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宝探し1 ベネット&オウカ

ベネット&オウカ視点。



 ベネットとオウカは空を飛んで西へ向かう。地上の道では多くのプレイヤーたちがパーティーを組んで行動しており、頭が宝箱の銅色のトカゲーーブロンズミミックリザードを発見した者たちが倒していた。

 倒すと銅の宝箱に変化して中身を取り出そうとしたところ、他のパーティーが襲い掛かり、乱戦へと変わった。


 それを上から見ていたベネットは、傍を飛ぶオウカに言った。


「なぁオウカ。ああやって横取りするのはアリだと思うか?」


 オウカは今回のイベントでの立ち回りや今後の評判について数秒考え、答えが出た。


「……やめておいた方がいいだろう。我々は既に有名人。評判を悪くするような動きをして、嫌がらせなどされたら堪らん」

「確かに。なら、少し離れた場所を探索するか」

「その方がいいだろうな。探索する場所はベネットが決めてくれ」



 二人は西へ進み砂漠へ到着した。真昼の太陽からの熱と、熱せられた砂によって陽炎が漂うカラッとした暑さの過酷な環境だ。かなり広い範囲が砂漠として存在し、奥にはピラミッドやオアシス、石造りの小さな村が見えた。

 砂漠を進むこと少し、砂漠一色の場所で太陽の光を反射するものが一瞬視界に入り、ベネットは指を差して声を上げた。


「オウカ、あっちで何か光った!」

「私も見た。行ってみよう」


 光が見えた場所まで移動すると、銀色の宝箱が砂漠の中にあった。オウカが降り立って近づいたところで、ベネットは他のゲームからの経験から疑念を抱いて声を掛けた。


「オウカ、待て!」

「ん? どうした?」


 説明することも無く、ベネットはリボルバー拳銃のメメント・モリを取り出して銀の宝箱に狙いを定め、発砲した。大型ゆえの凄まじい音を響かせて飛び出した弾丸は銀の宝箱に大量のダメージエフェクトを撒き散らして大穴を開けた。

 すると宝箱が開いて獰猛な牙と鞭のように長い舌を見せ、宝箱の背後からにゅるりと銀のトカゲの体が出てもがき苦しみ出した。表示されたHPバーが三分の一まで減っており、間髪入れずにさらに二発の弾丸を撃ち込まれたシルバーミミックリザードはHPが無くなって消滅した。

 そして、倒した場所に銀の宝箱が新たに出現した。


「……まさか擬態だったとは」

「レアエネミーの名前にミミックという名称が入っているからな。イベントの宝箱は全部疑った方がいい」

「わかった。今度から気を付ける」


 ベネットは消費した弾の装填を行い、その間にオウカが銀の宝箱を開けた。中には換金アイテムの金の延べ棒が幾つか入っていて取得した。


 再び飛び立とうとしたところで、ベネットはイベントの宝箱の探索に使えるかもと考え、口にした。


「【呼出・ホシマル】」


 従魔である犬のホシマルがベネットの膝の上に出現した。

 わん、と元気よく鳴いてそれを耳にしたオウカが振り向き、目を輝かせた。


「か、可愛い! なぁベネット、そのホシマルはどこでどうやって手に入れたのだ? 抱いてもいいか?」


 箒に乗っているオウカは体がぶつかるほどの距離まで近づき、手を広げて抱こうと構えていた。


「こいつはヨワワというエネミーを契約したものだ。第一世界の活動拠点周辺にいる。肉で餌付けした。抱いていいぞ」


 渡されるとオウカは優しくぎゅっと抱き寄せ、キャラを捨てて嬉しそうに頬ずりした。


「あ~、フワフワモフモフ……いい! ベネット、この子頂戴!」

「駄目だ。自分で手に入れてくれ」


 ええー、とオウカは不満を口にしたが、すぐに姫騎士のキャラに戻した。


「……それで、こんな子を呼び出してどうする?」

「ホシマルには【超嗅覚】というパッシブスキルを持つ。罠とか宝箱とか、エネミーも探知できる。イベント限定の宝箱とレアエネミーを分別して探知できないかと思ったんだ」

「なるほど。やる価値はあるな」

「ということでホシマル、イベント限定の宝箱とレアエネミーの探知、できるか?」


 わん、と自信満々に返事をして見せた。


「いい返事だ。オウカ、ホシマルを頼む」

「……いいのか?」

「うむ。ぶっちゃけ、ホシマルを抱きながら飛ぶのは、自分も落ちそうで怖い」

「あー……」


 呆れながらも納得したオウカは、しっかりとホシマルを抱きながら飛び立ち、ベネットも続く。

 ホシマルが次の場所を探知し、そこへ向かう。

 かなりの高度を飛んでいるので地上のエネミーが襲ってくることは無いが、空には空のエネミーが出現する。

 周辺を気にしていたオウカが背後から接近しているエネミーに気付いた。


「ベネット、後ろだ!」


 素早く反応して椅子をくるりと反転させてバック飛行しつつ、メメント・モリを構えた。

 接近していたのは三メートルほどの大きさの、水色と黄色の縞模様の巨大なトンボ『デザートンボ』というエネミーだ。普通のトンボと違い、足の鉤爪は刃物になっていて、尻尾は蜂のように針を備えている。

