衣替え
いつも誤字・脱字報告ありがとうございます。
二回目のお約束。水着回はもう少し先の予定。
――リーベが魔眼を手に入れて翌日。
今日も今日とてゴールド稼ぎをしようとベネットがログインしてすぐ、まるでタイミングを計ったかのようにリーベからメールが来た。
『魔眼を手に入れたので、少しお付き合いしてくださいな。いつもの店でお待ちしております。リーベより』
「遂に手に入れたか……!」
自分のことのように嬉しくなり、ゴールド稼ぎよりも楽しそうなので、今すぐ行くと返事を出してから『ウォースパイト紅茶店』へ向かった。
店に入ると、店主とウェイトレスは常連として認識しているベネットににこやかな笑顔で「いらっしゃいませ」と挨拶する。
店内を軽く見渡せば、他の常連のプレイヤーたちがベネットを一瞥し、迷惑にならないようにすぐ視線を戻した。
店の奥では、ボックス席で紅茶とケーキを楽しみながらリーベが待機していた。
以前と違う雰囲気なことにすぐ気付きながらも近づき、声を掛けた。
「久しぶりだな、リーベ」
「ええ、お久しぶりですわ」
向かい側に座り、改めてその纏っている雰囲気と変わっている容姿を確認して言った。
「……変わったな。何というか……内面も含めて、一新したって感じだ」
「フフ、その通りですわ。衣替えも兼ねて、心機一転の為にイメチェンしましたの」
そう言ったリーベの髪は、縦巻きのツインテールから左側に垂れるサイドテールに変わっていた。肩に掛かる程度の短さで、髪留めのゴム紐には赤いリボンが付いている。服装については、赤いフード付きケープは変わらないが生地が薄くなっている。他には長袖から半袖に変わり、スカートは短くなりブーツも丈が短くなっていた。ベネットはよくわかっていないが、化粧も夏用のものに変わっていた。
「似合ってるよ」
「どうもありがとう。他の三人も呼んでいますので、暫しお待ちを」
「わかった」
ベネットは気分的にニルギリのレモンティーとチーズケーキを注文し、リーベと二人で待った。
特に話すこともなく優雅な時間を過ごしていると、ミグニコがやって来た。
「よっ、久しぶり」
「ああ、久しぶり」
「お久しぶりですわ」
ベネットは隣に座ったミグニコにメニュー表をさり気なく渡した。
ミグニコはメニュー表を受け取ってクッキーとミルクティーを注文し、それから気付いたことを口にした。
「リーベ、見た目変わったな」
「衣替えですわ」
「衣替え……そういえば、小規模イベントに合わせて夏の新規コスチュームの導入とセールがやってたな」
「ええ、あとでミグニコさんも衣替えしませんこと?」
「あー、そうだな……また頼もうかな」
「決まりですわね」
それからまた暫く待っていると、シュガーとオウカが揃って来店した。
「おひさー」
「久しぶりだな」
シュガーは相変わらず黒いクマの着ぐるみにサファリハットの格好だ。オウカも第二回イベント開始前に見せた、ファンタジーの姫騎士が普段着にしていそうな、動きやすさ重視のノースリーブの白いシャツと赤いスカート、茶色いブーツだ。
「お久しぶりですわ。お二人は一緒でしたの?」
「いや、たまたまワールドシップで会っただけだ」
「そそ。たまたま会っただけ。で、魔眼のことで付き合ってほしいらしいけど、話でも聞けばいいの?」
リーベは立ち上がって言った。
「いいえ、性能の確認ですわ。ここではできませんので、移動しましょうか」
久々に集まった五人は店を出て、リーベ先導で第一世界に転移した。そこから活動拠点を出てすぐ道を外れ、人が来ない場所で立ち止まった。
「……ここらでいいでしょう。今から見せるのは、わたくしが手に入れた石化の魔眼ですわ。シュガーさん、その身で受けてくださいますこと?」
「フッ……受けのプロであるこの私をご指名とは、流石だよリーベ」
キザったらしくシュガーは言うが、サンドバックに丁度よいと思われているだけだ。
シュガーがリーベの正面に立った所で、リーベは他三人の立ち位置を確認し、安全な状態であることがわかってから言った。
「それでは始めますわね」
左目に着けている医療用の眼帯を外して閉じていた魔眼を開いた。
その目がシュガーを捉えると、シュガーの視界に映るインターフェースには特殊状態異常の石化のパラメータが出現し、蓄積値がじわじわと上昇していくのがわかった。
