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イレギュラーの世界

TAについての説明回。

あと、ここから少しだけイレギュラーの世界編って感じに続きます。

長いです。すいません。


とんでも技術ですけど、ご都合主義なんで温かい目で見てください。



 チーム『円卓』の親睦会から翌日のこと。



 いつもの時間にログインしたベネットは、早速格納庫へ向かった。大型アップデート直後からTA(タクティカルアーマー)のことがずっと気になっていたのだ。

 ワールドルームの隣にある大きな扉の中に入ると、幾つかの転送装置が設置されていた。奥には通路もあるが、頑丈な隔壁によって閉鎖されている。

 その中からTA・SA用の第一格納庫へ続く転送装置に入って転移した。


 転移した先の格納庫は人工的な照明によって明るく照らされていたが、剥き出しの鉄骨や機械、頑丈な鉄の壁、滑り止めの為に加工された鉄の床になっている。左右には全長十メートル前後のTAを固定する巨大なハンガーが並んでおり、既に購入した何十人ものプレイヤーの機体が固定されて、調整作業を行っていた。

 格納庫自体はかなり奥まで続いており、ベネットのいる位置からでは先が見えない。その為、バイクや自動車を出して移動が可能であり、奥の方で奥の方で作業を仕様とするプレイヤーはバイクに乗って向かっていた。

 一番手前にはSA用の格納庫へ続く通路があり、その反対側には展示用なのかイレギュラーになった時に最初に乗ることになるTAの初期機体があった。


「……懐かしいな」


 自然と笑みを浮かべたベネットは初期機体に近づいた。TAを買う為に来たプレイヤーもそこに集まっており、機体の前に設置されている装置を使って購入していた。


 TA――たった一機で戦術レベルの戦況を覆す、という意味で名付けられた人型兵器だ。頭部、コアとなる胸部、腕部、脚部のユニットから構成されており、元は酷環境下での作業用ロボだった。カスタマイズ性が高く、頑丈でありながら機動性も高い為にすぐに兵器転用され、企業同士の争いに発展した元凶でもある。

 初期型は戦車や戦闘機でも関節部などを集中攻撃することで撃破できたが、ゲームとして『イレギュラー』が活躍する時代には、マナというとんでも粒子が発見され、マナ粒子が凝縮された結晶を地球の地下深くから取り出すことに成功していた。結晶一つで原子力発電所に等しいエネルギーを持ちながら、無尽蔵に粒子を生み出す性質があり、TAのエンジンに転用することでほぼ無限の燃料として使えた。

 さらに開発が進むことで、マナコーティングなる特殊な防御シールドの展開に至る。特にマナコーティングは強力な防御機構であり、機体の表面に展開することで戦車の主砲すらものともしない追加装甲の役割を果たした。

 また、機体を通じて銃弾やエネルギー体にもマナコーティングが可能であり、通常兵器の装甲では防ぎきれない威力を発揮した。さらに、同じマナコーティングを中和する作用もあり、同じTAならば確実なダメージを与えられることがわかった。

 故に、TAがいるような戦場ではTAが投入されることがしばしばで、プレイヤーたちはTA乗りとして特定企業に所属して活動するか、金さえもらえば何でもやる傭兵として活動した。

 因みに、マナ結晶は戦車や戦闘機などに積んでも意味がない。マナ結晶自体に意思があるとされており、結晶が落ち着ける巨大な発電所か人型でないと殆ど力を発揮しないことが確認されている。また、結晶は関わる相手や乗り手によっても出力が変化し、複数人が動かすような兵器だと不安定となり、無人機だと出力が全く上がらなかったりと相性が悪い。

 これは、星や宇宙に広がるマナという粒子自体がある種の精神エネルギーであり、人の意思が浸透しているからだ。というのが『イレギュラー』の世界のオカルト方面での見解とされている。


 ベネットはコンソールの列に並びながら、改めて初期機体を見つめた。


 全長約十五メートルの何の塗装もされていない灰色の機体だ。企業の一つ、ユナイテッド社が自社製品のみで開発した標準機である。

 頭部は人間の目と同じように配置されたデュアルカメラがバイザーに覆われている以外、外見的特徴のない形状をしており、その見た目からモブ顔と呼ばれている。側頭部の左右にはアンテナが斜め後ろに伸びており、簡易的なレーダー機能を持っているが、それ以外に機能はなく、性能も平凡だ。