 上空のエネミーは遭遇率こそ低いが、その分強めに設定されており、AIもかなり高度になっている。気付かれて飛び道具を構えられた時点で回避行動に移り、トンボ特有の急ブレーキ急旋回急加速によって、撃った弾丸は外れてしまう。

 普通では当たらないと即座に判断したベネットは意識を集中して動きを予測し、残りの弾を撃った。だが、勘に頼って素早く撃つだけでは致命になるような場所に当たることは無かった。


「オウカ、頼む!」


 スピードローダーで再装填しながら伝えると、オウカはコスチュームから防具の『炎姫』シリーズに着替え、目で動きを追いながらマジックスキルを宣言した。


「【ファイアボム】」


 赤い魔法陣がデザートンボの真横に展開されたとほぼ同時、爆発するような火炎が放たれてバラバラに吹き飛ばして消滅させた。


「いい威力だ」


 そう呟きつつ笑みを浮かべるベネットは、オウカと一緒に次の場所へ向かう。オウカもベネットが避けていないことを理解したが、自分が防具に着替えたのに、コスチュームのままなことに気付いて声を掛けた。


「ベネット、お前は防具に着替えないのか?」

「あー、いや……」


 正直に話すべきか、対決する時に備えて誤魔化すべきか、多少の迷いが生じた。だが、今この瞬間に迷惑を掛けるわけにもいかないという思いが強く、ベネットは話しておくことに決めた。


「……私の防具は、暑い場所に弱いんだ。一応対策は取れるが、それをするとオウカに迷惑が掛かる」

「そうか。気になるが、それなら仕方ない」


 ホシマルの誘導に従って到着したのは、砂の丘に囲まれた盆地だった。誰がどう見ても戦闘におあつらえ向きの環境であり、その中心に金の宝箱が無造作に置かれていた。


 ――怪しい。


 二人の思いが一致し、二度も同じ轍を踏むつもりはないオウカがベネットに視線を送ると、ベネットは頷いてメメント・モリを構えて金の宝箱に撃った。箱の端が抉れるように吹き飛んだが何も起こらない。

 二人は顔を見合わせ、オウカは肩を竦めて用心しながら近づいた。箒から降りず、いつでも逃げ出せるように意識しながら金の宝箱に触れようとした時、地鳴りが響いた。

 ベネットが声を掛ける必要も無く、すぐに宝箱から離れた瞬間、地面から巨大な口が出現して金の宝箱を飲み込んだ。その生物は砂色の巨大なワームだ。幅だけで十メートル以上もあり、空中へ逃れたオウカに向かって動き、大きな口を開けて丸呑みしようとした。

 適当に撃っても当たるような大きさにベネットはメメント・モリを構えて連射したが、HPバーはほぼ減らず、すぐに回復して全快してしまった。

 オウカがかなり上昇して逃げたところで巨大なワーム『ギガンティックサンドワーム』は体を出せる限界に達し、体を折り曲げて再び地面へ潜り始めた。百メートリ以上もある全長の為、潜るだけで時間が掛かり、砂煙を巻き上げた。


 砂煙が晴れる頃には姿も気配も無くなっており、いつの間にか盆地の中心に金の宝箱がぽつりと設置されていた。

 状態が落ち着いたところで、オウカは真剣な顔でベネットの傍まで近づき、ホシマルを差し出した。


「ベネット、ホシマルを返すぞ」

「もういいのか?」

「ああ、充分堪能した。それに、アレを倒すのにホシマルは邪魔になる」

「そうか。私は何をすればいい?」

「離れていてくれればいいが……そうだな……囮をやってくれると助かる。特に、あのワームを真上に引き付けてほしい」

「わかった」

「待った、もう一つ。倒し終えたら別行動をしよう」


 ベネットは目を細めて凝視し、オウカの真意を見抜いた。だが、納得して頷くことは出来なかった。


「……一応聞く。何故だ?」

「私は『炎皇』だ。本気を出せば、誰も隣には立てない」


 オウカはベネットから離れ、ワームから襲われない離れた位置に降り立った。

 箒をインベントリに戻し、フレンドとなったベネットが自分の所から立ち去ってしまうのでは、という不安を深呼吸によって吐き出し、覚悟を決めてスキルを宣言する。


「【炎海】」


 胴の防具『炎姫の鎧ドレス』に備わっているスキルにより、半径百メートルほどの地面全体から、消えることのない火が噴いて燃え出した。まさに火の海という状態だ。


 ベネットの『氷雪女王』が寒い環境特化のユニーク防具とするなら、オウカの『炎姫』は暑い環境特化のユニーク防具だ。胴の防具のパッシブスキル【炎姫】によって砂漠の暑さでも充分にパラメータは上昇するが、周りが火の海と変わりダメージを受ける程の熱さになったことで、パラメータはさらに急上昇した。


