『ローカスト迎撃作戦』
とんでも兵器 SAのお披露目回。
といっても、物語上ではまだ旧式です。
ご都合主義ですので、細かい設定は気にしないでください。
翌日、いつもの時間にログインしたベネットは即座に通話が来て応じた。
相手はハカセだ。
「やぁやぁベネット。この時間に来ると思っていたよ。君の新しい機体について目途が立った。すぐに来たまえ」
言いたいことを言い終えると即座に通話は切られ、唐突な話に首を傾げたベネットはとりあえず第十世界へ向かった。
格納庫の転送装置から出ると、人目も憚らずに目の前にハカセが白衣のポケットに手を突っ込んで待っていた。
「ハカセ、来たぞ」
「よく来てくれた。では、火星に行って出稼ぎと行こう」
「ああ、わかった」
軌道エレベーターの施設に移動し、受付で火星行きのチケットを購入した。軌道エレベーターと火星へ向かう宇宙船のチケットが、セットで五十万ゴールドも掛かる。これでも格安チケットのようで、最高クラスのチケットは五百万ゴールドもする。
超技術で作られた軌道エレベーターで宇宙へ上がった二人は繋がっている巨大宇宙ステーションに入り、停泊している火星行きの宇宙船に乗り込んだ。
この宇宙船は人と荷物の両方を運ぶ貨物船だ。四角い筆箱のような見た目だが、海の船と同じような構造をしており、船体は着陸や着水を想定してのっぺりしている。上部構造物の真ん中にちょこんと伸びる艦橋があり、分厚いガラス張りの窓が付いている。飛来物による危険性はあるが、技術が進んで小型のマナ発電所を搭載したエンジンにより、マナコーティングで守られている。また、艦首には防御用の機銃が左右に二基設置されている。
あとは船首と船尾に一門ずつ、自衛用のビーム砲が取り付けられている。
出航時の着席以外は比較的自由に過ごすことができ、数時間の船旅を終えて火星に降り立った。
降り立った空港は統一政府管理下の活動拠点だ。地球の活動拠点とほぼ同じ構造をしているが、火星に酸素がほぼ無いので建物の扉は全て二重構造となっており、建物間をトラックが悠々と行き来できるほどの大きな通路によって繋がっている。その通路は骨組みと透明な板で半円のチューブのようになっており、傍に建てられたマナ発電所によってコーティングされ、見かけ以上に頑丈だ。
案内に従い、TA格納庫までは通路の隅に設置された水平型のエスカレーターに乗って移動する。
格納庫に到着すれば、すぐ傍に第二の活動拠点を示す転送装置があり、近づいたことで使用可能となった。出稼ぎに来ているイレギュラーも多く、起動したTAの出入りも激しい。
踏み潰されないように気を付けながら空いている奥のハンガーまで移動し、TAを出したところでハカセが言った。
「新しい機体に必要な費用だが、三千万ゴールドだ。一々調整するのも面倒だから、お金が貯まるまでしない方向で頼む。武器の方については私が作成しておくから気にしないでくれ。では、頑張りたまえよ」
ハカセが離れたところで、ベネットは依頼斡旋所へ向かった。変わらない造りの斡旋所の個室で依頼の確認をすれば、火星での依頼が大量に表示された。
ただ、大別すると二つに分けられた。
一つは企業同士の妨害工作の応酬と、ちょっとしたお手伝いだ。こちらはいつものゲーム『イレギュラー』の依頼である。
もう一つは未確認生物――『ローカスト』と呼ばれるものの駆除だ。歴史書では別次元から転移していると書かれているが、詳しいことはわかっていない。また、周期はあるが次々と出て来て無差別に襲い掛かるから企業もお手上げの状態だ。
「おっ、これいいかも」
ベネットが気になった依頼は『ローカスト迎撃作戦』というものだ。依頼主は地球統一政府で、報酬は歩合制。
仮受諾して受付に渡し、鍵をもらって個室に入る。ベネットがソファーに座って待っていると仲介人が入って来た。パンツスーツで目つきの鋭い、正に出来る女という雰囲気の女性だ。
彼女は座ると、早速話を始めた。
