チーム『円卓』の親睦会
いつも誤字・脱字報告ありがとうございます。
今回は、水着回&お色気回となります。
お色気はお色気でも、作者判定では健全です。
ただちょっと、日焼け止めを塗ってもらうだけです。
「それじゃあ、私はそろそろ失礼するよ。チーム結成おめでとう」
チーム結成が決まったのを見届けたプルートは、瞬間移動で会議室から去った。
アルバとウルフェンが代表してチーム結成手続きの為にロビーのチームカウンターへ向かい、他は戻ってくるまで会議室で待機することになった。
その間は暇で、各々好きに過ごそうかと思い始めたところで早速リーベが笑みを浮かべながら口を開いた。
「みなさん、チーム結成を記念して何かしたいですわよね?」
確かに何かしたい、そう大半が思う中で企みを感じたミグニコが聞いた。
「リーベ、今度は何をするつもりだ?」
「ウフフ、嫌ですわ。わたくしは単純に楽しいことをしたいと思っただけですわ」
「そうかよ。で、何がしたいんだ?」
「全員で娯楽エリアのビーチに行きますわよ。親睦会を開いて、バーベキューをしながら遊ぶのはいかがかしら?」
ミグニコは凝視するが、相変わらず底の知れない笑みで何を企んでるかは読めなかった。
「……俺はどっちでもいいが、みんなはどうだ?」
「私は遠慮したい」
真っ先に言い出したのはベネットだ。流れで既に水着を購入しているが、ゲームのアバターとはいえ全員がいる中で水着姿を晒すのは恥ずかしくて避けたかった。
「あらベネットさん、海はお嫌いでして?」
「いや、まぁ……嫌いではない」
「では、バーベキューはお嫌い?」
「……する機会は無いが、好きな方だ」
「では、何故遠慮するのです?」
「別の世界を見て回りたい」
「それはいつでも出来ますわ。ですが、チームで集まって何かするのは、それぞれの予定を合わせないといけませんわ。その時その時が、貴重な時間でしてよ」
「……うむ」
巧みな言葉にベネットは屈し、リーベは他のメンバーを見渡した。
「……他に意見がある方は?」
否定する者はおらず、リーベは満足して頷いた。
「では、アルバさんとウルフェンさんが戻りましたら、海で使う道具や食材を買って行きましょう」
アルバとウルフェンがチームを結成して戻り、チームを管理する為の道具『チーム手帳』の名簿に自ら名前を書き記すことで全員が円卓のメンバーになった。それからリーベが先程の提案をアルバに話して同意を得て、水着を買っていなかった男性陣と、水着を既に買っていた女性陣とに別れて商業エリアで必要な物の買い物に動き、娯楽エリアのビーチの入り口で集合となった。
商業エリアで必要な道具と食材を買い揃えた一行は、娯楽エリアへと向かった。
娯楽エリアは幾つかの街に分かれている。
メイド喫茶やアニマル喫茶など一風変わった店が並ぶ飲食街。
日々の疲れを癒すことのできる様々な温泉と宿泊施設がある温泉街。
カジノ、バーや居酒屋、クラブなどがある歓楽街。
レジャーランドとテーマパークが併設している遊戯街。
屋内プールとビーチが併設している海水浴場。
映画や音楽ホール、オペラハウスや博物館のある芸術街。
最奥には十万人を超える収容人数の巨大なライブ会場がある。
屋内プールとビーチは併設しており、その関係から入り口も一緒だ。浮き輪を模した巨大なゲートの前では既に男性陣が待機しており、多くのプレイヤーから誰を待っているのかと不思議に思われていた。
「お待たせしましたわ、アルバさん」
「いや、それほど待ってないよ」
そこに女性陣が合流したことで、第一回イベント入賞者全員が集合する事態となり、周りはまさかまさかと騒然とし始めた。
「……みんな驚いてるな」
「当然ですわ。面倒になる前に行きますわよ」
「そうだな」
アルバとリーベの先導で全員がゲートを通って大きな建物に入った。ここはちょっとした休憩所と更衣室、あとは商業エリアで買い忘れた人用の、プールやビーチに関する道具や水着が売られている店が入っていた。
