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初めてのクエスト

読みやすいように行間を修正。2023/04/30

修正が大変なんで、ちょっと時間掛かるかも。


 この世界に降り立った場所は、プレイヤー全員の活動拠点であり次元の狭間に浮かぶという設定の超巨大船型コロニー『ワールドシップ』のロビーだった。


「おお……!」


 初めての場所に、小さな感動を覚えたベネットは小さく声を上げた。


 辺りを見渡せば、広いロビーには初期服を着た沢山のプレイヤーがいる。種族はバラバラだが七割ほどが女性だ。

 上を見上げれば、百メートル以上の天井があり巨大なモニターとオーディオが吊り下げられていて、空を飛べる種族のプレイヤーが何人か座っていた。

 人の多いロビーの隅には椅子とテーブルが幾つか設置されている。少し離れた場所には近未来感溢れる建物が幾つもあるのが見えた。

 その反対の壁には二つの大きな扉がある。閉じている方は『戦闘区画』と書かれており、開いている方は『ワールドルーム』と書かれていた。

 扉よりも建物が気になってそちらへ向かう。


「ふむ、商業エリアか」


 武器、防具、アイテム、スキル、コスチューム、多種多様な飲食店などが並び、大きな倉庫のような建物には兵器が売っていた。

 ショーウィンドウには軽戦車に該当する小型の戦車があり、ベネットは思わず立ち止まってしまった。


「値段は……うわっ、五百万ゴールド。高いなぁ」


 手持ちを確認するべく他のVRゲーム同様にイメージしながら手を横に振れば、メニューが表示された。


 現実の時間と、時間の流れが違うゲーム内時間、自分の名前と所持金のゴールド、縮小されたマップ、あとはアイテム、装備、ステータス、クエスト、チャット、設定、システムの項目がある。


「千ゴールドだけか……」


 購入にはかなりの月日が掛かるので忘れることにし、手を振ってメニューを消して奥へ向かう。

 並んでいる店の種類が変わり、ファンタジー風の喫茶店や酒場から未来感溢れるバーまである。同様に様々な見た目の宿屋やホテルも並んでおり、料理のいい匂いが漂って涎が分泌される。


 オールワールド・オンラインにサバイバル要素は無いのでお腹は空かないが、食べたくなってしまうので早々に移動した。

 最奥は工事用のパネルに阻まれていた。

 パネルには『工事中』と書かれた紙が貼られていて、通る道は見当たらない。


 来た道を戻ってロビーにある大きな扉、ワールドルームの前にくる。既に多くの人が出入りしていて、人の流れに乗って中に入ると九つの転送装置が左右に並んでいた。奥の壁は商業エリアの奥と同様にパネルが設置されて『工事中』の紙が貼られている。

 九つの転送装置の傍には看板があり、それぞれどこの世界なのか書かれていた。


 第一世界

 剣と魔法のファンタジー世界


 第二世界

 武器術が最も重視される世界


 第三世界

 魔法が発達した世界


 第四世界

 銃で撃ち合う荒廃してしまった世界


 第五世界

 ロボットとの戦争が続く機械の世界


 第六世界

 悪魔や悪霊やゾンビがひしめくホラー世界


 第七世界

 超科学の未来世界


 第八世界

 妖怪が実在する和の世界


 第九世界

 魔王に支配された世界


「多いな……戦車は、第五世界か?」


 第五世界の転送装置に入ると、降り立った時と同様に体が光となって分解された。




 真っ白になった視界が戻ると、別の世界に設置されている転送装置の上に立っていた。周りには暗い緑の軍用テントが並び、箱やドラム缶が積まれていて、軍用車両と装甲車が綺麗に揃って置かれていた。