「挨拶は無しでいいですね。あなたの受ける依頼『ローカスト迎撃作戦』は地球統一政府が出していますが、本当のところは企業が共同で出している依頼です。まぁそこはどうでもいいでしょう。依頼の内容は別次元から空間を割って出てくるローカストの群れの殲滅です。撃破数に応じて報酬を支払います。弾薬費はこちら側で負担し、補給用に輸送機を待機させるので有効に使ってください。それと、この作戦は複数のイレギュラーによる協同作戦でもあるので、くれぐれも仲間割れはしないでください。この依頼、受けますか?」
「ああ。受ける」
依頼を受諾して契約を終えると、タブレットとテーブルを繋いで地図と依頼内容が展開された。
「では、詳細について話しましょう。作戦開始時刻は今から六時間後。作戦地域はここから東側にある未開拓地域の荒野となります。特に何も無い場所ではありますが、空間に大きな歪みが生じ、作戦開始時刻にローカストの大規模な群れが出現すると予想されています。これを殲滅してください。報酬の内容ですが、小型なら千ゴールド、中型なら一万ゴールド、大型で十万ゴールドとなっております。質問はありますか?」
「ローカストと戦うのは初めてだが、そもそもローカストとはなんだ?」
「詳細はわかりませんが、非常識な存在であるということはわかっています。一説には、発展し過ぎた人類を滅ぼす為に神が送り込んでいる兵隊なのではないか、と言われています」
神という単語に、ベネットは小さく溜息を吐いた。抗えない運命というものが嫌いなように、ベネットは理不尽な神という存在が嫌いなのだ。
「神ねぇ……そのローカストは、通常兵器で対処できないのか?」
「まだ詳細はわかっていませんが、マナコーティングされた武器でないとダメージが通りません。以前襲撃があった際、核による広範囲殲滅を試しましたが、効き目は殆どありませんでした」
「そうか。大きさで報酬を分けているけど、強さが違うのか?」
「全く違います。ですので報酬に差をつけています」
「……ローカストの詳細についての情報は、どこでもらえる?」
「コンソールのデータバンクに纏められていますので、そこから閲覧してください」
「わかった。質問は以上だ」
「依頼の成功を祈っています」
依頼斡旋所から出たベネットはハンガーのコンソールからローカストについての情報を確認した。
ローカスト――英語で昆虫のイナゴを意味する。生物的な体組織でありながら、鉄のように硬い固形物や爆発する固形物、ミサイルのように誘導しながら飛翔する固形物を飛ばし、重粒子のビームも撃つ。その弾数は質量を無視しており、どうやって生成しているのかは謎である。生命活動に支障が出るほどのダメージを受けたり捕獲しようとすると粒子状に霧散して消える為、詳細はわかっていない。
ただ、マナに似た性質を有していることはわかっており、生半可な通常兵器では歯が立たず、核による攻撃も体表を焼いて一時行動不能にする程度で効果が薄い。高い再生能力も持っており、核での攻撃から一時間ほどで活動を再開した。
有効な手段として判明しているのは、今のところマナコーティングされた弾丸やビームを撃てる兵器だけである。マナ粒子が何らかの理由でローカストのマナに似た性質を阻害しており、防御を貫通して再生能力も一時的に機能停止に追い込むことがわかっている。
しかし、捕獲できない為に研究が思うように進んでいないのが現状である。
小型ローカスト――正式呼称『デビルアント』
全長二メートルほどの黒いアリのような何か。刺々した悪魔のような外観をしている。牙と爪が鋭い刃物のようになっており、鉄すら容易に切り裂く。特に何かを撃ち出したりはしないが、数が多い。
中型ローカスト――正式呼称『デスホーネット』
全長五メートルほどの黒い蜂のような禍々しい何か。尾から誘導弾を複数発射する。また、口からは固形物を吐きだす。目標にした得物を仕留めるまで追い掛ける習性がある。
大型ローカスト――正式呼称『コマンダービートル』
