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ベネットの秘密

タイトル通り、ベネットの秘密回。

殺意のゾーンが使える理由が判明します。




 依頼を終え、その後の唐突なSA戦で勝利したベネットは行きの輸送機よりも短い時間で帰還した。


 活動拠点のSA用の巨大な格納庫に入ってハンガーに機体を固定してからハッチを開け、コックピットから出て肺の中のマナの液体を吐き出し、それからロープで地面に降りた。

 SA用の格納庫はTA用に比べて天井と横幅が大きく、ハンガーの間隔も広い。その分だけ収納できる機体数も少ないが、そもそもSAを乗りこなせるイレギュラーも少ないので問題になることはあまりない。

 現に格納庫の中は人が少なく静かだ。また、伝説のイレギュラーが帰還したとしても、SA乗りは実力に自信がある人間ばかりなので特に気にせず騒ぎにもならない。

 ベネットはパイロットスーツからいつもの軍服に着替え、ハンガーのコンソールから早速機体の修理とメンテナンス、弾薬の補充を行った。本来ならば弾薬費だけで一千万以上の請求があったが、依頼主負担によってゼロの数字がある。

 依頼の達成報酬が幾らか気になり、ベネットは記録を確認した。


「わーお……三千万超えてる」


 TAの依頼でこれだけ貰えるのは稀だ。ゲーム『イレギュラー』の誰もが主人公気分を味わえるキャンペーンシナリオの最終ミッションが、およそ三千万だ。

 速くも目標を達成したことにより、ベネットはハカセに連絡を入れた。


「やぁベネット、どうしたんだい?」

「三千万稼げた」

「ほぉ、随分と早いね。そんなに実入りのいい依頼があったのかい?」

「あー……まぁ、ちょっとヤバイ依頼に手を出して、なんやかんやSAを出す羽目になった」

「くっくっく……それはまた愉快な依頼だ。久々の乗り心地はどうだった?」

「中々良かったよ。ただ、少し疲れた」

「そうかい。SAの新しい機体は暫く待ってくれよ。TAと違って調整が難しいからね」

「ああ。それで、ハカセの所へ行った方がいいか?」

「そうしてくれ。早速作業に取り掛かりたい」

「わかった。すぐ行く」


 ハカセの居場所をフレンドリストから確認し、TA格納庫へ移動した。ハカセも合流することを優先して通路の入り口で待っていた。


「ハカセ、ただいま」

「おかえり。では、ハンガーに出したまえ」

「うむ」


 丁度近くのイレギュラーがTAを動かして空いたハンガーがあり、ベネットはそこにTAを出し、他人が操作してもいいように設定を変えてからコンソールの操作をハカセに譲った。


「さぁ、始めようか」


 ハカセは不敵な笑みを浮かべながらコンソールの操作を始め、ショップから最新のパーツと武器を躊躇なく買い集めた。

 続いてハンガーに固定されている機体のパーツ交換を行った。その大半は既存パーツの最新世代の物を採用し、元のラストの面影がある見た目となった。特に頭部のグラサン頭は、見た目に殆ど変化がない。

 武器もベネットが最もよく使うビームライフル、多弾頭ミサイル、グレネードランチャーである。

 組み立てが終わると、続いてチューニングに入る。ここからがハカセの本領発揮だ。

 TAのチューニングというものは、一つのパーツで数百ある項目の数値を弄り、場合によってはネジ一つ単位で使用する部品を変えることもある。ただ、部品を変えたりエネルギーの接続の仕方を変えたり、数値一つを弄れば他の項目も機体全体を通して調整する必要がある為、普通の人間がやるには難解すぎる要素となっている。

 武器も同様であり、上手く調整をしないと性能が落ちてしまう。

 だからこそチューニングやオリジナルウェポンの作成を専門とするイレギュラーが存在し、重宝されていた。

 ベネットもチューニングはある程度出来るのだが、真の天才であるハカセには遠く及ばず、その作業を黙って見守っているだけだ。



 ハカセがチューニングを続ける中、見ているのに飽きたベネットは格納庫を出て売店へ向かった。迷子にならないように過剰に設置された地図を見て動くことですぐに到着し、そこで売っていたドクターポーションをあるだけ購入した。

 そのあとは適当に火星の活動拠点を見て回り、途中で発見した射撃場で延々と銃の特訓をして過ごすことにした。この射撃場は高い使用料を払うことで銃のレンタルと無制限に弾を使うことが可能であり、そのお陰で取得条件がいつの間にか緩和されていた銃器類の心得系のスキルを全て取得し、上位のパッシブスキル【銃器の達人】を取得した。


