アバター作成
行間を修正。2023/04/30
誤字脱字、サブタイトルの編集、書いているストーリーの関係などで細かく修正する可能性があります。
ほのぼの、ご都合主義の俺つえぇ! をお楽しみください。
あと、TS(性転換)要素がありますので、嫌いな方、苦手な方は閉じてください。
フルダイブVR技術が普及した昨今、様々なゲームが作られた。
定番の剣と魔法のファンタジーは大変な人気があり、人々は熱狂した。
銃で撃ち合う世界は、ガンマニアたちを魅了した。
自分で組み上げたロボットに搭乗し、飽くなき戦いを続けるゲームもコアなファンに人気があった。
よりリアルさを体験できるホラーも、一部の人間は大いに楽しんだ。
一風変わったスペースファンタジーは、人類の明るい未来を想像させた。
だが、それら全ては一つの作られた世界でしかない。
桜が満開となる季節、売れるVRゲームを世に出し続けて躍進中のゲーム会社、ディメンジョントラベル社が新たなVRMMOのサービスを開始した。
その名も『オールワールド・オンライン』である。
様々なジャンルの世界を行き来できる新たな試みのゲームで、コンセプトは〝全てを体験できる〟というものだ。
ファンタジーな世界で、戦車やロボットを動かすことができる。
銃で撃ち合う世界で、堂々と魔法を行使できる。
兵器が跋扈する世界で、鎧を着た騎士が活躍することができる。
和風の世界で、場違いな衣装を着て行動することができる。
超科学の未来の世界で、骨董品扱いされる武器で無双することができる。
混沌としているが、誰もが一度はやってみたいと思ったことだ。
ゲーム『オールワールド・オンライン』のサービスが日本時間午後九時丁度に始まり、新たなプレイヤーとして一人の男が設定の為の初期空間に降り立った。そこそこ広い円形の白い空間だ。
まだこの時は仮アバターとして、ダサい黒のジャージにプレイヤー自身を模した顔と体である。
男は空間を見渡し、次に視線を落として手を見つめ、握って開いて動作を確認した。しっかりと感覚があり、男はニヤリと笑みを浮かべた。
「……いいねぇ~」
目の前の空中にウィンドウが表示される。
『オールワールド・オンラインへようこそ。公式ホームページの説明を読みましたか?』
「はい、ってね」
はいのボタンを押すと、新たなウィンドウが表示された。
このゲームを利用するに当たって、当社は一切の責任を負わないという旨の長ったらしい利用規約だ。
同意する、というチェックボタンは押せず、ウィンドウに手を触れて文章を下へ下へスライドさせて最後まで読み切ることでチェックが入れられるようになった。
当然、同意する。
利用規約のウィンドウが消えると、元のウィンドウの文字が切り替わった。
『アバター作成に入ります。種族を選んでください』
円形の空間に等身大の種族サンプルが表示された。男女二組で、見やすい位置に説明文も表示されている。
男はサンプルに近づき、それぞれの説明文を読んでいく。
ヒューマン
現実と同じ普通の人間。
エルフ
長く尖った耳が特徴の人間。
ドワーフ
子供程度の身長の人間。顔以外の全身に紋様がある。紋様は編集可能。アバターの編集できる最低身長と最高身長が他種族より低い。
サイボーグ
全身が機械の存在。完全なロボからヒューマンに近い容姿まで変更が可能。コスチュームや防具は専用のパーツや追加装甲となる。種族で一番重い。ブースターを使用することで水中や空中を移動できる。
ケモミミ
動物の耳と尻尾を持つヒューマンに近い亜人。イヌやネコ以外にも様々な種類が存在する。耳と尻尾はプレイヤーの意志で自由に動くが、無意識でも動く。
ビースト
二足歩行の獣人。ケモミミと同様に様々な種類が存在し、耳と尻尾が動く。固有アクティブスキル【凶暴化】を持つ。
【凶暴化】
一日一回限定。MP消費無し。STRとVITとAGIをかなり引き上げるが、アイテムや武器を使用出来なくなる。
オーガ