 オウカは続けてスキルを宣言する。


「【火災旋風】」


 効果は一分ほどだが、オウカを中心に大きな火炎の竜巻が発生し、火の海との相乗効果で周辺はさらに熱くなる。


 準備が整ったのを見届けたベネットは、離れていても感じる確かな熱さに思わず笑った。


「ハハッ、これは酷い。本気でやり合ったら勝てないな……【待機・ホシマル】」


 ホシマルを別空間へ戻し、役目を果たす為に気持ちを切り替えて真剣な顔つきとなったベネットは、ひじ掛けを強く握りしめ膝で座面を挟み、さらに自分の足を椅子の脚に絡めて急降下を始めた。

 高所恐怖症にとって苦痛でしかない落下の感覚を味わい、手が震え、心拍数が上昇するのを感じながら金の宝箱に近づき、地鳴りが聞こえてすぐに急上昇を始めた。

 遅れてギガンティックサンドワームが金の宝箱を飲み込みながらベネット目掛けて空へ空へと体を伸ばし始めた。


 ベネットが囮を成功させ、絶好の機会を得たオウカはもう一つのユニーク武器『魔杖イフリート』を手に持った。分類は長杖のロッドで、破壊不可の炭化した黒い柄に、先端にはめ込まれた赤い宝石が常に燃え、松明のようになっているそれを掲げた。炎属性魔法限定で威力を増幅し、消費MPを減少させる効果により、目の前に数十メートルにも及ぶ巨大な魔法陣を展開した。

 今のオウカにとって、限定的な状況で出すことのできる分不相応な力だ。


「今の私の全力、受けてみろ! 【爆轟炎龍】!」


 杖を前へ振り下ろし、それを合図として魔法陣の中からワームに劣らぬ大きさの真っ赤な炎の龍が飛び出し素早くワームを絡め取った。炎の龍の熱量によってガリガリとワームのHPを削り、さらに大爆発を起こして衝撃波と一緒にキノコ雲を発生させた。


 一瞬にしてワームは跡形も無く消滅し、なんとか爆発から逃れたベネットは衝撃波によってバランスを崩して墜落しそうになりながらも持ち堪え、離れた場所で煙が晴れるのを待った。


「ここまでとは……イベントが終わったら、鍛えないとな」


 オウカの全力を目の当たりにして、ベネットの負けず嫌いに火がついた。今後のゲームでの過ごし方を考えながら状況が落ち着くまで時間を潰し、煙が晴れて未だ火の海の中で佇むオウカを視認し、ベネットは賭けに出るべくコスチュームから防具の『氷雪女王』に着替え、スキルを宣言した。


「【ブリザード】」


 ベネットを中心として空が一瞬にして暗い雲に覆われ、大粒の雪が大量に振って風が吹き、猛吹雪となる。

 だが、火の海を境にして吹雪はピタリと止んでいた。

 火の海と吹雪のスキルが対立し、効果範囲を打ち消し合うようにピタリと切れて境界線がハッキリと示されていた。


 これは、オールワールド・オンラインにおける環境を操作するスキルの仕様である。属性的な相性や上下関係は無く対等な状態として扱い、スキル発動者同士がどれだけ接近しても自分の有利な環境が維持されるようになっている。


 故に、ベネットはダメージを受けることなくオウカの傍まで接近することができた。

 流石に空飛ぶ椅子に座ったままでは格好がつかないと思ったベネットは椅子から降りたが、ロングブーツのヒールが砂漠に埋もれてバランスを崩し、横へ倒れそうになった。

 結局、椅子に座り直して浮いた状態でオウカの手の届く距離まで近づいた。


「誰が隣に立てないって?」


 何も無かったと言わんばかりの真面目な顔のベネットに、目を丸くしていたオウカは可笑しさと同時に孤独ではないことを実感し、安らかな笑顔を見せた。


「……まさか、ベネットも同じようなスキルを持っていたとは、思わなかったよ」


 オウカは第一回イベントのダイジェスト映像を見ていたが、あの時のベネットはスキルを宣言する際に小声で聞き取れず、さらに周囲は雪に覆われた場所で、突然の猛吹雪でも違和感が無く気付かなかったのだ。


「これで別行動はしなくていいだろう?」

「ああ、だがどうしようか。私のこの火の海は、空を飛んでも追従する」

「私の吹雪もそうだ。迷惑もいい所だな。ハッハッハッハッハッハ!」

「だな。ハハハハハ!」


 笑い終えると二人同時に、はぁー、と大きな溜息を吐いた。ベネットもオウカもゲームだからこそ自分の好きなようにやりたい放題するが、大多数のプレイヤーに迷惑を掛けてまで活動しようとは思っていない。今はまさに天変地異レベルの歩く災害であり、不本意もいいところなのだ。


「……で、どうするオウカ。このまま二人一緒に行動するか?」

「うーん、そうだな……うん、そうしよう。今の私たちに遭遇したら、笑い話になるだろうしな」


 開き直った二人は並んで金の宝箱まで移動し、開いて中を覗いた。

 そこにはポツンと一つポーションがあった。飲んだら体に悪そうな光り輝く虹色の液体が入っている。


「なんだこれ」

「うわぁ」


 ベネットとオウカもその異常な物に困惑したが、金の宝箱の中身だからいいものであるに違いないと思い、触れて取得した。

 イベント期間中による特殊な状態の為、レアアイテムを取得しても脳内に音声は響かない。首を傾げながらメニューを開けば、他の宝箱の取得情報と一緒にメールとして報告されていた。