「ふむ、軍事基地か」


 この世界は人気があまりないのか、プレイヤーの数が少ない。代わりに迷彩服姿のNPCが多くいる。場違いな衣装のプレイヤーたちを見ても気にしていない。

 近くを通りかかったNPCの兵士に声を掛けた。


「すいません、ちょっといいですか?」

「ん、見かけない顔だな。志願に来たのか?」

「志願?」

「AIコンピュータ『テスタメント』が暴走してから人類はずっと戦っている。募集の呼び掛けに応じて、志願に来たんだろう?」

「……ええまぁ。どこに行けば志願できます?」

「あっちの大きな天幕に行くといい。顔に傷のついた恐い軍曹が手続きをしてくれる」

「そうですか。ありがとう」

「おう、頑張れよ」


 指示された天幕の中に入ると沢山の物資が積まれていた。その隅で顔に大きな傷がある強面でガタイのいい男が、椅子に座って銃を磨いていた。

ベネットの視界では、頭上にNPCを示す緑の文字で軍曹と表示されていた。


「すいません、ちょっといいですか?」


 銃を磨く手が止まり、ギロリと睨んで来る。


「……なんだ?」


 ベネットは気圧されたが、踏み止まって平静を装いつつ答えた。


「えっと、志願に来たんですけど」

「そうか。名前は?」

「ベネットです」

「銃を撃った経験は?」

「あります」


 軍曹は銃を置いて立ち上がった。


「上等だ。入隊おめでとうベネット。ここに服と銃と弾薬がある。着替えて装備してから隣の指揮所に行って、少佐と話せ」

「はい」


 物資の箱を開けると迷彩服一式が入っていて、手で触れると光りとなって体に吸い込まれ脳内に音声が響いた。


『コスチュームを入手しました』


「初入手がコスチュームか」


 ベネットはメニューを開いて装備の項目からコスチュームを確認してみる。


 セットウェア『抵抗軍迷彩服』

 第五世界の抵抗軍で支給される迷彩服。


 コスチュームを変更すれば服が光に包まれ、一瞬にして迷彩服に置き換えられた。


「うむ、いい感じだ」


 次の箱を開ければ、アメリカ製のM16に似た黒いアサルトライフルとベレッタに似た自動拳銃が入っていた。


 『AR-100』

 【8㎜ライフル弾】

 【装弾数 30】


 『P-75』

 【9㎜拳銃弾】

 【装弾数 18】


 装備登録するついでにステータスを確認する。


 ベネット

 【HP:F】

 【MP:F】

 【STR:F】

 【VIT:F】

 【INT:F】

 【DEX:F】

 【AGI:F】

 

 コスチューム

  セットウェア『抵抗軍迷彩服』


 下着

 『普通の下着・白』


 装備

  武器1:なし

  武器2:なし

  頭:なし

  胴:なし

  靴:なし

  装飾品1:なし

  装飾品2:なし

  装飾品3:なし


 パッシブスキル

  なし


 アクティブスキル

  なし


 マジックスキル

  なし


 オールワールド・オンラインでは、レベルは無くパラメータはランクで表示される。プレイヤーの行動によって対応するパラメータが上昇するという仕様であり、極振りは難しいようにできている。経験値は全てのパラメータで共通しており、成長するにつれて伸びは悪くなる。

 パラメータの上昇は以下の通りである。


 HP

 状態異常以外のダメージを受けることで上昇する。即死は判定にならない。武器や盾で攻撃を防いだ場合もVITと同時にある程度上昇する。


 MP

 MPを消費する行動を取ることで上昇する。魔法の行使によってINTも同時に上昇することが殆どである。

 STRは積極的に筋トレをしたり重いものを持ち歩き、振り回すことで上昇する。


 VIT

 武器や盾で防いだりすることで上昇する。状態異常以外でのダメージを受けることでもある程度は上昇する。


 INT

 魔法の行使によって上昇する。MPを消費する魔法が大半であり、MPも同時に上昇する場合が殆どである。


 DEX

 アイテムの使用、料理、アイテムや装備を生産することで上昇する。一定値以上は専用の道具や施設を使い、より上位の品を生産しないと伸びることはない。


 AGI

 走ったり飛んだり、攻撃の回避や受け流しで上昇する。重い武器や防具を装備した場合は重量に応じてマイナス補正が掛かり、AGIの上昇効率は大幅に下がる。


 スキル

 スキルについては常時発動型のパッシブスキル、声に出して宣言することで発動するアクティブスキル、魔法のマジックスキルに分かれ、特定の行動や条件を達成すると習得できる。