 飽き始めたところでハカセから連絡が入った。


「ベネット、チューニングが終わったよ」

「わかった。すぐ戻る」


 返事をしてすぐさまTA用の格納庫に戻り、ハンガーの前まで来た。新しい機体が気になって仕方ないが、上機嫌なハカセと話をすることを優先した。


「ハカセ、戻ったぞ」

「待っていたよ。新型の機体は完璧な仕上がりとなった。前の機体から二倍近い性能になっているし、宇宙空間でも戦えるように調整しておいた。あとで試運転してくるといい」

「わかった」


 ベネットはインベントリを開くと、ドクポを二つ取り出して片方をハカセに差し出した。


「ハカセ、ありがとう」

「構わないさ。私が好きでやっていることだ。それに、ドクポとは気が利く」


 ドクポを受け取ったハカセは、プシュッと開けてゴクゴクと飲み始めた。

 ベネットも同じように飲んで一息吐いた。


「――ぷはぁっ。頭脳労働の後のドクポは、一段と沁みるね」

「……ふぅ。それでハカセ、私のTAについてだが、いいか?」

「なにかね?」


 ベネットは新しい自分のTAを微妙な面持ちで眺めながら、質問した。


「……どうして、金ぴかなんだ?」


 言葉の通り、ベネットの新しい機体は武器や関節部、グラサン頭の象徴のサングラスのような黒いバイザーを除いて、金メッキのように黄金の輝きを放っていた。格納庫の中で一際目立っており、他のイレギュラーからは物珍し気に見つめられていた。

 当然来るだろうと思っていた質問に、ハカセはあっけらかんと答えた。


「どうしてって、私の趣味だよ」

「自分のでしてくれないか?」

「冗談だ。ちゃんと金色にした理由はある。君は今の今まで錆びついていたが、ようやくその錆が落ちた。錆が落とされた中身は誰もが羨む黄金の輝きだった……という思いを込めたのだが、どうかな?」

「金は錆びないと聞くが?」

「君が錆びつくほどに病んでいたということだよ」


 病んでいた事実にベネットは言い返せなかったが、ここで一つ気付いたことがあった。機体の塗装は好きで錆びついたようにしていたが、最初からではない。伝説のイレギュラーと呼ばれる前、ありきたりな塗装というものがしっくりこなくて悩んでいた時期に、ハカセに相談して錆びた塗装を試しに提案され、気に入ったのが始まりだ。


「……私に錆びた塗装を勧めたのは、もしかしてこの為か?」

「クックック、気付くのが遅いよベネット」

「…………」


 最初から全てが仕組まれていたことだとわかったベネットは愕然とし、気持ちを切り替える為にドクポを一気に飲み干した。


「……ふぅ。で、この金ぴかは戦いにおいて役に立つのか?」

「相変わらず戦いに関しては真面目だね。地上戦においては目立つだけだよ。集団での共同作戦とかなら、誤射の心配はしなくていいだろう。まぁでも、日差しや光の強い環境なら、光が反射して目くらましにはなるだろうね。それで宇宙での戦闘だが……ハッキリ言うと黒い塗装以外は大差ない。どうせメインブースターの光でわかってしまうし、TAだけを狙うならマナを感知する機能を使えばいいからね」

「なるほど。それで、機体を一新して塗装も変えたんだ。新しい名前にする必要があるだろう。何か案はないか?」

「既に用意してある。その名もアウルムだ」

「アウルム……それって元素記号の金のことか?」

「その通り。ラテン語の金の呼び方だ。どうかね?」

「……いいな。シンプルで」

「決まりだね」


 ハカセがコンソールを操作し、機体名が『アウルム』に変更された。

 新しい機体を手に入れたことで満足感を覚えたベネットは、気が抜けて今までの気疲れがどっと押し寄せ、同時に強い眠気に襲われた。

 状態異常の眠気とは違う、本来の眠気に意識を失いそうになるところを気合で踏ん張り、ベネットは言った。


「……すまんがハカセ、眠いからそろそろ落ちるよ」

「待ちたまえ」


 メニューを出してログアウトしようとしたところを、ハカセが手首を掴んで止めた。


「……ハカセ、まだ何かあるのか?」

「時間にはまだ余裕がある。一度仮眠を取るといい」

「……このまま……寝た方が……」

「いいから仮眠を取りたまえ」

「ん……」


 ふらつきながら歩くベネットにハカセは肩を貸し、格納庫の隣にある宿泊施設へ向かった。

 ハカセが受付で二人分の宿泊料金を支払い、渡された鍵の番号が書かれた個室に入って鍵を閉めた。それからベッドに近づき、倒れ込むように眠ろうとしたベネットを支えて一緒に上がり込み、ベネットに膝枕をしてやりながら優しく頭を撫で始めた。

