再び砲撃を開始した。


 長く続く戦闘は一見順調だったが、ここでさらなる問題が発生した。ローマンたち『浪漫戦車隊』は交互に補給して継続的に火力を投入することが出来ていたが、他のプレイヤー達や企業の兵器も弾薬の消耗が激しく、補給の為に下がることが増えて投入できる火力が減っていた。

 結果的に殲滅速度よりも押し寄せるローカストの方が多く、徐々に黒い波が近づきつつあった。


 ――引き時か。


 ローマンがチームメンバーに退却の一言を口にしようとした直後、個人通話の着信が頭に鳴り響いた。通話相手が誰か分かったローマンは嫌な顔をし、五回のコールの後にチーム通話をミュートにしてから渋々と応じた。


「ルーナ、今忙しいんだが」

「わかってるよ。助けが欲しい?」

「そんなことを聞く為にわざわざ電話してくるな。お前のしたいようにすればいいだろう」

「したいようにするよ。だからローマンの意見が聞きたいの」

「……なら、助けてくれ」

「うん、わかった」


 通話が切れてすぐにローマンが後方を確認すれば、巨大兵器が現れ、動き始めたところだった。


 その巨大兵器は、リアルでは実現不可能な陸上戦艦だ。鋼鉄の船体に巨大で重厚な履帯が左右に付いており、地響きを立てながら接近してきている。全長が二百メートル近くある為、錯覚により遅く見えるが時速百キロは出ている。

 船体の上部構造には船らしく艦橋があり、その後ろには煙突に偽造したミサイル発射機がある。他には連装主砲が前方に三基、後方に二基、連装副砲が前後に二基ある。さらに艦橋を覆うように高角砲と対空機銃が数十基備え付けられている。

 また、内燃機関として第十世界のマナ発電所を搭載しており、マナコーティングとマナバリアが可能である。武装はミサイル以外、全て実弾とビームを切り替えることが可能となっている。


 その名も超弩級陸上戦艦『ドレッドノート』である。


「全く、相変わらず狂った兵器だ」


 巨大兵器に呆れて呟きつつ、ローマンはチーム通話のミュートを戻して言った。


「お前たち、助けが来た。ここで踏ん張るぞ!」


 ラジャー!


 下がることを止めた『浪漫戦車隊』が必死にローカストの軍勢を押し留めようとする中、空中から中型ローカストが襲い掛かり始め、念の為に備えていた砲塔天板の機銃に魔法を付与して迎撃する。


 ――直後、戦車の上を砲弾が通過して中型ローカストに直撃して爆発し、消し飛んだ。陸上戦艦の高角砲による砲撃だ。

 陸上戦艦は本格的に攻撃を開始し、対空機銃や高角砲を有りっ丈撃ちまくり始めた。中型ローカストは次々と撃破され、主砲や副砲から砲弾が放たれれば、大口径の榴弾による爆発によって小型ローカストの黒い波の一部に大穴を開けた。


 圧倒的な火力によってローカストの軍勢の勢いは完全に止まり、態勢を整える時間を作ったことで補給に下がっていたプレイヤーたちが戦線まで戻って来た。

 ローマンたちもドレッドノートの砲撃に合わせて前進を始め、最初に陣取った地点まで押し戻すことに成功した。

 ドレッドノートが『浪漫戦車隊』の後ろに到着すると停止し、主砲と副砲の火薬量を減らして飛距離を減らした曲射射撃を行い、小型ローカストの最前列を砲撃して近づかせないようにした。

 完全に持ち直した戦場にローマンが安堵していると、側面からコンコンコンと何度も音が聞こえ、振り向くと紺色のスクール水着の上から白衣というマニアックな服装をした種族ドワーフの少女が、満面の笑みでティーガー重戦車の装甲に金槌を打ち付けていた。


「……はぁ~」


 ローマンは溜息を吐きつつ自分だけ砲撃を中止し、操縦席のハッチを開いて顔を出した。


「ルーナ、何をしに来た? 戦艦の操縦はいいのか?」

「操縦は自動化したから問題ないよ。うんしょっと、やっと会えた!」


 ドワーフの少女――ルーナはティーガー重戦車をよじ登り、ローマンに会うとすぐにそのもじゃもじゃ髭の顔に抱き着いた。


「おいやめろ、胸を押し付けるな。俺がロリコンみたいに見えるだろうが」

「いいじゃん、当ててるんだよ」


 ローマンはルーナを引き剥がした。


 ルーナは種族ドワーフの少女である。少女らしい小柄な体型で、肌は白く、種族の特徴としての紋様が四肢から見えており、妖艶な雰囲気のある曲線で赤く描かれている。無邪気な性格が滲み出た童顔をしており、セミショートの髪と瞳は、紋様と同じ赤色である。