 胸部はコックピットやエンジン、冷却装置、火器管制装置たるFCSやメインブースター、肩武装、装甲などの関係から前後に長めに作られている。これも外見的特徴がない。性能も平凡である。

 腕部の接続部側面には再度ブースターが取り付けられているが、性能は平凡。

 脚部も同様に外見的特徴のないシンプルな見た目をしており、平凡な性能だ。


 次に武装だが、右手には戦車の主砲以上の威力があるライフルがあり、左腕の外側には籠手のような形状のマナシールドがある。これはマナコーティングを可視化するレベルで圧縮形成させて強力なエネルギーの盾にする装置だ。

 胸部の背面に接続して使う肩武装には、左側に大口径のグレネードランチャーがあり、右側には六発もの小型ミサイルを同時に発射し自動で追尾するミサイルポッドが装備されている。

 あとは見えない部分として、腕部内蔵式のビームサーベルを両腕に装備しており、これはマナシールドレベルの強力な防御手段でないと簡単に溶断する威力を持っている。

 初期機体でありながら全ての距離に対応した装備で、他の武装にも全く劣らない為、人によってはこの装備をずっと使い続ける人間もいる。


 眺めている間に列も進み、ベネットがコンソールの前に立った。ゲームで見慣れたタッチパネル方式のコンソールで、これを使ってTAのあらゆるパーツの組み立てと調整、装備の変更を行うことができる。また、企業へ向けてパーツの売買もできる。

 ただ、この展示用の初期機体の前にあるコンソールは特別仕様のようで、普通の物とは色が違い、TAの購入画面が表示されているだけだった。

 それも二つ。


 片方は初期機体の購入で価格は三千万ゴールド。


 もう片方はゲーム『イレギュラー』経験者用のコンバートだった。ゲームで使用していたTAとSAを、会社側で保存されているデータをそのままこちら側に移すものだ。機体だけでなく、お気に入り登録している武器も一緒に持ってくることができると書かれている。


 その価格、一億ゴールドである。


「貯めた甲斐があったな……」


 ベネットはニヤついた顔を隠せず、興奮で速くなっている鼓動を意識しながら、ゆっくりと確実な動作でコンバートの手続きを終えた。

 すると、本来ならばコンソールにライセンスカードを挿入する差込口から一枚のカードが発行された。

 手に取って引き抜くと同時に、脳内に音声が響いた。


『TA・SAライセンスカードを取得しました』

『特殊兵器TAを取得しました』

『アクティブスキル【TA・展開】【TA・収納】を取得しました』

『特殊兵器SAを取得しました』

『アクティブスキル【SA・展開】【SA・収納】を取得しました』


「よしっ!」


 ガッツポーズを小さくしたベネットは後ろに並ぶ者へコンソールを譲って離れ、空いているハンガーに向かいつつライセンスカードを確認した。それにはゲーム『イレギュラー』で使っていた個人IDや機体名やエンブレム、各種記録が記載されていた。ただし、パイロットネームだけは今のアバターの名前に変わっていた。


「名前は変わるんだな……」


 奥の空いているハンガーの前に到着したベネットはコンソールにライセンスカードを挿入して個人データを開いた。すると本来ゲームに無かった、TAやSAをインベントリからハンガーに出す操作方法が表示され、しっかりと覚えてから操作し、インベントリに仕舞われている状態のTAをハンガーに出した。


 ハンガーに光の粒子が集まって形作り、ベネットが長年乗り回したTAがハンガーに固定された状態で出現した。


 ベネットのTAの頭部は尖ったサングラスのような黒いバイザーが特徴的な、デュアルカメラを採用した頭部だ。形状にもこだわっており、一部からはグラサン頭と呼ばれる愛称が付けられている。素早い相手に対する追尾性能が高く、レーダー、生体センサー以外にも各種機能が盛り沢山に付いている。ただし他の性能は平凡であり、盛り沢山の機能を求めていなければ選択肢から外れる程度だ。これを採用しているのは、不測の事態に備えてのこと。

 コアである胸部は、初期機体の胸部を再設計したものを使用している。より前後に尖らせて傾斜装甲を採用することで軽量化を図りつつ、一定の防御力を維持したものだ。軽量タイプの為、それでも防御力は低めで、避けることを主体としたイレギュラーでないと採用しない。性能は優秀だが、やはり平凡。