全長十メートルほどの黒いカブトムシのような禍々しい何か。鎌のような前腕を持ち、角はビームサーベルとビーム砲の機能を持つ。甲虫類のように硬い外殻に覆われており、タフ。また、中型以下のローカストを指揮しているようで、大体は数十体から数百体単位の群れの中心にいる。
弱点は外角に覆われていない目や口、腹部、関節部。
その他――データ不足の為、詳細不明。様々なタイプが存在することだけは確認されている。
「……これ、企業同士で争ってる場合じゃないだろ」
呆れて呟いたベネットは、TAの装備をチェックしてからコックピットに入り、タイマーを設定して仮眠を取ることに決めた。
時間が経ち、タイマーで目覚めたベネットはパイロットスーツに着替えてからTAを起動し、基地内の指定位置に移動した。そこには既に十機ほどのTAが待機していた。既にライセンスカードのデータから味方としての識別になっている。さらに、彼らは全員がプレイヤーであることがわかった。
それぞれの機体はラストを一瞥したが味方である為、すぐに気にせず待機した。
ただ、一機だけは他と違ってわざわざ近づいて来た。
機体名『ブレイブハート』
白と赤を基調とした塗装の、実弾防御を重視した角張ったパーツで構成された中量型の機体だ。その中でも特徴的なのは、高性能なバケツ頭で有名な頭部だ。武器は両手にアサルトライフル、両肩に強力な散弾を放つショットキャノンという中距離から近距離で戦うことを想定した構成だ。
ラストの目の前に立つとブレイブハートは短距離通信で呼び掛け、ベネットは回線を開いた。
「初めましてだな。俺はチーム『下剋上』所属のルイスだ。お前が『錆びつき』で、チーム『円卓』のベネットだな?」
「ああ。よろしく」
挨拶代わりに、ルイスはブレイブハートのアサルトライフルを構えて向けた。味方の識別でロックオンされず、活動拠点での発砲はゲームの仕様上不可能なので、周りの反応は無く、ベネットも特に驚かない。
「俺たちのチームはお前たち天才を打倒する。敵として出会った時は、覚悟しろよ」
言いたいことを言い終えると、ルイスはアサルトライフルを降ろして元の位置に戻った。
ベネットも元の位置で待機すると、弾薬コンテナを搭載した輸送機が時間通りに来て、TAをハンガーに固定して運んでいく。
ベネットの機体もハンガーに固定されて運ばれていく中、通信が入った。
「こんにちは、ベネットさん。ニーナです」
「やぁニーナ。通信、火星でも繋がるんだな」
「転送技術の応用により、座標もわからない別次元でもなければ繋がりますよ」
「あー……そういえば、武器とかパーツとか格納庫に出すの、転送技術だったな。進歩したのか?」
「そうですね。昔よりも様々な技術が発展しています。あと数十年もすれば、別次元への転送や転移も可能になるでしょう」
「…………」
その技術が原因では?
とベネットは思ったが、オペレーターに話しても仕方ないので何も言わなかった。
コックピットの中でアロマディヒューザーのハーブの香りを楽しみながら過ごしていると、ニーナが言った。
「そろそろ作戦領域です。準備してください」
「ああ」
準備を始めると、他の輸送機が分かれ始めた。少し先にある何も無い荒野の空間には大きな亀裂が生じており、いつ割れてもおかしくない状態になっていた。
亀裂を囲うようにTAが降ろされ、輸送機はそれぞれ後方へ着陸して待機する。
数分が経過し、作戦開始時刻になる少し前に亀裂に変化が生じた。ひびが大きくなり、内側から窓ガラスが割れるように空間が繋がり、別次元から大量のローカストがやって来た。火星の赤い地面は黒い波が押し寄せ、空中には大量の中型ローカストと、その中で一際目立つ大型ローカストが何体もいる。
ベネットがグラサン頭の広域スキャンを行えば、空間の奥にいる存在も捕捉し、そのデータは味方のTAに送信されて共有された。
数はおよそ――千。
「作戦開始の合図が出ました。戦闘を開始してください」