 スキルクリスタルというアイテムを使うことでもスキルを取得可能。

 スキルクリスタルはクエストの報酬や宝箱での入手、お店で販売されている。


 ベネットは装備し忘れていた刀も一緒にアサルトライフルを装備登録し、イメージして取り出してみた。

 刀はベルト付きで腰に出現し、アサルトライフルは手の中に出現した。

 今は邪魔なのですぐに消し、次の箱を開けると中には弾薬が大量に入っていた。根こそぎ取得して軍曹に言われた通りに隣の指揮所の天幕に入った。

 真ん中にテーブルがあり机上には地図が広げられている。奥のホワイトボードには何かの作戦が描かれているが、よくわからない。隅には通信機があり、反対側には事務仕事中の男が座っていた。階級章が立派で、頭上には少佐の文字がある。


「こんにちは」

「ん? 誰だお前は?」

「さっき志願したものです」

「そうか……」


 少佐は立ち上がってテーブルの前に立った。


「この地図を見てくれ。俺たちの基地が中心にあって、今現在は北の都市エリアでロボットの掃討作戦を行っている。志願してすぐで申し訳ないが、前線まで補給物資を届けてほしい。可能なら、そのまま戦闘に参加してくれて構わない。強制はしないがやってくれるか?」


 言い終わると、唐突にウィンドウが表示された。



 クエスト【待ちわびた救援1】

 達成条件:補給物資を北の都市エリアに展開している部隊まで届ける。

 制限時間:15分

 報酬:5,000G



 その下にはYESとNOのボタンが出ている。


「いきなりクエストか。面白そうだしやろう」


 YESを押す。


「やってくれるか! 補給物資を乗せたトラックがあるから、それに乗って向かってくれ」

「はい。では」


 指揮所を出て車両が並んでいる場所に行けば、トラックの一台にクエスト用の目印が表示されていた。裏に回って荷台を確認すれば、大量の物質が積まれていた。

 左ハンドルの運転席に乗り込む。


「むっ、ミッションか」


 ベネットはリアルでは大型免許を所持していないが、別のゲームで大型のMT車両を動かした経験があり、久々の運転に少し戸惑いながらもエンジンを始動して丁寧に動かし、北エリアと書かれた標識に従って基地を出て真っ直ぐな道路を進んだ。


 基地から一歩出た外は荒野が広がっているが、正面に見える都市部からは黒煙があちこちで上がっている。近づくにつれて銃声や爆発の音が聞こえ、都市部の入り口に到着すれば車両や装甲車が幅広く展開されて兵士たちが物陰に隠れながら奥に向かって銃を撃っていた。


「ちょっと不味いかも」


 嫌な予感がして隅にある装甲車の影に隠れようとハンドルを切った瞬間、フロントガラスに沢山のレーザーポインターが照射され、咄嗟に身を屈めると銃弾が次々と飛んで来た。

 車両を破壊されない位置にトラックを停めてそのまま降りれば、兵士の一人が身を屈めながらこちらに寄って来た。大尉だ。


「補給か?」

「はい」

「そうか、助かる」


『クエストを達成しました』


 脳内で音声が響き、続けて新たなクエストが発生した。


 クエスト【待ちわびた救援2】

 達成条件:部隊が戦闘中のエネミーの殲滅

 制限時間:30分

 報酬:10,000G


「連続クエストか、やろう」


 YESを押すと、大尉が言った。


「お前、戦えるんだな?」

「ええ、はい」

「なら一緒に戦ってくれ」

「わかりました」


 大尉が正面に向かって銃を撃ち始め、俺は気付かれないように匍匐で路地裏まで移動し、細い道を通って背後へ回り込んだ。


 兵士たちに向かって銃を撃っているのはロボットだった。

 関節部が極端に細い棒人間のような見た目で、頭部は丸いカメラになっている。

 手には箱型弾倉の軽機関銃があり、銃口から赤いレーザーポインター――弾道予測線が照射されている。


 オールワールド・オンラインの仕様として、銃器は引き金に指を掛けると銃口から赤い弾道予測線が照射される。これは遠距離からの一方的な攻撃を抑制する為の措置であると同時に、銃を誰でもある程度は扱えるようにする為の措置でもある。