ものの八秒ほどで石化が第一段に突入した。
シュガーは体が鈍くなるのを感じた。
「おっ? 体がちょっと重くなった?」
続けて八秒、石化が第二段に進行する。
「おお、体にハッキリとした違和感があるね。何というか、反応が鈍い」
さらに八秒、第三段。
「おおー! 体がちょっと石になってる。興奮して来た」
シュガーが息を荒くし始め、石化が第四段に入った。
「ふおおお! 足元から石化してる! これぞ夢にまで見た石化体験! そうだポーズ! ポーズ取らないと!」
興奮した頭ではいいポーズは思いつかず、咄嗟に取ったのは古臭くて魅力を感じないセクシーポーズの一つだった。ついでに言えば、クマの着ぐるみのせいで変なポーズを取っているようにしか見えていなかった。
そのまま石化の最終段階である第五段になると完全石化し、特殊死亡判定となって五秒ほどで光りの粒子となって活動拠点へ帰還させられた。
リーベは魔眼を閉じて再び眼帯を着けた。ベネット、ミグニコ、オウカはシュガーの言動に呆れて何も言えなかった。
それからすぐ、シュガーが走って戻って来た。
「リーベ、石化最高だよ! もう一回お願いします!」
「嫌ですわ。それより、体験した時の感覚はどうでした?」
「……麻痺とも睡眠とも違う感じだね。体全体が重くなっていって、感覚も薄れて動きが鈍くなる。段階が進むのに八秒ほど掛かるけど、初見だと焦って対処は無理だろうね」
「なるほど……参考になりましたわ。三人は、石化を一度体験してみます?」
親しいフレンドとして誘ったが、ミグニコは即座に手を横に振った。
「しねぇよ。そんな趣味は無い」
その意見にベネットは頷いた。
「私もだ。拘束されたりするのは嫌いだ」
二人が否定的な中、オウカだけは顎に手を当てて悩んでいた。姫騎士として、石化というシチュエーションはアリかナシかと。
――アリだな。
そう結論に達したオウカは、どうせならとベネットの腕を掴み、ミグニコも掴もうとしたが察知されて距離を取られた。
素直に諦め、ベネットが逃げないように腕を絡めてリーベに言った。
「私は体験してみたいな」
「ウフフ、では――」
オウカの意図を察したリーベはベネットの確認など取らずに眼帯を再び外して石化の魔眼を開いた。
シュガーはサッと二人の隣に立ち、完全に油断していたベネットは今更巻き込まれたことに気付いた。
「あっ、マジか……」
本気で嫌がればオウカもリーベも止めてくれることはわかっていた。だがベネットはその絡められた腕を振り払うことはせず、リーベの妨害もしない。
それはそれとしてあからさまに嫌な顔をした。
段々と動けなくなる中でベネットは最後に天を仰いで石化し、活動拠点へ戻された。
「ベネット、怒ってるのか?」
「いや、別に」
活動拠点に戻ったベネットは腕を組んでへそを曲げていた。オウカが聞いても素っ気ない態度を取るだけだ。
「さっきはすまなかった。何か奢るから、機嫌を直してくれないか?」
「いらん」
オウカはインベントリからドーナツを出して差し出してみたが、プイッと横を向いて拒否された。
「困ったな……」
ちょっと可愛いと思いつつもオウカは困惑し、取り出したドーナツを食べながらシュガーに助けの視線を送った。
視線を理解し、ゲームの中で不機嫌なのは勿体ないと感じているシュガーは一肌脱ぐことにした。
「しょうがないなー」
意固地になっているベネットの前に立つと、組んでいる腕を外させて引き寄せるように優しく抱きしめ、軍服の帽子の上から頭を撫でた。
「っ! シュガー……?」
面食らったベネットはこの瞬間に不機嫌な感情はどこかへ消えてしまい、意味がわからず抱き締められるまま放心していた。
「ベネット、嫌なことがあったのはわかるよ。でもね、ずっと不機嫌だと周りも楽しくなくなるから、切り替えよ? ね?」
「……そうは言われても」
「なら、不機嫌な時はこうやって抱いてあげる。リアル女の抱擁、満更でもないでしょ?」
「…………」
沈黙という名の肯定を示したベネットに、シュガーはオウカに向けてこっそりとサムズアップしてから抱きしめるのを止めた。
「機嫌直った?」
「……うむ、まぁ」
ベネットは頬をほんのり赤くし、照れ隠しに二人から背を向けた。
そこへ、丁度よくリーベとミグニコが戻って来た。
「オウカさん、ベネットさん、石化はどうでした?」