 着用している白衣はサイズを敢えて合わせておらず、袖がブカブカだ。足には分厚い作業靴を履いている。


「マジでやめてくれ。中身男の奴に抱かれる趣味は無い」

「ええー、ゲームの中でくらいもっとエッチでいいと思うけどなー」

「周りの目を気にしてるんだよ。俺がドワーフを選んだのは、戦車の為でロリコンと付き合う為じゃない」

「その話もう何度も聞いてるよ。それより、攻撃せずに話していていいの?」

「……中で話そう」


 放り出すわけにもいかないローマンは、仕方なくルーナを操縦席に連れ込み、自分は戦いつつ話ぐらいはしてやることにした。


「で、俺に何か用か?」

「会いたくなったから会いに来たよ」

「そうか、じゃあもう帰ってくれ」

「やだよ。今日はもう離れない」

「だから抱き着くな」


 正面からぎゅっと抱き着かれたが、攻撃の手を緩めると仲間に負担を掛けるので出来ず、そのままの状態でずっと気になっていたことを質問した。


「……なぁ、どうして俺をそんなに慕う?」

「言ってなかったっけ? ローマンの浪漫を追う姿勢が気に入ったんだよ」

「そう言ってくれるのは嬉しいが、その程度で抱き着くか? 俺のアバターは、髭もじゃで低身長のおじさんだぞ。お世辞にもカッコイイとは言えない」

「そんなことない。ドワーフらしくてカッコイイよ。それに、同族だと気軽に絡めるし、恋人を演じればそっち関係で絡んで来る馬鹿もいないし」

「じゃあ、俺のことは本当は好きではないと?」

「好意は本物。規制が無ければ行為に及んでもいいくらい。後は、ローマンのような凡人が限界まで私を頼らず、自分たちの力で一所懸命に兵器を改造しているのが可愛いから、かな」

「そりゃあ、ハカセとかお前みたいな天才にとっちゃ、俺たちの改造した兵器は玩具だろうよ」

「もしかして拗ねた?」

「拗ねてねぇ。冷静な評価だ」

「ウェヘヘ。そういうところも、好き」


 ルーナは抱き着く力を強めた。


 彼女はディメンジョントラベル社のゲーム『イレギュラー』で、ハカセと双璧をなす天才だ。

 TAやSAには浪漫が無いとあまり興味を示さず、ゲーム内でフレーバー要素として操作や開発・改造が出来る通常兵器を主体として扱っていた。

 幾つかの兵器は企業がライセンス生産し、その優秀過ぎる設計から今も使われている。特に有名なのは、TAでも直撃すればただでは済まない移動式ビーム砲台だ。

 また、ルーナは陸上戦艦などの超兵器を作り、実際に運用してTA・SAを撃破した戦績を持っている。運営からはハカセ同様にバランスブレイカーと認識されており、ゲームの根本を覆すからと名指しで自重するように注意された経験もある。


 そんなルーナがローマンを好いているのは、愚直に浪漫を追い求める姿勢でいることと、異性アバターを使っていることで精神が肉体に影響を受けているからだ。

 ルーナもそれは自覚しており、ゲーム内だけの関係ならばそれもアリだと受け入れている。


「あっ、そうだ」


 とルーナはふと用を思い出して顔を上げ、メニューのアイテム欄から一枚の設計図を出してローマンの顔の前に持ってきた。


「これあげる」

「おい、前が見えんから退けろ」

「いらないの? 新しい戦車砲の設計図だけど」

「……」


 受け取らないと延々と視界を塞がれると判断したローマンは渋々受け取り、設計図に目を落とした。

 その設計図は、ティーガー重戦車の主砲に関するもので、今使っている史実の主砲をさらに長砲身にした改良砲だった。しっかりと今の砲と改良砲の性能差まで書かれており、威力や精度、射程が驚くほど向上することがわかった。また、ルーナとローマンが作成した場合の性能差も書き込まれていた。


「……いらん。返す」


 覆せない差を見てムッとしつつ冷たく設計図を返すと、ルーナは不要になったその設計図をビリビリと破ってから聞いた。


「返す理由は?」

「長砲身にしたら邪魔だ」

「じゃあ、さっきのより性能は劣るけど、見た目はそのままで威力と精度を向上させたものならどう?」

「それならアリだが、設計図は出さなくていい。自分でやる」

「ウェヘヘ、そう言うと思った。好き!」

「……」


 また抱き着いたルーナに呆れつつ、ローマンは操縦桿を握って再び砲撃を始めた。




 西側を中心に活動拠点の防衛が完全に出来ている現状、最も離れた東側は静かなものだった。

 一方、大陸の西側にあるユナイテッド本社は活動拠点と同様に、ローカストの軍勢に迫られていた。

 しかし、現状では戦いは起こっておらず、待機していた企業の兵器は一切行動を起こしていない。プレイヤーたちも肩透かしを食らいつつ、状況を静観していた。

 それもその筈、本社から離れた空中にリーベがいて、たった一人でローカストの軍勢を押し留めていたからだ。


「つまらないですわね」


 そう呟くリーベは魔法陣で浮いて自分で用意した椅子に座り、テーブルの上に茶菓子として出したマカロンを食べながら紅茶を啜っていた。

 何故そこまで余裕なのか、それは左目の医療用の眼帯を外し、石化の魔眼を使っているからだ。

 隠れる場所も無く、知能もそれなりしかない相手に石化の魔眼は強力過ぎた。

 中型ローカストは重くなった体と硬くなった羽によって次々と墜落し、そのまま石化してしまう。小型ローカストも見える範囲が一斉に石化し、後から来た小型ローカストが乗り越えて踏み潰して粉々になる為、壁になることもなく次々と石化する。

 結果として、ローカストの軍勢は全く前進することも出来ず、リーベ一人に完封される状態となっていた。


「……はぁ、つまらないですわ。メイドの一人でも、先に雇っておくべきでしたわね」


 楽にやろうと自分でこの戦場を選んだとはいえ、あまりにもつまらない。かといって今更石化の魔眼を止めるのは、流石に勝手が過ぎる。次に大規模クエストが起きた時、絶対に暴れてやろうとリーベは心に決めた。

 それはそれとして、あまりのつまらなさに溜息が何度も出た。




 小悪魔な歌姫の支援と、数人の英雄と多くのプレイヤー、さらに世界の住人たちの活躍により、地球での戦いは安定していた。


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