表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FINAL DAY  作者: 憂木冷
1/8

プロローグ

 一人の少女の話をしよう。

 ありがちなマイノリティじゃなく、本当に無二な少女の話。

 まだ人生を自棄にしか生きれなかった頃の、そのくせ臆病な生き方をしていた頃の少女の話を……。




 少女は河川敷を歩いていた。

 風が吹くと、芝生が白波のように光を照り返しながら揺れる。

 よく晴れた春の朝、目深に被ったキャスケットで目を突き刺すような朝日を遮り、少女はつまらないことを考える。

 いつだって彼女は自分の考えることをつまらないと思っている。

 理由は単純だ。

 自分の話が誰も笑顔にしていないから――自分さえも笑顔にしていないから。

 それでも、どうすれば面白いことを考えることができるのかはわからない。だから今日も「つまらないことだけど」と自分の中で前置きして考える。

 時々、人はこんなことについて話をする。

「もしも人生をやり直せるとしたら、いつに戻りたい?」

 それは、ただの空想の話で、ただの個人の願望の話で、大抵の場合、それほど真剣に考えて答える必要のない話だ。わかりやすく、楽しい思い出が多かった時期や、大きな失敗の前に戻ってやり直したいと答えればいい。後悔を公開し合って遊んでいるだけなのだ。

 少女は、直接誰かとそういう話をしたことがあったわけではないが、どこかで耳にしたそんな話題について、自分ならどうだろうと考えた。そしてひとり、結論を出した。

 考えることもつまらなければ、考えつくこともつまらないなと自戒しながら思う。

 −−こんな人生、二度と繰り返したくなんかない。

 河川敷の芝生の中にぽつんと生えた、芝より少し背の高い雑草が孤独に揺れた。

 春先の朝の風は、まだ身震いをするほどには冷たい。

 風の冷たさを他人事みたいに感じながら我慢して、歩き出す。

 どういうわけか、後悔という感情は少女の中になかった。

 ただ淡々と、つまらないことが続いていく。何も求めていないから、傷ついたり、心が折れたりすることもない。

 起伏なく。

 戻りたいとも進みたいとも思わない。どう思えばいいのかもわからない。そして、わからないことが、問題というわけでもない。

 人生に起伏があろうと、生き方が平坦だろうと、誰だって一様に、最後には死んでしまうのだから、素晴らしい人生を目指すことに価値なんてない。

 そんな風に思っているというわけでもなかった。

 少女はただ、わからなかった。心が動かされるという感覚を。

 わかりたいとも、感じていなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