更衣室の前に来て、水着に着替えないといけないという思いで落ち着かないベネット、入り口にある大きな看板が目に入った。
『男女別の更衣室へはアバターの性別でお願いします。なお、同性でもハラスメントになりますので、不要な接触はお控えください。運営より』
「ほら、行きますわよ」
立ち尽くしている所をリーベに引っ張られ、ベネットは女性の更衣室へ入った。
オールワールド・オンラインでの更衣室が何故、アバターの性別で更衣室を分けているかというと、中身と外見で性別が違うプレイヤーもおり、中身の性別で分けた場合に更衣室の意味が無くなってしまうからだ。
男にとっては女性の体は生物の本能として確かに欲情するものであるが、中身の性別で分けてしまった場合、更衣室の中の者が全員同性という安心感から気が緩んで、何かしらの間違いが起こると考えられた結果だ。
因みに、中身の性別はプライバシーに関わるということでプレイヤーカードに記載はない。自ら公表しない限り、本当の性別はわからないようになっている。
更衣室の中は使う必要のないロッカーが並び、水捌けの良い穴の開いたプールマットが敷かれている。壁にはシンプルな時計があり、ウォーターサーバーと体重計が並んでいる。あとは複数人が利用できる長い化粧台があった。
大型アップデート直後ということもあり、更衣室の中は女性アバターのプレイヤーで混雑していた。ただ、入り口にある看板が効いているのか淫らな行為をしようとする者はおらず、仲の良いプレイヤー同士が外見を褒め合う程度に収まっていた。
リーベに連れられて空いている場所に来たベネットは、メニューを開いて水着に着替えようとして手が止まった。
ある程度の割り切りが出来始めているとはいえ、まだまだ恥ずかしさはあるのだ。
「ベネットさん、恥ずかしがることはありませんわ。みんな、同じ格好なのですから」
リーベは既に水着に着替え終えており、パレオ付きの深紅な色のビキニ水着を着用していた。これから海に行くので、化粧は落として髪留めも普通のゴム紐に変わっている。ただ、医療用の眼帯は着けたままだ。
「……それでも、やはり恥ずかしい」
「……えいっ! ですわ」
踏ん切りがつかないベネットの手を掴むと、そのまま一押しするだけで変化する状態のメニューを操作させた。
服が光になり、以前購入した水着に変わった。
ベネットの水着は、ホルターネックタイプのシンプルな白いビキニ水着だ。
急なことに、思わず胸を隠すような仕草を取ってしまう。
「っ!? リーベ!」
「ほら、着替えられましたわ」
「うぅ~……」
「ほら、眼鏡を外して、化粧を落として、髪飾りをゴム紐に変えなさい」
顔を赤くしながらも、リーベに言われるままに眼鏡を外し、メニューから化粧を消したり、銀のテールクリップの髪飾りを外してゴム紐に変えた。
一通り終わってから買っておいた白いパーカーの存在を思い出し、上から羽織った。
「……これでいいか?」
最後の抵抗をしているベネットにつまらなさそうな顔をしたリーベだが、これはこれで後の反応が楽しめると考えた。
「……ま、良しとしますわ。行きますわよ」
ベネットはリーベに手を取られて更衣室を出た。
出た先は大きな噴水のある広場であった。待ち合わせ場所として機能しており、迷子センターと休憩所、あとはプールで良く売られている定番の屋台が並んでいた。
その先は分かれ道となっており、片方は屋内プールに繋がっている。
屋内プール場は数万人を収容できるほどに大きい。高さや長さの異なる沢山のウォータースライダーに加え、かなりの長さを持つ流れるプールや、扇状の波の出るプール、かなり深いプール、温水プール、遊具のあるプール……他にも色々とプールがある。
もう片方はビーチに繋がっている。