 アイテム欄から、そのアイテムを確認した。


 レアアイテム『エリクサー・(インフィニティ)

  所持制限一個。一日一回使用可能。ゲーム内時間0時を基準として再び使用できる。

  効果:HP・MP・状態異常を全て回復する。



「なんだこれ」

「うわぁ」


 さっきと同じことを口にしたベネットとオウカは、金の宝箱の豪華さに嬉しさを通り越して呆れてしまった。



 再びホシマルを出して二人は宝探しを再開した。流石に火の海が出ている状態ではホシマルがダメージを受けるのでオウカに預けられず、ベネットの膝の上に座っている。


 空中を進む道中、人より大きく硬いコガネムシ『スチールコガネ』や、酸を吐き出す大きな鳥『アシッドバード』に遭遇したが、動きの速過ぎたトンボと違う為、ベネットがあっさりとメメント・モリで倒した。



 ホシマルの誘導によって砂漠の中の小さな楽園であるオアシスに到着した。泳ぐには充分な広さの透明感のある澄んだ池があり、周りには乾燥に強い数本の木と草と、丸いサボテンがある。

 だがしかし、ベネットとオウカが降り立てば片や火の海、片や猛吹雪に見舞われ、本来美しい筈のオアシスの景観は台無しとなった。

 池の中心に岩場がありその上に銅の宝箱が一つあったのだが、火の海の効果範囲に入りダメージが入ったことで、勝手にブロンズミミックリザードの擬態が剝がれ、池を泳いで逃げ出した。


「【フリーズ】」


 ベネットが逃げるブロンズミミックリザードの水面に白縹色の魔法陣を展開し、冷気を発して一瞬にして池全体も同時に凍りついた。

 ブロンズミミックリザードは体の芯まで凍りつき、一気にHPバーが無くなって消滅し、岩場に銅の宝箱が出現した。

 防具を着た状態で属性魔法を初めて使ったベネットは、加減を間違えてしまったのか疑い、開いた口が塞がらなかった。

 オウカはオウカで、魔法の強さも対等だということがわかって機嫌を良くした。


「ハハ、ベネットも大概じゃないか」

「……オウカほどじゃない」


 二人は銅の宝箱に近づいて開けた。中にはヒールポーションの上級が五つ入っていた。


「今回のイベント、中々美味しいな」

「ああ、このまま探索を続けよう」



 次に移動した先は、常に砂嵐が発生している特殊な場所だった。だが、環境を操作するスキルの方が強力な為か、火の海と猛吹雪に押し負けて砂嵐が一時的にだが消えてしまった。

 本来は等間隔に設置された旗を目印に進む場所なのだが、ベネットとオウカは楽々と進み、休憩所として作られたのだろう石造りの小屋を発見した。手前で降り立って椅子と箒をインベントリに仕舞い、ベネットはホシマルを抱いて扉に近づいた。


 ホシマルはわんわん、ぐるると小屋に向かって警戒心を露わにした。


 ベネットはホシマルを左手で抱え、扉を勢いよく開けて後ろへ下がりつつメメント・モリを取り出して構えた。中は薄暗く物が全く無く、奥に銅の宝箱が一つ置かれているだけだ。

 ホシマルは依然として警戒したままであり、ベネットが入り口の前から銅の宝箱を撃てば、ブロンズミミックリザードの擬態が解けてもがき苦しみだした。

 それと同時、小屋の中の左右でプレイヤーの侵入を待機していた全身包帯の人型エネミー『マミーラ』が二体、動き出して開けられた扉から出てきた。


「っ!」


 ホラーが苦手なベネットは急なマミーラの登場にびびって出しそうになった声を喉元で堪えた。

 オウカもびびって下がり、小屋ごと燃やしてやろうと長杖を構えた。

 ベネットは下がりつつもほぼ反射で狙いを定め、素早く的確に二体の頭部に銃弾を撃ち込んで一撃で倒し、HPが半分まで減っているブロンズミミックリザードを撃って倒した。


「あーびっくりした」


 胸を撫で下ろしたベネットは後ろに数歩下がってその場に座り込んだ。心拍数はかなり高い状態となっており、落ち着く為の行動を兼ねて弾の再装填をゆっくりと行った。


 が、手が震えに震えて弾がシリンダーに中々入らない。


 その間にオウカは長杖から魔剣レーヴァテインへと持ち変え、警戒しながら小屋の中に入り、何もいないことを確認してから銅の宝箱を開いた。

 中には幾つものポーションが入っていた。中身の液体の色はそれぞれ違い、容器がヒールポーションやマジックポーションと違って角張っている。一時的な耐性を得るアンチポーションだ。