 腕部は射撃性能とブレード適性の両方が高い、高性能な中量タイプのものを使っている。ただし、高い分だけ修理費も高いという欠点がある。

 脚部はイケメン脚と呼ばれる人気の中量タイプを使っている。見た目が良く、膝にある突起がお洒落ポイントだ。性能面で尖った部分は無いが高い水準で纏まっており、愛用者は多い。

 メインブースターは双発の出力特化型で、制御が難しいが最も速く動けるタイプだ。

 サイドブースターは出力の高い瞬発型で、こちらも制御が難しい。

 内部機関もそれに合わせた構成になっている。

 FCSはロック距離が長く照準速度こそ速いが、自動ロックする範囲が狭く、パイロットがある程度の照準を自動でしないといけない遠距離タイプだ。ベテランほど自動照準に頼らない傾向にある為、大体は遠距離の精密射撃の補助に使う程度だ。

 また、機体全体の細かいチューニングは機動性と運動性特化になっており、普通の人間には敏感過ぎる機体になっている。

 総合的に言えば、ベネットの機体はある程度の防御力を維持しつつ、速度寄りの中量タイプの機体に仕上がっている。

 武装については、初期機体と殆ど変わらない構成だ。右手はマナでコーティングしたビームを撃ち出すビームライフルを使い、左腕にはより強力だが消費エネルギーの大きいマナシールド。左肩にはグレネードランチャー、右肩には一発のミサイルが四つに分裂して飛んで行く多弾頭ミサイルポッドを積んでいる。腕部の内臓式ビームサーベルは最も強力な物を装備している。


 機体の塗装は全体を赤錆色、錆色、黒の三色で塗り、それを不規則なパターンの迷彩にした塗装で、まるで機体そのものが錆び付いたような見た目のTAだ。


 左腕部の接続部に当たる部分の正面にエンブレムがある。このエンブレムは、イレギュラーたちにとってTAの識別の一つとして機能している。これはゲーム内設定においての戦闘に関するルールの一つであり、マナーでもあり、個性を主張する重要な部分でもある。一般的に腕部の接続部の装甲に貼り付けられるが、人によって脚部や胸部に貼り付ける者もいる。

 ベネットのエンブレムは個性的で、デフォルメされて角張った見た目のタロットの隠者が描かれている。


 機体名は『ラスト』だ。


 固定された自分のTAを見て懐かしさを噛み締めながら、ベネットはコンソールを操作して機体の細かいスペックを表示させた。


「同じだ……変わっていないな……」


 機体の足元まで来て思念を飛ばせば、機体の中のマナ結晶が反応して胸部のハッチが開いてコックピットが姿を見せ、乗り込む為のロープが垂れてきた。ロープには握る為のフックと足を掛ける為のフックの二つが付いている。


 長年連れ添った結晶だからこそできる意思疎通であり、本来はコンソールから指示を出すか、専用のリモコンを使う必要がある。

 ロープを掴んで上昇し、コックピットに乗り移る。

 以前座っていたシートも、内部の構造も変わっていない。

 シートに座り、ハッチを閉じたベネットは興奮と同時に恐れを抱いていた。

 TAを動かせば、再び戦い続ける生活に逆戻りするからだ。戦いに集中し、ひたすら敵を倒す殺戮マシンのようになってしまう。

 その時はまだいい。戦いに集中して余計なことを考えず、むしろ必死な状態が闘争を呼び起こし、楽しさすら感じられる。

 だが、その後は人間が抱き続けるには辛過ぎる殺意が心を抉るのだ。


 だから、一度は離れた。

 だが、闘争というものが忘れられず、こうして再び乗ってしまっている。


 興奮と恐怖によって速くなる鼓動と浅い呼吸、小刻みに震える手を自覚したベネットは自嘲気味に笑い、アズキから貰ったハーブシガーを取り出すと、口に加えてライターで火を点けて深く吸って、爽やかで清涼感のある香りと味を楽しみながら、煙を吐き出した。

 多少気持ちが楽になった所で、自分の心が声を発した。



 ――これに乗れば、また地獄を見るぞ?