「いい体験が出来た。これなら似た能力を持つエネミーや、魔眼持ちのプレイヤーに落ち着いて対処できるだろう」
「二度と経験したくない」
「フフ、それは何よりですわ。ところで、三人はこの後の予定はおありですの?」
「私は特にないな。第三世界に戻って魔法の練習をするくらいだ」
「私もないよ。さっきまで道端で寝てたくらいだからね」
「ゴールド稼ぎを考えていたが……まぁ、たまには気分転換をしたいと思ってる」
オウカもシュガーも予定が無く、ベネットも別のことをするのに乗り気だとわかると、リーベは一番拒否しそうなベネットの手を掴んで言った。
「では、ショッピングに行きましょう。衣替えと、水着を買いに」
水着、という単語に反応してベネットは逃げ出そうとしたがリーベの掴んだ手は強く握られていて振り解けなかった。そうしている間にベネットは背後からシュガーに抱きつかれ、さらに反対側の手をオウカに掴まれた。
着せ替え人形する気満々な三人に動揺するベネットのすぐ傍では、完全にフリーなミグニコが何食わぬ顔で立ってその光景を見ていた。
何故逃げない、とベネットが視線で疑問をぶつけると、ミグニコはベネットの肩に片手を置き、爽やかな笑顔で言った。
「女アバターにした時点で、こうなる運命なんだよ」
ゲーム内で下着を買いに行った時に、ベネットは自分のアバターに関する見落としに気付いていた。
理想の異性とは見たり関わったりするものであって、自分がなるものではないと。
だが、理想とする異性の姿だからこそ自己愛が芽生え、倒錯的な状態から生まれる羞恥心との天秤で勝ってしまった。ゲームを楽しむという目的が後押ししたのもあってアバター変更はせず、それでも残る羞恥心は女性の体を極力意識しないという方法で先送りにされた。
しかし、仲間と水着を購入するという事態に、遂に無視出来なくなってしまった。
故の逃亡だが、心情を見抜かれていた仲間に阻止されて逃げ場を失った。
ベネットは、抑えていた反動で溢れ出る羞恥心から顔を赤くし、自然と今の自分の状況に相応しい言葉を吐いた。
「くっ、殺せ……」
この時、リーベは加虐的な愉悦から、オウカは絶好のワードがベネットの口から本心で出たことに、胸がキュンとしたのだった。
「では参りましょう。シュガーさん、ベネットさんを抑えておいてくださいまし」
「はーい」
ベネットはシュガーに抱きつかれたままワールドシップに戻り、最初に入った店は、以前ベネットがリーベに将校風軍服を見繕ってもらったミリタリー系の服屋だった。
リーベは展示されている幾つかの衣装から試着用カードを手に取ってベネットに差し出した。
「はい、これを試着してくださいな」
「わかった」
ここまで連れて来られたベネットは逃げ出す気も起きず、カードを受け取るとカーテンを閉めてロックし、壁にある差込口にカードを挿入した。
一枚目、半袖の白シャツに黒いタイトスカートのシンプルな夏用の軍服。シャツの白い生地が薄い為、黒い大人の下着が透けて見えてしまっている。
無いな、とベネットは自分でも判断できたが、一応見てもらう為にカーテンを開けた。
「……どうだ?」
反応は無い。
強いて挙げるとすれば、オウカが透け具合を見て駄目そうな顔をしたぐらいだ。
これを試着させたリーベは予想していたのか、特に表情も変えずに言った。
「無しですわね」
リーベがカーテンを閉めた。
ベネットは次のカードを挿入した。
二枚目、ワンピースタイプの黒い軍服だ。リーベの趣味が入っているのか西洋のドレスに見えなくもないデザインをしている。
ただ、ベネットのアバターのメリハリのある体型では、そもそもワンピースを合わせるのが難しく、似合っていなかった。
駄目だとハッキリ自覚しつつも、カーテンを開ける。
「どうだ?」
「あぁー、うん……」
とオウカから残念そうな反応が返って来た。
「次」
リーベによってシャッとカーテンが閉められた。
三枚目、海軍風の白い軍服だ。長袖でパンツスタイルだが、生地自体は薄めだ。帽子も大きくて白い。
何か物足りないな、と感じつつカーテンを開ける。
「どうだ?」
「まぁ……いいと思う。シュガーはどう思う?」
「うーん、ザ・軍人って感じだね」
オウカとシュガーの評価は普通であった。
「わたくしの印象としては、個性――カリスマが足りませんわね。階級で言うなら少佐といったところ。次ですわ」