 それらを取得し終わる頃には、ベネットも恐怖が薄れて弾の装填が終わって立ち上がっていた。


「オウカ、中身はどうだった?」

「アンチポーションが幾つか入っていた。色合いからして上級だろう。それで、次はどこへ行く?」

「ホシマル、どうだ?」


 わん、と鳴いた先は旗が続く先だ。


 再び移動を開始して到着した場所は、崖をくりぬいて作られた遺跡だった。大分風化した状態であり、目立つような人工物は無く十数段の階段を上った先に入り口があるだけだ。

 ベネットとオウカが入り口まで来た所でウィンドウが表示された。


『ダンジョン:朽ちた古代の神殿』



「ダンジョン……ホシマル、この奥か?」


 くうーん、と首を横に振り別の方へ向いてわんと鳴いた。その方向は崖の角で、目を凝らしてよく見ないと錯覚して壁にしか見えない、巧妙に隠れた脇道があった。


「あっちか」


 脇道の前に来た時、ホシマルがぐるると唸った。


「……ホシマルどうした? 罠か?」


 強くわんわんと吠え、警戒心を剥き出しにして脇道の先を見据えている。


「ベネット、どうする?」

「ふむ……虎穴に入らずんば虎子を得ず、だな」

「なら、私が前を歩こう」


 魔剣を手にオウカを先頭で脇道に入って細い通路を進むと、すぐに金の宝箱が置いてあった。火の海の影響範囲内ということもあり、ミミックでないことはすぐにわかったが、流石にあからさま過ぎて、ベネットもオウカも立ち止まって警戒した。


「私が開けに行くから、ベネットは待機しててくれ」

「わかった」


 ベネットがその場で待ち、オウカが奥へ行って金の宝箱の前に立った。念には念を重ね、右手に魔剣を持って宝箱を開いた。

 中を覗き、オウカは大きく目を開いた。


「何もない!?」


 予想通りの罠だと確信し、すぐさま辺りを警戒した。ベネットも退路を確保しようと後ろへ下がって、立ち止まった。


「道がない……!」


 ある筈の道が崖によって閉ざされていて、吹き抜けの天井が狭まって閉じた。

 閉じ込められた、二人がそう思った瞬間に地面が崩れ、粉々になった岩と一緒に真っ暗な虚空へ落ちていく。


「【待機・ホシマル】」


 咄嗟にホシマルを別空間へ戻し、ベネットとオウカは虚空に飲み込まれた。強制的に意識が途切れた。



 ベネットが意識を戻して目を開くと、ウィンドウが目の前に表示されていた。


『イベント限定特殊クエスト発生!』

 クエスト名『野盗からの脱出』

 クエスト達成条件:アジトからの脱出

 サブクエスト  :野盗の全撃破

 クエスト失敗条件:一定時間の経過、または死亡、ログアウト。



「んー、ん?」


 声が出ないことに気付き、ベネットはようやく自分の状態に意識が向いた。足を前に伸ばして座った状態で、両手は真上に伸ばされて背中の壁から吊るされた鎖付きの手枷に繋がれている。さらに首枷も付けられて壁に固定されてまとも動けそうにない。口にはしっかりと布の猿轡がされており、声を出せない。


 ウィンドウが勝手に閉じて目の前がしっかりと見えるようになれば、頑丈な鉄の牢屋によって閉じ込められており、視線を動かせば天然の洞穴を加工して作られた小さな牢だと理解した。

 また、感覚的に【ブリザード】のスキルがリセットされており、今この場にいるかわからないがオウカの【炎海】が発動していないことを認識した。


「んー……」


 小さく唸り、イラつきから目つきが鋭くなる。

 ベネットは閉じ込められるのが大嫌いだ。拘束されるのも屈辱的で大嫌いだ。自由に動けない状況というのはかなりのストレスであり、即座に打開の為の思考を巡らせた。


 結果、氷雪女王の防具のままというのを利用し、宣言無しでマジックスキルを発動させることを思いついた。


 オールワールド・オンラインの魔法は、宣言型と想像型のいいとこどりをした複合型である。マジックスキルを宣言して魔法を発動させれば、イメージ通りかそれ以上の威力で魔法が発動する。だが、スキルを宣言せずとも、正しいイメージさえできれば魔法は発動できる。ただし、その場合は威力が激減してしまい、場合によっては上手く発動すらしないこともある。


 早速、ベネットは防具の力押しで白縹色の魔法陣を上下左右の四つに展開した。使う魔法は【フリーズ】で、魔法陣から冷気が出てひんやりした牢屋の中がさらに冷えて冷蔵庫のような状態となった。


 これにより『氷雪女王のドレス』のパッシブスキル【氷雪女王】が発動し、パラメータの上昇とMP自動回復状態となった。


 暗い中では手元が狂う可能性を考えて【ライト】で光りの球体を作成して辺りを照らした。

 次の手順として意識を集中し、手の上にある鎖に狙いを定め、正面の空中に魔法陣を展開して【アイスランス】を発動した。幅広の刃を持つ氷の槍が高速で飛び出し、手枷の鎖を断ち切りながら壁に深く突き刺さった。

 自由になった手を使って涎で湿った猿轡を外し、続けて首枷を触って外すことに成功した。

 立ち上がり、手首に付いたままの鎖付きの手枷を弄るが、外せそうにない。


「……手枷、邪魔だな」


 拘束から逃れて多少のイラつきも治まったベネットは、鉄柵の扉の前に立ってメメント・モリを取り出し、弾が装填されていることを確認してから鍵穴に銃口を向けた。

 メメント・モリで使われている13㎜マグナム弾が連射され、爆音が響き渡る。重機関銃並みの口径、人間が使うには余りにも強過ぎる反動を出すほどの火薬の爆発により、凄まじい威力の弾丸がただの鉄を穿ち、施錠部をボロボロに砕いた。