「……そんなことわかってる」



 心の声は黙り、静かにハーブシガーを吸って時間を過ごした。

 TA内のコンソールに付いている灰皿にハーブシガーを片付け、ハッチを開いて降りると、イレギュラーだったのだろうプレイヤーたちがベネットの乗るラストの周りに集まっていた。


「ベネット……そうか、道理で強いわけだ」

「元から天才だったわけか。ってか、これを操縦していたのが女だったのか……」

「ベネットがこれのパイロットってことは、やっぱりドルークもそうなんだな」

「だろうな」

「トップランカーが二人……こりゃあ、考え直す必要があるな」


 それぞれ得心が言ったように呟き、さっさと離れていった。


 機体から降りたベネットはコンソールを操作してTAをインベントリに仕舞い、格納庫を出た。

 向かう先はゲーム『イレギュラー』の世界観、第十の世界だ。




 ワールドルームに新たに出来た転送装置に入って転移した先は、さっきまでいた格納庫とほぼ同じ場所だった。幾つか細部は違うが、TA用の大型格納庫であり、周りでは作業服を着た人間や、作業用のMA(マッスルアーマー)と呼ばれるパワードスーツを着た人が作業に当たっており、運搬車両も行き交っていた。

 その中に混じってプレイヤーもおり、スーツを着た人間と話をしていたり、作業員に話している者もいた。


「まるで企業の格納庫だな……」


 ベネットもこのような光景に覚えはある。贔屓にしている企業に所属していた時、多くの人間が出入りしていた。


「さて、どうしようか……ん?」


 何をしようかと考え始めたところで、転送装置の傍に『元イレギュラー、新規の方はまず総合案内所へ』と書かれた看板があるのに気付いた。看板に従って移動すると、格納庫の隅に後から設置されたであろうプレハブ小屋のような総合案内所があった。幾つもある窓口に多くのプレイヤーたちが並んで何かしらの手続きをしており、何をしているのかを考えず並んでのんびりと待っていたベネットの番が来て、手元が開いている透明な板越しに綺麗な女性と対面した。


「こんにちは。この世界に来るのは初めてですか?」

「あー……どうだろう? 元イレギュラーだが」

「元イレギュラーの方でしたか。ライセンスカードはお持ちですか?」

「ああ……これでいいか?」

「はい、確認を行いますので少々お待ちを」


 インベントリから出したライセンスカードを開いている場所に置いて渡すと、女性は見えない位置にあるコンピュータに挿入して個人IDと所有機体とエンブレムを確認した。

 ベネットの名前は変わっているが、個人IDと所有機体とエンブレムから本人だと判断するには充分であり、受付の女性は小さく頷いて軽くデータ上の書類作業を行い、ライセンスカードを引き抜いてベネットに返した。


「お待たせしました。本人だと確認できましたので、休止されていた傭兵稼業の再開を認めます。こちら、簡単な歴史書になりますので、仕事を受ける前に一度熟読することをお勧めいたします。あとはイレギュラーらしく自由に過ごしてください」

「ありがとう」


 ベネットは礼を言って歴史書を持って総合案内から離れた。それから格納庫の隅に設置されている作業員用の休憩スペースの椅子を一つ借りて、教科書ほどの厚みがある歴史書に目を通した。



 ゲーム『イレギュラー』の世界において、簡潔に纏めると以下のことが起こっていた。


 第一に、サービス終了直後の時間帯において、プレイヤーであるイレギュラーたちが傭兵活動を一斉休止した。


 第二に、イレギュラーの大半が居なくなってからも企業同士の争いは続き、人類が長い戦いに疲弊し、企業も弱体化し始めた。


 第三に、企業の争いに人類の大半がとうとうキレて徒党を組み、金を出し合って残っているイレギュラーを全員雇って全企業の本部を強襲、制圧に至り、これにて企業同士の不毛な戦争が終結して地球統一政府が樹立。


 第四に、大人しくなった企業たちの活躍により軌道エレベーターの建造、宇宙船の建造、月に中継基地の設立、火星開拓が始まり幾つかの都市が出来た。二百年間平和で本格的な戦争がないせいで、この間にTAとSAの技術は殆ど進歩せず。


 第五に、火星の地下にて高度な機械技術による古代文明の発見。同時に外宇宙から巨大な未確認生物群の襲来。慌てて統一政府がイレギュラーたちに未確認生物の撃退を依頼。撃退に成功したものの、統一政府が雇っていたイレギュラーの大半が死傷した。