角が頭から生えている鬼。角は編集可能だが、本数は二本まで。固有アクティブスキル【妖怪化】を持つ。
【妖怪化】
一日一回限定。MP消費無し。一定時間HPとMP以外のパラメータを引き上げる。効果時間は三分。
ウイング
翼を持つヒューマンに近い亜人。翼は編集可能で、翼の種類ごとに専用の尻尾も付けられる。自由自在な飛行が可能。
次の種族は、大きな『男?』『女?』という黒いフォントが浮いているだけだった。
スペシャル
着ぐるみ、ナマモノ、無機物、謎の存在など独特な姿をしている。外見の皮は完全なランダムで編集不可だが、着脱可能であり中身が存在する。中身はヒューマン固定。ただし、脱いでいる状態は武器や防具を装備できない。固有パッシブスキル【ギャグ補正】を持つ。
【ギャグ補正】
即死無効。一日一回限定でHPが0になる際、必ずHP1で生き残る。ただし、皮を脱いでいる時は効果を発揮しない。
「これは強い……けど、選ばないなぁ」
次の種族はスペシャルと虹色に輝く大きな『?』マークだ。
ユニーク
初期選択不可。オールワールド・オンライン内にて、特定の条件で転生できる唯一無二の限定種族の総称。様々な種族が存在し、それぞれの固有スキルが極めて強力。
「ユニークもあるとは……」
種族サンプルを一周し終え、腕を組んで考える。
「うーん、悩むな。ヒューマンは無難。だけど強さは欲しいからオーガもいい。ケモミミも興味深い……」
もう一度サンプルを見て回り、ウィンドウの前に戻った。
「……やっぱりヒューマンでいいか」
男がそう結論付けた理由としては、オーガの角が邪魔になりそうだということと、ケモミミの耳と尻尾で感情が露見することを嫌った為だ。
ヒューマンを選択してウィンドウの決定ボタンを押すと、ヒューマンの男女のサンプルが目の前に移動し、他のサンプルが消えた。
『性別を決めてください』
男性、女性、というボタンが現れた。
「クックック……遂に来たか」
男は再びニヤリと笑う。
オールワールド・オンラインは異性アバターの選択が可能になっている。異性の体を使ったVRでの活動は精神に悪影響を与えることが医学的に証明されているが、世界中の国で自己責任であれば問題ないという決定が下され、最近になって日本も追従する形で法整備された。
ディメンジョントラベル社はそのタイミングを見計らってサービスを開始したので、女性アバター目当てで始めた人間も多い。
当然、男も女性アバター目当てなので女性のボタンを押した。
男のサンプルが消えて女のサンプルが横に移動し、アバターを設定する為の様々な項目が空中に出現した。
「本当に選べるとは……。さて、まずは服を脱がしてと……」
初期服のビジネススーツを消し、さらに色気のないシンプルな下着も消す。
性的表現規制の為、下着の消去は編集時のみとなっており、乳首と股間部には色気のない真っ黒なシールが貼りつけられている。もし何かしらの不具合で剥がれたとしても、人形のように何も無いように作られている。
男は欲情することも無く石膏像を作る芸術家のような真剣な眼差しで、自分の趣味全開にした理想のアバターを成形していく。
身長は165㎝となった。低身長がコンプレックスの男と同じ身長で、ゲームをする度に目線の高さが変わるのを嫌ったからだ。
胸は大きく形が整って美しく、お尻もキュッと上げて美しい形になった。
ウェストはしっかりと引き締め理想的なボディラインとなった。
腕や脚の長さや太さもしっかりと調整し、細かい部位も様々な角度から観察してメリハリのある体型が完成した。
肌は青ベースの色白だ。
続いては顔だ。
一度髪を消し体型に合わせて顔を小さくしてから、美しいと言われる黄金比の顔を作って自分好みに調整していく。
男の理想とする女性は、可愛いよりもどちらかというと美しく知的で凛々しい女性だ。
瞳の色は霞のない澄んだ空色にした。
顔が終わると髪の編集に移る。
長さや髪質まで調整が可能で、男が選んだのは腰にまで達する長さでサラサラとした髪質の青みがかったストレートの銀髪だ。
