ざまぁ系の中でも最悪なBADENDという話
『ざまぁ系』という奴を良く目にしますが、その中でも一番最悪なBAD ENDルートはこうなのだろうか?
「君には失望した。このパーティから追放する」
王都の酒場。
勇者は剣士に向けて言い放つ。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! どうしてそんな事を急に――!」
「急に? 本当にそう思うのかい?」
勇者は溜息をつき、剣士を文字通りに失望した眼差しで見る。
彼の代弁の様に、パーティメンバーの弓使いは失笑した。
「ダメよ勇者! この無能はスキルだけじゃなくて、頭まで無能なんだから! 自分がどれだけ迷惑をかけて来たとか分かっちゃいないのよ!」
ヒーラーは戸惑い気味に、
「あの、その……私も、そんなに強い方じゃない、けど……剣士さんが怪我をする度にヒールの回数が増えてしまうのが……その――」
タンクの重戦士は、
「良いんだよ、コイツに遠慮なんかしなくて! 俺だってコイツのお守で攻めに出れねぇんだ! そのせいで前衛は全部勇者に負担が!」
「僕の事は良いんだ」
勇者は、パーティメンバーをたしなめる。
「だが、皆に負担を――危険に晒すのだけは僕が赦さない!」
彼は拳を握り、
「信じていたんだ。君も変わってくれるって、強くなろうとしてくれるって! 同じ故郷の――友達だったから!」
それでも、と。
「君は……っ! 君は、いつまでもそのままだ! このままやる気も覚悟も無い君を連れて魔王を倒しになんて行けない」
「ゆ、勇者! 待ってくれ! 俺だって努力してるんだ、確かにスキルは皆に比べると弱くて戦力にはならないかもだけど、今まで上手くやってきたじゃないか――!」
「上手くしてきたのは、僕達だ! 勘違いするな!!」
憎しみの籠った勇者の叫びに常に騒がしい筈の酒場が静まり返る。
彼は、周囲の視線に冷静さを取り戻し、
「――これは、君の為でもある。今の君じゃ、魔王はおろか四天王にも勝てやしないんだから」
言い残して、彼等はテーブルに金袋を置いて酒場を後にした。
◇
「――くそっ。皆なんで……」
剣士が勇者パーティーを追放されてから、一週間がたった。
彼は手切れ金として残された金で酒を飲む毎日だった。
「剣士さん、毎日来てますよね?」
店員がテーブルに置いたのは氷水。
「何だよ、俺が頼んだのはエールだぞ」
「今日はもうダメでーす。飲み過ぎは良くないです」
と、彼女は席につく。
そして飲んだくれている剣士をじっと見た。
「……何? 勇者パーティーを追放された剣士を笑いに来たのか?」
はぁー、と店員の重い溜息。
「その様子じゃ、知らないみたいですねー」
「だから、何が……」
「その勇者パーティー、全滅したみたいですよ?」
◇
――まぁ、確かに彼は弱かった。
純粋な戦力としては勇者パーティーに相応しくない。
スキルも派手なものじゃない。
だが、便利な存在だった。
例えば、武器の手入れ。例えば消耗品の補充。宿の手配。情報収集。適切なクエストの受注――etc.。
居なくとも良いが、居た方が役に立つ人材は、実質、重要人物だ。
だって、役に立つ。
彼が居れば旅の途中、無理に路銀を稼ぐ必要はなかった。
ポーションの残りを管理する必要はなかった。
武器の傷みを気にする必要はなかった。
彼が居れば、四天王との戦いで勇者の剣が折れる事はなかった。
重戦士の盾が砕ける事はなかった。
弓使いの弦が切れる事はなかった。
ヒーラー用の魔力ポーションが無くなる事はなかった。
彼が居れば、“立て直す一瞬の時間は稼げた”。
ほんの少しの歯車の狂い。ほんの僅かの戦力の低下。
だから、負けた。
だから死んだ。
かくして世界は新たな勇者が立ち上がるまで、混沌の時代を歩む事になる。
――それだけの話。
――人の役割を見極めよう、という話。
――仲間の大事さを思い直そう、という話。
――友達をもう少し信じてみよう、という話。
――ただ、それだけの――BAD ENDという話。
だって、彼は『便利な剣士』であって勇者ではないのだから。
その後、彼の行方を知る者は誰も居なかった。