 第六に、統一政府の弱体化により、ここに来て古代文明の技術の独占と、出し抜くことを考えていた企業同士での争いが再び始まり、傭兵需要が高まる。未確認生物の再襲来に備えてTAとSAの本格的な開発も再開されて数年経ったところで、異界から再びイレギュラーたちが訪れる。統一政府はイレギュラーたちを監視下に置くものの、その行動は自由だと宣言し、実質的に企業同士で争う火星の統治を放棄した。


「舞台は火星に移っても、結局は争う……か」


 本を読み終えたベネットは歴史書をインベントリに仕舞い、格納庫の隅に設置されている依頼斡旋所に入った。この小屋はイレギュラー用の依頼斡旋所であり、中には仲介人と話をする完全防音の部屋と、依頼を閲覧する為の専用のコンソールが設置された小部屋があるだけだ。空いている小部屋に入ってライセンスカードを挿入し、どんな依頼があるか色々と調べた。


 地球統一政府からは、武装集団の排除、重要施設の防衛、ストライキ集団との交渉、政府軍の特訓のお付き合い、がある。


 地球統一政府以外からは、廃品回収業者――所謂スカベンジャーから危険地域での護衛、運び屋も道中の護衛、政府のやり方に不満を持つレジスタンスからは重要施設の破壊があった。

 さらに、依頼に不安を抱くイレギュラーからの協力を要請する依頼、アリーナで誰か戦ってくれという依頼まである。


 企業からは、企業同士の妨害工作に関する依頼が幾つもあった。重要施設の破壊、重要施設の防衛、陽動作戦、重要物資の奪取、輸送ルートの破壊、レーダー基地の破壊、物資集結地の確保、企業所属のイレギュラーの排除、等々……多岐に渡る。


 これらの依頼は地球統一政府も確認しているが、イレギュラーたちを制限したりちょっかいを掛けると報復の可能性がある為に見逃されている。また、依頼の詳細は仲介人しか知らず、イレギュラーたちも受ける前に聞いた依頼の内容は絶対に話さない。信用問題に関わるからだ。


「さて、イレギュラー個人からの依頼は、騙して悪いが、があるから論外として……まずは慣らしで簡単な依頼からだな」


 受けない依頼から除外していき、残ったのは武装集団の排除と、ストライキ集団の交渉だ。

 どちらも政府が直接出している依頼であり、報酬は安いが簡単そうに見える。

 とりあえず、その二つの依頼の詳細を聞く為に仮受諾の紙を発行し、受付の女性に渡した。

 すると完全防音の個室の鍵を渡され、受付の女性は裏にある仲介人の大気部屋へ消えていった。

 鍵に掛かれた番号の個室に入って鍵を閉め、設置されているソファーに座って待っていると、向かい側の扉から一人の男性が入って来た。黒いスーツに黒いサングラスを掛けた仲介人の男性だ。

 彼はテーブルを挟んで向かい側のソファーに座ると、早速話を始めた。


「手っ取り早く依頼の説明に入る。政府が管理しているマナ発電所が武装集団によって占拠された。所持しているNA(ノーマルアーマー)から推察するにユーロアライアンス社が裏で手を回している可能性が高い。武装集団の要求は政府に対して大金を払えと言っているが、従う道理はない。発電所の損害は覚悟の上だ。イレギュラーの力を存分に見せつけてやれ。ま、こんなところだ。この依頼、受けるか?」

「いや、もう一つの依頼を聞いてから決めたい」

「だろうな。じゃあ次のストライキ集団の交渉だが、これは政府が管理している別のマナ発電所の問題だな。ストライキ集団は長時間労働だの賃金が見合っていないなど、まともなことを言っているが、武装して占拠している時点で武装集団と変わらない。武装しているMAの武器や、改造した重機の装備、どこかから調達したNAの機種から推察するに、ユナイテッド社が労働者を扇動したと考えられる。政府はこのことを重く受け止め、遠慮はいらないから力強い交渉で解決してくれと言っている。あんたらイレギュラーの交渉術とやらを見せてやれ。ま、こんなところだ。それで、どっちの依頼を受ける?」


 どちらの依頼も難易度は変わらない。だがその背景にあるのは各企業による政府への嫌がらせだ。これから火星で色々とやるから、地球の方で騒がしくして注意をそちらに向けるのが目的だ。