男は髪質が気になって編集中のアバターに手を伸ばして触れると、さらりと手から滑り落ちていく。
「素晴らしい……最高の髪質だ。けど、邪魔になるな」
編集に戻って髪型を操作し、ゴム紐を使ったシンプルなポニーテールになった。
消していた下着と初期服を着せてからコスチュームの項目を開く。
初期服は三種類あった。
ブレザータイプの学生服、社会人なら一度は着るビジネススーツ、動きやすそうなジャージだ。
学生服を試しに着せる。
「これは駄目だな。コスプレにしか見えん」
次にジャージを着せる。
「……ずぼらな独身女性だな、これ」
最初に着ていたビジネススーツに戻す。
「これしかないか」
ビジネススーツの柄や色合いなども替えられるが、男は面倒臭がって初期状態の柄無しの黒のままにした。
服が決まりアクセサリーの項目を開けば、シンプルなゴム紐やクリップ、伊達眼鏡やサングラスや眼帯などがあった。
知的な女性が好みだからこそ、手は自然と伊達眼鏡の一つを押してアバターに装着させていた。赤いアンダーリムの眼鏡を付けたことで、アバターはますます知的に見えるようになった。
「うむ、やはり眼鏡だな」
続いてメイクアップという項目を開いた。化粧品や化粧道具が出現し、アバターの顔が拡大され、現実と同じ化粧を施せるようになった。
だが、男の手は動かない。
「……全くわからん」
化粧のけの字も知らない男は諦めてメイクアップを飛ばし、ボディペイントの項目を開いてどんなものか覗いた。
傷跡やタトゥー、ほくろなどを付けることができるが、興味も無い男はすぐに閉じた。
最後にもう一度アバターの状態を確認して、編集完了のボタンを押した。
するとアバターが光って消え、体が光に包まれて変化し、今さっき作ったばかりのアバターの姿となった。
「おおっ、まさに自分の理想――声はそのままか」
ウィンドウを見ると、文字が変わっていた。
『ボイス編集をしてください』
横には幾つかのスライダーが付いたボイス編集の項目が浮いていた。
「よくわからんな。とりあえず女性的って方に振り切って、他は適当に弄って……あー、あー」
かなり高い声が出た。
「もっと低めで落ち着いた感じで……あー、あー……うむ、いい感じだ。もう少し……あー、あー」
最後に微調整を施し、落ち着いた低めの女性声が完成した。
「よし、こんなところだろう」
編集完了のボタンを押せば、ウィンドウの文字が切り替わる。
『あなたの名前を決めてください』
「名前、名前か……悩むな。うーむ……」
既に女性アバターとなったその姿で腕を組めば、自然と腕の上に大きな胸が乗り、腕で支えて強調しているような感じとなった。
男はその感触に何とも言えない恥ずかしさを覚えて頬を赤くし、首を横に振って気持ちを切り替え名前決めに集中する。
一分ほど考えた末に、溜息を吐いた。
「いい名前が思いつかんな。いっそ中身が男だってわかるようにしてみるか」
男はウィンドウの下に出ているキーボードを打って名前を入力した。
「ベネット……もういいやこれで」
決定ボタンを押した。
『初めに所持する武器を選んでください』
囲むように大量の武器のホログラムが宙に浮いて並び、その下に説明文が表示された。
「大剣、剣、刀、大盾、大鎌、両手斧……ロッドにタクトにボール? 弓にボウガンにライフル……本当になんでもあるな」
一周したあと、視線は刀に止まる。
「槍の方が得意だけど、最初に持つならやはり刀だな。銃は弾薬費が掛かりそうだし」
刀を選択して決定ボタンを押すと、ホログラムが消えてウィンドウの文字が変わった。
『アバター作成はこれで終了です。もう一度作成に戻りますか?』
作成を終了する、戻る、というボタンが表示された。
「……よし」
間違えないように指さし確認した男は、作成を終了するというボタンを押した。
『お疲れさまでした。オールワールド・オンラインの世界をお楽しみください』
体が光って分解され、男――ベネットはオールワールド・オンラインの地へ転送された。