作戦が始まったことでベネットはブースターで空中に上昇しながら接近し、両肩のグレネードランチャーを挨拶代わりに黒い波に向けて撃っていく。
地上の小型ローカストに当たった榴弾が爆発すると、コーティングされたマナが爆風と熱と一緒に拡散し、防御を貫通してその肉体を吹き飛ばし、数十体が巻き込まれて消滅した。
中型ローカストにビームライフルを撃てば、装甲が薄いせいかビームは貫通して射程限界までの射線上にいる十数体を撃ち落とした。
中型ローカストが襲い来るが、その速度は二百キロほどとTAにとっては速くない。的確に倒す順番を決めて引き撃ちをしつつ、小型の黒い波にはグレネードランチャーを撃っていく。
機体のAIによる撃破スコアが次々と増えていく中、ニーナが言った。
「空間から新たな反応があります。注意してください」
余裕があるのでそちらに視線を向け、一部を拡大して何が来ているのか確認する。小型、中型、大型のローカストの群れのおかわりだった。
弾数にはまだ余裕がある為、ベネットは気にせずに倒していく。他のイレギュラーも同様の判断で、誰一人として気にしない。
追加で来た群れによって前に押し出される形で、後方で待機していた大型ローカストが動き始めた。
大型だからなのか動き自体はもっさりとしていて遅く、角からビームを撃って来るが普通のイレギュラーでも避けられる程度の単調な攻撃だ。角にエネルギーを溜めて、拡散するように撃って来ても離れていれば脅威ではない。
ベネットはお返しにとビームライフルを撃ったが、硬い外殻にビームが弾かれた。狙いを変えて小さな頭部の装甲に覆われていない目に向けて撃てば、目が抉れるように吹き飛んでダメージを与えた。
巨体がぐらつき、隙が出来たところでもう一度同じ場所にビームライフルを撃てば大型ローカストの頭部がポロリと取れ、体と一緒に霧散して消えた。
大型の倒し方を理解したベネットは数を減らしながら別の大型を狩りに移動を始めた。他のイレギュラーたちも大型を倒しているが、ベネットと違って弱点にロックオンしてからの精密射撃が必要であり、時間が掛かっている。
唯一、ブレイブハートだけは他より一足早く倒せていた。
ニーナから再び通信が入る。
「空間から新たな反応!」
大型を狩りながらチラリと視線を向ければ、またローカストの群れが来ていた。
「数が多いな」
呟き、今のうちに補給しておくべきと判断したベネットは、機体のマナ結晶を介して味方用の通信回線を開いて呼びかけ、全員が応じたところで言った。
「すまん、補給に一度戻る」
誰からも返事は無い。イレギュラーは基本的に馴れ合うつもりがないことと、戦場故に口を動かすより体を動かさないと死んでしまうからだ。
ベネットは追ってくる中型を仕留めて一度輸送機が待機している後方まで下がった。
輸送機『マンタ』に積載された弾薬コンテナが自動で開かれると、ドローンと、ハンガーにあるのと同じ触手が動き出し、せっせと武器の弾薬を補給していく。
その間に、他のイレギュラーたちも弾薬の補給を宣言して一時撤退を始めた。
接近して来た中型ローカストを輸送機がやられないように迎撃しながら待機すること少し……弾薬の補給が終わってベネットが戦場に戻ろうとするとニーナが言った。
「空間より新たな反応……まだ来るの!?」
撃破スコアは既に千を超えているが、殲滅が依頼の目標なのでベネットは戦い続ける。ただ、人間ではない謎の生命体が相手だから気は楽で、ベネットはゲーム感覚で淡々と倒していく。
他のイレギュラーも弾薬の補給を済ませて戦場に戻ってきたことで、ベネットに集中していた攻撃も多少は緩和された。
延々と戦って多少の気疲れを感じ始めたところで、再びニーナが言った。
「また空間より新たな反応! これは……どうやら新種のようです。注意してください」
新種というワードに、流石に気になったベネットは大型を仕留めるとすぐに確認した。