 それを察しているベネットは、心情的に楽な方を選ぶことにした。


「……じゃあ、前者の武装集団の排除で」

「わかった。ではこちらにサインを……」


 上着のポケットから差し出したのは、電子タブレットとカードリーダーだ。電子手帳には依頼承諾書が写っており、デジタルペンと一緒に置かれた。

 カードリーダーにライセンスカードを挿入し、依頼承諾書に自分の名前をサインすると、それを確認した男がポケットから接続ケーブルを取り出してテーブルとタブレットを繋げた。


「契約成立だな。ではこのままブリーフィングといこう」


 男がテーブルの側面に付いているボタンを押して起動すると、光ってホログラムの立体地図が現れ、タブレットで操作することで依頼に関する情報が展開された。


「武装集団が占拠したのはここ、アメリカ大陸の東海岸にあるマナ発電所だ。近くに都市もある重要施設で、あまり長い時間占拠されると経済活動に支障が出る。また、武装集団はあと十二時間までに回答が無ければ発電所を破壊すると言っている。作戦開始時刻はそちらの判断に任せるが、政府は早い解決を希望している。即座に動けば報酬を加算するそうだ。ただし、設備の損害に応じて報酬は減らすとも言っているから、くれぐれも注意してくれ。敵の数についてはおよそ二十機だそうだ。以上。質問はあるか?」

「爆弾が仕掛けられていたりは?」

「可能性はあるだろうな。その場合は爆弾の解除を優先してくれ。TAには爆弾解除用のAIが組み込まれているから、何とでもなるだろう。他にはないか?」

「現地までの移動方法は?」

「近いから自分の足で頼むとよ」

「わかった」

「他には?」

「無い」

「では、話しは終わりだな」


 男はテーブルやタブレットを片付けるとさっさと扉から出て行った。仲介人は誰とも馴れ合わないのが仕事の一つでもあるからだ。

 ベネットもさっさと扉から出て受付に鍵を返して格納庫に戻った。それから空いているハンガーに移動してインベントリからTAを出した。

 チラリと作業員たちがその様子を見ていたが、既に見慣れた光景なのかすぐに視線を戻して作業に戻った。


 ベネットがコックピットに入り、シートに座ってハッチを閉じる。それからライセンスカードを取り出し、自然と手を伸ばせる位置にあるTAのコンソールの挿入口にライセンスカードを挿入した。受諾した依頼の内容をダウンロードし、どこへ向かい、いつまでに終わらせるかのナビをする為だ。

 コンソールの固い起動ボタンを押せば、コックピットの裏側にあるエンジンが始動し、起動シーケンスが始まった。コックピットにマナの粒子が満たされて緑一色になり、粒子の力によってシートやコンソールなどが宙に浮く。これで機体の衝撃からパイロットを守るのだ。

 コンソールのモニターには地図が映し出され、そこまで行く為の手順を教えてくれる。

 だがそれよりもベネットは気になることがあった。


「……髪が、邪魔!」


 ベネットの腰まである長髪はポニーテールにしているが、シートと背中に長い髪が挟まって首を動かし辛かった。

ゴム紐で纏めようかとも考えたが、残念ながら中身が男であるベネットにそれを手早く確実にできる経験はない。

 また、ヒールではペダルに足を固定することは出来ず、コスチュームの一部であるヒールを消して裸足でペダルに足を入れた。


「……後でパイロットスーツ買おう!」


 機体の為に最適化されたパイロットスーツと長髪でも収納可能なヘルメットの重要性に気付いて硬く決心した。

 起動シーケンスが終わりコックピット内のマナ粒子が最適化されて溶け込むように消え、全周モニターが展開されると、ベネットはコックピット内を見渡した。

 全周モニターにはスッキリとしたUIが表示され、コンソールにはレーダーや通信、各種機器が備わっている。体を捻ることで連動して動くシートの左右には腕と連動して動かせる操縦桿替わりのグローブがあり、足元には脚部とブースターを動かす、足に固定して自在に動かせる二つのペダルがある。

 だが、それだけで人型ロボットを完全に動かせるわけがなく、それらは直感的に動かす為のコントーラーに過ぎない。


 TAを動かすのは『ハーフリンクシステム』と呼ばれるものだ。これはマナ結晶の力によってパイロットと機体を接続し、手足として動かすというものである。ただし、設定としてはパイロットの脳に多大な負荷を生じさせる代物であり、名前の通り接続は半分にまで抑えられている。