屋内プール場からでも直接ビーチへ行くことは出来るようになっており、防風林代わりに植えられたヤシの木の間を抜けた先にある。砂浜は白くサラサラとしていて、流れ着いたゴミや木片などは一切無く綺麗な状態だ。海は透明度が極めて高く、浅い場所はスカイブルーの色が広がり、足の着かない沖は綺麗な青色の海が広がっている。コロニー内にも関わらず疑似的な太陽はギラギラと眩く光り、熱を発して南国らしい暑さを作っていた。
ベネットとリーベが更衣室から出て噴水の広場に出ると、既に残りの女性陣と男性陣が噴水の傍で待機していた。
男性陣の水着は普通の海パンと呼ばれるものを着用していた。上半身は裸だが、性的表現規制の関係で乳首は描写されていない。
アルバとウルフェンはシンプルな海パンを着用していた。海パンに特徴がない故に、本人の美的感覚によって作り込まれた見事な造形の肉体美がこれでもかと主張していた。
シュテンは普段のコスチュームと殆ど変わらず、膝丈の短パンが海パンに変わっただけでアロハシャツを羽織っていた。
ドルークはそもそもサイボーグで海パンを履く必要が無く、代わりに西瓜や焼きそばやかき氷といったステッカーを肩や胴体に貼り付け、夏を満喫しているということを表していた。
女性陣の水着は個性が出ていた。
ミグニコは背中がガッツリと開いた黒と白のワンピース水着で、飾りのスカートが一体となっている。
キャシーはフレアビキニと呼ばれる、フリルで飾り付けられたオレンジの水着を着用していた。
オウカは紐で結んで留めるタイプのビキニ水着だ。ゲームシステムとして、紐が解けても絶対に脱げないので安心して着用している。
ヘカティアはどうしても視線が向いてしまうほどの大きな胸を固定する為に、ハイネックの黒い水着だ。布地の部分がレース生地で透けていて魅力的だ。
シュガーは、黒いクマの着ぐるみを着たままである。ビーチに着いてからお披露目するつもりなのだ。
「みなさん、お待たせしましたわ」
「リアルじゃないからそんなに待ってないにゃ。でも、何があったにゃ?」
「ベネットさんが着替えに手間取っておりましたの」
全員がパーカーを着て未だ恥ずかしそうにしているベネットを見て、その心情を察した。
「……それなら仕方ないにゃ」
キャシーが言うように、ほぼ全ての者がそう思った。
「とにかく、ビーチへ行こうか」
アルバの言葉に全員が頷き、ビーチへ向かった。
オールワールド・オンラインのビーチには、一般的な価値観を持つ若い男女にとっての理想郷があった。
大型アップデート初日だけあってビーチは混雑としていた。ただそのプレイヤーたちはおふざけでアバターを作っていない限りは理想とする自分、或いは理想とするキャラの姿をしており、リアルなら放っておく人がいないほどの美男美女、或いは少年少女が水着姿で揃っていた。
女が好きなシュテンが、それを見て反応しないわけがなかった。
「ハハ、流石はヴァーチャルの中だな。アルバ、ちょっとそこらの女に声掛けようぜ。お前がいれば入れ食いだ」
「やるなら一人でやってくれ。俺は好意を抱いた女性以外に興味はない」
「フンッ、真面目だな」
「アルバ、どうやらあっちがプライベートビーチのようだ」
ウルフェンが指さした看板には、プライベートビーチの方向が示されていた。
「プライベートビーチか。入れるのか?」
「『VIPカード』が何に使えるのかは事前に調べてある。このメンバーなら問題なく入れるだろう」
レアアイテム『VIPカード』
譲渡不可。所持数一枚のみ。このアイテムを所持しているプレイヤーはワールドシップ内の全ての商品及びサービスが20%割引となる。また、ワールドシップ内の施設やイベントにおいて、優先利用権や特別ルームへの無料入室資格を得られる。
というものであるが、この特別ルームは課金チケットが必要なプライベートビーチ、ライブ会場、高級な温泉施設などが該当する。また、それら全ての施設において特別に用意された場所を優先利用する権利もある。
さらに、アイテムテキストには記載されていないが、VIPカード所持者一人につき、最大五人のプレイヤーを特別ルームに同伴させることが可能となっている。