空間から出てきた直後の新種がモニターに拡大されて映される。数は十体。その姿はTAに酷似した人型のハエだった。全長は十五メートルほどで、黒を基調に禍々しく赤く光る模様を放っている。頭部はハエそのもので、大きな二つの赤い複眼が特徴的だ。二本の手は架空の武器として人気の、剣と銃を合体させたガンブレードのようなものが腕から先に生えている。肩には強そうなキャノンを二門備えており、背中には二枚の羽がある。
新種は分散して動き出すが、その速度は今までのローカストを軽く凌駕し、TAと遜色ない動きだった。
そのうちの一体がベネットに襲い掛かって来て、手の銃口からビームを撃ってくる。攻撃事態は単調だが狙いは正確で、動きもいい。並みのイレギュラーであれば苦戦するような相手だ。
楽々と躱しつつビームライフルで撃ち返すと、TAが得意とするステップブーストと同じ動きで躱した。だが、その動きはベテランからすればとても素直だ。
ベネットはタイミングをずらした射撃でビームを当てた。新種はTAに酷似はしていても、その肉体は生物であり、機械であるTA以上の硬さや熱への耐性は無く、胴体をあっさり貫通して一撃で霧散して消えた。
そのままローカストの殲滅に戻っていると、他のイレギュラーが声を上げた。
「これ以上は機体が持たない。撤退する!」
「こっちも撤退だ。なんなんだこのTAモドキは?」
「俺も撤退――ぎゃあぁぁぁ!!」
「おいおい、こっちに皺寄せが来てるんだが?」
「ちょっとこれ以上は――うわっ!?」
「この程度の奴にやられるんじゃねぇよ! 雑魚が!」
五月蝿いのでベネットは通信を切り、自分の担当範囲内で戦う。
淡々と戦っていると、ニーナから通信が入った。
「他の方が仕留め損ねた新種の数体がそちらに向かっています。注意してください」
レーダーで確認すれば高速で接近する三体がいた。それぞれ別の方向から接近しており、ベネットは端から倒すことに決めて自ら接近し、先制でビームライフルを撃って一体目を撃破した。
二体目は三体目と合流して左右から攻めて来るが、完全に動きを把握して最低限の動きで軽いステップブーストをするベネットには当たらず、手早く撃破された。
ベネットが殲滅に戻った所で、ニーナがまた通信で言った。
「また新たな反応!? それにこれは、先ほどの新種……!」
数を確認すれば、そこには新たに数十体ほどの新種が現れていた。
――多過ぎる!
誰もがそう思ったところで依頼主から指示があり、ニーナはベネットに伝えた。
「……依頼主より指示がありました。作戦は中止し、領域より離脱してほしいと。ただし、離脱して追って来たローカストだけは撃破してください」
こういった不測の事態はイレギュラーにとってはよくあることだ。普段は指示に従うのだが、このまま野放しにするのは非常に不味いだろうとベネットは判断し、確認の為に聞く。
「……ニーナ、依頼主に聞いてくれ。残っている奴はどうやって片付けるつもりなのか、と」
「それについては既に回答を得ています。緊急の依頼として新たにイレギュラーを大勢雇い、企業所有の宇宙戦艦を差し向けて対処するそうです」
「なら、もう一つだけ聞いてくれ。SAを出すのなら、続行してもいいか?」
「暫しお待ちを……」
十秒ほど戦って待っていると、ニーナが話をつけたのか言った。
「お待たせしました。SAなら、作戦は続行してもいいと承諾を得られました」
「わかった」
一旦離れたベネットは、追って来た中型ローカストと新種の一体を素早く倒し、火星の赤い地面に着地した。
システムを切り、ライセンスカードを引き抜いてからコックピットのハッチを開いてロープを掴んで降り、アクティブスキルを宣言する。
「【TA収納】【SA展開】」
TAラストが光りになって消え、続けてベネットの所有するSAが出現した。