「なんの音だ!?」

「牢屋の女どもか!」


 入り口から男たちの声が聞こえ、弾を装填しながら牢屋から出たベネットは勢いよく開いた扉の男たちと目が合った。

 男たちの見た目はファンタジーでよく見る野盗の格好で、手には閉所で使うことを想定したショートソードを手に持っていた。


「女! どうやって出た!?」

「光の玉……魔法!? 口は塞いでいた筈だ!」


 男たちはベネットを見て驚き、速攻を仕掛けるタイミングを逸した。その時点でベネットは勝利を確信し視線だけで【フリーズ】を使う。

 足元に展開された魔法陣からの冷気によって、男たちは一瞬で芯まで凍結されて死亡し、ついでに周辺も氷で覆われた。クエスト中の為に男たちのHPが無くなっても死体が残り、リアルではまず見ない冷凍死体が出来上がった。

 こちらに向かってくる複数の足音が聞こえ、ベネットはスキルを宣言する。


「【アイスウォール】」


 床に展開した魔法陣から厚さ三十センチ以上の氷の壁が出現し、扉の奥を完全に塞いだ。

 暫く時間稼ぎが出来る状態となったことで、ベネットはまず入り口の傍に設置されている壁掛けから鍵束を手に取り、鍵の幾つかを手枷に入れて試し、外すことに成功した。

 続けて五つある牢を覗くと、そのうちの一つにベネットと同じようにオウカが拘束されていた。ただ、オウカはベネットを見て心底残念そうな目をした。

 牢の鍵を開け、まずは不満そうに見つめるオウカの猿轡を外した。


「ベネット、行動が少し早過ぎるぞ」

「私はこういうシチュエーションが大嫌いなんだ」

「そうか……姫騎士プレイをしている私にとっては、絶好の機会だったのだがな。ほら『くっ、殺せ!』って言えるかと期待していたんだ」

「……今度、埋め合わせをしよう」

「言ったな? 約束だぞ!」

「うむ」


 オウカの拘束を外し終えて脱出の準備が整った。氷の壁で閉ざされた入り口の向こう側では、野盗の集団が武器を振るって壊そうと必死になっていた。


「おーおー、必死だな。ベネット、少し物陰に移動してくれ」

「わかった」


 二人で物陰になっている牢の一つに入り、オウカが顔だけ出して入り口を見つめた。


「さて、吹き飛んでもらうか。【ファイアボム】」


 赤い魔法陣が氷の壁の床に展開されて大爆発を起こし、氷の壁も扉も、向こう側にいる野盗たち諸共吹き飛ばした。


「よし、行こうか」


 煙が漂う中、オウカとベネットは入り口の階段を上がって次のフロアに到着した。そこはまだ地下で、天井から吊るされたランタンや壁に取り付けられた蠟燭が部屋を照らしていた。飾り気のない木の椅子やテーブルがあり、拷問をする為の道具や設備が置かれている。

 見ていて気持ちの良いものではない場所に、ベネットは完全に冷め切った目つきになって眼鏡を外し、インベントリに仕舞った。


 ベネットが機嫌を悪くしているのをオウカは察して声を掛けず、階段を上がった。木の扉は開いており、石造りの広めの廊下が左右に続いているのが見え、幾つもある小さな窓からは外の光が取り込まれていた。

 オウカがそっと顔を出して廊下を確認すると、片方に弓矢を構えた野盗たちが並んでいて、慌ててひっこめた場所に矢が何本も飛んできた。

 本分が魔法使いのオウカにとって、一瞬だけでも場所を記憶できれば魔法を使うのに充分であり、隠れた状態のままイメージしてスキルを宣言した。


「【炎柱】」


 弓で待ち構える野盗たちの足元に赤い魔法陣が展開され、火柱が上がって彼らは炎に包まれた。


 ディメンジョントラベル社が様々なゲームで培い、高度な技術を用いて作成されたAIによって、その悲鳴や反応はリアルと見分けがつかないほどだ。


 仲間の悲鳴と慌てふためいて倒れていく姿、立ち上る大きな炎を見て残りの野盗たち数十人は怯えたが、中央の中庭で宴をしていた長であるスキンヘッドの大男が、手に持っていたワイン瓶を地面に叩きつけて声高らかに言った。


「お前たち、数で攻めろ! 接近戦に持ち込めば充分に勝機はある! 掛かれぇ!」


 圧倒的な人数差から士気高く攻め込む野盗たちに対し、二人は冷静だった。


「オウカ、単独で動くか共同で動くか、どっちがいい?」

「私はどちらでも構わない。が、強いて言うなら単独だな。私たちは互いに過剰火力だ。分かれた方が手っ取り早い」

「なら、私はこっちへ行く。オウカはそっちを頼む」

「ああ、派手に行こうか」


 ベネットとオウカは左右に分かれて動き出した。


 オウカは右手に魔剣レーヴァテイン、左手に魔杖イフリートを持って廊下を歩く。ぞろぞろと野盗が剣やナイフや斧を手に攻めて来る。


「【ファイアランス】」


 正面に最小限の小さな魔法陣を横並びに十個展開し、ノータイムで固形化した炎の槍が勢いよく飛び出して前に出た野盗は纏めて奥まで飛んだ。

 歩いている間に新たに野盗たちが来て、オウカは剣と杖を駆使して次々に薙ぎ倒し、杖で殴っただけの生き残った奴には無詠唱の【ファイア】で燃やした。


 ベネットはメメント・モリ一丁で動き、少し離れた位置で弓矢を構えた数人に対し魔法陣を実体化して魔法障壁を展開し、放たれた矢を防ぐ。そのまま実体化魔法陣を前に飛ばして弓矢を構えた数人を押し倒し【フリーズ】で凍結させた。