こういった効果の永続的なレアアイテムであるが、課金による一般販売は行われていない。『VIPカード』は名称そのままの意味があり、運営にとって特別扱いに相当するプレイヤーの為の物だからだ。
全員がプライベートビーチのある道を進むと、そこには金色の転送装置が一つあった。傍には看板があり『プライベートビーチ入り口』と書かれていた。
アルバが試しに中に入ると、ウィンドウが二つ表示された。
『VIPカード所持者を十三名確認しました。同伴して移動される方は転送装置に入ってください』
『どのプライベートビーチへ行くか、選択してください』
「なんだ、全員VIPカード所持者か。それにビーチを選べるのか……」
プライベートビーチは小規模、中規模、大規模の三つがある。小規模ビーチなら個室扱いとなっているが、中規模や大規模は区画分けされているが他のチケット利用者と共同利用となる。
ビーチにはそれぞれ利用者の人数が表示されていて、小規模ビーチは空き部屋があることがわかった。
「……とりあえず、初回だから小規模で行こうと思うが、いいな?」
アルバの声掛けに反対する者はおらず、小規模ビーチを選択して転移した。
小規模ビーチは左右を崖に、背後を小さな山によって隔絶された小さな砂浜だ。テラス付きの洒落た海の家が一軒あり、その近くにビーチチェアとビーチパラソルが備わったテーブルと椅子が幾つか並んでいる。
金の転送装置は風景の邪魔にならないよう、海の家の裏側だ。
転移して表に回って海を眺め、ベネットはその美しさに呟いた。
「……綺麗だ」
「そうですわね。シュガー、手伝いなさい」
「オッケー」
「えっ」
油断したところをリーベとシュガーに腕を掴まれたベネットは、そのままパーカーを脱がされた。
取り返そうにもパーカーは呆れた表情のミグニコに投げ渡され、空を飛んで距離を取られた。
「リーベ、シュガー……何故……?」
「何故って、こうでもしないと脱ぎそうにありませんもの」
「だよねー。こういのって思い切りが大事だから。ほらほらみんなー、これがベネットの水着姿だよー」
まずオウカとキャシーが口を開いた。
「可愛いじゃないかベネット」
「そうだにゃ。可愛いにゃ」
遅れて男性陣が感想を言った。
「その水着、似合ってるよ」
「うむ、実に似合っている」
「中身が男でも、やっぱ美人な女はいいな」
「悪くない」
「っ~~……!」
全員から褒められ、限界を超えて恥ずかしがるのが馬鹿らしくなったベネットは開き直ることにした。
「わかった。もう隠さない! それより、海を楽しむのだろう?」
「そうだな。ではこれより、チーム『円卓』の親睦会を開催する。各々、買って来た物を出したあとは好きにしてくれ!」
アルバの言葉によって全員が購入したバーベキューの道具や、浮き輪や遊び道具、ビーチパラソルやシートを出してから動き出した。
リーベとシュガーとオウカはシートとビーチパラソルをテーブルの近くに設置し、そこに座って寛ぎ始めた。
ミグニコはキャシーに連れられて早速海の家に突撃し、フルーツが盛られた青色のソーダを注文して飲んでいた。
アルバ、ウルフェン、ドルークは役割分担してバーベキューの準備を始めており、シュテンはいそいそとビーチバレーの準備を始めていた。
ヘカティアは海に目もくれずに砂浜で砂の城の作成を始めていた。
初動で唯一海に入ろうとしたのはベネットだけで、本当に入っていいのか不安になって振り返ると、リーベが手招きしているのが見えた。
首を傾げつつ近づくと、リーベはとてもいい笑顔である物を持っていた。
「なんだリーベ?」
「ベネットさん、日焼け止めを塗りますわよ」
「……? いや、必要ないだろう。ここゲームの中だし」
ベネットが言うように、ゲームの中なので日焼けをするということはなく、オールワールド・オンラインには日焼けする仕様もない。せいぜいアバターの容姿変更で日焼けの設定が出来るくらいだ。
それはリーベもわかっていた。