SA――たった一機で戦略を覆すとしてそう名付けられた人型兵器である。全長は三十メートル前後の巨体で、TAよりも大きく高密度なマナ結晶をエンジンにしている。それによりTAとは桁違いの出力を誇り、マナの力によって重力制御が可能でさらなる高速飛行を実現している。巡航速度でもマッハ二に達し、速度特化の機体の瞬間速度はマッハ四以上となる。
防御機構として強力なマナコーティングに加え、空間装甲として球状にマナの障壁を展開する『マナバリア』を持ち、二重装甲となっている。このマナバリアは特に榴弾や成形炸薬弾に強い防御力を持ち、機体の空気抵抗の軽減も兼ねている。
武器はどれもが強力なコーティングによって、TAのマナシールドが役に立たない強さになっている。さらに、高密度のマナによって扱える特殊な武器も存在する。
その速度や兵器を扱う為に、制御システムとして『マナリンクシステム』がある。これはTAのハーフリンクシステムの元となったシステムであり、人間の意識を機械に繋げて操作するものだ。TAが五割の接続に対し、SAは本来の十割の接続を行い、パイロットは一時的に機械に意識を移すことになる。
そうすることで十全にSAを操作できるが、あまりにも速過ぎる速度、重力を無視した機体の姿勢制御、多数の武器の扱い、頭部のメインカメラと全周に備わったカメラの情報やレーダーの情報、通信、それら全てを同時にこなすには、常人では処理が追いつかない問題があり、プレイヤーでも満足に動かせるのはそれほど多くない。
故に、ゲーム『イレギュラー』ではSAを動かせるプレイヤーは尊敬と同時に畏怖の対象であった。運営もSAを操縦できる数少ないプレイヤーに依頼を出し、一対多数のレイドボス扱いにしてイベントに利用していた。
ただ、SAとTAの戦力差は圧倒的であり、レイドボスとして出てきたSAを倒せないことの方が多かった。
ベネットの出したSAは、ロイヤルユニオン社が開発したSAの標準機そのものだ。高速強襲をコンセプトにしたSAで、激しい砲火を潜り抜けられるだけの防御力を持ちながらも機動性を重視した中量型だ。見た目は空気抵抗を意識したカッコイイものに仕上がっており、スタビライザーなどの付属部品も含めてイレギュラーからも人気の機体だ。特に頭部は、同じロイヤルユニオン社製のTAのグラサン頭を踏襲した作りとなっている。性能もベネットが他のパーツに変える必要の無い好みのものだ。
変えたのは見た目に変化が生じない内装とメインブースターとサイドブースターくらいだ。勿論、このSAもハカセによって運営や開発が首を傾げるレベルの凄まじいチューニングが施されている。
機体の塗装はベネットの趣向によってTAラストと同じ錆びたようになっている。
武器は頭部にバルカン砲を二門、両手にビームライフル、肩の外側に多弾頭マナミサイルポッド二基、内側にグレネードランチャー二門、腰にビームライフルより出力の高いビームキャノン二門を備えている。
さらに両腕と両脚の爪先に内臓式ビームサーベルを備え、両腕の外側にマナシールドが備わっている。
デフォルメされた隠者のエンブレムは左側の上腕部に貼り付けられている。
機体名は『ハーミット』
スキルによって出現したSAは意志あるマナ結晶の為、ベネットの呼び掛けで既に起動しており、膝を着いてビームライフルを置き、手に乗れるように差し出した。ベネットが手に乗ると丁寧な動きで胸まで持ち上げ、ハッチを開いてコックピットに招き入れた。
中には重力に逆らって溜まっている液体化した高密度の緑のマナ粒子がある。ベネットはヘルメットを脱いで、少しぬるっとした粘性のある液体の中に入ると、わざと口を開けて肺に入れるように大きく吸い込んだ。匂いや味は無い。
ごぼごぼと空気を吐き出し、マナの液体で肺が満たされたが苦しくはならない。マナによって酸素が自動で送り込まれる仕組みであり、外部の衝撃を緩和する緩衝材でもある。それに加え、これはマナリンクシステムとして必要なものなのだ。