厳しい評価の下、カーテンが閉められた。
四枚目、上着もスカートも非常にタイトな黒い軍服だ。スカートはかなり短い。生地は伸縮性があり、体型に沿って作られているのかメリハリのある体型が強調されていて、ベネットの視線は鏡に映る自分の胸に釘付けだった。
「これは駄目でしょ」
色気が強過ぎることに呟きつつ、カーテンを開けた。
「どうだ?」
「……大きいな」
「……大きいねー」
服装よりも胸の大きさが評価された。
ミグニコはベネットの着せ替えに飽きて店内を見回りに行ってしまった。
「……その服はスレンダーな体型の方が似合いますわね。次」
ちゃんとした評価がリーベによって下され、カーテンが閉められた。
五枚目、ベネットの今着ているコスチュームに似た黒い軍服だ。上着は生地が薄く中のシャツと一緒にノースリーブで、スカートは丈が短いプリーツスカートだった。脚は黒いストッキングで靴はヒールだ。頭の上にある帽子も少しデザインが違う。
「これは中々……でも……」
ベネットとしても気に入ったデザインだが、一つだけ気になる部分があった。
スカートの裾を指で摘まんで持ち上げれば、すぐに下着が見えてしまった。
「スカート丈が、短いっ!」
小さな声でツッコミを入れたベネットは手を離してスカートを降ろし、カーテンを開けた。
「どうだ?」
「いいじゃないか。似合ってる」
「ちょっとポーズ取ってくれない? こんな感じに」
オウカの評価はよく、シュガーはポーズを指示した。
体を少し横に向け、頭の後ろで腕を組むポーズだ。
「? こうか?」
よくわからずにベネットはポーズを真似すると、ノースリーブ故に見える綺麗な腋と、大きな胸がアピールされた。
「おぉ……思った以上に魅力的だね」
「……そうか」
シュガーの評価にベネットは少し恥ずかしくなってポーズを止めた。
「季節感、相性、魅力、共に申し分なし。それにしなさいな」
「ああ、そうしよう」
リーベの評価にベネットはこのコスチュームーーセットウェア『将校軍服(夏)タイプ4・黒』をイベントの宝探しで手に入れた『コスチューム交換チケット』を使って無料で購入した。
コスチュームの購入が終わり、改めて購入したコスチュームに着替えてから残りのカードは差込口の隣にある返却口に入れて片付け、試着室から出た。
「それでリーベ、次はどこへ行くんだ?」
「乗り気になりましたわね」
「諦めただけだ。それに私の目的は〝ゲームを楽しむ〟だ。この状況も楽しむだけだ」
「そうでしたわね。では次は、ミグニコさんのコスチュームを買いに行きますわよ」
五人は次の店へ向かった。ミリタリー系だったベネットと違い、ミグニコのコスチュームを買う店はコスプレ系の店だった。
店内は様々な職業の衣装が並び、定番のメイド服やナース服、着る人はまずいない消防服や潜水服、着るのに勇気がいる魔法少女風の服や小悪魔風の服もある。
そういったコスチュームが並ぶ為、客層も若い女性アバターや少女アバターが中心で、付き添いらしい男性アバターのプレイヤーがちらほらいる程度だ。
自分のことではないのでミグニコのコスチューム選びは三人に任せ、ベネットは店内を見て回る。
大体のコスプレ衣装に興味は無いが、それでも物珍しくついつい見渡してしまい、飽きはしない。
そのうち、やたら種類が豊富なメイド服が並ぶ棚に来た。
「凄い数だな。運営にはメイドフェチでもいるのか?」
昔ながらのシンプルなロングスカートタイプから、装飾の多いミニスカートタイプまである。
そのうちの一つ、普段着よりスクリーンショットのコスプレ用に使いそうな胸元が大きく空いたミニスカートタイプのメイド服が目についた。ヒラヒラが沢山付いており、レース付きの白いサイハイソックスもある。
「……」
ベネットはゲームの中では女性だ。気になったメイド服を着ても全く問題は無い。見られたら本人が恥ずかしい思いをするだけだ。
辺りを見渡し、視界内にベネットを気にしているプレイヤーがいないことを確認すると、カードを手に取って素早くスカートのポケットに仕舞い、近くの試着室へ向かった。
試着室に入りカーテンを閉めてからロックし、差込口にカードを挿入した。
体が光りに包まれて、見ていたメイド服に変わった。
「うわっ、これは……恥ずいな」