「ええ、これは単なるフレーバー要素ですわ。ですが、リアルでは出来ない海の体験と言えば、殿方に塗ってもらうというのがありましてよ」
自分がされるところをベネットは想像し、あんなことやこんなことをされるのではと自分の体を抱き締めるように構えた。
「いや、流石にそれはちょっと……」
「いいじゃありませんか。これもゲームの楽しみでしてよ」
「そうだぞベネット。流石に私も男の人に日焼け止めを塗ってもらったことはないが、これも経験だ」
リーベに加え、オウカからもそう言われてしまえば拒否することも出来ず、ベネットは諦めた。
「…………じゃあ、せめてリーベに頼みたい」
「あらあら、いいんですの? こういったことは、殿方より淑女の方が過激でしてよ?」
「オウカ、そうなのか?」
「あー……まぁ、うむ。女はコミュニケーションを大事にする。多少のスキンシップはあって当然だ。なぁシュガー?」
「うん。スキンシップは男の人より多いし激しいかな。ベネットがされたら……ちょっと後悔するかも」
「うっ……じゃあ、誰にやってもらえばいい?」
「それは勿論――」
リーベが顔を向けたのはバーベキューを準備するアルバとウルフェンとドルークの三人だ。ウルフェンの手は毛でゴワゴワとしており、鋭い爪もあって日焼け止めを塗るには適さない。ドルークはそもそも機械の体であり、手も硬くてひんやりしている。同じく日焼け止めを塗るには適していない。消去法でアルバしかいなかった。
リーベは手を振って大きな声を上げた。
「アルバさん、少しよろしいかしら?」
「なんだい?」
「日焼け止めを塗っていただけまして?」
アルバとしてはバーベキューの準備をしたかったのと、リーベの傍にベネットとシュガーとオウカもいることから交代で塗ればいいんじゃないかと思った。だが、それを言うのは無粋であるというのは理解しており、手伝ってくれている二人がどう判断するか聞いてみた。
「ウルフェン、ドルーク、俺はどうしたらいいと思う?」
「女性から誘われたのだ。行くべきだろう」
「オレもそう思う」
「……そうか。すまないが行ってくる」
「ああ、こっちは任せてくれ」
二人にその場を任せてアルバはリーベたちのところへやって来た。
「お待たせ。日焼け止めを背中に塗ればいいのか?」
「いいえ、全身ですわ」
「えっ」
「全身ですわ」
アルバもちゃんとした男である。二度言われて聞き間違いでないとわかり、ごくり、と生唾を飲んだ。
ベネットはまさかの全身に絶句しており、リーベは只々楽しそうに笑顔を浮かべていた。
「……いいのか?」
「ええ、アルバさんは誠実そうですから構いませんわ。まずは、ベネットさんからお願いしますわ」
アルバとベネットが顔を見合わせる。
アルバは当然、ダイジェスト映像の様子からベネットの中身が男であるとは気付いていた。それはそれとして、ベネット自身が時間を掛けて丁寧に作った理想のアバターは顔も体も非常に魅力的で、綺麗な形の大きな胸についつい視線が向いてしまっていた。
ベネットは胸元に視線が向いていることには気付きつつ、気まずくて指摘はせずに視線を外した。
「……とにかく、頼む」
「……ああ」
ベネットはシートに膝を着くと、トップスのホックを外して、水着が胸から離れないことを確認してからシートに仰向けに寝そべった。
アルバもリーベから無言で差し出された日焼け止めを手に取り、ベネットの横で膝を着いて日焼け止めの蓋を開け、適量を手の平に注いだ。ジェルタイプのそれは水っぽくヌルヌルとしており、乳液の成分も含まれているのか白い。
流石に現実でもこんな経験はないアルバは緊張しており、深呼吸をしてから言った。
「……じゃあ、やるから」
「うむ――んっ、冷たい」
ジェルに塗れた手は冷たく、ぴたりと背中に置かれたベネットは体を一瞬だけびくりと震わせ、思わず声を漏らしていた。
「あ、ああ、すまない。冷たかったか」
緊張で冷たさが意識の外だったアルバは、そんなに冷たいのかと手に持っている日焼け止めの容器を確認した。そこには“冷やし”の文字があった。