マナの液体に満たされたコックピット内は何も無い丸い空間だ。コンソールもなければシートもない。立ち位置がわかるように円盤が敷かれているだけだ。ベネットが所定の位置に立つとハッチが閉まり、取り出したライセンスカードが足元の円盤に自動で挿入され、全周モニターが展開されつつSAが動いて地面に置いたビームライフルを拾って立ち上がった。
コックピットの中で手足の動作を一致させる為のホログラムが浮かび上がり、ベネットがそれに手足を合わせてから目を閉じ、マナリンクシステムが起動するとマナの液体が光り出してベネットの体が浮いた。
次に目を開けた時にはベネットの意識はSAと繋がっており、メインカメラの視界を自分の視界として見ていた。さらに、全周のカメラとレーダーの情報も頭の中で表示されており、マナの液体を通して視覚以外の五感を取得している。手にはビームライフルを握る感覚があり、外部の温度や音、気配などが感じられる。
本格的に起動したSAは視覚できるほどのマナコーティングとバリアを展開し、内部の余剰なマナを放出して周囲にマナ粒子を撒き始めた。
「ハーミット……久々に暴れようか」
自分の機体に呼び掛けたベネットは、溜めてから一気に飛び、高速でローカストの群れに向かって突入する。
ベネットの意思に呼応してハーミットが新種を中心にロックオンし、全ての武装を展開し、一斉射して殲滅を開始した。
ビームライフルが新種に向かって撃たれれば、TAのビームライフル以上の高初速によって回避できずに直撃し、胴体が消し飛んでそのまま霧散した。ついでに、貫通して射線上の中型ローカストも霧散した。
腰にある二門のビームキャノンも同様で、遠くから接近して来ていた新種に当たって撃破し、射線上の中型ローカストも撃破する。
肩の二門のグレネードランチャーが大型ローカストに撃たれれば、マナによってレールガンの要領で高初速になった榴弾が飛んでいき、直撃した大型ローカストの硬い外殻を貫通して爆発し、TAのグレネードランチャーの数倍の爆風によって体の半分以上を吹き飛ばして霧散した。
多弾頭マナミサイルはTAラストと同じタイプで、一発が四発に分裂して飛んでいく。
このマナミサイルというものがSA用の特殊な武器の一つだ。ミサイルにマナ結晶の小さな欠片を搭載し、マナを介してパイロットによる操作と誘導が可能になっている。
ベネットは分裂したマナミサイルを同時に操作し、避けようとした新種の動きを読んで直角的な動きをさせて当て、撃破した。
ローカストが特に密集している場所に来た時、ベネットは全てのSAが持つもう一つの特殊な武器『マナエクスプロージョン』を使った。
エンジンの蓄積装置に圧縮して溜め込まれた高密度のマナ粒子を、機体を通して一気に開放することで半径百メートルほどの緑の大爆発を引き起こすという単純なものだ。
一度使うと再使用に三分ほど掛かる、使う際に三秒ほどのチャージングが発生するという弱点はあるが、特にデメリットの無い出し得の攻撃だ。
ただし、SA同士の戦いではマナバリアで相殺されて効果があまり無い。そもそも、速過ぎて至近距離で使っても有効範囲から逃げられてしまう。専ら雑魚殲滅用の攻撃である。
大爆発で至近のローカストを殲滅した直後、チーム『下剋上』のルイスから個人的な通信の呼び掛けがあったので回線を開いた。
「『錆びつき』! SAに乗れるのはお前だけじゃないぞ!」
レーダーに反応があり、味方の識別でルイスのSAが表示された。
機体名『リベンジャー』
白と赤を基調とした塗装の、実弾防御を重視した角張った見た目の中量型の機体だ。
武器は両手にアサルトライフル、肩にショットキャノンを二門、マナミサイルポッド二基、ビームキャノン二門という装備だ。
「……えっと、ルイスだったか? 手伝ってくれるのか?」
「稼ぎの独り占めを見ているだけってのは嫌だからな。それに……」
「それに?」
「……話は後だ。さっさと片付けるぞ」
「ああ」
マナエクスプロージョンを使うことでSA一機でも殲滅は充分であったが、二機に増えたことで思った以上に速く殲滅は完了し、ニーナから通信が入った。
