やっと見つけることが出来ました①
店主からかかってきた電話を切ったあと、アヤノは素早く行動を開始した。
まず、村人がアヤノを探すために開けて行った物置を確認し、使い古した短めのロープを拝借。
その後、すぐ森に入り、手ごろな木の枝を拾う。
折れた腕を固定するためだ。
いつだったか、映画で見たように、骨の位置を戻して添え木で固定する。
映画の中では屈強な軍人さんがそれをやっていたが、血管が浮き出た顔を真っ赤にして痛みに耐えていた。きっとヤバイくらいの痛みなのだろうと、容易く想像できたアヤノは、パーカーのすそを噛み、歯を食いしばってから腕に触った。
少しずつ動かすより、一気にいった方がいいという思考の持ち主であるアヤノは、一瞬の躊躇のあとで、ぐっと折れた腕を動かす。
激痛がアヤノを襲う。
はずだったが、少し痛むくらいで、逆に拍子抜けした。
もう痛覚がおかしくなってしまったのだろうか、だとするならば、相当酷い状態だが、今のアヤノにはそれを調べる知識も、時間もない。
とりあえずは予定通りに、拾った枝とロープを使って、簡易的な添え木を作る。
慣れない作業を片手で行わなければいけなかったため、かなり不格好な出来になってしまったが、それでもないよりはマシなことにして先を急ぐ。
草木に身を隠しながら進み、神社の敷地を越えたあたりで、少し離れた所に人影が集まっているのが見えた。
慎重に、音を立てないように近づいていく。幸いな事に風が強く吹いてきて、丁度いい具合に周りの草木は音を立てて揺れている。これならアヤノが動く音も紛れて目立たない。
少しずつ近づいていくと、やはり店主を中心とした村人のグループだった。地面に倒れたままの加村もいる。足には鎌が刺さったままになっており、身体を震わせて泣いている。
「焦ることはない。加村君を助けに来ることはなくても、流石に自分の行動をきっかけにして殺したくはないだろう、すぐ警察に連絡はしないはずだ」
他の村人に向かって状況を整理しているような店主。
アヤノは自分の心が読まれているようで不快だった。確かに、警察には連絡しようとはしていない。加村がそのせいで死ぬのも後味が悪いし、もしスミレがいるなら、そのせいで余計な危険にさらしたくはなかった。
店主の様子は、特に興奮しているようにも、残虐性や狂暴性を出しているようにも見えない。
むしろ、平常心。毎日、朝起きたら必ず朝食を食べて、歯を磨き、トイレにこもる。そんな当たり前の日常を送っているように見えた。
店主だけを切り取ってみれば、周りに凶器を掲げる大人を従えて、自身も猟銃を担ぎ、目の前には足に刃物が刺さったままの人間がいる状況とはとても思えない。
その平常が、逆にその光景の中では異常だった。
「蓮実君はスミレを探している」
スミレという言葉にアヤノの全神経が集中する。
「どうしてあんなに必死なのか、それは分からないけど、加村君よりはスミレがよっぽど大事みたいだ。ふむ、そうだな、誰か一度スミレの様子を確認してきてくれ、変わりないようなら報告を、蓮実君が見つからない以上、今後スミレが鍵になる」
店主の言葉に頷いて、鍬を持った男が走り出そうとすると、すかさず店主が呼び止めた。
「つけられるなよ。蓮実君はちょっと変だ。ただの女子供と思わずにいた方がいい。後の皆は二人一組で蓮実君を探してくれ、森には今まで私たちがいたことを考えると、おそらくは民家の方に逃げた可能性が高い。そちらを徹底して探してくれ。ただし、時間は有限だ。タイムリミットになれば、見つからない場合もすぐに戻ってくるように」
「こいづは?」
「あぁ、オレが隠れて見張って、しばらくこのまま泣かせておく。死んでる味方は捨て置かれるが、怪我をして生きている味方は助けに来るものだろう? ちょっとでも同情を引いてくれたらいいんだが、まぁ望み薄かもなぁ」
状況がまとまった村人たちは、店主が猟銃を手に取ったことを合図にして、別れて行動を始めた。
アヤノは、二人一組で散っていく村人たちの中、一人だけで駆け出して行く村人を視線で追う。
どうやら民家が並ぶ通りとは反対側に行くらしい、アヤノがいる位置からは都合がよく、草むらに隠れながら追うことが出来そうだった。
走り出した村人を見失わないように、細心の注意を払いながらアヤノも駆け出した。
村人は集落の反対側、藪で行き止まりになっているところまでくると、そのまま藪の中に入っていった。
アヤノも静かに後を追うと、藪はすぐになくなって、隠された道が現れた。
そのまま進んでいくと、集落の方からは森の陰に隠れて見えなかった一軒の民家が見えてきた。
その民家に入っていく村人を木陰に隠れて見張る。
数分で村人は出てきて、元の道を戻っていく。
村人の姿が見えなくなるのを確認してから、アヤノは静かに民家の扉を開けた。
民家の中はとても暗かった。
古めかしい造りで、電気が通っているのかも分からない。蝋燭などの灯りもなく、唯一見える箇所は、小さな窓から入ってくる月あかりで、四角く照らされた地面だけだった。
何があるか分からない空間で、アヤノは慎重に足を進める。
右足を踏み出し、次の左足を前に進めたとき、足に何かが当たった衝撃を感じ、何かが転がっていく音が響いた。アヤノがそのことを後悔する間もなく、闇の奥で何かが動く気配がした。
「誰?」
その声が誰のものか、姿が見えずともアヤノにはすぐに分かった。