ばっとリーベの方へ顔を向ければ、口元を手で隠しつつ愉悦に浸った表情でこの様子をじっくりと観察していた。
嵌められたことを悟ったアルバは、小さく溜息を吐いてから覚悟を決めて日焼け止め塗りに集中することにした。
「ベネット、覚悟してくれ」
「覚悟?」
「冷たいぞ」
「んんっ! くぅっ! あっ」
アルバの手が動き、冷えたジェルがゆっくりと丁寧に塗られていく。敏感なベネットはヌルッとした感触で冷えたアルバの手が動くごとにピクピクと震え、声を出すまいと堪え、特に首や胸の側面や腋の時は強く反応していた。
その様子をオウカは頬を染めながら夢中で見つつ、隣のシュガーに聞いた。
「なぁシュガー……これは、ベネットが敏感なのか? それとも、アルバがテクニシャンなのか?」
「んー……アルバも中々だけど、ベネットが特別敏感っぽいね」
「そうか……敏感だとこんな感じになるんだな」
「ここまでは珍しいけどね」
腕を塗り始めたところで、ソーダを飲み終えたキャシーとミグニコがやって来た。
「面白いことしてるにゃー。にゃーもやりたいから、誰か日焼け止め持ってないかにゃ?」
「幾つかありましてよ。どうぞ」
「ありがとにゃー」
リーベが差し出した日焼け止めの容器をキャシーは受け取り、そこに書かれている『冷やし』の文字を見てニヤリと笑った。
「さーミグニコ、そこに寝るにゃ」
「は? お前が使うんじゃないのかよ?」
「まぁまぁ、いいじゃないかにゃ~♪」
ご機嫌な声を出しながらキャシーは強引に寝そべるように促し、ミグニコは不審に思いながらもベネットの隣に寝そべった。
「じゃ、いくにゃ」
「ああ――うおっ、冷た!?」
「日焼け止めはそんなものにゃ。我慢するにゃ」
「……わかったよ。あと、羽には触るなよ?」
「それは振りかにゃ?」
「ちげぇよ。種族的にそこが敏感なんだよ」
キャシーはキャラ作りで猫らしくしているとはいえ、そんなことを言われると触りたくなるのが人情というものだ。ほんの少しだけ悩んだが、天秤は一瞬で傾いた。
「……にゃ」
ガシッ、と掴むと即座にジェル塗れの手で羽をこする。
性感を含んだくすぐったさに、ミグニコは体を強張らせた。
「んんっ! あっ、くぅっ……だから触るな! あっ、馬乗りにぃぃっ!」
隣でもアニメのちょっとしたお色気シーンのような状況が始まり、オウカは食い入るように見つめた。
シュガーは全員で飲むものとは別に個別で購入しておいた缶ビールをインベントリから取り出し、カシュッと開けて飲み始めた。
リーベは手で口元を隠し、この堪らなく愉快な状況にくつくつと笑っていた。
キャシーはミグニコの羽を弄りながらも、小柄な体格も相まって素早く日焼け止めを塗っていく。
アルバはようやくベネットの下半身に移った。
「ベネット、次は足だ」
「んっ! っ~~!」
ベネットは太腿で強く反応し、特に内腿では体を強張らせた。ふくらはぎに移ると、ベネットはようやく安堵して荒れた息を整えだした。
一方、ミグニコの日焼け止めはもう終わった。小柄なうえにワンピース水着だから、塗る面積が非常に少なかったのだ。
「……後で覚えてろよ、クソネコ」
「にゅふふ。じゃあ気を付けるにゃ」
「……おっ、もう肉焼く準備が出来たか?」
「本当かにゃ? ――ふぎゃあっ!?」
騙されてバーベキューを準備している方に振り向いた瞬間、ミグニコがキャシーの尻尾をぎゅっと握ったことで、キャシーは脳天に直線響くような快感が響き、ビクリと体を大きく跳ねて反応した。
ミグニコの羽もそうだが、オールワールド・オンラインでは人間ではない部位は敏感なように設定されている。
また、そういった部位を触るのもハラスメント対象になるが、事故であったり、戦闘中の機転を利かせた行動であったり、同意の上だったり、やってやられての場合、運営は基本的に対応しない。利用規約の自己責任もあるが、一々対応していていられないからだ。
「ちょっ、そこは駄目! やめて! 敏感だから!」