「……繋がった空間の縮小の開始を確認。新たなローカストの反応もありません。任務完了です。お疲れさまでした」
「……そうか。ふぅ――っ!!」
一息吐いてそのまま帰還しようとしたその時、瞬間的に敵意を感じて回避行動を取りながら振り向いた。僅かに遅れて危険を知らせるアラームが鳴り響き、ビームが元いた位置を通り過ぎた。さらにもう一発のビームが飛んで来て躱しつつ、残り弾数の少ないビームライフルを撃ち返した。
当てるつもりで撃ったが、ビームを先に撃った相手は軽く躱した。
ベネットは意図がわからず、繋がりっぱなしの通信から話し掛けた。
「なんの真似だ?」
「なんの真似……? お前は強い。強過ぎると言っていい。新しくなったこの世界でより強い機体を手に入れられたら、俺たち普通の人間はもう追いつけない。だからこそ、最後のチャンスとして弾を消費したこの瞬間を狙わせてもらった。死ね! イレギュラー!!」
弾を温存していたリベンジャーは接近しながら容赦無しにビームライフルを撃ち、マナミサイルをばら撒いてくる。
ベネットは識別を味方から敵に変え、引きながら急降下して機体を回転させて地面スレスレで逃げの姿勢に入った。最高速度で逃げつつ、背後のカメラの視界と感覚を頼ってステップブーストで躱した。マナミサイルは残り少ないマナミサイルを発射し、マナの操作で至近で爆発させてミサイルを誘爆させて迎撃した。
「そう簡単には堕とせないか……だがっ!」
リベンジャーから再度マナミサイルが発射されるが、ベネットはその狙いが動きの誘導だと一瞬で察知し、敢えてそれに乗って動いた。
リベンジャーはビームライフルとビームキャノンを構えて誘導先に狙いをつけ、タイミングを合わせて撃ってくる。
意識が射撃に向いて誘導するマナミサイルの操作が離れたのを見極めたベネットは、その瞬間を狙ってピタリと止まり、マナミサイルをギリギリで躱しつつ反転し、ビームライフルで反撃した。
「くっ」
一瞬の隙を突かれて慌ててリベンジャーは回避行動を取るが、タイミングをずらして撃たれた二発のビームキャノンを躱せず、咄嗟に左手のビームライフルを捨ててマナシールドを展開して防御姿勢を取った。ビームキャノンのビームはマナバリアを貫通し、マナシールドに着弾して耐え、二発目で貫通して左腕が破損した。
だが、ベネットの反撃はそれだけでは終わらない。
防御姿勢を取って動きを一瞬止めたのが、ルイスにとって悪手だった。
ハーミットの最後の一発だった追撃のグレネードランチャーに左腕が死角となって気付けず、マナバリアの出力がビームキャノンの直撃で弱まっていたことも相まって貫通し、片腕に着弾して吹き飛んだ。衝撃で機体も制御を失い、ルイスが踏ん張ってリベンジャーを持ち直したところで、マナバリア同士が接触して無効化するまでに接近したハーミットにハッと気付いた。
ビームライフルを捨てた両手にはビームサーベルが出されており、それが同時に突き入れられる瞬間だった。
これが、ベネットと同じ高みにいる超人であれば、こうなることを予感し、或いは超反応によってまだ挽回できる状況であった。しかし、ルイスにそれらの能力は無い。
どうしても勝てずに悔しいという思いと、自分の弱さに対する怒りが湧いた。
「くそっ――」
悪態を吐いた直後、コックピットとエンジンを貫かれたSAリベンジャーは、爆散した。
「……ふぅ」
ベネットは気疲れから息を吐いた。久々に乗って慣らしもしておらず、しかも弾切れ寸前で強敵と認めるに相応しい相手と戦うのは、骨が折れた。あと一機ベテランのSAがいたら、ベネットは面倒臭さが勝って迷わず逃げていただろう。
戦闘状態で通信を控えていたニーナが、全て終わったことで言った。
「不測の事態もありましたが、改めてお疲れさまでした」
「ああ……帰還する」
ゲームの中の一つの世界と言えど、不穏な雰囲気を感じられるでしょうがお気になさらず。
風呂敷を広げているだけですので……。