 しかし、プレイヤー自身はTAパイロットとして適性が異常なイレギュラーなので、負荷もなく自在にTAを操ることが出来る。また、思念を使ってマナ結晶に呼び掛け、遠隔操作や自動操縦、コンピュータでは緻密なプログラムでも組まないとできない複雑な動作も可能としている。

 ベネットはタッチパネルにもなっているコンソールのモニターに触れて固定しているハンガーを外部操作して外し、作戦行動の場所までTAの自動操縦に任せて移動した。


 その間に、ハーブシガーを取り出して一服する。


 TA格納庫から出た場所は軌道エレベーター直下にある基地だった。異界の者であるプレイヤーが過ごす活動拠点の一つでもあり、軌道エレベーターを守る基地でもある。

 広々とした基地から出ようとしたところで、通信による呼び掛けが来たので回線を開いた。


「TAのパイロット、聞こえていますか?」


 通信越しに聞こえたのは若い女性の声だった。


「ああ、こちらラストのパイロット、ベネットだ。そちらは?」

「申し遅れました。私は地球統一政府所属のオペレーター、ニーナ・メイスンです。今回よりあなたの担当オペレーターとなります。以後お見知りおきを」

「そうか。ならよろしく頼む」


 イレギュラーに担当のオペレーターがいるのは珍しいことではない。一人で出来ることなど高が知れており、イレギュラー自身が戦闘中に広域レーダーから敵の動向を読み取ったり、依頼主と細かな連絡を取ったり、新しい目標の設定なんて出来ない。

 その為、オペレーターは所属する企業から担当を用意されたり、依頼主から臨時で派遣されたり、個人と専属契約したりする。


 TAが活動拠点である基地から出たところで、ブースターが吹いて地面すれすれを飛び、時速七百キロ前後の巡航速度で進んで行く。

 発電所まではおよそ数分といったところで、ニーナが話し掛けて来た。


「ベネットさん、一つ聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

「今あなたの記録を見たのですが……あの伝説のイレギュラー『錆びつき』なんですか?」


 ハーブシガーを吸う手が止まる。

 過去を知られたのはコンバートが原因だと察したが、今更戻るわけにもいかず肯定する。


「……うむ」

「女性だったんですね」

「……うむ」


 ゲーム『イレギュラー』では、アバターはパイロットスーツにヘルメットを常に着けていた。性別不詳の中性的な体型で、声もボイスチェンジャーを使っており、秘密の多い存在という設定だった。

 ハーブシガーの類は、ヘルメットのサングラスのように黒いバイザーを上げることで吸えたが、それでも口元までしか上がらない仕様だった。

 だが、オールワールド・オンラインでその設定は無い。



 ハーブシガーを吸い切り、コンソールに設置している灰皿に捨てて暫く。作戦領域の近くになったので準備に入るとニーナが言った。


「作戦領域に近づいています。準備をしてください」

「もうしてる」

「そうですか。作戦内容の確認は必要ですか?」

「いや、大丈夫だ」

「では、活動再開の初仕事、頑張ってください」

「ああ」


 TAが入り込めるようにも設計された巨大な発電所が見え、作戦領域に入り、ベネットはグローブに手を入れてスイッチが入るように殺意のゾーン状態になった。

 これは、果てしない闘争によって“TAに乗って戦う”という行為そのものがルーティン化されているからだ。


 TAが発電所の外周を警戒する五機のNAを捉え、モニターの一部が拡大してその姿を映した。


 NA――ノーマルアーマーと呼ばれるTAの廉価量産型である。各企業で独自に生産しており、TAと同じユニット単位で組み立てるが、生産性を考えて殆どが同じ見た目と性能をしている。

 全長十メートルほどの人型兵器だがマナ結晶を搭載しておらず、圧縮充填したマナ粒子と既存のエンジンを組み合わせて稼働させている。その為に『ハーフリンクシステム』が搭載されておらず、大部分をコンピュータによる制御としている。

 また、稼働時間があり、火力、防御力、機動性のどれもがTAに大きく劣る。マナシールドも出力の関係で搭載されておらず、左手には無いよりマシ程度の盾を持っている。ただ、普通の人間が動かす分には丁度良い性能をしており、作戦に応じて武装やパーツを変えた様々なタイプが存在している。