「後で覚えてろよ、って言ったな。アレは嘘だ」
「ふぎゃあああああああ!」
素の態度で懇願したが、最初にやったのはキャシーの方で聞き入れられず、ミグニコは握っている尻尾を徹底的に弄った。
キャシーはビクビクと体を震わしながら叫び、ビーチ中に響いて全員の手がピタリと止まった。
ミグニコに尻尾を弄られたキャシーはシートに寝転がって腑抜け、ミグニコは浮き輪を持って一人で海へ遊びに行った。
それから少しして、ようやくベネットの日焼け止め塗りが終わった。
「――ふぅ。終わった」
「……そうか。はぁ……」
「リーベ、すまないけど、俺はバーベキューの準備に戻るよ」
「ええ、ご苦労様」
アルバは準備に戻り、ベネットも外していたトップスのホックを留め直した。
「リーベ……なんか疲れた」
「あれだけ反応していれば当然ですわ。お休みになって」
「そうする」
ベネットがシートに再び横になって休み始めたところで、ビールを飲み終えたシュガーは言った。
「それじゃあリーベ、私に日焼け止めを塗ってくれる?」
「よろしくてよ。ようやくその着ぐるみを脱ぐのですね」
「うん。やっぱり最初は君たちに見せたいからねー。ちょっと待ってね。みんなを呼ぶから」
「ええ」
シュガーは大きく息を吸い、全員に聞こえるように大声で言った。
「おーい! みんなー! 一旦手を止めてこっちに来てー!」
全員が何事かと振り向き、やっていることを中断してぞろぞろと集まってくる。バーベキューの準備も殆ど終わっており、シュガーの呼び掛けに応じた。
「よく集まってくれたね。ではこれより、私の真の姿を見せたいと思いまーす! 刮目せよっ!」
シュガーは脱ぐという意思を持って着ぐるみを脱ぐように動くと、チャックも何も無い背中が開いてぬるりと姿を見せた。
その姿に、全員が目を見開き唖然とした。
特にシュテンとミグニコが反応した。
「うっわ、すっげ……!」
「……マジかよ!」
着ぐるみの中の姿は、肌もセミショートの髪も真っ白で、瞳は血のように赤い。メラニン色素が欠乏したアルビノの人間だ。おっとりした顔つきは母性を感じさせる美女そのものであり、身長は百七十センチを超えて体つきは凹凸のしっかりとしたグラマーなスタイルをしている。
先んじて水着に着替えていたのか、黒いモノキニビキニを着用していた。
「どう? みんな」
シュガーが聞けば、リーベ、キャシー、オウカは素早く褒めた。
「ウフフ、お美しいですわ」
「にゃー、美人なお姉さんだにゃ!」
「ああ、綺麗だシュガー」
遅れてベネット、アルバ、ウルフェン、ドルークが言った。
「……綺麗だ」
「こんなに美人とは思わなかったな」
「うむ。もっと普通の見た目を想像していた」
「ドMを自称するのは勿体無いな」
見惚れていたシュテンとミグニコが、さらに遅れて感想を言った。
「……惜しいな。着ぐるみじゃなければ速攻で誘ったんだが」
「中身はふざけてなかったんだな」
最後に、色々言おうとして完全に遅れたヘカティアが、もう面倒臭くなって小さく一言。
「……凄い」
「ん、ありがとねヘカティア」
思いが伝わったことに嬉しさが少し顔に出たが、すぐに元の表情に戻ってヘカティアは砂の城作りに戻って行った。
「さ、私のお披露目は終わり。みんな、元の場所に戻っていいよ」
シュガーの言葉に全員が元の場所に戻り、好きに過ごし始めた。
「リーベお待たせ。日焼け止め塗り、お願いね」
「ええ」
シュガーの日焼け止め塗りが終わり、交代でリーベの日焼け止め塗りが終わる頃にはバーベキューの準備が完了し、食事が始まった。
中身が大人のメンバーは缶ビールやワイン、チューハイを飲んだ。
大人だったのはアルバ、ベネット、ミグニコ、ドルーク、シュテン、リーベ、ウルフェン、シュガーだ。
未成年はオウカ、キャシー、ヘカティアだった。
バーベキューで親睦を深めたところで、シュテンの提案で男女で交代しながら遊ぶことになり、まずは女性陣が遊びに行った。