恥ずかしさから心臓がドキドキと激しくなる。鏡に映るベネットは顔を赤くし、罰ゲームで着せられたような雰囲気を出していた。
「……うん、これは無いな。うん」
似合わないことに納得し、抜いたカードを返却口に入れて試着室をあとにした。
ミグニコの様子を見に戻ると、丁度新しいコスチュームに決まり終えたところだった。
「おうベネット、新しいこの服どうだ?」
その場でくるりと回って、新しいコスチュームを見せつけた。
正面は以前の黒いレオタード風魔法少女服に似ており、ホルターネックに変わった以外は大きなリボンと前が無い超ミニスカートだ。だが、背中に布地が全く無く肌が露出している。
「凄い服だな。でも似合ってる」
「だろう」
「さ、次へ行きますわよ」
リーベの言葉で五人は次の店へ向かった。
今度は女性用のランジェリーショップだ。ベネットは逃げる気も無かったが、来る途中にリーベに手を繋がれて、以前に来たことがある店に入った。
下着は見えない部分だからこそ選択の自由度は高く、オウカとシュガーはそれぞれベネットに合う下着は無いかと探しに行った。
リーベはベネットを連れて合いそうな新しい下着を幾つか見繕うと、そのカードを差し出した。
「これ、試着してくださいな」
「ああ」
試着室に向かおうとしたところで、オウカとシュガーも一枚のカードを手に戻って来た。
「ベネット、これも試してみてくれ」
「ほい、私が選んだこれもねー」
「……うむ」
二人からもカードを受け取り、試着室へ行ってカーテンを閉めようとすると、リーベがそれを止めた。
「……リーベ、流石に恥ずかしいのだが」
「女性同士、問題ありませんわ」
「いや、あると思うが」
「無いですわ。それよりも、今日で慣れなさい」
「…………」
リーベの有無を言わさない力強さに、ベネットは諦めて見られながら下着のカードを差込口に挿入した。
服が光って消え、下着姿となる。
一枚目、シュガーが選んだ下着。光沢のある生地の高級感漂う紺色下着だ。
「……いいかも」
ベネット自身はそこそこ気に入った。
「いいな」
「いいじゃん」
「どうよ」
オウカもミグニコもいい評価で、選んだシュガーは着ぐるみの中で誇らしげにした。
「買いですわね」
リーベからも勧められ、ベネットはチケットを使って買った。
二枚目、オウカが選んだ下着。水色と白色の横縞の下着だ。
全員が興味深げに見つめた。
「これは意外だね」
「ですわね」
「意外と似合うな」
「意外性を求めて見た。ベネットはどう思う?」
「まぁ……いいとは思う」
オウカの問い掛けに答えたベネットは、その日の気分で履く時もあるだろうとそのままチケットを使って購入した。
次からはリーベの見繕った下着だが、その全てが似合う物で全員の評価も良く、チケットを使って購入となった。
そしていよいよ水着の購入に移った。公式から水着が売られている専門店は紹介されていて、リーベとオウカとシュガーはしっかりと場所を把握していた。
ベネットとミグニコは三人について行き、まだ開設していない娯楽エリアに近い水着専門店に到着した。水着姿のマネキンがショーウィンドウに飾られているのが特徴的な外観をしている。
中は明かりを存分に使った白い空間で、棚は右も左も様々な水着が展示されていた。ただ、やはり男女ではデザインの幅に大きな開きがあり、男性アバター用の水着コーナーは女性水着の二割ほどしかない。
セール期間中であり、ゴールド稼ぎの小規模イベントも重なっていることで、大型アップデートに向けて先に水着を調達しようという女性アバターのプレイヤーは多く、店内はそこそこ賑わっていた。
落ち着かない様子のベネットはリーベに引っ張られ、三人はその後ろをついて行く。
まずリーベが何着かの水着のカードを取り、試着室の一つにベネットを入れてカードを差し出した。
「はい、これを試着しなさいな」
カードを受け取るが、見せることが前提の水着は下着とはまた違った恥ずかしさを感じ、すぐには差込口に挿入しない。カーテンはリーベがさり気なく手で押さえていて、閉めることもできない。
「……なぁ、本当に水着を買わないと駄目か?」
「勿論ですわ。娯楽エリアが開設されれば、わたくしはあなたとプールやビーチで遊びたいのですわ。そしてその場所で遊ぶのに、水着に着替えるのは当然ですのよ」
そうまでハッキリ言われればベネットは拒否することも出来ず、意を決してカードを挿入した。