 ベネットはすぐに意識を手放し、眠りに就いた。




 ――筈なのだが、すぐにベネットはぱちりと目を開いた。




「……おい、何故頭を撫でる」


 普段のベネットでは戦いの時以外にしない、鋭い目つきに加え、ドスの利いた声、それに憎悪と殺意の混ざったプレッシャーを放った。

 ハカセは背中にぞくりと恐怖を感じながらも、頭を撫でるのを止めず、不敵な笑みを浮かべて言った。


「君が出てくるなんて珍しいね。私に何か用かい?」

「その前に撫でるのを止めろ」

「嫌だね。君のこのアバターは、なかなかに撫で心地がいいんだ」


 ハカセの手を振り払って起き上がるのは簡単だが、今のベネットは呆れたように溜息を吐いただけで、動こうとはしなかった。


「……まぁいい。ちょっと遅くなったが、礼を言いたくて出て来ただけだ。()()()()()()を救ってくれて、あと色々面倒見てくれて、ありがとう」

「礼を言えるのなら、普通に表に出てきたらどうだい? 君が正体を明かし真実を話しても、受け入れられるぐらいにはベネットは成長している」

「……もう一度人生を歩むつもりはない。俺はもう死んだ人間だ」

「そうかい」


 今のベネットの目は、ハカセから見ても狂っていると思えるほどにどす黒く濁っていた。憎悪と殺意に染まりながらも、全てを諦めたような目をしていて、見ているだけで痛々しさすら覚える程だ。

 ハカセが膝枕をして頭を撫でることによって多少の救いを得られて涙を滲ませているが、それでも完全に安らぐことは無く、その負の感情を軽減する程度だ。


「ところで、いつまでも君呼ばわりでは不便だ。新しい呼び名があってもいいんじゃないかな?」

「死んだ人間に名前が必要か?」

「万が一周りに君の存在が知られた時、説明するのは一番関わっていた私なのだよ? ソロ活動していたゲーム『イレギュラー』ならともかく、今はチームで活動している。説明の面倒臭さの緩和の為に、それくらい受け入れたまえ」

「……ベネットでは駄目なのか?」

「それでは紛らわしいし、そもそもその名前はもう一人のものだ。君が名乗るのは筋違いだよ」


 そう言われては今のベネットも納得せざるを得ず、少し考えたが元々ネーミングセンスがあまり良くない為、結局いい名前が思いつかなかった。


「……ハカセ、思いつかないから名付けてくれ」

「おや、いいのかい? だったら『ベネデッタ』とでも名乗るといい」

「ベネデッタ……ベネットに似た言葉だが、響きが女性的だな」

「イタリア語の女性の名前の一つだ。色んな意味で、君にお似合いの名前さ」

「……何故女性の名前なんだ? 俺は一応男だぞ?」

「研究させてくれない私なりの当てこすりだよ。嫌なら自分で名乗るべきだったね。因みにもう名前の変更は聞かないよ。君のことはベネデッタと呼ぶことにした。もし訂正したいなら、自分から表に出て周りに自分の存在をアピールすることだね」


 自分が動くか、女性的な名前を受け入れるか、という天秤を頭の中で浮かべたベネデッタだが、無気力の比重によってすぐに天秤は名前を受け入れる方向に傾いた。


「……わかった、ベネデッタでいい」

「ではよろしく、ベネデッタ」

「ふん」


 拗ねてそっぽを向いたベネデッタは、目を閉じて眠った。




 ベネット/ベネデッタは二重人格である。ベネットが表に出て活動している主人格で、ベネデッタが元々の基本人格だ。


 ベネデッタは生まれながらの超人故、鋭い感性や感覚で物事の少し先の未来がわかってしまい、さらに大多数の醜い人の心を感じ取り、加えて時代にそぐわず全く噛み合わない己の能力に絶望した。色々あって人間不信となったことで親や兄弟に対してさえ疑心を抱き、心は荒れ果てた末に壊れた。生きる意味も価値も見いだせなくなって全てが嫌になり、無能な自分に憎悪と殺意を抱いたが、けれども死ねず、自分の代わりに生きてくれる人格を欲した。