 ベネットは巡航速度から戦闘態勢に入り、速度を上げてマッハ一ほどのスピードで進みつつ右肩の分裂ミサイルを二発射出する。

 発電所の外周で警戒するNAをミサイルがロックオンし、四発に分裂して襲い掛かった。

 四機のうち二機のNAにミサイルが二発ずつ直撃する。NAが展開している強度の低いマナコーティングではマナでしっかりとコーティングされたミサイル一発でもかなりのダメージとなり、ミサイルを二発受けたNAは大破した。


 強襲に、敵が慌てて通信で連絡を取り合いながら行動を始めた。


「イレギュラーか!?」

「政府の連中め、やっぱり戻って来たイレギュラーを雇い始めたのか!」

「この識別……あの伝説のイレギュラー『錆びつき』か!?」

「だとしたら機体は旧式! 今のNAの火力ならダメージは通る筈だ!!」


 残り三機のNAがブースターを吹かしてベネットに近づきながら手に持つマシンガンを撃って来るが、ベネットは高度を上げてからメインブースターとサイドブースターと姿勢制御のスラスターの全てを同時に、瞬間的に強く真横に吹かして、ドヒャアッ! ドヒャアッ! と直角に動いて回避する。それを連続で行い、マシンガンを躱していく。


 この動きはベテランイレギュラーなら誰でも行うステップブーストという技であり、ベテランであるほどステップブーストでの瞬発力が高く、連続で使われる。ドルークが種族サイボーグのブースターで直角的な機動をしているのも、このステップブーストである。


 連続でステップブーストをしながら、ビームライフルを構えて撃ち始める。

 ベネットの趣向で緑色になっているビームがNAの胸部に直撃すると、貫通して一撃で爆散し、残りの二機も間髪入れずに撃たれて爆散した。

 この場に敵がいないことを確認したベネットは、そのまま発電所の敷地内へ突入した。


 発電所内にもNAが何機もおり、ベネットは貫通するビームの射線を気にしながら慎重に撃ち、場合によってはビームサーベルで倒していく。


「くそっ、もう防衛線を突破されているぞ! ――ああっ、来るっ!」

「おい、応答しろ! うわっ!!?」

「なんなんだあの動きは!? 今までのイレギュラーはなんだったんだ!? うわーっ!!」

「逃げろ! やっぱり伝説は本当だったんだ!!」

「逃げるなんて無理だ! 推力が違い過ぎる!!」

「ハハッ、これが伝説の――」


 次々と撃破されて武装集団は大混乱に陥っていた。


 ベネットはレーダーで敵の位置を確認しつつも気配で相手の位置と動きを察知し、先読みして回避行動を取りながら射線を考えてビームライフルで撃破していく。狭い場所やどうしてもビームライフルが撃てない場所では、ビームライフルを腰に当たる脚部の背面に固定させて仕舞い、マナシールドを展開しながら接近し、ビームサーベルで手早くコックピットだけを破壊して爆発させないように倒す。


 全ての敵を倒したところで、ニーナが声を掛けた。


「目標の全滅を確認しました。これが伝説と呼ばれたイレギュラーの戦いなのですね。想像以上でした」


「――ああ、そうか……帰還する」


 殺意のゾーンから戻ったベネットは、シートに深くもたれて大きく息を吐き、自動操縦に切り替えて帰還した。

 殺意という激しい負の感情に染まっていたせいで、軽い吐き気と眩暈と動悸、さっきの戦闘の敵を倒したシーンが何度もフラッシュバックしていた。

 脳内では、殺せ殺せ、倒せ倒せ、と幻聴のように言葉が響いており、顔色が真っ青なベネットはハーブシガーを取り出して火を点け、深くゆっくりと吸った。


 爽やかで落ち着くハーブの香りに激しい負の感情が静まっていく。


 それによって脳内の幻聴やフラッシュバックも薄らぎ、あとは自力で抑え込んでいつもの状態に戻った。

 ベネットは通信のマイクをミュートにしてから、ハーブシガーを吹かしつつ呟いた。


「……やっぱり、キツイな」


 その顔は自嘲気味にだが、確かな楽しみを感じて笑っていた。



TA――ロボット系のアニメとかゲームとかの設定をごちゃ混ぜに取り込んだとんでも兵器。


SA――TAをさらにヤバくした兵器。一般プレイヤーには扱い切れない。強過ぎるけど、コストもヤバイ。

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