 次に刃物を持って突撃を掛けてきた野盗たちをメメント・モリで撃ち倒す。人間に対しては過剰威力にも程がある銃弾は、縦に並んだ野盗たちを貫通して一発で数人倒すこともあった。

 弾の再装填中も油断無く、接近されて刃物を振り回されても装填しながら易々と躱し、接射で撃ち倒す。それからも、まるで射的のように野盗たちを次々と撃ち倒した。


 二人が野盗のアジトである石の砦をぐるりと一周する頃には全ての野盗は倒れ、残りは中央の中庭で余裕にしていたスキンヘッドの大男だけだ。仲間が全員やられたせいで、今では冷や汗を流していた。手元にある大盾と大剣を構え、中庭に現れた二人に向けて口を開いた。


「部下を全員やっちまうとは随分とやるじゃねぇか。だがな……この俺はそう簡単にはやられんぞ?」


 ベネットが問答無用で素早く構えて撃つが、それに反応して大盾で防いだ。

 さらに、オウカの無言での【炎柱】を飛び退いて回避し、茶色の魔法陣を大盾の前に展開した。


「【ストーンショット】!」


 大量の石が弾丸のように魔法陣から飛び出し、ベネットが即座位に対応する。


「【アイスウォール】」


 ぶ厚い氷の壁が瞬時に作り出されたが、すぐに氷の壁は壊れだす。

 壊れる前にオウカとベネットは横へ飛び出し、それぞれ魔法を出した。


「【ファイアレイン】」

「【フリーズ】」


 大男の頭上に大きな赤い魔法陣、足元に白縹の魔法陣が展開された。


「【サンドアーマー】!」


 大男は瞬時に砂の鎧を全身に纏い、ベネットの凍結とオウカの火球の雨を防いだ。

 炎による黒煙が覆い、姿が見えなくなった時に大男の声が響いた。


「【加速】!」


 煙の中から素早く出てきた大男は正面に捉えたベネットに向けて大剣を構えて声を上げた。


「【パワースラッシュ】!」

「【ミラーバーン】」

「うおっ!?」


 つるっと大男は滑って大剣は宙を空振った。


「【アイスランス】」

「【ファイアランス】」


 倒れた大男に地面から氷の槍が、空中からは炎の槍が突き刺さった。


「がはっ! ヘヘ……つえぇ、な……」


 大男のHPは無くなり、力尽きた。

 だが、クエストは終わらない。


「終わったなベネット。あとは脱出するだけだな」

「そうだな」


 二人は武器を仕舞い、ベネットはインベントリに仕舞った眼鏡を取り出して再び装着し、正面玄関から堂々と脱出した。



 野盗のアジトから出ると視界が真っ白になり、気付けば脇道があった遺跡の角に立っていた。今までの宝探しでかなりの時間が経過しており、既に夕方と呼べるほどに日が傾いている。

 二人の目の前には銅の宝箱と金の宝箱があり、ウィンドウが表示されていて『クエスト及びサブクエストクリア!』と書かれていた。

 ベネットが振り返ると脇道は元から無かったかのように消えていた。

 流石にクエスト報酬がミミックな訳がないと思ったオウカは宝箱に近づき、胴の宝箱に手を置いた。


「……ベネット、先に銅の方から開けるぞ?」

「うむ」


 先に銅の宝箱を開けて中を覗く。中には三角フラスコのような容器の、それぞれの状態異常に対応した色とりどりのキュアポーションが入っていた。

 それらを取得してから金の宝箱を開けて中を覗けば、スキルクリスタルが一つ入っていた。普通の物と違って黄色い。

 物珍しいがデータを見ないことにはよくわからないので、手に触れてさっさと取得しアイテム欄から確認した。


 レアアイテム『スキルスロットクリスタル』

  武器・防具・装飾品に新たなスキルを一つ付与できる貴重品。付与できるスキルは一覧から選ぶ。



「これは中々……ベネットは何に使うつもりだ?」

「もう決まった」

「早いな!」


 驚くオウカを余所に、早速スキルスロットクリスタルを使用した。すると付与できるスキル一覧が表示され、その中の一つにベネットが欲していたスキルが見つかった。


「おっ、あったあった」


 スキル【自動装填】を選択し、続けて付与する武器の選択でメメント・モリを選んで、新しいスキルが付与された。

 試しに弾切れまで撃ち、シリンダーを開ける為のサムピースを押すと、スイングアウトされたシリンダーから自動で空薬莢が排出され、インベントリから自動で13㎜マグナム弾が出現して装填された。最後にシリンダーを戻す為に手を勢い良く振って元の場所にはめ込んだ。