 そしてすぐに、自らの意思で自分とほぼ同一の人格を生み出すことに成功したのだ。

 自らの意思で人格――つまりベネットを作った為、ベネデッタ自身は記憶が連続しており、今までのベネットの動きを内側から見て完全に把握している。その気があれば、いつでも表に出て活動することが可能だ。ただ、生きるのが嫌になって引き籠っているので、主に活動しているベネットに危機が迫っていたり、どうしても必要な時や自らも体験したいと思うようなこと以外では出てくることはない。

 逆に主人格であるベネットにベネデッタの記憶はなく、認識すらしていない。生まれる前の記憶も無いが、ベネット自身は不幸なことがあって忘れたのだと気にしていない。


 ハカセとはベネットの殺意のゾーンの治療の時に何度か対面していた。何故ベネットが殺意のゾーンを使い続けられるのかを説明する必要があったのと、研究と治療の為にベネットの心情を正確に伝える必要があったからだ。

 殺意のゾーンは、ベネットが作られた存在だからこそ特別に負の感情への耐性が高いことと、ベネデッタが殺意の大半を受け持っていることで成り立っている。

 しかし、それでも許容量というものはあり、ベネデッタから殺意が漏れ出てしまい、使い続けることでベネットを蝕んだ。また、ベネットがTAに乗った際は死んではいけないという強迫観念もあり、必要以上に影響を受けていたのが原因だ。

 今ではベネット自身がゲームを正しく認識して乗り越えたことで成長し、感情をしっかりと切り離してお手軽に殺意のゾーンに入ることができるようになっている。




 ハカセが三十分ほどベネットの頭を撫でていると、目を覚ました。


「ん……」

「やぁおはよう。よく眠れたかい?」

「……ああ、なんかスッキリした」

「それは良かった」

「ところで、何故頭を撫でてる?」

「好きでやっているだけだ。嫌いではないだろう?」

「まぁ……」

「なら、もう少しこのままでいるといい。君は色々と頑張り過ぎだ。時には信頼できる者に体を預けるべきだろう」


 ベネットにとってとても嬉しい言葉だが、一つだけ疑問とちょっとした不満があった。


「……ハカセって、中身男だよな?」

「クックック、中身が男で外見が女というのは、嫌かね?」


 頭を撫で続けられながら問われ、ベネットは感覚に意識を向けて柔らかい手や太腿の心地良い感触、微かないい香りを改めて認識した。


「……嫌ではない」

「そうかそうか。どうやら、中身が男であったとしても外見が完全な女ならば、女性的な優しさや母性というものを発揮できるようだね。素晴らしい!」


 その発言に、ベネットの安らぎはすぐに無くなった。


「……ハカセ、まさか実験の為にやっていたのか?」

「勿論だとも。男同士で膝枕をする趣味など無いが、例え中身が男だったとしても、女の容姿というだけで相手が母性を感じるのか気になっていたんだ。サンプル不足だから確定ではないが、君のお陰で効果がありそうだということはわかった」

「それは良かったな」

「ああ。それとベネット、次は君が私に膝枕をするんだ。どんな感じなのか主観的に確かめたい」

「拒否する」

「ええーっ。この私が恥を忍んでやっているのだよ? 君もやりたまえ」

「嫌だよ恥ずかしい。って、こらっ! 叩くな!」


 ぺしぺしと頭を軽く叩き始めたハカセの手を止めて起き上がったベネットは、仕方なく膝枕をする姿勢になった。


「ほら、これでいいだろう?」

「もっと素直に従えばいいのだよ。では失礼して――おおっ、これはこれは……なるほど、確かにいい。このまま私の頭を撫でてくれ」

「こうか?」


 ベネットが頭を優しく撫でると、ハカセは母親に撫でられた幼少の記憶が浮かび、安らぎと同時に何とも言えない心地良さを感じた。


「……これは癖になるね。世の中の男がこれを望んでいるのがわかったよ」

「なら、もういいか?」

「いや駄目だ。私は三十分やったのだ。私にも三十分を要求する」

「はぁ……」


 仕方なくベネットは要求通り三十分膝枕することにした。


 ――五分後。


 疲れていたハカセは幸せな顔で安眠し、その寝顔を魔が差したベネットがスクリーンショット用のカメラでぱしゃりと撮った。


「これは宝だな」


 機嫌を良くしたベネットはハカセが起きるまで頭を撫でながら膝枕を続け、起きた後はすぐにログアウトした。

 勿論、撮ったことは秘密だ。



中二病の定番、二重人格。

リスクもなく自ら人格を作ることは不可能ですので、決して真似しないようにしてください!

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