リーベとシュガー、ミグニコとキャシーは用意されたビーチバレーを行っている。審判はドルークが呼ばれてやっている。ヘカティアは砂の城を完成させた後でゴーグルを装備して海に潜り、オウカとベネットは水を掛け合った後に水鉄砲を持って海で撃ち合っていた。どうやらオウカは銃の扱いが下手なようで、ベネットに一方的に当てられていた。
そんな様子を、男性陣はバーベキューを続けながら眺めていた。
「へへ、いい眺めだ。スクショが捗る」
シュテンはスクリーンショット用のカメラを構えてズーム機能を使って拡大し、ベネットやオウカ、シュガーやリーベをパシャパシャッと撮っていた。ミグニコとキャシーは体型的に好みでないので対象外だ。
シュテンが男女で交代して遊ぶように提案したのもこれが狙いであり、善意などは無く下心しかなかった。
その様子をウルフェンは白い目で見ながら言った。
「シュテン、彼女たちに許可は取ったのか?」
「あ? シュガーには他の奴には見せないって条件で話をつけておいたぞ」
「一人だけか? 他の者にもちゃんと言っておくべきだろう」
「いいんだよ。被写体にされるような美人なアバターにする方が悪い」
「……アルバ、リーダーとしてはどうなんだ?」
急に話を振られたアルバは、丁度飲んでいたビールを咽そうになった。
「……ケホッ。まぁ、チームの思い出作りってことで、いいんじゃないか?」
「アルバがそう言うなら、私からはもう何も言わん」
ウルフェンは諦め、自分用に焼いていた肉を食べる。幸福感によって尻尾が揺れている。
アルバは背の高いシュテンの腕を軽くトントンと叩き、ジェスチャーで屈むように指示すると、耳元で小声で伝えた。
「シュテン、そのスクショ、あとで俺にもくれないか?」
「……フッ、いいぜ」
拳を軽くぶつけあって約束し、アルバは何食わぬ顔で離れた。
海で水鉄砲を撃ち合っていたベネットとオウカは、一方的な展開に不貞腐れたオウカの提案で海で泳ぐことになった。
二人で浮き輪を持って泳ぐ。
綺麗な海にベネットも気分が良く、平泳ぎでスイスイと進む。その隣をオウカも同じように泳ぐ。
ある程度泳いだところで、ベネットは止まって水の抵抗を受けて泳ぎにくいと感じていた自分の胸を見た。
感覚的に、プカプカと浮いている。
「……大きい胸って、浮くんだな」
「藪から棒だな。気になるのか?」
「うむ、なんか泳ぎにくい」
「ビキニは泳ぐ目的で作られていないからな。私もゲームでなければ、こんな水着で泳ごうとは思わない」
「それはやはり、ズレるからか?」
「ズレるどころか、下手をすればポロリだ」
「……そうか」
気を紛らわせるように周りを見て、かなり陸地から離れていることに気付いたベネットは、大きな胸を腕で押し潰して真下を確認した。
幾らプライベートビーチでも陸地から離れれば相応の水深になっており、既に十メートルほどの深さになっていて、海の色は暗かった。
ベネットの顔色がみるみるうちに青くなり、オウカもそれに気付いた。
「どうしたベネット、顔色が悪いぞ?」
「ああ、まぁ……実はな、私は海洋恐怖症なんだ」
「あ、あー……そうなんだ。大丈夫?」
反応に困ったオウカはついつい素が出てしまった。
ベネットの海洋恐怖症は、すぐに足が着かない深さの水、或いは流れが急だったり大きな波が恐い、だ。溺れたことはないが、溺れかけた経験と、水の中では人間が無力であることが恐怖心となっている。
「大丈夫だ。ちょっと怖いだけだから……戻ろう」
「うん、わかった」
それからは交代しながらプライベートビーチを満喫した。
ある程度時間が経ったところで、キャシーの提案により、海の家の中にある天候設定装置を使って夕焼けを見たり、どこの銀河かもわからない綺麗な星空の下で花火をやったりして過ごし、充分な英気を養えたチーム『円卓』の親睦会は終了した。
誠実そうなアルバが何故女性陣のスクショを欲しがるのか?
年頃の成人男性だから。
あと、英雄色を好むといいますからね。