「フフフ、いいなこれ」


 リボルバーの弱点が無くなったことでベネットはニヤリと笑みを浮かべ、メメント・モリを仕舞った。


「さてベネット、次はどうする? 正直なところ私は少し疲れた」

「私もだ」


 メニューから時間を確認すればまだまだ活動出来るが、ゲームだから肉体的な疲労がないとはいえ、これ以上は精神的な疲労によって動きや判断能力が鈍ることが予想され、ゲーム内時間で数時間の纏まった休憩が必要だった。

 腕を組んで十秒ほど考えたベネットは口を開いた。


「今日はもうやめようか」

「わかった。リーベにメールを送ればいいか?」

「頼む」


 連絡はオウカに任せ、ベネットは思いっきり伸びをした。


「メール終わったぞベネット」

「そうか。じゃあお疲れさまでした」


 メニューを開いてログアウトしようとしたところで、オウカがベネットの手首を掴んで横へずらして止めた。


「……オウカ?」

「埋め合わせ……覚えているだろう?」


 ニヤついた笑みで言われ、ベネットは嫌な予感がして引き攣った笑みを浮かべた。


「ハハ……で?」

「なに、疲れることはしないしお金も掛からない。ちょっと私のやりたいことに付き合ってもらうだけでいい」



 移動に移動を重ねて到着したのは、第三世界のプルデンス魔術学校にある地下牢だ。ファンタジー系の世界でよく見る石レンガと鉄柵で作られた牢屋が並んでおり、天井や壁から魔法の光の玉が部屋を照らしていた。

 この地下牢は活動拠点内である為、武器を出したり魔法を使ったりは出来ない。また、プレイヤー間での問題防止の為、牢の扉や拘束具は一定時間が経過すると自動で解除される仕様となっており、そういったプレイをする為の場所でしかない。


 つまり、オウカはそういった目的で訪れたのだ。


「はーい、次はこっちに視線お願いね」

「…………」


 オウカがキャラ作りせず、パシャパシャっとスクリーンショット用のカメラでフラッシュを焚きながら撮影する。

 被写体はベネットだ。オウカの要求により、姫騎士プレイをさせられているのだ。

 コスチュームを外して大人の黒い下着姿のまま、両手は天井から吊るされた鎖付きの手枷でつま先立ちを強要される高さまで上げられている。眼鏡を外した顔は恥辱に満ちて真っ赤になっており、涙を浮かべた目はその不満を最大限にぶつけるように鋭くなっていた。

 言いたいことはあれど、埋め合わせをするとベネット自ら言った手前、今更やめると言い出せず口を固く結んで黙っていた。


「はい次、こっちね」


 ベネットの拘束されたちょっといけない雰囲気の姿を撮り続け、満足したオウカは一旦カメラを降ろした。


「凄く良かったよベネット! まさに、心は屈服していない理想的な姫騎士だった!」

「…………」


 オウカはサムズアップして褒め称えるが、嬉しくないベネットは完全に拗ねて顔を背けた。その気になれば手枷や鎖に触れて手元にウィンドウを表示させて即座に解除できるのだが、ここまでされたベネットは既に途中でやめる気力も失っていた。


「……それにしても、ベネットは随分と美しい体型だね。肌は白くて綺麗で、出るとこは出てて引っ込むとこは引っ込んでる。リアルでその姿だったら、男も女も絶対に放っておかないよ。ちょっと胸触っていい?」


 胸の触りは立派な性的ハラスメントだが、ゲームだからこそ同意が得られれば問題は無い。

 ここまでやられたベネットとしては最後まで付き合う覚悟を決めており、仏頂面で答えた。


「……好きにすればいい」

「じゃあ失礼して」


 オウカは手を伸ばしベネットの胸を鷲掴みにし、もみもみと揉み始めた。


「んっ、あっ、んん……!」


 未知の快感にベネットから僅かに艶やかな声が漏れるが、オウカは気にせず揉むことに集中する。


「形もいいし感触も感度も良好……大きさはE、F……Gくらい? うん、ありがとね」


 胸から手が放され、ベネットは耐えるのを止めて体を緩めた。


「……はぁ。何か大事なものを失った気分だ」

「そう言うんなら、最後に定番の()()を言って欲しいな」


 ベネットは要求が何なのか察した。


「アレかぁ」

「どうせならね。はいっ!」


 促され、小さく溜息を吐いてから、ちょっと気合を入れて言った。


「くっ、殺せ!」


 ベネット渾身の演技がパシャっとカメラに収められた。

 カメラを降ろしたオウカは満面の笑みだ。


「はい『くっころ』頂きました!」

「……ハハ」


 治まっていた恥辱が再び沸き上がったベネットは、羞恥と動揺が混じった真っ赤な顔で涙目になりながら乾いた笑みを浮かべるしかなかった。


 その後、立場を交代したベネットはオウカの姫騎士プレイを少し冷めた目で淡々とカメラに収めた。


オールワールド・オンラインはレーティングCERO『C』くらいのゲームという設定です。

下着姿の女性を拘束して写真撮影は、背徳的ですが大事なところが見えていないのでセーフ。

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