白いビキニタイプのシンプルな水着姿になった。
「可愛いな」
「かわいいねー」
「フッ、似合ってるぞ」
「お似合いですわ。次」
オウカとシュガーは素直に褒め、ベネットは照れて赤くなった。それをミグニコはニヤついて揶揄い、リーベは次の水着へ促した。
水着を試着しては可愛い、似合うと褒められ、ベネットはみるみると顔を赤らめていく。興が乗った三人はミグニコにベネットを見張らせ、次々と試着用カードを持って来ては試着させた。
「もう勘弁してくれ」
ベネットが顔を真っ赤にして涙目ながらにそう言ったことでようやく試着は終わり、ベネットは自分が気に入った一着をチケットを使って購入した。ついでに、水着の上から羽織る衣服として特設コーナーにあったパーカーも買った。
次はミグニコの番だが、こうなる覚悟を最初から決めていた為にノリノリで試着を楽しみ、あっさりと決まって終わった。
その後は着せ替えを楽しんだリーベ、オウカ、シュガーがそれぞれ自分の水着を購入し、店を出た。
「疲れた……」
「もう少し頑張りなさい。あとは化粧ですわよ」
気疲れしているベネットに次の目的を告げたリーベが先導し、アクセサリー類が売っている、ベネットとリーベが出会った店に入った。
化粧品や道具が売っている棚の前に来ると、リーベがベネットとミグニコに対して化粧のことについて丁寧に詳しく説明をするが、中身が男である二人はちんぷんかんで理解できなかった。その隣で聞いていたオウカとシュガーにとっては勉強になったようだった。
リーベに勧められるままに化粧品の購入を済ませ、アバターの容姿を変更する総合施設――エステショップを訪れた。
サービス開始からそれなりの期間が経ったことでアバターを変更するプレイヤーもそれなりにおり、中には何人かのプレイヤーがいた。
「ベネットさん、お座りになって」
リーベがテーブルに座って促し、ベネットも座るとウィンドウが表示された。
『両者の同意をもって、メイクアップを開始しますか?』
以前にもやったことがあるのでベネットはすぐに同意し、展開された化粧品や道具と、編集項目が並んだ。
三人が興味深げに見つめる中、リーベがベネットの化粧を行い、ものの数分で完成した。
鏡に映るベネットの顔は、夏の化粧によって涼しさを感じさせる落ち着いた印象になっていた。
「出来ましたわ。今度暇な時にでも、化粧のご指導をしますわ」
「……私は男なんだがな」
「今は淑女でしょう?」
そう言われれば否定することも出来ず、ベネットは夏の化粧を保存してから席を立とうとして手で止められた。
「お待ちを。最後に一つだけ」
リーベはベネットの背後に回って帽子を取り、ポニーテールのゴム紐を外した。パサリ、とベネットの腰まである青みがかったストレートの銀髪が解けた。ゲームだから髪にダメージは一切なく、ゴム紐で縛られていた癖もない。
インベントリからヘアアクセサリーの一つを取り出したリーベは、慣れた手つきで再びベネットの髪を纏めて留めた。ゲームなのでそれだけでしっかりと固定され、ズレたり落ちる様子は無い。
「出来ましたわ。その髪留め、プレゼントしますわ」
ベネットは手鏡を使って髪留めを確認すると、高級そうな銀のテールクリップが銀髪にいいアクセントとなっていた。
「……ありがとう。綺麗な髪留めだな」
「偶然見つけましたの。似合ってよかったですわ」
ベネットは立ち上がって髪留めを触り、首を左右に振って髪の揺れ具合を確かめた。ベストな位置で纏められており、自然と頬が緩む。その様子を四人が微笑ましい目で見つめていて、ベネットはハッと気付いて動きを止めた。
「――っ、なに?」
「いや……可愛いなと」
「そうそう。女の子らしいよ」
「よかったな」
「ウフフ」
オウカとシュガーは思ったことを口にしたが、ミグニコは揶揄い混じりに褒め、リーベは女性らしいロールプレイへ誘導した成果が徐々に出始めていることを秘かに喜んだ。
アバターの性別や容姿に引っ張られ、それらしい行動を無意識でしていることに気付いたベネットは顔を赤くしながらも、誤魔化すように咳払いをした。
「……とにかく、これで終わりだな。もう予定が無ければ解散ということでいいか?」
「ええ、構いませんわ」
「じゃ、そういうことで」
ベネットは逃げるようにログアウトした。