 勿論、一時的に弾道予測線を消すスキルは存在する。


 エネミーの頭上には緑のHPバーと『スティックソルジャー』という名前が表示されていた。


「銃……いや、刀だな」


 刀を出して引き抜き、可能な限り足音と気配を消しながら接近して素早く首を切断する。倒したエネミーは即座に光の粒子となって消滅し、素材とゴールドが小さな光となってベネットの体に吸収された。

 音も出さずに倒したお陰で近くで戦っている他のエネミーには気付かれず、そのままエネミーの視界を意識して後方の端から首を落としていく。

 合計で三十体ほど倒して付近から銃声が無くなると、戦っていた兵士たちが鬨の声を上げた。

 同時に、脳内に音声が響く。


『クエストを達成しました』

『パッシブスキル【忍殺】を取得しました』


「ん、忍殺?」


 気になったベネットはメニューから取得したスキルを確認した。


 パッシブスキル【忍殺】

 刃物での急所・弱点へのダメージが倍となる。気付かれずに急所・弱点を攻撃した場合は四倍のダメージを与え、高確率で即死させる。


 取得条件

 刃物の近接武器限定。クエストにてエネミーに一切気付かれず、急所・弱点を攻撃して一体ずつ一撃で全て倒す。


「これは強い」


 ステータスを閉じる。

 別の場所ではまだまだ銃声や爆発音が響いており、戦っていた兵士たちが車両に乗って移動を始めた。乗って来たトラックも兵士の一人が乗り込んで一緒に走り始め、一番後ろの戦闘車両がベネットの前で止まった。

 ドアの窓が開き、さっきの大尉が顔を見せた。


「よお、これから他の部隊の救援に向かう。乗ってくか?」


 クエスト【待ちわびた救援3】

 達成条件:追い詰められた部隊の救出

 制限時間:20分

 報酬:20,000G


「どうせゲームだし、行けるとこまで行ってみるか」


 YESを押し、ベネディクトクスはNPCだとわかっていても返事をした。


「付き合おう」

「おし、乗ってくれ」




 後部座席に乗って移動し、大きな十字路が見えた。味方の部隊が中央で車両を円形に停め、全周に展開されたエネミーからの攻撃に耐えていた。今いる部隊の装甲車が前に出てスティックソルジャー達を轢いて倒し、降りた兵士たちが残りを片付けていく。


 ベネットの乗っている戦闘車両も止まって降りると、刀を手に他の兵士たちから離れて迂回しつつエネミーを斬りに行く。

 至る所で銃声がして弾が飛んで来る状況では側面や背面への注意が散漫になるのは当然であり、ベネットは易々と接近し、スティックソルジャーの首を切断した。

 そのまま走って近くのスティックソルジャーに接近し、兵士の援護を受けつつ首を切断して倒していると新たなエネミーが三体、別の道から近づいて来ていたのが目に入った。


 鳥のような形状の足にずんぐりとした胴体があり、側面にはランチャーが二つ備わっていて、細い首の先には四角いカメラがある。見た目は完全に機械のダチョウで、名前はオストリッチだ。


「あれは、グレネードランチャーか」


 刀を鞘に仕舞って素早くアサルトライフルを取り出して構え、丁度足を止めてランチャーを発射する態勢に入ったオストリッチの頭部のカメラを狙い撃つ。小さくて狙いにくいが、長年培ってきた別の硬派なゲームでの経験で、オールワールド・オンラインのリアルな銃の仕様にも適応し、マガジン内の弾を撃ち尽くす前に三体の頭部カメラを破壊して機能を停止させた。

 中途半端な弾数のマガジンを引き抜いて投げ捨て、オールワールド・オンラインのアイテムの仕様を信じてマガジンをイメージすれば、手の中に新たなマガジンが出現した。

 手早く装填し、別の道から同じような奴が来ていないかと移動すると、予想通りオストリッチがまた三体来ていた。

 同じように立ち止まって曲射の態勢に入ったところを、逆に狙って頭部を破壊して倒し、次へ向かう。


 三度目のオストリッチが来ていて同じように倒した。


 ベネットがそうしている間に包囲が崩れたスティックソルジャーの集団は兵士たちによって殆ど倒されたようで、マガジンを交換している間にこの場での銃声が止んで兵士たちが鬨の声を上げた。

 脳内に音声が響く。


『クエストを達成しました』



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